「…総司の体を返して」
「そう言われて頷くとでも?」
「だよね、だから力づくで取り返す」
一閃。偽神と正面で向き合っているにも関わらず、偽神の警戒を超えて雫が偽神の肉体を真っ二つに両断する。しかし、相変わらず直ぐにその肉体は再生してしまう。『再生』の魔法を使用しているのだ。
「…随分と切り込んでくるな。お前は橘総司の女なのだろう?死んでほしくないのでは?」
「変な奴が入ってるからね、総司の為に追い出してあげるの」
「何を言って…!?」
いくら回復するとはいえ、雫の性能は偽神に対して脅威として最大限の警戒を持たせた。その切り込む為、雫に揺さぶりを掛けてきた偽神だが、その体は突如として膝から崩れ落ちる。心なしか体の制御が上手くいかない。総司に若干取り返されたような気がしてきたのだ。
偽神は予想外の事態に困惑を隠せない。何があったのか、それは雫の持つ石剣の刀身、『仏の御石の鉢』に由来している。
この石は、悪しき気を祓うという効果を持つ。そんな効果を持った石が刀身として加工された為、祓うという性質が断ち切るというものに変わっているのだ。…本来偽神の精神も悪しき気ではないのだが、本来の持ち主の体を占拠している故に、悪しき気判定らしい。
だがそんなことを知る由もない偽神は、雫が自分を殺しうる存在だと最大火力をねじ込んでくる。
「死ね、人類に仇なす者よ!」
「…可哀そう、自分こそが人類を滅ぼしてしまうという事が理解できていないんだね…」
そこで偽神が発動したのは、『ヘヴィ・メタル・バースト』であった。自分の魔法がパクられた事を理解したリーナが抗議の声を上げようとするが、すぐに閉口してしまう。
その理由はズバリ、背後に現れた魔法陣の数である。十、百、千、万…数えることすら億劫になるほどの夥しい量の魔法陣が、偽神の背後に出現する。その一つ一つは全てが『ヘヴィ・メタル・バースト』であり、これが直撃してしまえば、彼らは、いや京都全域が更地になってしまう程の出力。一点集中させなければ世界に甚大な被害をもたらすことすらできるだろう。
ただし、偽神はあくまで人類の為に行動しているので、そんなことは流石にしないのだが。
しかし、それ程の威力を持つ攻撃を個人相手に放つという事から、偽神の雫に対する警戒度合いがうかがえる。その常識外の魔法を見た一同は、口々に雫に引く様に訴える。特にほのかなんて号泣しながらである。
…だが、彼ら彼女らは過小評価をしていた。北山雫という少女の胆力、そして『五つの難題』によって最強の存在と化した人間の強さを。
「終わりだァ!」
「雫ダメッ、逃げて!」
ほのかの叫びをかき消すほどの轟音とともに、眩すぎる光の奔流が雫へ向かう。だが、雫は全く焦りもしていない。丸で愛する人が久しぶりに帰ってくる前の少女のような表情を浮かべていた。
雫が腕を一振りすると、そのレーザーを丸々防げるような大規模な魔法陣型の障壁が展開される。だがそれでは普通耐久力が足りなくて容易く破られてしまうであろう…普通はであるが。
「…何故だ、何故生きているのだ?」
「すっげぇ…一体何したってんだよ…」
「簡単な事。…十文字先輩には感謝しないとね」
偽神が恐怖からの声を、レオを始めとした救出メンバー達が希望を見たような声を漏らす。そして雫はその種を明かし始めた。
「使ったのは単純に、『ファランクス』の真似事をしただけだよ」
「『ファランクス』だと?そんなものでは止められるはずは…」
「それ、人間の範疇で話してるよね?理論上では、相手の攻撃を防ぎきるまで障壁を維持できれば、『ファランクス』でも、ただの障壁でも防御可能だよ」
「バカな…まさか、単なる障壁魔法のループ・キャストだけで…!?」
そう、雫は理論上可能だが、到底成し遂げることはできないことをやって見せたのだ。その種として、やはり『五つの難題』が関わってきている。
まず、石剣の柄である『蓬莱の玉の枝』は、所有者に尋常ならざる魔法演算領域を与え、更に人智を超えたCADとしての役割も持っている。これにより、増えた演算領域を使用して、コンマ0.00001秒にも満たない時間で障壁魔法をループ・キャストし続けたのだ。
更に、雫が左手に装着している指輪についている『龍の頸の五色の玉』の効果により、サイオン効率を飛躍的に上昇させ、最早自然回復で大きくリカバリーが取れる程しか魔法によるサイオン消費が行われていないのだ。これにより、一切の消耗をすることなく、偽神の最大火力を防ぐことができたのだ。
