確かにキグナスの乙女たちは原作を読んでない人にはとっつきにくそうだもんな…
「ッ、グゥ!…またこれか」
放課後、部活動生はまだ活動中だが、所属していないもしくは休みである生徒は帰宅した…そんな微妙な時間帯に、森崎は二人の不審者を相手取り、住宅街の屋根上を舞台に戦闘を繰り広げていた。
森崎は時折自身を襲う謎の痛みに膝を折りながらも、必死に喰らいついていた。戦闘中の相手…黒羽姉弟の弟、黒羽文弥の魔法である『ダイレクト・ペイン』の影響だ。『ダイレクト・ペイン』は相手の精神に直接痛みを認識させる系統外魔法にして、文弥の固有魔法である。
その威力は、最大出力ともなると傭兵の経験を持つ者でも意識がブラックアウトするほどなのだが…文弥は短期間に、二人の人間に複数回叩き込んでいる。一人目は今年のモノリス・コード決勝戦で戦った一高の七宝琢磨。いくら威力が下がっていたとはいえ、精神に直接与えられた痛みを物ともせずに突撃してくるあの男の姿は今でも恐怖を感じるレベルだ。
そして二人目が眼前にいるこの男、森崎瞬だ。今は威力を手加減する必要があった九校戦とは違い、文弥は本気で魔法を放っているのだが、森崎が片膝を折って体勢を崩すだけですんでいるという事実が信じられなかった。
「(…こいつ、文弥の『ダイレクト・ペイン』をあんなに受けてもあの程度のダメージしかないの!?)」
そしてそれは、文弥の全力があまり効かないという事実は、双子の姉である亜夜子すら驚かせている。情報として知っていた、あの橘総司をお遊び程度とはいえ拘束できるというその意味を、亜夜子はこの時ようやく正確に理解した。
「精神干渉系魔法と、収束系魔法の使い手のコンビか…強力だが負けるわけにはいかないな!」
そういって森崎は、二人に向けてそれぞれ一丁ずつ、トーラス・シルバー謹製の特化型…特にループ・キャストの速度が異常である拳銃型CAD、『スター・アサルト』を介して放たれる、高速かつ正確かつ高威力のサイオン弾がこれでもかという程連射する。『クイック・ドロウ』という固有技術を持つ森崎は、その技術を活かすために、早打ちをサポートし、ヨーイ、ドン!での打ち合いで有利をとれるように総司の伝手として手渡されたCADである。
因みにオーダーを受けた達也は当初ここまで尖った性能でよかったのかと心配していたのだが、それを使って総司を拘束してしまう森崎を見てその評価を改めたという事件があった。
今回は怪しい人間に声をかけただけであったが、本来敵地では見敵必殺を信条に掲げる森崎。眼前の敵が己を恐れながらも戦っているという事実に気づかず、どうにかして一対一の状況を作り出したいという考えで戦闘を行う。
上述したが森崎は一対一の近距離では無類の強さを誇り、現在一高に在籍している生徒の中でも、サイオン弾の速射に限ればぶっちぎりの才能を持ち、距離とタイミングさえかち合えば深雪すら倒しうるガンマンである。
だが、四葉からの直々の指令を受けて動いている黒羽姉弟はその点を正確に理解していた。二人は扇状に展開し、お互いつかず離れずの距離を維持して戦っていた。お互いがカバーできない位置で森崎と一対一の状況に持っていかれると、その時点で敗北が確定してしまうからだ。
「(…大丈夫、焦るな僕。このまま『ダイレクト・ペイン』を与え続ければ、奴もいずれ疲弊するはずだ)」
「お兄さん、さっきからどうしたの?当たってないのに痛がっちゃってさ。どこか怪我してるんじゃないの?頭とかさっ!」
姉弟の狙いは森崎の体力切れによるダウン。もしくはこの場からの逃走だ。どちらも森崎を削らないと実行できない策。ならばと再び文弥は『ダイレクト・ペイン』を最大出力で放つ。その威力は、人ひとりが痛みで発狂死してしまいかねないほどの威力であった。どうやら先ほどまでのを耐えられたのならば、これも耐えられるだろうという目算のようだ。同時に、これを食らえば森崎は力尽きるとも。
「っ、アア…!?」
「(入った…!)」
その『ダイレクト・ペイン』のあまりに高すぎる威力は、森崎を沈黙させるに相応しかった。文弥渾身の一撃を喰らった森崎は、今しがた立っていた屋根から転がり落ちた。文弥は、かなり時間がかかったこの戦闘に終止符が打たれたことに、若干の安堵を覚えていた。
「…でも、これで尾行がバレてしまった。これ以上ターゲットを追跡すると、このことを知った他の生徒に気取られやすくなるかもしれない…」
「ほう、やはり尾行していたのか。ターゲットは総司と司波のどっちだ?」
「なっ、ガッ!?」
「動くな、少しでも動けば撃つ」
屋根に森崎が戻ってくる気配を感じなかった文弥は、四葉家にこれ以上の尾行は危険であると報告しようと決心した。だがその瞬間、文弥は銃を突き付けられ、地面に組伏せられていた。
一体誰が組み伏せたのか…それは何を隠そう、森崎瞬その人であった。
「バカな…なんで立っていられて…」
「さあ?なんでだろうな?(…総司に精神干渉系魔法への対抗策を聞いていてよかったな…)」
文弥の疑問に答えるように内心で呟く森崎。そう、彼は総司から偶然にも対抗しうる方法を聞いていたのだ!
