悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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3章:存在意義を探す狩人⑦ -予期せぬ出会い- 

- side 三人称 -

 

 

 植被の大地に埋もれる様にソレ等は落ちていた。偏に"食べ滓"と表現できるカルシウムの塊。

 

 迷い込んだ者か、将又まだ地上と繋がりがあった時代に近隣の村々から連れ攫われ養分とされた者なのか、素人目には判別付かなかったがそれが自分のよく知る人達のソレではない事を駆け抜けていく少女は切に願わずに居られなかった。

 

 ボウっと雲の切れ間から妖しく照っていた月の輝きが、三人分の影法師を芝生で出来た絨毯上に映し出していく。

 先導するように大地を蹴り続けるのは他の二名と比べて体格の大きな影であった。筋骨隆々と呼ぶに相応しい見た目に反してその手に持つ得物は純銀製の短銃であり、彼が引鉄に添えた指を引けば聖銀が此方へと急降下を目論む翼を撃ち抜いた。

 

 次いで少し距離を空けて大柄の背に追従していくのがこの中では一番小柄な影で。

所々破けてボロボロな衣服の後ろに宛ら背後霊か何かの如くピッタリと浮遊する弓を背から取り回し弓弦を鳴らす。その有様は古来より日本で行われた魔除けの儀礼――――鳴弦の儀(めいげんのぎ)に喩えられよう、何せ矢を番えず弦を弾き邪気払いの音色を響かせるという点では共通しているのだから。

 形式的な物と異なり実在する怪物を物理的に射抜いている部分が明確な違いだと断言できるが。

 

 そして後詰めを務めるのが頭巾を深々と被った古風な魔女の姿を……或いは異国情緒を連想させる占い師風な外套に身を包んだ妙齢の女性。

 紫水晶に似た色の双眼は冷静に次々と血肉を貪ってきた鴉や吸血蝙蝠を墜としていく仲間とその周辺を交互に見渡す。此度の進軍は"遺骸"の捜索が主だった物ではあるが同時にこの中で一番戦いの練度が低い人物の教導も兼ねている。不測の事態に備えて、又…"彼女自身の主要武器を貸与している"事も合わさり奇襲や最前線(フロントライン)をすり抜けられた際はサポートに入れる立ち位置として最後尾を走っていた。

 

 

「さっきから飛んでくる奴ばっかじゃねェか…よっとッ!!

 これじゃあ何時まで経っても嬢ちゃんが取っ組み合いでの練習できねぇったらありゃしねぇ。」

 

 

 愚痴を零しながらも的確に人間大の怪鳥――【ライクーダ】が嘴を開き、雷撃を吐き出す瞬間を狙って口内に聖銀を撃ち込む。

 瑠璃や群青色、深々とした青で彩られた怪鳥の姿はサファイアにも劣らぬ美しい色で、それ故に体内から漏電火災でも起こした家電製品の様に火花を上げ、こんがりとしたローストチキンと化していく姿がなんとも物悲しく思える。

 

 

 道中、少女に修練を積ませるべく意図的に魔物を撃ち漏らして後方に控える彼女に射らせるという手段に出て、時折現れる厄介そうな手合いはこうしてカイが確殺する。

 悪魔城から生還させる為の急拵えな教育カリキュラムだ。こうして実戦形式で経験を積ませる上での危険は承知、フランチェスカが後方に控えているのもすぐ救援に入れる為だ。

 

 

(…見たトコ弓の腕は悪かねぇ、元から習い事で齧ってたってのはあるだろうが…言いつけ通りにゃあできてる。)

 

 

 拠点を出て移動しながら教え込んだ通りの狙撃が出来ているか否か、深緑色で覆われた土壌に勢いよく叩き付けられた死骸を見遣って採点を行う。花園に到着する少し前の会話を回顧しつつ…。

 

 

 

「嬢ちゃんよ、走りながらでいいから良く聞け。こっからスパルタ教育でビシバシ行くかんな?」

「スパルタっ!……りょ、了解であります…!」

 

「…カイ、あまり白馬さんを脅さないで上げて頂戴。」

 

「たはは!わぁってるさ、軽いジョークだって。…さて折角イェーガーから弓を貰った訳だ。

 飛んでるヤツに対しての簡単な講師と洒落込もうじゃねェか。初級編の始まりさ!」

 

 

 

 

 弦が奏でる音が振動として空気中に広がる、それを皮切りに顕現された矢の一閃が【ブルークロウ】の胴体部分、急所となる心臓ッッ―――ではなく翼を射抜く。

 片翼を破魔矢に貫かれ、飛ぶ事が覚束なくなった所を乙矢で仕留められていく。

 

