悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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2章:先祖の血に抗いたい魔女③ - 懺悔の前に -

- side 三人称 -

 

 

 八体の【ブエル】が彼女達を取り囲む様に廻り、先陣を切った個体が魔女の一撃で沈んだ。

 

 風穴を開けられた同胞を見て山羊の五本脚を持つ獣の群れはこの女相手に波状攻撃の様な間隔を設けた連撃は無意味と悟ったか、全方位から一気に物量で圧し折るべきと判断したのだろう…。獅子顔を持つ悪魔が全方位から来た瞬間にフランチェスカは【懐中時計】を掲げ、文字通り時を止めた。

 

 

 

 (あの位置から俺が居るこの距離まで時空を歪めるとはな…。)

 

 

 白馬理奈は無論、近くに居たカイもそんな彼に蹴り上げられた車輪でさえ空中で静止していた。

狩人自身は【ガラモス】と呼ばれる時間停止の世界に入門できるソウルを発動させたからこそ認識できるし僅かながら動くことが出来る。その彼の眼に映った一連の流れは敏捷な動きと呼べよう。

 

 役目を終えた時計を手放し二枚の札を取り出す。古代ローマの剣闘士を連想させる雄々しき戦神、大海から姿を見せる伝説の竜、選び取ったカードに刻まれた名を声に乗せ――その力を顕現させる…!

 

 

 

 

MARS(マルス)】  【SERPENT(サーペント)

 

 

 

「火星の戦神よ!氷竜の息吹をこの手に!」

 

 

 

 刹那、魔女の水晶玉は砕け…さらさらとした翠の粉粒体へと変わりソレが別の形へと構築されていく、時が歩みを止めた無風の世界でつむじ風に舞ったとでも言うべきか…!先程まで球体であった輝く翠は風に乗って別のモノへとその輪郭を変化させた。世間一般的な魔法使いが持つには凡そ似つかわしくない両刃の劔が一振り。

 往々にして魔術を主体とする退魔士は杖や魔導書を武器とする、重量があり尚且つ自身の腕より長い得物を振り翳す者というのは中々に例を見ないタイプだ。

 

 

「……。」

 

 

 ほんの一瞬だけ、魔女と狩人は目が合った。

 

 お前は私の静止世界に入門できているな。と確かめる様に。

 

 

 

 水晶玉を氷剣に創り換えるや否やフランチェスカは石畳を蹴りだし彼女から見て真正面の獅子を当然のようにスライスする。

【ブエル】の獅子鼻の丁度中心から横一文字の綺麗な線が入っており傍目にはコレが既に絶命しているとは誰が見ても思うまい、時が止まっているからというのは勿論あるがそれにしたって切り傷からの血の滴りは一滴さえも見受けられない。時が動き出せば顔の中心から上下にパカッと分離することだろう……切断面は"凍り付いたまま"に。

 

 明らかにイェーガーの知らない技術であった。似たような技術や魔力を秘めた武具は失われた記憶の片隅に朧気ながら知識として存在している。しかし…二枚の絵札を用いて武器をその場で錬成したり、先程の…アレは…恐らく身体能力の一時的な向上だろうか?水晶玉を投擲する際に見せた異常な力強さ、どれも彼が今まで見たこと無いものだと、彼の勘は告げていた。

 

 世にも珍しいライオンの肉体構造が良くわかる切断面の氷漬けオブジェクトを生み出した魔女は横跳びに二体目、三体目と新たな現代アートを作成して、切り裂いた三体目の胴を足蹴に一気に跳ぶ…!

その際に静止世界の住人から干渉された三体目がグラリと倒れ、どの個体よりも早くに横倒しになってしまった。切り口は凍り付いているがゆえに中身をぶちまける事は無かった。

 

 

 

(むぅ…【ラハブの氷剣】には勝らずとも見劣りはせんな…。)

 

 

 

 自身の記憶に一瞬浮かんだ魔剣の切れ味とフランチェスカが振るう魔法剣の冷気を天秤に掛ける。単純に敵を屠る刃として考えるのであれば旧約聖書に於ける海魔の魂を掛け合わせた魔剣に軍配が上がる。

然してヴェルナンデスの名を背負う彼女が振るう魔法剣は悪魔城に置いては別の利点を生み出す、混沌の産物と呼ぶに相応しい此処では怪物達の動きを一時でも封じられるのは大きい。

 "石化状態"とはまた似て非なる有用な一手には違いない、戦闘面だけでなく城の探索にしたって氷像に変えた魔物を足場として活用するという手段も選べる様になる。

 

 

 さて、かの魔剣と比較しては殺傷能力の劣る魔法剣ではあるが、イェーガーの眼で追える限りは少女達を囲んでいた獅子共の悉くをたった一太刀のみで葬っている。

それは魔女自身の剣捌きが優れていたか…。はたまた時が止まっているが故に全てが致命の一撃となり得たのか…。気が付けば【ブエル】の群れは全てが真っ二つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …カチッ!

