「グハァ!?」
「レオ!」
攻撃を寸でのところで発動した硬化魔法で防御しながら大きく吹っ飛ばされるレオ。持ち前の速度を活かしてその回収に向かうエリカ。
…先ほどから何度この光景を見てきただろうかと零次は歯噛みする。
上空の囮を利用した『山津波』は確かにクリーンヒットしたが、それ以降が続かない。特に機動力がないレオ、逆に防御力がないエリカがよく偽神の攻撃で一時的に吹き飛ばされやすい。リーナは『
こうなってしまえば、言わば零次達は窮地に陥っていた。…総司が敵に回った時点で窮地であることはそうなのだが。
「くっそ、眠りの王子様を起こしに来る白雪姫はまだかよ!?」
思わず零次はそんな悪態をついてしまう。現在の時系列的に、丁度雫たちが全てのレリックを手に入れたところだろう。京都の中心のここから若干離れた嵐山、更にその街はずれとくれば、しばらくその援護は望めないだろう。
しかし零次からしてみれば、もう持ちこたえるのも限界だ。零次本人はまだしも、リーナは疲れが見えてきているし、レオとエリカは攻撃を何度か食らったことによるダメージが大きそうだ。おまけに真由美が再起していないため、その介抱に摩利が付きっきりになってしまっている。光宣はどこに行ったか姿が見えない。もしかすると瓦礫に埋まってしまったのだろうか、そんなIFを妄想する余裕は零次には残されていなかった。
レオとエリカが離れた隙を埋めるようにリーナと二人で接近して攻撃を加えようとするも、二人を分断するように、高層ビルを念動力で持ち上げて投げつけてくる偽神。すんでのところで回避に成功した二人。偽神側に残ったのはリーナで、一人でも偽神を足止めしようと果敢に立ち向かう。零次も投げられ、地面に突き刺さった高層ビルの中腹辺りに結界でトンネルを生成。それを通ってリーナに合流しようとする。
そしてとうとう、リーナの『
「…何を企んでいる?」
偽神は、唐突に零次たちに向けてこう問うた。偽神視点、零次たちは勝ち目のない戦いの中でも諦めずにいる。だとすれば、それは彼らには勝ち目があるということに他ならない。だから偽神は訝しんでいる。ここまでの戦力差をひっくり返すだけの何かがあるのかと。
…そして、このひっくり返す何かとは、何者かの魔法師かと考えている。
…偽神は道具というものを見くびっていた。いつか壊れる、いつか性能に限界が来る。人の様に糧を得て成長することがない、一度作られてしまえばその時点での性能しか発揮できない。
道具というものは進化した者が快適さを求めて作るものであり、それ自体が進化することはないと。
…だが、不朽の宝物達は、そんな偽神の常識を超えるほどの物品の数々である。そこに、人類の勝利が掛かっている。
「…だが、今お前たちが時間稼ぎをしていることは分かる」
そう、偽神は自分を滅ぼしうるのが不朽の宝物を身にまとった一人の少女であることは知らないが、少なくとも現状は零次たちが耐久に専念する必要があるのは動きからしてみてとれていたのだ。
いい加減、この眼前の人間を滅ぼす必要性を感じた偽神は、零次の背後に瞬間移動した。そして因果を操作し、零次の首が落ちるように結果を設定。あとは手刀が振るわれたという原因を作れば、零次の命は消え…
「…!?っく!」
その直前、偽神の眼前に途轍もない輝きの閃光が瞬く。これによって、偽神は零次の首に手刀を振るうことができなかった。
ところで、現在この戦場にいるレオとエリカ。彼らには京都に着いた当初、共に行動していた者たちがいた。そんな者達がどこへ行ったのか…
その答えはズバリ、他の仲間を迎えに行っていたのだ。戦闘音を聞いた時、先にレオとエリカが先行していたが、琢磨と幹比古は他の仲間との合流を優先したのだ。
偽神の足元が凍り付く。振動・減速系の冷却魔法、間違いなく司波深雪だろう。となれば、先ほどの閃光は光井ほのかか。視界が回復した偽神を待ち受けていたのは、本当に回復したか疑わしい、歪みに歪んだ景色であった。これはおそらく幹比古の古式魔法だ。これによって、偽神は次の攻撃を視認することができなくなっていた。
偽神の腹部と頭目掛けて、二人の蹴りが飛んでくる。頭への攻撃は先ほどと変わらず零次であるが、腹部を狙ってきたのは琢磨であった。幹比古の魔法により前後不覚でまともに動くことすらままならない偽神は、二人の強烈な蹴りを食らう。二人とも挟み込むように攻撃したのだが、零次の方が威力が高かったのか、腹部が見るに堪えない形に変形しながら、それとは逆方向に首が回転させながら吹き飛んでいく。
