魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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雫ちゃんも『覚悟』決めてくれないかな…(意味深)


来訪者編 その二十三

「さて…とりあえず、腰を据えて話し合おうか」パチッ

 

「ええ、私はいつか貴方と、議題はともかく議論を交わしたいと思っていました」パチッ

 

「そうか、俺はまったく興味が無かったよ。それはともかくとして、単刀直入に聞くが、奴ら…パラサイト達を援助する理由はなんだ」パチッ

 

「そんなつれないこと言わないでくださいよ…貴方は世界でも上位に位置するほど理知的だ…そんな方との対話を、要件だけを済まして終わりにするのは、少々抵抗が…」パチッ

 

「あ、王手飛車取りだ」

 

「おや、話に熱中しすぎましたかな?」

 

「なんでテメエらは戦場で将棋してんだァ!」

 

「「ギャース!!??」」

 

 

凄い勢いで吹き飛ぶ達也と周公瑾。猛烈な風が巻き起こるが、不思議な力で地面に置いたままの将棋盤とその上の駒は一切動いていない。

 

 

「クッ…!なんて事をするんですか零次殿!折角の対局中に…!」

 

「だ か ら !戦場でやってるのがおかしいって言ってんだよ!」

 

「馬鹿なことを言うな、零次。将棋は日本に伝わる古き良き戦争シュミレーションだ。つまりこの対局の勝敗でこの戦いの決着が付くんだ」

 

「んな訳ねーだろ!?もうオリジナルを引っ捕らえて持っていけば俺らの勝ちなの!そんな盤上のお遊戯で勝敗がひっくり返されてたまるか!」

 

「万丈?(難聴)」

 

「万丈じゃねーし難聴で韻踏んでんじゃねーよ!」

 

「ところで零次。お前がギャグに乗らなかった場合、誰が悲惨な目に遭うのか知っているか?」

 

「…な、何を言い出すんだお前…(悲惨な目?まさかあの双子じゃないだろうな)」

 

「万丈だ」

 

「いや知らねーよ!?さっきから誰なんだよ万丈、つーか難聴をそのままにするな訂正しろ!今時急な難聴とかラノベ主人公か貴様ァ!」

 

「いやラノベ主人公だが?」

 

「クソッ、立ちはだかる原典の壁ッ!」

 

 

頭を掻きむしって状況を悲観する零次。このままではギャグで時間を無駄に浪費してしまう…と。

一方で束の方はというと…

 

 

「なんでコイツらに攻撃当たんないのよ!?」

 

「THE answer is …」

 

「俺達がガンダムだからだ…!」

 

「GO!アクエリオーン!!」

 

「「ほど~けて散るのなら~、す~べてが終わった後~にして~」」

 

「何か微妙に違ってない!?」

 

 

華麗なるマフティーダンスに翻弄されながら、束は攻撃の手を緩めない。何故ならば、もうタイムリミットが迫っていたからだ。一般的な魔法師相手に使うのならば大して制限は掛からないのだが、総司を超えるレベルの身体能力を出そうとすると、なんと効果時間が3分しか持たないという、お前はどこのウルトラマンだ案件となっているのだ。いやこの場合そこまでしなければ追いつけない総司がおかしいのだが。

 

そんなわけで、これ以上ギャグに染まれば明日の目覚めは家のふかふかのベッドの上ではなく、冷たい独房のベッドとなりかねない。別にそんなことがあり得るはずが無いというのは彼女がこの場で最も理解している事ではあるのだが、それでもこのままグダグダすると時間切れで負けとなる。故に拳を振るい続けるのだが…

 

 

「ッ!?また避けられ…アイタッ!」

 

 

だがまたしても回避され、更には近くの木に頭をぶつけてしまう。

 

 

「おかしくないコレ!?流石の私もこの身体能力は持て余すけれど、近くのものにぶつかるほど使いこなせていないわけじゃ…」〈拳〉80 → 100

 

 

頭を振って後ろを振り返った束の目に、何かテロップのようなものが映る。

 

 

「……」

 

〈拳〉80 → 100「…あっバレた?」

 

「シャベッタアアアアアアアア!?」

 

 

しばし見つめ合った(?)後、言葉を発してそのままどこかへ立ち去ってしまったテロップに束は驚愕を隠しきれない。

 

 

「え、何今の、何今の!?」

 