 "飛行生物型の魔物"に対しての基本に則ったやり方であった。

 

 

 

 

「嬢ちゃんは目の前に翼を広げて飛び回るバケモンが居たとしてだ、何処意識して狙うよ?」

 

 

「えっ、それは……倒すなら普通に心臓、とか?」

「嬢ちゃんが百発百中の大ベテラン様ってんならそれも正解だろーさ、…だが俺がぺーぺーなら。

 まずは"最初から的の小せぇ急所狙い"じゃなくて翼の方に風穴をブチ開けんのを意識する。」

 

 

 

「理解の範疇から外れた人外のバケモンってのは桁外れの生命力があるモンでよ。

 心臓の一つ二つ、潰しても生きてるヤツぁ生きてんだ。…だがそんな怪物でも弱点はある。」

 

 

 

 

 例えば、空を飛ぶ怪物にしても、"どのような手段で飛ぶ"のかで弱点は大きく変わる。

 

 目の前で撃墜されていく青い人喰い鴉や人間の頭上を飛び回り落雷を落とす怪鳥、コレ等は見ての通り地球上に生息する鳥類と同じく翼で羽ばたき、時に大翼を広げて滑空する。

 未だ理奈は目撃していないがそれこそ世界神話や伝承にお約束の様に登場する竜だのグリフォンだのと言った類も基本は翼によって揚力を得るだろう…一部例外はあるが。

 

 

 

 では【礼拝堂】の天井付近で踊っていた【ゴーストダンサー】はどうだろうか? …どう見ても鳥類の様な翼は見当たらない。彼奴等は揚力と言うよりかは"浮力"で飛んでいる。

 

 道中で青年と魔女は自身らが知り得る悪魔城の怪物に関しての話を幾ばくか少女に語り継いだ。

 

 終わらぬ舞踏会で舞い続ける貴族の亡霊達と同じように宙を徘徊する【ゴースト】や灯りを持ったまま彷徨う【スペクター】。

 絵本の世界から抜け出して来たと言われても違和感の無い、箒で空を飛ぶ古典的な【まじょ】や【まじょみならい】と言った道具を介する事で飛行できる魔物。

 

 例を挙げればキリが無くなるので一先ず置いておくが、飛べる手合いにしても"飛ぶ"の手段が大分異なる。

 

 

 

 

「蝙蝠や鳥公共、それこそ上半身がほぼ人型の【ハーピー】すら片翼がやられりゃ飛べねェ。」

「ええ、地球上に存在する鳥類と同じ理屈で飛んでいるのなら。

 片方でも翼が負傷すれば飛ぶ事は厳しいでしょうね。高度次第では墜落時にそのまま…。」

 

「ん~、将を射んばなんとやらみたいなカンジかな?いや、ちょっと違うかな…。」

 

「まっ、似たようなモンだ。ッつーワケでだ鳥共をヤっちまうってんなら

 滑空時の翼広げてるポーズの時とかが狙い目さ、胴体を普通に狙うよりも面積(アタリ)がデカくなる。

 慣れねェのに縦横無尽に飛び回る的の只でさえちっぽけな胴体部分を射るのはムズイだろうよ。

 ってな訳で最初のlessonだ。鳥共が出る花園に着いたら翼を射貫けるかテストすっから…!」

 

「おぉぅ…いきなり抜き打ちテストだよ…。」

 

 

 

 

 

           ドシャッ!!

                      ドシャッ!!

 

 

 一羽、また一羽、青年の後方で小さな鳴き声と共に高所から何かが落ちて潰れた様な音がした。

 この区画に来る前はいきなり小テストを始めると不意打ち気味に聴かされ苦い顔をしていた女子高生がやったものである。…死骸を見遣ってつけた採点は多少の粗は有れど及第点。

 

 最初こそ飛び回る標的という相手に掠りもしなかったが翼を広げる前の挙動、動きに対する助言や狙う角度に関してほんの僅かな指摘ですぐさま頭角を現にしていった。

 乾いたスポンジが水を一気に吸収していく有様でも見ているような成長ぶりに驚かされる。

 

 

「弓術の腕が上がんのも悪くねぇが、姉上から嬢ちゃんに持たせたアレを手持ち無沙汰にさせとくってのも……んぁ?この音は――」

 

 

 青年は片手間にまた撃ち落とした死骸の先から聞こえてくる金属が擦れ合う音に耳を傾けた。やがて音は徐々に大きくなり、"その一団"が向かって来ている事が視認できる程になっていたッ!

