今までソシャゲに課金はしてこなかったが、雫ちゃんが相手とならばこちらも(財布から金を)抜かねば無作法というもの…
「むり、つかれた」
「ええ…」(困惑)
北山雫は現在、猛烈なまでの疲労に苛まれていた。別に寝不足なのでは無い。むしろ昨日は総司の胸を枕代わりに寝たので人生で最も快眠であった。眠れていないのは総司の方。では何故雫は動けない程に疲れているのか?それは今日の本題、対深雪用魔法である『風神雷神』の会得の為の特訓に原因がある。
そもそも何故特訓が必要になったのか。苦手な古式魔法だから?それは無い、確かに雫は現代魔法と勝手が違う古式魔法に若干苦戦したものの使用自体には問題が無くなっている。では何故か。それは雫のサイオン量では『風神雷神』の術式をコンマ一秒も維持できないからだ。
発動そのものはしていることは総司の異能に付随する知覚能力で分かっている。単純に、十全に効果を発揮できるまでの時間発動し続ける事が出来ないのだ。そもそもこの『風神雷神』自体、強力であるが代わりに負担がバカでかい、達也が術式内容を見ればこれで完成形とした総司に疑問を覚えるほどで(事実達也は術式を見て呆れていた)あり、速急な改善が必要な魔法…なのだが。
「いや、俺よく分からんのよ」
と総司は言う。何を隠そうこの男、魔法は作れても結果を出力するのに必要なプロセスを一切理解していない。精霊達の協力の下に作成しても、『一般の魔法師がギリ使えるレベル』の消費サイオン量が無ければ起動できないものしか作れず、酷いものではかの九島老師ですら起動式の展開もできなかった程の魔法も存在する。しかしどの魔法も実用化出来ればかなりの有用性を見い出せるものばかりであった為に、総司が細部の調整を行えないという事実は、九島家の人間を落胆させるのには充分だった。
けれども文句など言える訳も無い。自分達では総司が開発した魔法の再現すら不可能であったし、総司は九島にとって切り札とも言える人間だ。存在するだけで事実を知る者を震えさせる事が出来るほどに総司の戦力は大きい。
だが今回ばかりはそうもいかない。なんとしても雫はこの『風神雷神』を実用レベルにまで習得する必要があるのだ…と雫は思っているが、正直総司はそうは思わない。確かに深雪の魔法力は強大だが、こと振動系ならば雫の方が上手に出ることもある。大体九校戦は命をやりとりする場では無い。ましてや相手はチームメイトである、無理をしてでもこの魔法を使おうとする理由が、総司には分からなかった。
「…でも、疲れたからって止める訳にはいかないよね」
「雫ちゃん…」
まただ。
雫は疲労を蓄積させながら、尚も習得にこぎつけようとする。そんな姿に総司は申し訳なさが浮かんだ。雫には古式魔法の発動自体に苦労は無い。問題があるのは総司が開発した魔法そのものだ。達也のように最短ルートで消耗を抑えながら十全に使える魔法は作れない、それに比べまるでRTAかのようにひたすらに出力だけを上げ、それ以外を度外視するかのような総司の魔法。そもそも魔法を作れる時点で凄いと雫は心からフォローしてくれるだろうが、結局の所、自身の腕が達也並であれば雫の苦労も必要ない物だ。事実雫は達也がチューニングした『フォノンメーザー』を速攻でマスターした。対して自分の魔法は使えたかどうかの確信を本人に与えることも無く霧散していく。そのクセサイオンだけはきっちり持って行く詐欺紛いの魔法だ。これ以上の練習は雫の体に悪影響を及ぼす。それこそ魔法演算領域がオーバーヒートを起こして使い物にならなくなる可能性だって。
「…雫ちゃん、もう止めよう。これ以上無理をするのは…」
「止めないで総司君」
「いや、止めるね。これ以上雫ちゃんが苦しむのは見たくない」
「苦しんでなんか無い、疲れてるだけ」
「だから!」
総司の制止を聞かずに続行しようとした雫だが、総司が初めて自分に対して声を荒げた事に驚いて固まっている。
「雫ちゃんが辛い顔してるだけで、俺はもう…」
「総司君、私は大丈夫だから」
「酔っ払いの『酔っ払ってない』ぐらい信頼性の無い発言だな」
そう言って総司は雫に近づく。彼女の手から魔法式が込められた札を奪う為だ。総司は雫の目の前に立ち、真剣な表情で雫を見下ろす。対する雫も真剣に総司を見つめ返す。
そして意を決した総司は雫の手から札を奪おうとして…
