九校戦も五日目、新人戦二日目の今日は深雪、雫、エイミィ達が出場する新人戦男女アイス・ピラーズ・ブレイクの三回戦までと、総司が出場する新人戦男女クラウド・ボールの決勝までが行われる。この内、達也はアイス・ピラーズ・ブレイクのエンジニアであるため、朝一で会場入りをした。
初戦に出場したのはエイミィ。昨日の興奮冷めやらぬ様子で、安眠できていなかったとのことで一回戦をほぼ無傷で突破した後に試合前に申請したカプセルベッドの中で寝た。
そしてすっ飛ばして第五戦目。
「雫、その格好で出るのか?」
「そうだけど?どう、総司君。似合うかな?」
「えあ、京都の人のそれも遠く及ばない程似合っているぞ」
『氷倒し』はルール上、好きな服装での出場が許可されている。ほぼファッションショーのようなものだ。事実先程のエイミィも乗馬師のような服装でガンアクションのパフォーマンスをしていた。故に、雫もそれに相違なく気合の入った服を着たのだが…
「振袖は袖が邪魔にならないか?」
「襷を使うから大丈夫だよ」
「すまない雫ちゃん。今の君の姿を独り占めしたい気分なんだ。悪いが他の格好で出てくれないか?」
「達也さんがいる時点で独り占めできてないよ」
「殺すか…」
「そんな理由で殺されてたまるか」
そんなこんなでじゃれ合っていると、雫の出番がやって来た。この間、達也はCADの調整を念入りにしていたので機能不全などを起こすことはないだろう。
「そろそろ時間だな」
「雫ちゃん、頑張っておいで」
「うん、行ってきます」
二人に送り出され、雫は力強く櫓へと登っていった。
一方その頃、客席では…
「深雪、達也さんのところにいなくて良いの?」
「ピラーズ・ブレイクは個人戦ですもの。雫と私はいつか戦うときが来るのだから、手の内を見るのはフェアじゃ無いわ」
深雪の横顔を見ながら、ほのかは深雪と達也を初めて見た日のことを思い出していた。元々雫と二人で競い合っていたほのか。二人の才能も相まって、当時は周囲に彼女達以上の才能の魔法師はそうおらず、いたとしてもいつかは超えられると思える程度の差だったのだ。
しかし、深雪に対しては初めて敵わないだろうと思わされた相手だ。入試のあの時、深雪の圧倒的な魔法力に、嫉妬することすら馬鹿らしいほどの異次元の才能に見惚れたときのことを。
そして、彼女が好意を寄せる
「ほのか、私の顔に何か付いてるのかしら?」
「いや、なんでもないよ」
見つめられていることに気づいた深雪がほのかに問うがほのかは適当にはぐらかす。ほのかはこの気持ちが明確に、
ついでにもう一方、一高天幕内にて。
「いよいよ北山の出番か」
「今回は汎用型のCADみたいね。一見普通だわ。今度はどんな奇策を用意しているのかしら」
「いや、ここであえての正攻法かもしれん」
真由美と摩利が話しているのを、端で聞いていた鈴音は一人、「あえても何もありませんよ…」と後輩の悪巧みを楽しみにする先輩としての二人に若干呆れていた。
「む、北山は振り袖か」
「そう言えば今年は少なかったわね」
櫓が上がってきて、雫の服装が目に入ると二人はそんな感想をこぼした。達也は驚いていたが、例年この競技で振袖を着てくる選手はそう少なくない。むしろ今年が少ないと三年である故に前回、前々回と経験している二人にはさしもの驚きも無かった。
そして開始のブザーが鳴った瞬間、雫の相手陣地の一本が砕け散り、雫の陣地には守りが付与された。
「おっ、これはまた随分と正直な戦い方だ」
「摩利の予想通りの正攻法みたいね」
雫の攻め方に反応を示す二人。するとモニターの向こう側で敵陣の氷柱が三本まとめて砕け散った。
「真由美、今のが何か分かるか?」
「正確には分からないけれど、多分共振破壊を応用したものね。周波数を無段階に変更する振動魔法を敵陣の地面に仕掛けて、柱と共鳴が生じたところで振動数を固定、一気に出力を上げて共振状態を作り出したんじゃないかしら」
