(原作乖離は)大っ嫌いだ!と言う方はどうぞブラウザバックを推奨いたします。それでも構わない、(表現の)道が広いでは無いか…行け。と言ってくださる方のみご覧ください。
九校戦六日目、この日は新人戦男女ピラーズ・ブレイクでの決勝までが行われる。現在、達也は雫の試合があるため控え室まで移動をしていた。だがその途中の廊下で達也の前に二人の三高生が立ち塞がるように立っていた。
「三高一年、一条将輝だ」
「同じく、吉祥寺真紅郎です」
「一高一年、司波達也だ。それで、『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』が、一体何の用だ」
達也は目の前の二人に切れ長の目を尖らせて睨み付ける。それに真紅郎は怯んだように後ずさる。しかし将輝は十師族の貫禄だろうか、全くの動揺を見せていない。
「俺だけじゃなく、ジョージの事も知っているのか」
「『しば たつや』…聞いた事ない名前ですね。ですが二度と忘れる事は無いでしょう。九校戦始まって以来の天才エンジニアがどんな人間なのか、試合前に失礼かと思いましたが、その顔を見に来ました」
「弱冠十三歳で基本コードの一つを発見した天才少年に『天才』と称されるのは恐縮だが、確かに非常識だな」
真紅郎は失礼か、と言っただけだが達也は非常識だと言い換え、言外に二人を非難した。
「…プリンス、そろそろ試合じゃないのか」
達也がそう指摘する。どうやらもう話す気が無いようだ。
「僕達は明日のモノリス・コードに出場します。君は如何なんですか?」
「そっちは担当しない」
「そうですか。いずれ君とは戦ってみたいですね。もちろん勝つのは僕達ですが」
真紅郎の安い挑発に達也は一切の興味を示さない。そもそも今回のモノリスでも勝てると思っている時点で総司に完敗するだけだと思ったからだ。
そこでふと真紅郎は達也に質問をする。
「そう言えばあのクラウド優勝者の橘君はどこにいるのですか?今から試合の北山さんの応援に控え室によく来ていると目撃証言があったのですが…」
「何故総司まで気に掛ける?」
「あそこまでの驚異的な身体能力を持つだけでも興味深いですし、そもそも今回のモノリスで彼と当たるのでね。欲を言えば彼も偵察したかったのですが…」
「総司がどんな奴なのかはすぐに分かると思うぞ」
「ほう?何故だ?」
「…すぐに分かると言った」
そう言って歩き始める達也。将輝と真紅郎は達也の言葉の意味が分からず彼を目で追いかけ…そしてその意味を即座に理解した。
「……」ジーっ
「「…!?」」
目で達也を追いかけたその先には…
達也の背中にしがみついている総司がこちらをジッと見つめているのが見えたのだ!
あまりの光景に言葉も出ない二人。そのまま達也の背中に張り付いたまま達也の動きに合わせて遠ざかる総司。この間総司は一言も話していない。そして達也が角で曲がり、総司の姿も見えなくなるまで総司は二人を見つめ続けたのだった…
「…確かにすぐに分かったな…」
「ああいう性格の人間は総じて厄介だからね…」
衝撃影像を見せられた二人はどこか疲れた表情で呟いた。
雫が対戦相手に無双し、深雪が圧倒的な力の差を見せつけ、エイミィが辛くも相手を下した時、別会場ではバトル・ボードにおいてほのかの決勝レースが行われていたのだが…この辺りは原作と相違ないため省略せていただく。
ミーティングルームに呼ばれた達也と無断で付いてきた総司が到着した時、室内に深雪、雫、エイミィが居るのを確認し、二人は自身を呼んだ(呼んでない)人物に向き直る。
「時間が余裕がある訳ではないので手短に言います」
ここに居る人達を一人除いて呼んだのは真由美。真由美の口からは衝撃の提案が飛んできた。
「決勝リーグを同一高で独占するのは今回が初めてです。その初の快挙に対して大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関わらず当校に与えられるポイントの合計は同じになりますから、決勝リーグを行わず、三人を同率優勝にしてはどうか。との事です」
三人は顔を見合わせる。
「時間はあまりありませんので出来ればこの場で決めてください」