「知らんのか、彼はTRPGのダイスロールの判定を行ってくれる君だ」

 

「え!?今の人間だったの!?それにしては明確に浮遊してたし着ぐるみって感じでも無かったし!そもそもテロップの着ぐるみって何よ!?」

 

「おいおい、アンタ疲れてんじゃねえのか?ただのテロップが人間な訳ねえだろ」

 

「その発言がまずおかしいことを自覚してくれない!?」

 

 

束の言う通りおかしいのだが、誠に残念ながら今のはただのテロップ以外の何物でも無い。今のご時世、テロップの一つや二つ、自我を持って喋る時代だ。これが多様性ってやつなんですね…(白目)

そして此処で、束が一つの事実に気づく。それは…

 

 

〈マフティーダンス〉10000 → 自動成功

 

 

一高生側の判定を行っていたテロップに表示されている数値がバグっていたのだ。

 

 

「は、はあ!?その数値何よ、卑怯よ!?」

 

「うるさい!卑怯もらっきょうも金平糖も無いわ!」

 

「え?今アタシらっきょう持ってますよ?」

 

「私は金平糖持ってる」

 

「あったわ!」

 

「あったわ!じゃないのよ!」

 

 

怒り心頭の束は、超速度でテロップに接近して、そもままの勢いで破壊してしまった。

 

 

「て、テロップダイーン!」

 

「良くもやりやがったな!許せねえ!」

 

「僕達の仲間をよくも!」

 

「テンションどうなってんの…?そもそもなんで今の今まで戦闘がTRPG風だったのよ…?」

 

「やりたかっただけだが」

 

「でしょうね!」

 

 

散々かき乱されてしまった束だが、デバフを解除できれば目の前の集団如き即殺できる。残された時間は一分半。それで全てが決まる…

 

 

 


 

 

一方そのころ…

 

 

「ハハ、アンタ怖いもの知らずなんだな」

 

「…いきなり何を言い出すの?そもそも口を開くのは私の許可が必要だってさっき言ったでしょ?」

 

「まあまあそう気を立てずに。ちょっとだけだからしっかり聞いていってくれや」

 

 

USNAの平和な住宅街で起こった爆発事件。彼女達が移動してきたこの高台からは、それを受けて警察や軍が取り調べを行っているのが見える。重要参考人として、爆発した家の所有者であるレイモンドが質疑応答を受けている。

そんな状況を眼下に収め、犯人が被害者にボコボコにされているこの現場。そこで三人の内一人、男が話し始めた。雫は余計な事をされないようにと、口を開くことを禁じていたのだが、それにも構わず話し出す。

 

 

「俺達はな、さっきも言った通り雇われてアンタを襲ったんだ」

 

「…それで?」

 

「いや、俺達の雇い主が超が付くほどの大物ってだけだ」

 

「私の父を知らないはずは無いでしょ?」

 

「モチロン、ホクザングループの総帥様だろ?確かにアンタの親も大物だ…だが、ウチの雇い主はアンタの親を遙かに超える権力者様なんだぜ?」

 

「…そんな人、居るわけ…」

 

「コレが!残念ながら居るんだよなあ!」

 

 

唐突な大声に雫は若干驚く。男の表情は、自身の命の終わりを察し、全てを投げだそうとしているかのようだった。

 

 

「俺達の雇い主は…()()()()()の中でも有力者…影の『四大老』、席さえ空けばその仮初めの称号は本物に変わるとされる人物…」

 

「元老院?四大老?それは一体…」

 

「知らないのか?なら帰ったときに親にでも聞いてみるんだな…」

 

「…で、結局誰なの?」

 

「…オイオイ、アンタホントに怖いもの知らずだな?北方潮よりも大物だって言ってんじゃ…」

 

「だとしても、総司君が居る」

 

「…」

 

「あの人がいる限り、権力だけじゃ私を怯えさせる事なんて出来ない」

 

「随分と信頼してるって事か…じゃあ教えてやるよ」

 

 

雫の瞳宿る、ある種狂気染みた信仰のような気配に、雫と総司の闇を知った気がした男は、敵の名を口にした…

 

 

「…名前は歴史の授業で聞いたことぐらいあるんじゃねえか?」

 

「?」

 

「俺達の上は…かの高名な『藤原道長』様だよ」

 

 


 

 

京都府内某所…

 

 

