魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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本小説では、時々ストーリーが飛び飛びになりますが、それは流れが概ね原作通りという意味合いがあります。基本的には総司や零次のオリキャラが絡むシーン、原作にはなかったギャグシーン、超例外的に雫ちゃんや頭のおかしい先輩方のシーンくらいしか描写してないです。


来訪者編 その十一

「ハァ、ハァ…クソ…!」

 

 

総司との通話を行い、七草と協力体制を築いた日の夜中。達也はかつて無い窮地に陥っていた。彼の体には傷こそ見えないが、顔には明らかに疲弊の色が見えていた。そんな達也が視線で追いかけるのは…

 

 

「…!?ガッ!?」

 

「おいおいどうした?この程度かよ総隊長様ァ!?アメリカ最強部隊のトップってのも大したことないなァ!」

 

「アガッ…!アクティベイト!『ダンシング・ブレイズ』!」

 

「急急如律令!」

 

 

達也の眼前では、仮面を付けた赤髪の女…おそらくリーナが、全身黒コーデの男と戦っており、眼にもとまらぬ速度で描かれた五芒星から発生したビームのような攻撃に襲われ、膝をつく光景が広がっていた。

 

 

「…安部零次!」

 

「そう騒ぐな司波達也。…お前もすぐに楽にしてやるよォ!」

 

 

その黒ずくめの男…安部零次と戦闘になったのはほんの少し前のことだった。

 

 

七草と協力体制を構築した今日この日。監視衛星を使用できるようになった達也は、吸血鬼の位置を確認した後、そのまま追跡を開始したのだが、到着した時には既にリーナが吸血鬼とおぼしき存在と戦闘していた所だったのだ。なるべく気づかれないように立ち回りながら、どうやって吸血鬼を始末しようかと考えていたのだが、終始吸血鬼相手に優勢に立っていたリーナが横合いから飛来してきた物体に大きく吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 

「(あれは…安部零次だと!?)」

 

 

その飛来してきた…正確には走り込んできた人物は、横浜侵攻の際に総司と互角の戦闘を繰り広げた安部零次だったのだ。リーナは確かに一流の戦士で、超一流の魔法師、アメリカ最強部隊『スターズ』の中でも最強の総隊長。だが零次という魔法戦闘の領域を物理で解決しかねない存在の相手はほぼ不可能だ。身体能力は、その馬鹿げた魔法力の卓越した技量と、達也を遙かに凌ぐであろう想子保有量のゴリ押し。この二つを重ね合わせた身体強化魔法の使い手だ。本当にクローンという造り出された存在なのか?むしろ追いつける総司ってなんなんだとか疑問は尽きないが、ともかくリーナでは…更に達也でも勝てない存在だ。

 

 

「(何か取り出した…アレは札か?)」

 

 

零次は取り出した札に想子を流し込んだかと思えば、それを吸血鬼に投げつける。すると達也の眼がなくても、魔法師ならばハッキリと理解出来るほどの違いが現れる。

 

 

「(ヤツ自身に掛かっているものよりは程度が低いが、それでも高度且つ高出力な身体強化!あれほどの魔法を他人にあっさりと…!?)」

 

 

達也がその技量に驚愕している内に、零次は吸血鬼に顎で逃げろとでも言いたげなジェスチャーを取る。それに頷いた吸血鬼は以前とは比べものにならない速度で立ち去ってしまった。それを見届けた零次だが…

 

 

「ハァ!…何ですって!?」

 

「ハン、お前の『分子ディバイダー』如きで俺を切れるとは思わない事だな?」

 

 

『分子ディバイダー』は強力な威力を誇る魔法だが、分類として直接干渉系となるため、使用時には相手のエイドス・スキンを突破出来るほどの高い干渉力が必要になる。だが、零次は腕で軽く防いで見せた。防御したと言うことは効くことには効くのだろうが、そもそも魔法が上手く作用しないと言うことを理解していたのだろう。返す足でリーナをくの字に曲げて二十メートルほど先にある木々に激突させる。

 

 

「(リーナ!クッ!)」

 

 

達也はリーナが敵だとは思っているが、協力できるならそうしたいと考えているし、この短い間でもリーナは総司の置き土産から共に生還してきた仲だ。恋愛などというものでは無いが、少なくとも友情は生まれていた。

 

達也は一か八かで『分解』最大出力、『精霊の眼』もフルで活用して照準を付ける。そしてCADのトリガーを引いた。しかし…

 

 

「(これは…!ヤツの異能は突破出来たのだろうが、ヤツの情報強化の強度が並大抵のものでは無い!)」

 

「ん?…司波達也か。ハァ~、撤退して七草真由美経由であのお花畑のお嬢さんに連絡入れるかもしれん…消すか」

 

 

