「…っひゃー、こりゃまた派手にやったねぇ」
「ごめんなさい…あのおじいさんを捕らえるにはこれが最適で…」
「いや、別にいいよ。雫が無事ならそれでさ」
朱雀を手なずけて目覚めた総司。そんな彼を待っていたのは、雫からの「家が壊れた」というメッセージだった。家が壊れたとしても、総司にとっては何ら問題ない。かつて達也から真似て習得した『再生』の下位互換があるからだ。
下位互換と言っても性能が低いという意味ではなく、達也のそれよりも圧倒的にサイオン効率や演算領域の使用容量が大きいという、普通の魔法師から見ればかなりの負担を強いられる、またはそもそも使えないと言い換えてもいいほどの消耗量であるという意味の下位互換だ。だがそんなデメリットは、規格外のサイオンと魔法演算領域を保有する総司の前ではへのへのかっぱ。総司がその気になれば世界のどこにいても彼は家を修復することができるだろう。だが総司はバカだ、故にそれに気づかずにわざわざ東京まで戻ってきている。
まあその移動も大した労力ではないのだが。
「さっきのすごかったね。風が一か所に集まったかと思えば総司が出てくるんだもん」
「神様の力は偉大ってやつだな」
総司は京都から東京まで移動にわずか数秒しかかけていない。というのも、総司が手なずけた『四神』達は、それぞれの属性に適した移動方法を持っている。その中でも屋外でさえあれば世界中どこへでも移動できるほどの規模を持つのが『青龍』の『つむじ風』だ。
この魔法は系統外魔法にあたり、術者を『風』としてエイドスを書き換えた後、特定の場所につむじ風を吹かせる。そしてその吹いた『風』をイコールで術者とすることで任意の場所に術者を転移させる魔法だ。よりかみ砕いていえば、
「総司=風にエイドス書き換え!魔法で行きたいところに風を!総司=風なのでその風が総司であっても問題ない!いいですね!」というわけだ()
もちろんこんな馬鹿げた魔法が常人に扱えるわけはない。術の定義に関しては各式神のサポートを必要とするが、結局総司の魔法力ありきの魔法だ。
それは置いておいて。
「いくぞ~?はっ!」
まるで手品師がする大げさな手ぶりをしてから掌を家の跡地に向ける総司。
次の瞬間には家は何事もなかったかのように修復されていた。尚、本来の使用者である達也も、ここまでの建築物を『再生』するとなるとかなりの負担になるのだが、総司はどこ吹く風だ。
「流石、総司。これでほのかや美月に鼻の下を伸ばしてたことは許してあげる」
「ははっ、凄いだろーって今何て言った?」
雫の誉め言葉の後についていた文言に、総司の額に冷や汗が流れる。心なしか後ろにいる雫の視線がジトっとした物であることに総司は気づかないように…
「バニースーツ…(コショ)」
「本当に申し訳ございませんでしたー!?」
気づかないようにしようとしても、雫は逃がさない。確定的な単語を雫は総司に耳打ちする。総司はもう何が何だか分からなかった。あの場には幻影としてすら雫はいなかったはずだ。ならなぜ彼女は知っている…!?
「女の勘…かな」
「女の勘SUGEEEEEEEE!?」
流石に精神世界の出来事すら突破して事態を把握してるのはやばいっすよ雫さん…
「…別に、そこまで怒ってない。ちょっとからかっただけ」
「ははーっ、ありがたき幸せ!」
全力で平伏する総司に雫は満足げだ。ここ半年ぐらい絡みなかったもんね、ごめんね。
そんなことを話していると、どこかから自分を呼ぶ声が聞こえて総司はそちらを向く。すると、二人の人物が別々の方向からやってきた。
「総司!ここに居たのか…てっきり京都に居るものかと思っていたぞ」
「総司先輩、渡したいものがあります!」
やってきたのは真由美から逃亡中の零次、そして一高にいたはずの琢磨だ。
「渡したいもの?なんだよそれ」
「これです」
琢磨はそう言いながら総司の前に式を出す。
「先ほど一高に襲撃してきた『太陰』という十二天将です。幹比古先輩が渡しに行けと」
「お前らのとこにも十二天将が来てたのか?」
「そう言う零次さんのところには『騰蛇』が来ていたんですよね?現在日本魔法協会が全力で事態を隠蔽しようとしていますが、あまりの目撃証言の多さに情報統制しきれていないようです」
零次が驚いたように琢磨に質問すると、あまり返事にはなっていないが琢磨は端末に写っているニュース記事を二人に見せる。そこには町を儀式場として見立てた超巨大な封印術式を行使する零次の姿と、今にも式に戻されそうな『騰蛇』が写っていた。
