早いですが、皆様、今年に引き続き来年もよろしくお願いします。
2019年.9月24日.1217hrs
扶桑.宮崎県東部沖合.日向灘上空.side/新城 久幸
いつもの様に座るのはF-15Eの前席。
操縦は自動に設定し目的地まで任せていた。
今は、高度4000m付近をのんびりと飛行している。
天気は快晴、視界は良好。遥か水平線の先まで澄んでいる青いような水色のような、そんな感じの空が広がっている。真下は日向灘の海だ。
こうやってのんびりと空を飛ぶのは久々だ。今までは対地任務用に爆装して敵地に赴いていたから、空荷で機体を飛ばすのは気分的にスカッとする。
アリシアやキャス、オリガと言った面々は少し機体から離れた場所を飛んでおり、三人仲良く談笑していた。
だが、
『不幸過ぎる』
後席に座る航平の明らかに元気の無いオーラを放つ声が、溜息混じりに聞こえた。背後をチラリと一瞥すれば酷く落ち込んだ様子で俯く彼の姿が目に入る。
この調子が厚木基地を離陸してからずっと続いている。
「仕方がないだろ? 何度言わせるんだ」
何度目かになる返事を呆れた口調で言う。
『何度でも言わせてくれ』
再び深い深い溜息がイヤフォンに響く。
これはあかんやつや。
『何で、こうなるんだよ......?』
トホホ(泣)と言った感じで嘆く航平。
何故、彼がこうも......いや、俺もなんだかんだ言って胃が締め付けられそうな気分だった。
俺たちがこうなっている原因は、視界に現れた宮崎県の東部海岸線を見れば、「あぁ......(察し)」と皆は分かってくれるだろう。
そう。俺たちが今向かっているのは、九州の宮崎県にある扶桑国防空軍基地で古巣の新田原だ。
今朝早くに招集された俺たちボーンアロー隊は指揮官のグッドフェローから命令を受けた。その際に知らされた異動先となるホームベースが新田原だ。
ううぅ......と呻く航平の声の直ぐ後に、無線イヤフォンのザザッと言う短い雑音が鳴ると、新田原基地の女性管制官の呼び掛けが聞こえ始めた。
《こちら新田原タワー。ボーンアロー1、応答を》
こういう時、相手が女性ならば一番に話し掛けるであろう相棒(航平)があの様子なので、俺が応答した。
「こちらボーンアロー1、新田原タワーどう......」
どうぞ、と言おうとしたが、管制官が「え?」と呟いた。
《え?......その声、新城二尉......?》
俺の応答を遮るように質問してきた女性管制官。
彼女の声からは戸惑いが感じられる。
ん~?、と一瞬俺も頭の上にハテナマークを浮かべ不思議に思ったがハッと、女性の声で思い出した。
「......もしかして、上代二尉、か?」
《やっぱり! 新城二尉なのね?》
俺がそう言い返すと彼女は嬉しそうに返答した。
彼女は青森県三沢の飛行警戒航空隊に所属していたのだが、昨年に起きた『旧首都防空戦』発生直後に負傷。それを機に新田原基地の航空管制官に転属したのだった。
つい1年前の事だったが、すっかり忘れていた。
彼女が再び何か喋ろうとしていたが、新田原基地が近い。そろそろ着陸態勢に移らなきゃならない。
「話は降りてから、でいいか?」
《おっと、そうだったね。んんっ!......新田原タワーよりボーンアロー隊へ。滑走路への着陸を許可します》
「ボーンアロー1、了解」
そう応答すると自動操縦を切って着陸準備に入った。懐かしき古巣への帰還に少しだけ心が踊った。......相変わらず後ろからは呻き声が聞こえるが。
◇
1226hrs.
扶桑.宮崎県.新田原基地.side/新城 久幸
滑走路に着陸した俺たちは、誘導員の指示に従って
キャノピーの開閉レバーを操作して上げるとハーネスやコネクターを外して梯子を使い、機体から降りる。
航平が降りてくるまで機体の傍で待つつもりだ。俺はHMD付きのヘルメットを片手に持ち、周囲を見渡す。
エプロンには独立強襲部隊タスクフォース118所属機に混じって駐機されている飛行型ネウロイをイメージして塗装された飛行教導群のF-15DFの機体が見え、カマボコ型の
昨年いた時と何も変わらない光景だが、自然と笑みを浮かべてしまう。教導群の大先輩方は元気だろうか?
