「…も、もうやめっ」
「ダメ。こんなに可愛い男の子見たことない。悪いことしてたんだから少し反省して。さ、次はこれに着替えて、早く」
「いやっ、助けて姉さ、ああああ!?」
「ほらほら」
東京某所、二人の高校生、カップルが住むにはあまりに広大な邸宅。北山家の資金力と権力、そして九島家の圧力によって確保された一等地に堂々と建立する豪邸にて、一人の少年が着せ替え人形にされていた。そんな様子を呆然と眺めているのはその少年の姉だ。
「…あの、拷問とかしないんですか?」
「んー?いや、森崎が起きてこないとか後遺症が残るとかだったらわかんないけど、アイツあの後平然と起き上がってきたから別にいいかなって」
「でもお咎めなしとはいかないから…」
「そう、その結果がアレね」
出された紅茶を恐る恐る飲む亜夜子は隣に座る家主である総司を見やる。つい数時間程前、亜夜子とその弟の文弥は彼の友人である森崎を気絶させている。それに気づき、怒りで動いた総司に二人は捕らえられた。その時、二人の顔は恐怖で歪んだ。総司の眼が、完全に自分たちを亡き者にせんとする殺人的な視線であったからだ。
しかし、総司が来たことでギャグ時空が発生したのか、それとも普通に起き上がったのかは分からないが、森崎が目を覚ましたのだ。目を覚ました森崎は、目の前で殺人を犯そうとする友人を制し、思いととどまるように声をかけた。その声で我に返った総司は、追いかけてきた雫を入れて三人で双子の処遇を話し合い、結果しばらく拘束という名目で総司と雫の家に連れてきたのだ。
結果的に命拾いした二人だが、流石にこのお遊びが終わった後は襲撃の理由を詰められるだろう。二人は今から、どう返答すべきか頭を悩ませるのだった…
「あっ、次は君がアレの餌食だからね」
「えっ」
ここは、旧長野県との県境に近い旧山梨県の山々に囲まれた狭隘な盆地に存在する、地図にも載っていない名も無き小さな村…
この場所こそが、日本が誇る十師族の一つであり、世界から『
その中の一際大きな平屋建ての屋敷、四葉本宅にて四葉家の当主である四葉真夜は、執事である葉山から報告を受けていた。
「…そう、亜夜子さんと文弥さんは失敗したのね」
「現在は橘総司と北山雫が居住している邸宅にて拘束されております。拷問を受けているというような報告は受けてはおりませんが、類似する行為を受けていると思われます」
物憂げな表情の真夜に葉山が残念そうに告げる。まあ確かに見方を変えれば着せ替え人形も拷問扱いだが、それはおいておいて。
「…しかし、あの魔人に挑発行為を行って、本当によろしかったのですか?あの者は、立ちはだかる障害を排除するためには労力を惜しまないでしょう。今回の一件で、我々と対立することになると思われますが」
「いいのよ、彼にはこちら側に攻め込んできてもらわなくては。それが、スポンサーからの依頼。彼が『
「彼を殺すには、真夜様の魔法が必要ということですな。そして確実性を増すために、こちらのテリトリーに招き入れる必要があると」
真夜がその言葉に首肯する。
真夜の固有魔法、『
この魔法の特徴として、この魔法は光を介して間接的に物質の構造に干渉し、熱や圧力によらず固体・液体を気化させるというものがある。これはつまり、総司の異能を貫通して総司を貫くことができる数少ない魔法であるという事。
そう、四葉真夜は橘総司を殺しうるのだ。この魔法を使って、『再生』を使われる前に総司の脳を貫くことさえできれば、総司を殺すことが可能だ。それを、四葉のスポンサーとやらは狙っているのだろう。
だがそれには問題がある。
「ですが…彼に勘付かれた以上、九島の者やあの藤原氏まで動くことになりますぞ」
「…藤原の小娘は警戒するには十分だけれど…やはり九島閣下がどう動くかがカギね」
四葉の夜は、着実に総司へと手を伸ばし…同時に、滅亡へのカウントダウンが始まっていく…
場所は戻って橘・北山邸…
「ふう…やっと解放された…」
「お前の姉ちゃんが犠牲になったけどな」
「僕の屈辱に比べたら姉さんのダメージは皆無に等しいでしょうが…」
「それはそっか…」
雫の着せ替え地獄から生還した文弥は、今度は自分の代わりに着せ替え人形になってしまった姉を見て…若干雫と一緒にはしゃぎ気味の姉を見て、はあとため息をついた。亜夜子がはしゃぎ気味なのは、ひとえに女子だからである。そもそも文弥は男、本当なら女装をすることすら嫌なのにそれを聞き入れず散々おもちゃにされては、面白くもないだろう。