「あ~…流石にあの規模じゃあな。あの一件のせいで堺の港は壊滅状態だ」
そういいながら『騰蛇』を封じ込めているであろう式を総司へと手渡す。
「『太陰』はどうだったんだ?智の神ってんだから相当切れ者だったんじゃねえか?」
「いえそれが…先輩方の言われて恥ずかしいことを暴露する大会みたいになってまして…」
「なんじゃそりゃ」
「あ~、じゃお前の恥ずかしい話は出なかった感じか?」
「ええまあ。恥ずかしいといえば総司先輩に出会う前の自分の振る舞いですが、初心忘れるべからずということで特段口止めを図ろうとするほどではないですね」
どうやら『太陰』、嫌がらせのような形で幹比古達と相対していたが、いつになっても戦闘を始めないことにイライラしてきた琢磨が試しに身体強化で殴ったところ一撃ノックアウトだったそうで。そのまま幹比古の怒りの封印術式で式化した。
ちなみに現在一高組はお互いの恥ずかしい話を聞いたため、少し変な空気が漂っているとのこと。そう話をした琢磨に対して、総司と零次はそろって「さっさと殴れよ」と琢磨を りつける。それに琢磨は反省を示すが、そもそも出会って最初に拳を振るうことしか考えていない二人のほうが異常なので、琢磨君にはその変なアドバイスは聞き流してほしいところである…
一方その頃、京都にある九島本邸にて…
「襲撃!しゅうげー」
「クソッ!人の心を失った外道共め!」
総司が去ったあと、突如として九島本邸に謎の黒服集団が襲撃をかけた…四葉家のエージェント達だ。事態を察知して迎撃に出る九島の陣営だが、他の十師族よりも荒事が多い経験の差が如実に表れていた。
「…お前たちまで?」
「どういうことですか、文弥君、亜夜子さん!?」
四葉のエージェント達を制圧しようと出陣する達也と深雪。だがその前には、親しい間柄であるはずの黒羽兄妹が立ち塞がっていた。
「ご当主様の命です、達也さんたちにはここで止まってもらいます」
文弥はそう言うと、『ダイレクト・ペイン』を達也に発動しながら駆け出す。
達也は『ダイレクト・ペイン』をモロに受けるが、その痛みに耐えて強引に突き進む。
達也は『体術』という枠組みであれば人類最強である、例外たる三人は魔法による自強化や生まれ持った異常な身体スペックによるごり押しであるため、技術の面に目を向ければ達也が最強と言っても過言ではない。
だからと言ってそう簡単に負けるようでは四葉の人間、ましてや分家の次期当主候補は務まらない。文弥も負けじと体術で応戦する。だが、技術だけで零次と競っていた達也と、森崎に手こずり総司に一撃でノックアウトされた文弥では決して超えられない壁があるのはしょうがないことだ。
だが、ここで達也は妙な感覚を覚える。文弥は、『戦っているフリ』をしているような気がしたのだ。最初は当主の命でも達也たちと戦いたくないからだと思っていた。だが…
「 」
「…!」
戦闘中お互いの顔が近づいた時、文弥は達也に何かを耳打ちした。それを聞いた達也はすべてを理解し、その場から飛びのく。
「お兄様!大丈夫なのですか!?…まさか文弥君がここまで強かったなんて…」
「深雪」
「?」
「彼らは味方だ。怪しまれないようにほどほどに戦っているフリをするんだ」
「…!?どういうことなのですかお兄様!?」
達也の言葉を理解できない深雪。だが、その言葉は何よりも信頼する兄からの言葉であること、そして…
「これが終われば、俺たちを縛っているあの家の呪いは消える。晴れて自由の身なれるんだ」
こんなことを言われてしまえば、深雪は達也の言うとおりにする以外の選択肢はなかったのだった。
ここで平行線
「お久しぶりですね、先生。こんなところで出会うなんて奇遇ですわ」
「奇遇?君が兵を率いて襲って来たのに、それを奇遇で片づけるというのか?」
「ええ。何せここで先生を殺してしまえば、後は有象無象のお片付けですから。奇遇ですましてしまってもなんの問題もないのですよ」
「見ないうちに誇張な言い回しをするようになったな、真夜。君に私は殺せんよ」
「ご老体の強がりと受け取っておきますわ」
火の手があがり大炎上する九島邸。その一室で、『世界最巧の魔法師』九島烈と、『世界最強の魔法師』四葉真夜が相対する。
この勝負の行方は、いったいどこへ向かうのか…
魔法科世界の秘匿通信
・太陰はナレ死した、展開を思い描けなかったからだ
・この世界の老師はまだまだ現役を張れる。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~