悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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2章:       -23年前の亡霊達-

- side 三人称 -

 

 

 桔梗の花に近い青み掛かった分厚い法衣(ローブ)を纏うその者はただ瞑目し、19世紀のヴィクトリア王朝によく見られた格調高い椅子に腰掛けていた。所々の布地に解れがあり、擦り切れた痕や幾つかの破れ穴も見え…浮浪者がその身に着ける襤褸布とも思える代物であった。それだけであったならばみすぼらしい不埒者が身分不相応にも座しているだけに見えた。

 然し、裾の先から伸びる血色の悪い両腕、破け穴から覗かせる死人色の素肌、深々と被った頭巾から見える死化粧を施した唇…。首元から垂れ下がる人骨で創った首飾り。

 

 座する者が血の通った生者ではないとそれ等は雄弁に語っており。見様によっては退廃的な美しさを醸し出していた。

 

 

 天を仰げば白雲が浮かぶ蒼穹。紅い花弁が降り注ぎ、生命の息吹を感じさせる蔦が大空から垂れ下がっている…そんな天井画をはじめとして壁画や絵画、年季の入った調度品の数々、至る所に鮮血を連想させる程に朱い花を飾った花器が並ぶ長い廊下…。【妖魔迎賓館】の一室にてその者は―――――【ネクロマンサー】は静かに瞑目していた。

 

 

「……そうですか。やはり何者かが居ますか。」

 

 

 生ける屍は瞼を閉じたまま、独り言ちる様に唇を開いた。

室内には死霊使いの他に人物は見受けられない。何も知らぬ者が見れば密室で椅子に腰掛けながら姿見に向かって独り言でも喋っている様にしか見えないだろう。

 

 

 

「正体が判明したら仔細を伝えなさい、交渉可能と見做せれば此方からコンタクトを図りますので…。」

 

 

 

 鏡面に映った死霊使いの輪郭はノイズが走ったように揺れ動き、暈けていく。姿見に映る容姿が徐々に形を崩し別の何かへと変貌していく様相を座して眺める襤褸布の色合いとはまた違った毒々しさ。暗緑色の衣を纏った悪魔がそこには居た。双瞳(そうどう)の色も身に着けている衣服と変わらず、醜悪な顔立ちをした鏡の悪魔―――【キョウマ】は恭しく自分よりも格の高い存在に頭を下げ、課せられた命令を実行せんと姿を消した。

 

 

「よォ【ネクロマンサー】、取り込み中だったか?」

 

「デリカシーの欠片もありませんね。ノックの一つくらいしたらどうです?」

「俺とテメェの仲だろ?」

 

 

 今しがた部下への下命も済ませて通信を遮断した所なので良いのですが、と襤褸布は不服そうに無配慮な訪問者こと【ダリオ・ボッシ】へ視線と言葉を投げる。煉獄闘技場での一件で憤慨しながら出て行った筈の老人は妙に上機嫌で、手頃な椅子を引っ掴み死霊使いの傍らに置いて腰掛けた。傍若無人な在り方を見せつける矍鑠とした男は「へへへっ」と笑みを零すだけで何も語らない。

 長い付き合いだからこそ分かる。感情優先で動くダリオがこういう態度を取る時は自身の功績をひけらかしたい時だと。暗に自慢話をしたいからお前から訊いてこいと。

 

 

「…随分とご機嫌のご様子で、遺骸の一つでも発見なされたのですか。」

 

「いんや、まだ見つかってねェよ―――だが面白れぇモンを見つけちまってな!」

 

「それは如何様な物で?」

 

 

 

 

「あの白馬理奈の家族(クソガキの身内)だぁ…!」

 

 

 

 

 

 適当に相槌を打って彼の自慢話を聞き流そうと考えていた死霊使いは耳を傾けた。鏡巫女の身内ともなれば利用価値は高い。白馬理奈は言うに及ばず、正義感の強い教会所属の二人組も善良な市民とやらを見殺しにはできまい。

 

 深々と被ったフードの下で死化粧の唇が明け方の三日月を作った、【ネクロマンサー】がダリオに交渉を持ちかけるのは当然の流れと言えよう。

 

 

 

「不躾ながら…貴方の成果を私にお譲り願えませんか。」

「ケッ!そう来るだろうと思ったよ、俺が見つけてきた手柄なんだぜ?」

 

 

 

 要求を突っぱねる様な物言いこそすれど還暦に達した男のほくそ笑んだ表情は死霊使いの交渉事に意欲的である事を物語る。襤褸布の亡霊は肩を竦ませて「勿論、対価は支払いますよ」と言葉を繋いでいく。

 

 それに対してダリオは顎に手を当てながら交渉相手の言葉を反芻する様に呟く。「対価、対価ね…対価を支払うか、悪かねェな。」と…答えなど【ネクロマンサー】の元に態々足を運んで自慢に来たというその時点で最初から明らかだろうに。

 

 

「ご提示しますは先に遺骸探しに出かけた"彼"と貴方の間にある捜索力の差を埋める手駒、今なら色を付けまして戦力として動員できる配下も数名お譲り致しましょう。」

 

「ほぉ~?大盤振る舞いじゃねぇか。」

「喉から手が出るほど欲しい代物でしてね、見合う価値があると判断しましたので…。」

 

 

 闘技場での自分とはまた違ったベクトルでの白馬理奈に対する固執ぶりから多少は強請れると踏んでいたが想像以上の買値が付いた事に彼はおくびもせず驚いていた。

 

 

 

「まっ、いいさな。認めたくねぇが俺とあのスカシ野郎にゃ差がある。手数が増えんなら大歓迎よッ!」

 

「ふふふっ!交渉成立ということで!!」

 

 

 

 齢60に達した男は老いを感じさせない力強さがあったッ!…だが、それでも全盛期の肉体と比較すればどうしても衰えた面はある。

過去に討ち倒されてしまった自身の半身とも言うべき【アグニ】の力は目の前の死霊使い……と、心底嫌っている"スカシ野郎"の協力で取り戻すことは出来た。白馬神社にて護られていた鏡の封印を解いて一時的にでも構わないから現世と日食の中に封じられた悪魔城を繋げる。

 そうする事によって城内をひたすら揺蕩うだけだった【ドラキュラの遺骸】が物理的に干渉できる存在として正しく顕現されるのだから――――その御使いを成し遂げたお駄賃として【アグニ】は確かに取り戻せはした…のだが、…宝探し競争で相手を出し抜くには力不足…!

