当然ですが、本編とは何ら関係ないので
別に読まなくても問題無いギャグ回になります。
もしお読みになられる場合、それをご了承の上でお願い致します…。
…あっ、普通にどいつもこいつもキャラ崩壊しますんで
- side 三人称 -
優しい春風が頬を撫でる、N県白馬町に存在する神社の敷地内で一人の少女がうつら、うつらと睡魔の波に揺られながら意識と言う名の船を漕いでいた。
事の始まりは、季節が本格的な春へと移り変わる今日この頃。
彼女の実家はちょっとした大掃除を執り行う事となりてんやわんやして疲れが溜まったといった次第であった。
押し入れの奥から懐かしい服を見つけたり、小さい頃よく読んでいた本やらぬいぐるみを見つけて。休憩がてらソレ等を眺めてぼんやりと童心に帰ってみたり…etc。
一冊の童話本をパラパラと捲る内に眠気に襲われた彼女は遂に夢心地の大渦に呑まれ、暖かな陽射しの毛布に包まれる様に意識を手放した。
ぱさり、と手に取っていた童話の本が床に落ちる。タイトル名は"不思議の国のアリス"。
―――
――
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- sIdE さン人SHoW in Thえ わんDAらンどー☆ -
「…理奈ちゃん…理奈ちゃん、起きて?」ユサユサ
「…ふゃ?」パチッ
誰かが、優しく肩を揺さぶる。
それに気づき少女の意識は覚醒した。目を覚ますとそこに自分と同じ少し赤み掛った栗毛の少女が居た。自分より二つ年上で妹の様に可愛がってくれるお姉ちゃん的な存在。
「あっ! "弥那さん"! ごめん…私ってば寝ちゃってた?」
「ふふっ、それはもうぐっすりと!」
彼女の名前は白馬弥那! この神社の神主の娘さんで理奈から見て従妹のお姉さんに当たる。
今年で高校を卒業して何でも幼馴染の男の子と大学生として同じ大学に通うらしい。
「いやぁ~、少しの休憩がうっかり寝ちゃってたみたいで、たはは…面目ないデス…ハイ」
膝枕までしてもらっていつまでもこの人相手だと甘え癖が抜けないので困る。身を起こして照れくさそうに頬を掻く。そんな妹分の仕草に微笑みながら手にしていた絵本を置き、お菓子とお茶でも持ってくるね?と席を立つ弥那の背を理奈が見送る。
「あぁ、良いなぁ~っ!弥那さんの彼氏(?)さんが羨ましすぎる…。
会ったこと無いからどんな人か知らないけど、話聞く限りぜぇ~ったいラブラブじゃん。」
周りの人曰く、理奈は弥那と似ているとのことだが。理奈は自分があの優しくて気遣いのできるお姉さんと自分が似ているとは思った事が無かった。むしろ憧れの存在でずっと遠い物なのではないかとすら思っている。
そんな憧れのお姉さん的存在が何処の馬の骨だかよく解らん幼馴染の男に持ってかれる事に思う事が無いわけではない。泣かせたら【竹刀】で2、3発はぶん殴ろうかとすら考えている。
「……それにしても彼氏、かぁ…。」ゴロン…
再び横になり、ぼんやりと空を見上げながら考える…。恋人。素敵な男の子。
同級生の友達から"夢見がちな少女"と称されるくらいには理想の高いモノを求めているとは自覚している。今時、仮面をつけた王子様が来るなんて何処の少女漫画展開だという話だが、夢見るだけならタダなのだ…いいではないか。
「なんかこう、非日常的な出来事が起きて仮面をつけたカッコイイ人と運命的な出会いでも無いかなぁ~なんて…そんな夢みたいな話あるわけないよねぇ…ん?」
ガサガサ…
ふと耳を澄ませば敷地内の庭園奥、茂みから音がする…。稀に迷い込んで来る兎か何かであろうか?
四月、卯月、春一番で兎が舞い込んで来るというのも中々にユニークな話だ。弥那に膝枕してもらって、不思議の国のアリスを読んでもらっていたというのも拍車を掛ける。
存外、童話の始まりみたいに、大きな時計を持った兎が大急ぎで走っていくのではないか。と冗談半分に夢見がちな少女は茂みの方へ意識を向けると―――
< ヅェッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ! ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!
……。
……………。
・・・・・・・・・・・・・んんんッッ!?
