悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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3章:名を背負う青年③ -Echoes Of Promise-

- side 三人称 -

 

 

「三時間以内に"遺骸"を持ってこいってか…軽く言ってくれんじゃねぇか。」

 

 

 - ふふ!【パラノイア】を容易く退けて見せた其方の腕を見込んだ上での正当な評価です! -

 

 

「チッ!そいつぁどーも、お褒め頂きましてコーエーだね…!で肝心の指定場所は?」

 

 

 顰面で交渉と言う名の脅しを掛けてきた相手に受け渡し場所を尋ねる、すると鏡面に映った景色はブレ始めて青き法衣に身を包んだ亡者から別の誰かへと切り替わる。

 

 

   - ガキ共の受け渡し場所は"城の時計塔"…通称【機械塔】の一番上で行う…! -

 

 

 

「――その、声は…【ダリオ・ボッシ】っっ!」

 

 

 半世紀近く前のブラウン管テレビじみたノイズ交じりの砂嵐画面に映し出されたのは草臥れた服を着た老齢の男。白馬理奈にとっては最早忘れたくても忘れ去ることができない全ての元凶と言っても差し支えない男の声であった。

 

 

- ハッ!どうだクソガキ テメェの家族が城で迷ってたから俺が見つけてやったんだ! -

   - 感謝しろよ? この俺が見つけてなきゃ今頃バケモン共の胃袋の中だ! -

 

 

「どの口が…ッ!それを言うのよッ!!」

 

 

 現在進行形で化物共に群がられている母親と弟の姿を目の当たりにした少女が批難の声を投げるも当のダリオ自身はどこ吹く風と言った様子か、悪びれもせず「おう!それよ、それ!テメェのその面が見たかったのよッ!」と心底楽しそうに貌を歪ませた。

歯噛みして悔しそうにする少女の肩に手が置かれる、振り向けばそこには険しい表情を老獪の男に向ける青年の横顔があった。

 

 一歩…、前に踏み出す様に、あるいは少女を後ろへ下がらせる様にカイは歩んだ。

 

 

          - あ"? んだァ……テメェは? -

 

「なんてこたぁねぇ唯の教会所属の退魔士だ。こちとらタイムリミットを設けられたばっかなんだ、要件を述べてその不快な面ァ引っ込めな…!」

 

 

- …ハッ!若造が咆えやがる!!まっ、いいさな…俺は今、最高に気分がいいんだ! -

 

- 遺骸一個で人質一人なんてケチなこたぁ言わねぇ、持ってくりゃあ二人とも解放してやる。 -

     - 場所は先も言ったが【機械塔】の一番上だ、間違えんじゃあねーぞ? -

 

 

「それは構やしねぇが…俺達が遺骸探しをしてる最中でそっちが"ちょっかい"を出すってのはナシだ。見つける前に俺等がやられちまって困るのは喉から手が出る程遺骸を欲しているお前さんだろ、違うかい?」

 

 

  - ああ、そりゃあごもっともだ!俺はちょっかい出さないぜ!"俺は"な!! -

 

  - うふふふ! いやはや困りましたね。貴方達に手を出すなと配下全員に厳命しようにも -

 - 私には数えきれぬ程の配下が居りましてね、更に言えば城中に散らばっておりますので。 -

 

 

           - はたして全員の耳に行き届くかどうか… -

    - 私の与り知らぬ場で不幸な行き違いが起きても致し方ありませんねぇ。 -

     - 嗚呼!困りましたねぇ!なんとも悩ましい事態ですねぇ!うふふふ! -

 

 

 

 白々しい。

 

 まるで隠す気が更々に無いその言い草は唯でさえ険しい表情をしていた青年の蟀谷に浮き出るほどの青筋という新たな彩りを加えた。

眼前の連中から感じるのはドロドロとした人間特有の悪意に他ならない。

 言葉の上ではさも遺骸が欲しいから人質と交換しろと宣い、その実は魔王の遺骸を得るのが目的なんかじゃあない。…いや目的なのは間違ってはいないが、ここにおいては主目的を一つの手段として扱っているのだ。

 

 

 "癇に障る小娘に対する徹底的な嫌がらせに一点集中"。言ってしまえばコレに尽きる。

 