「なるほど…対抗魔法を避けるために柱に直接魔法を仕掛けるのではなく、地面を媒介として使ったか。同じ地面を媒体とする魔法でも花音の地雷原と比べると高度に技術的だな…」
二人が考察を深めている間に、雫の勝利が確定していた。
「勝った」
「そうだな」
「余裕だったな雫ちゃん」
櫓から降りてきた雫が端的な結果を言ったため、達也と総司も端的に返す。
「達也さんのおかげで楽が出来てる」
「雫の実力なら俺が担当しなくても勝てるだろ」
「『苦労して』勝つのと『楽に』勝つのとでは体力的にも精神的にも違いがある。勝てたとして、楽が出来たのはお前のおかげらしい。素直に賞賛として受け取っておけこの捻くれシスコンが」
「誰が捻くれだ。…だが、そうだな。その言葉、ありがたく受け取るよ、雫」
ピラーズ・ブレイク一回戦最終試合。つまり深雪が試合をする時間帯だが、その客席にはいつものメンツは達也しかいなかった。理由は一つ。まもなく総司の試合が始まるからだ。ピラーズ・ブレイクは決勝トーナメントは明日行うのに対し、クラウド・ボールは一日で競技を終わらせてしまう。つまり深雪を観戦すると、総司の試合を見ることが出来ないのだ。総司本人は「見に来なくて良いよ」と言ってそのまま会場に向かったのだが、その後に深雪が「総司君の方へ行ってあげて」と言った為に、エンジニアである達也以外はクラウド・ボールの会場に来ていた。
「次の試合の選手って二科生なんでしょ?」
「一高一年男子は今年はあまりパッとしないし人手不足なんでしょ」
「…」
今から出場する総司に対する周囲の評価を聞いてしまった雫の機嫌は現在直角降だ。凄く機嫌が悪い。達也を馬鹿にされたときの深雪をも凌ぐ迫力があった。
「みんなして総司君を馬鹿にして…!」
「雫抑えて!」
「雫さんは総司さんのこととなると完全に別人になりますよね…」
「そうだね。僕もファーストコンタクトの時は驚いたよ…」
今にも悪口を言った観客に魔法を撃ちかねない雫を必死になだめるほのかを見ながら美月と幹比古が所感を述べる。
そんな中、ここ三高本部天幕ではクラウド・ボールを映すモニター前に腕組みをしてたたずむ男が一人…十師族が一つ、一条家の長男にして次期当主。一条将輝である。彼は以前の懇親会で深雪に一目惚れしていたはずだ。何故彼女の試合を映すだろうピラーズ・ブレイクではなくクラウド・ボールを見ているのか。その事が気になって仕方なかった彼の親友、吉祥寺真紅郎は彼に尋ねた。
「将輝、もう直ぐ司波さんの試合が始まるけど見なくて良いの?」
「ああ、何というか、このクラウドには嫌な予感がしていてな」
「嫌な予感?」
「ああ…この競技に出てくる化け物…それは俺のせいで驚異的になったのではないかとな…」
「化け物?驚異的?誰のことだい?そんな選手はマークされていないけど…」
「直感だよ、あくまでな」
そう苦い顔で将輝はモニターへと顔を戻した。
場所は戻ってクラウド・ボール会場。次の試合が総司の初陣であるとなってから雫がやたらとソワソワし始めた。別に彼女は総司が心配な訳ではない。試合が長引いてしまうと、雫が二回戦目に間に合わないからだ。因みに総司の試合の観戦を中断して試合に出る、という考えは雫の頭にはない。
「!来た!」
「総司さんの試合が始まります!」
そして運命の時。コート内に総司が入場してきた。相手は四高の選手だ。あちら側の選手やエンジニア、そして周囲の観客はこの試合を『すぐに終わる試合』だと認識している。事実対戦相手は『楽な相手だ』とニヤニヤする始末。この状況に雫は再び頭に血が上るが、総司に迷惑だと思い自重して、席に座る。
だが四高の選手は余裕のあまり総司を煽りだした。
「おいおい、二科生さんよ。恥かく前に降参したらどうだ?降参したら十文字さんにボコボコだろうがな!ははは!」
この手の輩は大体アホだ。そもそも懇親会の時にあの九島烈との関係を匂わせていたと言うことをすっかり忘れているようだ。そして総司はこれに反論する。
「俺はカツ食べに来た…(俺は勝つために来た…)」
「は?」
おや?総司の様子が?
