「特尉、情報統制は一時的に解除されています」
突如として達也達の前に現れた藤林響子。その後ろから軍服の少佐の階級章を身につけた男性が入室してくる。この場にいた全員が困惑の表情で二人を迎える中、響子が達也に放った一言で司波兄妹は冷静さを取り戻し、逆に他の者は困惑の視線を達也にも向けるようになる。
そして達也の敬礼に敬礼で答えた少佐らしき軍人は、他の者…主に克人に向けて名乗る。
「国防陸軍少佐、風間玄信です。訳あって所属についてはご勘弁願いたい」
らしきではなく本当に少佐であった軍人…風間の名前に聞き覚えがあった十文字は「なるほどこの御仁が…」と考えながらも返答をする。
「貴官があの風間少佐でいらっしゃいましたか。師族会議十文字家代表代理、十文字克人です」
と魔法師界での形式的な肩書きを添えて敬語を使用して名乗った克人。彼はまだ十八歳の高校生、いくら身内でも目上の人には敬語を使う。十師族関係者で上の者にも敬語を使わないのは総司ぐらいのものだ。
それを聞いた風間は全員が、特に克人と達也を視界にいれるようにして移動する。
「藤林、現在の状況をご説明して差し上げろ」
「はい。我が軍は現在、保土ケ谷駐留部隊が侵攻軍と交戦中。また、鶴見と藤沢より各一個大隊当地に急行中。魔法協会関東支部も独自に義勇軍を編成し、自衛行動に移っています。加えて、所属は不明ですが、こちら側の魔法師と思われる者が二名程、別々の地域で戦闘行動を起こしているようです」
「ご苦労。さて特尉」
短く響子を労った後、風間は「特尉」という呼称とともに顔を達也に向けた。
「現下の特殊な状況を鑑み、別任務で保土ケ谷に出動中だった我が隊も防衛に加わるよう、先程命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官にも出動を命じる」
風間の言葉にこの場の何人かが口を開きかけたが、風間の視線に封じられる。
「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置である事を理解されたい」
厳しい単語、重々しい口調、その二つを超える視線の圧にこの場の誰もが閉口した…一人を除いては。
「あの…すいません」
「む?なんですかな、レディ?」
その一人とは、明らかに別の事に興味が行っていることが見て取れる北山雫だった。その様子から、達也関連の情報への追求ではなく、別の事を聞きたいのだろうと考えた風間は続きを促す。
「その…所属不明の魔法師の映像とか、ありますか?」
その質問には一高生達全員が「ナイス!」と叫びそうになるものだった。雫は今回の戦闘、嫌な予感がしている。総司は大丈夫だと信じたいが、一度位は映像かなにかで無事を確認したいものだ。他のメンバーも同意見だった。
「…いいでしょう、藤林」
「……」
「…藤林?」
「あっ、はい!ただいま!」
その要求を承諾した風間が藤林に監視カメラの映像を映させようと指示を出す…が、彼女は何故か一瞬言いよどむ。心なしか「(見るの嫌だなぁ…)」といった表情だった。
「…こちらです」
「…あっ!この子、見たことがあるわ!」
「ああ、俺もある。二十八家、七宝家の長男の七宝琢磨だな」
「なるほど彼が…話には聞いていたが、確かに総司と同レベルと言っても違和感が無いな」
「本当に橘君のクローンですね…」
「だけど、本物ほどの脅威は感じませんね」
「あくまでクローン。劣化版と言ったところかな…」
最初に映し出された映像は琢磨が総司のクローン相手に戦闘をしている場面を映し出していた。何かしらの魔法を使っているのか、それともオリジナル同様持ち前の身体能力なのかは分からないが、クローン達も中々の速度で戦闘を行っている。並大抵の軍人では一人倒すのに相当な時間がかかり、尚且つ一人では対処しきれない速度の為、クローンの対応に人を割く羽目になっていて、その隙を兵器で突かれたりと各所の戦況は悪いようだ。しかし琢磨は尋常ではない速度でばったばったとクローンを殴り、蹴り、投げ、ちぎり、叩きつけなどとオリジナルと比べても遜色ないほどの戦闘力を見せつけている。
