魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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遅くなり申し訳ございません。私情ですがここ数日忙しい日々が続き、しばらく継続するので、投稿間隔がかなり空いてしまいます。どうかご容赦を


九校戦編 二十二

九校戦九日目、この日は本戦ミラージ・バットが行われるのだが…

 

 

「…なんだか、パッとしない結果でしたね」

 

「仕方ないだろう。飛行魔法を維持しすぎてサイオン切れを起こす選手が多すぎたんだ。これの影響で後に残すサイオンが残っている選手達はウチの先輩方だけになった。その時点で一高の勝利は確定していたようなものだ」

 

 

そう、達也の言う通りミラージ本戦では、前の新人戦ミラージ決勝で深雪がデモンストレーション気味に使用した飛行魔法を使う選手が後を絶たなかったのだが、達也の助言によって使用を避けた一高選手陣以外がサイオン切れで脱落者多発、残ったとしても余力を残して立ち回っていた一高に惨敗し、これまた一高がワンツーフニッシュを決めて堂々の優勝を飾ったのだ。因みに一位は摩利、二位は小早川である。

 

 

「…そう言えば総司が居ないようだけど?」

 

「それ!あたしもミキと同じ事考えてた!ねえねえ、達也君何かしらない?雫は?」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「あーはいはい分かったから。で、どうなの二人とも?」

 

 

エリカは抗議する幹比古を軽くあしらって二人に問う。

 

 

「…実は私も知らない」

 

「…俺もだ」

 

「ええ…。じゃあ、アイツ結局何所いるのよ…」

 

 

雫と達也は揃って同じ返答を返す。二人の返答に間があったのは雫は把握できていない不安から、達也は実際は知っているが敢えて言わないようにした為だ。達也の考えは最もだろう。まさか九校戦で妨害工作をしてきた組織を見つけて、あまつさえ始末してしまった翌日なのだと言えるはずも無い。

無頭竜を始末するのにかかった時間こそ短かったが、まさか遺体の処理を一切せずに立ち去り、後は全部独立魔装大隊に任せるとは思っていなかったし、その日の午後に偶然見かけた疲れた様子の響子にお疲れ様ですを言ったら、達也経由で無頭竜を始末したのが総司だとバレており、総司が独立魔装大隊と鬼ごっこを繰り広げていただなんて口が裂けても言えない。

 

だがこれは昨日の出来事であり、総司が今日いない理由では無い。彼は変わらず自身に事情聴取を行おうとする独立魔装大隊のメンバーを避けながら、無頭竜のメンバーが言っていた九校戦会場に配備されたジェネレーターを見つけ出して東京湾に流していた。

 

因みにこの一部始終が達也に動画で送られてきており、その返事をどう返すべきか決勝戦前に胃を痛める余計な手間を取らされた。しかもただ流すのでは無く、人体で曲がる場所も曲がらないはずの場所も曲げて折りたたんで樽の中に入れて流していたのだ。どう反応しろと?達也は思った。

 

 

「そうですか…総司君には試合の応援に行けなかったので謝罪とお祝いの言葉を贈りたかったのですが…」

 

 

そう深雪がこぼす。深雪は総司の試合を観客席で見た瞬間に頭痛を訴えてそのまま一日部屋で寝込んでいたのだ。その表情はどこか気落ちしている。

 

 

「そう気にすることは無いよ。俺だって試合が被っていたとはいえ深雪ちゃんの応援行けなかったんだからさ」

 

「そう言ってくれるとありがたいです、総司君…総司君?」

 

「「「「「いつの間に!?」」」」」

 

「深雪がそうですか…って言うときの『う』と『で』の中間ぐらいで来てたよ」

 

「細かいな…」

 

 

深雪の鮮やかな二度見を皮切りに全員がすぐ横に来ていた総司に驚く。雫はどうやら総司が来たタイミングを正確に把握していたようだが。

 

 

「って、もう試合は終わっちゃったわよ。アンタ何しに来たの…?」

 

「勿論、応援だが?」

 

「もう終わったって言ってんのよ!」

 

「そんな馬鹿な…」

 

「本当に馬鹿だよなお前は…!」

 

「許してくれないかな渡辺大菩薩様?」

 