 槍を手に宛ら行進曲にでも合わせたような歩幅でやってくる鎧の集団。【アックスアーマー】の様な大柄で無骨な創りと比べれば華奢な印象を受ける槍兵隊を先頭に【グール】や【ゾンビソルジャー】の一団が迫って来ていた。

 

 

 

(ちっ。嬢ちゃんの剣の鍛練になりそうなのが来たとは素直に喜べねぇ手合いだ、…実力云々じゃなく心情的にな。)

 

 

 

 

「…鎧お化けの後ろのゾンビ達…なんだか服装が小奇麗っていうか。まるで…アレって――」

「嬢ちゃん次のlessonだ。まず嬢ちゃんの方に槍兵を一体だけ誘導するからサシでやりな。

 長い得物持ちの人型とはどうすりゃいいか教えた通りにな。」

 

「それは良いけど…でも後ろの―」「連中は無理なら無理して相手する事ぁ無ぇ、任せな。」

 

 

 

 観察から違和感を感じた少女の推察を遮るように青年がそう指示を飛ばす。

 

 

 

 槍兵隊―――【アーマーナイト】は間違いなく"悪魔城に元から居た魔物"に違いない。だが連中の背後に控えてる後詰めの雑兵達が違うという事は身に纏うモノが何よりも雄弁に語る。

 敵方の武装を見てカイ青年に怒りや呆れ、哀憫が綯交ぜになった感情が込み上げてきた…少女よりも後ろに位置取る彼の養姉もまた同じ気持ちであった。

 白馬理奈すら察せられる程だ、場数を踏んできたヴェルナンデス姉弟など当然推して知るべし。

 

 

 

 ウィズライト教団の構成員はダリオ以外未だ城内で見掛けなかったが漸くお目に掛かれた模様…惜しむらくは彼らを逮捕して教会本部に連行する事が不可能な状態で出会いを果たした事。

 

 

「馬っ鹿野郎共が……死んじまったら終わりだろうが…んだってンなモン信じてそうなっちまうんだよ…。」

「せめて直ぐに終わらせてあげましょう。」

 

 

 青年が駆け出し、引鉄に指を掛けていくのを合図と示し合わせかの様に前方に見据える集団もまた武器を構えて動き出す。

 

 

 …悪魔城で命を落とした人間の遺体はやがて怪物と成り果てる。

 

 ―――大昔からこの城で動く屍と化したモノと違って小奇麗な"現代の衣服"を身に纏った屍食鬼や上級兵士の亡者を相手に少女が切結びをするのは早計か…? 交戦をしつつカイは思索する。

 最寄りの目に付いた鎧兵に隙をあえて晒し突進撃を誘発させる、釣り餌に喰らい付いた愚かな小魚が放つ渾身の一閃は身を翻す様な足捌きで避けられ、果てにはその勢いを利用した回し蹴りが槍兵の背を進行方向に向かって更に押し出す…!

 前のめりに倒れ込む姿勢で弾き飛ばされた鎧兵は無機質な音を立てて直ぐ起き上がり、目の前に立つ"炎の剣を構えた少女"を視界に捉える。先程の体格が良い男と比べれば小柄で戦闘経験の浅さが僅かに震える足にそのまま出てるような小娘だ。

 

 鎧兵は背後で先程自身を蹴り飛ばした拳銃使いを取り囲むように同胞達が襲い始めた音を聴き、一先ずの標的を目先の新米剣士と見定めていく…!

 

 

 

「ずゥあらッ!…宣言通りそっちに一体吹っ飛ばしたかんな!いざとなりゃあ姉上も居るやってみなァ!」

 

「わ、わかったわ!やってみるっ!」

 

 

 

 地上への生還に必要とみてスパルタ教育は実施するし、そも悪魔城で戦い抜く以上は"この手の(かつて人間だった)連中"との衝突も避けては通れない。

 

 咄嗟に出した解答だが【アーマーナイト】を理奈に宛がう事で一先ずは茶を濁す(時間稼ぎ)としよう。

 この合間で青年と魔女が槍兵隊以外を殲滅できたらそれはそれで別に構わない、その前に理奈がカタを付けよう物なら、その時は改めて…――「元人間だったヤツを切れるのか」という意思確認と客観的に見たメンタル面から判断するとしよう…。

 

 

 叩き出したプランは一旦棚に上げ、退魔士の青年は自身へにじり寄る集団を睨み小さく声を零す。

 

 こうも統率された集団で来ている以上は【ネクロマンサー】達の差し金か…と。

 

 

 

 

 

 統率の取れた集団であり、極め付けに槍兵団の背後の亡者達の服装、装備があからさまに現代人の物だという事こそが【ネクロマンサー】と協力関係にある教団の構成員なのだと…。

 日食の中に封じられた悪魔城にまで乗り込んできて人間を辞めてしまった邪教崇拝の信徒達である事の何よりの証拠だった。

 

