- side 三人称 -
ヒュバッッッッッ!!
狩人の聖鞭は風切り音を伴い死霊使いの身を吹き飛ばした。蹲る彼女の心に手を伸ばしていた悪霊は舌を打つ、「悠長に遊び過ぎたか。」と…。ダリオとの戯れに時間を掛け過ぎた。
一度理奈を攫うという手口を見せてしまった以上、警戒心を持った彼ら三人を相手に隙を突いて少女を連れもう一度何処ぞかへ逃げるというのは至難の技、ましてや先の羽蟲の様に追跡手段があると解った手前だ…首尾良く連れ去れたとしても連中は追って来る。
「…やれやれ、やむを得ませんか。」
【ネクロマンサー】は自身の肉体を手首という一パーツからほぼ全てを再生させた、当然ながらその過程で浪費した魔力も相当な物であった。多少の時間経過もあって僅かながら回復もしたがまだ万全とは言い難い、そこで彼奴は自身の切れる札を一枚切ることにした。
「――――光あれ!!」
青白い聖気を纏った銀の十字架が悪霊に向かって放たれる、それだけではない。クロスを投げてから直ぐに"斧"を…――理奈と初遭遇する前の段階から、最初に意識が目覚めた時点で自分は"コレを使うが事できる"と【ヘルファイア】同様に自覚していた"斧投げ"…【アックスアーマー】のソウルで虚無から生み出していたソレを放り投げた。
ブーメランの様な軌道で折り返し戻って来る十字架、重力に従い落下してくる斧、そして更に支配の力で銀色に輝く刃を投擲する狩人。そうした猛攻を避け続け悪霊は笑う。
「ふふふっ!せっかちな方ばかりでいけませんね。」
襤褸布の悪霊は狩人の次なる一撃を避けて競技場と観客席とを隔てる高い壁の上に脚をつける。陣を描く様に血色の悪い指先を空に滑らせ呪文を唱え始める。それをさせまいと狩人は銀のナイフを飛ばし青年も聖水の瓶を投げ飛ばす―――だが寸での所で間に合わない。
召喚術の詠唱を済ませた亡霊は異界の門を開き、そこから一匹の魔物を呼び出す。退魔士達の放った投擲武器は闇より現れたその巨体に阻まれ死霊使いの身に当たる事は無く、あまつさえ呼び出した者の影で見えなくなった隙に【煉獄闘技場】からの撤退を開始したのだ…!魔王の側近と呼ばれた死神【デス】とはまた違った方向性で狡猾で面倒極まりない相手…ッ!
不利を悟れば手駒に場を任せて自身は安全な場所まで逃げ出す手際の良さというのは純粋に戦闘能力が高い奴より厄介極まりない。
「うおっ!?デケェのが御出でなすったぞオイ…。」
「っ!!貴様は―――」
死霊使いの召喚術で呼び出された巨体を見てカイは顔を顰めた、歴代ハンター達の戦いの記録書や母親の話で"ソイツ"を知識としては知っていた…実物を見るのは初めてだが。一方イェーガーはつい少し前に自身の脳裏に浮かんだ映像に出てきた姿と合致する怪物を見てその名を口にした…。
「…"また"貴様か…!…【ゲーゴス】ッ!!」
枷を嵌められた二本足の大型魔獣はゆっくりと眼球の無い洞の両目で獲物達を睨みつけ吼えた。
「ギュモオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!」
―――
――
―
- side フランチェスカ -
ここに来るまでの道中、私達は使える物資を全て使い切ってでも彼女を救おうと駆けていた。カイが"聖水"や"ナイフ"、"手榴弾"を次々と、私自身も最後の一冊だった"聖書"を【スケルトンビーマー】の群れに対して使った。イェーガーの使い魔らしい羽蟲をあの骸骨の大群に焼き払われては堪った物では無かったのですから…出し惜しんでなどいられませんでした。
闘技場の中枢まで来た時、私達の耳に競技場から獣の悲鳴が聞こえてきたには心臓が止まるかと思ったものです…手遅れだったのか!?救えなかったのか!?と…。
選手控室と思われる部屋を抜けて鉄格子の戸をカイに発破させて私達は直ぐに競技場へと雪崩れ込む様に入って行く。そこで見た光景は想像していた物とは少し違っていた――例の死霊使いと攫われた白馬さんが居た。そして蹲り肩を震わせていた彼女に亡霊は手を伸ばし言葉を囁こうとしていたのだ。
……視界に入る限り彼女と悪霊以外の存在は無い。すると私達が聞いた筈の"獣の悲鳴"はなんだったのか?それに壁や地面の所々が燃えていたかの様に焼け焦げた跡があり、遠目に【アカサビ】と何かが入った袋?らしき物も見えた――――まるで此処で戦闘行為でもあったみたいに。
戦闘行為?…一体誰が、誰と?