そんな真由美の言葉にエイミィが露骨に視線を泳がせる。彼女自身、自分の実力では深雪にも雫にも勝てない事は分かっているし、そもそも直前の試合で彼女の疲労は軽視できるものでは無かった。
先程まで三位で十分だと思っていたところに、同率でも優勝の可能性が出てきたとなれば、欲が出るのも無理は無い。
「達也君、貴方の意見を聞いてもいいかしら?ついでに総司君も。三人同時ともなると達也君の負担も大きくなるしやりづらいでしょう」
「正直に言いますと、明智さんはこれ以上の試合を避けた方が良いコンディションですね。三回戦は激闘でしたし、あと一、二時間で回復するとは思えません」
「俺はやってもいいと思うけどね。俺がただの観客だったら決勝やらないなんて気落ちどころの話じゃ無いし」
真由美の言葉にすぐに反応する二人。
「あの、私は今のお話を伺う前から棄権でもいいと思ってました。体調が良くないのは事実ですし、達也さんに相談して決めようと…彼は私よりも私のコンディションが分かってますから」
エイミィが辞退を表明するが、雫は違うようだ。彼女の目はずっと深雪に向いている。
「私は…戦いたいです。深雪と本気で競えるチャンスなんてこの先何回あるか…私はこれを逃したくは無いです」
「そうですか…深雪さんは如何したいですか?」
「北山さんが私との試合を望むのなら私にお断りする理由はありません」
「…では、大会委員には明智さんは棄権、深雪さんと北山さんで決勝戦を行うようにすると伝えておきます」
その言葉を聞いて真っ先に部屋を出たのは達也。その背中に続くように、深雪と雫が真由美にお辞儀をし、慌ててエイミィが「失礼します」と言って頭を下げ、総司が「バイバーイ」と言って手を振った。総司は真由美に蹴られた。
観客席は超満員。二人のCADを調整し終えた達也は深雪にも雫にもつく事なく、関係者席の最後列に席を取っていた。彼の両隣には真由美と摩利の姿もある。
「本当は深雪さんの方につきたかったんじゃないの?」
人の悪い笑みを浮かべ真由美が意地悪く尋ねる
「別にそのような事はありませんが、出来れば一人で観戦したかったですね」
「何だ?私達が邪魔だって言いたいのか?」
「そうではありませんが、落ち着いて観戦したかったんですよ」
そうこうしている内に決勝戦開始のブザーが鳴り響く。
「始まりますね」
「そうだな…」
三人が真剣な表情となって試合を見る。
その試合は表面上は互角だ。深雪の操る『
「(届かない!流石は深雪!)」
雫も『共振破壊』を用いて攻撃を加えるが、やっとかっとで防御していた雫とは違い、深雪は余裕を持って防御が出来ていた。
「(だったら!)」
雫はCADをはめた左腕を右の袖口に突っ込んだ。引き抜いた手には拳銃型の特化型CADが握られていた。それこそ達也が雫に持たせた切り札。
「(二つのCADの同時操作!?雫貴女、それを会得していたの!?)」
雫の行動に深雪の心は驚愕に襲われた。二つのCADを同時操作するのは、彼女の兄がしれっとやっている故簡単そうに見えるが、実際はとても難度の高いテクニックだ。それを成功させているのだろう雫に、深雪は驚愕のあまり一瞬魔法を止めてしまった。
そこに雫の拳銃型CADから魔法が放たれる。
雫の新たな魔法に一番驚いたのは、深雪ではなく真由美だったのかもだ。関係者用の観客席で彼女は大声を上げる。
「『フォノンメーザー』っ!?」
「良くお分かりですね」
振動系魔法『フォノンメーザー』。超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法だ。達也が深雪を倒すために雫に授けた作戦だが、彼の表情は冴えなかった。
深雪が負けそうだからでは無い。結局この程度ではあの妹を凌駕する事は出来ないと分かってしまったからだ。
熱線化した超音波射撃を受けていた深雪が魔法を切り替えた。雫の攻撃が止まった訳ではないのに、氷の昇華が止まり、それを上回る冷却が作用し始める。
雫の陣地に向けて冷気の霧が押し寄せてくる…
「…『ニブルヘイム』だと…?何処の魔界だここは…」
摩利のうめき声が、達也と真由美の耳に届く。