 

総司以上に気配を消して背後まで近づいてきていた摩利に頭をグリグリされだす総司。痛い痛いと言いながら本人は余裕そうだが。

 

 

「まったく…アンタ何処に行ってたのよ?」

 

「ああ、ちょっとOHANASIをしていたんだよ」

 

「お話…?」

 

 

この面子の中でこの二人のニュアンスの違いに気づいていたのは意味を正確に理解していた達也と総司の様子から判断した雫だけだった。その雫は完全に総司がやらかした事に気づいた様子なので、今夜は説教タイムだろう。

 

 

「はあ…本当に理解が及ばない奴だよお前は…」

 

 

摩利の呆れ気味の呟きに総司と雫以外が全員で肯定の意を示した。

 

 


 

 

「ああ…疲れたんゴ…」

 

 

夜、総司は珍しく気疲れした様子でホテルの廊下を歩いていた。つい先程まで雫からの追求とお説教を受けていた総司。だが総司にとって雫と居られるならば説教だとしても構わないのだ。本来ならばここまでの疲労を溜めることは無い。しかし総司が頑なに昨日の動向を話そうとしない事にしびれを切らした雫は泣き落としにかかった。流石の総司もそれには一瞬引っかかりそうになったが、屁理屈をこねくり回してなんとか切り抜けてきたのだ。因みに逃げるように去って行く総司を見つめながら、先程まで泣きそうだった顔を引っ込めて「…っち」と小声で言った雫を、近くに居たほのかは信じられないものを見た顔で硬直していたらしい。

 

 

「早くベッド行って寝よ…」

 

「流石にそうはいかんよ」

 

「…烈爺」

 

 

雫から逃げだし、自室(達也と共有)で早めの睡眠を取ろうとした総司に、背後から九島烈が声をかけた。まるでそこに最初からいたように現れた烈。視線誘導の魔法で他の人間に自分を認識されないようにしたままで総司を待ち構えていたらしかった。かくいう総司も驚いた様子では無い。烈がこちらにコンタクトを取ろうとすることなど無断で無頭竜を全滅させたときから想定していたし、何より烈がこのような忍者の真似事をするのは今回が初めてでは無かったからだ。

 

 

「少し話を聞かせてくれないか?」

 

「いいぜ別に。面白い話なんてできないけどな」

 

「私にとっては、君という存在が既に面白いのだがな」

 

 

そう言い合いながら二人は烈の宿泊する部屋までやってきた。

 

 

「…して、昨晩、君が無頭竜の東日本支部を壊滅させたのは事実だな?」

 

「そりゃね?許せないですしお寿司」

 

「では、無頭竜の情報は何か聞き出せたかな?」

 

「いや何も?仲間を攻撃してきた奴らに興味なんて無いよ。あるのは怒りだけだ」

 

「…では、何も情報を掴めていないと?」

 

「確かにそうだが、言われれば調べるぜ?」

 

 

そう言った総司の表情は自身に満ちあふれている。本来ならば「どうやって」と一蹴するところなのだろうが、総司は烈の孫である響子が手に入れられなかった情報ですら持ってきたことがある。何かしらの独自の情報網を持っていると考えて間違いは無いだろう。そもそも烈に総司を責めるつもりはなかった。彼の逆鱗に触れた者達がどうなったのか、かつての『伝統派』との一件でよく知っている烈は、半ば情報を得ることは不可能であること前提で総司に一連の件の確認を行おうとしただけだった。だが乗り気で調べるといってきた総司に烈は意外感を隠しきれなかった。

 

 

「良いのか?興味は無いんだろう?」

 

「無いが、怒りはあるって言っただろ?」

 

「…今回の件を指示した者も許さないと言っているのだな」

 

「その通りだ。でも他人任せで済ませられるならそれでいいんだ。本当は俺が殺したいけど…個人で出来ることには限度があるからな」

 

「驚いた。今まで個人で出来る領域を遙かに超えてきた君が限度なんて口にするとはな」

 

「もしかして俺の事人外だって言ってる?」

 

「無論だとも」

 

「酷くない?」

 

 

二人は揃って笑う。その後しばらくして、総司が腰を上げる。

 

 

