横浜騒乱編 その一
「はい、しゅーごー」
九月の中旬、橘総司を中心にとある共通点を持つメンバーが空き教室に集合し、何かを話し合おうとしている。
その数は総司を合わせて三人。他の面子は桐原と五十里である。
「…何の用だ総司」
「まあまあ、そんな警戒しないでくださいよ服部刑部少丞範蔵先輩!」
「久々にその呼び方したなお前!というか出番自体久しぶりな気がするぞ!」
「そりゃ久しぶりだからね」
「久しぶりだからだろ」
「そして何でお前達がいるんだ五十里!桐原!」
教室に入ってきた範蔵を見るやいなや、やっと来たか、と言いたげな表情で範蔵を迎えた総司、桐原、五十里の三人。そして再び教室のドアが開かれる。
「どうしただい総司?こんなところに呼び出してって、先輩方?何故いるんですか?」
「それは俺も聞こうとしていたところだ吉田」
新たに教室へと入ってきたのは吉田幹比古。二人して同じ教室に呼び出されたとなれば、この二人に共通した話題でもあるのだろうか?と一瞬で思考する二人。流石は二年生最強と一科生に全く劣らない実力を持つ古式魔法師である。
「今日二人を呼び立てしたのは他でもありません…この俺だ」
「だろうな」「だろうね」
「と言う訳で今日の議題はー?」
「何がと言う訳なんだ…?」
状況を掴めていない二人を余所に総司は桐原と五十里に指示を出して、用意してあったホワイトボードをひっくり返させた。
「「…?…っ!?」」
そのホワイトボードを見てしばらく思案した後、同時に驚愕の表情を見せた幹比古と範蔵。
「本日の議題は!第百七十回!範蔵君と幹比古君を意中の人とくっつかせよう!だ!」
「「待て待て待て待て」」
「待てま天馬?」
「トンデモワンダーズじゃない!」
「そもそもなんだこの議題は!ツッコミどころがありすぎるぞ!」
抗議する幹比古と範蔵だが、総司達三人はうんうんと首を縦に振っている。
「まあまあ、そんな焦りなさるな恋する男子よ」
「「してないって!」」
「おいおい、ごまかしはダセーぜ、服部、吉田」
「大丈夫、僕達は君たちの味方だから」
「「だーかーらー!」」
抗議しながら、範蔵と幹比古はどうやってこの場をやり過ごそうか悩んでいた。実際彼らに想い人がいるのは事実。だが明確にその事を言ってしまえば、五十里はともかく総司と桐原に笑いの種にされてしまう。というか何故五十里まで乗ってきているのか、総司の馬鹿が移ったのか?と思案する
必死に逃走経路を探そうと目を泳がせるが、よくよく考えれば補足された状態で総司から逃げ切れるはずも無く、彼らを説得してこの場をやり過ごそうとする。既に周囲には自分達の恋心がバレバレであり、それを自覚せず、あまつさえ隠し通せているとまで考えている二人は、総司達を説得する方向に入った。
「ではまず、好きな女の子とお近づきになるには…」
「「ちょっと待て!」」
「…自分と相手の今の関係性を考慮するところから始まり…」
「「待てって…」」
「相手から自身に好意が寄せられているかある程度の考察をする必要があり…」
「「……」」
この集会を止めようと声を上げた二人だが、構わずに話し続ける総司の話に、悔しいが食いついてしまう。彼らは誤魔化そうとしただけで、立派な恋する男子なのだ。
その事を自覚し、歯噛みしながらも相手と少しでもお近づきになりたいという欲が出てしまった二人は話しに食いついてしまう。
「…であるからして、相手に強烈なインパクトを与え、自分を意識して貰いましょう」
「「…ふむふむ」」
「例としてまず相手のパンツを見ます」
「「ふむふむ…ん?」」
「すると相手がこちらを変態と罵ってくれるので揶揄い返しましょう」
「「ちょっと待て!」」
明らかに風向きがおかしい総司の話を中断させる二人。
「なんだそれ!おかしいだろ、相手のパンツ見るって!」
「そもそも相手がこちらを本気で軽蔑してきたら元も子もないだろうが!」
「あれ~?」
ここで、気づいただろう。この教室に遅れてきた範蔵、幹比古は生徒役であり、総司、桐原、五十里は先生役なのだが…ここでまともな恋愛をしているのは桐原だけだという事を。
生徒役の二人は今恋の駆け引きの真っ最中(範蔵は知らんが)であるのに対し、総司は相手が一目惚れで総司もほぼ一目惚れであり、風の噂では将来卒業式の数時間後には結婚式を開くのだと言われるほどに進んだ関係になっているし、五十里なんて恋愛以前に許嫁だし、しかもパートナーと相思相愛とか言う許嫁として最高の相性を持っている。