…。
……いや、そんなことは…、でも、まさか。
「貴様……ッ!ようやく見つけたぞ!」
私はハッと我に返る、頭に過った考えを今は捨て置く、今はそんなことを考えている場合ではなかった…っ!怒りに満ちた鞭使いの彼が一気に距離を詰めて【ネビュラ】を振るい白馬さんから悪霊を退けた。カイと共に前に進み私は彼女の保護に、カイには彼に協力して【ネクロマンサー】を抑える様に指示を言い渡す。
「白馬さんっ!」
「ぁ、あぁ…わ、わたし、私は…。」
未だ目尻に涙を浮かべる彼女の傍に駆け寄り、異常が無いかを直ぐに診る、火傷や身体を打ち付けた痕は所々に見受けられる。手足等で動かせない箇所はあるか、此処で何があったかを尋ねる。
どうにも精神が安定していない様子で震える声で――狼狽の所為か所々内容が支離滅裂ではありましたが…――何があったのかを語ってくれた。
まさか、とは思ったけど彼女の口から出た「自分が生きる為に殺してしまった」、「生き物を習った剣術で傷つけた」等の証言から先程の考えが現実となったのだと察した。こんな子がたった一人で犬の怪物…おそらくポツポツと語られる僅かな証言内容と焼け焦げた近辺の地形から【ケルベロス】と推察されるソレを倒したと。
信じ難い話ではありましたが。
死霊使いの手によって何らかの幻術を見せられたと言う方がまだ信じられたかもしれませんが、現に獣の悲鳴は私達も耳にした。彼女だけが見せられた夢幻の類でない事の証左に他ならない。
そして白馬さんのこの状態は…心的外傷によるものと診ていい、所謂"PTSD"の類。
"退魔士でも何でもない普通の子"が魔物を殺した、それも動物に近い姿をしたモノを。
初めて戦場に出た兵士が相手を殺害して立ち竦むというのはよく聞く話。対象が人間じゃなかったとはいえ似たような心境に陥っているのだと判断した私は…。
―――ガシッ
「ひっ!」
「白馬さん落ち着いてお聞きなさい…、貴女の行いは間違っていません、正当な防衛です。」
両腕でしっかりと彼女の両肩を掴み、眼を合わせる…。掴んだ時にビクリと震えが一際大きくなった彼女に"貴女は間違った事は何もしてない"と、とにかく肯定する。
本当はもっと落ち着いた場所でじっくり時間を掛けて言葉なんかも選んで言うのがベスト。
でも今はそんな状況じゃない自身の行いで精神が不安定になっているのなら無理にでも言い包めて正当化させる。俗に言えば、戸惑っている相手に対してノリと勢いで誤魔化すとも言える手法。
存外、これは馬鹿にはできないやり方でしょうね…。
当人が心の中で罪悪感や自己の都合、道徳と理知の狭間で揺れ動いてどちらにでも傾けそうな時、自身の手で決断ができないとなれば人は誰かに答えを求め出す。自身の行いは正しかったのか間違っていたのか?そのように最後の一押しを第三者に求める物なのですから。
「…正当……防衛…?」
「はい、倒したのは"魔物"です。生きた動物ではありません…貴女も殺そうとしていたのです。」
その後も紡がれる私の言葉に耳を傾ける白馬さんの呼吸が整ってきたのを見て、一先ずは精神を安定させることに成功した、と安堵しました。
まだ少し震えが残る彼女に立てるかと問うと「大丈夫…平気、です。」と立ち上がった………元を辿ればこの子がこんな精神状態になっているのも今から闘技場の外まで走って逃げる様に鞭打たせてしまうのも傍に居ながらみすみす攫わせた私の落ち度だわ…っ!