 

 カイ達は知らぬ事情だか、ダリオとしては【ネクロマンサー】との取引で捜索力に長けた怪物共を貸与された時点で今後の遺骸探しは優位に立てる見積もりでいるのだ。

だからこそ腹の底では人質と遺骸の交換なんて名目の脅しも自身のプライドに傷をつけた理奈への当て付けという悪意に満ちた意図こそが大部分を占める。

 

 最初から彼らが遺骸を調達して来れるとはこれっぽっちも期待しちゃいない。

 

仮に本当に見つけて来たら儲けもの、見つからなければ理奈が最愛の家族を喰い殺されるシーンという下衆の発想染みたエンターテイメントショーの観客になるだけ。どう転んでも利がある。

 遺骸を入手できずとも鬱憤晴らしが出来てダリオとしては溜飲が下がり、【ネクロマンサー】は絶望の淵に立たされた理奈の心の隙に付け入れる好機が訪れると万々歳、人質提供者と企画発案者どちらもWin-Winな関係と言えよう。

 

 

 

「オーケー、オーケー…其方さんのお気持ちはよぉ~く分かったわ…。

 ちょっとでも下衆野郎共に期待した俺がアホだった。不幸な行き違いってんなら仕方ねぇわな、―――襲ってくる奴ら全員ぶちのめしても後ンなって難癖つけて条件変えんじゃあねぇぞッ!」

 

 

 

    - …ほう?随分と大口叩くじゃねーか、いいだろう精々汗水垂らすんだな。 -

- よろしい!その勇猛さに免じてどれだけ倒そうと不問と致しましょう、できるのならね! -

 

 

 

 彼奴等を相手に下手な交渉が通用しないのは解り切っている。

遺骸探し中にバケモン共を差し向けて来るなと言ったところで「ハイ、わかりました」とは絶対に言うまい。…であれば、せめて此方側がどれだけ道中で敵の手勢を撃破しても人質交換の際にそこを指摘されて更なる要求を吹っ掛けられない様に言質ぐらいは取っておく。

 

 …律儀に守るような相手ではないとしてもだ。

 

 

 カイ青年は下がらせた少女の心情を慮れば、この悪意に満ちた下らない交渉ごっこをさっさと終わらせたくて仕方がなかった…。ゆえに必要最低限の取り決めだけして話をぶった切って終わらせる方向にもっていく。

 

くどい様だが連中の言い分は一見すれば遺骸集めを目的とした脅しだがそれは表向きだ。

 本命は狙いを付けた特定人物の心にのみ突き刺さる様な徹底した集中狙い、反吐が出るやり口…人間特有のドロドロとした最低最悪の悪意…ッ!

 ……幼少期に、まだカイが少年だった頃に自身に"悪意"を向けて来る同級生達のソレと同じ匂いがしたからハッキリと判った。人はそれを嗜虐と呼ぶ。

 

 あたかも交渉の余地があるかの様に見せておきながらその実は初めから無い、腹立たしいことに相手の言いなりにならざるを得ない状況に追い込み掌で弄ぶ。

 悔しがる理奈の顔を見て愉悦に浸る様に嗤っていたダリオ等の顔や遺骸が懸かっているにも関わらず捜索する自分達の邪魔を止める気配がまるで無い矛盾点など…何処か必死さを窺えない辺りが全てを物語っている。

 

 

 …悪意(こんなモン)はガン無視するか、さっさと要点だけ述べさせて強引に話を終わらせるに限る。

 

 

 

「へっ!言われるまでもねぇっ!そっちこそ部下ぁ全滅させられて泣きべそ掻くなよッ!」

 

 

 握り拳をグッと顔の前に持っていき勇ましく声を張る、それを最後に大鏡に投影された景色は消え去り、部屋の四隅で浮いていた【パラノイア】の小鏡は床に墜ちて割れていく…。

シンと静まり返った部屋の中で漸くカイは深くを息を吐き出した…。この僅かな間でどっぷりと溜まった胸の内のムカムカを全て吐き出すかの如く。

 

 

 

「あの…カイさん……。」

 