 

 

 

「お互い良い取引ができましたね。」

「ケッ、よく言うぜオイ…!」

「まぁそう邪険にしないでいただきたいのですが、…あぁそうだ!ご機嫌直しのついでにデモンストレーションでも如何で?」

「あ?」

 

 

「試供品、とでも言えば良いのでしょうかね。今回貴方にご提供する部下達が実際にどれだけ使える手駒なのか、その目で実力を確認したいでしょう?」

 

 

 ご提示分の駒から差し引きはしません、あくまでお試し品なのでご安心を。と死化粧を施した唇で妖しく笑みを作りながら言い放ち、襤褸布の幽鬼は先程まで【キョウマ】が報告に来ていた姿見に向かって手を伸ばしては呪詛の様な言葉を口遊む。

 

 

 

 

 

 

          ぺちゃり。

                             びちゃっ。

 

 

 

 

 水音。

 

 同時に鏡面にできる小さな染み。広がっていく染み。

 

 

 "ソレ"を呼び出した死霊使いも椅子にどっしりと腰を据えたままのダリオもそれを見つめた。

真っ白な紙の上を歩いていた蜘蛛を掌で勢いよく叩き潰した後の様に、鏡に向かって腐りかけのブヨブヨしたトマトを全力で投げつけてやった後の様に、その紅い染みは広がってやがて人間の形になっていく。

 

 

「フォ…フォ…フォ……フォフォ…フォフォフォ!!」

 

 

 耳障りな嗤い声、それが何処からともなく聴こえてくるのとほぼ同時に姿見の表面上に浮き出た紅い染みらしき物が蒸発したかのように忽然と消え、…そして鏡面に映っている人影は三名。

鏡が映し出す光景は何が可笑しいのやら忍笑いをする死霊使い、しかめっ面を作ったダリオ。両者に挟まれる様な形でそこに立つ奇抜な恰好をした長身のソレ。

 

 

 

   「さぁ、お行きなさい偏執病の化身―――【パラノイア】!!」

 

 

 

 

―――――――――【妖魔迎賓館】の一室にて死霊使いは声高く、その名を口にした。

 

 

 

―――

――

 

 

 子気味の良い音が荷車の上で鳴る、山羊革(ゴートレザー)で創られた袋一杯に詰め込まれた硬貨の音。

イェーガーとフランチェスカだけを拠点に残し、青年と少女が殺風景な拠点を彩る為の家具集めで見つけた産物であった。どの様な意図かは知らないが壺やら燭台やらに銅貨や銀貨、果ては年代物の金貨までもが隠されていた。

 

 

「ひい、ふう、みい…。こいつぁ(ドル)換算しても3000はあんじゃねーの?」

「さ、三千…!?え、ええっと…確か今が1ドル…何円だったかなぁ…。」

 

 

 学生の身分である白馬理奈からすれば手が震える程の大金、それを前にしてカイは事もなげな顔で彼女に言う。

 

 

「まっ!折角だしな、嬢ちゃん貰っちまえよ。」

「へ?はっ?えぇぇぇぇぇぇ!?!?」

 

「日本政府や教会(オレ達)の方からも今回の件で多少は見舞金みてぇなモンは貰えるだろうけどよォ、白馬神社(嬢ちゃんの家)は燃えちまってるし…つーか嬢ちゃん自身を現在進行形で死線潜らせちゃってる訳で…」

 

 

 迷惑料にしちゃ少な過ぎるくらいだぞ?そう言いながら肩を竦めて力なく笑う青年。

 

 戸惑いを隠せない彼女が安心して受領出来るようにお道化ながら、君はソレを受け取るのに十分な権利がある、と言った旨を伝えると同時に本来護るべき対象に自分達は何をやらせているんだと頭が痛くなってくる。

 

 

「そういうことでしたら…。」

「おう、寧ろ貰ってくれないと困っちまうぜ。」

 

 

 道中でそんな言葉のやり取りを交えながらヴェルナンデス家の男は木製の荷車を引っ張った。

 

 【狂乱の花園】…彼とフランチェスカ、退魔士の姉弟が空から降下してきて最初に降り立った城の区画。着陸と同時にパラシュートを外して近場に居た【スケルトン】系統の魔物と交戦を繰り広げたり、何があるのか一通り見て回った土地だ、…今カイが引いている荷車もその一つ。

 元々は庭師が植木や鉢花、造園道具なんかを乗せて廻りながら仕事をする為の物だったのだろうが使える物なら有難く利用させて貰おうという精神で彼らはコレに集めた調度品を乗せて拠点まで運ぶ目論見でいた。

 

 花園自体は拠点から遠く離れておらず、脅威の度合いに関して言えば……生き血と人肉を貪る【しょくじんばな】や【ウネ】等こそ居るが、植物の宿命と言うべきか近づかなければそこまで恐れる必要も無い。

他に居るとすれば先程記述した通りヴェルナンデス姉弟が交戦した骸骨共くらいだろう。

 

 

 回廊の方で幾度となく屠った通常の骸骨から、自身の頭部をサッカーボールの如く蹴り飛ばす個体、オーバーオールと麦わら帽子が似合う素朴な農民風の恰好をした個体も彷徨いていた。

…どの個体も此方に接近を許す前に新調した銃の餌食となったが。

 

 

「ッ!? カイさ―――」

 

――――パァン! ドッゴオォォン!!

