「あっ、お兄さんは何飲みます?」
「あの、本当に奢っていただいてよろしいんですか?」
「構わないよ。それと俺は…」
三人連れだって入店したカフェの中、何故こうなったのかと頭の中で反芻している内に、逆ナンに引っかかってしまった零次。双子の内ナンパしてきた方…香澄からの質問に答えている最中、零次は自分が何故此処にいるのかを思い返した。
別にこの二人と浅からぬ因縁がある訳でもない。というか、零次は実年齢的にまだ生後数ヶ月だ。喧嘩を掛けに行った一高相手ならともかく、無関係の人間との交流など持っていなかった。
零次は今日、数日前に西城レオンハルトとパラサイト達が交戦したという知らせを受け、警察だけでなく魔法師も動き出した事を察知した。彼の任務はパラサイトの援護…という名の護衛である。彼を動かす上の人間はパラサイトを利用して日本にパイプを繋ぎ直そうとしている。ともなればパラサイト達が早々に消えてしまうと困ってしまう。パラサイトは人智を超えている存在だ。いくら宿主を殺しても、本体の独立情報体が破壊されない限りはいくらでも再生が利く。
だがそんなパラサイトを倒してしまいかねない存在がいる。それが情報体を直接狙い撃てる達也と、広範囲を精神干渉系魔法で覆うことでパラサイトを無力化してしまい兼ねない深雪。それに時間がたちすぎると幹比古を始めとした一流の古式魔法師が封印の術式を完成させてしまうだろう。まあ、総司が太平洋をすっ飛んでくる可能性も無きにしも非ずであるが。
パラサイト達は東京方面で活動している。と言うことは援護に向かうならば零次も東京に来た方がいいだろう。そんな考えの基、零次は上京してきた。モチロン彼も、東京が七草と十文字…主に七草だが、二つの十師族による堅い守りを築き上げていることは分かっていたつもりだ。だがその範囲内でまさかの七草本家の双子に出会うなどと零次は想定していなかった。寧ろ想定していた方が怖い。
『君たち可愛いね~、双子?w』
『今から僕達とお茶しない~?w』
『『……』』
『…何て前時代的な』
当初から相手が七草の双子だと、零次は知っていた訳では無い。道すがらの路上で、明らかに脳味噌から軽そうな男二人が、双子の女性達にナンパを掛けていた。普通なら他人事と見過ごすだろう、しかし沈黙という選択肢を女性側が取っているにもかかわらず、折れずに誘い続ける男。こう言うタイプは溜めに溜めた苛つきを解放して、突如として女性側を掴んで連れて行って無理矢理というパターンがありがちな気がするのだが(ナンパエアプ勢)、今回はそのパターンに当て嵌まりまくっていたので、男達はそれぞれ双子の腕を強引に掴む。いきなり掴まれた双子は面倒くさそうな表情から、一瞬で恐怖に染まった顔になる。
そんな時に割り込んできたのが零次だ。彼は確かに悪逆の徒に力を貸してはいるが、彼自身が悪人という訳でも無い。というか総司のクローンである以上、二人の思考には一定の類似が見られる。その一例として、彼らは若干控えめな体型の方が好みだったりするし、そもそも好みに限らず女性が絡まれていたらすぐに助けるラブコメ主人公みたいな生態でもある。と言う訳でその男達を一睨みで黙らせた零次はその場を去ろうとするのだが、双子の内一人…七草香澄に呼び止められたのだ。
正直に言って零次はかなり焦った。七草家を警戒しておこう等と考えていた矢先に関係者どころかその家の出身の者に出くわすなどと予想もつかない。恐らく彼女達が成熟していればあの程度のナンパにおびえる事も無かったであろう。だが彼女達はまだ中学生であり、魔法師としての絶対的アドバンテージを由来とする精神的安定を求めるのは間違いである。
「へえー!零次さんって最近こっちに来たんだー!」
「そうなんですね、今まではどちらに?…横浜ですか」
「横浜って…この間敵に攻撃されたところじゃん!大丈夫だったんですか!?」
「ま、まあね…一応魔法師ではあるから、あの戦場で戦ってもいたよ」
「すっごーい!やっぱり零次さんかっこいい!」
香澄の幼児退行でもしたかと疑うレベルの純粋な賞賛に、零次は内心冷や汗をかいていた。確かにあの戦場には立っていた、敵国側ではあったが。彼が焦っているのは、無論彼女達の姉である七草真由美だ。もしこの二人が真由美に零次の話をしてしまったとすれば、勘づいた真由美が所在を下の者に調べさせるかもしれない。零次自身は雑兵がいくら群れをなそうが関係ないが、彼の本来の目的であるパラサイトの援護は難しくなるだろう。
「…へえ、香澄ちゃん達は来年には魔法科高校に進学するのか」
「はい!零次さんが恥ずかしくないよう、首席をとって七草家に自慢するんですから!」
「それ逆じゃない?家に恥ずかしくないようにしてから俺に自慢するんじゃないの?」
「泉美ちゃん!」