しかも、まともに恋愛した枠の桐原も、恋のキューピッドが総司という全くもって不安しか無いきっかけで交際をスタートさせている。まともな助言など彼らにはひねり出せない。美しさを口からひねり出そうとして吐くのが間違っているぐらい、彼らに恋愛関係の助言を求めるのは間違っている。
「つーかさ、駆け引きとか面倒なモン全部吹っ飛ばして告っちまえばいいんじゃねえの?」
「俺が引き合わせるまでお互いに好意を伝えられなかったカップルの彼氏がほざいていい言葉じゃ無いっすよ」
「ごめん」
「それに吉田君はともかく服部君は今のままだと厳しいんじゃ無いかな?」
「五十里…!?」
「範蔵先輩が死んだような顔に…」
「事実、七草会長は服部君の事を頼れる副会長ぐらいにしか思ってないよ」
「その点吉田は楽だな。俺の見立てじゃ柴田と吉田は両想いだろ」
「腕にもっとシルバーまくとかSA☆」
「「な、なんでその名前が出てくるんだ…!?」」
「「「バレバレだから」」」
「「なぁっ…!?」」
「男性経験豊富そうな真由美先輩はやっぱ高難度だよなぁ…」
「その点柴田さんは異性との接し方の理解度は会長レベルには遠く及ばないし、なんなら並の女子よりも異性経験が少ないかもしれないね」
「「あの胸で?」」
「異性経験が少ないは訂正させて貰いたいな」
「訂正しなくて良いです五十里先輩!」
「お前ら全員のパートナーに三人が柴田の事を性的に見ていたと報告しておくな」
「「「お許しください!」」」
「あまりにも速すぎる土下座…僕じゃなかったら見逃していたね…」
「特に総司が速すぎて窓が割れたんだが…」
手のひらドリルで二人に平伏する三人。「分かった分かった」といいながら、それぞれのパートナーに携帯端末でキチンと報告した範蔵。既読は一瞬で付き、三者三様に「教育が足りなかったか…」というニュアンスの返事が来て内心ビビった。
「そうだ、範蔵先輩」
「どうした?」
「範蔵先輩振られたら俺の知り合い紹介しますよ」
「余計なお世話だ!」
そう言って範蔵は教室から退室していった。
「吉田…こうなんて言うかさ、ガッと!こうガッと押し込めば柴田は落ちると思うぜ?」
「桐原君の言い方はちょっとアレだけど、柴田さんは君に脈ありだと思うから。信じ切れないなら確信を得られるまでアピールしてみるといい」
「五十里先輩…ありがとうございます!」
「俺は?」
「最低な物言いだったアンタに感謝する訳無いんだよなぁ…」
「君もさっき最低な物言いだったけどね総司君」
「ひょ?」
範蔵に続けて出て行った幹比古。その背中を見届けた後、桐原はふと疑問を持つ。
「総司、お前紹介できる女子とかいるのか?」
「深雪ちゃんとかですかn「「待て待て待て待て!!」」え?」
「おま、お前!司波妹を紹介とかしたら司波兄にお前殺されるぞ!?」
「命知らずすぎないかい?」
「大丈夫ですよバレなきゃ犯罪じゃ無いですからw」
そう言いながら教室を出る総司。
後ろを向いて話しながら出て行ったので、教室の外を見れていない。だが総司を見ていたからこそ教室の外が確認できた二人は顔面蒼白になっている。
「深雪ちゃんと範蔵先輩は確かに釣り合わないですけど意外とお似合いかもで「「後ろ後ろ!」」後ろ?一体何が…」
「楽しそうな話をしているな?総司」
「 」
二人に言われて振り返った総司。その目の前に…
「ウチの妹が何だって?」
「あっ…あっ」
「お前…死にたいらしいな?」
「逃げるんだよ~!」
「どこへ行くんだぁ?」
「ダニィ!?」
達也に拳を入れられ、何故か一瞬で体力を持って行かれた総司は崩れ落ちてしまう。
「さあ…教育の時間だ…」
「お、お助け…」
「だが断る」
「うわああ▂▅▇█▓▒░(0M0)░▒▓█▇▅▂ ああああ!」
総司がどうなったかはご想像にお任せします…
魔法科世界の秘匿通信
・この後男性陣はそれぞれのパートナーにベッドの上で襲われたとか何とか…
次回までは横浜関係無い話です。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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