2019年.8月15日.1130hrs
扶桑.旧首都東京.国防軍中央病院.side/新城 久幸
「えーっと、1608...1608......お、此処か」
陸軍の基地内の一画に設けられた国防軍の中央病院にオレは来ていた。
別に医者の診断を受けるわけではない。その病院に入院しているある人に会う為にオレは来ていた。
手に持っている見舞いの花束をしっかりと保持し、病室のドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
「新城2尉か、久しぶりだな」
「お元気そうでなによりです。佐竹三等空佐」
病室の純白のベッドで上体を起こして本を読んでいたらしい彼女。
国連軍第19特殊飛行隊リッジバックスの隊長、
オレは見舞いの花束をベッドの隣にある机の上に置き、丸椅子に腰掛けた。
佐竹が読みかけのページに栞を挟んで本を傍らに置くとオレに話し掛けてきた
「あれからどうだい、戦況は」
「内陸部に後退したユージア軍部隊は扶桑陸軍の攻撃によって小部隊から降伏しているようです。あと数日は掛かるかと」
あの激戦から5日が経過していた。
扶桑全域に渡って侵攻したユージア軍は旧首都東京での主力部隊喪失により戦線は徐々に崩壊、部隊を内陸部へと後退させ、ゲリラ戦を展開していた。
国内に止まっている部隊に支援を送りたいユージア軍だが、戦闘機部隊は航続距離不足な為、裸で爆撃機を出撃させることは出来ず。
頼みの綱の海上部隊も扶桑海側に展開した扶桑海軍艦隊、リベリオン第7艦隊の両艦隊に阻まれ辿り着くことも叶わなかった。
孤立無援の地上部隊に残された選択は全滅か、降伏するしかない。
一方でオレ達ボーンアローズやリッジバックス隊等の国連軍部隊は扶桑国防軍からの支援要請を依然として受け続けていた。
主に敵航空部隊要撃や対地任務だ。シフト制で出撃している為、今日は非番だったオレは負傷して入院している佐竹3佐に、今こうして見舞いに来ていた。
「そうか......隊もしっかりとやっているみたいだな」
「永瀬がリッジバックス隊隊長として任命されました。彼女なら、十分に貴女の代わりに活躍してくれるはずです」
「永瀬が、か。そうか。......彼女なら任せられそうだ」
そう呟き病室の窓の外の景色を眺める佐竹。オレは彼女の足元へと視線を移していた。
5日前の戦闘で被弾した彼女は駆逐艦「りょうかみ」にて緊急処置を受けた後、此処へ搬送された。
結果として一命を取り留めたが、代償として、彼女は右の膝から下の部分を失った。
空を飛ぶ者として、それは翼をもがれた鳥も同然だった。最新の義足をつけて生活に支障が出ない程には出来ると言う話だが『ウィッチ』としての彼女の役割は諦めざるを得ない。彼女は、二度と......。
「......新城二尉、そんな顔をするな」
俯いていたオレが顔を上げると佐竹は優しく微笑みながら言う。オレには彼女が悲しみを必死で堪えているように見える。その証拠に彼女の目尻には微かだが、涙を溜めている。
「私は確かに翼を失ってしまった。二度とあの空には帰れない......そう思うと、これからの人生にうんざりしそうになる......だが」
「私の代わりにお前たちが飛んでくれれば、それで十分だ。あの空をいつまでも青いままで、守り続けさえしてくれれば......」
「私は.........喜んでこの運命を受け入れよう」
彼女の頬に涙がつたる。
無理に笑みを作った彼女の瞳は涙で潤んでいた。オレは椅子から立ち上がると彼女に向け敬礼する。
「約束します。貴女が、貴女が守り続けた空を、全ての人が憧れる空をオレ達が守ります。安心してください」
「......ありがとう」
8月17日.1300hrs
扶桑.神奈川県.厚木基地.side/新城 久幸