「おう、どしたよ嬢ちゃん、…もしかしてさっき肩に手ぇ置いちまったことかい?あー…だとしたらsorry!いやマジで本当ごめんって、いやぁ~くれぐれも姉上には内緒にしてくんね?バレたら俺ぁ撲殺されちま―――」

 

 

 

  「お母さんと真司は、大丈夫だよね…、あんなに、あんなに怪物に囲まれてて…っ!」

 

 

 

「……。」

 

 

 青年はお道化た仕草をやめた。天井を一度見つめてまた深いため息を吐く。

 

 

「あのカス野郎共は人質を簡単に殺しゃしねーよ、殺すとなったら間違いなく俺達の時間切れでゲームセットの時が狙い目だろうさ。

 その方が"嗚呼、もっと俺達が頑張っていれば。あの時向こう側を捜索してたら…!"ってな具合に悔恨の念で苦しむんじゃねーかっつー悪趣味フルマックスな展開を望んでるだろうからな。」

 

 

 心底うんざりしたように、青年は吐き捨てた。

 

 相手は邪教集団に属する人間とそれに手を貸す知性ある死霊…普通の魔物と違って何が厄介かと言えばコレ。言葉の通じない怪物相手なら倒してそれでハイおしまい、で済む話だがこういう手合いが一番厄介極まりない。

 

 

 

 

 

 

 

 

    「…っ!なら…まだ、まだ間に合うってコトだよねっ!?」

 

    「んぉッ!?…お、おぅ…。間に合うけどよ…。」

 

 

 

 

 この広い城内で連中が求める"お宝"をノーヒントで探し当てる。三時間の制限時間付きで。

 

 悪魔城という魔窟の広大さと恐ろしさを理解していれば弱音の一つも吐きたくなる無理難題だ。しかし…。

 

 

 

「間に合うかもしれないなら…!ほんのちょっとでも希望があるのなら…!

 助けられる可能性が1%でもあるっていうのなら…っ!私やるわっ!やってみせる!」

 

 

 

 1%。

 

 

 

 限りなくゼロに近く、どれだけ頑張っても足掻いても、祈っても血が滲み出る行動や考えうる限り最善の働きをしたとしても、報われずに終わるかもしれない。

 それでいて人間に"もしかしたら"、"ひょっとしたら"なんて甘い夢を見せる甘美な毒。

 

 合理性もクソも何もかも投げ捨てて希望的観測を抱かせる悪魔の数字。――然して、気まぐれで神様とやらが悪魔の手を押し退け、手を差し伸べてくる奇跡の数字とも言える。

 

 

 

(…あー、なんか解っちまった気ぃするわ俺。

  この嬢ちゃんを戦わせたくない理由、保護対象の一般人なのもそうだけどよォ…。)

 

 

 追いすがる様な眼。幾つもの"色"を秘めた眼が青年を捉える。その眼を見た瞬間に思った。

 

 

 

 僅かに見出した期待の色、不安を浮かべた色、…焦燥に駆られた色とも判断できる輝き。

 

 

 だが何よりも…不安さえも振り払わんとする決意の輝きの色…。

こういう眼をした時は一歩も譲らなかった妹によく似た目の色―――彼には少女の顔が自身の妹『キャリー・ヴェルナンデス』の顔と重なって見えた。

 

 

 

(…まったく、神様って奴は意地が悪いと来たモンだ。なんだって戦える才能をこういうお嬢ちゃんにばっか与えちまうもんかねぇ…。……いや、こういうお嬢ちゃんだからこそなのか…。)

 

 

 どれだけ絶望的でも諦めない。最期まで意地を貫き通そうとする精神。きっと命が燃え尽きてしまう寸前まで抗い続けてしまう魂。

 

 

 

例えば、地上でダリオに不意の一撃を与え鏡を奪い死ぬほど暴行を受けても離さんとしたように。

例えば、窮地のイェーガーを救わんと傷を負おうとも【ネビュラ】を見つけ死地へ戻ったように。

例えば、死霊に連れ去られ闘技場で三首の魔狼と殺し合いをさせられようと諦めなかったように。

 

 

 

 良くも悪くも諦めないのだ。この魂は…。今になってカイ青年はあの時のイェーガーの気持ちを真に理解した。最初何処かの部屋にでも隠れて貰おうと思ったが諦める様になった狩人の気持ちを…きっとこの魂の色を間近で見ている内に此方が折れてしまったのだろうと。

 

 青年の妹も似たような気質だった、唯一妹との相違点を挙げるなら幼少から対魔物用の戦闘訓練を受けず才能(ポテンシャル)のゴリ押しで突き進むという綱渡り状態ということに他ならないが。

 

 

 

「だ、駄目だったりしちゃうの…かな?