 

 

 

 石畳に転がった銀の【懐中時計】からそんな音が聞こえた。

 

 

 

 

――――ズバァァァッ!!

 

 

「!?…周りの奴らが一斉に襲ってきたと思ったら、全員真っ二つに斬れてる!?ど、どうなってるのぉ!?」

 

 

「さて…これで正真正銘最後のサブウェポンもコレで使い切ったわね…。あの感じだとカイの弾薬も尽きてて、私の手元には"主力以外のカード"と水晶玉のみ…それでも、アレら相手にはコレで十分…。」

 

 

 

 そして時は再び動き出す。

 

 無音の世界に音が戻り次々と斃れるは分割された魔獣の群れ。静止した世界を認識できない理奈は事態が呑み込めずに困惑していた。――何が起きたか唯一視認できたのは狩人だけだ。

 

 

 

 魔女は氷剣を構え「"DSS"の威力…とくとご覧あれ。」と言葉を零す、……彼女の口振りから【ブエル】如きが相手であればその一振りで十分というのが嘘偽りの類でないことを周囲に転がる斬死体が雄弁に語っている。

 

 

 

―――

――

 

 

 

「時間停止…って!そんなの凄過ぎじゃないっ!?」

「いや、そうでもない。」

 

「えぇ…そんなキッパリと、だって時間を止めるってソレは反則級なんじゃ…。」

 

 

 五脚の獅子達を全て蹴散らし戦闘行為を終えた一行は礼拝堂の狭い一本道の通路を進んでいた。最前線をフランチェスカが進み、その少し後ろに白馬理奈と彼女を守護するようにイェーガーが歩み、後方を警戒せんと銃弾を全て使い果たしたカイが殿を務める。道すがらにあの瞬間何が起きたのか理解できなかった少女が訪ねてきたから狩人は自身が見た事をそのまま口にした。

 一通り出来事を聴き終えた少女は時の流れに干渉できる事象に対して驚きの声を上げたが狩人からそこまで大した事ではないと否定的な言葉をすぐ浴びせられて目を丸くした…。自分達の前を進む魔女もその発言に対して特に反論するでもなくそれどころか狩人の言葉に同調する言葉を紡ぎ出した。

 

 

「白馬さん、彼の言っていることは間違ってはいませんわ。過去に悪魔城に挑んだ退魔士の多くも【懐中時計】を使い時を止めることはできました…。ですが―――」

「止められるのは木っ端の雑魚共ばかりだ。」

 

「ええ、逆にある程度の力を持つ者には効果が薄く多少動きを鈍くさせられるのが関の山…いえ、最悪の場合は何事も無かったかのように自由に動ける恐ろしい怪物もいるのですよ。」

 

「【ゲーゴス】が良い例であろうな、奴を止めようと思っても止められたかどうかは想像に難しくない。」

 

 

 "自由に動ける恐ろしい怪物もいる"、その言葉を口にしたときフランチェスカは自然とイェーガーの顔へと視線を向けていた…。城でお互いに邂逅を果たした際、暗黒の力を感じるとしてカイに銃を突き付けられた時に聖鞭を扱えることから魔の眷属では無いと庇護したのは間違いなくこの魔女である。悪しき者ではないとあの時たしかに太鼓判を押しはした、押しはした…のだが―――

 

 

 ―――その一方で同時に彼女はまだイェーガー・マーシュマンという男を疑っていた。

 

 