「さて…ホントに眠くなってきたし、そろそろ部屋に戻らせて貰うぜ」

 

「待ちなさい」

 

 

そう告げて部屋を出て行こうとする総司に烈が声を掛ける。

 

 

「…君と北山嬢の関係性に、九島は関与しない事を明言しよう」

 

「…そうかい」

 

 

率直に、自分達は彼らの恋路を利用することはないと宣言する烈。総司はまるで『当然だろ』といった表情で部屋を出て行った。

総司が出て行った部屋の中、烈は一人思案する。

 

 

「…伝えるべきだっただろうか」

 

 

烈の手に握られた端末には、以前彼の孫である九島光宣の治療に役立つかもしれないと保存していた総司の遺伝子情報が何者かに盗まれたとの報告が上がっていた。

 

 


 

 

九校戦最終日。この日は昨日から行われていたモノリス・コード本戦の決勝トーナメントが行われる…のだが。

 

 

「…昨日はあんなに力を誇示するような戦い方じゃなかったぞ?」

 

「そうね…昨日までは十文字先輩だけじゃなくて他の二人も活躍してた。でも今日はまるで十文字先輩のステージみたいに一人だけ目立ってる気がする」

 

 

そう、昨日までは戦略的な戦い方をしていた一高選手陣…正確に言えば克人が、先の新人戦モノリスで、将輝達のように圧倒的に、総司達のように理不尽に相手を叩きのめす動きをしていた。一つ前に行われた準決勝でも全ての相手をファランクスを用いたタックルで倒し、今行われている決勝ですら、あと一人で全滅というところまで克人が全て一人で相手をしており、鋼太郎や範蔵はモノリス前で待機しているだけだ。

 

 

「なんでいきなり戦い方を変えたんでしょう…」

 

「…総司の影響か」

 

「俺かよ」

 

 

そう呟いたほのかの疑問に答えるように達也が話し出す。

 

 

「恐らくだが十文字先輩は十師族としての実力を示せ…みたいな事を言われたんだろう。だからあのように自分の力を見せつけるような戦いをしているのだろう」

 

「十師族としての実力?なんで今そんなもんを見せる必要があるんだよ」

 

「この間の新人戦モノリスで総司達が一条に勝利したからだろう。十師族に一般の魔法師が勝利する…これが影響して十師族の実力を疑問視する声が生まれるのを避ける為だろうな」

 

 

達也の考えは正しい。事実克人は真由美経由で似たような要請を十師族として受け取っていた。

 

 

「でも総司君だって広義的に見れば十師族でしょ?九島家なんだし」

 

「それで済むなら良いがな。やはり直系と義理の子では直系の方が有力視されるのは当然だ。何より総司の魔法成績はカス同然だ」

 

「言い過ぎやぞお前」

 

「ならせめて筆記面を上げてから言ってくれ。「くっ…!」コイツみたいに最低順位を取るような十師族なんていないだろうし、あの戦闘で魔法を一切使っていなかった総司が十師族だと思う人間は少ないだろう。それなのに総司が勝ってしまい、十師族全体がその実力を疑われるのを避ける為に十文字先輩にあのような戦い方を強要したのだろうな」

 

「…?でも総司君が最強だよ?」

 

「…雫、総司じゃ無くて十師族が弱いと勘違いされるといけないという話で…」

 

「でも総司君が最強だよ?」

 

「…だか「でも総司君が最強だよ?」…」

 

 

雫の「異論は絶対に認めない」とでも言いたげなその態度に達也は口を閉じるしかなくなった。

そんな話をしていた最中、サイレンが一高の優勝をけたたましく知らせた。




魔法科世界の秘匿通信


・具体的には総司は九島家にスターズのメンバーの一覧やその適正魔法や得意戦術などを教えていた。


・九島家は総司の異常な身体能力に目を付け、総司の遺伝子を一部光宣に移植すれば体調が回復するのではないかと研究していたが、総司の遺伝子には異常性をを裏付けるような部分は見つからず、一般的な魔法師と同じ形質であると判明し、この計画は頓挫した


雫の最後の「総司君が最強だよ?」は某ウマの「でも私の方が速いですよ?」を元にしたネタです。

別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?

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