  ……。お、おーい、カイさーん!…もしもーし!な、なんとか言ってくださいっ!」

 

 

 突然一言も喋らず、目を瞑り何かを思案するように黙り込む青年を不審に思い理奈は声を掛ける、元より理奈の同行に難色を示していた相手だ…やはり今さっきの発言は出過ぎた事だったのだろうかと悩みつつも呼び掛け続けた末に、反応が返ってきた。

スッ、と少女の額がある位置にカイの右手が突きつけられる…デコピン発射寸前の態勢で。

 

 

「へっ?  あでっ!?

 

 

「今のは勝手な行動した分な。

 んで嬢ちゃんよォ、今から俺はアンタを叱りつけっから耳の穴かっぽじってよく聴きな。」

「えっ…えっ?」

 

 

 ペチン!良い音を立てて額を弾く指先、仰け反る少女。そして開口一番で何かを言ったと思えばスゥ~…っと大きく息を吸い込んだ青年。

 

 

 

 

 

「くぅおらッッ!!!嬢ちゃん危ねぇだろうがッ!!!俺はあん時言ったよなァ~!?"合図したら飛び出して野郎の頭を貫いて直ぐに隠れろ"ってよォ!誰が斧拾ってピエロ野郎のドタマかち割れっつったよ!?

 

 

 

 ビクリと肩を震わせ怒声を前に姿勢を正す。

 

「え、えっ…あっ、え…えっ??……あっ!その、ごめんなさい…。」

 

 いきなりデコピンを喰らった、かと思えば大声で怒鳴られるのコンボで一瞬思考が停止したが言われている内容を頭の中で噛み砕き何に対して怒られているのかを悟って頭を下げた。

 

 

 

 

「ごめんじゃすまねぇンだよ…!

  解ってんのか!?一歩間違ってたら、一歩間違ってたら死んでたんだぞ…。」

 

「……はい。」

 

 

 もしも、あの時――

 

 斧を拾い上げた理奈の一撃を受けて尚【パラノイア】に反撃できる余力が残っていたら…。カイの【ちょうはつ】に乗ってくれなかったら…。投擲された銃を見て一瞬の隙が生じていなかったら…。

 

 まさしくカイ曰く"生きた心地がしねぇや"と言わざるを得ない大博打であった。何か一つ運命のボタンが掛け違ったら、十分最悪のIFに繋がっていた。

強敵を倒せた状況だけ見れば結果オーライかもしれない、だけども子供が自分勝手に危ないことをしでかしたというのもまた事実ではある。

 

 

 

「…これでよ、嬢ちゃんが死んじまったら。

 ――俺達はこれから救い出す親御さん達にどんな面ぁして会えばいいんだい?

 さっき映ってた弟君にはどんな言葉を掛けてやりゃあいいってんだ?なぁ教えてくれよ。」

 

「そ、それは…。」

 

 

 そこから先の言葉は出ない。思い浮かばない。…必ず家族を救い出す、良くも悪くもその考えだけが先行していた事に気づいたからだ。

 

 

「……解ったみてぇだな、なら俺から言える事は一つ。今から言う事を必ず守ると約束しな。」

「…~~ッ!」

 

 

 俯きながら唇を噛み締めて両手を強く握りしめる、肩も震わせていたかもしれない。…青年から指摘され自分がどれだけの事をしたか客観的に知れた、恐らく拠点での待機を命じられるのだろうと覚悟した。

 

 弟と母が囚われている事を知ってしまった矢先で…!

 自分にも何かを為せるだけの力があると自覚してしまったというのに…!