「旦那様、束様がまだお戻りになられていません。増援を送るべきでしょうか?」

 

「ふふ…、気にすることはないよ。そもそも『アレ』をこちら側に引き込むことは難しい。捕らえて命の手綱を握ったとしてもだ。娘の初恋を応援した気持ちで一杯だけれど、無理なものは無理なんだよ」

 

 

メイドにそう返事する、五十代前半の男性。しかしその顔立ちや姿勢は、まるで十代にも勝るとも言える若々しさを持っていた。

そんな男性が、ワインをあおる。このワインは男性の愛飲する品種なのだが、製造の難しさ、製造量の少なさ、そして製造地からの輸送の難しさを加味して、一本が優に五百万を超える超高級品だ。そんなワインを、まるで水で喉を潤すかのように扱う男性。

 

 

「それで?送った傭兵君達は役に立ってくれたのかな?」

 

「それが…対象に反撃を許し、捕縛された模様です」

 

「ふむ…実力は確かなはずだったんだけどね?潮君の娘さんが予想以上の強さだったと言うことか…」

 

「それをふまえて、協力する手筈だった大漢の者共が怖じ気づいてしまったようです」

 

「そっか…束の恋路の手助けをしたかったけれど、上手くいかないものだね…」

 

「…では、捕らえられた傭兵共はどういたしましょうか」

 

「別に?放置で良いんじゃないかな」

 

「…良いのですか?」

 

「彼らが情報を流したとしても、彼らを僕が動かした証拠は存在しない。したところでもみ消すけれどね」

 

 

主の言葉を受けたメイドが下がる。男性は窓の外に浮かぶ月を見上げて、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「橘総司…()()()()()()()()()()()()()()…そんな極上の芸術作品と同じ時代を生きていられるとは…僕は先祖以来の幸福者だな…」

 

 

 

 


 

 

それは一瞬の出来事だった。

 

 

「ガァッ!」

 

「っあ!」

 

 

緩い空気が流れていた戦場に突如として起こった悲鳴。それはパラサイト達と戦闘をしていたリーナと深雪のものだった。総司救出に人員を割かなければならない上、本来の目的のパラサイトを抑える役目も必要だったこの状況。ギャグに付いてこられない二人がその役目を買って出ていたのだが、流石の二人でも多勢に無勢。魔法発動の速度で負けている以上、均衡が崩れることは必定であった。

 

 

「深雪!」

 

「…!」

 

 

達也が自身に残された最後の感情から来る衝動に駆られ、思わず叫んでしまう。そして零次は気づいた、その叫びによって、二人の悲鳴で崩れかけていたギャグ時空が完全に崩壊してしまった事に。そしてそれは数瞬後に全員が気づくこととなる。

 

 

「今だ!お嬢!」

 

「言われなくとも!」

 

「しまっ…」

 

 

ギャグ時空が無くなればパラサイト陣営が圧倒的に有利。ここに至るまでの時間稼ぎで、束の限界は近い。ここで最大出力で攻撃すれば全員の息の根を止められる。残された時間を惜しんで、束は拳を振るった。

 

超高速の移動から放たれる、大岩を容易く破砕出来る拳。それが一高生達を襲った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリィン!!

 

 

直後、戦場に響く、何かを割った様な音。その正体に、束はすぐに気づくことはできなかった。

 

 

「お嬢!」

 

 

少し離れた場所に居て、束の攻撃を止めた人物を視認できた零次は、束を回収しようと駆け出す…が、

 

 

「アガッ!?」

 

 

異常な出力の()()()()()移動魔法によって高速化した岩を顔面に当てられて怯んでしまう。

 

そして束は此処でようやく、自分の攻撃を防いだ者を見た…

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()の偉丈夫が、一高生達の盾となる様に立っていた。そしてその男と束を分かつ光の壁…

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ここで束は、自身の敗北を察した。

 

零次は怯みから回復し、諦めずに束の元へ走り込む…が、視界の端に居るはずの、()()()()()が居ない。気づいた時には遅かった。

 

束が突進してくる光の壁に激突するのと、零次が腹に強烈な拳を受けたのは全くの同時であった…




魔法科世界の秘匿通信


・大漢の兵隊:雫の戦力にガチビビり。日和って攻撃の姿勢を見せなくなった。



・藤原道長:この名は、ある家の当主が代々受け継ぐ、世襲制の名前である。

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