 

 

 理奈が声を上げるよりも速く、銃口は彼女が認識したソレに向けられていた。文字通り早撃ち。片手は荷車のハンドルを掴んだまま然して利き手の指先は引鉄を鳴らし、導火線に火が点いていた火薬樽を今正に投げ込もうとしていた猿骨の脊髄を見事に射抜いた。

 脊髄を清めの銃弾で撃ち砕かれた猿骨――【スケルトン・エイプ】はそのまま前のめりに倒れ込む様に崩れ落ち、自身が掲げていた火薬樽の下敷きになりそのまま……。

 

 

「お、おー…。」

 

「サンキューな、教えようとしてくれてたんだろ?」

 

 

 目を大きく見開いて感嘆の声しか出せなかった少女はその言葉に首を縦に振った。カイ曰く"住環境をイイモンにできそうな家具がある所"の傍にあった石柱の影から姿を現してきた猿骨。

荷車を引きながら歩き続けてきたが…気づけばもう目的地まで来ていたようだ。カイ曰く、庭師の詰所と思われる家屋に。

 

 

 出入口前に荷車を置き扉を開く、…意外なことに内装は小奇麗な物で古い木板の床に継ぎ接ぎのキルトラグ、その上にポツンと置かれた割れた花瓶と水差しの乗ったローテーブルが置かれていて周囲を見渡せば陶器の食器を飾り立てた暖炉や戸棚。

上部には書物を収納する為のシェルフ付きキャビネットがある他、地球儀の置かれた書斎にでも使われていそうな片袖机…etc。

 

 入口から入ってすぐでこの品揃えならば確かに期待値も高いと言えよう。持ち運ぶ調度品の選定をするにしてもまだ全てをじっくりと見た訳ではない、もう少し奥に踏み込んで他の家具を見てみた方がいいと二人は別の部屋に通じる扉を潜っていく。

息を潜め、何者かが居ないか慎重に…カイ青年は観葉植物が多く置かれた部屋の隅に置いてある奇怪な物体を見て庭師用の此処が妙に小奇麗な理由に納得がいった。

 

 

「うわ…なんですか、あの趣味の悪い………掃除機?」

「ありゃあ此処を綺麗にしてるメイドさんのだろーよ、掃除機ってのは間違ってないぜ。」

 

 

 妖魔メイドが使う魔導器―――人間の膝上ほどの高さがある頭蓋骨に車輪と掃除機ノズルを付けたソレを指して簡単に説明する。入口の戸に鍵を掛け警戒を怠らずに一部屋ずつ調べていき…魔物が居ない事を確認すると理奈とカイは拠点へ持ち帰れそうな物を見繕い始めた。

 

 作業そのものは滞りなく進み、持ち出す調度品を選定して運び出す準備も終えた今…暫しの休息をとることにした。如何せん引っ越し業者がやるような荷造り作業を急ピッチで済ませたもので。

 

 

「ふぅー…必要最低限でざっとこんなモンかね。」

「それでも結構な荷物だと思うんですけど、一回で運びきれないんじゃ…?」

「一回くらいは往復するだろうさ、つっても入口はマジで近い上に見つかっても【プロセルピナ】程度にゃ流石に負けん。」

 

 

 まっ!面倒な事になる前にずらかっちまうのが一番だがな!そう笑いながらカイ青年は水の入ったペットボトルの中身を喉に流し込む。そんな彼を見ながらおずおずと――――

 

 

「…。あの…訊きたいことが…。」

「ん?」

 

 

「フランチェスカさんがイェーガーさんに話そうとしてる内容についてなんですけど…。」

 

 

「…。」

 

 

 

 ピタリ、ペットボトルの中身を流し込むことを止めた。

 

 

 沈黙。

 首を動かさず青年は視線だけを隣で遠慮がちに訊いてきた少女に向けた。

 

 

 

「姉上の話、か…。」

「…その、私の単なる思い込みとかなら良いんです、でも…なんていうか、その―――私と」

 

 

 

「嬢ちゃん自身と関係がある聞かれたくない案件だから遠ざけたんじゃないかって?」

 

 

 白馬理奈の言葉を遮るようにカイは言葉を口にした。それは少女が確認を取りたかった事柄に対しての肯定に等しいもの。

 

 返事はしない、ただ黙って少女は頷いた。

不安げな顔…それなのに瞳には確信めいた色が宿っていて。彼は大きく被りを振って溜息を一つ。

 

 

「ハァ~…やれやれだぜ、勘のイイお嬢ちゃんだ。ったく……ご名答。」

 

 

 

 ただ"フランチェスカはどうして闇の魔力を扱えるのか"それを口答で説明するだけ。たったそれだけなのに、だ。…確かに闇の魔力と言う単語から碌でもない裏事情が飛び出しそうなイメージはある、一般人が知らずに生きていけるならそれに越したことはないのも頷けよう。

それにしたって態々カイに頼んでまで部屋の外に理奈を遠ざける必要性があるのか?

 どうにも態度が露骨過ぎる。万が一、いや億が一にでも彼女にだけは聞かれては困るとでも言いたげな…。

 

 

 

「ちなみにだが―――どうしてそう思った?姉上の力に関しての話と嬢ちゃんに一体なんの繋がりがあるってんだい?」

 

「…カイさんがさっき言った様に勘の部分が大きいかな、礼拝堂に最初向かった時フランチェスカさんが言ってたんだ…。」

 

 

「あんなにも近くに居たのに、みすみす貴女を【ネクロマンサー】に攫わせてしまった…護らなければならない立場だったのに、怖い思いをさせてしまったわ…。それだけじゃない…。」

 

 

「"それだけじゃない"って…。あそこでちょっとだけ違和感、みたいなのがあったかな…あの後に続く言葉が何だったのかって…、何か言いたいんだけど言い出せない様なそんな感じ…。」

 

 

 単に【煉獄闘技場】で精神が不安定な時にもっと掛ける言葉を選べなかったのかと思い悩んでいたとも受け取れなくはないが…それとはやはり違う。攫わせてしまった事やそれとも別の、もっと後ろめたさに似た何かを感じ取ったのだ。

 

 

「…ハァ~、日本の巫女さんってェのは勘が良いのかい?それとも嬢ちゃんがコナン・ドイルの熱狂的ファンなのかねぇ…。」

 

 

