九校戦初日!天気は天晴れ快晴そのもの!そんな中達也達は朝早くから競技場を訪れていた!
「へー、ここが会場かぁ。テーマパークにでも来たみたいだな」
「お前は観光スポットに来た外国人かよ…」
まるで観光にでも来たかのような言い草の総司にレオが若干呆れる。まあ、この世界は出国が非常に難しいので本当に外国人がそんな反応するかは謎だが。
それはともかく、彼ら一行がこんなに早く来た理由、それは女子本戦のスピード・シューティングとバトルドー…!失礼、バトル・ボードの予選が行われるからだ。この二つには早速優勝候補と言って差し支えない真由美と摩利が出場する。達也が見に行かなければ絶対にめんどくさい絡み方を二人からされるのを達也は予見していた。それぐらいならば見ておいた方がいいし、そもそも技術の高い二人の競技を達也は元より見るつもりだったので特に問題はない。
「スピード・シューティングは予選と本選で戦法を変える人が多いが」
「七草会長はずっと同じ戦法だよね~」
達也が言いかけた事をエリカが引き継ぐ。
「もっと前の方で見た方が良かったんじゃないか?」
「この競技は後ろで見た方がいいでしょ。それに、前の方は人でいっぱいだし」
エリカが指さす先には観客席の最前列、そこに大勢の人だかりが出来ていた。
「馬鹿な男共がうじゃうじゃいるわね」
「青少年だけではないようだが?」
「お姉様ーってやつ?全く馬鹿ら…しい…?」
「どうしたの?エリカ」
「…アレ」
「アレ?…あっ」
エリカが何かを見つけて固まっている心配したエリカが指さしたのは…
「フレー!フレー!かーいちょーう!オーエス!フレフレ会長!フレフレ会長!おー!」
いつの間にか応援団長の格好で真由美にエールを送っている総司だった。
このエールを受けた真由美本人は分かりにくいが若干青筋がたっている。総司とはまだ浅い付き合いだが、この自身を尊敬するそぶりを一切見せた事のない後輩からの応援は紛れもなく自分をからかっているのだと分かったからだ。
それを理解している達也一行のメンバーも真由美を哀れむ。
「…会長、羨ましい…」
「雫!?しっかりして!?」
一部本気で羨ましがる者もいたが。
そんなこんなで始まった試合だが、解説する事などない。得点有効エリアに入った途端に真由美によりターゲットが破壊される。駆け引きなどありもしない圧勝だ。
『九校戦本戦、予選 第一高校三年七草真由美 結果:パーフェクト』
「流石エルフィンスナイパーですね」
「本人はその称号を嫌っているようだがな」
「お兄様、今の魔法はドライアイスの亜音速弾ですよね?」
「よく分かったな、深雪」
「キャー!会長かっこいいー!こっち向いてー!(ダミ声)」
相変わらずうるさい総司を放っておいて達也はメンバーに真由美が何をしたのかの解説を行いながら摩利の試合を見るためバトル・ボードの会場に向かう。
全員が座れる場所を確保し腰を下ろすとほのかがふと不満そうに声を上げた。
「そう言えば深雪や雫は二種目とも達也さんに担当してもらえるんですよね…なのに私は一つだけ…ズルいです」
「バトル・ボードは他の二種目と時間が重なっているからね。ほのかにはすまないと思っているよ」
「いえ、達也さんに謝って欲しい訳じゃないんです…」
「すまない…」
「総司さんはなんで謝ったんですか?」
達也の謝罪にほのかは自身の八つ当たりであることを自覚して謝罪する必要はないと返答する。いつの間にか追いついていた総司が謝った理由は分かってない。
「…どうやら、ウチの先輩方には妙なファンが多いようだな」
「あんなのの何処がいいのかしら…」
「顔」
「ストレート過ぎないかい?」
達也が摩利に目を向けると先程の真由美のように最前列にたむろするファンで賑わっていた。エリカはどうやら摩利の事が苦手なようで悪態をつく。それにシンプルな返答をした総司に思わず幹比古が突っ込んだ。なお、摩利のファンとおぼしき集団は真由美よりも女子の比率が多い。あながち総司の意見は間違っていないし、なんなら正解まであった。
「…総司君は委員長みたいな人がタイプなの?」
「ないな、あんな横暴女。学校じゃ雫ちゃんが一番タイプだよ」
「総司君…!」
まるでバカップルのようなやりとりを始めた総司と雫に一同がまたか…と呆れる。
「さて、俺は行かなきゃな」
そう言って立ち上がる総司。よく見ると先程と格好が違う。頭にハチマキをしていることは同じだが、応援団長のような学ランではなく、一昔前の夏祭りで着られたような法被を纏っていた…所謂オタクモードである。
しかもサイリウムも完備してあり隙がない。
「ちょっと、さっきあんな女ないとか言ってたじゃない!」
「ああ、ない。だが
そう言った総司は最前席の当たりまで向かい、美しいオタ芸を披露し始めた。
しばらくしてレースが開始し、達也は視界にチラチラ映る総司を邪魔に思いつつも、摩利の技量に感嘆していた。
「移動魔法と硬化魔法のマルチキャスト…それに振動魔法か。加速魔法を含め、常時三から四種類の魔法を同時展開とはな…」