その事実にたどり着いてしまった偽神は、雫に対して交渉を持ちかけようとする。その表情は確かに人類に対する慈愛が見て取れるが…余計なお世話というやつである。偽神が悪魔としている存在である達也は深雪に危害が及ばなければその力を開放することはないだろう。つまるところ、神の誕生を祝福しようとしていた藤原氏以外、偽神の降臨を望む者はどこにもいないのだ。
だが偽神は達也が悪魔であると信じて疑わない。故に交渉の余地があると考えたのだ。それは雫にとって、大切な友人を貶すことと同義であることすら思い至らずに。
「ま、待て!今私が消えれば、悪魔によってこの世界は…」
「その悪魔っていうのは、達也さんの事?」
「…!そ、そうだ!その者は危険だ!奴が本来の力を引き出す前に滅ぼせばこの体も返…」
その言葉を偽神が口にした瞬間、辺りに極寒の冷気が満ち、偽神の体だけを氷柱に取り込んで凍り付かせた。雫が下を見やると、鬼の形相をしている…しかし絶世の美少女という世の評価は覆らないだろう…深雪が怒りとともに冷気とサイオンを噴出していた。
「…お兄様を侮辱するものは何人たりとも許しません、それが正義に基づいた考えを持つものだとしても!」
「深雪の言うとおりだね…それに、達也さんは悪魔なんて言われるように力を使ったりしない。そんなことをしようとしたら、大事な妹から叱られちゃうからね」
「まあ!雫ったら、お兄様にとって私が大事な存在だなんて…!」
「「「「……」」」」
久しぶりに見た深雪の発作に、全員が苦笑いを浮かべた。だが、これにて勝敗は決した。雫は苦笑いをやめ、覚悟を決めた表情で眼前の氷柱に閉じ込められた偽神に向かい合う。魔法を発動して逃げ出しそうなものだが…雫には、そんなことはないと確信があった。そしてその氷柱ごと、偽神を横一閃するのであった…
偽神は目を覚ます。辺りを見回せば、そこは先ほどまで自分がいた京都とは違っていた。そこは見覚えはないはずだが、どこか見たことがあったような気がした。確か…
そう偽神が思考を巡らせていると、背後に気配を感じた。急いで振り向いた偽神に待っていたのは、強烈な威力の拳であった。
その拳を受けた偽神は、大きく吹き飛ばされ地面を転がる。よろよろと顔を上げた偽神の眼前には、いい笑顔を浮かべた自分がいた…いや、この男は…
「よお…やってくれたよなお前ェ…」
「…橘、総司…!」
そうだ、思い出した。この光景をどこでみたのか。それはこの男…橘総司の記憶からだ。ここは…
「…俺の精神世界ってこんななんだな…全く、どんだけ雫が好きなんだよって感じだ」
魔法大学附属第一高校、その校門。総司と雫が初めて出会った場所だ。先ほどは精神世界は大昔の京都の様相を呈していたが、それは偽神の精神世界でありこの校門こそが総司の精神世界の象徴なのだろう。そして精神世界が塗り替えられているという事は…
「やっと自分の状況を理解できたようだな?…お前は負けたんだよ」
先ほど偽神が氷漬けになった際、何故魔法で脱出しなかったのか。それは偽神が発動しようとした魔法を、総司が異能で無かったことにしていたからだ。それは偽神が精神をボロボロにされて弱体化したおかげと言えるだろう。
これにて立場は逆転した。偽神はどんな犠牲を払おうとも世界を救おうとしたが、そんなこと被害者である総司には関係なかった。
「…後悔するぞ、世界はいずれ悪魔によって…」
「滅びるってか?ありえないね…だって」
数瞬の間をおいて、総司は偽神に言い放った。
「俺と仲間たちがいる」
その言葉と、迫りくる拳を受けて、偽神の意識はこの世から消えていった…
西暦2100年 4月24日…
総司の姿は、インド洋上に浮かぶイギリスロイヤルネイビー空母『デューク・オブ・エディンバラ』の艦内にあった。
「お待たせ、待った?」
「…お前、それを言うために態々遅れてきたのか?」
「別にいいじゃ~ん。ここには一瞬で来れるんだし、時間にもちゃんと間に合ってるだろ?」
彼がここにいる理由は友人である達也と遊ぶ為…などというわけもなく。彼はここにある組織の設立に関する立会人を務めることになっているのだ。
「そうだ、誕生日おめでとう達也」「ありがとう、プレゼントは地球か?」「ほざけw」などと会話をしていると、艦内から二人の人影が歩いてくる。
その人影とは、
「まさか、貴方に協力を仰げるとは思ってもいませんでしたよ、ミスター橘」
「そういう貴女もちゃんと分かってるぽいな、今回の組織設立に大賛成なのは俺だけだって」
「ええ。
