続きを書かなきゃというあまり、今回はギャグがない、済まない…
「それで?一国の国防長官補佐殿が俺達に何のようなんだ?」
「厳密には貴方個人にです、ソウジ・タチバナ」
ここはバークレーの何処にでもありそうなカフェ。しかしその周囲は屈強なSP達に警護されており、そこから放たれる異様な空気は道行く人々が奇異の目で眺める程だ。そのカフェで対面する人物達…日本の魔法師、橘総司と、USNA国防長官補佐、ジェフリー・ジェームズ。ジェームズは総司にのみ用件があるらしく、雫は総司の頼みとして別室にて護衛されている。
「俺個人に?アンタのお上は何したいんだよ」
「率直に申し上げますと、我々と手を組みませんか?」
「手を組む?日本とUSNAは同盟関係のはずだ。もう手を組んでるじゃないか」
総司の放った尤もな疑問に、ジェームズは首を振る。
「…USNAはかの『灼熱のハロウィン』において使用された戦略級魔法を危険視しています。あの魔法はどれ程軍事力の差があろうとも、それを一撃で解消しうるでしょう」
「だろうな、俺もそう思う。あの規模を何の前兆もなくぶっ放せる時点でヤバイ。日本はそんな特級の魔法師をよく隠し持っていたものだと」
「…やはり、心当たりがおありなのですね?表情がそれを物語っています」
「さあ?何のことだか。俺はただ単に、特級の魔法師っていう自分の言い回しで知り合いを思い出しただけだよ。…んで、その戦略級魔法がヤバいって話とこの会合には何か関係があるのか?」
「当然です。単刀直入に言いましょう、我々USNA国防軍は貴方の持つ技能があの魔法に対抗しうるものであると結論づけました」
「ほーん?その技能ってのにはいつ気づいたんだ?こっちが襲撃受けて大変だって時に呑気に俺を監視してた奴らからの情報か?」
どうやら総司は横浜騒乱の際に自分へと放たれていた斥候の存在と、その斥候達が戦闘に協力ではなかったことに気づいていたようだ。
「その件に関しては深くお詫び申し上げます。…そして質問にはYESと答えておきましょう」
「…あんた達の言いたいことは大体分かった。要するにあんた達にあの魔法が向けられたときに何とかしろって事だろ?ぶっちゃけ距離があると対応しきれないがな」
「その通りです。我々は貴方に完璧な依頼の遂行を求めません、有事の際はこちらに協力し、あの魔法の脅威を少しでも排除していただきたいのです」
「有事の際?戦争とかになったらUSNAに鞍替えしろと?」
「そこまでは。仮に我々が日本と戦争になったとしても、貴方のお力は借りません。我々はあの魔法で何の罪もない一般人が大勢死ぬという事態を回避したいだけなのです」
その言葉に総司は当時の報道で映し出された惨状を思い出す。総司は正直あの規模の破壊はやり過ぎであると確信していた。あの島には少なくない数の一般人が住んでいたと聞く。よくよく考えてみれば、総司の想像通りの人物が下手人だとすると、軍の指示で無差別に民を殺さねばならなかったあの男への同情もわいてくる。
「…あんた達の要求は分かった。だが何故それを俺に頼む?俺の技能を知っているとは言ったが、それだけの理由でただの学生を徴用する意味が分からん」
「その理由は、今貴方が知りたがっている事と関係があるかもしれない」
「俺が知りたがっている事…?吸血鬼の事か?」
「ええ、まさしく」
レイモンドと合わせて二人分の異次元ハッカーの情報力があるとはいえ、調べている内に被害が拡大しては事だ。知れるのならば手っ取り早い方を取りたい総司は、身を乗り出して続きを促すかのように振る舞う。そしてその意図を理解したジェームズは、総司を徴用しようとした理由を話す。
「…脱走兵を追跡していた者の証言に寄れば、その脱走兵は虚空に向かって「あのように得たいの知れぬ化け物がいる国に向かうのか!?」とおびえた様子で叫んでいたようです」
「虚空に向かって…もしかするとだな」
「こちらも恐らく同意見、吸血鬼達はテレパスのようなもので交信が可能なのではないかと結論づけています」
「通話の傍受どころかそもそも通話の必要がないと…それは置いといて、得たいの知れぬ化け物?…まさか俺の事か?」