 どうすっかなぁ、と後ろ頭をポリポリと掻きながら困ったように眉を八の字にするヴェルナンデス家の長男…。この案件に至っては他ならぬフランチェスカ自身が理奈と向き合って何時かは伝えねばならぬ事だと考えている。

故にこれ以上この話を続けても良い物かと黙りこくってしまう。

 一分、…それよりも遥かに長く思えた60秒が過ぎた辺りで彼は意を決した様に唇を開いた。

 

 

 

「…こいつぁ非常にデリケートな案件なんだ、だから俺の口から全容を語ることは出来ない。姉上がしっかりと自分の言葉で嬢ちゃんと向き合って話してくれる事が最適だろうと俺は信じてる。」

 

 

 だから――――

 

 

「一つだけだ。…全容は語れない、だから"たった一つだけ"俺から姉上についての話をしよう…その代わり頼みがあるんだ。」

「頼み?」

 

 

「その、だな…どうか、どうか全てを知った後でもあまり姉上の事は嫌わんでやって欲しいんだ。―――頼む、姉上の弟としてのお願いだ。」

 

 

 神妙な顔で彼は、自分より年下の少女にそう乞い願った。

朗らかで自信に溢れていた茶目っ気のある年上の男性、そんな印象を抱いていた男からのその頼みに理奈は目を白黒させた。どうしてそこで件の姉君を嫌わないでほしいという流れになるのかとか疑問は尽きない、だが一先ずは慌てて彼に分かったから頭を上げるようにと言うことが先だった。

 

 

「…sorry(すまねぇ)、ちょいとらしくねぇトコ見せちまった。」

「い、いえ…でも急に驚きましたよ。」

 

「ははは…悪かったって…。……で、だな、姉上の事なんだが…。」

 

 

 苦笑のあと、一呼吸おいてから、彼は…告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉上はな……俺の姉上は…"養子"なんだ…。」

 

 

「…ぇ」

 

 

 

 

 

 一瞬、脳がフリーズしかけた。

カイ青年の言葉を脳が嚙み砕いて理解しようとするのに少々の間を要した。感想は…あまりにも間抜けで小さな、蚊の鳴くような声。

 

 

「ヴェルナンデス家と…ウチの家系と血が繋がっていないんだよ、姉上は。」

 

「え、ええっと…」

 

 

 …なるほど、"デリケートな案件"と言うだけの事はあった。デリケート過ぎたわ。

まさかの血が繋がってない姉弟カミングアウトである。

 

 だが、分からない…!ソレと理奈に聞かせたくない内容とで何の関連があるというのか。

 

 

「口籠ってる所悪ぃ、嬢ちゃんの言いたい事は分かるさ…だがさっきも言った通りだ、俺は全容を語れないし語るべきは姉上だ。」

 

 

 そう告げてヴェルナンデス家の長男は再び頭を下げた。

 

 

「……えっと、まだ分からない事はたくさんありますけど。これだけは言わせてください。」

「…?」

 

 

「さっき嫌わないでほしい、ってお願いされたけれど私が嫌う事は無いと思うんです。付き合いも長い訳じゃないけれどあの人の為人(ひととなり)は少しだけわかったつもりでいるから。」

 

 

 

 

 

「第一印象は綺麗でクールな何でも出来ちゃうお姉さんって感じの人でしたよ?けど…【ネクロマンサー】と出会った時に教団の行いを力強く否定してて」

 

「…たくさんの人が犠牲になった、たくさんの日常が壊された、数えきれない人の人生が無茶苦茶にされたんだッ!って、心の底から凄く怒ってくれていて…。あの時は驚いちゃった、クールかと思ったら熱い人だったんだもの。」

 

「それから闘技場でも私が精神的に辛かった時もなんとかしようって声を掛けてくれて…その後の礼拝堂への道中もずっと私が攫われた時の事を引き摺っていて思い悩んで、それで謝ったり――」

 

 

 

 

「クールそうに見えて実は激情家で誰かが理不尽に苦しめられたりする惨状に本気で怒ってくれる正義感や人一倍強い責任感を持ってて、…それでいて凄く不器用な人。自分の中に色々な不安とか悩みだったりそういうのを溜めこんじゃうタイプの人なんだなって私は思うの。」

 

 

「…嫌いになんてならない、ううん、なれるワケがないのよ。そんな人のことを…。」

 

 

 

 少女は最後にそう締め括った。―――どうしてそんな一生懸命な人間を嫌えるというのだ?と。

 

 一通り白馬理奈は自分の思った事、感じた想いを言葉として投げた。

それを静聴していたカイは腕を組んで静かに笑いながら理奈に声を掛ける。

 

 

「フッ、…はは、はははっ!…まったくよォ、短い付き合いだけど理解したってか!嬢ちゃんといいイェーガーといい似たような事言いやがるぜ!」

「えっ!?」

 

「いやなに!嬢ちゃんが連れてけーッて!駄々をこねたあん時にな、付き合いは短いけど理奈はこういう奴だと理解した~みてーな事言ってたんだぞ?」

 

 

 抑えきれないのかクツクツと笑いを零しながら片手で目元を抑える青年と顔を真っ赤にして詳細を聞き出そうとカイの肩を揺さぶる白馬理奈。

そんなコント染みた時間に数分程費やし、頬を膨らませて拗ねた理奈へと一通り笑い終えたカイが語り掛ける。

 

 

「ははは…。しっかし…そうか、…そうかぁ、…なんつーかよ、悪かったわ。俺ぁ嬢ちゃんの事をちぃとばかし見くびってたわ…すまねぇ。」

 

 

 この子はきっと自分が思う以上に善性が強いのだろうな、とカイは認識を改めた。全てを知った後で姉を嫌わないでくれと糞真面目に頭を下げた自分が恥ずかしくなるくらいには。

 

 これが狩人や目の前の少女が口々にする"短い付き合いだがある程度理解した"という奴なのだろうなぁ、やはり人間まずは腹を割って話すのが大事だと思い知らされる。

 

 

 

「もうっ!別にいいですよーだっ!そんなことより帰り道でイェーガーさんが何を言っていたかちゃんと教えてくださいよね!」

「がはは!オーケー!オーケー!そっちに関してはちゃんと教えてやっからさ、まずはこの荷物を運び出すとしようぜ。」

 

