後、勘違いされている方がいらっしゃるかもですので補足をしますが、総司君の異能は、エイドスの正常化ですが、その対象は本人が選ぶ事が出来ます。例えば味方にバフを掛ける魔法があったとすれば、総司君がそれを拒否しなければ問題なく恩恵を受ける事が出来ます。
一言で言えば融通の利く『幻想殺し』です。
「…っは!ハァ、ハァ…」
「…何で俺の腕が戻ってるか分からないって顔してるな?」
「そうだよ…なんだよその魔法、チートじゃねえか勝ち目無いんだが?」
「そうだよな、俺も強力な魔法だと思ってる。本当、助かったぜ」
腕でのガードが間に合わず、顔面に強力な拳を受けた零次。本来の身体能力は常人並である零次だが、咄嗟により防御力が高まるようにと硬化魔法を使用し、異能で保護されたその防御力は破られることは無く、零次は未だに五体満足だ。しかしダメージがないとは言わない、強烈な衝撃を受け流しきることが出来ず、内臓にダメージを負ってしまった零次は最早立ち上がる事すら出来ない様子だ。
そしてそんな零次を見下ろしている総司の元に二人寄ってくる。
「橘総司…今の魔法は一体…?」
「よう、一条。これは俺から話す訳にはいかない魔法だな」
「だが、総司よ。先程までお前の腕が欠損していたのを俺はこの目で確かに見た。一体どんな治癒魔法なのだ」
「だから克人先輩!俺から話すことじゃないって言ってんでしょ!」
そこにいたのは日本の魔法師の頂点に立つ十の家、十師族。その内の二つの家の次期当主(克人は現当主の体調を鑑みて既に当主の様な扱いであるが)の二人だった。この二人は零次と圧倒的に相性が悪い。零次の手数は脅威的だが、それでも克人の『ファランクス』を完全に打ち破るまでには至らないような魔法が多く、防御を抜こうとしても時間が掛かる為妨害を受けて失敗してしまうだろう。零次の異能は総司の異能に対するメタであり、直接干渉してくるような魔法にも耐性を持つが、相手の魔法を無効化できると言う訳でもない。零次では克人の防御を容易には突破出来ないのだ。
そして将輝の『爆裂』は、直接干渉してくる魔法である為、一見零次が有利に見えるが、周囲の物を爆発させたりなど応用が利く強力な魔法である。しかも使い手が自分や総司、琢磨よりは劣るとは言え、圧倒的な機動力を持つことに変わりは無い。純粋な魔法師では唯一と言って良いほど零次を倒すことが出来る可能性が高い魔法師である。
此処、魔法協会支部前で克人が戦闘行為をしていたのを知っていた(将輝の事は知らなかったが)総司は共に協力して零次を打ち倒そうとしていたのだ。
「…こりゃ、流石に負けかな…?」
「そうだな、立場は完全に逆転した。お前の負けだ零次」
先程とどちらが優勢かが逆転したこの状況、更に総司側には強力な助っ人が二人。零次には勝ち目がなかった。
「…しかし、どうしてお前のクローンがこんなに大量にいたんだ、橘総司」
「あ~、このお坊ちゃん知らねえのか…」
「誰がお坊ちゃんだ!…というか、まさかお前、侵略者に協力している訳ではあるまいな!?」
「待て一条、総司が無実である事は俺から保証させてもらう。これは本人ではなく、管理側の問題だ。総司を批難するのは今一度考え直して欲しい」
将輝は事情を知らない。彼からしてみれば、いきなり本当の殺し合いが始まったと思えば、今年の夏に自身に苦汁を飲ませた男と同じ顔がウジャウジャ街で暴れ回っていたとなれば、総司が相手に加担したと考えるのも無理はない。だが事情を知っているであろう克人が、身内贔屓であったとしても問題が無いことを保証したとなれば、将輝はこれ以上食い下がる訳にもいかない。
「さて…質問だが、そこの橘総司の偽物!お前達の目的は何だ?」
「…俺の目的は、そこにいるオリジナルを殺すことだ」
