横浜騒乱編の後に九月頃に二人で混浴ありの温泉に行った話でも書きますわ。
会場の近くで突如として発生した爆音と振動。論文コンペに訪れていた聴衆の殆どは状況を理解出来ずにざわついていた。
「深雪!」
「お兄様!これは…!」
「ああ。総司の言っていた通り、大亜連合の襲撃だろう」
発表が終わった直後でステージ上にいた達也はすぐに深雪の元へと駆け寄る。
「でしたら今の爆音は…!」
「おそらくは正面出入口で擲弾が爆発したのだろう」
「それってグレネードってことか?」
深雪に続いていつものメンバーも達也の元に集う。その中で雫だけが事情を知っており、司波兄妹とアイコンタクトを取る。
「それって大丈夫なの?先輩達もマズいんじゃ…」
「それに総司さんも戻ってきていないですし…」
「正面には協会が手配した正規の警備員が担当しているし、そこには実戦経験のある魔法師もいる。ただの犯罪組織レベルの相手なら問題ないはずだ。それと、総司なんて殺しても死なないような奴の心配は無用だろう」
そう言ってエリカと美月の質問に答えた達也。実際は相手が相手なだけに総司の事は心配ではあるが、今は深雪や雫達の保護が優先される。
とその直後、複数の銃声が聞こえた。
「(フルオートではない…!対魔法師用のハイパワーライフルか!)」
実戦魔法師の魔法には銃器を無効化する物が多々存在する。最もな例としては十文字家の『ファランクス』だろう。総司に破られた印象が強いが、総司に異能が無ければ彼でも突破困難な硬度を誇る『ファランクス』は銃器の無効化手段としては最高峰だ。
しかしそれに対抗しないほど銃器を使用する国々は柔では無い。往々にして防御力以上の攻撃力を持つ兵器を生み出すものだ。ハイパワーライフルはその一例であり、魔法師の防御魔法を超えるほどの高い慣性力を生み出す高速銃弾を放つ事が可能だ。
だが高性能な武器である分、通常の銃器製造技術よりも三段階程高い高度な技術が必要だ。小国では製造どころかコスト面で配備すらできないだろう。
「銃声、大分近いね…これもう直ぐこちらに来るのでは?」
「…どうやらそのようだな。…総司め、本当に此処の守護を押し付けていきやがったな…」
幹比古の予想通り、銃器を構えた集団が客席に雪崩れ込んできたのだ。恐怖に呑まれる聴衆が多数であり、客席を護衛していた生徒達も動揺して上手く動けていない中、流石は実戦的な教育を施している三高といったところか、ステージ上で次のプレゼンをするはずだった三高生が魔法を発動しようとした。しかしそれより早く銃弾がステージ後ろの壁に穴を開ける。その弾の威力から見て達也の推測通りハイパワーライフルだ。入ってきた者達全員が同種の物を装備している点を見ると、やはり魔法後進国とは言え大亜連合は大国なのだと思い知らされる。
「大人しくしろ!」
たどたどしい怒声を聞いた達也は、「侵攻する予定の国の言語を学ぶなんて変に律儀だな」と変なことを考えていた。しかし状況は悪い。
現代魔法がCADにより高速化した事で銃器と対等な速度を手に入れたとは言われているが、あくまで対等なだけであり、魔法師の力量次第ではその限りではない故、銃を相手が既に構えて居た場合はむやみに抵抗しないのがセオリーだ。
「デバイスを外して床に置け」
どうやら侵入者達は魔法師相手の戦闘になれた様子だ。ステージ上の三高生が悔しそうにCADを床に置く姿が見える。どうやら三高生にはこう言った場合の対応の仕方もキッチリと教えられているらしい。そして侵入者は達也に目を付けた。
「おい、オマエもだ。早くしろ!」
侵入者の一人が銃口を向けたまま慎重な足取りで達也に近づく。
侵入者は客席に居るだけでも六名。『精霊の眼』を用いてCADなしで照準をつけた達也は苦虫をかむ。
「(ここまで人目がある場所で力を使いたくはないが…)」
そう、達也にとってこの程度の敵相手にもならない。しかし総司と違って手札を隠したい、隠さなければならない今の達也では少々厳しい物がある。
すると近づいてきた敵兵の様子がおかしい。どうやら素直に従わない達也に苛立ちが募っているようだ。そしてそれが限度になった時、
「っち!」
「おい待て!」