因みにだがクローンの速度はやっと目で追える位の速度であり、普通に高スペックなのだが、一高生達は上位互換に慣れすぎていて劣化版として脅威に見ていない。実際彼ら彼女らには脅威では無いのかもしれない(白目)
「…そして…これが…もう一つの地域の映像です…!」
そう本当に言いたくないけど命令だから…!と、丸で
「…誰だ?あの
「この地域には総司君がいるんじゃ無いの?」
「しかも軍服姿…?」
三巨頭が言うとおり、総司では無く謎の覆面の女の子がビルの屋上に立っている映像だった。同じく総司が居ると思っていた二年生組も首を傾げる。明らかに動揺していたのは一年生組だ。確かに映像の少女は総司では無い。だが総司が
「あ、総司君だ。無事で良かった…」
「「「「ゑ?」」」」
あの完璧総司感知機として名高い?雫がその少女を見て総司君と呼んだのだ。雫のセンサーに間違いは無い、となればあの少女は総司であるということなのだが、俄には信じられず…
『国を護れと人が呼ぶ!』
「「「!?!?」」」」
それは唐突に映像の覆面少女が声高らかに叫んだ声の録画音声だ。あまりにもいきなりなためみんなビックリした。
『愛を護れと叫んでる!』
「おい、これって…」
「ええ。確かにこの変人っぷりは…」
もし仮に別人だったとして、少女に対して明確に失礼な会話を行う剣道カップル。まあこの尖り具合と雫の太鼓判が決め手となり、最早正体は明らかだった。
『憂国の戦士!国防仮面、参上!』
「「「「「なにやってんだアイツー!?」」」」」
そう、国防仮面改め、東郷みもゲフンゲフン。国防仮面の正体は、対抗魔法、『
『中華の皮を被ったエセクライシス帝国め…!我が日本国に攻め入ろうとは愚かな真似を!この国防仮面が断罪してくれよう!イットゥミトゥルギスターイル!天皇陛下バンザーイ!』
「もうやめて総司君…これ以上恥をかかせないでぇ…」
「う、あーその、なんだ。藤林少尉。もう十分だから映像を止めても構わん」
「はい…ご配慮感謝します…」
身内の恥を見せつけられて意気消沈している響子。正直言ってまだ見たい気持ちはあったが、ああふざけている奴もいるとはいえ今は危険な状況であり、これ以上の長居は無用であると理解していた面々は、先程の映像にはこれ以上触れず、シリアスな顔をする。尚、摩利や桐原、花音といった一部のメンバーは笑いを堪えきれずに肩が上下していた。
「…あのー特尉?君の考案したムーバル・スーツの準備がしてあります。急ぎましょう?」
気まずい空気の中、扉から恐る恐る達也に話しかけた真田。その声に頷いた達也は友人達に振り向いてこう告げた。
「すまない、聞いての通りだ。みんなは先輩達と一緒に避難してくれ。雫、間違っても総司を迎えに行こう等と考えるなよ」
「分かってるよ」
「特尉、皆さんは私と私の隊がお供します」
「ありがとうございます、少尉」
響子に一礼し、達也は風間の後に続こうとする。この場の誰もが呼び止める気配を出さなかった。だが、
「お兄様、お待ちください」
深雪が思い詰めた表情で達也を呼び止めた。振り返り、目を合わせることで、自分の妹の意図を感じ取った達也は、風間に目を向けて深雪の傍に歩み寄る。風間はその目線を察して先行した。深雪の目の前に立った達也は、彼女の前に片膝をつく。そして深雪は兄の顔を自分の方へと向け、腰を屈めて、敬愛するお兄様の額にキスをした。
瞬間、目を灼くほどに激しい光の粒子が達也の体から沸き立った。
「ご存分に」
「征ってくる」
万感を込めた妹の視線を受けて、達也は戦場となった横浜の街へ出陣したのだった…
魔法科世界の秘匿通信
・国防仮面:分からない人は『ゆゆゆ 国防仮面』で検索しよう!分かる人には分かるが、総司の見た目は国防仮面本人と相違無い為、メガロポリス級の虚乳がついている。
・響子さんは総司君がパレードを使えることを烈経由で知ってた。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~