達也の願いむなしく零次が分解される事は無かった。やはりと思った達也は苦虫を噛みつぶしたように顔を歪め、更にはその姿を零次に補足されてしまう。

その瞬間に達也の四肢を捕えんと札状の想子が達也にまとわりつこうとする。それを察知して飛び退いた達也だが、空中に浮いてしまった隙を零次が見逃す訳も無く的確に首筋を狙った蹴りが叩き込まれる。モチロン首の骨は折れてしまい、達也はそのまま絶命…

 

 

【自己修復術式:オートスタート】

 

【脊髄損傷、脳機能停止まで残り0.03秒】

 

【魔法式:ロード】

 

【コア・エイドス・データ:バックアップよりリード】

 

【修復:開始……完了】

 

 

…する事は無かった。達也の固有魔法、『再生』の派生である『自己修復術式』が、達也の脳機能の停止よりも早く達也の体を元通りに戻してしまう。

 

 

「…ッ!」

 

「あ?即死しないなァ?…!そうだそうだ、コイツほぼ死なないっての忘れてたぜ。コイツはオリジナルじゃないと殺せないって上が言ってやがった。あれ?じゃあ俺香澄ちゃんににドヤされるの確定じゃん…」

 

 

達也が死ななかった事実に一瞬の驚愕を見せた零次だが、次の瞬間には何故だか頭を抱えだした。そう言えば先程真由美が、彼女の妹の片方が彼にお熱であるという情報をもらっていた達也は、達也自身の報告から真由美→双子へとつながり、双子にだる絡みされるのが目に見えているのだろう、と結論づけた。

ここでもし達也が『今回の事を愛しの双子に知られたくなければ…分かってるな?』とNTRものの常套句みたいな台詞を吐ければよかったのだが、彼は総司の汚染が浸透しきっている訳ではない。即座にそんなふざけた思考を持ってこれるはずもなく、達也は至極真面目に質問をした。

 

 

「安部零次!何故邪魔をする!?」

 

「あ~?そりゃあ、ウチの戦力のパラサイトを減らされる訳にはいかないからだよ」

 

「パラサイト?吸血鬼の事か?宿主の体を操る寄生体(パラサイト)…言い得て妙だな」

 

「何だ?名称が気に入ったのか?ならお前達の所でも使って良いぜ?生きて帰れたらだがなァ!」

 

 

そう言うや否や、達也ですらギリギリ眼で追える程の超スピードで動いた零次に、再び達也は吹き飛ばされる。

達也と零次の相性は、ハッキリ言って最悪だ。達也の仮想演算領域の出力では、零次に干渉する前にエイドス・スキンの壁に阻まれ攻撃できない。エイドス・スキンを破るには本来の魔法である『分解』を用いる必要があるが、いくらセーブされているとは言え、達也の本来の魔法では零次のエイドス・スキンを破れても、その後に待ち受ける情報強化の強度に競り負けてしまう。簡単に言えば打つ手なしと言うことだ。

 

 

「クッ…!」

 

「ハハハ!お前の想子が枯れて、再生できなくなるまでボコボコにしてや「タツヤ!」あ!?グォッ!」

 

 

一気にたたみかけようと零次が追撃に出た。そして達也に向けて跳躍からの拳を放とうとしたのだが…その隙を狙って復帰したのであろうリーナが攻撃を加える。不意を突かれた零次は吹き飛ばされるが、ダメージは毛ほどもなさそうだ。

 

 

「君は…」

 

「白々しいわよタツヤ。どうせ知ってたんでしょ?」

 

「…ああ」

 

「詳しい話は後よ、今はこの化け物から生きて帰りましょう」

 

 

明確な異常事態に、正体を隠しながら協力などできないとリーナは惜しげも無く自分の正体を明かした。そうして共闘戦線が組まれるのだが…と言ったところで冒頭に戻る。

 

 

「ハァ…ハァ…逃げなさい、タツヤ!」

 

「逃がさないぜ?」

 

 

そして達也の眼前に拳が迫る。強力なソニックブームが発生し、付近の木々をなぎ倒す。そして達也は再び死を…

 

 

「…あ?」

 

「…これは!」

 

 

迎えることはなかった。今度は再生すらしていない。何が起こったのか?

 

 

「お兄様に手を出すな…!」

 

「流石の魔法力だな、司波深雪…!」

 

 

零次の腕は、達也に直撃する前に凍り付いていたのだ。他でもない達也の妹、司波深雪によって。

 

 

「達也君!」

 

「師匠まで…!?」

 

「九重八雲だと!?」

 

 

更に援軍として現れたのは、世界最強の忍者、九重八雲だった。八雲が目を見張るほどの早業で隠形を掛けると、達也と深雪、ついでにリーナを抱えて逃走したのだ。

 

 

「…え?すっげえ虚無じゃん…」

 

 

一人取り残された零次は、そんな事を呟きながら、一人公園に立っていたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・零次は昨日、つまりエリカ達に妨害された分頑張ろうと干渉してきた。


・後日香澄ちゃんにお仕置きとして二日間ぐらい執事兼抱き枕の仕事をしていた。モチロンその間のパラサイトへの支援は不可能。

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