魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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前半は平和ですが、後半は描写に若干のグロを含みます。苦手な方は水平線以降の文を読まない事を推奨します。R-15と残酷な描写タグはこのための物だった…?


九校戦編 その二一

「勝った…わね」

 

「そうだな…全く予想だにしない戦い方だよ」

 

「やはり総司を九校戦に出して正解だった」

 

 

三巨頭が天幕で会話をする。今はモノリス参加メンバーが戻ってくるのを待っているところだ。

三人は上に立つ者として成功を収めた部下には賛辞を贈るという仕事が残っているのだ。しかし天幕から会場までは少々距離がある。まだ彼らが来ることは無いだろうと真由美が椅子に座って伸びをした。

 

事実今しがた送迎の車がメンバーを乗せ会場を出たところだろ「ヤヤヤヤヤヤ…」…おや?

 

 

「…何か聞こえないか?」

 

「…聞こえるわね」

 

「なるほど、流石だな」

 

 

今しがた聞こえた声の正体に気づいた三人。真由美と摩利は相変わらずだとため息をつき、克人も相変わらずだと頷いていた。

 

 

「ヤヤヤヤヤヤ、ヤッフー!」

 

 

 

と奇声を上げながら人が高速で背面から天幕に入ってきた。

その動きはかつて『ケツワープ』と呼ばれたバグ技と似た挙動であった。そんな奇妙な方法で戻ってきたその男こそ、橘総司である。

 

 

「へい!入店早々で悪いが俺は真由美嬢と摩利嬢を指名するぜ!」

 

「キャバクラか!?」

 

 

帰ってきた総司は何処か焦った表情をしている。どうやら至急の用事が入ったらしく、賛辞を述べるならさっさとプリーズ?ということなのだろう。

 

 

「総司君、どうしたのよそんなに慌てて。何か重大な…「うるせェ!さっさと済ませやがれこのすっとこどっこい!」な!?貴方、先輩に言っていいことと悪いことの区別が相変わらずついていないようね!みっちり教育してあげましょうか!?」

 

「七草会長」

 

「って、壬生さん?私に何か用?私は今からこのクソガキに説教をしてやらなくちゃいけないんだけど」

 

「それはまた今度にしてあげてください」

 

「今度に?別にいいけど…」

 

「説教確定してんの笑うわw」

 

「「総司君うるさい!」」

 

「すいません」

 

 

今にも説教タイムが始まるかと思われたその時、真由美を制止する声が聞こえた。壬生紗耶香だ。どうやら彼女は総司が焦っている理由を知っているようだ。

 

「総司君は早く行かないといけないところが…会ってあげないといけない子がいるんです」

 

「…そう言う事ね、大体分かったわ」

 

「真由美さんはモヤシの破壊者だった…?」

 

「…早く行ってあげなさい。説教は後日五時間で許してあげる」

 

「ハハッ!未来の俺死んだな!…ですけどありがとうございます!それじゃ!」

 

 

総司はそう言うと来た道をそのまま戻っていく。

 

 

「…ちゃんと向き合ってあげてね、総司君」

 

「まったく…やっとってとこかしら?」

 

 

総司を見送った壬生と真由美は慈愛に満ちた表情で総司が消えた方向を見ていた。

 

 

「…七草達は、今何を話しているんだ?」

 

「…お前は、もうしばらく伴侶には巡り会えんだろうな…」

 

「?」

 

 

その傍で先程の会話の意味が分かっていない様子の克人に、摩利が呆れた声でぼやいたのだった。

 

 

 

場所は変わって平原ステージ観客席近くの、人通りのないエリアにて。

 

 

「…改めて、優勝おめでとう、総司君」

 

「ありがとう、雫ちゃん」

 

 

設置してあるベンチに雫と天幕から戻ってきた総司が腰をかけていた。

 

 

「まあ、私は総司君の優勝を一切疑ってなかったからね」

 

「最終戦の時も?俺はヒヤッと来たが…」

 

「当然。だって私の総司君だもの」

 

「そっか…」

 

 

雫の爆弾発言に一切の反応を示さない総司。いやこれは反応を示していないのではなく、総司にとっても、雫にとっても、今の発言は一切の違和感のないものだったのだ。

 

 

「…ねえ、総司君」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「…今、楽しい?」

 

「…!」

 

 