 

 初対面の頃と比べたらお互いに大分打ち解けた気がする青年と少女は軽口を言い合いながら本来の仕事である調度品の調達を完遂しようと立ち上がる。青年が荷造りをしたソレを背負おうとしたその時―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぞわり

 

 

 

 

 

 

「―――――っっっッッ!!」

 

 

 

 

 それは反射的だった。

 

 気づけば走り出していた。

 

 

 

 背筋に悪寒が走るとはよく言ったもので。得も知れぬ何かを感じ取ったと同時に、雷にでも打たれた様に白馬理奈がカイ・ヴェルナンデスの元へと駆けていた。

この場にイェーガーが、あるいはフランチェスカが居たとしてもソレの気配に反応するには僅かに遅れるかもしれない…。

 

 

「カイさん伏せてッ!」

「うほ"ぉ!?」

 

 

 少女の渾身の突撃は大柄な男の身体を見事に地に伏す事に成功し、"鏡の世界から突如現れた"その魔手は虚空を切り裂いた。

 

 

「フォフォフォフォフォ!!ウキャキャキャギャーッ!」

 

 

 今しがた空を切り裂いた腕、それに握られていた短刀は手品の様に消え去り、何も持たぬ手の指先が渦を描く様に円を描く…部屋の隅に置かれた調度品、青年たちが明けた箪笥の中から、荷造りをしたはずの荷物から。

飛び出すように手鏡サイズの様々な形をした鏡が四枚、見えないワイヤーか何かにでも操られているというのか…ッ!宙に浮かび上がりクルクルと回転し始めたではないかっ!!

 

 

 ヴェルナンデス家の長男…そして、逸早く鏡の中からの襲撃者の邪気を感じ取った鏡巫女…っ!

 

 

 狩人と魔女が不在の今…たった2名で偏執病の化身との闘いが始まろうとしていたッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

―――

――

 

 

 イェーガー・マーシュマンは腕を組み静かに目の前の女が口を開くのを待った。彼女は深く息を吸い込んで吐き出す…今から彼女の言う"罪咎"とやらが語られるのであろう。

見れば魔女の唇は僅かに震えていた気がする…心なしか声も上擦っていた様に思えた。

 

 

「まず…私は―――ヴェルナンデス家の者ではありません…。五歳までは保護施設で育ち…今の母様と父様に引き取られて、ヴェルナンデスの家名を貰いました…。」

 

「なんだと?」

 

 

 

 懺悔の様に声を絞り出した彼女から語られたのは自身が偉大な魔女の娘ではないという事実、仮面を付けた黒衣の狩人は白い手袋を嵌めた手を顎に当てながら少考する。

 

 

 道中で高名な大魔女の血筋にしては戦い方に不自然な点はあった。

一つ、彼女が使っていた"DSS"と呼ばれるイェーガーの知識にも全く存在しない未知の技術、聞けばカードを幾つか紛失しており本来の効果を十二分に発揮できないにしても"大剣"を生み出す術や筋力を一時的に上昇させる能力等…凡そ"ヴェルナンデス家"の人間が行う闘い方とはかけ離れているという点。

 

 彼の中ではヴェルナンデスの魔女は先祖代々から伝わる光と自然界の力を組み合わせた魔術、もしくは杖による棒術が主体だったと認識している。

光を伴う雷球が敵を追い、聖なる炎が闇を払い、怪物共を凍てつく冷気の塊によって滅ぼした。

 

 【ホーリーライトニング】と【ホーリーフレイム】そして【ブルースプラッシュ】…。

 

 

 

 だがフランチェスカの闘いはそうではない。そのどれか一つに類似するモノすら使わなかった。

 

 

 ヴェルナンデスの血筋なら受け継がれている筈の魔術がこれまでの道中で一度たりとも披露されていないのだ…。【聖書】や【懐中時計】と言ったサブウェポンの使用、そして"【DSS】"……そもそも武器だって杖ではなく、"翠玉色の水晶玉"だ。

闇の魔力を操れるという部分に関心が向かいがちだが、冷静に考えたらその辺りも大分おかしい。

 

 

 

「…何をお考えで?」

「いや、ただ振り返ってみれば納得が行く話だと思っただけだ。続けてくれ。」

 

「では、――養子となった私が闇の力を扱えるのは実親の"才能が遺伝した"点が大きいのです。」

 

 

 苦々しい顔でそう告げた彼女は目元を手で覆った…。その有様から察するに彼女は"実親"とやらを快く思っていないのだろうと狩人は考える。

そして言葉を一度区切り魔女は狩人に一つの問いを投げた。

 

 

 

「ここから先の事を語る上で、幾つか貴方に質問をさせてください。」

「…事前に確認したい事柄があると言っていたな、それか?」

 

「はい。Jäger(イェーガー)・マーシュマン…私が白馬さんを遠ざけたのは私の罪咎を聴かせられない事に加えて、貴方を疑っているからなのですよ。」

 

 

 その言葉に狩人は眉を顰めた。彼女はずっとイェーガーに対してだけは警戒心を持っていたというのは何となく察せられたがその理由までもは皆目見当が付かなかった。だが―――

 

 

 

 

「……単刀直入にお尋ねします。"貴方の本当の名前"は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

―――――来須蒼真(くるす そうま)なのではないですか?