そんな文弥と亜夜子を見ながら、総司は質問を投げかけた。
「なあ…君たちは、こんな仕事をしていて、楽しいのか?」
「…それは、どういう意味ですか?」
「言葉のままさ。いくら家の当主からの指令とはいえ、平穏な暮らしを投げ捨てて自ら敵への諜報活動をするなんて、俺は楽しくないから」
「…楽しいと言えば、嘘になります」
文弥は総司からの問いに、俯きがちに答える。その瞳は、嘘を付いているようには見えなかった。
「本当なら、達也さんみたいに学校生活を楽しみたい…」
「(…アイツ、言う程楽しんでるか?)」
「達也さんの後輩として、一緒に学校生活を送りたい…」
「(それは別にどうとでもなるのでは?)」
「正直に言えば、四葉家は…僕たちには不要だと思います」
「(そこまで?裕福な立場までいらないって切り捨てるの?)」
「達也さんの素晴らしさを理解できない人が多いあんな家…僕たちには…!」
「(何この子、達也のファンボーイなの?)」
「…聞いて、どうするんですか?」
「…ふっ(やっべ、何も考えてない)」
総司からしてみれば、軽い世間話程度のつもりであった。だが、文弥の予想以上の達也好きと、そこから派生する四葉家…正確には達也を蔑ろにする四葉家の人間たちへの怒りを目の当たりにして、何も言えなくなってしまった。正直総司からしてみればどうでもいいのだが、「まさか…?」と期待のこもった視線を向けられると流石に困ってしまう。
そうして、少しばかりの逡巡の後、総司はこう返すのだ。
「…俺が、四葉をぶっ潰してやるよ(達也も平穏が欲しいっぽいし、これぐらい許されるでしょ)」
総司、なんとなしで四葉との開戦を宣言す…
そんなころ、京都は九島邸にて…
「ふむ、我らの支援がしたいか…何を企んで居る、藤原よ」
「…お言葉ですが老師、私はあの方をお慕いしております。私はあの方を支援するのです、あなた方ではない」
「ふっ、総司の為に我らと手を組むと。面白いことを言うな」
九島邸の一室で、九島烈と藤原束が向かいあって話し合っていた。会話の内容から察するに、『元老院』としての地位を継いだ束が、その地位を利用して九島のスポンサーになると言うのだ。そしてその理由は総司と…失恋しても相手を慕う心、束はどうやら鋼のメンタルを持っているらしい。
「…して、お主は我らに何を望む?いくら総司を支援するためとはいえ、こちらから何か対価を支払わなければならんのだろう?」
「ふふ、流石は老師お話が早い…私が望むのは一つ、『十二天将』を総司様に継がせることです」
「ふむ…『十二天将』か」
『十二天将』。それはかの安倍晴明が式神として使役したとされている十二体の神や精霊、妖怪たちのことである。あの有名な四神、『朱雀』・『青龍』・『白虎』・『玄武』…そしてその神々をまとめる『黄龍』などを含む、一人間に従えられるものではない規模の、強大な式神たちである。
四葉のスポンサーとやらも、総司がこの十二天将を従えてしまうことを危惧しているようだ。なるほど確かに、京都を地獄に変えて、わずか一瞬にしてその地獄を元通りにしてしまった総司の力を見てしまった後であれば、これ以上強大な力を総司に持ってほしくないのは想像に難くない。
「…よかろう、『十二天将』の術式を探すとするか」
だが、それは総司と敵対している者たちの恐れであり、逆に言えば総司の味方達は、総司が更に強大な力を手に入れることを望む。それも、権力や弱みでなく、家族としての絆で味方としている烈にとって、総司が更に強力になることは損得勘定抜きで喜べることなのだ。
こうして、九島は四葉が最も嫌がる行動をとることとなり、これが十師族始まって以来の大抗争の火種となるのであった…!
絶対に総司を強化前に始末したい四葉家&状況を何も把握していない達也VS絶対に総司を強化したい九島家&何も考えていない総司
レディーファイッ!
正直作者の黒羽姉弟の解像度の低さのせいでなんか変な事言ってますが、本作のキャラ崩壊にもれず、四葉家<達也ぐらいの優先度が更に偏ってるぐらいに考えてください。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~