明らかに人の声がする。どこをどう聞いても兎の鳴き声じゃねェ…
がばっ!と起き上がり、声がする方を注視する…。謎の掛け声連呼と地を蹴り上げる様なSE音を聴きながら目を凝らすと。それは茂みから飛び出して来た。
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!*1」シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
理奈は目を一杯擦った、ごしごしごしごしごしごしごしごし、擬音にしたらコレくらい擦った。
そりゃそーだ。突然自宅の茂みから何処かの歌劇衣装か何かと言わんばかりの時代掛った黒衣を身に纏い頭に【シルクハット】を装備した仮面の男が奇声を発しながら謎の挙動*2で出てきたのだ。まだ寝ぼけてる可能性を疑う。
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!―――っく!遅れてしまうッッ!このままでは遅れてしまうッ!」シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!
変態挙動で今も移動し続ける仮面の男は焦りの色を滲ませながら奇声を発して理奈の前を通り過ぎていく…。暫く呆然としていた理奈は一拍子遅れてハッと我に返り叫ぶ。
「ふ、ふふ、不審者だああああァー――ッッ!?!?!?!?」
我が家の敷地内に仮面をつけた謎の変態がッ!?警察に通報するとか誰か大人を呼ぶとか色々あるが、突如来訪してきた非日常の入口を前に理奈の常識的な判断力はすっ飛ぶッ!まずは捕まえよう。逃げられてしまう…!警察に通報するのは捕まえてからにしようと。
「ま、待てぇぇぇえぇぇ!!」タッタッタッ!
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!」シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!
「ま、待ちなさぁぁぁい!!!!」タッタッタッタッ!
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!」シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!
「ま…待ってって言ってるでしょおおおぉぉぉ!!!(本気の全力疾走)」ダダダダダダダッ!
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!」シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!
「…ぜぇ、ぜぇ…いや、ほんっっと、いや、ま、 待って…」
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!」シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!ダッ!シュバッ!
「だからッ!速すぎィィィ!!!!」
速すぎるッッ!!なんなんだあの変態は!?なんであんなふざけた動きをした奴に自分は追いつけないんだ!?少女は世の理不尽さに怒りの声を上げたくなった。
…なお、この時の少女は知る由もないことだがあの変態はちゃっかり【ソニックブーツ*3】を履いている為、仮に理奈が人間の尊厳をかなぐり捨てて同じ走法を行ったとしても絶対的に追いつけないのである…。
「ヅェッッ!ヅェッッ!ヅェッッ!―――ええいッ!このままでは…こうなればやむを得んッ」つ【アクス】
「お、斧ぉ!?(えっ…あの人、今どっから取り出したの…)」
柄の先端に付属するずっしりとした重圧さを感じさせる凶器を空虚から取り出した男を見て理奈の脚が一瞬怯む。13日の金曜日と言えば思い浮かぶ世界的に有名な殺人鬼が手にするソレと同じ物を不審者が取り出したのだ、警戒して然るべきである。
一体何をする気なのか…目を見開いて追い掛けながらその様を見れば―――
「墳ッッッッッ!!」ヒュン!
飛翔。
重量物の斧を持ったまま仮面の不審者が天翔ける龍の如く、垂直に跳びそして。
「ホァイーーッッッ!!*4」
消えた。
「……。」
「…………。………は?」
目を見開いていた少女は、目を皿にした。
斧を持って大空に飛んだと思った男が着地と同時にフッと消えたのだ、今まで見ていた光景がまるでインフルエンザの高熱で魘されている時に見ていた悪夢か何かだったのでは無いかと言わんばかりに…。
「……。」
数分前まで何か、非日常な事が起きて素敵な仮面の王子様でも現れないかなーなんてぼやいていた少女はまず深呼吸をして。そして言った。