そうして眺めていると、機体から降りてきた航平がカメラ片手に誘導路からエプロンに進入したボーンアローのウィッチ組を何回かシャッターを切って撮っていた。
「グッドフェローからの指示とは言え、これはねえよぅ」
隣に立った航平は既に涙目だ。まぁ、確かに彼の言うことには素直に同感する。だが、グッドフェローから聞いた話によれば事態は最悪だった。
敵はユージア軍だけではなかった。
ユージア軍が扶桑に侵攻する少し前、中華大陸の華夏人民共和国の北西部地域にあるネウロイの巣───其処から大群が出現したのだ。
出現したネウロイの大群は東へと侵攻を再開していた。現地のユージア軍は既に交戦状態にあり、数日前にはネウロイを撃退したとの情報も入ってはいるが、嘘だろう。
現に、
「ネウロイがL-1級の巣を構築する前に国連艦隊が攻めて美麗島を奪還するって話だが、どうなるやら」
「今のところ確認されてるのは放棄された基地を取り込んだ拠点型ネウロイ『ブルーリオン』が確認されてるだけだが、其処から爆撃機型が出撃するのは阻止しないとな」
幸いにも、島には瘴気を散布する花状物体『ブラウシュテルマー』はまだ確認されてはいない。恐らくはブラウシュテルマーの“種”を内包した弾体を積んだ飛行型がいないのだろう。これは人類にとって朗報だった。
これが開花すれば周囲の環境が悪化するという事だけではない。昔と違い、今のブラウシュテルマーは下手に破壊すると瘴気が大量噴出するか、新しい弾体を射出するのだ。排除する側にとっては厄介極まりない。
そのブラウシュテルマーが生える前に島を奪還。それが国連軍上層部の決定事項らしい、とグッドフェローから言っていた。
俺たちアローブレイズの一部が九州方面に回されたのも、美麗から飛来する飛行型ネウロイを要撃する為なのだ。
まぁ、それを考えれば納得するのだが、何も、俺たちじゃなくてもよかったんじゃないか?と思った。もう遅いが。
「おーいっ!」
「お?」
ユニットケージにストライカーを固定したアリシアたちを眺めながら話していると、背後から呼び掛ける声が聞こえた。
「久しぶり、上代」
「久しぶり久ゆ...って、航平もいたんだ」
「ウィッス」
国防空軍の第3種常装のシャツにズボン姿の上代が腰に手を当てながら話を切り出す。近くで点検中の戦闘機のエンジンにより発生した風で、彼女の艶やかなセミロングの黒髪が靡く。風に運ばれた柑橘系の香りが微かに漂ってきた。
多少乱れた前髪をサッと整えた彼女が以前と変わらぬ笑顔を浮かべ、話を続ける。
「久幸はともかく、航平がいつの間にか基地から消えていた事には吃驚したわよ。竹林一佐に聞いても苦笑いだけで済まされたし」
「いや、悪かったな上代。基地の皆は元気か?」
「もちろん。今ではユージアに加えてネウロイまで増えたから、スコア稼ぎだーって言って本来ならアラート待機の業務が無い教導群が駆り出されて301と競い合ってるよ。まったく」
「相も変わらず、か......」
「それより、......ボーンアロー1って事は、噂の“死神”って貴方の事だったのね?」
驚いた。此処にまでその名前が届いていたのかよ。
『死神』が通り名になりつつあるな、俺。
オリガから聞いた話では、他の国連軍部隊やタスクフォース118の同僚からは『空賊連中』から変わって『死神部隊』と呼ばれ認識されているらしいし。
「まあな。 ......色々あったんだよ」
「ふーん。 ......まだまだ見習いだった貴方たちがねぇ」
背が低い為、下からジトーっと見上げる上代。
まぁ正直言って俺自身、まだまだ新米なのだと評価している。
あの戦果を上げられたのも、周りの仲間のサポートに助けられながら達成したようなものだ。自分だけで成し遂げたものではない。空戦技能なども国防空軍の先輩方に鍛えられた御陰だ。
今日、此処に来られたのも何かの縁だろう。後で教導群の隊舎にでも行って挨拶してくるか。
「さて、上代」
「なに?」
航平の背中をバシバシと叩いて元気付けようとしていた上代が此方に振り向く。
「到着した事を『あの人』に伝えに行きたいんだが」
その単語にピクリと反応する航平。あの人とは、つまり此処の基地司令の事だ。
「司令に? あの人なら今、旧管制塔にいるけど」
