九校戦三日目!男女アイスピラーズ・ブレイクと男女バトル・ボードの本戦決勝が行われるこの日は、九校戦前半の山場でもある。
「服部副会長が男子第一レース、渡辺委員長が女子第二レース、千代田先輩が女子第一試合で十文字会頭が男子第三試合か…」
組み合わせ表の前で達也は頭を悩ませていた。この四人の中で親しい間柄と言えるのは自身の所属する風紀委員のトップである摩利、そして総司に手を焼かされていると言う共通点がある範蔵だ。ここだけを見ればバトル・ボードを見ることが確定しているようなものだが、今後の参考にするためピラーズ・ブレイクを深雪と見ると言う選択肢がある。正直に言ってどちらに行こうとも達也としては構わない。
深雪に聞いてみようか…そう思った達也だったが
「やあ、達也君」
「…委員長」
そこには先程から名前の挙がっている人物の一人、渡辺摩利が立っていた。
「勿論君は、私のレースを見てくれるんだよな?」
「…はい」
哀れ達也。先輩の圧力により今日の予定は決定してしまった。しかし、声音とは正反対に摩利の顔色は優れない。
「委員長、体調が悪いのでは無いですか?顔色が宜しくないようですが…」
「ああ…いやなに、総司にちょっとな」
「総司が何か?」
摩利から出てきた名前に驚愕する達也。まさか摩利の表情の原因が総司にあるとは、あの男はふざけているが摩利と二人の仲はからかう後輩とからかわれる先輩と言ったものであり、決して悪いものではなかったはずだ。
「総司がな、『摩利さん、今回のレースは気をつけてください。俺も見に行きますんで』と言ってきたんだ」
「…それの何処が悪いのですか?単に委員長のお体を心配しての発言では…」
「そこだよ」
「と、言いますと?」
「アイツだって私の実力は知ってるはずだ。自惚れではないが、今回のレースは七高の選手以外相手にならん」
「でしょうね。この会場の大半はそう思っているはずです」
「そんな私に『気を付けろ』だぞ?あの総司が」
「…確かにそれは奇妙ですね」
総司はその高い戦闘力の影響か、他人の実力をある程度察する事が出来る。彼には摩利が負ける可能性は低いことも、ましてや
「恐らく私よりも仲が良い十文字の試合すら見ないつもりだぞ奴は」
「そこまでですか…」
最早この数ヶ月で克人と総司が仲が良い事など知る人ぞ知る事実だ。流石に摩利でも克人ほど仲が良い訳では無い。
「自分も委員長の試合を見させていただきます。少々不安になってきたので」
「不安にならなくても見に来てくれよ?」
「勿論そのつもりでしたから」
そう言って二人は別れた。
時間は飛んで女子バトル・ボード第二レース前。
範蔵の試合から引き続き観戦している達也は総司がやけにソワソワしている事にやはり何かが起こるのだと当たりを付けた。
確かに先程範蔵の試合からソワソワはしていたが、摩利の番だと特段不安になっているようで、レース開始前だというのにゴール前の競り合いでも見ているかのように緊張している様子だった。
「そんな顔してどうしたんだ、総司?」
「達也…それは、」
総司が言いかけた時、スタートのブザーが鳴ってしまう。一斉にスタートする選手達。準決勝であるこのレースからは参加人数が五人から三人になるため、摩利の姿がよく見える。
「渡辺先輩についていってる!?」
「さすがは『海の七高』」
「去年の決勝カードですよねこれ?」
摩利と七高の選手の競り合いに達也一行を含めた会場中から興奮と驚愕の声があがっている。そんな中、総司は七高の選手のCADを見て顔を青くし、勢いよく立ち上がった。
「マズい!」
「ど、どうしたの?総司君」
明らかに様子がおかしい総司を心配する雫。しかし、総司は焦りのあまり、返事をすることはなく叫ぶ。
「七高の選手のCAD…精霊による妨害術式が入れられてる!このままだと多分事故を起こすぞ!」
「なんだって!?」
総司の言葉にならい、達也も『精霊の眼』で七高のCADを確認する。すると確かに精霊による術式が入っているのが分かった。
そしてコーナーに掛かったところで…
「あっ!?」
「オーバースピード!?」
「畜生やっぱりか!」
七高の選手は明らかにバランスを失い、自分の動きを制御できていない様子だ。このままではコーナーを曲がりきれずにフェンスに突っ込んでしまうだろう…前方に摩利がいることを考慮しなければ。
このままでは摩利と激突してしまう…
「危ない!」
「…!」