敵は仲間の制止も聞かずに引き金を引いた。後々達也は「よくあそこまでせっかちでここまで生きて来れたものだ」と回想する程には我慢強くなかった敵兵。三メートルしか離れていない距離で放たれた銃弾は達也を貫く…
「…はあっ!」
「!」
「何っ!?」
く事は無かった。一瞬の内に達也と敵兵の間に割り込んできた人影…壬生紗耶香によってハイパワーライフルの弾丸が切られる。よって達也に弾丸があたる事は無かった。更にもう一発撃とうとしている敵に向かって壬生は一瞬で距離を詰めてハイパワーライフル本体を切り裂く。
「(発動の兆候が僅かだった…これはまさか、五十里先輩の刻印魔法?)」
達也が『精霊の眼』で確認した情報によれば、壬生が一瞬で距離を詰める事に成功した原因の強化魔法は、靴に仕込まれた刻印魔法である事に気づいた達也。となれば開発者は一高に在籍している刻印魔法の重鎮、五十里家の次期当主、五十里啓以外にはいないだろう。
「野郎っ…!」
「させないよ」
達也に近い扉から入ってきたもうひとりの兵士がこちらに銃口を向け直そうとするが、雫の『フォノンメーザー』によってライフルを破壊されてしまう。他の入り口から入ってきた兵士達も達也に攻撃をしようとするが、爆音が聞こえた辺りから術式を構築していた幹比古の『雷童子』で二人、クイック・ドロウを用いた森崎の早撃ちで二人と即座に制圧されてしまった。
「クソがっ…!」
達也に銃撃を放った兵士は諦めずにナイフで突っ込むが、ナイフを壬生に弾かれ、ガードが空いた所に達也が動いて拳を叩き込んで気絶させた。
今起こった光景にステージ上の三高生達を始めとして、殆どの聴衆がポカンと口を開けている。兵士を撃退した面々は何処吹く風といった表情だが。
総司は達也以外には雫や老師にしか今回の襲撃の情報を与えていなかったはずだ。いくら彼らが優秀だと言えども、なぜここまで早く対応出来たのか、達也は気になった。
「壬生先輩、何故反応できたんですか?それにその刻印魔法は…」
「えっ…と、司波君だっけ?何故って言われたら…ここ最近総司君が不安げな表情をしていたからかな?」
「…というと?」
「総司君、笑ってはいるんだけど何か気にしてる風だったのよね。それでここ最近の論文コンペ絡みの問題。絶対論文コンペで何かがある!って思った私と武明君で五十里君達に協力を要請して色々準備してたの。だから、この襲撃は予測できていたの」
達也はあずかり知らぬところだが、壬生と桐原は四月に総司と三人でブランシュ日本支部にカチコミをかけている。十師族が通う一高が付近にありながらもブランシュのアジトを突き止められていなかったのに対し、総司という一個人がその場所を知っていた点から、何かしらの情報源がある、というのが壬生と桐原の共通認識だった。
だがそれ以上に、総司の起こすハプニングによって、突如として起こる事態への耐性が出来ていたことも大きい。幹比古と森崎も同じ理由で耐性を付けていた故に即座に動けたのだ。総司のせいでテロにすら驚かなくなってしまったという事は、かなりの回数総司によって胃を痛めつけられているという恐怖の方程式ができあがったが見なかったことにしよう。
「では、正面付近を警備している先輩方も?」
「ええ。今回の事は予測していたはずよ。証拠にもう銃声が聞こえないし」
「確かに…」
壬生からの言葉を聞いた達也が再び正面の方へ『精霊の眼』を向けると、襲撃者達は既に縛り付けられており、見覚えのある気配が四つ固まっていた。恐らく桐原、範蔵、花音、克人の四人だろう。ここまで総司の関係者達が活躍していると、総司の存在が周囲の人を変えていくのかもしれないと、そんなファンタジーな思考をする達也。
「…一高はどんな教育をしているんだ!?」
何やらステージ上で真紅郎が恐々としているが、達也は気にしないことにした。
魔法科世界の秘匿通信
・壬生や幹比古はともかく、森崎も客席内にいたのは、自分が雫を守っていれば少しは総司が安心して戦えるという森崎なりの配慮。よく四月からここまで持ち直したな…
・この時間には既に投入されたクローンの二割が総司と琢磨に蹂躙されている。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~