「やっぱそのドレス似合ってんじゃん!」
「ふふ、ありがとう。総司君はタキシードぐらい着てきたらいいのに」
「あんな堅っ苦しいの着れないよ…」
一月の二十八日の夜、総司と雫はホームパーティーの会場を訪れていた。
今日の雫は可憐なドレスに身を包んでいる。これは少し前に総司が小一時間ほど悩み抜いて選んだドレスだ。対する総司は黒いTシャツに『ココアソーダクエン酸』とだけプリントされたものを着用している。恐らく総司はパーティーを嘗めているのだろう、格式高い九島の庇護を受けておきながらコレはきっと九島老師も頭を抱えたことと容易に想像できる。
「やあ総司、ティア」
「レイモンドか」
そんな二人に話しかけるのはレイモンド・S・クラーク。総司のかつてからの友人であり、雫とも友人となった白人男性だ。
「ティア、とても素敵なドレスだね」
「うん、総司君が選んでくれたの」
「そうなのかい?流石総司、ティアの事をよく分かっているね。こんなに素敵なドレスを見繕えるなら、自分の格好も正しくしてほしいものだけど」
「遠回しにこのシャツを馬鹿にされている…」
「遠回しにしたつもりはないよ?」
「馬鹿にはしてるじゃないか!」
初対面自体は少し前だったのに、長年の友であるかのように談笑する二人。やがて二人で大笑いし、それを雫が微笑ましそうに眺める。しかししばらくして表情が険しくするレイモンド。それを見て顔を引き締める雫、涙が出るくらい笑っているのでレイモンドの表情が見えていない総司の三人に分かれ、混沌をきわ(ry
「…総司」
「www…んあ?…どうした、何か分かったのか」
「今更シリアス感だそうとしても遅いよ」
「あーっ!言わなければバレなかったのに!」
「誰にだよ」
相変わらずの総司に呆れながら、二人を人が少ない場所に連れ出して、レイモンドは話し始める。
「『吸血鬼』の実在は確かだった。十一月にダラスで行われた、余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・消滅実験が…」
「「ゴメンそれもう知ってる」」
「…マジ?」
「「マジ」」
「言ってよお!」
哀れレイモンド、その情報はレイモンドに情報を探らせる依頼を出した日の放課後に既に入手していたのだ。それ以外の情報が過多で報告を忘れていただけで。
「はあ…それじゃあその実験に参加していた研究者にも異変が見られていることも知っているのか…」
「いや、それは知らないな」
「そうなのかい?なら詳しく話そうか」
自分が持ってきた情報が全て用済みでは無い事に安堵しながら、レイモンドは情報を伝える。
「どうやらその実験に参加した研究者達の数名が妙な行動を取った上で、数日中に行方不明になっているらしい」
「その妙な行動ってのは?」
「意味もなく研究所内を徘徊したり、外の風景や虚空を眺めるといったり、人によって様々だったらしいね」
「…行方不明ってもしかして」
「そこまでは分からなかった…ゴメン」
「いや、そこまで分かっただけでもよしとしよう」
総司はレイモンドを責めることなく、少しでも情報が手に入れられた事を喜ぶ。少しでも情報を達也達に教えて安全を保ってもらいたいと急いてきてしまった。
「よし、早速達也達に教えるとしようか」
「そうだね、じゃあレイ。私達はこれで」
そうして既に帰宅ムードが漂う二人。それをレイモンドが呼び止めた。
「二人とも、もう帰るのかい?パーティーは始まったばっかりだよ?」
「情報を必要としている人に一刻も早く届けなくちゃだからなぁ…」
「でもこのパーティーの主賓のティアが早々に帰るのはどうかと思うけど」
「…それもそうだね。総司君は先に帰って達也さん達に」
「そんなことするわけ無いだろ。君にもしもの事があれば大変だ。俺も残ろう」
「そうか、じゃあこのパーティーを楽しむとしようか」