「俺の超攻撃的防衛省(フォーメーション)でお前を本ロース売る(翻弄する)。お前農薬チェリーパイ(の行く手には)、果てしない着せ替えgirl(世界がある)事を教えてやるぜ」
「何言ってんだお前?」
どこかのテニス作品のように滑舌と空耳がエグいことになっている総司。四高の選手もこれには困惑するが、ただのこけおどしだと高をくくり、コートに入る。
そして開始のブザーが鳴り、一球目のボールがコートに入った瞬間…!
ズバババン!
と音が響く。会場にいた者も、モニターで見ていた者も。そして対戦相手でさえも理解に数秒を要した。そして気づく。
モニターに映る総司の得点が
「…は?」
「猫駆除(下剋上)だぜ~♪通☆風☆性(潰せ)♪」
謎の歌を歌いながら眼にもとまらぬ動きをしている総司。なんならばその歌声しか聞こえず、
目の前で魔法が発動している痕跡はない。強いて言うならば簡単な硬化魔法が発動している位だ。それ以外の魔法を四高選手は認識できない。
「…ふざけやがって!」
怒り心頭となったか四高選手は二人のコートの中間に位置するネットの上に魔法障壁を貼る。『ダブル・バウンド』。先日の女子本戦において七草真由美がこれを使った完封戦術で優勝を収めている魔法だ。実際にはそこまでの結果をだすためには類い希なる干渉力と、集中力、魔法を維持し続けられるだけの
ババババン!
「…えっ?」
相手が総司でなければだが。
四高選手が貼った『ダブル・バウンド』の魔法が一瞬で消えたかと思うと、総司は先程と全く変わらぬペースでボールを打ち続けている。四高選手は魔法干渉力によって一時的に無効化されただけと判断し、もう一度貼り直す…瞬間に再び消える魔法。四高選手には最早何が何だか分からなくなっていた。
ここで皆さんは総司の異能について覚えているだろうか。『エイドスの正常化』という性質を持つ総司の異能は、総司に偶発的に宿った力であり、総司本人もその全てを把握している訳ではない。この異能、実は本人との接触だけでは無く、
聡明な方はもうお気づきだろう。
ボールを打つにはボールに
四高選手の魔法は既に封じられたも同然だ。事実手を変えてボールをギリギリ捉えた上で移動魔法や加速魔法を発動している四高選手だが、ボールには総司の異能が乗っかっているとも言える状態だ。接触した魔法を無効化出来るのに、直接干渉してきた魔法を無効化できない道理はない。四高選手は最早身体能力で総司と勝負しなければならない。
そして総司の身体能力は異常だ。仮に魔法でバフを掛けたところで威力が高すぎて打ち合いにもならない。四高選手は、ボールが追加されても変わらぬペースで打ち続ける総司を前にして、膝から崩れ落ちる。
そして第一セット終了。スコア…
13829対0、頭のネジが吹っ飛んでいるとも言える点差に、最早四高選手に勝ち目は無かった…
だがスポーツマンとしての四高選手のプライドはまだくじけていなかった。あれほどの動きをすれば疲れてもう動けないだろうと考えたのだ。点差をひっくり返すのは困難だが、可能性が無い訳では…そう思った四高選手の耳に衝撃の言葉が飛んでくる。
「あと100玄米(ゲーム)はいけるね」
「…っあ」
100ゲームは。などといいつつ全く汗をかいた様子も無く余裕の総司に、四高選手にはもう、戦う戦意など残ってはいなかった…
最終的に、この試合は休憩時間終了を待たずに四高側の降参により総司が勝利を収めた。
魔法科世界の秘匿通信
・原作においてピラーズ・ブレイクの裏で行われていたはずのクラウド・ボールの日程がよく分からなかったので、ピラーズと時間が若干被っていることにした。
・一条将輝と総司に面識はないが、将輝が言った『俺が生んでしまった…』という言葉はあながち間違いではない。
上であながち間違いではないとかかっこよさげに言ってますが、あの台詞は単なるメタ発言です。
そもそも本来総司君に『エイドス正常化』の異能を付ける予定はありませんでした。総司君は外皮は硬いが魔法抵抗力が低い。でも速く動くからそもそも当たらない。というキャラにするつもりでした。
そのうえで一撃で殺しうる達也の『分解』や深雪の『コキュートス』などには負けるような強さ設定のはずでした。司波兄妹にしか負けない感じで。
でもそれだと内部に干渉してくる『爆裂』を防げない事に気づいた結果、対策として異能がつけられ、そこから達也や深雪すら上回る戦闘力を保有しているという設定になったという経緯からの発言です。
何げ将輝君本作初台詞
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