「「…あれ?」」
「え、止めないでって言ってたのに抵抗しないのか?」
「え、辛そうにしている私を見て、愛おしさで抱きしめる場面でしょ今の」
「ええ…?」(二回目の困惑)
総司は雫からあっさりと札を奪えたことに、雫は自分の辛さを和らげる為に抱擁をしてくれるものだとばかり思っていたことによる認識の違いで、二人は硬直する。しばらくして再起動した二人。雫は札を奪い返そうと必死に手を伸ばすが、20㎝以上の身長差に加え、ひょいと総司が手を上に伸ばせば、絶対に雫は届かない。やがて涙目になりながら、ピョンピョン跳ねながら取ろうとする雫。やだ…何この可愛い小動物…!と思いながらも決して手を下げない総司。
そしてとうとう諦めたのかジャンプを止める雫。総司はここで、「分かってくれたか雫…」なんて声を掛けようとした。その瞬間
「とびこめ~」
「は?」
バタン!と大きな音がたつ。これはいきなり雫が総司の方に寄りかかってきた来た為に、総司が踏ん張りがきかずにせめて雫が痛くないように思いっきり背中側から転倒した音だ。因みに総司はこの程度痛くもかゆくも無い。
だが問題なのはその後。橘山に到達した北山探検隊はそのまま頂上(札を持っている手)を目指して這い上がってくる。しかもご丁寧に体を押し付けながらだ。決していかがわしい意味は無い。だが隙間を少しでも作れば総司は脱出できるかも知れないし、この状態なら自分を傷つけない為に総司は動かなくなる事を知っていたからだ。
「雫ちゃフガフガ!?」
「んっ」
前言撤回、体勢からして凄くいかがわしい。現在は雫がある程度登り切ってきたところで、状況整理が出来た総司が雫を止めようとした時、丁度彼女の胸が被さったのだ。それ故総司は発声出来なかったし、雫はちょっとエロい声を出してしまった。だがその程度で止まる雫では無い。とうとう総司の腕までたどり着き、彼の手から札を奪い返した。
「とったど~」
「ええ…」(三回目の困惑)
予想外の奪われ方に困惑を隠せない総司。しかし結局の所奪わなければ再び雫が無理をしてしまうのは自明だ。総司は再び雫から札を奪おうとして…
「ちょっと待って総司君、私に考えがあるの」
「…ほう?」
雫からの提案に足を止めた総司。だがそんなことをたやすく信じる総司では無い。無理をしてでも習得をする口実でも作ろうとしている、総司はこう考えた。だが
「…私と、手を繋いでくれる?」
「…Why?」
雫の言葉に首を傾げた。
「なんとなくだけど、総司君と手を繋いで発動したら、使える気がするの」
「いや何でだよ」
「なんとなくって言ってるでしょ?愛のパワーよ愛のパワー」
「適当だなぁ…」
「とにかく一回だけでいいから」
「…本当に最後だからな」
そう言って総司は雫と手を繋ぐ。雫がいつ倒れそうになっても支えられるように気を張り巡らせる。当の雫は「…総司君の手、おっきい…」なんて呟いていて、大分余裕そうではある。
そして機器が操作され、的となる氷柱が出現する。
「じゃあ、いくよ?」
「ああ…くれぐれも無理だけは…ッ!?」
早速氷柱に向かって魔法を放とうとする雫は、半ば諦めたかのように目を閉じた総司を驚愕させる。
バガァン!と大きな音を立てて崩れる氷柱。総司の知覚能力は、確かに『風神雷神』が発動して…尚且つ、現在十秒以上の発動に成功したのだ!
「そんな馬鹿な…!?」
「ほら、言った通りでしょ?」
雫が魔法を撃てた、では無く自身が作った魔法が正しく作用した場面を久しぶりに見た総司は目を見開く。そんな総司にドヤ顔をキメる雫。驚愕した表情のまま雫を撫でる総司の顔は、氷柱が立っていた場所を眺めて硬直したままだったが。
「なんだかコツが掴めたかも。ありがとう、総司君」
と総司に微笑む雫。
「あ、ああ…どういたしまして?」
対する総司は、理解していないまま雫に返事を返すのだった。
魔法科世界の秘匿通信
・雫はこの時にコツを掴んだから、雫一人でも『風神雷神』が使えた。
・この日以降、総司の魔法強度が僅かに上昇した。
やっぱオリジナルストーリー無理ッすわ。もっとギャグよりにしていいかな…?
次回からは夏休み編です。一応九校戦も夏休み期間中ではあったはずですが。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~