雫の急な問い。それには総司の今までの友人事情が関係する。

総司はその異常な身体能力から全日制の学校では無く通信制の学校に通っていた。それにしては彼のコミュ力が高いのは、ひとえに少なくない人数の九島家の人々との交流故だ。

彼にとって『友人』とは高校に入ってから出来たものであり、中でも『親友』と呼べるのは雫をはじめとした、一部の人間だ。

 

総司はこの生活を実に満喫していた。九島家の人々は総司の奇行について来られない者が多数だった。ついてこれたのは九島烈、藤林響子、ノリだけなら九島光宣ぐらいのものである。烈が忙しいのは言わずもがな、響子も軍人であるため会う機会は少ない。光宣には会おうと思えばすぐにでも会えるが、体が弱い彼の事を考えれば無理はさせられない。

 

あのお気に入りの後輩に会えばいいのだろうが、彼は今受験生だ。邪魔をしてはいけない。

 

そんな中、高校に入った途端、彼について来れる者達が周囲に集まり、いつしか彼を取り囲む輪はとても大きなモノになっていた。

総司はとても喜んでいた。彼にとって、人生の絶頂期は今であると言えるまであるだろう…まだ十六年も生きていない若輩者だが。

 

 

「…そんなの、楽しいに決まってるよ。この学校に来て初めて…『友達』が出来た。しかもまだまだ増やせるとも思ってる。それに…」

 

 

総司は言葉を切った後、雫をジッと見つめる。

総司が今を絶頂期だと言えるとまでこの生活を楽しめているのか。それは確かに友人達との日々もあるだろう、だがやはり、総司が最も大切だと思う人が、雫が傍に居るからだろう。総司はつい先日、やっと自らの想いを自覚していた。

 

「何より、君が居るから」

 

「…総司君」

 

 

総司からの視線に雫も見つめ返す。こうして見つめ合う形となった二人。彼らの顔は耳まで赤くなっている。

 

 

「…俺、少し前に、やっと気づいたんだ」

 

「…うん」

 

「俺は、俺は…!」

 

「…うん!」

 

 

そして総司は、意を決したかのように口を開いた!

 

 

「俺は、君のことが!s「おーい!総司ー!どこだー!?」…」

 

 

ガチッと硬直する総司と雫。総司がギギギと首を後ろに向けると、どうやら桐原が自分のことを探しているのだと分かった。彼女の壬生と違い何ともタイミングの悪い男である。

総司は折角の大一番に水を差された事に青筋を立てている。ソレはもう凄く。すれ違った10人中100人が『今コイツはキレている』と分かるほどだ。

 

 

「…た~け~あ~き~せんぱぁ~い!」

 

「うおっ!?どっから来たお前!?てかなんでキレてんの!?」

 

「よくも邪魔をしてくれたなぁ!?」

 

「ええ!?何か俺やったか!?」

 

 

跳び上がった総司は桐原を攻撃する。桐原もマフティーダンスでの回避を行う。幸いにも桐原のマフティーに翻弄された総司の攻撃は桐原に一撃も当たることは無かった。

 

 

「…ふふっ」

 

 

桐原と子供のようにはしゃいでいる(雫視点)総司を見て、雫は穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

「その話は、また今度聞くことにする」

 

 

彼女は、夏休みの後半に予定している旅行に仲間を招待するつもりだ。無論総司もである。その時ならば、いくらでも時間はある。そう思った雫は、桐原に助け船を出すべく二人の元に向かった…

 

 

 

「畜生…畜生…」

 

「総司君…」

 

「これは…流石にフォローできんな」

 

「ホンット…武明君が迷惑かけちゃったわね」

 

「スマン総司…まさかそんな事になっているとはつゆ知らず…」

 

 

場所は再び戻って一高天幕。その奥のスペースで総司は机に顔を突っ伏していた。雫はほのか達と合流しそのまま行ってしまった。

見送ったはずの総司が大爆死して帰ってきた事に流石に真由美と摩利は哀れみの視線を向けている。タイミングのいい女の壬生は彼氏でタイミングの悪い男、桐原とともに謝罪する。

 

まあ、ここにいる全員が雫の総司への気持ちに気づいているので大した問題ではないと思っているのだが、可哀想なものは可哀想であった。

 

 

「畜生…ちく、うん?」

 

 

先程から畜生としか発声していなかった総司の携帯端末に通信が入る。どうやらメッセージが飛んできたようだ。それを見た総司は、見るために顔を下げた体勢のまま硬直した。

 