~森崎の回想~
「イーヤーヤハヤハ」
「はあ」
「ヤハァー!」
「なるほど」
「イイィィィィィヤッハァァァァ!!」
「そう言う事か」
「(…奴の教え方がアバウトすぎて再現に時間がかかったが…結果オーライだ)
お前は何を言っているんだ?
森崎基準でアバウトだが、こちらからしてみれば最早言語にすらなっていない総司の奇声を翻訳すると、『
因みに考案者は総司…ではなく、そのクローンである零次の結界に対する豊富な知識をもとに達也が精神防御魔法として考案した方法だ。このせいで、深雪が生まれた理由が世界から消えてしまったが、司波兄妹が幸せならそれでOKです。
ともかく、その方法を取って土壇場の精神防御を行い、最大出力の『ダイレクト・ペイン』を防いだ森崎。だが、この防御法には『
だがそんなことを知るはずもない文弥は、眼前の男が自身の最大出力を…精神に直接痛みを書き込まれる苦痛を完璧に耐えきった男として、絶対に敵わないという絶望感で満たされることになる。
「…何者だ、正直に全てを話せば、命までは取らないでやる(ふう…、これで正直に話してくれればいいんだが…)」
「っく、化け物め…!」
文弥は森崎を化け物であると罵るが、森崎は内心冷や汗ダラダラであり、さっさと勝負を決めてしまわなければと考えていた。それゆえに…
「…っ!?か、体が動かない!?」
「はっ、これは…姉さん!」
「まったく、ヤミ?詰めが甘いわよ?」
いきなり背後に現れたヨル…いや亜夜子に、森崎は拘束されてしまった。しかし、拘束と言っても物理的なものではなく、何もされていないのに体が動かないのだ。その隙に文弥に体勢を整えられてしまう森崎。
「(この速度は…『疑似瞬間移動』か!あの魔法も確かに収束系魔法…警戒しておくべきだったか…だが)」
亜夜子がいきなり自身の背後を取れた理由を森崎は理解できたが、自身を拘束するこの感覚については正体が掴めなかった。それもそのはずだろう、これは亜夜子の固有魔法なのだから。
『
「森崎瞬…さんでしたわね?素晴らしい戦いぶりでした。ですが、あと一歩届きませんでしたわね…ヤミ、『ダイレクト・ペイン』を」
「えっでも…さっき防がれて…」
「防がれたのは一回だけでしょう?その一回以外では彼は全てダメージを受けていた。それはつまり、防ぐにも限度がある…そうですわね」
「(っく、見抜かれたか…!)」
亜夜子は二人の戦いを俯瞰していたからこそ、森崎の精神防御が回数に限度があることを見抜いたようだ。そして森崎にトドメを刺そうとしているのだ。
「…殺しはしません。ですが、しばらく眠ってもらいます」
亜夜子のセリフとともに、文弥が『ダイレクト・ペイン』を森崎に叩き込む…!
「…ッ!?消えた!?」
「そんな!?一体どこに…!」
その瞬間、森崎の姿は二人の目前から忽然と消えた。森崎の動きを注視し警戒していたはずなのに、見失ってしまったことに二人は動揺する。そうして二人は辺りを見渡し、後ろを振り向くと…
「「…あっ」」
双子であるが故に、同時に後ろを向いた二人は目撃した。
感情の抜け落ちた顔で、二人へ向けた両の掌を向けてきている総司を…
こうして、二人の意識は暗転した。
魔法科世界の秘匿通信
・深雪が作られた理由は、完全無欠で傷つくことのない達也の精神を凍らせて殺せるように…だったのだが、この防御法が確立したことによって、それは絶対にできないこととなってしまった。
まあ、原作でも深雪が多分無理だと認識してるし大丈夫なはず。
・総司が来た理由は単純、戦闘が激化しすぎて総司にサイオンを感知されたから。黒羽姉弟には落ち度はないが、森崎が隠すつもりなく戦闘していた為、森崎の荒ぶるサイオンで戦闘中だと総司に感づかれた。
皆さん、一回キグナスの乙女たちの原作読んでみません?結構面白いですよ。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~