彼女は動ける様になった、後は闘技場から逃げるだけ…っ!そう思い私は【ネクロマンサー】を抑えていた二人の方に顔を向け、撤退の声掛けをしようとした――――
ぞわりっ
鳥肌が立つ感覚。私が顔を向けると同時に紫色のローブを着こんだ悪霊は"扉"を開いていた。
展開されている魔法陣を見て直ぐに召喚術の類だと悟った私が唇を開くよりも先に【ゲーゴス】が現れたのは一瞬の出来事だった…。
「ギュモオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!」
―――
――
―
- side 三人称 -
「撤退だ急げッ!!」
呼び出されたグロテスクなゴジラ擬きが大暴れし始めて全員が一斉に発破した入場口を通り狭い通路へと逃げ込んで行く。怪獣映画のCGよりも迫力のある二足歩行の化け物はヘッドスライディングでもする様に前のめりに突っ込んできて狭い入口に顔をめり込ませる、その巨体で門を潜る事は出来まいとカイ青年が振り向くと怪獣の顔の皮膚がベロりと捲れ上がり大口を開く姿が見えた。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!?やべぇぞ!!チンタラ走るな死ぬ気で通路抜けろぃィィ!!」
青年が叫ぶと同時に彼の姉も少女も狩人も選手控室の間の先にある通路の出口まで脇目も振らずに全力で走り抜けた、彼らが抜け出し伏せると同時に一本道の通路を光条が突き抜けていく。途方もない熱量が迸り過ぎ去った頃、自分達が通って来た狭い道を見れば石壁も石床も熔解していた。
闘技場から抜け出せた事でもう召喚された彼奴は追ってこれまいと一息つく…しかしッ!
―――――――ドウッ!!
「嘘っ!さっきの怪獣が跳んできた!?」
大地が、揺れた。相当な質量を持ったモノが地を蹴り跳び上がったからだ。狩人は靄が掛かった自身の記憶を思い起こし「しまった…そういえばコイツは足枷が有っても跳べたんだ!」と苦い顔を作る。理奈の悲鳴に似た言葉通りあの競技場から壁も観客席さえも飛び越えて一気に闘技場外へジャンプして来たゴジラ擬きから逃れる様に彼らはまた走り出す。どうやら一息吐かせてくれる暇も与えてはくれぬと来た。
それから一体どれだけ走り続けたことか…。
一行は救出した理奈を連れて通って来た道を引き返す様に突き進んでいた。このまま進めば荒城回廊の方へと出ることになる。物資の大半を消費してでも道中の敵を薙ぎ倒して進軍してきた道だ、それ故に別所から増援が来たのか新たに通路上で再生されたのか知らんが行く手を阻んで来る魔物は居るには居たが、そこまで多くは無かった。何より一度通った道というのが大きい。
何処に繋がっているかさえも分からぬ道を走り、後方から迫り来る【ゲーゴス】から逃げ続けて挙句の果てに袋小路に迷い込みましたでは困るのだ。
「はぁ…はぁ…!一体どこまで、逃げれば…いいんですか!?」
少女がかすれ声で誰に聞くでも無く言葉を漏らす。
その問いに答えられる者は誰も居なかった。状況を好転させる材料が誰にも無かったからだ。
戦闘経験を含む失われた記憶共々に100%の実力を発揮できないイェーガー、サブウェポンのほぼ大半を使い果たした上に主武装が【ハンドガン】しかないカイ、即席カウンセリングに加えて長時間移動の合間で多少は心に落ち着きを取り戻したが手元に武器すらもない理奈。そして――――
「…くっ、【ゲーゴス】が相手では恐らく使えないかっ…。」
口惜しそうに純銀製の"懐中時計"を握りしめるフランチェスカ。
"聖書"を使い切った彼女の手元に唯一残った最後のサブウェポンだが、恐らく後ろから迫って来る大怪獣には効果が見込めない。懐中時計に魔力を注ぎ込んで背後の怪物が一時的に刻を止めるとまで行かずとも鈍化させられればあるいは…「"彼女の主となる戦い方"」ができれば勝ち目もあったかもしれない。
フランチェスカ・ヴェルナンデスの
気が付けば走り続けた彼らは少しばかり広やかな場所に出た。腿から爪先に掛けた部位を欠損したミケランジェロの彫像じみた立派な像が横たわり、罅割れた石壺や大石柱も無造作に数本倒れていて哀愁を感じさせる草臥れた場所であった…此処は【煉獄闘技場】と【荒城回廊】のエリア同士を繋ぐ"連絡通路"がある、奥に見えてきた大扉を開けば別エリアだ。
ゴジラ擬は醜い大口を開き、腐肉と血の滴りが【煉獄闘技場】エリアの石床にぼたりと落ちる。そして真っ白な閃光が放たれようとしていた…。
「っ!全員伏せろ!!」
カイ青年が叫ぶ、競技場から選手控えと出口までを一本道で繋ぐあの長い通路を走っていた時の状況再現か何かか、焼き直しの様に白光の光条が吐き出されて彼らは灼かれまいと散開する。狩人と青年が右側に飛び込む様に、対して左側へと少女と魔女が逃れる。
ジュゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ――ッ!!
