魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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魔法科は戦闘がすぐに終わってしまう…
なお本作品では総司もそれに当たる模様


来訪者編 その九

「…ねえミキ?本当にこっちの方向であってるの?」

 

「問題はないはずだよ。多分ね…」

 

「信頼ならないわねー」

 

 

夜の街を、時折木の棒を倒しながら進む男女の陰。吉田幹比古と千葉エリカである。二人は今世間を騒がせている吸血鬼を捜索しているのだ。では現在組織されている調査隊か何かに加入したのか?とも思うだろう。それは肯定も否定もしない。十文字家並びに七草家の合同捜索隊が先日結成されたばかりであるが、二人はそれに参加せず、千葉家で独自に設立した報復部隊として、捜索を行っていた。

その理由は一つ。エリカのワガママである。彼女は一時的とはいえ、自身が剣を教えた…弟子として鍛えた人物であるレオが吸血鬼にやられた事にかなり腹を立てていた。レオに対して、私が鍛えたのに負けたのかという気持ちもなくはないが、一番は弟子の敵討ちといったところだろうか。レオが襲われて床に伏せる事態になってしまった事に自責の念すら抱いているエリカは、なんとしてでも自身の手で吸血鬼達を打倒したがったのだ。だが白兵戦能力特化なエリカが無策に街を探し回ったところで吸血鬼に遭遇できる可能性は限りなく低い。そこで白羽の矢が立ったのが幹比古であった。総司と接したことで精神的な問題点が、達也の解析で術式面の問題点が解消され、既に古式魔法師としてトップクラスの実力を得た幹比古に取って、この程度の探査術式など容易く扱える。そして彼は昔なじみであるエリカに若干頭が上がらない傾向にある。それにレオの件で吸血鬼を良く思っていないのは幹比古も同じであった。

 

 

「…しかし、今朝伝えられた情報は非常に有意義なものだった。おかげですぐに探知術式が組めた。総司に感謝しないとね」

 

「ほんっと、総司君といい達也君といい、ウチのクラスには何でこうもトラブルメイカーが多いのかしら?」

 

 

幹比古が言及した情報とは、今朝方に達也を介してUSNAの総司からもたらされた情報だった。事件の捜査を依頼した矢先に情報を掴んでくるのだからほとほと彼の情報収集力には疑問が残るが、ともかく情報は伝えられた。幹比古はともかく、エリカもよく分かっていない上に、説明を行っていた総司本人にすらよく理解されていない情報、マイクロブラックホール生成・消滅実験による次元の壁の崩壊が原因での飛来と考察されるという情報には、一同のなかで尤も優秀な頭脳を持つ達也によって、その性質が精霊に近いものであるという考察が行われていた。その点は総司も知っていたようでなるべく戦闘は避けてくれと頼まれたばかりでもあった。

 

 

「総司はビックリするほど情報が入ってくるよね。でもそのトラブルメイカーコンビからの警告があったんだ。やはり捜索するにしても七草先輩達に協力を求めるべきだと思う」

 

「馬鹿言ってんじゃ無いわよ。アイツは、レオは少しだけとはいえウチの門をくぐった門下生よ?いくらあの二人からの警告があったからって、この手で一発やり返さないと気が済まないわ!」

 

 

総司と達也はよく皆からトラブルメイカーだとか言われているが、エリカもまあまあな同類だ。普通に生活していれば、滅多に遭遇しないであろう吸血鬼を敵討ちのために探し回ろうとする性格から伺い知れる。

そんな会話をしていたら、やがて二人はとある公園へと導かれる。

 

 

「っ!近いよ、エリカ!」

 

「よーし!一発ガツンと灸を据えてやるんだから!」

 

 

そうして息巻いた二人は周囲の探索を始める。すると公園のベンチに腰掛ける人物を発見する。念の為幹比古が探査術式を埋め込んだ棒を倒してみるが、その人物の方を指し示さなかった。と言うことは単なる人間、普通に公園を利用している人と言うことだ。

 

 

「あの~、すいません」

 

「んお?なんじゃ?こんな夜中に、おんしらのような若いもんが出歩くでないわ」

 

「「(うわ~、面倒くさそう)」」

 

 

その人物は、フードを目深に被っていて人相こそ分からないが、言葉遣いとその態度から老人であると思われた。しかし声には何処か若々しさがあり、初老のおじ様か、毎日公園で散歩する健康的なおじいちゃんのどちらかだろう。