だがそこは一高三巨頭の一角、渡辺摩利と言ったところか。後方の異常に気づいた摩利は即座に受け止める体制に入った…が、その足下が不自然に沈みこみ、摩利までもが体制を崩した…
会場にはゴウッ!と爆風と水飛沫が広がった。爆風は達也達がいた席から、水飛沫は今にも激突しそうだった摩利と七高の選手がいたところからだ。
気づいたときにはコース内にもフェンスのそばにも二人の姿は見えない。
コレにはさすがの達也も戸惑いを隠せない。そんな達也に影が掛かった。それに釣られ上を向く達也。そこで彼が見たのは…
二人の選手を抱えて空中に浮かんでいる総司の姿だった。
正確にはこの表現は正しくない。総司はただただ跳躍しただけであり、浮いているより跳び上がっているといった表現が適切だ。
総司はそのままコース外に着地して二人を下ろす。ここで総司が二人を助けた事に気づいた者が大半だった。会場は一瞬静まりかえり、直後総司に拍手が贈られた。
「私は…無事なのか?」
「大丈夫っすか?摩利さん」
「総司…お前は一体…?」
「すいません、話は後で」
総司はやって来たスタッフ達に二人を念の為医務室へと連れて行くように言った後、どこかに行ってしまった…
数十分後…ホテルのVIPルームの一つにて。先程バトル・ボード会場から姿を消していた総司とその保護者にして『世界最巧の魔法師』九島烈がいた。
「総司、聞いたぞ。事故が起こる前に選手達を救出したようじゃないか。警備長が感謝状を渡したいとまで言っていたよ」
「感謝状て…警察じゃないんだから」
相変わらずこの二人は家族のように接している。総司から見れば事実育ての親も同義なのでその認識は間違ってはいないのだろうが。
「して…その事件において、精霊による妨害を受けた選手がいたそうだな?」
「ああ。恐らくターゲットは七高の選手…に見せかけた摩利先輩だろうな。七高の選手だけが狙われていたとすれば摩利さんを妨害する必要は無かったはずだ」
「ふむ…事故に見せかけるのに都合がよかったからその渡辺選手にも妨害を仕掛けた、というのもあるのではないか?」
「確かに…でも、前回優勝したのは摩利先輩だ。去年の雪辱、みたいな理由なら尚更摩利先輩を狙うだろ?」
「では渡辺選手のCADに直接妨害術式を仕込めばよいのではないか?」
「そこなんだよな。なんで相手は摩利先輩に直接ではなくー、そ、そうか…!?」
「何か分かったのか?」
「ああ、完全に理解したぜ!」
向かいあうソファから立ち上がり、対面の烈にいかにも『謎は解けた!』という顔で総司はこう言った。
「相手は摩利先輩に直接の妨害を仕込むことが出来ない理由があったんだ!」
「ほう?その理由とは?」
「それは…俺だ」
「ほう…」
目線で続きを催促する烈。
「相手は恐らく、俺の異能を知っているんじゃないか?だとすると摩利先輩に対して間接的になるのもうなずける!」
「なるほど…もし総司と渡辺選手がレース前に接触していれば、事前に気づいたお前に妨害術式を無効化されてしまう…その事から、お前と遭遇しないであろう敵選手を狙ったと」
「ああ、そして俺の異能を知っているのは俺の友人達、九島家、そして…」
総司はまるで事件解決の時の探偵のような気持ちで叫ぶ。
「敵は…
総司の顔には『これで決まりだ!』という文字が浮かんで見えるようだった。
魔法科世界の秘匿通信
・ぶっちゃけジード・ヘイグも総司を危険視しているため、無頭竜特に日本支部には全首領のヘイグからの忠告が行き届いている。
・摩利はこの後目立った外傷やダメージは無く競技続行可能だとして再走が行われた。またこの時七高の選手がオーバースピードで失格となっていたのでライバルがいなくなった摩利が優勝した。
ついでに範蔵も優勝した。
総司、お前は何を言っているんだ…?今回の事故未遂、ご存じの通り無頭竜のせいです。ですが
・古式(精霊)魔法を使う
・総司の異能を知っている可能性が高い
以上二つの理由から総司は相手が伝統派であると当たりを付けました。事実一度敷地内に潜り込まれていますからね…
因みに今回の選手達は、摩利さんについては怪我が無ければそもそも優勝していたでしょうし、範蔵君も原作通り調子が悪いですが、本作において彼は原作のカノープスレベルに強いのでそこらの学生ではぶっちゃけ相手にもなりません。
摩利さんが剣を使わなければ普通にウチの範蔵君勝ちますし…
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~