いつもと変わらないブリーフィングルーム。
だが、今日はいつもと違い、オレ達以外に見慣れない顔のパイロットやウィッチが室内を占めていた。
何人かに話を聞いてみたが、全員が国連から派遣された部隊とのことだ。戦力増強の為の補充なら嬉しいが、ちと多過ぎじゃないか?以前までは所々空いていた室内の椅子は全て埋まっていた。
そんな風に辺りを見回していると、部屋の照明が消され、中央のメインモニターに光が灯る。
「全員揃っているな? 見知らぬ顔も多いだろうが、ま、そのまま聞いてくれ」
いつものようにオレ達の指揮官であるグッドフェローが姿を現し、室内を一瞥、話始める。
「対ユージア軍との交戦に向け、国連軍からアローズを正規軍として迎え入れたいとの要請があり、アローズ社はこれを了承した」
隣でえっ?と声を出すアリシア。
なるほど。今までオレ達は国連軍麾下の独立コマンド部隊として行動していたからな。
ユージア軍との戦いに備え、扱い方が面倒だったオレ達を改めて再編成して参加させるつもりか。
「アローズ各隊はこれをもって解隊」
「これより、軍事参謀委員会直下の独立強襲部隊タスクフォース118『アローブレイズ』として再始動する」
独立強襲部隊タスクフォース118『アローブレイズ』。
それが、オレ達の部隊名か。ブレイズは確か『炎』って意味だったな。
矢の如き早さで駆けつけ、炎を持って敵を焼き尽くすって事か。なかなか良い名前じゃないか。
「私は引き続き指揮官を務める。正規軍所属の飛行隊も解隊、再編。“エッジ”以下、リッジバックス隊もアローブレイズに編入。他、各国から戦果著しい傭兵、プライベーティア達も我が部隊に編入される」
モニターの画面に表示される多彩な部隊エンブレム。
オレ達ボーンアロー、リッジバックスに......どんどんと表示されるエンブレムでオレが知ってるやつは全てが一流の腕を誇るエース部隊だ。
コイツは尋常じゃない。世界中の凄腕が一挙にこの部隊に集結したみたいだ。
「我々は国連独立コマンドから正規軍になったが、今まで通り報酬は戴く。安心したか?」
隣に座るアリシアや周りの傭兵かプライベーティア達は口笛を吹いたり歓声を上げるなどして喜ぶ。
こんな時、一番嬉しがるであろう“ヴァイパー”ことダリルは、もういない。
あの作戦終了後、オレの成長ぶりに満足した彼女はオレに部隊を託し引退、今までの報酬を持って、今は故郷で実家の家業を手伝っているそうだ。ダリルが空けた席には後日、新しいメンバーが入る。
「これより、各ユーラシア大陸防衛線に於いて『永久の解放』作戦を実施する」
永久の解放作戦。国連が名付けた作戦名だ。
奴らが占領している地域は広大であり、その保有する戦力は一国の軍隊かそれ以上だろう。
オレ達は今から大忙しだ。なにせ、世界中の何処へ行っても戦いに続く戦いが待っている。正直言ってしんどいな、これは。
そんなオレの渋い顔を見たグッドフェローが口元をつりあげ、笑みを作る。
「新入り達に言っておく。此処では一番稼いだ奴が全ての行動を優先される」
「金と名声が欲しければ、ウチのエースを抜くことだ!」
他部隊のエンブレムの上に乗っかるようにしてアップされる1つのパーソナル・エンブレム。
それはオレのだ。周りの同業者は「噂の死神はどいつだ?」「奴を抜けば報酬が倍になるらしいぞ」だの、話している。
グッドフェローめ......楽しんでやがる。
オレは苦笑するとともに画面のエンブレムを見つめた。
同僚から託された『無限大』のマークを身に付け
敵の首を切り裂く大鎌を背負う『死神』は
これから待っているであろう戦場にて魂を狩る事を
待ち遠しくてうずうずしているように見えた。
「フフフ~♪フフフフン フ~ン♪」
『再稼動まであと24時間』
「えー? つまんないのー」
『しばらくお休みください。マスター』