「総司君!」
「うおっ!?」
四高の違反行為により一高が二回戦目に勝利した後、一旦天幕に戻ってきた総司に雫が抱きつく。総司は先程の怒りは何処に行ったか、「雫ちゃんの抱きつき気持ちよすぎだろ…」と雫の柔らかさを堪能していた。そんなことはいざ知らず、雫の表情は悲壮なものだ。
「あんなに大きな崩落に巻き込まれて、大丈夫なの!?」
「大丈夫だ、問題ない。俺はここで死ぬ定めでは無いからな」
「いつも総司のやる事なす事に動じずに後方彼女面で頷いているのに今回は心配するのか?」
後から達也が続く。雫は後方彼女面と称された事に、「達也さん、そんな…私と総司君がお似合いだなんて…」と顔を赤らめながらクネクネしだした。雫には先程のような悲壮な表情はもう無い。総司に抱きついた事で彼の無事を確信したのだろう。
「試合はどうなるんだ?」
そんな雫をおいといて達也に問いかける総司。
「…さっきのは体外的に事故として処理されるようだ。すぐに三回戦が始まるだろう」
達也は若干の違和感を覚えながら総司の質問に答える。
達也は総司の雫に対する対応に違和感を覚えた。いつもなら聞き返したり、雫の言葉を違う意味で理解するような鈍感系主人公である彼であるが、今し方の雫の発言に総司は何の反応も示さない。というより、そう言った発言を
そして極めつけは総司の耳。達也に問いかけた時、つまり雫の呟きを聞いたときから彼の耳は薄く朱に染まっていた。
「これは…」と半ば確信めいたものを得る達也。
「(総司、とうとう雫の気持ちに気づいたのか…)」
その時の達也の総司を見る視線は親が子を見るかのようなものだった。ちなみにだが仮にこの場面を深雪が見ていたら『総司君は、お兄様と私の子供だった…?』と常人では到底考えられないような発想に至ったことだろう。それぐらい達也は親の顔をしていた。
「おいおい、運営の都合じゃ無いか。烈爺に言って叱って貰おう」
「それは可哀想だから止めておけ」
そんな視線に気づくこと無く先程の一件を事故で済ませた運営に文句を言う総司。その報復の手段がエゲツナイ事に達也はとりあえずツッコミを入れるが、その前に気になった事があった。
「…お前、もういいのか?」
「ん?何が?」
「さっき、お前凄く怒っていただろう?」
「あ~」
そう。先程総司は友人(と思っているのは現状総司だけ)である森崎達に危険を与えた事に激怒しビルを一つ崩壊させている。この余計な破壊のせいで先程の件が事故であるという隠蔽工作をやりやすくしてしまったのだがそれはおいといて。
総司の怒りは相当なものだった。今にも下手人を殺してしまいかねない程に。達也は、怒りで総司が四高の選手を殺してしまうのではないかと危惧していたのだ。
「その件なんだが、犯人は多分外部の奴だ」
「…ほう?あれは四高の違反行為ではないと?」
「ああ。ステージから出るときに精霊魔法の残影があってな。もしかすると女子バトル・ボードの時の七高みたいな一高への妨害工作だったのかもしれないんだ」
すると総司の携帯端末から通知が鳴る。確認した総司は顔を引き締める。
「噂をすればって奴だな。烈爺から連絡が来た」
「九島老師から?」
「あの人は昔から前線で戦ってた人だ。四高から借り受けたCADを見て貰うように頼んでたんだ」
「そもそも四高から借りられたのか?」
「精霊魔法を感知した時から四高に殺意は無かったんだが、向こうは知らない訳で。俺が選手達を殺しに来たと思ったみたいでな。殺さないから使用したCADを貸してくれ。って言ったらすんなり貸してくれたんだ」
「…なるほどな」
ビル一つ壊す男が自分達の目の前にやってくれば魔法師でもビビる。当時の光景を想像して達也は呆れ気味に納得した。
「それで?どんな魔法が使われてたんだ?」
「ちょっと待ってくれ…『電子金蚕』、電気信号に干渉してこれを改ざん、ありとあらゆる電子機器を狂わせ、ないし無力化させるSB魔法…。つながったな」
「『電子金蚕』か…聞いたことも無いな」
「達也でも無いのか?…どうやら大陸系の魔法みたいだな。あれ?それじゃ伝統派関係ないのか?」
総司は今この瞬間まで敵が伝統派だと勘違いしていたようだ。こういった場面でも鈍感を発動するのが、真の鈍感系主人公なのかもしれない。