その光景は、仮に総司の精神がこの場で言葉を発せられるなら、『オイオイ、死んだわ俺』と言ってしまうほどに惨いものであった。事実、背後のビルに激突した偽神は惨殺死体かのような様相であった。
しかし、全員が瞬きしたころには偽神の肉体はすっかり元通りになっていた。深雪はその光景を見て確信する、あの偽神は達也の『再生』のプロセスを利用していると。
敬愛する兄の力を利用されていることに対する嫌悪感と、その脅威をもっとも知っているが故の、どうやって対抗するかが思いつかない絶望感を深雪は感じる。
…だが、今その兄と友人が眼前の恐怖を打倒せしめる準備をしている最中だ。ここで臆してしまうわけにはいかないと深雪は自身を鼓舞する。
そんな時だ、偽神が突如として頭を抱えながら苦しみだす。あまりにいきなりであったため、一同は硬直してしまう。
「…なんだ?」
「…邪魔をするな橘総司ィ!」
どうやら中にいる総司が抵抗を更に活発にし始めたようで、偽神はそれに苦しんでいるようだ。しかし、実体としては居もしない総司を吹き飛ばすかのように、腕を振るうという因によって発生する暴風という果が魔法で現出。身体能力お化けである零次と琢磨は地面に足を突きさすことで堪え、他のメンバーは深雪が咄嗟に背後に発動させた氷壁で踏ん張ることに成功した。
意図しない魔法行使でこの威力。もし総司が制限をかけずに、偽神が全開で魔法を使えていた可能性を考えると恐ろしくなってくる。
「…っ、なんですか、これは…!?」
深雪が思わず声を上げる。偽神は苦しみから逃げ出すように頭を大きく振ったかと思えば、深雪たちを一瞥し、そちらへと手を向ける。すると地面が鎖の様に変化し、その場にいる全員を拘束してしまう。身体能力は比較的非力な方である深雪やほのかはともかくとして、レオや幹比古、リーナと言った男性陣や軍人として訓練を積んだ人間が、そして零次と琢磨という怪力自慢の二人すら拘束されてしまう。どうやら人体の構造上力が入りにくい姿勢で拘束してきているようだ。
全員が外そうともがくが早々すぐには外せない。その隙に、上空に黄金に輝く球体を形成していく偽神。それは達也が解析すれば、光弾ではなくレーザーを放つ魔法でもない、分類上は魔法剣になることが分かるだろうが、拘束されていて防御も回避もできない一同には気づくことはできないことであった。
鎖を冷却して脆くして破壊した深雪、『ミリオン・エッジ』を発動し鎖を切り刻んだ琢磨、自分の肉体に纏う様に結界を張って鎖を吹き飛ばした零次の三人は、その攻撃に対しての防御姿勢をとることができた。考えられる威力からして防御ではなく回避、回避よりもそもそも撃たせない方がいいとは分かっているが、今からでは止められないし回避もできない。
「『ミリオン・エッジ』…!」
「『アイアスの盾』ェ!」
「『穿天氷壁』!」
琢磨の『ミリオン・エッジ』を束ねて円盾状に、零次のかの概念武装として名高き『アイアスの盾』を模した七重の結界を重ね、更にその前に深雪の大規模な氷の壁『穿天氷壁』を合わせることで偽神の攻撃を防ごうとする。
しかし…!
「…ああ、儚きかな」
「…だめだ、耐えられない!」
偽神の魔法は、戦略級魔法を超える超戦略級魔法…本来の用途としては、
「はああああ!」
「…なんだと?」
三人が全力展開した防壁が砂の城の様に脆く崩れて、一同に『星薙剣』が当たってしまうという直前、突如として流星が落ちてきて、最強の切断魔法である『星薙剣』が逆に斬られた。流石に想定外なのか、片眉を上げて驚く偽神。途轍もない光の奔流が切断されたことにより、周囲一帯がまばゆい程に輝く。そしてその輝きが収まったとき、流星の正体が現れる。
「…みんな、遅れてごめん」
バサッ!と『火鼠の皮衣』のマントを翻した雫が、神々しい輝きを放つ石剣を片手に佇んでいた。偽神はまた新手か…と内心呆れながらも攻撃をしようとして…
スパッ、と偽神は体を細切れにされる。その傷自体は逆再生かのように元通りになるが、今の一瞬で自分の背後に回って己を切り刻んだ相手である雫をにらむ。
「その体…返してもらうよ」
「…愚か」
音速を超える速度の拳と斬撃が交差する…!
魔法科世界の秘匿通信
・『星薙剣』:ライブ感の塊みたいな本作の中でも、比較的初期から登場が確定していたオリジナル魔法。元ネタは『アクセル・ワールド』のグラファイト・エッジの解明剣(エルシデイター)。
・『穿天氷壁』:ヒロアカの轟のパクリ
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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