「はいはい、今の録音しておきましたよ」
「おっけー!これで言質取りましたからね零次さん!」
「言質?一体何の…」
「首席を取ったら零次さんに自慢してもいいんですよね?じゃあ少なくとも入学したらまたお話ししても良いんですよね?」
「あっ」
「と言うことで連絡先ください!」
「何…だと?」
「カレーにつけて食べるパンは?」
「ナン…だよ?」
「乗るんですね…」
零次は更に焦る。七草の双子がここまで恋愛脳で策士(泉美はとばっちり)だとは零次は想定していなかった。できる訳ないが。
「それじゃ、まだまだ時間ありますしどこか遊びに行きますか!」
「えっ」
「遅くなったら危ないですよ香澄ちゃん」
「そ、そうだよ。泉美ちゃんの言う通り…」
「じゃあ送ってもらえばいいじゃん!」
「いやそれは…」
「それもそうですね」
「えっ」
零次に女子の会話に割り込める話術はない。それに零次は、総司からの引き継ぎで女性の尻に敷かれやすいタイプでもあるのだ。総司が雫以外の女性にはそのような傾向は見られないが、それは単に彼の普段の奇行が由来だ。
そのまま零次は二人の誘いを断り切れず、この時間からでも入れる遊園地などに行って遊んでいたのだった…
そして帰りが遅くなるとなれば、心配になった家族が玄関で出迎えをしてもおかしくはない。とは言っても多忙な彼女の兄達は家にいないし、当主で父親でもあり、家に滞在している七草弘一そのような事をする性格ではない。となれば彼女達を迎えるのはただ一人…
「…………」
「…………」
「心配をおかけしてしまい申し訳ありません…」
「あっ、お姉ちゃん!紹介するね!この人は安部零次さん!今日私達を助けてくれたとってもかっこいい…」
夜遅くまで出歩いて心配を掛けた事に謝罪している泉美、そんなことはどうでもいいと零次のかっこよさを語る香澄。そんな二人を尻目に驚愕の表情で無言を貫く真由美、絶望の表情で言葉も出ない零次。
かつての敵が、しかも後輩によく似た男を、まさか妹達が連れ帰ってくるなどとは思いも寄らなかった真由美。しかし悲しいかな、彼女は若干総司に汚染されていたのだ。事実彼女の脳内には、この状況を危ぶむ本来の真由美の理性と、「実に面白い…(某ガリレオ風)」と呟いてこの状況を楽しんでしまっている感性との板挟みで苦しむ裁判官風のミニ真由美が存在した。
そして厳正な話し合いの結果、零次と対話してみるという結論に達する(脳内で)真由美。しかしいきなり知り合いかのごとく話しかければ二人に疑われる。混乱している今、初対面のフリも出来そうにない。と言うことで。
「(あ、貴方!なんでこんな所にいるのよ!?)」
「(俺が聞きたいよ!)」
真由美はアイコンタクトを試みたのだ。そしてその意思は零次も汲み取ってくれたようで、未だ饒舌に零次の良さを語る香澄を泉美が抑えきるまでに会話を終わらせようとアイコンタクトによる会話を継続する。
「(そもそも貴方東京にいたの!?)」
「(最近越してきた!)」
「(絶対違うわよね!?)」
アイコンタクトで真由美と会話出来るようになった零次だが、事情を説明しようにもパラサイトの援護の為です~等と言えば即座に拘束されてしまうのは目に見えている。どうにかしてはぐらかす必要がある。
「(それにはかくかくしかじかでマリアナ海溝より深い事情がだな…!)」
「(まるまるうまうま、全然分からないわ)」
「(分かんねーのかよ!?)」
そんなやり取りの後、しばらく会話は続き、零次はこれから魔法科高校入学試験日まで、学校終わりに二人の魔法の先生となる約束をなんだかんだで取り付けられた為、パラサイトへの援護が難しくなるのは変わる事は無かった…
「俺の描写は?」
「…?失礼、ミス・北山。彼は何故虚空に向かって話しかけているんですか?」
「それは彼にしか分かりませんが、必ず意味があります」
「ふむ…何かの情報体との交信か?」
場所は変わってアメリカ。一見普通のカフェ…に見えて実際は武装したSP達が周囲を護衛しているこの場所で、唐突に無に向かって話し始めた総司を見たジェームズは何事かと雫に尋ね、結局あまり理解出来なかった為、自分なりの答えを考察していた…
魔法科世界の秘匿通信
・香澄ちゃんは一目惚れ、ここら辺は雫の総司に対する第一印象に近い。零次が狂ってないから普通の憧れだが。(憧れは理解から最もとお(ry)
・真由美が即刻零次を攻撃しなかったのは、単純に勝ち目がないから。彼女の目的はしばらく彼を引き留めておいて、総司が帰ってきてから倒してもらうこと。
某ガリレオの所は、花澤香菜(cv.七草真由美)で読んでもらいたい。
次回は総司視点。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~