手放しの達也の賞賛に摩利が苦手なエリカは面白くない顔をする。
その後の摩利の妨害を兼ねた加速でのぶっちぎりのゴールインにも達也は賞賛を送る。
「渡辺委員長は戦術家な一面もあるのか…」
「あんなの性格が悪いだけよ」
「…!」
エリカは相変わらず摩利に憎まれ口を叩く。咎めようとした者もいたが、視界に映る高速オタ芸をする総司に気が散ってうまく言葉が出なかった。
次の真由美と摩利の出番までには時間がある。此処で達也と総司は一行から離れて行動すると言い出す。他の面々は若干不満そうで、特に深雪と雫が不機嫌であった。だがそんな理由だけでキャンセルできる用でもなかったため、二人は謝罪と共にその場を後にした。
その後達也はホテルの一室にいた。そこには達也の他に大人の男性が四人、若い女性が同席していた。
そのメンバーは軍の『独立魔装大隊』に所属する手練れ達だ。
そのメンバーとしばし談笑していた達也はふと尋ねる。
「少佐、そう言えば、昨夜この施設に賊が入ったと聞きましたが…」
「耳が早いな、その通りだ。以前にも話した『
「闇夜に紛れての襲撃とのことですが、一瞬で捕らえられたと聞きます。何故なのでしょうか?」
達也は昨夜、総司からのカミングアウトを受けて珍しく疲弊していたため早めに睡眠を取っていたのだ。故に賊がどうたらの経緯を知らない。
するとその質問には若干顔を赤らめた女性…藤林響子が恥ずかしそうに答える。
「実は閣下がね?総司君が狙われる危険性を考慮して多数の護衛を施設に配置していたの。本来無頭竜を警戒してた訳ではないんだけどね」
まるで身内が恥をさらしているかのような羞恥に追い込まれている響子。それはそうだろう。殺しても死なないような総司に護衛を付けるなど愚の骨頂、人員の無駄遣いである。この護衛は過保護気味な烈が用意した者達だ。因みに達也だけではなく、独立魔装大隊の面々も総司の実力は伝え聞いている。事実この報告を受けたときは響子程ではなくとも呆れていた、つまり総司の実力を正しく認識しているのだ。
「…そう言えばさっき、いつもの集まりから総司が席を外したんですが何か知りませんか?」
「…多分閣下がVIPルームに招待したんだと思う。閣下は毎年連れてきていたから」
「本当に自分の子供みたいに扱っているんですね…」
「あの子は閣下が育てたようなものだからね…」
そんな会話がホテルでされていた頃、スピード・シューティングにあるVIPルームにおいて、二人の人間が会場を見下ろしていた。
「ふむ…磨けば光る才能を持つ者も少なくはないが…やはりこの競技は七草の長女が完勝するだろうな」
「そりゃあんな力技、妨害もクソもねえよ。知覚魔法があるだけでここまで違うってのもなあ…」
その二人とは魔法界の重鎮、九島烈と我らが主人公橘総司だった。
「ところで、この間の賊は大丈夫だったのか?」
「問題なし、ボッコボコにしてやったぜ」
「ふむ…そうか」
烈は何か思案顔になるとしばらくしてから口を開く。
「…昨夜、賊が君の泊まっているホテルの敷地内に侵入してきた」
「…また伝統派か?わざわざご苦労なこった」
「いや、無頭竜という組織の者だったそうだ」
「なんじゃそりゃ」
全く聞き覚えのない名前に驚愕する総司。
「無頭竜とは香港系国際犯罪シンジケートだ。魔法を悪用する、以前のブランシュ如きとは比べものにならん相手だ」
「ふーん…」
「…」
「…」
「…言いたいことは分かるぞ、総司」
「…魔法使ってこようが来まいが結局ほぼ俺には関係なくないか?」
「念のために教えた。君なら出会い頭に潰してしまえるだろうがな」
はっはっは!と快活な笑い声が二つ。この二人には余裕の表情が見られていた。
「ああ、そうだ。会場中で精霊達が騒いでる。もしかすると精霊魔法の類いが仕掛けられているかもだ」
「なるほど…他にも敵がいると言うことか?」
「それは分かんない。けど、香港系の犯罪組織がこっちに手出ししてきたんだろ?なら大陸系の魔法を使ってくる可能性もあるぜ」
「全く…古式の魔法にばかり知識を割きおって…君の落第を私の権力で牽制していることに気づいていない訳ではなかろう」
「感謝感激雨あられ」
「困った小僧だな…」
そう烈は言うが顔には笑みが浮かんでいる。それは端から見れば、おじいちゃんと孫の中の睦まじい会話に見えていた。
魔法科世界の秘匿通信
・総司は古式魔法の知識は幹比古より多かったりする
・総司が最下位トリプルスコアを取っても退学にならないのは九島が一高に圧力をかけているから
烈爺の口調よう分からんな…次回から面白くなっていくんじゃないかと思います(未来の自分に思いをはせながら)
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
-
いいともー!
-
駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~