「どうやらそのようです。失礼ながら貴方の技能を解析した結果、エイドスに直接干渉して魔法式が出力される前に巻き戻す異能であるとされます。…その辺りはどうでしょうか?」
「当たりだ。正確には違うが、まあそんなものだろう」
「それは幸いです。…そして、どうやら吸血鬼…こちらではデーモンと呼称しているのですが、貴方の異能を過剰に恐れているようです」
「…と言うことは、奴らは俺に元に戻されるとマズいのか?…つーかそもそも吸血鬼ってどこからポンと出てきたんだよ」
「それは、大規模なエネルギーを生み出す実験の一つであるマイクロブラックホール生成・消滅実験が原因と考えられています」
「ブラックホール?それがどう吸血鬼と関係が?」
「ブラックホールとは非常に強い重力の塊です。その重力を意図的に操作してしまったが故に生み出されたか、別次元への扉が発生しそこから飛来したもの考えられます」
ジェームズの言葉に軽く頭をかく総司。つまり吸血鬼とは…
「Spiritual Being …独立情報体か」
「おそらくは」
総司は脳裏で達也達に良い報告が出来るなと思いつつ、となると達也では撃退出来ないのでは…?と危惧する総司。伊達に安部の人間でも、九島の人間でもない。こういった対妖魔には平安時代の最強陰陽師(魔法師)、安部清明の血縁としての勘が冴える。予定を繰り上げて自分だけでも一旦日本に戻るべきか…と思考する。
「…情報提供感謝する。お前達の要求を受けよう、もしあの魔法がこの米国に向けられたとき、俺はこの国に味方すると」
「ありがとうございます。これで上官にもいい報告が出来そうです」
「勘違いするなよ、俺は罪なき人々が死ぬのを防ぐだけだ」
総司の脳内では本人は明らかにしたり顔。あのシスコンが意味も無くUSNAと敵対するとは思えないのでこの約定が果たされることは一生ないからだ。本人的にはただで情報をもらえただけだ。
そうして会談も終わり、総司は雫を連れて帰路に付く。
「悪いな雫ちゃん、待ってもらっちゃって」
「ううん、全然大丈夫だよ。それに総司君無しで帰ったら黒沢さんを怒らせそうだし」
「確かに…「何て危険な…!」って言ってる姿が目に浮かぶぜ。それだと俺も怒られそうだし」
「でしょ?」
総司は雫と同居してから彼女の使用人達と交流を持つようになった。既に数ヶ月が経過している今は友人と呼んでも問題ないほどには親しくなっている。そんな使用人のひとりである黒沢の話で盛り上がっていたところ…
「(……なんだこの気味悪い視線は?それにこの視線…俺に向けられるものより、雫ちゃんに向けられるものが多い?)」
「どうしたの総司君?また何かあった?」
「…絶対に俺から離れるなよ雫ちゃん」
「えっ…う、うん」
総司の表情に不穏なものを感じた雫。事実その通りで、総司は感じた視線の意味を正確に予測した。
「(俺ではなく雫ちゃんを注視している…と言うことは米国の人間ではない。ルール無用とばかりに乗り込んできた俺はともかく、正式な交換留学生である雫ちゃんに危害を加えれば国際問題に発展する…となれば、それも副次的に狙えて、尚且つ別の目的がある…俺の足止めか)」
総司は一度周囲を眺めるが、追跡者の影も形もない。
「(さっきのジェームズが引き連れてたSP共より上手…となれば、護衛ではなく暗殺や情報奪取を目的とした斥候か。俺が日本に戻れないよう、雫ちゃんを狙っているとちらつかせているのか)」
そう、総司の予想は正しい。二人を取り囲んでいる集団は、雫を実質的な足枷にして総司をバークレーに釘付けにする作戦なのだ。
「(まいったな…これじゃすぐには日本に戻れない…)」
しかし思考とは裏腹に総司は極めて冷静だった。それは雫が狙われているからだろうか。最大限の警戒をしながら、総司達は家路を再び歩き出した。
魔法科世界の秘匿通信
・総司的には便利なコネが出来た位の認識。
・雫はすっげー暇してた
マジで薄い内容で申し訳ない…次回辺り戦闘入ると思われます…
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~