 

 

 

 …確かに言いつけを破って勝手な行動をしたのは事実だ、拠点に置いていかれても文句が言える様な立場じゃない、それでも身内が目に見えて危機にある今置いて行かれるのだけはッ―――

 

 

 

 

 

 

 

「俺との約束だ。今後はあーいう事すんなら俺でもイェーガーでも姉上でも良い、ちゃんと俺等が完璧なフォローに回れる様に事前に連携の相談なりなんなり嬢ちゃんから提案しとけ。」

 

 

 

 

 

 

 

「……。……へっ?」

 

 

 その言葉に、俯いていた理奈は目を丸くしてカイを見上げた。

 

 

「んでもって、だ…何が何でも自分の命を優先する事!危なそうだと思ったら深追い禁止な!

 最悪の場合、俺達を盾にしてでも生き延びる事を第一にするこった。…コレでも俺達だってこの仕事のプロなんだぜ、多少の怪我なんざノープロブレムってな!

 けどよ嬢ちゃんは違ぇだろ、死んじまったらそこで終わりだろ?」

 

 

「いや、あ、あの…えっと…っ!そうじゃなくて…!」

 

「っつーワケだから今言った事ぁ絶対に約束してもらうぞってハナシだ。

 破ったら罰として消費期限が三年も過ぎた牛乳を飲ます、【3年ミルク】だぞ?普通に嫌だろ?常識的に嫌だよな!ハイ、決まりィ~ッ!んじゃ時間も押してるし必要なモンだけ持って―――」

 

 

 

 

「どうして!?私勝手な事したんだよ!…なのに、皆について行って良いの?」

 

 

 

 

 鏡の中からやって来た闖入者に大半を壊された調度品の山から未だ使えそうな家具、特に3時間以内に救出すべき人間が居る事が確定しているから寝台や身を休める為の物、毛布や包帯代わりになりそうな布の類を選別する手を休めることなく青年は言葉を紡ぎ出す。

 

 

「…本音を言えば俺は嬢ちゃんを連れてくのは今だって抵抗がある。」

「だったら…!」

 

「さっきの嬢ちゃんの目、…アレによく似た目をするヤツが身内に居てな、俺の経験則で言えばそーいうタイプは絶対に折れねぇんだ。待てと言っても結局はジッとしてらんねぇ。

 縄でグルグル巻きにふん縛ったとしても抜け出してたった一人でヤベェ所に突っ込んじまう性質(タチ)でなぁ。…ヤレヤレだ、今更ンなってイェーガーが言ってた事をちゃんと理解できたわ。

 

 

 

 

 

「そういうモンかよ…。」

 

「そういうモンなんだよ…お前だって俺達と最初に遭遇した時を覚えてるだろ?銃を向けるお前と俺の合間に割って入って来たろうに。危険を顧みず感情で突き動く…そーいうタイプなんだよ。」

 

 

 

 

 

 まだ心の何処かで、「流石にヤバくなったらジッとしてはくれるだろう」とか

「幾ら激情家タイプの人間でも、いざ己の命が危うければ足も竦むし物陰に隠れる筈だ」等と楽観的な、それでいてある意味では現実的な物の捉え方に囚われていた事に遅まきながら気づいた。

 

 この子、想像を遥に上回るクソ度胸の持ち主だったわ。ついさっき間近で見せつけられた。

 

 

 

 拠点での待機を命じ約束させたとて抜け出すのは目に見えてる。…それにである、3時間以内に遺骸を持ってこいとダリオ等は指定してきた。

猫の手も借りたい程に忙しくなるのは想像に難しくない。

 遺骸捜索の人手は欲しい、可能かどうかは知らんが理奈の鏡巫女とやらの神通力で遺骸の在り処も探れないかという淡い期待も無いと言えば嘘になる。

 

 極力頼りたくはないが…本領を発揮できずとは言え【パラノイア】相手に斯様な働きをしたのを見せられれば才覚も最早疑う事はできまい。

 

 

 そして。

 

 

 

 

「…俺がもし、嬢ちゃんの立場なら…俺も結局は家族の為になんかしてぇって思っちまうんだわ。」

 

 

 礼拝堂に向かう前から、少女が同行を名乗り出た時からこの考え自体は青年の中にずっと根付いていた。共感できるからこそタチが悪いとも。

 

 

 だが退魔士として一般人の身を護る使命感、子供を戦場に連れ回す事に対する倫理や道徳規範やら、…色んなモノを天秤に掛けた結果、私情で連れ出すワケには行かない方針に傾いていた。

 

 と、同時に規範や使命を度外視して私情だけでモノを語るのであれば…『最愛の家族を自らの手で救いたい!そう思うのは人間として当然だろうが!そんな想いにケチなんぞつけられるものかッ!』と言った想いもある。二律背反この上なし。

 

 

 

 止めようが止めまいが少女は結局、突き進んでしまう…ならば妥協点は一つ―――

 

 

 

「結局、止めても出て行っちまうんだろ?