社会人としての礼儀として、初対面の総司に礼儀正しく接するチャンドラセカールに対して、相変わらずどんな相手にも態度が変わらない総司。だがチャンドラセカールはそういった総司の人となりを知っていたらしく、気を悪くしたようには見えなかった。
「こんなじゃじゃ馬を旗印としてだけでも迎え入れてしまった協会の失敗ですね」
「おいおい…俺のおかげでお前もやりやすくなってんだから感謝してくれよ?」
「その点に関しては本当に感謝しているさ」
達也と仲睦まじく、しかし真面目に仕事の話をする総司は、雫が見れば「…成長したね、総司」とウルっとしてしまう事間違いなしであった。
すると、その会話に入りにくそうにしながらも、チャンドラセカールが確認するべき事項を総司に再確認する。
「貴方は今回、マクロード氏の代理人でもあるという認識で構いませんね?」
「ああ。マクロードさんっていうか…イギリスの代理人みたいな感じだけどな」
聞きたかった返答が聞けたチャンドラセカールは満足そうだ。そして、総司に期待の言葉を投げる。
「貴方のような、魔法資質を持つ人間すべての人権を保障しようという考えを持つ人間が、
「なに、俺だけじゃそれこそ抑止力にしかなれない。なら、俺よりうまくやれる奴の後押しをする必要があるだろ?」
「それでもです。貴方の働きかけがなければ、協会の妨害をイギリス政府が受けていたかもしれません」
「いや、さすがにそこまでは…やらんよ?」
多分ね?と不安そうな様子で明言を避けた総司は、苦笑いを浮かべながらも式典の…メイジアン・ソサエティ設立についての署名式の開会を宣言した。
その翌日、世界に激震が走った。それは国際魔法協会以外の魔法師の国際組織ができたという事にもであるが、IPUとイギリス政府、何より国際魔法協会からその正当性を認められたという事に対してだ。
今まで実戦レベルに達していない魔法資質を持つ者…メイジアンに対する保護を行ってこなかった国際魔法協会は、つい2年ほど前に会長が変わったことによりその方針を転換したことを知られていた。メイジアン・ソサエティの支援もその一環なのか…世界ではそう考えるものも少なくなかった。
その会長とは…
「じゃあな、達也。こんどはメイジアン・カンパニーだっけ?を設立するんだろ?それにステラジェネレーターの社長にもなるって義父さんから聞いたぞ?忙しくなるだろ」
「お前ほどじゃないさ、
達也から皮肉を返され、そう来なくちゃとニヤッと笑って見せる総司。
橘総司…仕事で使っている名前であり、本名を
彼は
時は遡り…
2096年9月某日…魔法大学附属第一高校にて…
「だ~か~ら!考えた魔法理論の素晴らしさを発表するのと、雫の素晴らしさを発表するの、そこになんの違いもありゃしねえだろうがって!」
「何もかも違うだろうがァ!」
総司の情けない訴えと、達也の怒号が響いていた…
次章予告…!
「論文コンペを、ぶっ壊~す!」
「こいつ止めるぞォ!」
論文コンペを我が物とし、雫のいいところ発表会に変えてしまおうと画策する総司を止めようとする3年ズ。
「ここがこうして…それで…」
「達也、君も手伝ってくれ!」
「…一向に研究が進まん!」
怒り心頭の達也…
「水波…さん?」
「九島さん…ですよね」
新たな恋の予感…
「…それで、どうやって私たちを潰すつもりなの?」
「拳で!」
ついでに存続の危機に陥る四葉家…
論文コンペを目前に、再び京都で思惑が錯綜する!
『京都って俺の地元だったりするんだぜ?だから…俺がルールだ(超理論)』、略して古都内乱編(!?)、開幕…!
という事でね、ここで一区切りという事で、次回はオリキャラのプロフィール紹介でもやっていこうと思います。
後、総司のバックストーリーは全部消化したので、総司に関するネタバレは全てなくなりました。
これにつきまして、別小説としてキグナスの乙女たち編を始めようと思いますので、賛成かどうかのアンケートを取りたいと思います。
投稿ペースとしては、基本的にこちらの小説:別小説で6:4か5:5で投稿できるように努めていきたいと思っています。
こちらアンケートを取らせていただきますので、回答お願いします。
また、今回京都には七草の双子や三年ズも来ていました。あと美月も。このメンバーの話も欲しいという方は、コメントしていただけるとこの章の番外編という事で書いていこうと思います。
本小説はまだまだ続きますので、変わらぬご愛読よろしくお願いいたします。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~