「…大陸系なら、敵は『無頭竜』なんじゃないのか?」
達也は以前から無頭竜が何かしら動いている事を知っており、この九校戦を狙っていることを独立魔装大隊の面々から聞いていた為、この妨害が無頭竜によるものだと考えた。
「『無頭竜』?そういやそんな名前烈爺から聞いてたな…達也は響子さん辺りから聞かされたのか?」
総司が何気なく言い放った言葉。それを達也は無視することが出来なかった。
「…
「…ヒュッ」
達也の問いかけに顔を青くして息を呑む総司。それもそのはずだ。達也と響子…藤林少尉は独立魔装大隊での同僚ではあるが、独立魔装大隊のことは世間には広く知られている訳も無いし、そもそも達也が大黒竜也特尉として軍で活動していることは機密事項だ。
だが総司は達也と響子の間に交流がある事を確信しているかのような発言だった。響子が総司を知っていたように総司が響子を知っていること自体には疑問は無い。彼女は九島家の人間の一人だ。総司とも関係あるだろう。だが、ここで達也と響子を結びつけることは総司には不可能なはずだ。『
つまり、総司は何かしらの情報網で達也と響子の繋がり…達也が軍属である事を知っていると言うことだ。そしてそれを知っていると言うことは最悪、達也が『トーラス・シルバー』である事(厳密には彼だけでは無いが)、四葉家の人間である事も知っているかもしれないということだ。
「ま、まあまあまあ。それは今はおいておこう。敵の話だ」
「…そうだな」
達也は言いながら総司を睨み付けるのを止めない。
総司は冷や汗をかきながら話し出す。
「俺はその『無頭竜』ってのが魔法を使う犯罪シンジケートって事ぐらいしか分からないんだが、お前はどうなんだ?」
「…『無頭竜』が九校戦を使って賭博を主催していることは知っている」
「マジで?」
「ああ。恐らく一高に妨害工作をかけてくるのは、勝つ可能性の高い一高にオッズを集め、負けさせることで自分達の利益をあげようとしているのだろう」
「ちっ、ホント大人は汚いな…」
「あと数年で俺達もその大人だぞ?」
「ヤメロそういうの」
軽口を挟んだことで雰囲気自体は軽くなったが、二人の表情は重い。達也は総司への警戒から、総司はふつふつと沸き上がる『無頭竜』への怒りからだ。
「潜伏場所は分かるか?」
「そこまでは分からないが、調べてもらえるようなアテはある」
「流石達也」
達也が言うアテとは総司も知っているカウンセラーの小野遥の事であるのだが、それを総司が知ることはない。
「…場所を知って如何するつもりなんだ?」
今日この日までの付き合いで、総司が友人思いである事は知っているし、彼には時に非情な面もある事を達也は理解している。故に何をするつもりなのかはほぼ確信していたが、念の為に確認をとる。
その問いに総司は…
「…っ!?」
おぞましい
「…決まってんだろ」
総司の表情は
そして総司は天幕を出ながらこう言い残す…
「…生まれてきた事を後悔させてやるんだよ」
総司はそう言って天幕を後にした。
その日、ミラージ・バットでは一位が飛行魔法を使用した深雪、二位がほのか、三位がスバルと、再び表彰台を独占する形となり、さらにモノリス・コードも事故があったものの一高が総司の圧倒的な単体性能でゴリ押しして勝利、決勝トーナメントに駒を進めたのだった…
魔法科世界の秘匿通信
・総司が独立魔装大隊のことを知っているのは、以前から出ているとある情報網を用いて過去に司波達也を調べた結果である。
・因みに「その件なんだが~」の辺りから安心感で眠くなった雫が総司におんぶされながら寝ていた。つまりシリアスなシーンで片方の人間の背中で寝ていたということである。付け加えると雫は何も聞いていない。
飛行魔法君軽く流されてて司波生える(激うまギャグ)。
ここで飛行魔法が使われたって事は本戦でも使う人出てくるでしょうが…摩利さんなら大丈夫でしょ。
次回はモノリス決勝です。無頭竜の幹部諸君は首を洗って待っててね!なんてことだ、もう助からないゾ♡
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~