 もう止めたりもしねぇよ、だからせめて約束だけは守ってくれ。生きて帰るってさ。」

 

「…うん。約束するよっ!」

 

 

「おっしッ!いい返事だッ!絶対に守れよ!破ったら【3年ミルク】の刑だかんな!」

「あっ。それはマジなんだ…。」

 

「ったりめーだろっ!腐った牛乳飲まされたくなかったら死ぬ気でこの城から生きて帰んだよ!なぁ~に!この俺が先輩として少しぐらいは悪魔城の歩き方をレクチャーしてやるさ!」

 

 

 

 母親と弟の件で時間に追われる状況だが、急かされるからこそ尚更この子には時間を割いてでもキツく言わねばならん…。

 叱らなければならない時はしっかりと何が悪いのかを叱るし。何より自身を守れとも教えようとカイは思った。

 

 

 派遣されてきた退魔士として、いや大人として。

 

 

(こんな城内を連れ回してる時点で大人としてもヒーローとしても失格なのかもしれねェけどな…。)

 

 

 と彼は内心で自嘲するが…。

 

 

 

 

 どうあっても歩みを止めない少女ならば妥協点は一つ―――それは青年自身が持ち得る知識や対魔物相手の闘いの立ち回りを教え導く事。

 

 

 少し前にも記述したがカイの妹と理奈の違いは幼い頃から魔物との戦闘を想定した訓練を受けたか否か、後者に属する白馬理奈は才能(ポテンシャル)のゴリ押しで"ここまで来れてしまった"…。

 

 

 

…そんな戦い方を続けていればこの子は、いつか本当に死んでしまうのではないか…。

 

 

 妹とほぼ変わらない年頃の子供が死ぬかもしれないのだ、そう思えば青年は気が気で無かった。戦わせたくなかった。怪物共が跋扈する悪魔城の探索になぞ連れて行きたくなかった。

 

 

 だがこの子は妹と同じように、一度決めたら最後まで諦めずに突き進む輝きを目に宿した。

どんな巧みな話術を用いようが、どんな手段を使おうと最後まで止まる術を持たぬ魂。

 

 

 

 

 

 そうなってしまっては…もうどうしようもあるまい。

 

 

 現状できる最善手を尽くすしかない、何かをやるならば青年、狩人、魔女…誰かに一声掛けて欲しいと伝える。そうすることでバックサポートが出来ればそれだけでも生存率は上がる。

自分がこれまで師から教わった悪魔城の歩き方や魔物の特徴、"人外と戦う上での立ち回り"…そういった類の生き延びる知恵も出来得る限り伝えよう。

 

 僅かにでも、10%でも2%でも、1%だって構わない。少しでも生還率が上がる事をカイは切に願った。

 

 

 

―――

――

 

 

「3時間以内…だと…!?」

「それも【機械塔】にですって…ッ!?」

 

 

「あぁ、事のあらましを搔い摘むとそーいう事なんだ、姉上。…その、嬢ちゃんの鏡巫女とやらの力で遺骸を探せたりだとかはどうなんだ?」

 

「…聖気を放つ加護を探すのとはワケが違います。残念ですが…。」

「Damn it!!…ちょいっとばかしは期待したんだがな、やっぱ世の中そう都合良かねェか…!」

 

 

 時は再び、必要最低限の物資を大急ぎでかき集めた理奈達が拠点に帰還した場面へと戻る。

鏡の中の道化師との激闘でそこかしこに傷を負った二人に驚き問い質した狩人は一連の流れを聴き事の次第に唸りを上げる。

 

 

「よりにもよってこの城で悪名高い塔の頂上を取引の場に指定するとは…!」

 

 

