悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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3章:存在意義を探す狩人⑥ -白と黒の円舞曲- 

- side 三人称 -

 

 

 羊皮紙から漂う古い洋墨の独特な匂い、幾年から書き綴られたのか定かではない黴臭さのある紙束を纏めた破れ欠けた装丁。見渡す限り本が隙間なく敷き詰められた木製書架の壁が織りなす迷宮は悪魔城の叡智が集う源泉と呼んでも過言ではない。

 

 ワラキアに落成されて以来、古今東西より魔術や錬金術、呪術と幅広い学問を学ばんと志学の徒が大昔は訪れた【悪魔城蔵書庫】の蔵書数は誰に気付かれる事も無く日増しに増え続けているという…。貪欲に時代の流れと共に日々発展していく知識を只管にかき集め集約せんと。

 

 

 

 悪魔城の知恵を象徴するその区画に一人。男がふらりと現れた。

 

 年の頃三十代半ば、汚れ一つ無い真っ白なスーツに紫紺色のネクタイ、両肩からスラリと垂れ下がった真っ白なストール…そしてオールバックで整えた茶髪の紳士然とした風貌の男性。

 

 

 コンテナ確保の為に【礼拝堂】へ出向いていたイェーガー等を屋根の上から観察していた件の男であった。

 

 

 来訪者はまるで勝手知ったる我が家だとでも謂わんばかりに悠々と悪魔城に住まう魔物でさえ好んで寄り付かぬ様な薄暗い通路を歩んでいく。

 男は"以前この城で命を落とし人ならざる者として蘇った身"であった。ゆえに【ブエル】を使役でき斥候として奇妙な四人組に小手調べも兼ねて襲わせた。

 

 彼は野心家であり、狂信者であった。世に数多ある怪しげな宗教団体の関係者と呼べた彼は自分こそが魔王に相応しいと信じて疑わぬ狂いし者であり…、大望を叶えるべく常に研鑽と行動を心掛けてきた。

 

 

然し、彼の野望は道半ばで挫かれる事となった――何故ならば男はこの城で『一人の少年』と相見え闘いの末にその魂は肉体を離れ永劫の闇の中へと葬られる事になったからである。

 

 

 

 

 一人の少年……名を『来須蒼真』と呼んだ、そのちっぽけな子供に偉大なる夢は無残に砕かれたのだッ!

 

 

 

 

 夢破れ、滅び去り、そして暫くして混沌の意志も気高き精神の前に切り裂かれて城は崩れ落ち……。ふと次に意識が覚醒した時には男は生前と変わらぬ姿で其処に立っていた。

 ただし変わらぬのは見た目だけであり、身体の奥底より湧き出る力は人間であった頃とは比にもならないことに気が付いた。

 

 

「キィッ!キィィッ!」

 

 

 来訪者は足を止める、最奥まで辿り着き。"目当ての宝"を発見したからだ。

 

 人外として蘇った男は暫しの間、失意に暮れ抜け殻の様に時を過ごす期間も多かった、ところがある日、自身と同じように城内で蘇った存在の事を偶然にも知る。

彼女等が何やら地上の人間とコンタクトを図り、新たな魔王を創り上げようと暗躍している事を察した時…!男の胸に燻っていた野心の煙が再び大火として激しく燃え上がったッ!

 

 そこから先の行動は速かった。自身の存在を悟らせまいと潜伏に徹し、彼女等が事を起こしたタイミングで横から彼女達の狙い――魔王の遺骸を掻っ攫ってしまおうと漁夫の利を考えたのだ!

 

 

 紳士然とした風貌の男は見た目とは裏腹な歪んだ笑みを浮かべ、目の前に居る宝の番人を一瞥する。

 

 その昔、魔王の息子に金銭と引き換えに武器や医薬品の売買を行ったという蔵書庫の主が使っていた机の上で羽を休める様に停まっていた一匹の【おおこうもり】の足元で輝く"指輪"…!!