 

 

 

―――

――

 

- side イェーガー -

 

 

 

 ひんやりとした肌寒さと湿度交じりの空気が肌に纏わりつくのを感じ始めて早数分、蔵書庫からこの地下洞に降りて来られる道がまだ開通していたのはツイていたな…。

 当然と言えばそうだが城の構造は以前とはまた変わっていたんだ、半ば賭けに近かったがどうにか遠回りや新たな進行ルートの開拓もせずに済みそうだ。

 

 …まだ【機械塔】での合流まで時間はある、それまでに深部の一つであるこの区画で何かしらの装備品を収集しておきたい。二度の経験則からだが大概、地下深部に向かうほど力を宿した武具が隠されていて、しかも【不可侵洞窟】にはベタな映画に登場する海賊のアジトかと言わんばかりに帆船と【ミミック】付きの財宝部屋があった。

 

 

 【クラウ・ソラス】に匹敵する業物は流石に望めなくとも財の山なら最低限使える剣の一振りくらいは埋もれているかもしれない。そう考えながら歩いていた矢先で俺はソレを見つけた。

 

 

「……コレは足跡…だと…それも複数人、見た所…成人男性のものか?」

 

 

 石畳でもなければ絨毯の上でもない、粘度の高い泥濘にだからこそ痕跡として残った靴底の形が俺の視界に映った。鍾乳石の天井からも絶えず水滴が滴り落ちるような場所だ。その影響で形自体も崩れてきてはいるが…この具合から見るにそこまで時間も経っていない筈だ。

 俺は、気が付けば【ネビュラ】のグリップ部分を強く握りしめていた…。先程【悪魔城蔵書庫】で感じた既視感のある"力"…それに何処かで今も遺骸を探しているだろう【ドミトリー】…っ!

 彼奴等や【ネクロマンサー】が操る配下、地上から来た【ダリオ・ボッシ】等の教団残党…。

 

 遺骸探訪に来た何某かと遭遇戦になってもおかしくはない。

 

 警戒を強めながら俺は奥へと進んだが…足跡の主達は腰が浸かる程の水場を途中で進んだらしく足跡の追跡はここで終わった。何せ向こう岸には来た道と違って泥濘は無く、そこらに生える石筍と同じ水に溶けた石灰分で出来た石床の地平が広がっていたのだからな…。

 表面が濡れていて滑りやすい天然の産物に悪態の一つも付きたくはあるが、嘗ての記憶通りならこの歩き辛い地帯を少し越えた先に……!!……っと。そら来た…。お目当ての場所だ。

 

 

「この周辺は前回と構造がやや違うな。真下に見える帆船まで滑空するか、横穴を調査だな…。」

 

 

 眼下に広がる青々とした地底湖に浮かぶ一隻の帆船と古い炭が放置されっぱなしの篝籠が左右に置いてある横穴。まず調査範囲として後者を選ぶ事にする、船側へは【フライングアーマー】を展開して滑空すれば何時でも一足飛びといけるだろうがその後、この高所まで登ってくるまでの道筋が確保できていない。

 横穴の方に関しては篝籠という人工物が用意されている以上、単なる行き止まりという線は低い。何処かに通じる通路か物資置き場である可能性がある。

 

 下層へ、延いては船が揺蕩う地底湖まで繋がっているなら船の調査からの帰路になるし物資置き場なら武具が見つかるやもしれん。何も収穫が無ければそれこそ来た道を戻り、この高台から船まで跳べば良い。――帰り道は最悪の場合、飛行系のソウルに頼る他あるまい。

 …理奈の為【スケルトンアーチャー】を常時発動してるからな、できれば消耗率の激しいモノは使いたくないものだがなぁ…手元にまだ【マインドアップ】の瓶があるとはいえ。

 

 

 

                              ぴちょん…

        …ぴちょん

 

                       ぴちょん…

 

 

 

 

 雨音じみた水音を背景に洞壁へ添えるように手を付けながら俺は徐々に下へ、下へと降る。

 

 結論から言おう、下層へと通ずる道と物資置き場両方だった。

 

 

 あれは横穴を入って直ぐの事…。呻き声の様な音を耳が拾い、音の発生源に近づくに連れて足元には散らばる貴金属や宝石の絨毯が広がっていた。

 世の金持ち達でさえ手が届かないんじゃないかと疑いたくもなる巨万の富を乱雑にぶちまけた大地の上を力強く踏み歩く影が焚かれた篝火に照らされ映っていた。

 

 

 青肌。

 

 

