「ただいま~…」
森崎から達也の護衛を引き受けてくれないかという依頼を受けて二つ返事で拒絶した総司は、珍しく直帰することも、雫と帰ることも無く、どこかに寄り道してきたようだ。
「おかえり総司君」
「おかえりなさい総司君!お邪魔してます!」
「ほのかちゃん?今日も泊まりか?」
総司を迎えたのは雫は勿論、その親友である光井ほのかもであった。彼女は親友の家であり、彼女の家よりも学校へのアクセスがよい総司達の家にたびたび泊まりに来ていた。男がいる家に泊まるというのは勇気が必要だと思うのだが、ほのかは総司が雫にしか興味が無いことを知っていたし、事実総司はほのかの風呂上がりを見ても何も思わないが、雫の風呂上がりには熱いものを覚えるような男だ。何の心配も無かった。
「そう言えば総司君、森境君と何か話してたみたいだけど?」
「森境…?駿のことか!名前ぐらい覚えてやれよ同じクラスだろ…」
「じゃあ総司君と同じクラスの凄腕の古式魔法の使い手の名前は?」
「マリクに決まってんだろ」
「違うよ総司君!?吉田君でしょ!?」
「ほら、総司君も覚えられてないからおあいこね?」
「それならば仕方あるまい」
「仕方ないんだ…」
この家にほのかが泊まった時は、決まってほのかがツッコミを一任されている。最近ほのかは体に疲れが溜まっているような気がしているそうだが、ならば試しに総司達の家に行かないことをおすすめしたい。その疲れは紛れもなくツッコミ疲れだからだ。
「それで何の話だったの?」
「達也の護衛をしてくれないかって」
「護衛!?達也さん何か危険な状況なの!?」
「まあ、そう言えばそうだな。論文コンペの代表チームだし」
「あっ…それもそうだね!ビックリしちゃったよ…」
「でも達也さんに護衛なんて必要なの?」
「それは俺も言ったが、どうやら達也を監視する目的があるらしい。なんでも達也は最悪のトラブルメーカーだからだってよ」
「…?それほど達也さんって問題持ってきてたっけ?総司君の方が問題だと思うけど」
「細々した問題を大量に持ち込んでるらしいな。俺が持ち込むのは大きめのものだ」
「今総司君さりげなくディスられてた…」
「マジじゃん…」
「え?そんなことないよ?」
「「無自覚…!」」
「ちょっとちょっと雫さん?貴女の親友さん毒舌過ぎない?」
「大丈夫、多分他意は無いから。天然故だから」
「?」
ほのかは少し抜けている故に飛び出てくる毒舌が鋭そうで恐ろしい。
「でも、護衛くらい風紀委員で付ければ良いんじゃ無いの?」
「達也より弱い奴を付けても護衛にならないだろ」
「でも総司君なら達也さんの護衛にもなれるぐらい強いよね!」
「やっぱり達也を優先した物言いだな…」
「ほのかは達也さんのこと本当に大好きだよね」
「えっ!?ししししし雫!?なななな何を言ってるの!?」
「もうみんなにバレバレだぞ」
「嘘でしょ…!?」
「その台詞を言うには君はスタイルが良すぎるぞ」
「先頭は渡さない…!」
「そうそうこんな感じ」
バチコーン!と雫に頭をぶっ叩かれてその場に崩れ落ちる総司。人の体型を使ったボケは時と用法を正しく守って使う必要があるのだ。
「それで?結局その護衛の件はどうなったの?」
「言い出しっぺだから自分でやれと花音ちゃんに相談してみたら?って提案した」
「え?でも千代田先輩は五十里先輩を護衛するんじゃ無いの?」
「達也は強いんだから護衛するんじゃ無くて一緒に啓君を護衛したらどうかと思ったから。森崎曰くすっごい嫌な顔しながら承諾したってよ」
「それなら解決だね」
「そうだね!それに別に危ないことがそうそう起こる訳無いし!」
「……」
「…総司君?どうしたの?」
「いや、何でも無いよ雫ちゃん。二人とも明日も早いから夜更かしは程々にな」
「はーい!分かりましたお父さん!」
「…分かってるよ、お父さん」
「俺は君たちを育てた覚えは無いんだが?」