 ここまで共に行動して彼が人間の少女を本気で護ろうとしている態度は…きっと嘘偽りではないのだろうというのは窺える、だがそれとこれとは話が別だ。

彼女から見た狩人は未だ暗黒の力を使えて記憶喪失という素性の知れない怪しい仮面男であることに変わりない、もっと言えばその正体は悪魔城の城主【ドラキュラ】の生まれ変わりとなったとある人物なのではないか?とさえ疑っている。幾つか口伝で聞いた特徴に一致する部分があり、然し一部は特徴に似ても似つかわしくない部分もある等、仮にその人物と仮定すると辻褄が合わない面がある。合致する特徴が半分、不一致が半分。限りなくシロに近いグレーでありクロに近いグレー…。

 

 

 

 そして完全に彼女自身の勘から来るものだが。この狩人は『来栖蒼真』と何らかの関係がある。

 

 

 

 …あくまで勘だ。違うなら違うでそれはいいのだ、杞憂だった。それだけの話なのだから。

判断材料が足りない。本当に信を置いても良い人物なのか、それとも人類に仇なす者となる存在か……後者である可能性が捨てきれない以上は――

 

 

 

(……我ながら嫌な性格の女、よね…。白馬さんを護る姿や言動、時折見せる気遣いから悪人ではないと、そう信じたいのに。)

 

 

 

 自己嫌悪から来る鬱蒼とした感情に思わず溜息を吐きたくなった。悪ではないと信じたい、しかし狩人から見受けられる奇妙な点や魔王との関係に僅かにでも結び付く間接証拠がそれを許さず。

警戒心を解くことなくイェーガーへ睨みを利かせ続けるしかないという…。

 

 

 

 

「―――チェス――ん。フランチェスカさん!」

 

「っ!白馬さんどうかなさいましたか?」

 

「分かれ道ですけど…どっちに向かいますか。」

 

 

 思考に耽っている間、幸運にも敵の襲撃は無く眼前には枝分かれした道が…。魔女は静かに瞼を閉じ意識を一点に向ける。この城に渦巻く瘴気の流れ。身の毛もよだつ悍ましい魔の気配。

 

 …僅かに、僅かにだが瘴気の薄い箇所を感じる。まるで気狂いの芸術家が帆布にドス黒い絵具をぶちまけたような真っ黒な一面に希釈された漂白剤を垂らして薄めたと言った具合のイメージが脳裏に浮かぶ。自分の感覚を伝えても良いがその前に魔女は白馬家の少女の意見を訊きたかった。

 

 

「…白馬さんとしてはどちらの道が正しいとお思いかしら?」

「えっ!?…どうって、こっち…かなぁ。」

 

 

 逆に問われて理奈は手早く人差し指を左側の通路目掛けて指し示す。

 

 

「根拠なんて何も無いけれど…でも、"なんとなくこっちの方が良い"って気がして…。」

 

 

 論理的には何の説明にもなってない。

ただの運任せ、ただの当てずっぽう。第三者が聴けばそう思われても仕方がない発言…だというのに左の道を選択した当人の眼はジッとその先にある虚空の更に向こう側を見据えている様だった。

 出鱈目で言葉を発したとは到底思えない確信めいた色を瞳に宿しながら。……フランチェスカの感性がコンテナの落下地点だと見当を付けたその方角を。

 

「そうでしたか、実は私も左の道を選ぼうと考えていたのですよ。」

 

 もはや疑うべくもない、紛れもなくコレは"本物"だ。

 

 

 

―――

――

 

- side カイ -

 

 

 

 ヒューッ!こいつぁたまげたぜ!

 

 俺は思わず目の前のお宝を前にして口笛を吹いちまった。数分前の分かれ道ン所で俺達は嬢ちゃんと姉上が選んだ左の方を突っ走ったさ。その結果は大当たりってワケよ!

 

 まず俺達は通路を進んで広々とした大広間に躍り出た…そこはとんでもなく長ぇ時が経ったのか壁や柱は所々罅割れてて、古風な長椅子は座板がパックリと折れちまってた。慈悲の眼を抱いてた赤子へと向ける朽ちた聖母の像、元は歴史的な一幕が描かれてたのか破けたタペストリー…etc

 長年に渡って人の手が全く付いてなかった様な場所なのに至る所にある蝋燭台には最近取り替えたんじゃねーかって思いたくなる新品の蝋が火を灯していて、そのか細い光源が礼拝堂の静謐さと何処か退廃的な美しさを引き立ててたのさ。ふと首を上方へと向けてみりゃあ立派なステンドグラスがあって吊るされた灯火の輝きともマッチしてたんだよなぁコレが……ったく、ここが悪魔城じゃなけりゃあ肩の力抜いて観光と洒落込みたいんだがね。