 シャツ一枚羽織っていない屈強な上半身に大昔の北方系ゲルマン民族の色を濃く残した顔立ち。

 トレードマークだと言わんばかりに頭部に巻いてある赤いバンダナ、頭上に掲げる様に持って歩く【ファルシオン】(円月刀)…どう見ても立派なステレオタイプの海賊と言わしめる風貌がそこには居た。

 

 付け加えて言えば露出してる肌が全部真っ青で、しかも生気の無い眼で同じ場所を延々と行ったり来たりを繰り返す海賊ゾンビでもある。

 

 

 ――【デッドパイレーツ】…。強欲であるが故に呪われ、輪廻転生の環にも入れずに城内を彷徨う哀れなゾンビだ。

 

 

 

 音を立てまいと足場の財を踏まぬ様に神経を研ぎ澄ましながらも素早く岩陰に潜み、目先の相手の名を心中で唱える。刹那――彷徨う海賊の【エンチャントソウル】を発動させ、背後から相手を強襲する際にどのような力加減で、如何なる太刀筋でどの部位を攻撃すれば致命の一撃足り得るか、手に取る様に判った。

 自分がさも逃げ惑う村民を背後から斬り付ける事に手慣れた蛮族にでもなったかの如く不思議と脳に感覚や知識が湧いてくる…!潜伏中の俺と彼奴の距離が最も近く、それでいて相手が背を此方に見せた瞬間。生前の彼奴もおそらくはしていたであろう襲撃を見舞った。

 

 

 背面目掛けた不意の一撃は死して尚、財宝の山に執着する賊徒の意識を永遠に刈り取るには十分過ぎる。こうしてスニーキング紛いの潜行を続け、短剣と長剣をそれぞれ一振りずつ宝の山の中から拾い上げ更には湖へと繋がる出口にも辿り着けた、至って順風満帆。

 

 

「【マン・ゴーシュ】に【ジョワユース】か。無いよりマシではあるな。」

 

 

 前者は攻撃よりかは時代劇にでも出て来る十手めいた守りに重きを置いた短剣、後者に至っては………鞘から柄、刀身までもが黄金で、如何にも強欲な海賊が溜め込んでいた"金目のモノ"と言った印象が拭えないな。刃の鋭さから決して切れ味の悪い劔ではないのだが、若干他の有力な武具と比べれば見劣りする。…昔このエリアで【クラウ・ソラス】を見つけただけに尚更。

 

 

「後はあそこに見える船まで探索の手を広げてみるか。」

 

 

 出口の向こう側、地底湖の中心に浮かぶ帆船に爪先を向けて歩き出して心の中で水上歩行のソウルに呼び掛ける。

 

――支配の力(タクスティカルソウル)…水精よ、その身に宿れ【ウンディー―――――

 

 

   パァンッ

           パァンッ

 

 

 【ウンディーネ】を発動させて今正に水辺への第一歩を踏みしめようとした矢先で銃声が空洞内で反響した。

 踵を翻して発砲音を頼りに枝分かれした通路へと、俺がまだ進んでいない小路の方を駆け出す!

 

 何者かが交戦を繰り広げる音…もしかしたら教団残党の兵士かもしれない。…敵であるのかもしれないが、だからと言って人間を見殺しにするというのは目覚めが悪い事この上ない。

 感情論抜きにしたって助ける事にメリットはある、こんな所を彷徨い歩いているならば付近の情報ないし有力な武具を拾い集めている可能性だってゼロじゃないからだ。

 

 

 

「クソ!クソッ!来るな、来るなぁ!」

 

「くすくす…。」「うふふ…。」「アハハ…!」

 

 

 程なくして、俺は音の発生源へと到着した。

 

 まだ距離がある所為で、そして"敵"の姿が邪魔で見えにくいが倒れ伏した人物が岩場の影に隠される様に…おそらく二人だろうか、それを護ろうとしているのか半ば半泣き声で、自身を奮い立たせんと叫びながら発砲する黒スーツを着た日系人…。

 俺はここに来て漸くあの時見た複数人の足跡の主が彼らなのだと察した。

 

 

 ……絶望的な表情で応戦する男の服装には見覚えがある。思い出せた蒼真の記憶(俺の記憶)の中によく似た男の恰好があったからだ。いつも俺の事を魔王扱いしてくる過保護なアイツと同じ諜報員の服。

 

 恐らく、地上の白馬神社と悪魔城とが繋がった時に不運にも巻き込まれた諜報員の生き残りが居たんだろう。そして退魔士の救援が来てくれるまで息を潜め隠れていたけど見つかり今に至ると。

 

 