 

 

「大体じゃ、今時の若いもんはやれハロウィンだの、クリスマスだのでしょっちゅう羽目を外しおる。親の教育がなっとらんのではないのか」

 

「あ、あのね?おじいちゃん?今からここは戦場になるかもだから離れてて欲しいんだけど…」

 

「戦場じゃと?馬鹿なことを言うで無いわ、魔法師でもあるまいし。…まさかわしを追い出した後、この寒空の下で男女の交わりでも始めるというのか?まったく、これだから最近のモンは…」

 

「ま、交わり!?違うに決まってんじゃないのこのセクハラジジイ!」

 

「お、落ち着いてエリカ!」

 

 

そして、いざ話しかけてみると予想通りというか何というか、THE老害と言った価値観をお持ちのご老人のようで、変な疑いを掛けられたエリカは心外だと言わんばかりに声を張り上げる。老人の物言いには幹比古も若干苛ついていたが、彼はとても理性的である為堪えることができた。

 

 

「大体のお、自分達が魔法師だとか、もうちっとマシな嘘はつけんのか」

 

「あのねえおじちゃん?アタシ達が魔法師なのは純然たる事実なんだけど?」

 

「まさか!カッとなればすぐに手が出てきそうな前時代の不良少女に、棒やら札やら胡散臭い物で固めておるあんちゃん。そんなおんしらが魔法師な訳がない」

 

 

その言葉に二人はお互いを馬鹿にした点ではクスッとなり、自分が馬鹿にされた点ではカチンとくる。どうやらこの老人は、非魔法師に良くある勘違いを起こしているようで、魔法師を所謂インテリ的なものだと思い込んでいる為エリカ達を魔法師と判断出来ないようだ。

 

 

「もうあったま来た!ミキ、もうこんなおじいちゃんほっといて捜索を再開しましょう!」

 

「捜索?なんじゃ、見つからずに乳繰り合える場所でも探すのか」

 

「違うってば!」

 

 

二人への詮索をやめようとしない老人に、頭心頭と言った様子のエリカは幹比古の腕を掴んでその場から離れてしまった。

 

その二人が離れていくのを見届けた老人は、スクッと立ち上がり、目深に被っていたフードを下げた。

 

 

「…スゥー、焦った~!」

 

 

その人物は、老人ではなかった。下げられたフードに隠されていた顔は、今し方離れていった二人のクラスメートに酷似していた。それはつまり…

 

 

「やっとあの双子を振り切れた矢先にこれか…流石に今日はサポートできそうにないな…」

 

 

そこにいた人物は、安部零次その人であったと言うことだ。

彼は厄介な女こと七草真由美の策略により、半ば強制的に双子の指導者として活動することになってしまった。それは本来の目的である吸血鬼達の援護が十全にできなくなってしまうと言う事でもあり、流石にそれはマズいと時間を見つけてはこうして吸血鬼達のサポートに回っているのだ。基本的な目的であるスターズの妨害を何とかこなしてきていたが、今回は二人が割り込んできたせいで、既にスターズと吸血鬼達の戦闘は始まってしまっただろうと予想する零次。彼は諦めたかのようにため息をついて、公園から出て行くのであった。

 

 

 


 

 

「…!」

 

 

老人のフリをしてその場を切り抜けた零次から離れた後、二人は逃走中と思われる影と、追跡中と思われる影の二つを見る。一人は白い覆面にロングコートを着ている。そしてもう一人は赤い髪に仮面を被った、鬼のような見た目の人物、両者とも女性に見える。二人は顔を見合わせると、言葉もなく追跡を開始する。それと同時に二人は自分の得物を展開する。エリカの警棒型デバイスは、総司繋がりで割と親交を持った五十里啓から送られた武装デバイスだ。彼女の切り札、『大蛇丸』ほどではないが、慣性制御魔法を高いレベルで扱うための補助刻印が刻まれている。対する幹比古は、鉄扇かのような見た目の短冊を袖口から取り出す。この短冊は袖の下に隠れた想子信号発信ユニットにコードが繋がっており、古式魔法の特徴である呪符と詠唱をCADにより再現する為、達也が総司の協力を得て作成した物だ。

 

 

「エリカ、レオの話じゃ多分白覆面が吸血鬼なんだろうけど…あの仮面の女をどう思う?」

 