「ひっ」
「大丈夫よ、安心して」
枝分かれする様に二方向へ逃れた四人、【ゲーゴス】はさっきとは違い首を下から上へ振り上げる様に動かし床から天井に掛けて破滅の光を照射した、地から天井までは焼かれて…逃げ遅れていれば自分達もタダでは済まなかったことなど火を見るより明らかだった。
字面通りの面の皮がベロリと捲れ上がるゴジラ擬きを見てか、それとも危うく焼死したという恐怖からか、理奈は小さく悲鳴をあげる。そんな彼女を安心させようと声を掛けるフランチェスカ…。彼女と同じ方向に飛び込んだのは"負い目"から、というのもあっただろうな。自分が何とかしてこの子を護らねば、と。
「チィ!…装備も整ってねぇのに【ゲーゴス】を相手にするのはキツイぜ!姉上、嬢ちゃんは無事か!?」
「ええ、問題ありません、それよりも現状をどうにかしませんと」
カイは舌を打つ、既に説明した通り彼らは物資の大半を使い果たしていた。使った事に関しては後悔は無い。使ってでも急行していなければ今頃【ネクロマンサー】に理奈は堕とされていたかもしれないのだから。……然し、豆鉄砲が一挺に手榴弾が数発という心許ない武装では逃げるのだって精一杯だ!青年は自分達とは反対の方角に逃げ込んだ姉に民間人の少女は無事かと安否を問う。
それに対してフランチェスカは冷静に此方は無事だと返事を返し、同時に懸念に関して声を上げる。
現状をどうにかしませんと…。
打開策を考えなくては…っ!連絡通路から荒城回廊のエリアへと逃げ込んだとして【ゲーゴス】を振り切れるだろうか?正直に答えれば微妙な所だ…。このデカブツは異様な執念深さとタフさを誇る。闘技場の壁をも乗り越えてくる大ジャンプを始め、どこまでも追いかけてくる脚力…それこそ歴代悪魔城に乗り込んで来たハンターを追い回す【ベヒモス】の様に。
「おい、手榴弾はいくつ残ってる!」
「あぁん?」
イェーガーがカイ青年に尋ねた。彼の残り僅かなサブウェポンの残量は幾つだと。
「手榴弾はいくつ残っていると訊いている!」
一刻を争う状況で苛立たし気に彼は早く答えてくれと。カイは狩人に残った爆発物を見せる。
「…こんだけだ、何か状況を打開できる当てでもあるってーのかよ」
金髪の青年はムッとした顔で五つだけ残った手榴弾を見せて聞き返す、切羽詰まった状況だから焦るのは分かるがあまり良い気はしないものだ。狩人はその数を見て口角を釣り上げる。
理奈の行方を探させた【アバドン】の様に幾つか使い方を思い出せた"ソウル"がある…仮面の奥で黒衣の男の眼が光る。
―――――
狩人の瞳は、…物質を見極める魔眼に変わった。何も無策に走り続けていた訳ではない…彼は彼なりに自分にできる一手を模索していた。【ゲーゴス】という相手の特徴、注意点を想起させた。
彼の記憶に浮かぶ情景ではこの化け物はそこまで知能は高くなかった事。そしてもう一点―――
「それだけあれば十分だ、丁度奴がいる真下は脆くなっていてな、下の階に落とすぞ」
彼奴自身の重量だ。狩人は記憶を失う前に【ゲーゴス】と戦った…ことがあるような気がした。
記憶の中に映るゴジラ擬きはお得意の大ジャンプの後、そのまま床を何層も突き破って底の底まで落下していったのだけは間違いなかった。一枚ぶち抜けばそれで結構、あとは図体のデカさと両脚に嵌められた足枷の重さ、落下距離に比例して増す勢い、これ等が合わさり自ずと彼奴はこの【煉獄闘技場】よりも更に地下にあるエリアへとひたすら落下していくだろう。【ピーピングアイ】で此処より下に空間があるのはちゃんと見ておいた、床や天井の脆さも十分だ。
「オイオイ、なんで床が脆くなってるって解るんだよ?」
「説明してる暇はない、信じろ。」
ゴジラ擬きは口を閉じて再び走り出す、それを食い止めるべく聖鞭を…!【ネビュラ】を携えた狩人は走り出す…!カイの制止の声も聞かずにイェーガーは声を上げた。
「俺が時間を稼ぐその間にやれ!」
「あぁっ!?オイ!?……――っっの馬ッ鹿野郎!まだOKなんて言ってないだろうが!」
カイ青年が小声で愚痴を零しながら手榴弾のピンを外せるように指を掛ける。ええい儘よ!破れかぶれだ!と内心で叫ぶ。狩人が星雲の名を冠した聖鞭を振るい流星が流れ出そうとする…!青年が最後のサブウェポンを抱えて走り出し、それを見て息を飲むフランチェスカ、狩人の名を思わず叫ぶ少女…!