 撃ち込まれる銃弾を物ともせずゆったりと、笑いながら近づいていくのは一見すれば見惚れる程に美しい人間の女性に見える事だろう、結られた赤紫色の髪、一糸まとわぬ素肌…だがその胴体から生える腕と下半身は人間のそれではなく鎧の様にがっしりとした古木の様な樹皮。

 鋭い鉤爪の様に伸びきった枝の先からは柿の様に丸々として瑞々しさを感じさせる彼女等の頭髪によく似た色合いの悪意が実っていた。

 

 月光すら届かぬこの地下深く…【不可侵洞窟】に自生して人の生命を啜る邪悪な樹の精、それが目の前で人間に襲い掛からんとする【ドライアド】達だった。

 

 

 「あなた の イノチ を チョウダイ…!」

 

 

 妖魔は胴体から伸びる()を振るい、悪意の果実は放物線を描いて宙を舞う。

 

 人体に付着すればそのまま、体内にまで根を張りやがて連中の幼体が生誕するまで喰らい尽くされる事となるだろう。そのままの放物線で飛んでいけば諜報員の頭頂部に見事クリーンヒットして見て呉れだけならばコミカルに頭からぴょこんと葉っぱを生やした状態になるだろうさ。

 …そのままの放物線で飛んでいければのハナシだがな!

 

 

   ブシャァァァアアッッッッ!

 

 

 「!? ダレだ―――か”ぼぉっ!?」

 

 

 此方を振り向いた樹精の内の一体はそれが最期の言葉になった。

 

 俺がたった今投げた物がヤツの額に突き刺さり、"ソレ"が真っ二つに裂けるのと同時にヤツの肉体も上下に泣き別れになったからだ。妖魔の果実を空中で真っ二つに割いた俺の攻撃(ソウル)で。

 

 

 「殺人道化の戯れ【キラークラウン】ッッ――!」

 

 

 白手袋で覆われた指先に感触を感じる。気狂いのピエロが猟奇的な遊びを行う際に使うトランプのソレと同じ触り心地を布越しに感じられる…!

 自身の魔力で形作られたからなのか、絵柄には俺の大切な人達が描かれているソレを先程と同じように投げる。思春期真っ只中の男子なら一度は憧れた漫画の怪盗キャラじみたトランプ投げ。

 

 一切の減速も何もなく、重力と引力、空気抵抗の存在も無視せんとばかりに真っすぐ飛んで行ったトランプは二体目の樹精に当たり、魔力を帯びたカードは上下に分かれる様に裂け、それに伴って命中した妖魔の身体も運命を供にするが如く上下に割かれた。

 

 

  「こ、このままじゃマケル、にげなくては!」

 「逃がすと思ったかッ!」

 

 

 不利を悟り、樹で出来た()とは思えぬ健脚っぷりでその場から退避しようと飛び退く【ドライアド】目掛けて俺は星雲の名を冠する鞭を解き放つ。同胞をいともたやすく葬った攻撃が直線的な軌道しか描けない飛び道具と理解した上での逃走、真っすぐにしかすっ飛んで来ないのならばそれを意識した動きをすれば当たらないとでも踏んだんだろうが、その程度は此方も想定済みだ。

 

 

  「うげ"ぇぁ"!?   ナ、ナんだト、ば、ばカなァ!?!?」

 

 

 【のみ男】もかくやと思わせる見事なジグザグ移動の手本ではあった。が、相手が悪かった。

 生憎と俺の使った武器は相手目掛けて自動追尾する効果のある特別な鞭でな、カードを投げ乍らも鞭が届く射程圏内まで接近した事を許した時点でお前は詰んでいたんだよ…。

 

 自身の背中から心臓を貫通してそのまま胸部を突き出る様に伸びた【ネビュラ】の先端を見て、「信じられない。」と言いたげな顔をした妖魔は最後に目をカッと見開き、斃れて消滅した。

 

 

 ……聖気を纏った【ネビュラ】の威力と、【デッドパイレーツ】のソウルが持つ背面特攻の相乗効果ではどうあがいても耐えきれまい。

 

 

 周囲には他に脅威となる敵の気配は無し。――武器を仕舞い。【ポーション】を取り出しながら襲われていた者達の方へと歩いていく。

 

 

 「ア、アンタは人間なのか…ッ!?」

 「落ち着け、俺は………あー、退魔士だ。」

 

 「退魔士…? ってことは教会から来た救援の方々なのか?」

 

 「まずはコレで傷を治すと良い。ほら、そっちにも負傷者が居るんだろ?。」

 「あ、あぁ…すまない助かるよ!正直もうダメだと思ってたんだ!!」

 

 

 自分の立場をどう伝えれば良いのか、ほんの少しだけ迷った。

 馬鹿正直にこんな城の中で人外ですとは言えないから当り障りの無い様に退魔士だと答えた、教会から来た救援か否かという質問に対しては………【ポーション】を相手に押し付けて誤魔化す。