 

「…総司君?」

 

「……はい」

 

「「「「…っ!?」」」」

 

 

真由美の呼びかけに答えて顔を上げた総司の表情を見た一同は、底知れない恐怖に襲われた。顔を上げた総司の表情が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さっきまでの感情が全て抜け落ちたかのような無表情の総司に、真由美と摩利は何も言えなくなる。

だが、以前共にブランシュを壊滅させた(知っているのは本人達だけ)壬生と桐原は辛うじて総司に声を掛けることができた。

 

 

「総司君、何かあったの?」

 

「…何かあるなら、俺達に相談しろよ?」

 

 

二人の表情は先程の恐怖で強ばっていたが、出てきた言葉は後輩を思う良き先輩としての言葉であった。だが総司は…

 

 

「…急用が入りました。すいませんが失礼します」

 

「オイ、総司!」

 

 

一切の感情の起伏を見せないまま、天幕を出る。桐原の制止の声も聞かずに総司はトップスピードでどこかへ消えてしまっていた…

 

 

 


 

 

横浜の中華街の一角…その建物の一室にて、無頭竜東日本支部の幹部達は頭を抱えていた。

 

 

「…一条でも、あの化け物を止める事はできんのか!」

 

「もう終わりだ…一高の総合優勝も、新人戦優勝も確定してしまった…我々はボスに粛正されてしまうだろう…」

 

 

無頭竜東日本支部の幹部達の表情は暗い。だが、その中の一人が、声を上げた。

 

 

「…いっその事、ジェネレーターに民間人を大量に殺させてみてはどうだろうか。そのような大事になれば、九校戦自体が無かった事になるかもしれん」

 

「…今は利益より、自らの命を優先させるべきか…」

 

 

幹部達は早速実行に移すべくジェネレーターに指示を出そうとする。

 

 

「会場にいる十七号に民間人を抹殺させるように伝えグシュッ!…は?」

 

 

指示を出そうとして、そのジェネレーターの腹部から、何かが飛び出してきたことに幹部陣は驚愕で言葉を発することすら出来ない。

そして、ジェネレーターから飛び出していたのは、()()()()()()()

 

その腕はジェネレーターから引き抜かれ、大量の血飛沫をまき散らす。

 

 

「…ご機嫌よう、無頭竜のクソ共」

 

 

幹部陣は一斉に震え上がった。そこにいたのは、自分達の首領が最も警戒していた人物。橘総司だったからだ。

 

 

「ば、馬鹿な!?九校戦会場からここまで来たというのか!?モノリスの試合はつい一時間前に終わったばかりだろう!?」

 

「はっ。この程度の距離なんて、俺にとってはジョギングみたいなもんさ」

 

 

そう言いながら総司は倒れ伏したジェネレーターには目もくれずに前進してくる。

その姿に幹部達はその姿に恐怖を隠しきれなかったが、しかし彼らには狙いがある。

ジェネレーターは魔法師が改造され、最早機械のようになってしまった存在だ。例え死にかけだろうと、主人を守るため戦闘を行うだろうと。事実倒れているジェネレーターは総司を背後から攻撃しようとしているし、他に配備されていた二体のジェネレーターも主人達を守るように移動する。

 

いくら目の前の男が化け物であろうとただでは済むまいと幹部陣は予想していた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なっ!?」

 

「…コイツ、気持ち悪いと思ってな。腹貫いたのに、苦悶の声一つ上げやしない。まるで機械みたいだって思ってな、おっかない機械は壊すに限るぜ」

 

「…こ、コイツを殺せェ!十四号!十六号!」

 

 

総司はいつもの調子でふざけていた。顔が全くの無表情である点を除けば。声音は笑っているが、表情は『無』そのものだ。そんな総司に殺されると悟った幹部の一人は、少しでも逃げる時間を稼ぐためにジェネレーターに攻撃を命じる。

命じられた二体のジェネレーターは魔法を発動。サイオン弾を総司に向けて乱射する。しかし総司には『異能』があり、魔法は効かない。効いたとしてもこの程度の出力では全くダメージにならないだろう。

 

 

「おっと、これが噂に聞く反抗期って奴か?話によると反抗期ってのは大体二回ぐらい来るらしいが…その年になってやっととは、随分と遅いんだな?」

 

 