「吸血鬼を追いかけてるんだから人間なんでしょうけど、こっちの味方という確証もないわ。アイツからは一流の戦士ってオーラを感じる、あの仮面はアタシがもらうわ」

 

「吸血鬼にやり返すんじゃないの?」

 

「ミキはもう実質千葉家だから問題ないわ」

 

「問題しか無くない?」

 

 

そして二人はそのまま格闘している二人の不審者達に接近、幹比古がエリカと戦場が被らないように『雷童子』で覆面と赤髪仮面の距離を離す。そして二人が飛び退いた瞬間に赤髪仮面に向かって斬り込む。自己加速術式こそ使ってはいないが、刻印魔法によって耐久性が高まった刀を赤髪仮面に力強く振り下ろす。だが…

 

 

「…!やっぱり一流の魔法師…!そりゃ避けるわよね…!」

 

 

エリカの斬撃は容易く…とは言わないが、赤髪仮面に回避されてしまう。どうやら自己加速術式を用いた回避だ。

 

 

「仮面なんてねぇ!どこかの知識老人だけで良いのよ!」

 

 


 

 

「ックシュン!」

 

「おや?どうされましたか、もしや体調を崩されて?」

 

「馬鹿言うな、生まれてこの方風邪なんて引いた事ねえよ」

 

「日本で誰かが噂してたんじゃない?」

 

「多分そう」

 

 

エリカに知識老人と揶揄された人物…総司は、新たな追跡者、雫を狙う不届き者の存在を認めた翌日、自分達が移動する先にジェームズを呼び出し、『国防長官補佐を襲撃した賊を撃退した』という大嘘もいいところの大義名分でもって待ち伏せして一網打尽にしてしまった。

 

 

「しかし…襲撃者は全員がアジア系ですね。これほど大勢の入国が確認されたという情報は、少なくともこちらには入っていません。おそらくは密入国でしょう、賊の正体に心当たりは?」

 

「う~ん、ありすぎて困るんだが」

 

 

本人にその意図はなくとも、何故か多数の組織から恨みを買う総司は、自分を狙う敵という情報だけではどこの所属かまでは推察出来ない。だが雫を狙ったという情報も加われば、実は限られてくるのだ。

 

 

「でもまあ多分…『伝統派』かなんかだろう。アイツらは俺をストーキングしてこの方十六年だからな」

 

「それはまあ…随分と心労が絶えなさそうですね…」

 

 

いつもの思考で、「どーせ伝統派」と脳死で答えた総司。ジェームズにも心配されてしまったが、なんとビックリ、敵の正体は『伝統派』ではなかったりする。というか罪を擦り付けられすぎだ。

 

 

「しっかし…日本で噂されてもなぁ…日本今夜中だろ?エリカ達が吸血鬼を追いかけてる訳じゃあるまいし…」

 

 


 

 

「っく!…さっきから相手の位置が視覚よりちょっとズレてるかも?」

 

「…!」

 

「おっ、その反応は当たりっぽいわね!」

 

 

総司の忠告をガン無視して、赤髪仮面と戦闘を繰り広げるエリカ。彼女は赤髪仮面の用いる戦闘法…と言うより、思ってもみない方向からの攻撃に既視感を覚えていた。それもそのはず、使い方こそ違うが赤髪仮面の用いる魔法は『仮装行列(パレード)』。最早総司の十八番であり、先日のダイナミック不法入国や、雫の一人だけ参観日状態を引き起こすのに使われている、万能魔法だ。

 

しかしこの魔法の本来用途は相手の魔法の照準を狂わせる対抗魔法としての物だ。つまりこの赤髪仮面は正しい使用法をしている事になる。

 

 

「(でも、ネタが割れたところでって感じね…)」

 

 

そう、エリカの懸念は正しい。エリカは魔法こそ使えはするが、他の詐欺師共(達也と幹比古)と違い、彼女の魔法技能は二科生相応だ。彼女は刻印魔法や自己加速術式といった白兵戦特化、それも正々堂々な勝負に強いタイプだ。だが赤髪仮面の魔法はエリカの魔法技能を遙かに超えている。いくら白兵戦で上を行っても、魔法師として決定的に敗北しているエリカは打開策を見出せないでいた。

 

対して幹比古は…

 

 

「オラッ!ここ最近お前達のせいで寝不足なんだ!コレでも喰らえ!」

 