 彼の中にある『来須蒼真の記憶(城内の冒険記録)』の中でも何時だって【機械塔】は厄介な難所だった。

不安定な足場に常に上下左右するリフト、侵入者を転落させんとする歯車や崩れる床、人間を圧死させる為だけに備えられたプレス機や回転する刃に壁面びっしりの古い血痕が付着した棘…etc。

 

 そして…この悪魔城に置いて最も懸念すべき"相手"の居城とでも呼べる場所でもある。

 

 

 ずっと気になっていた。

 

 恐らく今回の事件は悪魔城の怪物達にとっても異例中の異例だろうと。理奈の様に偶然巻き込まれた民間の人間が多数、教会の退魔士、邪教集団の残党たるダリオ、城内で復活したドミトリー

 …極め付けは魔王が不在であるという現状に異を唱え【魔王ドラキュラ】の復活を待たずして"新たな城主を仕立て上げる"という独自の理念で動く【ネクロマンサー】の存在だ。

 

 

 こうも様々な思惑の人間や魔物が入り乱れて策謀渦巻く自体は未だかつてない…。近しい物があるとすれば世界大戦時に【ブローネル】という男が勝手に城主として君臨していた事件だが。

 

 

 

 その【ブローネル】と呼ばれた男も、"魔王の右腕"に粛清された。

 

 

 

 

 そう…。これだけ多くの人間や、魔王への忠誠心を微塵も持たず好き勝手に新たな魔王を創ろうとする存在が居て、"奴"が黙っている筈がないのだ…ッッ!

 

 この異常事態で未だ"奴"の影も形も見えやしないのが気掛かりだった。

 

 

 

(…いや、気にはなるが今はそれよりも目先の問題か。)

 

 

 疑念を振り払う様に首を横に振り、狩人は案を提示する。

 

 

 

「俺から提案がある。まず二手に分かれ未だ探索の足りない場所を同時に攻め、残り一時間となれば遺骸の有無に関わらず全員【機械塔】で合流だ。」

 

「ま、待って!二手に分かれるのはこの際仕方ないとしても…有無関わらずって

 見つかん無かったらお母さん達を解放して貰えない。ギリギリまで遺骸を探して見つけた人が塔に向かった方が良いんじゃ…。」

 

 

「いや駄目だ。【機械塔】を登るなら戦力の分散は避けたい。」

「嬢ちゃん…悪ぃが俺もイェーガーに賛成だ。あの塔でそれは流石に各個撃破されちまう…。」

 

「白馬さん、お気持ちは解りますが敵は何の準備もせず唯待ち構えているだけとは限りません。

 最悪の場合は遺骸無しで交渉テーブルに着く様に見せ掛けての強襲も視野に入れなくては。」

 

 

 

 

「その遺骸の事だがな。…相手は"どの部位"を渡せとは指定していないのであろう?」

 

 

 

 

 

「!」

 

「おう、あの野郎そこン所は指定してなかったな…。」

「そうだね…。遺骸一個でお母さんも真司も返してくれるってだけで。」

 

 

 狩人は帰ってきた二人にそう尋ねた。魔女は彼が如何様な意図でその質問をしたかを察した。

その答え合わせと謂わんばかりに彼は言葉を続ける。

 

 

「一つだけ、一つだけ確実に手に入る遺骸のあてが俺に、あるんだ。さっき思い出せた。

  だから残り一時間で探索を打ち切って集合しようと提案している。」

 

 

 

 

 

 

 

「ンなッ!?マ、マジかよォ!?イェーガーお前いつの間に!?」

「!!――ほ、本当ですか!?本当にあるんですかっ!」

 

「あぁ…本当だとも。」

 

 

 

「イェーガー…貴方それは…。」

「すまんな、そういう訳だ。だから…フランチェスカ、いざとなったら後は頼んだぞ。」

 

 

「イェーガーさん…?」

「???…よくわかんねーけどコレで一応問題は解決って事でイイんだよな!?」

 

 

 話の流れ的に家具を取りに行ってる間に拠点で待っていた記憶喪失の仲間が城内で見かけた遺骸の在り処を思い出した、そう解釈したが…如何せん奇妙な空気感が漂う。

 少女は狩人と心配そうに彼を見つめる魔女の顔を交互に見渡し、青年は再確認も含めて彼にそう問う。「ああ。目先の問題はコレで解決したと言っても良い。」と返され何か釈然とはしないが一緒に居た筈の青年の姉も特に事実の否定もしないことから信ずる事とした。