 

 

 

 

 「――――――ッッッッ!っっ"っ"~~~~!」

 

 

 

 

 

 

皆目見当が付かなかった。だが―――この場において漸くその理由を知る事になるのであった。

 

 

 

 来須蒼真。

 

 それを聴いた瞬間。

 

 狩人の脳に痛みが溢れた。錆びた釘で内側から脳を引っ掻き回される痛み。形容しがたいソレ。

 

 聞いてはいけない音の組み合わせを鼓膜が拾った。認識してはいけない名称を脳が理解した。

加熱し過ぎた鍋から気泡が吹き零れてしまいそうで蓋を閉じて必死に上から両手で押さえ続けた物が勢いよく噴出でもしたような錯覚。

 

 

「くるす…そう、ま」

 

 

 白い手袋を嵌めた両手で頭部の割れそうな痛みを抑えながら、覚束ない足取りで蹌踉(よろ)けそうになるのを必死に堪えて、彼は名前を呟く。

 

 

 

「…貴方は母様がよく話してくれた『来須蒼真』の人物像に酷似していたからです、でも同時に…似ても似つかない部分だってある。まず口伝で聞いていた『来須蒼真』と貴方の性格や口調が一部を除いて一致しない。」

 

 

 

 曰く、フランチェスカの母が"蒼真"と交流があった時の彼は絵に描いたような純朴そうな少年で口調や性格もイェーガーのそれとは似つかないこと。

 

 曰く、蒼真少年は【魔王の生まれ変わり】として覚醒し、人類に仇為す者となり母とその仲間達が討ち取ったこと…封印された以上、百年経っていない今この場に居られる筈がない存在。

 

 曰く、生前の彼はあらゆる武具を扱える天賦の才の持ち主だったがそんな彼でも退魔士の道具(サブウェポン)だけは使いこなせなかった。

 

 

 

 その一方で"来須蒼真だけが使えた筈の支配の力"を持つことや、美しい銀糸とも見間違える白髪や背丈など身体的特徴…ふとした時に見せる仕草や癖らしき物。常につけている仮面のせいで顔は分からないが声の若さから恐らく年齢もまだ二十歳前後…。

混沌の産物と呼べるこの城で、しかも魔王となった存在なら老いることも無く当時の年齢だったとして不思議ではない。

 

 

 更に追求すれば特徴に合わない部分が出てきて、同時に指摘した数と同じ数だけ単なる偶然では済ませられないくらいピッタリと符合する部分も出てくるという始末。故に、判断が付かない。100%の信用が、確証が得られない。

 

 限りなくシロに近いクロであり、クロにこれ以上ない程近いシロ…グレー。

 

 

 

「ですので、もし違っているならそれはそれでいいのです私の杞憂だった、それだけで話は終わります。…何卒お答え願えますか?何故貴方は退魔士の道具(サブウェポン)十字架(クロス)を扱えたのか?貴方の仮面の下に隠された素顔は如何様な物か。」

 

 

 …。

 ……。

 

 

 

「イェーガー?」

 

 

 狩人は壁に寄り掛かる様に背をつけて、呼吸を整えていく…。よく見れば彼の視線の先は魔女はおろか部屋の天井ですらない虚空をひたすらに眺めていて、フランチェスカの話を途中から聞いていなかったのではないかと疑わしく思える程であった。

そんな彼は脱力した様に肩をぶらんとさせ項垂れて……カラカラに乾いた喉から声を絞り出した。

 

 

 

「思い出したよ。――今…。全てわかった。俺が"なんなのか"も。」

 

 

「ッッ!」

「待て、身構えるな。俺はお前に危害を加えるつもりはサラサラ無い…思い出した事に関しても後で話してやるがまずはお前の方から先に言えよ。これは情報交換なんだろ?」

 

 

 魔王の生まれ変わりかもしれない男、人類の敵かもしれない存在。そんな彼に対し一瞬にして身構えたヴェルナンデス家の女は固唾を飲む。

 

 

「信用できるとでも――」

「しろ。俺からはそれしか言えん。」

 

 

「…。話を続けます―――私が何故貴方は来須蒼真でないのかと確認を取ったのか。理由は2つ、片方は単純に来須蒼真その人ならば人類の敵たる魔王に他ならないから…単純に私が貴方を疑っていたし、白馬さんの前で藪を突くような真似をする訳にもいかなかった。」

 

「で、もう片方の理由は?」

 

 

 

「もしも、貴方が本当に…本当に来須蒼真なのだとしたら…貴方は。」

 

 

 

 果たして何度目になるか苦虫を嚙み潰した様な顔を一瞬した後、意を決した様にヴェルナンデス家の長女は言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「貴方は……"血の繋がった私の実母"を殺した存在になるのですから。」

 

 

「…そうか。」

 

 

 

 

 記憶の大半を取り戻した狩人は、大した情動もなく淡々と感想を口にした。嗚呼、今ならば判る。

 

 闇の魔力を扱える事。アメジストの様な瞳の色。ヴェルナンデス家仕込みの杖ではなく翠玉色の水晶玉を用いた闘い方というのも恐らくは――。

 

 

 

 

 

「私の旧姓は…フォルトゥナ―――嘗て魔王ドラキュラの復活を望んだ【暗黒神官シャフト】の流れを汲む一族の…っ!末裔…ッ、ウィズ・ライト教団の教祖【セリア・フォルトゥナ】の実娘なのです…!!」

 

 

 

 フランチェスカ自身の口から言うのも憚られる事柄が飛び出る。児童保護施設で物心ついた時からずっと忌み子として扱われてきた要因…ッ!自身の忌々しい先祖の血を嫌でも再認識する。

 

 

 

 "先祖の血に抗いたい魔女"

 

 

 彼女は声に出した、口にしたくも無い呪われた自身の出自を―――。

 

 

 

 

 【セリア・フォルトゥナ】…狩人の記憶に出てくる憎悪の対象、1度どころか文字通り何度だって殺してやりたい女、万死に値する存在。ドス黒い感情に突き動かされそうになる故人の名前。

 

 今、この城に入り込んで【ドラキュラの遺骸】を集めようとしているウィズ・ライト教団の教祖だった人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   そして2036年…来須蒼真の目の前で想い人だった白馬弥那(はくばみな)を殺害した暗黒神官。

 

 

 

 白馬理奈(はくばりな)従姉(いとこ)にあたる白馬弥那(はくばみな)を殺した事件の張本人に他ならないのだッ!