「俺はお前達と言ったぞ?お前の国が今回侵略行為を行った理由を話せと…!」
「おいおい、落ち着けよプリンスさんよ。ステイクールってお前がユージオに教えてたんじゃないか」
「俺は某黒の剣士じゃない!いくら声が似てるからっておちょくってるとぶっ飛ばすぞ!」
「ダディヤナザン!?」
「橘はお前だろう!?」
「喧嘩するなお前達…まあ、協会支部があるこの横浜を襲撃してきた理由は明白だ。協会に管理されている機密文書などの閲覧、これだろうな。今回横浜を狙った理由としては、京都よりも海上戦力を使いやすいのと、今年はここで論文コンペが行われていたからだろう。あわよくばコンペでの新技術も奪取しようとしたのだろうな」
生真面目な性格がたたり、相変わらず総司に弄ばれている将輝。そしてその横で克人が限りなく正解に近い推論を立てた。流石は当主代理といったところだろう。そんな並の魔法師であれば実に恐れ多い十師族の二人の間に挟まっている総司は、
「…ハァ、ハァ」
場面は変わって横浜のとある高層ビルの屋上。そこには国防軍の誇る最新型のクソダサスーツ…もといムーバルスーツを着用した者が、疲労を隠せないといった様子で膝をついていた。そしてその者はヘルメットを外す。その小隊は我らがお兄様、司波達也であった。
彼は今、かつて無いほどに疲労を感じていた。その理由は…
「(さっき総司に魔法を行使したとき…通常よりも遙かに大きい負荷が掛かった…)」
そう、総司の腕が再生していたのは、そして今全回復したかのように振る舞っているのは、先程達也が自身の魔法…『再生』を総司に行使した故、肉体の時間が一日前に戻った事に由来していた。そして達也はその魔法行使での負荷の大きさに膝をついているのだ。
達也は、総司を再生する際に一度総司全体をスキャンしてロードしたのだが…
「(…総司に掛かっていた
その時、総司の中でとてつもない規模の魔法式が、コンマ以下で永遠にロードされ続けていたのだ。その規模はあまりに強大、達也が咄嗟にその魔法式を無視する方向で『再生』の魔法式を組み直していなかったならば、
そして達也は総司に対して一つの推論にたどり着く。
「まさか…総司は俺と同じ『BS魔法師』なのか…?」
とここまで思案した時、さりげなく駅前から生還して、他の部隊と合流していた響子から通信が飛ぶ。
『特尉、聞こえますか?』
「はい、藤林少尉。聞こえます、一体どうしましたか?」
要らぬ不安を抱かせない為、疲労を感じさせないように努めて声を出した達也。対面であったならば気づかれたかもしれないが、通話越しでは気づかれなかったようだ。
『特尉の現在地から、港の方は視認できますか?』
「ええ、可能ですが…なるほど、あの貨物船になにかあるのですね?」
『アレは貨物船に偽装された敵方の揚陸艦です』
「ならば即刻撃沈しなければならないのでは?」
『敵艦はヒドラジン燃料電池を使用しています。東京湾内で船体を破損させては水産物に対する影響が大ききすぎます』
「…それで?」
『…『マテリアル・バースト』を用いて燃料ごと一瞬で燃やし尽くすことで影響なく撃沈が可能であると結論付けられました』
「…了解しました」
達也は遂に自分の禁じられた魔法を放つときが来たかと内心苦々しい思いで、もう一度総司達がいた場所を見やる。すると…
「藤林少尉」
『何かありましたか特尉?』
「件の揚陸艦の制圧に橘総司並びに十文字克人が動いたようです」
『…はあー(クソデカため息)』
そう、達也が振り向いた丁度その時、何かしらの情報を受け取ったと見れる克人をおもむろに背負い、そのまま港まで駆け出したのだ。
「藤林少尉、彼らがどのように敵艦を鎮圧するつもりなのか分かりますか?もし船体を破損させるようなやり方では止めなければ…」
『いえ、もう間に合いません』