「うん、帰ろう。何も見なかった。そうよね。うん。」
追い掛ける事をきっぱり諦めるに事にしました。
そうです、きっとあんなワケの分からない物を追っても碌な事が無いに違いありません。
某有名な映画でもあるじゃないですか、お父さんとお母さんが屋台の料理を食べたら豚になってしまったという展開が。非日常の入口なんて踏み込まずに済むならそれに越した事がないのです。
理奈は今日の出来事を丸めてゴミ箱にダンクシュートを決めるくらいの勢いで忘れ去ることを決意して帰路に着きます。急にいなくなったから弥那さんにも心配かけたかもしれない。
そう考えながら駆け足で元居た場所へと馳せるのでした…。
―――
――
―
昨日のアウターゾーンめいた一件から、丸一日が過ぎました。
理奈は同級生の友達と白馬町に新しくオープンしたアミューズメントパーク「
楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去るモノ。青春を謳歌する華の学生ならば尚の事で、陽はとうの昔に傾いていて逢魔時に世界は染め上げられていく。
昼と夜のどちらでもない時間、幻想的で不意にワケもなく物悲しくなる時刻…足を止めて空を見上げてノスタルジックに浸りたくなる世界が広がっていて。…何故か不意に嫌な予感をヒシヒシと感じていました。
なんかこう…自分の家には、実は世界が滅ぶか否かに関わる凄い鏡が奉納されてたり、謎の悪党がこれから実家を放火したりなんだりで因縁ができたり、だとかそういった展開が起こるという訳ではないのでしょうが、無性に嫌な予感が拭えません。御土産で貰ったマスコットキャラの【コナミマン*5】のぬいぐるみを無意識にギュッと強く抱きしめます。
「ん~~、なんでこんな不安な気持ちになるんだろう…私どうしちゃったんだろう…。」
昔から直感が優れた子だと言われてきた、伯母さんや伯父さん、両親や弥那さんがうっかり忘れものをした時もなんとなくで言い当てたり変に勘がいいのは自負している少女ですが、こうも謎の不安に駆られるというのは気味が悪い。
悪寒を振り払う様にぶんぶんと首を振るい大きく深呼吸!悪い事など起こる筈も無いと大空を見上げて一歩一歩、長い石段を踏みしめます。
「今日の夕飯当番って弥那さんなんだよね~♪ 楽しみだなぁ、最近は特に【カレー】作りにハマってるって聞いてたし!早く帰って御土産プレゼントしちゃおーっと!」むぎゅっ
むぎゅっ
変な擬音が自分の足元からしました。
靴裏に柔らかい感触。
……。
冷や汗をだらだらと流しながらゆっくりと足元に視線を向けます、すると――――
「ぉ…ぁ。ぁ……。」ピクピク
「!?!?!?! き、きききき、昨日の不審者のヒトぉ!?」ビクゥ
漆黒の外装に身を包み、【シルクハット】の下からは美しい銀糸を思わせる白髪の不審者が倒れていた、なんなら理奈が踏みつけた。
なんかデカい虫でも踏んづけた時の様なリアクションでバッと飛び退き、動揺する少女はとりあえず荷物を地面に置いて仮面の不審者の安否を確認しようと思い立った。……流石に変質者相手とは言え、如何にも危篤状態と言った具合で倒れてる人間を介抱もせず警察に突き出すのは気が引けます。
「あ、あのー…大丈夫ですか?」ツンツン…
「ぅ、ぐは………はぁ、はぁ…くっ、メモリの海を泳ぎ*6…過、ぎ、た…4972時間…」ガクッ
「ちょッ!?ちょちょちょ、ちょっとぉ!もしもーし!しっかりしてくださいっ!し、死なないで!!」ユサユサ
おっかなびっくりに指先でつついていた相手は相変わらず意味不明な言葉を口走り、今にも息絶えんとする様に意識を手放しかけ―――これにはさしもの理奈も大慌てです。実家である神社の玄関先で人死にが出たら色んな意味でマズい。
「うっ、ぐはっ…ハァハァ…」
「あっ!よ、良かった…のかな? 意識が戻って…あの何か必要なモノとかありますか?」
「み、み…」
「み?」
ふと脳裏に行き倒れの人間が求める「み」から始まる言葉が浮かび上がる。こういう時一番セオリーなのはやはり水なのだろうか?
どこぞの世紀末救世主も荒野で行き倒れて水を求めるのが定番みたいなトコあるし…。
「水っ気がそこまで多くない美味しいカレーを…」ガクッ
「割と厚かましい注文ですねェ!?」
そこは水じゃないんかい!とか色々ツッコミ所はありますが、このまま死なれたらマズいので理奈はこの怪しい男を自宅まで運ぶ事にしました。幸いにも今日の夕飯は【カレー】ですので。
少女は倒れた変質者を背負い、地面に置いた荷物も抱え上げます。伊達に「空即是色ッ!」と叫んで謎の残像を残しながら移動する男の経営する剣術道場に通ってはいません、りなちゃんマジちからもち!
…カラン!