広域冷却魔法『ニブルヘイム』。この術式は本来領域内の物質を比熱、フェーズに関わらず均質に冷却する魔法である。だが深雪が発動したのはその応用的な使い方だ。
真由美や摩利、観客の全て、そして達也までもが深雪の勝利を確信する。
「絶対に…負けない!」
雫はそう言ったかと思えば、特化型CADを落とす。そもそも雫はこのフォノンメーザーについて達也をあまり信頼していなかった。達也が深雪を倒せる、と言ったところで、彼が深雪に忖度する可能性を否定しきれなかったし、そうでなくとも、CAD同時操作
そこで彼女は、ある人物を頼ったのだ。今の自分が一番信頼している人物に…
「…あれは?」
驚愕する達也。CADを落とした後に即座に懐に手を伸ばした雫。その雫が持っていた物はー
「…雫ちゃん、使うのか」
雫側で呟く総司。彼が心配するのも無理は無い。雫が手に持つ札による魔法は使用者の消耗が非常に激しい事を、
「いくよ…総司君!」
雫が札にサイオンを送る。札は送られたサイオンに寸分の狂い無く魔法を発動する。
途端、雫側、深雪側の両陣地に風が吹き荒れる。その風に晒された二人の氷柱に変化は無い…変化したのは魔法だ。深雪が発動した『ニブルヘイム』の魔法が中断され、冷気もどこへ吹き飛んだ。
「アレはまさか…サイオン流か!?」
この風はただの風では無かった。サイオンを乗せた指向性のある風。それはまさに『神風』と言って差し支えないものだった。この風はかの『術式解体』と同じ効力を持つ。違いは『術式解体』が魔法式の全てを吹き飛ばすのに対し、この風は術式を『流して』グチャグチャにすることで魔法式を『意味のないもの』に変えるのだ。
「…!深雪!」
思わず叫ぶ達也。それはこの『神風』に動揺したというのもあるだろう。だがそこではない。会場全てが風に気を取られ、気づかなかった。上空に五芒星型の魔方陣が形成されている事に。『精霊の眼』を持っているが故に気づけた達也。しかし…全てが遅かったのだ。
深雪も達也に遅れて上空の魔方陣に気づく。しかし魔方陣は既に魔法を発動し終えていた。
魔方陣に仕込まれた魔法は空気中の水分を振動により摩擦帯電を起こし、超高熱の電気を生成する魔法と、物質の分裂により魔方陣周辺の空気中にプラスとマイナスの電荷を発生させる魔法の二つだ。つまるところ…この魔法は超高熱の雷を生み出す魔法であった。発生した『紫電』はまるで神の鉄槌かのような威容だ。
対抗して深雪が魔法を発動しようにも風で魔法式が崩されて情報強化もままならない。
やがて紫電が下に向かって、深雪の氷柱に向かって放たれる。
「…凄いわ、雫」
深雪の瞳には目の前の友人に対する賞賛が浮かんでいる。
「こんな魔法、一体何処で…?いや、今はどうでもいい。雫、頑張ったんだな」
そう呟く達也の視線の先には深雪の陣地。深雪の陣地にあった氷柱は放たれた紫電の高熱により、全てが融解していた…
2095年度、新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク優勝ー
北山雫
魔法科世界の秘匿通信
・総司が達也にしがみついていたのはたまたまそんな気分だったから。(そんな気分ってなんだ…?)
・オリジナル魔法が登場したが、これは九校戦前に北山家を訪れた際に作成を依頼されて総司が作ったものである。因みに書いてる途中で決めた。
雫ちゃん勝っちゃったよ…
元々は原作通り深雪に負けて、そこを総司が慰めるという展開にするつもりだったのですが、作者が雫ちゃんの泣き描写をしたくなかった為、後々に発現する予定だった才能をここでぶっ込みました。
はい、お分かりかもですがこの作品、台本も書き溜めも存在しません。全てがその場のノリと勢いで構成されています。そもそも番外編の予定である北山家訪問の理由付けができなかったのもあるんですよね。いくら雫ちゃんがバリバリに好意を見せていると言えども直球に家に誘う雫ちゃんは何か違う気がしたので。
と言うことで番外編はこの魔法の開発という名目で雫ちゃんが総司を自宅に連れ込む話です。
次回はオリジナル魔法の説明とモノリス1日目ですかね。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~