 

 

「カイさん……。」

「ん?」

 

 

 おセンチな感情に浸っていた俺を呼び戻したのは困惑とした表情で声を掛けてきた嬢ちゃんだ。俺が見上げていた天井の方を指さしながら「"アレ"って襲ってこないんですか?」と訊いてくる。

時代錯誤な服で着飾った美男美女が円舞曲(ワルツ)を延々と踊り続けてやがる。傍から見たらSF映画よろしく俺達は中世ヨーロッパのお貴族様の舞踏会にでも迷い込んじまったみてぇだな。

 

 連中の身体が半透明で宙に浮いてなければな。

 

 

 

 …【ゴーストダンサー】――主に悪魔城の礼拝堂でその姿が確認される貴族の亡霊。城に囚われた魂の成れの果てなのか終わらないダンスパーティーを延々と続けてるって昔教わったっけな。奴らに触れると俗にいう霊障ってヤツで生命力を奪われちまう。逆に言えば接触さえしなければNo problem(問題無し)だ。同じ場所で踊ってるだけなもんで向こうからは襲って来ないときた。

 

 

「そういうワケだから上の連中は放っておいてくれ。進行方向に居るってんなら邪魔だし話は変わるがよ……そんなことより目の前の補給物資だぜ!」

 

 

 眼前には瓦礫の小山、木片や石材を無造作に積み上げたようなソレの隙間から除く鈍い緑の光沢は間違いなく俺が輸送機の中で見たコンテナの一つに違い無かった。取り分け小さいタイプの箱だがそれでも素寒貧の俺達にとっては有難い。俺とイェーガーは早速瓦礫を退かし始めた。

 二人掛かりで持ち上げる一際デカい瓦礫を取り除けば、いよいよ以てコンテナの全容は明らかになる、ぱっと見で凡そ600mm…引っ越し業者のデカい段ボールくらいのソレに手を乗せてパラパラと埃や掌サイズの木片を払う。

 

 周囲に敵と呼べる気配は無し。精々遥か真上で【ゴーストダンサー】が我関せずと踊ってるだけだ。コンテナに加護を付与してくれた神官様々だぜ!!俺は笑いながらコンテナの蓋を開けた。

 

 

 

―――

――

 

- side 理奈 -

 

 

「ほう…中々だな。」

 

 

 カイさんが箱の蓋を開けて、それを覗き込んだイェーガーさんが感嘆の声を漏らした。

私もフランチェスカさんと一緒に中身に目を通してみた、道中で何度も使われていた"聖水"の小瓶や純銀製のナイフが数本と手斧…。式神みたいに紙の頁を飛ばす不思議な本や銀の懐中時計。それからカイさんの銃で使う実弾だ。

 

 それ以外にも――――

 

 

「9mmパラペラム弾は…ヨシ!っと、それに予備で用意してた【シルバーガン】…!!最悪の場合コイツさえあれば弾切れは気にしなくて済むっ!」

 

 

 今使っている【ハンドガン】よりも強い拳銃が入っていたみたいでそれを握りしめてガッツボーズをしてた。よっぽど嬉しいんだろうなぁ。そんな彼の真後ろでは黙々と箱から【ポーション】や包帯等の医療道具に……この城で未だ見た事の無い紅茶みたいに透き通った赤い液体が入った瓶を仕舞い込んでる。

 

 

「【ポーション】だけでなく【マインドアップ】の類まであるようだな。」

「解毒剤や呪い解きの薬、包帯もご覧の通りですね。…DSSの予備カードも一枚だけありました。」

 

 

 箱から取り出された札の絵柄は…蒼空に浮かぶ雲の中で佇む一人の男性、ギリシア神話のゼウスが着てる様な服を纏っていて隆々な肉体美が良く分かる上半身と雷と思える物を握る左手…。

札を腰のカードケースに収納してフランチェスカさんは荷物整理へと戻っちゃった…。神話に関する知識はそこまである方じゃないから結局何のカードだったのか名称までは分からないわ。

 

 

 

 ――時間にして十分も経っていないんじゃないかしら。投下された補給物資から必要な物を選別して皆で拠点まで持ち出す事になったわ。箱の中にあった小さな背負い鞄に渡された医薬品と水の入ったペットボトル、食料品等を入れて一旦礼拝堂を離れた。腰には帯刀のベルトと【レイピア】が一振り…。投下された物資とは別でイェーガーさんが礼拝堂の中で見つけてくれたんだ。