 

 

 拠点内に居なかったこの二人は知る由も無い。

 

 

 今まさしく狩人が言っているのが狩人自身の体内にある"心臓"であり、摘出しても直ぐには死なず。ある程度は生き永らえることが出来ても痛みや苦しみは当然あるしソレが長く続いていけば、やがて"魂"が消滅する程の過負荷(ダメージ)にもなり得る。

ゆえに今しがた、いざ自分が完全な死を遂げてしまった際には自分の代わりに理奈を頼む、と暗にフランチェスカに告げた事を。

 

 

 

 

「約束しよう。理奈…必ずお前の家族を助けてやる。

 だからお前は何が何でも家族と一緒に地上へ戻れ。いいな?」

 

「うんっ!本当になんてお礼を言ったら良いか…!」

 

「そう逸るな、礼はちゃんと助け出せてからで良い。」

「あっ、そうだよねっ!それにしてもこの短時間で色んな人と約束するなぁ~…。」

 

 

 悪党に捕まった身内を救える目途が立った。そんな嬉しさからか少しばかり有頂天にでもなった様に頬を掻き呑気にそんな事を言い出す理奈であった。

 

 

 

 一方、狩人はそんな少女を見てフッと小さく笑う。

自身の心臓を捧げてでも必ず身内を助けてあげよう、と決めて約束を交わした白馬家の少女を。

 

 

 

(この子は…『弥那』じゃあない。それは解っている…だが。)

 

 

 

 神の気紛れか、はたまた悪魔の悪戯か。

 

 1%どころじゃない天文学的な奇跡の確率で"自我"を得た人造人間は想うのだ。

何者の戯れかなんぞこの際どうだっていい…。あの日、あの時。"自分の中にある魂達"は自身が愛した女性を救えなかった。

 

 生前も、ずっとずーっっと遠い前世の時だって、磔にされて殺害されたのだ。

 

 

 …だから、三度目の正直ぐらいはあったって良いだろう?

 

 

 何の因果か、かつて『少女(弥那)』を救えなかった存在の残滓に再び"少女"を救う機会が舞い込んだ。

 

 23年前に救えなかった『少女(弥那)』の代わりと言う訳ではない…が、何時だって救えず取りこぼして来た命運だった。今度ばかりは取りこぼしちゃいけない、取りこぼすワケにいかないよな…。

 

 そんな想いだけがイェーガー・マーシュマンを衝き動かしていた。

 

 




【あとがき&アイテム解説】

11話で理奈の同行を許可こそしたけど心の中では納得し切れてなかったカイ君が吹っ切れる話。
あと自身が来須蒼真の模造品である事を悟った狩人さんの理奈に対する現スタンスの明記。

狩人は本物の蒼真じゃないけど、心は間違いなく蒼真成分で出来てるからこそ…救えなかった弥那の血縁者や家族に対して感情が重い。


カイ君:姉上と狩人が良くも悪くも一般人連れてくことに対して覚悟ガンギマリ過ぎてる中で唯一のまとも寄り感性。

姉上:鏡巫女の件で敵からの執着心などから平穏無事とは行かない…なら目の届く所に居てもらう方が良い派。それとは別で白馬家の理奈に負い目があり本人意向を無視できない側面も若干ある。

狩人さん:そもそも生前の実体験(原作の暁月&蒼月)がまさしく自分の大事な人の為に突っ込んでいったタイプだし…。自身がそうだったからこそ止められないのが死ぬほど共感できる、っていうか死んだ。



【3年ミルク】

賞味期限が3年も過ぎた牛乳、【暁月の円舞曲】【蒼月の十字架】【ギャラリーオブラビリンス】そして【奪われた刻印】と数作品に跨いで登場する食べ物アイテムである。
飲むと400ダメージも喰らうラスボスの一撃より被ダメが凄いッ!!
 普通に飲んだらヤバいがとある方法を使う事で効果が反転、HP400回復の有用アイテムと化す、大体ボスラッシュモード時の蒼真君の主食。
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