響子の言葉を受けて、急いで港の方を見ると既に総司達は到着していた。
そして…
「しっかり捕まっててくださいよ克人先輩!」
「頼むぞ、総司!」
時間は僅かに戻り、零次を倒した場所から二人が移動する時。二人は揚陸艦が湾内から逃げだそうとしている事を十文字家の人間からの情報で知った為、急ぎその制圧に向かうことにした。ボロボロの零次の見張りは将輝だけでいいと判断したのだ。
克人は周囲を覆うように『ファランクス』を展開する。これによって空気抵抗からも身を守れるようになった為、総司は克人に気を遣うことなく全速力で駆けていく。
「追加の情報が入った。どうやら目的の船の動力には水産物に悪影響をもたらすものが使われているらしい」
「なら、海の上で撃沈しなければ良いんですよ!」
「フッ、まさしくその通りだな」
脅威的な速度で港まで到着した二人。『ファランクス』の耐久力に物を言わせて強引に総司から降りる克人。そして総司は減速することなく駆け、海からギリギリの位置で離れていく揚陸艦に向かって跳躍する。そして跳躍した総司がやがて曲線を描くかのように落下していき、海に落ちる…と言うタイミングで、克人が水平に『ファランクス』を展開した。
『ファランクス』は足下に展開することも可能で、そうすれば最硬の足場たりえるのだ。そして足場があると言うことは、総司が踏ん張れると言うこと。
「ふ~んぬう!」
ボギャッ!と音を立てて船体を軽くめり込ませ掴み上げる総司。それは端から見れば、一人の人間が海の上で大型船を持ち上げるという異様な光景だった。そして総司は、ウルトラマンが怪獣に度々するように、自分ごと回転することで遠心力を付ける。
「お~らよっと!」
そしてリリースすることで、内陸側に揚陸艦を投げ飛ばす総司。そしてそのまま、『ファランクス』の足場をジャンプ台に再び跳躍。
「う~らぁ!」
ものすごい速度で空中を移動する揚陸艦、それを遙かに凌駕する速度で跳躍した総司は、拳を突き出して突進する。そしてその拳は船体を貫通し、揚陸艦は空中で大爆発を起こしたのであった。
「…海上で破壊してはならないなら、陸上で破壊すれば良い…確かにその通りだが、何たる暴論だ…」
その光景を眺めていた将輝は、総司の行動に呆れながらも、目の前にいる零次から一切警戒心をなくさない。
「すげぇだろ、アレが俺のオリジナルだ」
「…気になった事がある」
「あ?」
自分のコピー元を賞賛する零次に、将輝は問いかけた。
「何故、お前達は橘総司を元に作られたんだ?」
「何故って、見て分かるだろ?強いからだよ」
「いや、それだけではないだろう」
「…」
「…沈黙は肯定と受け取ろう。それでお前達の親玉は…
その問いに答えを返さず、ニヤリとした笑みを浮かべる零次。その様子に、思わず将輝は声を荒げてしまう。
「答えろ!お前達の製造目的は一体…」
「申し訳ありませんが」
将輝が言いかけた時、真後ろから声が聞こえた。
「その件については彼も、私も、あの方より堅く口を閉ざすように仰せつかっているのです。誠に申し訳ございません、一条の御曹司様」
そこまで聞いて、将輝の視界は暗転した。
魔法科世界の秘匿通信
・達也の処理能力でも処理しきれなかった謎の魔法:実は九校戦で総司の試合を観戦した深雪が体調を崩したのは、なまじ処理能力が高い為、何が起こったのかを理解しようとして、脳が本能的に拒絶したからである。
・最後の声:零次が倒されたのは魔法協会支部前。横浜の支部の近くには中華街があり、そこにはあの男が店を構えている。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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