 刺突用の剣ってコトもあってちょっとだけ扱いは慣れないけど贅沢なんて言ってられない。足手纏いにならない様に頑張りたい所ね…。

 

 

―――

――

 

- side 三人称 -

 

 

 【ブエル】の群れを返り討ちにした礼拝堂入口前まで四人は戻ってきた。石畳には車輪が如く動いた魔獣達の駆け抜けた痕が未だに残っていた。…本来、五脚の獅子はあそこまで群れを為して行動はしない筈だ、それこそ何者かによって意図的に統率でもされない限りは…。故に最初に8匹もの車輪共に囲まれた時、フランチェスカは驚愕した。自分達に迫った個体とは別で同数どころか倍以上の【ブエル】が先陣に居た狩人と青年に襲い掛かっていたのだから。偶発的に三十体近い同種の敵と遭遇しました、なんて言葉で片付けて良い物ではない。

 気味の悪さを覚えたが、考えた所で答えは出ない…。魔女はこの件を心に留めつつも拠点部屋を目指して仲間達と歩んでいた。

 

 

「カセットコンロまで入ってたのはツイてたなぁ、水と食料も確保したし後は鍋でも適当に見繕ってくればコンテナに入ってた【カレー】が食えるな!レトルトだけどよっ!」

「……。医療品や武器の類はともかく其処まで用意されていたのは驚かされたぞ、お前達は悪魔城でサバイバル生活でも送る気なのか?と…。」

 

 

 ガハハ!と豪快に笑う青年を横目に若干だが口元を引き攣らせた狩人が呆れたように言葉を投げかけた。

 

 往路時に比べ、道中飛来してくる【のみ男】や【ブルークロウ】を難なく処理していく。それもその筈だ…先刻との大きな違いはまず弾薬を節制する必要が無い事、針の穴に糸でも通す様な精密射撃は当然として弾切れを気にしなくてよくなった分、相手の進路を妨げるための牽制射撃が可能となり、各種サブウェポンの補充など…物資不足という名の枷が外れたことで行動の範囲が大幅に広がったのが大きい。

 上機嫌で人喰い鴉の二枚抜きを披露するそんな彼の姉君も懐に【エーテル】がある分、いざという時に消耗を気にせず戦えるだろうし…。第一この道沿いに居た敵は礼拝堂を目指していた時点で粗方交戦して打ち破っているのだ。復路の方が敵の数が圧倒的に少ないのは当然と言えよう。

 

 

 回収した食料品がどうだのと、他愛のない談話ができるくらいには心にゆとりを持てた。

 

 

 唯一の懸念があるとすれば全員が大荷物を担いでる所為で動きが鈍化していた事だが、それこそ肉迫される前に純銀の銃口が火を吹き、意志を持った星雲が薙いで、…稀に翠玉色の剛球が敵の脳髄を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そんな彼らの姿を礼拝堂の屋根の上から見下ろすスーツ姿の男が居た事に、一体誰が気づけただろうか。多少気持ちが舞い上がっていたというのはあるかもしれないがそれ以上に男は自身の気配を気取らせなかった…。

 年の頃三十代半ば、汚れ一つ無い真っ白なスーツに紫紺色のネクタイ、両肩からスラリと垂れ下がった真っ白なストール…そしてオールバックで整えた茶髪の紳士然とした風貌の男性。

 

 "自身が斥候として放った【ブエル】の群れ"を蹴散らしていった男女四人組を吟味するように―――特に仮面を付けた狩人を―――眺めていた…。

 

 

 

―――

――

 

- side イェーガー -

 

 

 

――バタン!

 

 結界を張った部屋へと再び戻ってきた俺達は戸を閉めてから文字通り肩の荷を降ろす。あのまま城内の探索をするには些か荷物が多すぎる。

城内に居るやもしれぬ理奈の身内、ウィズライト教団とやらが狙う……"ドラキュラの遺骸"…それを考慮すれば直ぐにでも行くべきだろうが急いては事を仕損じる。

 身支度を整える為に不必要で嵩張る物はこの部屋に置いていく。見慣れた霊薬入りの瓶、赤と青を各種取り出しやすい場所に収納し終えて俺は他の奴の手伝いに向かった…。

 

 

「カイさん、ちょっと訊きたいことがあるんだけれど。」

「おう!何が知りてぇんだ?…その手に持ってる【うまいにく】がどうかしたのか?」

「このお肉ってなんなのか気になっちゃって…鶏肉や牛肉とも違いそうで…。」

「??? 何言ってんだ嬢ちゃん【うまいにく】は【うまいにく】だろ?」

 

「えっ。 あ、いやいや…そういうコトじゃなくって!!」

 

 

 離れていたから話の内容はよく聴こえないが首を傾げてキョトンとした表情のカイと慌てて手を振って何かを伝えようとしている理奈。…お喋りをするのは構わんが気が抜けすぎではないか?