 

 

 

          「キィィィィィィ―――ッ!」

 

「ほう、私に歯向かおうと言うのか…力の差が分からんと見えるな。―――では仕方ない、お見せするとしよう。」

 

 

 

 生前と何一つ変わらぬ見た目の、だが人間であった頃とは比にもならない"力"を手にした男は目の前の番人に掌を差し向け

 

 

 

 

            「 こ れ が 力 だ ! 」

 

 

 

 

―――

――

 

- side 理奈 -

 

 

 

「二手に分かれての探索ですが人員の振り分けはどのようになさるのかしら?」

「お前と理奈、カイの三人一組で纏まって動いてくれ。俺は一人で良い、さっきも言ったが確実に手に入る遺骸の在り処を思い出したんでな。だから効率を考えればそれでいいんだ。」

 

「…。そう、ですわね…"そういう事"にしておきましょうか…。」

 

 

 イェーガーさんはそう言って単独で探しに行くって言い出したけど、なんでだろう…。

上手く言葉にはできないけど…こう、なんていうか本当に効率が良いから、なのかしら…?

 

 

「まっ!確かにそれが無難っちゃ無難か。

 在り処が分かってるブツ取りに行くのにわざわざ大勢でゾロゾロ行くよか、未発見のモンに人員割いた方が良いわな。こっちは嬢ちゃんも居るし。」

 

「次に向かう場所なんだが…俺は【礼拝堂】を通り過ぎて【悪魔城蔵書庫】、ひいてはその先にある地下の区画を目指す。」

「地下、ですか?」

 

 

 前にコンテナを見つけた施設の更に奥を目指す、そう告げた彼に私は思わず聞き返したわ。

 

 瘴気が濃い場所に行けば行く程に強くて怖い悪魔が沢山出て来るんだって話を拠点に帰ってくるまでの道中でカイさんから聞かされた。大雑把にこのエリアが危険だーっ!みたいな基準は聴かされたけど、やっぱり共通して城の最奥であればあるほどリスクは高まる訳で…。

 話を聞く限りはたった一人で最低でも二区画分は奥へ進んでいく事になっちゃう…不安にだってなるわ。

 

 

「…そう不安そうな顔をしてくれるな、まだ完全とは言えんがこれでも戦いの記憶は前よりも取り戻せた。少々深部へ潜り込んだとしても問題はない。」

 

 

 顔に出てたみたいで、そんな私への補足の様にイェーガーさんは言葉を続けてくれる…なんでも"【不可侵洞窟】"と呼ばれるエリアを目指したいらしく…。当人曰く、「悪魔城は毎回、城の構造が変容する。蔵書庫から行ける道もあるいは閉ざされているかもしれぬが…」との事だった。

 其処に遺骸があるんですか?って言い掛けたけど、この話振りだと多分違うかなぁ、"道が閉ざされてるかも"、だもん…。

 

 まだ足を踏み入れていないっぽい感じだし、絶対辿り着ける順路が確定してないなら「確実に手に入るアテがある。」って言わないわよね?…私がまだ知らない魔法的な彼是だとか遺骸のなんか法則的ななんちゃらがありますよー!とか言われちゃったら正直そこまでの話なんだけどさ…。

 

 

「えっと…その洞窟(?)に何か重大な目的が?遺骸とかとは別で。」

 

「……そうだ、かつて訪れた時の様にまた見つかるかは望み薄だが、"俺が好んで使った剣"か…ソレに近しい物でも拾えれば戦力増強に繋がると考えていてな。遺骸回収のついでだ。」

 

 

「"イェーガーさんが好んで使ってた剣"?――元々は剣を使ってたってコトですよね、なんか想像つかないな、鞭が得意武器って印象がついちゃってるから…。」

「ははっ、意外か。むしろ俺は一番鞭の印象から遠い戦士さ。」

 

 

 そう言って肩を竦めて笑う彼が言うには自分が特に好んで使っていたのが"大剣"や"斧"だったり"刀"を用いた抜刀術との事で、鞭の扱いにしたって鞭というよりかは蛇腹剣を振るう感覚で戦っている。って話してくれた。剣でも槍でも体術でも、なんだったら銃すらも扱えるなんて聴かされて私は思わず目を丸くしてしまった…。

 いやいやいやいやいや…アナタちょっと多才すぎやしませんかって…ゲームか漫画の主人公か何かで?

 

 

「あー…丁度武器の話題が挙がったトコだし訊きてぇっつーか頼みたいんだがよォ、嬢ちゃんでも扱える武器とかねェか?あったらくれてやって欲しいんだがなぁ。」

 

 

 その言葉に私はハッとさせられた。

 

 そうだった…今の私は武器を失ってしまったんだって…!