と言った平和な会話を続けた三人はそれぞれの寝室(普段は総司と雫が同じ部屋で寝ているが、ほのかが泊まりに来たときは客間でほのかと雫が寝る)に向かう。二人が部屋に入ったのを見届けた総司は、自室で情報端末を開く。
「平河…大亜連合…」
総司は情報端末に検索ワードを入力して行く。すると…
「…ビンゴ。平河先輩の事故は大亜連合による作為的なものだな」
総司の情報端末には通常では得られないような極秘情報ですら表示される。何故なら彼は世界で八人しか居ない存在の一人だからだ。
先日の大亜連合の襲撃の際にも、その襲撃が司波小百合の持つ勾玉系統のレリック目的だった事を突き止めていた。不用意に首を突っ込むと面倒になるからとそれ以上の事を調べては居なかったが、達也が論文コンペに選ばれた原因となった事故も関係しているかもしれないと思った総司は踏み込むことを決意したのだ。
「目的は…レリックが魔法式保存の効力を持っている可能性が高いからそれを利用した魔法兵器の量産か…実現したら魔法師を超える脅威になるかもしれないな…」
総司は魔法を使えないのはその魔法式を上手く認識できないからだが、彼の頭脳はこと戦闘となるととても冴え渡る。彼は保護者にしてベテランの元軍人である九島烈に兵法を習っている。彼は戦争があったとしても前線で指揮が出来るのだ。総司が前線にいるなら策をろうじ無くても勝てるだろうが。
そんな中で、彼は衝撃の情報を得た。
「…論文コンペの襲撃…やっぱり仕掛けてくるのか…は?」
その情報とは論文コンペが襲撃されるという、それだけでも頭を抱えたくなるものだったが、総司が一番に目を引かれた情報はそれでは無かった…
「…日本の九島から奪った橘総司の遺伝子によるクローンの投入…!?」
それは自身のクローンを戦争に用いるという情報だった。それだけで総司には衝撃だった。確かに自分のクローンがあずかり知らぬ場所で敵に利用されるとは思いもよらなかったが、総司は一番強く、こう思ったのだ…
そんな物使い物にならんだろうと…
総司がこう思ったのは、一重に自身の魔法技能を鑑みてだ。総司と同等の身体能力を得た兵力を欲しがったのだろうが、総司は自分が異常な存在だと自覚していた。理由は以前九島で行われた、総司の遺伝子を用いることで人の生命力を飛躍的に上昇させられるのでは無いか、という研究が失敗だったからだ。
この研究は烈の孫である九島光宣の治療に役立つかもしれないと行われたのだが、結果は失敗だった。計器はどうやっても総司の遺伝子が通常の魔法師と変わらないと出力していたのだ。実験動物で試しても大した異常性を見せることは無かったのだ。これにより総司の異常性は総司だからこそのものであると結論づけられたのだ。
実際得た情報では、作られたクローンは全員が大小はあれど身体強化の魔法に高い適性を示した事から、白兵戦用の兵士の開発は出来ているのだが、本来の用途である総司を抑える役目は到底敵わないとされていた。故に当日は総司以外の人間を狙い、総司と遭遇した場合は即刻の撤退をする事を学習させたようだ。
「俺以外を狙う…か。俺への風評被害酷くなりそうだな…防衛戦をしてても敵と間違われるかもしれないしな…そうだ!」
とここで何かを思いついたのか、総司はある人物へ電話をかけた。
「…あ、もしもし烈爺?ちょっと教えて貰いたい事が…」
大亜連合は、総司が完全に計画を悟っているとは知らないで、みすみす自分達から突撃をする羽目になってしまったのだ。横浜において勝利するのはどちらか、既にこの時点で決められたようなものだった。
魔法科世界の秘匿通信
・ほのかがよく泊まりに来るのは、一度泊まった時に総司の夕食が美味しかったからとか
・総司のクローン共…総司と戦うことはない。総司とはね?
大亜連合って横浜で騒乱起こして結局何がしたかったんでしたっけ…
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~