二人に近づき自分は作業を終えたが手伝える事はないかという旨を伝える。

 

 

マジか!?いやぁ~ホント助かるぜイェーガー!実は住環境をイイモンにできそうな家具がある所見つけちまってよォ!ちょいとばかし人手が欲しかったんだ、コレで拠点の快適さが増すぜ!!」

「……。貴様は本当に悪魔城でサバイバル生活でも営むつもりか?」

 

 

 頭痛を覚えそうだ…。仮面の上から眉間を抑え溜息を吐く。

 

 保護した人々の為、又は自分達が身を休める為に室内の機能性向上を図る…だったか?言い分は理解するのだが、こう…言葉で聴くとなんというか馬鹿らしさと言うか、滑稽さがあるな…。

まぁ良いだろう、斯く言う俺自身も拠点に家具を置くこと自体は正直なところ賛成なのだ。

 礼拝堂までの往復を経て"また幾つか使い方を思い出したソウルがある"。その内の一つに特定の家具に身を委ねる事でどれほどの重傷を負っても傷が癒えていくという効果があった。

 

 

(――支配の力(タクスティカルソウル)…降りよ、付喪の霊【ターンネートテーブル】…。)

 

 

 胸の内でその"ソウル"に呼び掛けてみた。…ふむ、能力の発動自体はするが―――やはりと言うべきか家具に腰掛けていないからか何の恩恵も得られんな。

改めてソレを確認し終えた俺は理奈にすぐ戻るから待っていろ、と一声掛けてからカイと共に家具を取りに部屋を後にしようとし…。

 

 

「お待ちなさい…イェーガー。」

 

 

 …部屋を後にしようとした所で呼び留められた。

 

 

―――

――

 

- side フランチェスカ -

 

 弟と共に拠点から出ようとした彼を私は呼び留めた。仮面を付けた黒衣の男は歩みを止め、振り向きながら腕を組み言葉を返す。

 

 

「先に手伝ってほしい事でもあるのか?」

「少々お話をしたいと思いまして。…覚えてますか?先刻、情報交換をしたいと申し出た事を。」

 

 

 イェーガー・マーシュマンは手を顎に当て小さく唸る。初めて拠点に訪れ、結界を張っていた時に交わした会話内容を思い起こしているのでしょうね。

 

「貴方には私個人として訊きたい事もある。その時、お互い色々と情報交換を、ね?」

 

 …お互いに情報交換をしたい、あの時に言った言葉。彼自身と『来須蒼真』の関係性を問いただしたい…。そして――――

 

 

「カイ、調度品の収集作業ですが…彼の代わりに白馬さんと行動しては頂けないかしら?」

「ハァ!?姉上マジかよ!?近場で強そうな魔物も居なかったとはいえ嬢ちゃんと二人って――」

 

 

 無言で私は弟の眼を見つめた。それから、戸惑っている白馬さんの顔を…。長い付き合いだからか、カイはそんな私を見て何かを察した様に口を閉ざしてくれた…。

 

 

「お願い。イェーガーには色々と伝えなくてはならない事もあるのよ、…その、私がなんで"闇の魔力を操る力"があるのかなど…。」

 

「…はぁ~~っ!姉上は本っっっ当、不器用なトコはとことん不器用だかんなぁ、わぁった、わぁったよ!!」

 

 

 大袈裟にかぶりを振るって弟は承諾してくれた。…本当にごめんなさい。

私は余程酷い顔で俯いていたのか…カイは此方まで歩み寄って小さく私の肩を叩いてきた。

 

 

 

 

「姉上…例の件は嬢ちゃんに聞かせたくないんだろ?アンタの気持ちは分かる、でもいつかは向き合うってのも覚悟してくれよ…。」

 