あの真っ赤な怪人ピエロとの戦いで貰った【レイピア】は折れて使い物にならなくなったし…カイさんの持ち物だった【斧】も一応使えなくはないけど元が投擲用の斧だからなのか道中の帰り道で使ってる間にあっさり壊れちゃうし、そのまま常用の武器としては使えっこない。

 

 

「理奈に武器を、か。…お前からそんな話を持ち掛けられるとはな。

 あまり戦わせる事には乗り気じゃ無かったように思えたが?」

「……まっ、心境の変化って奴さ。んで、肝心の扱えそうな武器はあるってのかい?」

 

「武器、武器か…ふむ。」

 

 

 顎に手を当てて仮面越しに天井を眺める様な仕草のまま彼は口を開いた、「理奈、お前は剣以外に扱える武器は何がある」って。

 

うーん、平凡な女子高生が普通に生活してたらまず聞かない台詞ベストスリーくらいに入りそーな言葉だなぁ~。

 

 

 なーんて現実逃避してる場合じゃないよね…大分無茶ぶりというか、答えに詰まる質問内容ではあるのだけどとにかく考えなくちゃ…!自分の人生を振り返ってみる…思い出せ、思い出せ。この城から家族と生きて帰れるかどうかの瀬戸際なのよ!

 

 目を閉じて、額に人差し指を当ててコンコンと小突いてみる。記憶の引き出しを漁る様に。

 自分のこれまで――人生でやってきたこと――何か、何か無かったの?―なんだっていいから!なんだって――なんだって……―――

 

 

 

 

 

 

「今日は剣道や弓道のお稽古もお休みの日だしこのまま録画してたドラマでも―――…? 誰かいる?」

 

 

 

「あっ!?」

 

「ムッ、何かあるのか?」

 

 

 思い浮かんだ情景は悪魔城に取り込まれるほんの数時間前の景色、仲のいいクラスメイトとカラオケ店に寄った帰り道。

茜雲が風に流されていく中で、少し先の未来でこんな騒動に巻き込まれるなんて夢にも思ってなかった頃の私が声に出した独り言…!

 

 

 

 

 

 

 

         「あのぅ…幾ら何でも"弓"、なんて無い…ですよね…?」

 

              「なに?弓、だと…。」

 

 

 

 

「私達が【礼拝堂】のコンテナから見つけた物資の中にはありませんでしたが。」

「だな、投下させたコンテナの物品リストにも確か弓は……いや【ボウガン】ならあったかもしれねぇがどっちにせよ嬢ちゃんが望んでるモンは今この場には無いだろうよ。」

 

「うっ…やっぱりそんなの都合よくありま「あるぞ」か………ってあるの!?」

 

 

「少し特殊な条件は付くが、コレなら新たな武器が見つかるまでの繋ぎにはなるだろう。」

 

 

 仮面を付けた彼はサラリと何てこと無いように、淡泊に言って退けた。白い手袋を嵌めた両手を前に差し出して見えない何かを手繰り寄せるみたいに動かし始めた。

その仕草は動画配信なんかで偶に見かけるパントマイム芸人みたいな感じで、…いや、そんな物とは比べ物にならない。だって―――"本当に其処に弓が実在してる"かの様に視えてしまったのだから…!

 

 

 

「汝、主の為に死して尚も矢番えよ――支配の力(タクスティカルソウル)…【スカルアーチャー】!」

 

 

 

 黒い外套に身を包む戦士が短く、それでいてハッキリと耳に届く声でそう呟いた。

 

 その瞬間、"ソレ"はもう其処に"実在"していた…。

 

 

「受け取れ。」

「…ぇ、あっ!?は、はいっ!」

 

 

 本当にあるかの如く錯覚したパントマイム芸から一転、瞬き一つせずしっかりと眺めていた筈なのにこうして"実際に触れる事ができる弓"がいつの間にか彼の手には握られていたんだ…。

それを受け取った時の感触…不思議と手に馴染む手触りはきっと城を出ても忘れられないかもしれないわ…。

 

 

「こいつぁたまげた。お前さんチート過ぎやしねぇか?」

 

 

 感心したように言葉を漏らすカイさんを尻目に私は、オロオロとしていた…。要望通りの武器がもらえたのは良いけどコレって…。

 

 

「イェーガー、白馬さんに弓を与えたのは良いですがコレの矢はどうするおつもりで?」

「おっ、言われてみりゃあ確かに…。」

 

 

 そう!そうなのよ!要望通りに弓を貰えたけどコレって矢が無いのよ!