 

 さっきまで窮地に陥っていた所為か焦燥しきっていた諜報員スーツの男はこちらが尋ねてもいないのに、勝手に「気づいたら自分達は【悪魔城】に吞み込まれ、よりにもよってこんな深部に居た。」とか「紫色のデカい毛虫や泥人間に追われたり、途中で追跡されないようにワザと水辺に入って足跡を消した」だとか…。マシンガンの様に次から次に道程や苦労についてを語り始めた。

 

 

 

 

 ……。多分、ずっと不安だったんだろうなぁ。

 

 

 

 【悪魔城】の存在を知っていて諜報員なんかしてるんだ、ある程度は特殊な経験を積んでるのかもしれんが、にしたっていきなりこんなバケモンの巣窟に放り込まれたら誰だって恐怖や戸惑い、理不尽に対する怒りとかが込み上げたって仕方がない。―――2035年に、何も知らなかった俺が弥那と一緒に城に取り込まれた時も、そういう気持ちが無かったと言えば嘘になる。

 

 死ぬかもしれない。

 

 あの頃はそう思った、弥那を助けられなかったら、失ってしまったら…考えたら怖かった。

 

 『有角』のヤツにいきなり大した説明も無く【城主の間】に行けとだけ言われたり、その後辿り着いた後での出来事だったり…どうして俺達がこんな目に遭ってるんだ!って理不尽に思う事も当然あった。まだ戦える力がある――自分の力で道を切り拓いたり、選択していくことができる分まだ自分は恵まれていた方ではあったけれどさ。

 

 

 死を覚悟した所で、こうして救われて。怪物でもない話の通じる奴が初めて現れて。

 

 

 そりゃあ、色んなモンをぶちまけたくもなるよなぁ…。

 

 

 「―――だからさっきの植物女達に見つかった時なんかは………!!

    スーッ ハーッ…。はぁ、はぁ…す、すまない、少しテンパってるみたいだ。」

 「あぁ、気にしないでくれ。……なんなら薬を飲ませるのを手伝おうか?」

 

 

 岩陰に隠れるように倒れているこの男の仲間達を一瞥してそう問いかける。

 深呼吸をして尚まだ声がどこか震えている男は少し考え込む素振りを見せてから、「頼む」と頭を下げてきた。

 

 

 青色の霊薬が入った瓶の蓋を開けながら俺はその男と共に負傷者が横たわっている裏手を目指す。歩を進めながら頭の中で予定は組み替えた。

 元より、此処へは理奈に地上へ帰還するまでの間、役立ちそうな武具が無いかと来た訳だが…こうして保護すべき人物と出会ってしまった以上は探索を一度打ち切って彼らを結界の張られた拠点まで護送する他あるまい。

 

 

 成果は、長剣と短剣がそれぞれ一振りに、保護すべき民間人――と呼んで良いか分からんが――を救助したくらいか。

 

 

 

 帆船の方までは調査の手が回らなかった。

 手負いの人物達を護衛しながら拠点まで逆走して、再びここに来る時間は、もう無い。

 

 

 流石にその頃にはカイ達と【機械塔】で合流しなければ遺骸と人質の交渉に間に合わん。

 …この後、俺自身、自分の体から"心臓"を摘出せにゃならんのだから尚更な。

 

 

 

 

 

 

 

 今後の事を考えると頭痛がしてくるが、そんな俺の頭痛を吹き飛ばす様な衝撃が走った。

 

 

 

 「俺は相方の傷をどうにかする、アンタはすまないがそっちの人を助けてやってくれ!」

 「―――。」

 

 

 「? どうしたんだ、急に呆けた様な顔して…。」

 

 「ぁ」

 

 

 

 

 

 最初見た時、距離は離れていた。

 三体の【ドライアド】が邪魔で見通しも悪かった。

 何より岩場の影に隠される様に倒れていたから、辛うじて人が居るとしか認識できなかった。

 

 

 

 

 諜報員の男は傷だらけの同僚に【ポーション】の中身を飲ませ、必然、俺はもう一人の負傷者を介抱する事になる。

 

 

 …その顔は知っていた。

 

 

 23年前、いや、それよりもずっと前からその顔を知っていた筈だ…ッ!