その後、雫はお酒を飲まないようにしていたが、主催者に見つかってしまい、勧められるがまま断れずに色々なものを飲み食いしてしまったのだった。因みに総司も相伴していたが、肉体の耐久性が高く一切酔うことはなかった。
「と、言うことなんだ」
『雫が酔ってる理由の方は聞いてないんだが?』
結局完璧に酔ってしまった雫を膝枕しながら、総司はヴィジホンで達也と会話している。今回は達也の自宅のリビングから繋いでいるらしく、深雪も会話に参加している。その深雪だが、チラチラと雫と達也を交互に見ている。恐らく思い人に膝枕されている雫を羨ましがっているのだろう。本人的には無自覚で視線を使い、達也におねだりしている。
それには露とも気づかない達也は、総司と会話を続ける。
「しかし、昨日の今日で零次とかち合ったのか…」
『ああ、正直に言って深雪と師匠がいなければ俺は殺されていた』
「師匠…あの九重八雲か」
この会話でもたらされた情報は、達也が昨日零次と戦闘を行った事だった。聞くところによれば、リーナですら相手にならなかったとの事だが、話を聞く限り正直総司も負ける気がしないので、やはり総司は異常だ。
「それで?零次と戦った感想は?」
『今の俺では確実に勝てないとだけ』
「となれば、成長すれば零次を倒せると?」
『不可能ではないはずだ』
「その心は?」
『奴の異能はお前のものとは似て非なるものだと考えている』
「なるほど?」
どうやら達也は零次の異能の本質に勘づいたようだ。
『奴の異能は自身で変更したエイドスを初期値とする…つまり、お前の異能であるエイドスの初期化を回避する為だけの異能だ。魔法が発動した状態が初期値であるのならば、初期化を掛けても変化がない…だからこそ、お前に対抗できる身体強化を維持出来るわけだ』
「ふむふむ」
『だが零次には、お前の様に魔法の発動を無かったことにすることはできない。これは俺の魔法を情報強化で防いでいた事から分かる』
「つまり?」
『俺の魔法力が奴のエイドス・スキンと情報強化の両方を一撃で打ち破れる程に高まればいいんだ』
「…それってさ」
『何だ?』
「結局の所ただの脳筋では?」
『お前の様な活きの良い牡蠣はフライだよ。あ間違えた、お前の様な勘の良いガキは嫌いだよ』
「おい深雪ちゃんがすんごい表情でお前を見てるぞ」
『若干後悔している』
「でしょうね」
『だが俺は反省しない』
「過去から学ばない人の典型じゃん」
結局零次には総司をぶつけるで話が終わり、次の話題にいきそうになったところで
「ううん…総司君」
「あらら…すまんな二人とも。俺のお姫様が睡魔に負けちまったみたいだ。今日の所はここまでで」
『分かった、あまりハッスルしすぎるなよ』
「今から寝るっつってんだろぶっ飛ばすぞ」
『ではお兄様!今夜は私とハッスルを…!』
『?何を言っているんだ深雪、俺達は兄妹じゃないか』
「深雪ちゃん…」
まるで地獄を見てきたかのような表情で沈む深雪を見ながら、総司はそっと通話を切った。
「総司君…すきい」
「…雫ちゃん」
総司が雫を抱えてベッドに連れて行く時、雫が漏らした言葉に総司は、彼女の顔を思わず眺めてしまう。その可愛らしい寝顔に、愛する人とともに居られる事の幸せを感じながら、それを奪いかねない存在の多さに辟易してしまう。
「…雫ちゃんを傷つける事があってはならない…俺が絶対に守ってみせる…」
そう決意を漲らせる総司。だがその顔は…
どこか、非人間的な迫力があったのだった。
魔法科世界の秘匿通信
・レイモンドからの伝えられた情報は、一応本作オリジナルの話である。
・達也が鈍感バカになってきている感も否めないが、大体のライトノベルの主人公はそんなもんだから大丈夫(偏見)
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~