 

 

「急くな、使い方を簡単に教えるが弓を構えたら頭の中で矢の像を思い描け。」

 

 

 矢を思い描く?…思い、描く…。なるほど…こんな感じかしら?

 

 

 

「それだけで矢は顕現される訳だがしかし――――うん?」

 

 

 早速誰も居ない壁に向かって想像を膨らませてみたわ、いつも通りに弓道のお稽古でやる動作を―――ふと馬手(めて)に違和感を覚える、いつの間にか何かを掴んでいる様な感覚で。

ゆっくりと目線を壁から右手へと向ければそこには鏃が淡く輝く矢があって…ッ!?

 

 

「うわぁっ!?!?」

 

「あっ、嬢ちゃんが吃驚してバッて弓と矢を放り投げたぞ。」

 

 

 なななな、なに今の…?

 

 思わずビクってなったぁ…!なんか縁側で叔母さんとお茶を飲んでた時に腕に蜘蛛が登ってきてて気付いた時くらいに慌てたぁ…っ!

 

 

「す、すいません!ちょっと取り乱しちゃって…。

  あ、あれ?腰が抜けちゃったのかな、なんか上手く立てない…?」

 

 

 シュゥゥゥーッ。って何かが溶ける様な音がして振り向けば私の落とした弓矢、ううん、正確に言えば"矢"が春の雪解けみたいな優しい溶け方で…消えていく。

 完全に消えて無くなるまで時間にして十秒にも満たない僅かな間だけどそれが酷く長く感じられて…矢が無くなった時、漸く私も立ち上がれた…。

 

 

「ええいッ!だから急くなと言っただろうが。話は最後まで聴け!…いいか、今のはイメージに集中し過ぎた結果だ。」

「へ?」

 

「思い描けば矢は顕現されるが意識を集中させればさせる程にその弓に気力を吸われる。…間違っても死ぬような事はないが一時的な疲労で動けなくなるんだ。」

 

「つまり理屈としては使い手の魔力を勝手に吸い上げて弾ぁ精製する俺の【シルバーガン】みてーなモンってワケか。」

 

 

 

 う"っ"…。か、勝手に先走ってごめんなさいイェーガーさん…。腕を組んでお冠な彼に深々と頭を下げる。

今のはどう考えても話を最後まで聞かなかった私が悪いもんね……。

 

 

「…ハァ、反省してるならまぁ良い。命に別条は無いとは言え無茶な使い方はし過ぎるなよ。

 その弓本来の用途は他人に貸す事ではないのだからな…。

 フランチェスカ、悪いが回収した物資の中から【マインドアップ】を少し多めに持っていくぞ、常時【ガーディアンソウル】を発動させる訳だからな。」

 

 

「ええ、構いませんわ。ただ幾つかは私にも回して頂けますかしら?」

「? 持ち帰ってきた時に分配したがアレではまだ足りなかったのか。」

 

「いえいえ、ただ…貴方のユニークな発想で天啓が舞い降りたものですので。」

 

「???」

 

 

 フランチェスカさんはそう言って疑問符を浮かべるイェーガーさんに微笑んで回収した荷物の山から【マインドアップ】――あの紅茶みたいな透き通った赤い液体が入った薬瓶の事――を数本取り出して自身の鞄へと仕舞い。反対にベルトに付いてるカードケースから二枚の札を取り出した。

 

 

 

 

―――

――

 

- side イェーガー -

 

 

 

 俺は【礼拝堂】の中を駆けていた…。

 

 あの後、【スカルアーチャー】の弓を理奈に貸し出した後すぐに【荒城回廊】を抜けてここまで来たが、なんとも妙な気分に浸るものだ。生前の、オリジナルの来須蒼真が城内を突き進む時は何時だって一人であるのが常であった。道中で仲間や敵対関係にある人間と出会う事はあったが…。

 懐かしいとも心細いとも受け取れる奇妙な気分だった…。

 

 

 あの三人には俺がこっちへ進んでる間に【舞踏館】を探索するように指示を出したが、大丈夫だろうか。――いや、きっと大丈夫な筈だ。パラシュート降下してきた二人の話を聞く限りでは位置的に花園経由なのは同じでも【妖魔迎賓館】からは離れている。