総司は相変わらずの無表情で軽口を叩く。

そんな軽口を無視して攻撃を続行するジェネレーター達。だが総司は、

 

 

「それと…」

 

 

と言いながら、一体のジェネレーターの首を掴んで持ち上げる。

 

 

「俺に反抗するなら、もっと力を付けてからにしようか。…あっ、これは失礼。もう大人なのにこの程度の実力しか無いってことだよな?それは残念だ、魔法を上手く扱えない者として同情すらするね」

 

 

そう言いながら総司は徐々に首を掴んだ手に力を込める。

 

 

「バイバイ。次の人生は幸せだといいな?」

 

 

そう言って総司は掴んでいる片手だけでジェネレーターの首をたやすくへし折ってしまった。

この光景に顔がみるみる青くなる幹部陣だが、もう一体のジェネレーターには感情など無い。魔法攻撃が有効ではないと判断して、念の為に用意していた対物ライフルを構えて総司に発砲する。

 

しかし50口径を優に超えるその弾丸はキンッ!と甲高い音を鳴らしながら総司の肉体に弾かれた。総司の肉体にはこの程度の攻撃では傷一つつくことは無い。

 

 

「おいおい、大人のくせに反抗期な上、学習能力も皆無なのか?」

 

 

そう言って総司は一瞬の内にジェネレーターの右肩と、左側の腰の辺りを掴む。

 

 

「なら一つ良い事を教えてやる。お前らみたいな雑魚共じゃ俺には傷一つつけられないよ」

 

 

そう言いながら総司は掴んだまま手を引き、ジェネレーターの体を文字通り引き裂いた。ボトボトと臓物が落ちてくる音が聞こえる。

 

 

「よかったな、死ぬ前に一つお勉強になってさ」

 

 

総司はジェネレーターに言いながら、クルリと幹部陣を見る。それに幹部陣はビクッ!と肩を浮かした。

 

 

「じゃ、後は君たちだけだな」

 

 

指を鳴らしながら総司が近づいてくる。明らかに殴り殺す気だ。だがそんな総司に、幹部の一人が勇気を出して交渉を持ちかけようとする。

 

 

「ま、待ってくれ!分かった。これ以上九校戦に手出ししない!」

 

「…」

 

 

総司は続きを促すように首で指し示す。この反応に手応えを感じたその幹部は更に言う。

 

 

「そして九校戦だけではない。我々は日本からも手を引く。西日本支部の連中も同様にだ!」

 

「ふーん、そう」

 

 

そう言って総司がその幹部の前に屈む。そして手刀を作り斜め上に振り上げた。

その後、一秒ほどたってから今まで交渉をしようとしていた幹部の首が斜めに落ちる。。切り口から鮮血が舞う。

 

もしかしたら助かるかもしれないという淡い希望を打ち砕かれた他の幹部は命の危機を前に、逆に饒舌になった。

 

 

「ま、待ってくれ!ボ、ボスの情報を教える!側近である私が知り得る全ての情報を…!」

 

「興味ないね」

 

 

一人がボスの情報を渡すと持ちかけるが一蹴される。

そして恐怖のあまり一人が言葉をもらす。

 

 

「何故だ…」

 

「は?」

 

「何故ここまでの仕打ちを受けなければならない!?何故だ!我々は誰も殺さなかったではないか!」

 

「何言ってんの?」

 

 

その叫びに総司は変わらず無表情ながら笑ったような声で言い放った。

 

 

「俺の大切な人達に手を出そうとした時点でお前らの死は決まってたんだぜ?」

 

 

残酷なその物言いに幹部達は何も言えない。

 

 

「さて、俺は今から君たちを殺すが、右で殴られて死ぬのと左で殴られて死ぬの、どっちが嫌いだ?嫌いな方で殺してやるよ。おいおい、そんな心配すんなって!選ばなかった方でもちゃんとぶん殴ってやるから安心して永眠(ねむ)ってくれよ」

 

 

そう言って総司は無造作に拳を振り上げた。

 

この瞬間、無頭竜東日本支部は、壊滅した。




魔法科世界の秘匿通信


・すぐにでも告白し直せば良いものの、総司は完全にやらかしたと思っているので九校戦中は告白しないだろう。


・総司は怒りが頂点に達すると、完全に無表情になる


次回は先輩方スゲー!って感じで軽く本戦ミラージとモノリスを流します。

別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?

  • いいともー!
  • 駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~

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