 

 

 あの頃と比べて、刻が経ち過ぎた。白髪も増えたし、単純に歳を重ねただけじゃない苦労が顔に皺を形作ったのだろうとも察せられる。

 

 

 

 

 

            「――――弥那の、お父さん…。」

 

 

 

 

 

 目の前で倒れていた意識不明の負傷者は、最愛の人(白馬弥那)の父親だったのだから。

 

 






【今回の解説コーナー:ソウルやアイテム…etc】

21話 -予期せぬ出会い- にて新たに登場した一部の敵(名前だけしか登場してない【ハーピー】や前々から登場してる【ブルークロウ】等は省きます)やアイテムの解説です。


【ライクーダ】
蒼月の十字架においては【狂乱の花園】に出現するエネミー。
空を飛び回る巨大な怪鳥で、口から雷を吐き出す。

なお、倒すと稀にドロップアイテムとしてローストチキン!!…ではなく【フライドチキン】を落とす。

とあるレアソウルを得る為に雷属性の攻撃が必要になる為、恐らく多くの人が雷撃のソウルを欲しいがために乱獲する。



【デッドパイレーツ】
本編で書いた通りの風貌、如何にもなTHE・海賊の姿。

ボロボロの帆船があり、海賊の財宝の隠し場所と言わんばかりの部屋がある【不可侵洞窟】がこれ以上なく似合いのモンスターである!!…のだが、悲しい事にコイツの登場作品、暁月じゃなくて蒼月なのであった…。

原作のグラフィック通り手に円月刀を持って歩くエネミーであり、その所為なのか【ファルシオン】をドロップできる事がある。


【ソウル:デッドパイレーツ】

上記モンスターのソウル、エンチャントソウルである為、常時MP消費無しで発動。
・原作だと 「背後から攻撃するとダメージが大きいことがある」 と曖昧な説明文だが
 実際に試すと、『(少なくとも筆者は)100%の発動率で』背面攻撃成功で『必ずダメージ量が2倍』であった。



【マン・ゴーシュ】
装備することでDEFの数値がほんの僅かに上昇する刺突剣。
上昇値が+3という無いよりはマシ程度の物、火力自体もそこまで高くはない為コレを装備するより後隙が少ない武器か火力一辺倒装備になりがちとなる。…のだが

悪魔城HoDでは"右手装備と左手装備"の二刀流の概念がある為、【ブルトガング】の様なよりDEFの数値を盛れる装備が見つかるまでの間、少しでも防御力を上げたい場合に限り装備する意義が生まれた。



【ジョワユース】と【ジュワユース】


・【ジョワユース】
 暁月の円舞曲で手に入る長剣タイプの装備品。
 【不可侵洞窟】の帆船の浸水地点から潜水していくと入手できる財宝部屋に着く。
 説明文としてはシンプルに 「黄金の剣」とだけ。後述の続編に登場する方と比べると宝飾が無い(?)

 ショップでの売却額は90000である。


・【ジュワユース】
 蒼月の十字架で手に入る長剣タイプの装備品、……誤字、ではないと思う。たぶん
 悪魔城HoDに登場する武器名も【ジワユース】なので。


 暁月に登場した方と違って、アイテム説明文に 豪華な宝飾がなされた美しい剣と書かれており、ショップに高額で売却できる素振りモーションやらで確認する限りは黄金の剣だが、前作と違って黄金の剣とは書かれてないが…。

なお、暁月の方と違って装備するとLCK値が上昇する。



【ソウル:ウンディーネ】
水上を歩行できるようになるソウル、ゲームの進行上コレを使って水上からジャンプしないと届かない足場がある…が、実はガバ判定で水中からジャンプしても届く地点がある為RTAやTASで無視される


【ドライアド】
暁月の円舞曲で【不可侵洞窟】に出て来る女性型モンスター。悪魔城モンスターあるある、妙にえっちぃドット絵グラフィックの一人。

 全 裸 の 赤 紫 髪 ポ ニ テ っ 娘 で あ る


安心してください、ちゃんと(樹皮を)履いてますよ。

攻撃方法で枝から木の実を飛ばしてきて、それが当たると蒼真君の頭部に葉っぱがニョキっと生える。
そして葉っぱが植えられている間は延々と持続ダメージを受ける。

倒すと【柿】がドロップアイテムで手に入る!……えぇ…その柿大丈夫?食べたら頭とか寄生されない?
なお、アイテム説明文曰く 渋い柿 との事…。

また彼女のソウルは敵のHPを奪い取る果実投げの為、回復と攻撃を両立できる優れモノ。



【ソウル:キラークラウン】
トランプを投げて攻撃するソウル。燃費はそれなりにお高いが、射程と攻撃速度など有能なソウルで。
見栄え的にも映える。敵にHitすると蒼真君にとっての大事な人達(ユリウス、ヨーコ、ハマー、弥那、アルカード)の絵柄がランダムで出て来る。

 地味に蒼月の真ENDのルートに行くための必須ソウルであるッ!
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