「っぐ…!?貴様…!」

 

「シャベッタァァァァァァァァァ!?」

 

 

エリカと違い大分余裕そうである。それもそうだろう、彼が普段接している人物には剣術と剣道の達人がいる。更には個人戦闘最強とも称される十文字克人がいる。そして言わずもがな総司もだ。そんな環境の中で、幹比古の白兵戦能力が高くならないはずはない。同時にネジの外れ具合も。これまでの彼の性格とはあまり変わっていないように見えるが、総司の影響を大きく受けて戦闘では真面目さよりギャグに走るようになってしまった。実際彼は今探査棒と鉄扇を使って大いなる暴力を振るっている最中だ。

魔法使えよ。

 

 

「…!発動が速い、魔法じゃなくてサイキックの類いか?」

 

 

少し距離が離れた瞬間、苦し紛れに放たれた雷撃を悠々と回避する幹比古。そして同時に、魔法の構築速度が異常に速いことを一瞬で見抜き、一般的に魔法師よりも能力の行使が速いとされるサイキッカーであると推察する。距離が離れた為、牽制とばかりに『雷童子』を放つ幹比古。しかしそれは間違いであった。

 

 

「…!?まさか、僕の雷撃を利用したのか!?」

 

 

『雷童子』が掻き消えたばかりか、白覆面の発する魔法の出力が飛躍的に上昇した。これを見た幹比古は自分の魔法が逆利用された事を悟った。出力が跳ね上がった白覆面の魔法は、既に放たれてしまい幹比古といえども回避は不可能だろう。だが少しでもダメージを軽減しようと足掻く幹比古だが。

 

 

「…!?」

 

「っ、今のは…!?」

 

 

放たれた電撃が霧散した。白覆面が信じられないと言った仕草で驚愕するなか、この技術に心当たりがあった幹比古は、咄嗟に周囲を見渡す。すると…

 

 

「あれは…達也?」

 

 

それはバイクにまたがったまま、銀色の特化型CADを向ける人物だ。その人物の正体に、この場で戦闘をしていた四人の内、三人が気づく。

 

赤髪仮面がエリカから目を離し、即座に魔法を放とうとするが…その魔法は世界を騙し、書き換える前に霧散する。まるで最初から何もなかったかのように。驚愕の表情を見せる赤髪仮面だが、再三同じ魔法を放とうとする、が全て事前に打ち消されてしまう。

 

エリカが苦戦していた魔法師を容易く捌くその技量にエリカ達が息を呑んでいると…

 

 

「っ!しまった!?」

 

 

白覆面…つまり吸血鬼が逃げ出したのだ。この状況を好機と判断したのだろう。事実それは間違いではなく、幹比古の咄嗟の一撃に掠ってしまうが、驚異的な速度で逃げていった。そしてそれに一瞬達也が気を取られたのを、これまた好機としたものがいた。

 

 

「(今だ!)」

 

 

好機を見いだした人物…赤髪仮面が拳銃を足下に五発ほど打ち込むと、そこから眩い光が溢れ出し赤髪仮面を包み込む。逃がすまいと照準を向ける達也だが、赤髪仮面の情報体が、色彩と輪郭だけが記録された虚構的なものであった為、撃ち抜く事が出来なかった。

 

無論、『精霊の眼』を持つ達也には、友人が使う魔法『仮装行列』を用いていると気づくのにわけなかった。すっかり姿が見えなくなり、この場には説教を受ける運命にある二人と、説教をする側の達也しか残っていなかった。ヘルメットを外し、既に正座で臨戦態勢を築く二人の元に近づく途中、彼はふと気づいた事があった。

 

 

「(…彼女の『仮装行列』、総司より強度が低かったな…?)」

 

 

疑問こそ思い浮かべるが、まあ総司だからで済ませて頭からこの疑問を消した達也は、後々後悔することになるのであった。




魔法科世界の秘匿通信


・本作では幹比古の鉄扇もどきが総司と達也の合作となっているが、総司がこうすれば上手くいくんじゃね?という発想から、達也が総司の案から全体の九割にあたる無駄な部分を切り落とした上で、幹比古に最適化したものである。


・総司とリーナの『仮装行列』の強度の違いは、作者のオリ設定?かもしれないが、魔法技能と想子保有量の差である。
リーナが魔法技能500、想子保有量500だとすると、総司の魔法技能は-1000、想子保有量が10000である。

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