今回また時間が飛びます
「総司、お前に聞きたい事がある」
『んあ?何だよ藪からスティックに』
「お前は…
『……』
達也は、総司にこの質問を投げかけるまでに、どのような出来事があったのかを思い返していた。
達也はあの夜の戦闘の後、兄から事情を聞いたと見られるエリカにそれとなく自分の正体を明かして牽制し、その夜に葉山から七草家が研究対象としてパラサイトを狙っているという情報を入手していた。国防軍情報部防諜第三課、という七草派の部隊との戦闘を懸念しながらも、達也はピクシーを連れて青山霊園に向かう。そして目論見通りにパラサイト達と戦闘、捕獲することに成功する。後から来たエリカ達にパラサイトの身柄を預けたのだが、その彼女達をして、第三課が横からパラサイトの身柄をかすめ取って行ってしまう。結果的にそのパラサイト達は、抹殺しに来たリーナによって燃やし尽くされてしまったが。
重要なのはその後、そのリーナの映像を見ている最中にハッキングを受けた事だ。
『ハロー、聞こえているかな?聞こえていることを前提に話させてもらうけど、始めに自己紹介から。僕の名前はレイモンド・セイジ・クラーク。『八賢人』の一人だ。君の事は僕の友人達…総司と雫から聞いているよ』
八賢人というなじみのない単語に深雪は首を傾げる。対する達也はリーナから名前と概要を聞いていたので、その名の意味を察する事が出来た。加えてこの男が総司の情報源なのかもしれない…この時まではそう考えていた。
『アンジー・シリウスにパラサイト達の居場所を知らせたのは僕だ…あ、この事は総司にはオフレコで。最悪殺されかねない。まあ何故か教える前に知っていたみたいだけど』
「この男がリーナに教える前に、彼女はパラサイト達の居場所を知っていた…?リーナが自分で突き止められるはずがありません、あのリーナですよ!?」
「深雪、お前今滅茶苦茶リーナに失礼な事を言っていることは自覚しているか?」
だがそういう達也も、深雪の意見には概ね同意している。達也は以前、USNA軍の対処に四葉の力を頼ったのだが、恐らくその際にUSNA軍の解放と引き換えにリーナを使いたかった四葉が情報を受け渡したのだろう。パラサイトを七草に取られたくなかったのだと窺える。
『そして君にも特ダネを提供しようと思っている。君にとって、とても有意義なネタだと思うよ。お代は見てのお帰り、と言いたいところだけど、今回はお近づきの印に無料で提供させてもらう。現在ステイツで猛威を振い、日本にも飛び火しつつある魔法師排斥運動は、八賢人の一人、ジード・セイジ・ヘイグが仕掛けたものだ』
そのいきなりな情報に深雪は思わず口元を歪める。それも当然、自分達の生活を脅かしかねない活動を扇動する者など深雪が、ましてや達也が許せるはずがない。
因みにまるで前から知っていましたと言いたげな口ぶりのレイモンドだが、そもそも彼がジード・ヘイグの事を知ったのは総司からの依頼で詳しく調べている内に、フリズスキャルブに使われているエージェントの一つ、ムニンに記録された情報からジード・ヘイグと魔法師排斥運動の関連を知ることが出来た。
そしてジード・ヘイグについて簡単な説明を終えた後、レイモンドはこう付け加えた。
『念の為に言っておくけど、八賢人だからといって僕達と共謀関係にはないからね。八賢人というのは一つの組織の名前じゃなくて、フリズスキャルヴのアクセス権を手に入れた八人のオペレーターの事なんだから』
と。
深雪はそもそもフリズスキャルブがどういう物か知らずに、達也に質問をしていた。達也は当然のごとく知っており深雪は答えを得られて満足した…そこで満足したが故に気づかなかった。レイモンドが今し方使った二人称が『僕達』と複数形であったことに。この事から、達也は総司がフリズスキャルブのオペレーターだと確信したのだ。
想起…という名の回想を終え、達也は目の前の画面へと意識を向ける。仮に総司が八賢人だとするならば、自分や深雪の身の上を知っていてもおかしくはなかった。
そして総司の返答は…?
『なにそれ知らん』
「ええ…(困惑)」
最近直で会っていない為見なかったが、今の総司は相当なアホ面だ。コレには流石のお兄様もビックリ。だがこれには深い訳が…無い。結論から言えば、『八賢人』という名称そのものがレイモンドが一人で名乗っている名前である事、総司はムニンの記録機能の事を知らなかったので、フリズスキャルブのオペレーターの人数を把握していない。総司の脳内には八が付く名称など、十師族の一つ『八代』ぐらいのポピュラーな物しか知らなかった。要するに八という数字を自身の所属する何かしらの組織に繋げることが出来なかったのだ。
『それで?結局その八なんとかって奴が俺なのかを聞きたかったのか?』
「いや、用件はそれだけじゃない」
困惑から抜け出せていないが、そんなことおくびにも出さずに達也は、レイモンドからパラサイトを第一高校裏手の演習場に誘い込むとの連絡を受けた事を伝えた。
『レイモンド?アイツそんな事してやがったのか』
「知り合いではあるんだな?」
『知り合いというか友達というか』
総司の返答により、レイモンドの言葉がある程度は信じられる物だと分かった達也は、アンジー・シリウスにもその情報が渡っている事も伝える。
『ハァ!?アイツ訳の分からんことをしやがって…』
「いや、アンジー・シリウスの方はさほど問題では無い。一番の問題は安部零次だ」
『真由美先輩が尻に敷いてるんじゃ無いのか?」
「確かにそうだが、パラサイトを一網打尽にされそうになって、打って出てこないとは思えないんだ」
その言葉を聞くと、総司はウンウン悩み始める。
『俺がそっちに行けたら零次なんて敵じゃ無いんだが…こっちもこっちで雫ちゃんを狙う視線が増えてきた。どうやらそっちでの戦況を見て、俺が援軍に行かないように念押ししてるようだ』
「お前の魔法で何とかならないのか?」
『バッカお前、俺はまだ基礎単一系しか使えないんだよ、そんな魔法でどうしろと「そうじゃない」は?』
「俺が言っているのは、お前が新しく魔法を作って、それを雫に使わせて自衛させれば良いんじゃ無いのかって話だ」
そう言われたことで、総司の目に納得の色が浮かぶ。総司は精霊のお陰で、自分では使えないはずの超高度な魔法を作成する事が出来る。そして以前その魔法を使った雫が深雪を破り、九校戦で勝利した事もある。
『確かに言われてみれば…分かった、できるだけやってみる』
「頼んだぞ、俺やシリウスでは零次に勝てなかった。接近戦と魔法、両方の技量が高くないと奴には勝てない…だが、お前はその身一つで奴を圧倒できるはずだ」
その言葉を聞いて、『よしきた!』と意気揚々と通話を切った総司。
達也は間に合うかどうかを憂い、明日の戦いに仲間を呼ぶべきかを、脳内で思案するのだった。
魔法科世界の秘匿通信
・また時間が飛んだが、この間に青山霊園近くでの戦闘は終わっている。次回から来訪者編のラストバトルが始まる。
・レイモンド的には総司も『八賢人』の一人だが、総司の馬鹿さ加減から「賢人って称号は総司には全く似合わない」等と考えている。
さて、総司君は都合良く魔法を完成させられるのか、出来たとして間に合うのか。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
-
いいともー!
-
駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~