 

 

 

 

 

―――理奈や理奈の叔父、叔母達から見ればフランチェスカは、まさしく家族の仇と血縁関係にある者となる。

 

 聞かせられる訳がなかった。

 闇の魔力を持っている理由が暗黒神官の血を引いてるから。

 暗黒神官の親が貴女の従姉を亡き者に変え、今も白馬家の心に爪痕を残しているのだと。

 

 芋づる式に嫌な事実が出てくる。百歩譲って、仮にそこだけを伏せて今を乗り切ったとしよう。

…いつかは、いつかは向き合って言うべき事なのだ…っ!特に実母が残した負の遺産が…!教団の残党共が今回の凶事を引き起こしたのならば…尚更にッッ!

 

 

 

【狂乱の花園】で白馬理奈とカイ・ヴェルナンデスが【パラノイア】と交戦を始めるのと同時刻。

 

 イェーガー・マーシュマンとフランチェスカ・ヴェルナンデスの両名は互いに自身が秘めていた古傷に手を出す事となった。

 

 

―――

――

 

 

 背凭れに背を預けたままのダリオは姿見に投影される景色を見て鼻を鳴らした。

ジト目で隣に座る襤褸布の亡霊を睨みながらワザとらしく大声で愚痴る。

 

 

「おうおうおう、なぁ~にがどれだけ使える手駒なのかデモンストレーションしましょうか?だ!あぁ?見事に挨拶代わりの一撃避けられてんじゃあねーかよ。」

 

「ふふふっ!まぁそう仰らずに、まずは小手調べですよ。それに…」

 

 

 それに貴方とて自分の手で殺したくて仕方ない獲物があっさりやられるのは不本意でしょう?と笑ってみせる【ネクロマンサー】にダリオは舌を打つ。

 

 

 

「そういうテメェだってあのクソガキを狙ってんだろーが、ワザと躱せる様に指示でもしてんじゃねぇのかよ?」

「おやおや疑り深いことで。」

 

 

 妖しく笑みを湛えながら亡霊は言う。

 

 

「それにしてもツイてましたね、【パラノイア】が瞬間移動可能な大鏡のある部屋に都合良く彼女等が居るとは…闘技場での賭けの負け分ツキでも回りましたか?」

「テメェ~嫌味かそりゃあ!?あぁん!?」

「いえいえ、滅相もありません。」

 

 

 

 鏡の世界を介する事で遺骸探しにおける捜査範囲を広げることが出来る、その能力を知らしめる為だった矢先で鏡巫女と無価値なゴミが偶然【パラノイア】の手が届く範囲にやってきた。

簡単な機能説明会で終わらせる手筈だったソレは急遽として少女と青年を襲わせる殺戮ショーに舵切らせた。

 

 偏執病の化身に指示を飛ばしつつも襤褸布の幽鬼は今後の計画を組みなおす。【ネクロマンサー】には可能であれば手中に収めたい存在が3名ほど居るのだ。

 

 その内一名はもはや説明するまでもないが鏡巫女の理奈…。

 

 そして残り二人は…。

 

 

 

「ふふふ!ふふふふっ!フハハハハ…!」

「昔と比べてお前は本当に笑い上戸になったなオイ、イイ事でもあったのか?」

 

 

「これは失敬、でも…くふふっ、笑いを堪えきれませんよ。今日は貴方達の他に素敵な方々が三人も城に現れたのですから、運命を感じますね!」

「三人だと?クソガキ以外にもお眼鏡に叶うような野郎が居やがったのか?」

 

 

「鏡巫女のお仲間にとても素敵な人達が居ましてね、この手に欲しいのですよ…っ!鏡巫女はもはや言うまでもありませんが…あの素晴らしい暗黒の力をお持ちの仮面の御方、そして…個人的に手元に欲しくなった彼女…ふ、ふふふっ!ふふふふふっ!!!」

 

 

 

「おや?…あなた達は…。ふっ、ふふふ…フハハハハ!これは面白い…!侵入者達が如何なる者かと見に来てみれば、なんという僥倖でしょう。」

 

「貴女は個人的に手元に欲しくなりました、それに其方は鏡巫女に…ふふふっ!貴方はとても素晴らしい暗黒の力をお持ちのようで!!さぁ是非とも私の手をお取りください!」

 

 

 

 【ネクロマンサー】は熱く弁を振るった。イェーガー等四人と初めて対峙した時の高揚感と自身の幸運、運命の悪戯と呼ぶべきソレを。

老齢の男は古くからの知人である死霊使いの"生前"からは想像もつかないようなその昂りに口元を引き攣らせながらも尋ねる。

 

 

 

「クソガキに関しては耳にタコが出来るほど理由を聴かされたが…今テメェが説明した仮面の男?だかなんだかは強ぇ暗黒の力があって欲しい、ってことでいいのか?…もう一人のヤツはなんなんだよ?」

 

 

 

 ウィズ・ライト教団の尊い教え、教徒達の行動を真っ向から否定した女。激情に駆られていたアメジストの瞳を持った女性の顔が【ネクロマンサー】の脳裏を過る。

 

 鏡巫女。

 

 支配の力を持つ仮面の男。

 

 

 そして―――

 

 

「――――フランチェスカ・"フォルトゥナ"…!ふはははは!」

 

 

 

 

 ぱさり。

 

 【ネクロマンサー】は…。深々と被っていたフードを下ろし、その素顔を晒す。

 

 

 

 到底、血が通っているとは思えない死人色の肌は彼奴がアンデッドである事をこれ以上無い程に主張していて、だが一般的な【ゾンビ】や【グール】と比較すれば顔の肉がグズグズに腐り落ちている訳でもなく寧ろ整っており。

生前の顔立ちとほぼ変わらない端整な顔立ちであった。まとめあげたブロンドの髪は艶を失い人形か何かの様な無機質さが際立つ。そして狂気を孕んだアメジストカラーの瞳が2つ…。

 

 

 

 

「コレが笑わずに居られるものですか、運命を感じますね!この私の娘なのですから!ふふふっ!ふははははははっ!あははははははははははははっ!!」

 

 

 

 

 

 ウィズライト教団の魔王候補者であったダリオ・ボッシの顔を見て【ネクロマンサー】は…否、23年前に魔王と化した蒼真の手で引導を渡された【セリア・フォルトゥナ】は気狂いの様に嗤った。

 

 

 

 炎を司る力と共に半身と呼ぶべき悪魔を討たれた候補者

 

 "今はこの場に居ないもう一人の候補者"

 

 そして…邪教の教祖として君臨した暗黒神官。

 

 

 2059年――日食の悪魔城にて"23年前の亡霊(かつての敗北者達)達"の野望は再び動き出そうとしていた…ッッ!