「あっ!」
背負った際に、男が付けていた仮面が外れます。そして自分の後ろ肩でも見る様に仮面が外れた相手の素顔を覗き込むと…。
別に男の顔は他者が見ると、両目部分に眼球が無い窪みだとか、奥歯が存在しないだとか、他にも心臓やあばら骨がないだとかいう欠損人間なんてことは無く、普通にイケメンでした。
「~~~~~っっっ/////」ボンッッ
一目見た瞬間、顔から火が出た様に、或いは赤々と完熟した林檎にも負けぬ程の赤面をする少女は思わず両手で自分の頬を抑えました。※尚その際に当然背負っていた男は理奈の背から滑り落ちて神社の石畳に後頭部からいい音を立てて落下しました「ぐげぁっ!?」…南無南無。
言ってしまえば男の整った顔立ちは理奈的に、どんぴしゃりでした。
変態挙動と言う名の大いなるデバフで隠れがちでしたがよくよく見れば顔の輪郭や各部位の形など端麗な顔つきだし、黙っていれば間違いなくイケメンです。よくよく思い返せば声もイケボだったかもしれない。
「――/// い、いやいや、駄目よこの人は、へ、変質者なんだからね…うん、そうよ、そりゃあ顔は素敵だし、昔見た少女漫画の王子様みたいだけれども…あーっ!!うーっ!!」ブンブン
あーでもない!こーでもない!と言いたげに蒸気でも上げてる様に顔を真っ赤にした理奈はグルグルと渦を巻く目のまま、首をブンブンと振り続けるのであった…
「…。」ピクピク ピク ←後頭部を石畳に打ち付けた不審者
「…。」ピクピク ピク…ピク ←後頭部を石畳に打ち付けた不審者
「 」 ←後頭部を石畳に打ち付けた不審者
「」チーン…。 ←後頭部を石畳に打ち付けた不審者
―――
――
―
「ガツガツガツッ!!」
「…あのー…なんていうか、頭から落としてあの後、大分放置しちゃっててすいませんね…私もどうかしてまして……って聞いてますか!?」
「おかわり!!!!」つ『空になったお皿』
「理奈ちゃんのお友達、よっぽどお腹が空いていたのね…安心して?今日はたくさん作ってあるからね」
「弥那さん……さっきから何度も言ってますが、この人は友達どころか知り合いでもなくてついさっき会ったばかりの人ですよ…。」
既に何杯目か分からない量の【カレー】を掻き込む様に胃袋に収めていく名前すら知らない男と友達だと思われている理奈は誤解を解こうとしているのだが、どうにも照れ隠し的なアレな感じだと思われて伝わってないらしい。
いい加減、訂正するのに疲れた理奈は自暴自棄になり「もうそれでいいです…はい…。」と項垂れた。
「それにしても良い食べっぷりね、なんだか蒼真君を見てるみたいだわ。」クスッ
「あー…彼氏さん?の名前でしたっけ。」
「!?!? か、かかか、彼氏ってそんな…わ、私と蒼真君は別に///あ、あうあぅあぅ…きゃーっ!///」ダッ!
顔から火が出た様に、或いは赤々と完熟した林檎にも負けぬ程の赤面をする弥那は思わず頬を両手で自分の頬を抑え首をブンブンと振りながら悲鳴を上げる様にいずこかへ走り去っていきます。どっかで見た様な光景である。
「ふぅ…馳走になったな。」
「あっ、いえいえ…もう大丈夫ですか?」
「あぁ、命の恩人よ。自己紹介がまだだったな…イェーガー・マーシュマン。イェーガーとでも呼ぶと良い。」
美しい銀糸の髪を持つ男は理奈より少し年上くらいで、佇まいを直すと【シルクハット】を被りなおして紹介を続けていく。
「さて、荒唐無稽な話と思われるかもしれないが俺はこの世界の人間ではない。月と太陽が重なった日食の世から来た存在だ。」
「あっ、ハイ、そうですか大変なんですね。」
「今、日食の中の世界ではちょっとした大事が起きていてな、王無き国の支配者として自称女王を名乗る暗黒神官が城を占拠し暴虐の限りを尽くさんとしているのだ。」
「あっ、ハイ、そうですか大変なんですね。」
「俺は個人的に彼奴を縊り殺してやりたい程に憎んでいてな。願わくば王の座から引き摺り下ろしてやりたいと常日頃から思っていた。」
「あっ、ハイ、そうですか大変なんですね。」
「………。お前、俺の話ちゃんと聞いてるか?」
「あっ、ハイ、そうですか大変なんですね。」