 

 

 

 小さく、耳元で私にだけ聴こえるような声でそう言葉にしながら。いつか私が自身の口で言わなければならない問題。勇気を持って本人に言い出す事ができない事柄。

 

 

「話は纏まったようだな。」

 

 

 組んでいた腕を解き、事の成り行きを見守っていた仮面の男が静かに言葉を発した。困惑の表情で私とカイの顔を交互に見ていた白馬さんも自分が探索に行く流れが決まったからか荷物を背負って立ち上がっていた。

 

 

「カイ、白馬さんの事を頼みます。」

「くれぐれも理奈に万が一の事が起こらんようにしてくれよ。」

 

「なぁ~に!大船に乗った気で居ろよな!」

「無事に戻ってきますからねっ!」

 

 

 拠点を発った二人の背を見送り、静かに扉が閉まっていくのを確認する。今この場にいるのは黒衣の男と私だけ。部屋を支配するのは沈黙と何処か張り詰めた空気だけだった。

部屋の中央までお互いに歩き、…先に静寂を破ったのは黒衣の男。

 

 

「さて、聴かせてもらおうじゃないか…。わざわざ理奈を遠ざけてまで話したい事とはなんだ?彼女に聞かせたくない案件とやらが闇の魔力と関係あるのか?」

「聞こえていましたか。」

 

「生憎と聴力は良い方でな、で?保護すべき一般人の理奈を連れ歩く事に抵抗感を表していたカイがあそこまですんなり引き下がる内容とはなんだ?ハッキリと言え。」

 

 

 今までと違って彼の言葉には棘々しさがあった。無理もないでしょうね。

向かう先が然程脅威の度合いが低い場所とは言え、たった二人だけで白馬さんを向かわせたのだから…守り続けてきた彼からすれば内心穏やかではないわね。

 

 

 

「…お話しましょう、なぜ私が闇の魔力を操れるか、魔界のゲートを開かずとも【まふうじん】を扱えるのか、…白馬さんに聞かせたくない…私自身、が…背負っている"罪咎"についても。」

 

「"罪咎"だと?」

 

「…ええ。―――この話をする上で貴方にも幾つか訪ねたいこと…いえ、どうしても確認を取りたいこともありますのでご了承を…。」

 

 

 

 

 私は…、深く息を吸い込んで吐き出した…。今、この部屋にはカイも白馬さんも居ない。居るのは私とこの黒衣の男、二人っきりだ。

これから私が口にする私に流れる血の罪、祖先から続いてきた家系と…―――母の代から特に背負う事となった罪の十字架。

 祖先の血に抗いたいと願う私が……背負う"罪咎"の話なのよ。

 

 

 

 まるで懺悔室に入ったような気分ね…。懺悔する前の人々の心境はこんな感じかもしれないわ。

 









【解説コーナー】


【うまいにく】 なぞの肉、作品によって回復量は変わるが大体HP290回復がほぼ基本である。
 ちなみに一般的な回復薬である『ポーション』も作品によって効能が変わるが回復量50~100、上位互換の『ハイポーション』も物によっては200である。なんだこの肉

 大概、悪魔城の壁の中に埋まっている。壁をぶん殴ると出てくる。
 悪魔城HDでは回復効果+STRが5上昇する効果まであるという、なぞの肉である。



【カレー】 「美味い!!!(CV.緑川光)」やみつきになる美味しさ。回復量は驚異のHP800である。上記の『ポーション』系統の回復量の数値を見て分かる通り控えめに言って頭おかしい。

 とは言え…流石に強すぎるのか、蒼月の十字架以降の作品では回復量がナーフされていき、500、400と下がっていった(それでも十分過ぎるが)。



 基本的に食べ物アイテムは月下の夜想曲だと一部例外を除いてイマイチな性能だが暁月の円舞曲辺りから一気に高性能回復アイテムと化した。

 探索型悪魔城のゲーム仕様上、各アイテムは9個までしかストックできないという制限があるのでショップで気軽に購入できる『ポーション』類より敵からのドロップでしかほぼ入手不可能な飲食物の方が悪魔城では貴重なまであるという…。










 1年以上投稿できなくてすいませんでした…。最後の投稿から急に忙しくなって正直今も色々と書く時間が取れなくなったりしてます。こんなどうしようもない奴ですが何卒宜しくお願い致します。 お目汚し失礼しました…。
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