 記憶通りならばあの施設はそこまで瘴気が満ちてはいない、従って強敵と呼べる程の存在もそう居ない。あの二人が付いているならば理奈の方も問題ないと思いたいものだ。

 

 

 

 

 …。

 

 

 理奈、か…。アイツは薄々勘づいてたんじゃなかろうか、俺が単独行動を名乗り出た理由。

 

 それが本当は効率云々などではないのだと。

 

 

 俺にしか判らん遺骸の在処に一人で行って遺骸を入手しに行った、という体裁にしておく為だけにあえて一人っきりになった。

 

 

 

 俺が純粋な人間じゃなくて造られた存在だと知られる事、最悪それがバレる分にはまだ良い。一番の問題は俺がアテがあると言った遺骸が俺の心臓そのものであるという事。

 

 

 

 あの性格だ、そう多くの手段を選べぬこの土壇場で馬鹿正直に俺の心臓を差し出して家族を救え等と言い出せばどんな反応するか予想も付く。良くてずっと心に重い物を引き摺って冷静な判断力も欠いた儘に【機械塔】を登るか、最悪の場合はそんなの駄目だと言い合いになって無為に時間を浪費する押し問答でも始めるか。

 何れにしても制限時間を設けられたこの状況下で余計な混乱を招く様な真似は避けたい…!

言わずとも俺の意図を汲み"そういう事"にしておきましょうか(そういう体裁で進めましょうか)と言ってくれたフランチェスカには感謝したいところだ。

 

 

「ケカカカカ…!」

「退け。」

 

 

 行く手を阻む様に俺の前に飛び出た【スケルトンナイト】が細剣を振り上げ、切り落とさんとする―――だが遅い。

 

 

ゴッッ!!

 

 

 相手が剣を振り下ろすよりも先に下顎目掛けたストレートを繰り出す。言葉通りの意味で骨が砕ける感触を手の甲に感じながら先を急ぐ。【ネビュラ】を抜き放つまでもない。

 

 

「せめて【デッドクルセイダー】ぐらいになってから出直してこい。」

 

 

 背後でサラサラと砕かれた頭部に呼応する様に全身が骨粉と化していく骸骨剣士に対して小さく呟いた。

 

 

 踏みしめる度に悲鳴の様に軋む音を出す木造階段を昇り、展開した【フライングアーマー】で吊り下げられた鐘を飛び移り、時には四本腕の女剣士を蹴り落とし…【礼拝堂】から先の区画へと続く渡り廊下への出入口が見えて其処目掛け俺は一気に滑空して扉を潜り抜けた。

黴臭さと古い洋墨の匂いが漂う分厚い紙束だらけの迷宮…頼りなく揺れる燭台の炎とは違った光源がある広々とした空間こそが今、俺が立っている場所【悪魔城蔵書庫】のエントランス…。

 

 だが俺の目的は此処ではない。

 

 

 俺の目的は―――ここから行けるかどうか判らないが【不可侵洞窟】に降っていき。

そこに、…そこに都合よくまたあるとは思えんが俺がかつて愛用した【クラウ・ソラス】…!!

 

 いや、あの劔で無くともこの際構わない!なんだっていいんだ!俺が心臓を捧げて完全な死を遂げる前にせめて…せめて理奈がこの城を出る為に使える何かが有ってくれよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッっっ!?」

 

 

 なんだ、今のゾッとする感じ…。

 

 ……。

 

 

 

 ……前に、何処かで。俺が感じた様な、"力"……………いや、まさか、な。

 

 

 

 

―――

――

 

- side 三人称 -

 

 

 紳士然とした男は目の前の机、だった物を一瞥する。

 

 蔵書庫の主が使っていたとされる机は完全に炭化していて、その上で威嚇する様に鳴いていた【おおこうもり】は焼失していた…。

 

 

「欲の権化が居座った机を墓標にできるのだから。"私の資産"を掠め盗ろうとしていた薄汚い蝙蝠には似合いの物だ。」

 

 

 男はそう言って墓標の上の灰の山から焦げ一つ付いてない"指輪"を――【ドラキュラのゆびわ】を摘まみ上げ、くつくつと笑う。

もうこんな所に用は無いと言わんばかりに踵を翻し来た道を帰ろうとして―――眉を顰めた。

 