「イェーガーさん!!!」
聖鞭は闇を感じ取り、自らの意志で動き大怪獣の顔面を切り裂いた。痛みに呻きを上げて片脚を振り上げる魔獣。その足元にありったけの爆発物を放り込むカイ。
「
ピンを外した凶器が五つ、ゴジラ擬きの足元で火を噴き出す。轟音ッ!例の瞬間移動を使い爆発に巻き込まれない様に直ぐ後方へと移動したカイの鼓膜に、否この場に居た全員がダイナミックな音の波を耳にした。連鎖的な爆発音だけではない。石畳みの床がガラガラと崩れ、岩塊共々にその巨体が一つ下の空間へ落ち、更に崩れて落石の数を増やしながら連鎖的に層をぶち抜き続ける音。
広やかな空間の真ん中にガッポリと開いた大穴、映画のジュラシックパークで聞く様な恐竜の断末魔にも近い雄たけびとズシーン!という落下音、其処から吹き上げる土煙…。
かくして彼らは難局を乗り切ったのであった…。
「…ふぅ、どうにかなったものだな。」
大穴を眺めていた狩人が【ピーピングアイ】を解除する。見通す眼で見た限り【ゲーゴス】御自慢の大ジャンプを以てしてもこの階層までは帰って来れまい、それほどの奈落に落ちたのだ…。
然し、彼奴の程の化け物がコレで死ぬとは思え無いと。狩人は記憶の中の怪物を思い起こし確信する。かなりの高さから落ちて地面に頭がめり込んでもピンピンしてるような奴だ。もしも下層に行く機会があればまた遭遇することも有り得るだろう、と……問題の先延ばしに過ぎないのだ。
せめて次に出会う時には此方が装備を充実させるなり戦い方を完璧に思い出した状態で遭遇したいものだ…。
「くぉ~らッ!イェーガーてめぇ!!!」
ガシッ!
「グエッ!?!?」
首に腕が回されて羽交い絞めにされる、鍛え抜かれた筋骨隆々の大男に絞められて仮面の狩人は奇怪な声を上げる。
「また勝手な事しやがって~!お前のお陰で助かったけどよォォ!報告連絡相談!!ほう・れん・そうッ!!そこんとこしっかりしろよなァ!!」
「や、やめんか!?離せ―――うげっ、く、苦しい…いや、本当…ギブ―――」
「あ、あのぉ…カイさん、イェーガーさん本当に苦しがってますよ…?」
相変わらず仮面の所為で表情が解らない狩人とそんな彼を締め上げる青年、オロオロと声を掛ける少女…そんな三人を少し離れた所で見つめる魔女。
波乱万丈な逃走劇に一先ずの終止符を打てた。緊張感の無いやり取りを交わす彼らの姿はそれを物語るようであった。
※2022.7/8(金) 一部誤字があったので修正+少々台詞手直し
暁月城に【ゲーゴス】出現!(タイトル名から分かる通りHD1章状態
本来【ゲーゴス】は蒼月の十字架で出るボスですが何故か悪魔城HDだと
明らかに暁月マップと思わしき1章に出てくるという……
既にお気づきかもしれませんが今話の後半は1話の冒頭シーンですね
理奈視点じゃないからカイの小声だったり多少違いはありますが。
1話冒頭の「なんでこんな事態になってしまったんだろう」と
最初からこれまでの話はカイの過去話を除き約8~9話分に渡る長い回想シーンでした。