タワーに?と言うと上代がコクリと頷く。
新田原基地には管制塔が2つあり、滑走路側から見れば左右に分かれて配置されている。現在使用されているのは左側にある新しい管制塔で、右側にある寂れた感じのが旧管制塔だ。
俺たちが基地にいた時でも旧管制塔はめったに使われなかった。
出番と言えば年に1回ある航空祭くらいなものか。基地の広報担当が撮影場所に使ったり、とかだった。
解体して基地司令専用の宿舎が出来たとかとんでもない噂が流れていたのを思い出す。
旧管制塔を見上げると確かに人影が見えていた。
「何やってんのか知らないけど、注意してね」
上代の警告には素直に従っておこう。
「航平、行くぞ」
「うへぇーマジかよ」
サバイバルキットやヘルメットを整備員の一人に預けると旧管制塔に向かって歩き出す。
ぐだぐだ文句を垂れる航平が後に続く。1人その場に残った上代は「頑張れー(棒)」となんとも気の抜けた声で応援してくれるが、逆にごっそりとやる気を削がれた感がマックスだ。
途中で会ったアリシア達には「先にブリーフィングルームに向かってくれ」と伝え、その場を後にした。
◇
「久しぶりね、新城二尉、徒梨二尉。それとも今は中尉と呼べばいいのかしら? ねぇ」
旧管制塔に上った俺たちを待っていたらしい基地司令の背筋をぞろりと舐め回すような声は、さながら悪さを企む悪徳魔女のようだ。 ......実際、元魔女だが。
「独立強襲部隊TF118所属ボーンアロー隊、隊長の新城中尉です」
「同部隊所属、徒梨中尉です」
俺と隣に立つ航平がサッと敬礼すると目の前の元魔女司令は休めと目配せする。管制室の計器の直ぐ脇に置いていたコーヒーカップの取っ手を掴み窓際に近い椅子に座った。
「楽にしていいわよ。色々と聞きたい事もあるしね」
「はぁ」
「......それで? 向こうの状況はどうなの?」
“西部の狂犬” 本名、
俺達2人が国防空軍所属だった頃の
現役時代にはウィッチとして様々な逸話を残しており今は此処、新田原基地司令と第5航空団司令を兼任している。
まぁ......その当時は色々と問題を起こしていたらしいが、その所為か航空幕僚監部のお偉方や防衛省上層部とのパイプを持っているとんでもない司令だ。
その上、世界中の空軍関係者に対してもその顔は広く知られており、現役時代に与えられた“極東の
問題だらけの彼女だが、その経歴の前に空幕長も黙認している始末だ。
下手に刺激すれば確実にペイバックされる。それを考えた上で空幕監部は彼女に
それも何時まで続くのやら......。
「......そう、上は近々美麗島への逆上陸を考えている、と言うことね。 なら、この配置も納得だわ」
国連軍部隊の動きや作戦、現在までに予定されている事を一つひとつ俺が話すと、上園司令は頷きながら言った。
「自分らに与えられた命令は半島からのユージア軍及び美麗から飛来するネウロイの要撃任務です。 現在までにネウロイとの接触はありましたか?」
「4度ほど要撃する機会があったわ。ギプスとケレオス型が中心の中隊規模の戦力ね」
ネウロイの主力飛行型のギプスとケレオス。
ギプスは全翼機形状の制空戦闘型ネウロイで必ず数機単位で編隊を組む。ケレオスは対地攻撃タイプの機体で別名ウォートホッグ・モドキと呼ばれている。
美麗島のブルーリオンから飛んできたとみて間違いないだろう。航続距離から考えて途中でタウロス型ネウロイから空中給油を受けただろうな。
「まぁ、うちの301と教導群で対処出来るわ。本来なら教導には無縁な要撃任務を特別に許可したんだから、きっちり働いて成果を出してもらわないとね」
「此方は上園司令から要請を受けしだい出撃します」
「分かったわ。それまではゆっくり体を休めなさい」
そう言って彼女は微笑むと視線を窓の外へと移した。
旧管制塔から見える景色に俺達も少し見物するか?と航平に問い掛けてみるが、本人は余程上園司令から離れたいらしく小さく首を横に振った。
上園司令に退出することを告げ、俺達は旧管制塔から教導群の隊舎へと向かった。
華夏は中国、高砂もとい美麗は台湾、ポジションです。
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