 

 

 

「……。妙な気配を感じる。このカンジは…前に【礼拝堂】の辺りをうろついていた妙な四人組の一人か。」

 

 

 男は、小手調べも兼ねて斥候を四人組に差し向けた。

単純に正体不明な人物が悪魔城を闊歩しているのが気に喰わないし特にその中でも仮面を付けた黒外套の男からは嫌な気配を感じていた。

 

 自分を、嘗て―――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――嘗て"2035年の日食の中で"自分を葬った忌々しい子供と非常によく似た波長を僅かに感じたのだから。

 

 

 

 

「……相手が何者か、まだ定かではない以上。正面から向かうのは愚策か…。ここは退かねば。」

 

 

 あの子供に気配の波長は酷似している、だが本人のソレにしては何かが違う。

 

 あの子供だというのであれば外見年齢があまりにも変らなさすぎる。

 

 

 なにより、あの黒外套の男が放つ気配は純粋な人間のソレではない…むしろ蘇った自分と同じ人外のソレに近い。

 

 

 

 白いスーツに身を包んだ男は、黒外套に身を包む男が来る前に逃げるという選択を選んだ。

 

 

 

 方や己の為に遺骸を求める白を着込んだドス黒い意志。

 方や他者の為に遺骸を譲る黒に身を包む気高い白の精神。

 

 

 白と黒、お互いまだ邂逅はしない。だが…そう遠からぬ未来で、おそらく相見えるのかもしれない…。

 




今回の解説コーナー:アイテムとスカルアーチャーの仕様など

【マインドアップ】:所謂MP回復アイテム、シリーズ毎に回復が固定値だったり割合回復だったり異なる。

【ボウガン】:ギャラリーオブラビリンスにおけるジョナサンのサブウェポン枠の一つ。撃ち出される矢は敵に刺さると小規模な爆発を起こすという代物!…グラフィックが弓ではなくどうみても(ガン)である。まぁ"ボウガン"だしそうなんスけどね。

【クラウ・ソラス】:蒼真くんを象徴する武器の1つ。暁月の円舞曲では恐らく多くのプレイヤーがコレしか使わなかっただろう最強武器。暁月での無双っぷりを目にした後で蒼月で使うとちょっぴりだけ物悲しい。

悪魔城HDなら"+1"を手に入れる為にひたすら金箱周回の狂気に憑かれるのであった…。



【2035年に死んだ筈の謎の男】:この小説世界の13話目に出てきてた謎の男。紳士然とした風貌だがその本性はドス黒いとしか呼べない徹底した利己主義の男。

 い、いったい なにもの なんだー!


【おおこうもり】:上記の男に瞬殺されたボス。 ああっ! 対して貴重でもないおおこうもりさんが…!



【ソウル:スカルアーチャー】:暁月仕様と蒼月仕様で性能が異なるソウルである。

まず暁月の円舞曲だとバレットタイプのソウルとして発動する。
蒼真くんの背後に浮遊する弓が出現して勝手に矢を1発撃ち出し消滅するという効果。

地上だろうと空中だろうと発動させた座標に設置されるタイプなので偏差撃ちのような形で扱える。



蒼月の十字架だとガーディアンタイプのソウルとして入手できる。

ガーディアンソウルである為、Rボタンを押す事で発動。
Rボタンを長押しすればするほどチャージされ、最大チャージで放たれる一矢は画面上で綺麗に並んで歩いてくる敵キャラを一掃する効果力となる。

言うまでも無くチャージし続ければそれだけMPも消費する。



暁月仕様と異なり蒼月の【スカルアーチャー】は滞空中は使用不可であり、地に足がついていないと使えない為、飛んでる敵に対して厳しい物があるのだが…。



この小説世界においては暁月仕様と蒼月仕様の良いトコ取りみたいな扱い。
発動者である蒼真しか使えないガーディアンタイプ…ではなくバレットタイプのような置き設置可能な弓の側面も利用し、持ち主の手から離れ理奈に貸し出せるという解釈。


理奈のMP(気力)を吸い取り矢を創り出せるが弓そのものを顕現させているのはイェーガーである為、彼のMPも常時減っていく。彼自身が矢を顕現させて射る真似はしてない為大幅にMPを持っていかれる事は無いが…それでも【マインドアップ】は幾つか要する。
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