九月某日。東京の八王子市にある国立魔法大学付属第一高校の生徒会室において。突如として不審者が現れ、風紀委員長と一般風紀委員が拘束されるという事件が発生した。
この事件は表立って取り沙汰されることは無かったのだが、後年の第一高校の生徒の中では実際にあった事件だと専らの噂だ。このような大事件が何故公表されていなかったのか。生徒の間では魔法師のイメージを落とさないように学校側で隠蔽されたというのが最もの説だが…?
その日、夏期休暇でしばらく問題児と離れていた生徒会メンバーは思い知った…第一高校には奴がいたことを…
秋の初め頃の生徒会室。ここには何時も通りに範蔵以外の生徒会メンバーに加え、風紀委員長の渡辺摩利、両委員会の会長のお気に入りにして生徒会書記の司波深雪の兄、司波達也の姿があった。彼らは他愛の無い賑やかな会話で盛り上がっていた。
そんな時である。
「…!?」
「お兄様、どうかなされたのですか?」
『精霊の眼』を持つ達也だけが気づけた気配。それは窓側から発生していた。咄嗟に鍵を確認すると閉まっては居なかった。急いで施錠しようと接近する達也だが、時既にお寿司。突如として窓が開けられ、二人組の影が入ってきた。
「何事!?」
「敵か…!?」
そうして一同の前に現れたのは…いかにも悪役然とした格好をしたどこか、いや明らかに見覚えのある顔をしたカップルがいた。
「(…あっ、ツッコんだら面倒くさくなる奴だこれ)」
その二人の顔を拝んだ瞬間に達也はやる気を失った。ヤメタランスでもいるのだろうか?
抵抗する気も失せた達也と、二人組の顔を見た瞬間に、面白そうだと思った摩利は、飛びかかってきた二人組からの拘束に一切の抵抗もなくあっけなく捕まってしまう。
「お兄様!?」
「わー、助けてくれ深雪-」
「ふははははははは!残念だったな司波深雪ィ!貴様の兄、司波達也はこのダークネス総司がいただいた!」
「待っていてくださいお兄様!必ずや悪しきそこのダークネスなる者を打倒し、お兄様をお救い致します!」
「摩利!?」
「うわー、助けてくれ真由美-」
「フフフ、渡辺先輩はこの私、ダークネス雫が連れて行きます…」
「待ってて摩利!今すぐあなたの大親友の私が助けるわ!」
「…なぁにこれぇ」
所用があって普段昼に訪れない範蔵が最悪のタイミングで入室する。すると室内のカオスを認識した範蔵は白目を剥く。
範蔵の目の前で行われているのは、悪そうな格好をした総司と雫に拘束された達也と摩利を救おうとする深雪と真由美の寸劇だった。訳が分からない。と言うことで範蔵は巻き込まれた他の生徒会メンバーに質問を投げる。
「中条、これは一体…」
「…(チーン)」
「だめだこりゃ…」
まず範蔵が頼ったのは同学年であり、生徒会一番の良心、中条あずさだったのだが…気の弱いあずさが、いきなりの侵入者が生徒を拘束した状況についてこられるはずも無い。あまりの焦りに侵入してきたのが総司達だとも気づけていないあずさは、唐突な事件に慌てふためいていたし、それ以上に人を殺しかねない目をしている深雪を見てしまっていた。そりゃ白目も剥く。
完全に使い物にならなくなっているあずさを見た範蔵は彼女からの情報入手を諦める。だが生徒会にはもう一人、範蔵にとって頼れる先輩がいる。
「市原先輩、この状況は…?」
「よくやりましたダークネス総司、ダークネス雫。報酬は後日与えるとしましょう」
「市原先輩?」
その肝心な先輩、市原鈴音は真面目に見えて割とノリがいい人物である為、唐突な展開に対処するばかりか、ダークネスコンビのボスを演じだしていた。この生徒会大丈夫か?範蔵は思った。
「へへ~!ありがたき幸せ!ボス!次は何をいたしやしょう?」
「なんなりと、マイロード」
「お前達は一体何キャラなんだ…?」
総司が軽薄キャラなのは別に良い。いつもそんな感じだからだ。だが、雫のキャラがよく分からない。なんだかどこかの魔法犯罪組織にこんな感じのキャラが…と考えたところで、範蔵は得体の知れない恐怖と激しい頭痛に見舞われた。これ以上考えるとサイアクな目に遭う気がしたのだ。
だが鈴音に二人の意識が向いた瞬間、達也を救出しようとする深雪。
「今ですお兄様!こちらへ…!」
「よくやったわ深雪さん!後は摩利を…」
「ふっ…」
「!何がおかしいの!?」
「本当にそれは達也なのかな…?」
「何を言って…!?」
「あ、あーちゃん!?」
「すり替えておいたのさ!」
「「いつの間に!?」」
「愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな敵役!スパ○ダーマッ!参上!」
「混ざってる!某蜘蛛男とR団が混ざってる!」
しかし深雪の作戦は、事前に予期していた総司が達也とフリーズしたままのあずさを入れ替えたので失敗してしまった。
そして総司達は改めて鈴音に指示を仰いだ。
「ふむ…そうですね。お二人の、具体的には七草会長の悔しがる顔が欲しいので人質を連れてそれぞれの相手を煽ってきてください」
「「イエッサー!」」
「女性相手にサーは良くありません。マムと言い換えてください」
「「イエスマム!」」
「宜しい。では行きなさい」
「ひゃっは~!首おいてけ!」
「ミッションスタート…!」
「マジで何のキャラなんだ…?」
範蔵のツッコミが聞こえていないかのように盛大にはしゃぐ総司と静かに燃える雫。そもそも煽るだけなのだから首を取る必要は無いし、もしかすると総司の方が首を取られるかもしれないのだが。
「く、私達は屈しないぞー」
「決して諦めるものかー」
人質役の二人は先程からひたすらに棒読みだ。だが深雪と真由美は完全に我を忘れており、本当に連れて行かれてしまうかも…と焦っていた。バカばっかである。
「ふふふ、これを見ても同じ事が言えるかな…?」
「「そ、それはー」」
「てってれ~!『都合良く洗脳できるビームを撃てるとてつもない何か』~!」
「雑!?ネーミング雑!?」
「喰らえ!洗脳光線!」
「「う、うわー、洗脳されてしまった-」」
「洗脳されて『洗脳された』とか言わないでしょ…」
「お兄様!」「摩利!」
「「おのれゴルゴム!ゆ゛る゛さ゛ん゛!」」
「ゴルゴム!?この二人ゴルゴムなの!?てつを流『何でもかんでもゴルゴムのせい』をしてるだけじゃないか!?」
「うるさいです服部先輩」
「はんぞー君静かにしててくれる?」
「理不尽だろこれ!?」
安心しろ範蔵よ。お前は頑張っている、ただ他がふざけているからお前が相対的に異端なだけだ。
こうしてダークネスコンビはそれぞれが羨むような行為をしていく。雫は摩利に膝枕をされて頭を優しく撫でられている。真由美は羨ましそうにぐぬぬ顔だ。そして総司は達也をまるで自分の騎士かのように自身に跪かせている。
その光景に深雪は…
「……………」
「…あれ?なんか嫌な予感がするでヤンス…」
明らかに総司に向かって殺意と冷気を放っていた。どうやら自分よりがして欲しかった事をよもや総司に先を越されてしまった事が非常に気に食わないらしい。
深雪にとって総司は今、許す訳にはいかない存在となったのだ。
その瞬間、達也を含めた全員が生徒会室の壁側に張り付く。誰もが命は惜しいものだ。
「総司君…?」
「はい!」
「…覚悟は出来てるんでしょうね…?」
「ジーッとしててもドーにもならねえって事ですかね?」
「いいえ、殺します」
「逃げるんだよ~!」
「待ちなさい!」
生徒会室を走り回りだした総司と深雪。特に深雪はお前ホントに令嬢なのか?と言わんばかりだ。それに対し総司は部屋の中に他の人達が居る(特に雫)ためあまりスピードを出せない。そしてとうとう深雪が総司に追いついてしまう。
「お覚悟!」
「くっ!かくなる上は…!」
深雪がお嬢様にあるまじき豪速のパンチを繰り出す!その拳は寸分違わず総司の腹に向かう…!
だが総司はこの状況を回避する方法を思いついたのだ!それは…!
「範蔵先輩!」グイっ
「は?」
総司達は生徒会室で走り回っていた。故に、そして不運にも、近くには範蔵がいたのだ!
「ガードベント!」
「はあ?…ごっふぅ!?」
「…あっ」
「近くに居た…範蔵先輩が悪い…」
総司はそう言い残して雫を回収しながら窓に向かって走り出す。深雪は事故とは言え先輩をノックダウンさせてしまったことで反応が遅れてしまった。
「あばよ~とっつぁ~ん!」
「ハヒフヘホ~」
と呑気な捨て台詞を吐いた総司と雫は、そのまま生徒会室の窓から飛び降り、姿を消したのだった。
後年、第一高校で語り継がれる事になる事件は、一瞬で発生し、一瞬で解決した。公表されていないのは、むしろする方がばかばかしいからである…
魔法科世界の秘匿通信
・この後、総司お手製のお菓子を贈呈された深雪は、渋々許したとか何とか。
・総司達が今回の事件を起こしたのは、前日にルパン三世の映画を見たから。
次回から騒乱編の話に入ります。やっと戦闘だ…!
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~