ひたすらSNSで同じ言葉を繰り返す大変なんですねbot同然と化した理奈を訝しむ様に睨むイェーガーは咳払いをして「むぅ、信じておらんな……まぁいい。」と呟く。
「何にせよ、行き倒れていた所を救われたのだ感謝するぞ」
「…はぁ…どういたいしまして?」
あまりにも荒唐無稽な話過ぎて内容の1/10すら脳に入ってこなかったが、この男は日食の世界から来たそうな…。
日食、月と太陽が合わさった瞬間の事象。
古くから月には兎が住んでいるなんて誰が最初に言い出したか分からない物語がある。
目の前に居る【シルクハット】の男は……到底、兎には見えない。不思議の国からやってきた大きな懐中時計を持って走る白兎ではない。
どちらかといえば
「俺はこの世界では束の間の客人だ、元居た日食の世に還るとしよう…。
先程の少女に【カレー】は非情に美味かった、恋人は大事にして後むちゃくちゃ長生きするように伝えてくれ。」
それだけ言い残してイェーガーは帽子を深々と被り直して、何処から取り出したのか謎の斧を手に再び飛翔し、着地と同時に消えた。
ただ…前回とは少々異なり、男が着地した地点にバチバチと火花を散らしながら渦を巻く奇妙な穴が残っていた。
無数の数字の羅列、読めない漢字や英語の文字列、螺旋を描く
SF映画の一コマめいた奇妙な空間の裂けめがそこには残ったのだ…。徐々にゆっくりと狭まり、やがては人が入れない程の小ささになり、最後は消滅するのだろうと見る者すべてに思わせる感じで…。
結局、なんで神社の茂みから謎の挙動不審な動きで飛び跳ねていたのだとか、行き倒れてた理由はなんだったんだとか、ツッコミ所満載な謎を残して騒がしい旅人は去っていった。
「はぁ…一体なんだったのかしら…あら?」
理奈はふと何気なくテーブルに視線を向けると、空になったカレー皿の横に輝く仮面が置いてあることに気が付く。置き忘れの品だ。
「これ…!イェーガーさんが忘れて行ったんだ!!」
それを手に取り、どうしたものかと思い悩む…。
ふと脳裏に浮かんだのは忘れものをした時の最愛の家族たちの姿だった。弟の真司だったり、お父さん、お母さん、伯母さんと伯父さん……そして弥那さん。
「あっ!これ探してたんだ!理奈姉ちゃんありがとうっ!」
「理奈!助かったよ…!本当にありがとう…。」
「すごく大事な宝物だったのよ…見つけてくれてありがとう。」
「理奈ちゃん…!ありがとう!今度お礼に御守りを作ってあげるからねっ」
「……。
もしかしたらスペアとかがあるのかもしれない、大事じゃないかもしれないけれど…。
失くしものはきっと…誰だって困る、よね…。」
溜息を一つ、困ってる人が居たら見過ごせない、これはもう自分の性分だ、抗えない一種の本能と言い換えてもいい。彼女は二階にある自室に趣き、着慣れた動きやすい【ふだんぎ】に着替えて、作ってもらった【ミナのおまもり】を首から紐で提げて忘れ物の仮面を握りしめながら空間の裂けめの前に立つ。
「すぅーっ!はぁ……よっし、行ってみようっ!」パチンッ
気合を入れるべく頬を叩き、少女はテーブルに置手紙を残して穴に飛び込む…ッ!
「なんかこう、非日常的な出来事が起きて仮面をつけたカッコイイ人と運命的な出会いでも無いかなぁ~なんて…そんな夢みたいな話あるわけないよねぇ…ん?」
―――事実は小説より奇なり。
望んだ展開とは大分違ったかもしれない、始まりはぶっちゃけるとかなりトチ狂ったスタートだったと断言できるが。
彼女の冒険はかくして始まりを告げたのだ―――
――――このイカれた
帽子屋を追って穴に飛び込んだ夢見がちな少女は、白兎を追って穴に落ちた好奇心旺盛な少女の如くこれから奇妙奇天烈な冒険を繰り広げることになるのであった…
数々の苦難を乗り越え
名を背負う青年「アタランヨ!アタランヨ!アタランヨ! ユーキャンヒットミー!」
先祖の血に抗いたい魔女「DSS発動ッ!!骨!骨!骨!骨ェ!!!――レベラッ!レベラッ!私が育ったッ!」
まだ見ぬ変態と出会い
やがて日食の中の世界を大きく動かしていくのであるッッッ!
――エイプリルフール企画『りな・いん・わんだぁらんど -不思議の城<クニ>の理奈-』――
つづく