 

 

 




解説:【暗黒神官シャフト】~ならび【セリア・フォルトゥナ】


【暗黒神官シャフト】とは…リヒターが主人公の血の輪廻とその続編のアルカード主人公の月下の夜想曲に登場した人物である。

魔王ドラキュラを復活させようと目論んだ邪教徒であり、暗黒神官。

魔物の召喚を始め、翠玉色の水晶玉を使ってプレイヤーへ攻撃をしかけてくる。


 戦闘能力そのものは決して高いとは言えないかもしれない。だが…
その行いは間違いなく【デス】に近い厄介さである。

まず月下の夜想曲で、ラスボス戦前の前座として登場するが先述の通り戦闘力は低い。
然しながらその立ち位置にはかなり相応しい相手。なにせ…


あのリヒター・ベルモンドを洗脳して悪魔城の城主にするという前代未聞の策謀を成功させた男なのだから。

 歴代の悪魔城主人公(ベルモンド一族)の中でも最強格の男を自身の手駒とすることで他の退魔士の聖なる力を叩き伏せるという策。

 ドラキュラ復活の儀式の時間稼ぎが出来、よしんばリヒターを上回る力を持った戦士が乗り込んだとしても憎きベルモンドを殺してもらえるという…。
 どっちに転がってもシャフトにとって益がある。



実際問題、アルカードの足止めは出来ててドラキュラ蘇るし、真エンド行かないルートなら普通にリヒターを殺害してしまうワケで…普通に策として成功してんだよなぁ。

大体この手の陰謀や知略はデス様の仕事だけど、月下に至ってはシャフトがガチ黒幕。



【セリア・フォルトゥナ】

来須蒼真が主人公の二作目作品、蒼月の十字架に登場する悪役。

当人は『神が絶対的な善であるために完全なる悪が必要』などと陰陽論めいたことを言っており、あくまで魔王を崇拝する邪教集団ではないと言い張っている。


※ 以下、KONAMIからの公式 -蒼月の十字架 取扱説明書 キャラクター紹介文-


セリア・フォルトゥナ
26歳/女

表向きは神をたたえるカルト教団の教祖。実は暗黒神官。
魔王がいなくなったことにより、魔界の力が弱くなっていることを感じ、自分の力が失われることを恐れている。
そのため、蒼真を殺し魔王としての力を奪おうとしている。

―――
――


 実は暗黒神官。

 実 は 暗 黒 神 官 。


 はい。大事なことなので二回言いました。…あっ、三回か。

ゴホン…えー、まぁ要するにですね、神様がどうだの善がああだの言ってますが何てことはない。単なる欲深な祈りを捧げる下賤な人間でしかないと。

結局、世界の均衡なんぞより自分の凄いパワーが無くなっちゃうのが嫌だと言う悪党。

 こんなしょうもないヤツの為に、暁月でみんなとの絆で混沌を打ち破って宿命に打ち勝った蒼真くんや弥那ちゃんは殺されたんか……。
 もっと言えば1999年に無茶苦茶頑張ったユリウスや有角達、白馬家の人や当時のヴェルナンデス家だったり多くの人々の血が滲むような苦労もあっさり踏みにじられて。
それで100年毎にまた魔王が復活する戦いの歴史が始まるという…。


コイツといいシャフトといい、暗黒神官厄介過ぎですやん…。



 当小説の設定ですが、まず…セリアは暗黒神官との事ですが、実際シャフトと関係があるかは公言されていません。子孫だとか蒼真くんみたいな転生した生まれ変わりという話も聞かないし、シャフトの教えを受け継いだ弟子だとかそういった設定も無い。


当小説においては独自設定ですが、セリアはシャフト一族の末裔という事にしてます。
あと、セリアに子供がいるとか言うのも独自設定ですのでご了承くださいませ…。




解説:[魔物化]

悪魔城で命を落とした者は城の魔力によって魔物に変えられ、城の住人となる

蒼真くんが主人公の一作目、暁月の円舞曲では【ゾンビアーミー】という敵キャラが居て名前の通り軍人のゾンビという存在。

モンスター図鑑の説明文にも
「36年前に乗り込んできた兵士のなれの果て」という一文があり、この事から悪魔城で命を落とした者はアンデッドや悪霊、…あるいは悪魔城伝説の時のグラント・ダナスティだったり、悪魔城Xクロニクルでのアネットの様に吸血鬼にされてしまう者など…。

城の力や怪物の力で人間が魔物になるケースは幾らでもあるのだ。


…この小説でのセリアは、魔王化した蒼真に【性質が悪魔城そのものとなった教団の城】で殺されたから。そうでなくても魔王の前だったし…。


解説【パラノイア】


元となった神話や伝承モチーフがいる訳ではないコナミの完全オリジナルモンスター。

原作の蒼月の十字架では終盤で戦うボスエネミー
 鏡の中から現れまさかの第二ラウンドまであるという珍しいボス。

【妖魔迎賓館】のボスといえば!?と尋ねれば恐らく大半の人は【パペットマスター】と答えると思います、主に悪魔城HD2章の影響などで…。

HDに出演してる分、【ゲーゴス】と並んで知名度の高いボスなんですよねー
 パラノイアくんも同じ妖魔迎賓館のボスなのに…。まったく認知されてない。

 蒼月の十字架自体、入手困難なDS作品だから仕方ないけど…。






 祝!!ドミナスコレクション発売ッッッ!!

 この話を執筆してる最中にまさかのDS3部作コレクションが発売!オラおでれぇーたぞ!【パラノイア】くんの知名度上がんねぇかな、おっ!閃いたゾ!マイナーボスだから俺が書いてあげて少しでも広まるようにしてやっかぁ!!

なぁんて考えながら書いてたら先月発売されたんだからマジで驚いたわ…。
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