悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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3章:先祖の血に抗いたい魔女④ -さまよえる魂-

- side フランチェスカ -

 

 

 雲が織り成す仕切り幕越しに乳白色の光が庭園を照らしゆく…。

 

 舞台劇にでも見立てるなら、これより始まる武舞台の演者達へ浴びせたスポットライトとでも言えましょうか、脚光の中で一際輝いているくすんだ紫色。中身など存在しない騎士甲冑が眉庇(まびさし)の隙間から、その虚空からありもしない視線を正面に立つ彼女へと向けているのが窺える。

 

 裏方に徹する身となった私は、月明りの下で微動だにしない二人以外の何者をも舞台に飛び込ませまいと目を光らせる。

 偽りの生で動く鎧兵と対峙する少女――白馬さんの手には一振りの大剣が握られている…!!

 

 

 

 あれこそ、私が彼女に手渡しておいた"私の水晶玉(メインウェポン)"の姿の一つ…!

 

 

 事の発端は拠点でイェーガーが実践してみせた行い、彼が自らの能力で創造した魔弓を白馬さんに貸し出すという点から得た着想に他なりません。

 

 

 

 …今まで私が使い続けてきた【DSS】の力は自分だけを対象とするモノだと思い込んできた。いいえ、違うわね…他者にその恩恵を渡すことが果たして可能なのか、そんな疑問を抱いた事すら無かったと言うのが正しいのでしょう。

 彼が魔弓を貸与できたのなら、私が水晶玉の形状を構築し直して造った劔もできるのでは?付け加えるなら現状殆どの"カード"を紛失しているから実証はできないのだけれど使い魔や守護の加護もその身に付与できるのではないかとも。

 

 

 

            MARS(マルス)】  【SALAMANDER(サラマンダー)

 

 

 

「火星の戦神、火の精霊が魂共に猛る者なりて…。」

 

 

 懐に忍ばせている発動中の"カード"二枚に触れながら独白するように小さく言葉を紡ぐ。戦神と火精が描かれた二札の効果は確かに私の手を離れていても発動している。

 彼女が持つ"刃に炎を纏う剣"が何よりの証明になりますわね。

 

 

 他者に【DSS】で変化させた武器だけでなく身体能力が上昇する加護も与えられるのならば戦術の幅だって広がる。コレが判明しただけ私自身にも成長できる余地があると言えるのかしら。

 

 互いに睨みを利かせ牽制する二者を眺めながら私は考えていた。

 

 

 

 最前線で奏でられる銃撃音と亡者が発する喊声のコーラスから成り立つ伴奏の中、遂に均衡を崩さんと先んじて動き出したのは【アーマーナイト】の方からだったわ。

 柄の部分を握る力が僅かに強まり、肘を少し引くその予備動作を―――ほんの些細な動きを見逃さなかったのを対峙する白馬さんの険しくなった表情から察せられる。

 

 

 

 

 摺り足気味に半歩ほど前に出していた左脚を基点に、重心を一気に前へ押し進める様な刺突…!

 

 曲りなりにも私とて【DSS】の力で変化させた剣を扱う身。

 剣術を学ぶ門下生なら打ち合い稽古をする機会はあって当然と心得てます、…故にそういう意味で相手の出方を見て即座に対応するという点は白馬さんも慣れていたのかもしれませんね。

 

 

 庭園を訪れるまでの回廊道中、カイから指南されていた"長物を使う相手"との立ち回りにある通りに突き出された瞬間の回避に彼女は徹した。

 

 

 長柄武器はリーチという利点を得る代わりに大きな後隙を生む。

 

 

 剣同士で鍔迫り合いに持ち越せる"線"の攻撃よりも突きという"点"を意識した攻撃に特化している面もあることでしょう。

 ……それゆえに、初撃を往なせば後発で攻める側が優位に立ちやすい。

 

 

 

―――――ヒュッッッッッ!

 

 

 

       ぐッ…!――ここだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 

 

            ビュォンスパッッッ!

 

 

 

 

 

 薙刀の様に真上からの振り下ろし、袈裟切りや横一閃の払いこそあるでしょうが長く大振りであるからこそ手練れの人間ならば見てからでも回避や防ぎようがある。

 小回りが利かない分、空を切った際は長物に身を引っ張られる様に無防備な瞬間がどうしても生じるし、リーチ差を利用して間合いを詰められれば―――至近距離にまで詰められれば取り回しが悪い槍の優位性は不利な状況へと一転しかねない。

 

 

 

 丁度今、突き出された槍の一撃を避けて懐に潜り込めた白馬さんと敵の立ち位置がそうね。

 

 

 

 直線上の軌道で放たれた刺突撃に対して軸を右寄りに反らす様に、それでいながら片脚の屈伸運動さながらに前方へと踏み込み右膝を折り曲げる。その結果が眼前で繰り広げられた光景。

 

 

 風切り音と共に虚空を穿つ鎧兵の初撃。

 体格差も合わせ【アーマーナイト】から完全に死角となる位置で屈んだ白馬さん渾身の叫び。

 その態勢から胴目掛けての逆袈裟切りが入った音。

 

 

 カイ曰く、「どんだけ優れた動体視力を持ってよーが、死角からの攻撃ってのは辛ぇモンだぜ。プロボクサーだって一瞬視界から消えるフックやアッパーカットは対処し難いって言うだろ?」との事。

 

 

 瞬間的に敵影を見失った騎士甲冑に僅かな動揺が現れていた事、彼女がそこまで気付けていたかは定かではありません。

 

 …ですがコレだけは確実に言えますわ。

 無我夢中で劔を振る最中にあっても刀筋は精確に合っていた。

 刀筋の角度という物はズレが生じていればさも鋸を木材の半端な箇所に食い込ませて動けなくした時と似た状況に陥りますからね。

 

 

 甲冑鎧の腹部に深い裂け傷を負わせ、搗ち上げた勢いでそのまま地べたに転がした中身が無い鎧騎士と、それを見下ろす様にゆっくりと立ち上がった白馬さん。両者の有様と交戦状況を鑑みて私は胸の内に評価を書き足していく…。

 

 

 

 

 

 「はぁ…はぁ、…勝てた…。一人でも勝てた…っ!」

 

 

 

 

 随分とボロボロになった腕の裾で汗を拭う様にして彼女は呟く。

 

 【ネクロマンサー】達に闘技場で強制的に闘わされた時とワケが違う。自らの意志で飛び込んだ闘いの渦中で、初めて掴んだ勝利を噛み締める様にそう独り言ちた。

 

 

 

 気持ちとしては正直なところ解らなくもありません。魔物との初陣で勝利し高揚感を得た経験は…身に覚えがありますから。―――ですのでこの後、こっぴどく師に叱られた事もよく覚えています。

 

 

 

「――――Agneae(【アグネア】)

 

 

 

 指先に意識を集中させて私は短く言葉を紡ぐ。

 "Agneae"を―――【アグネア】の魔法を放つために、長い詠唱を必要としない聖雷の秘術が私の指先から放たれる。

 

 偽りの生命を吹き込まれた鎧騎士はまだ完全に没してはいない。

 炎熱を帯びた刀身によって腹部が焼き斬られ、人ならざる者の魂も消滅間近ではあった…!

 裂け傷から、穴の開いた風船の空気が抜けるが如く。割れた水瓶から水が零れるが如く。

 

 

 

 でも、まだ消えてはいない。 まだ消滅せず其処に居るのです…!

 

 

 

 

 稲妻の魔術は言葉通りの意味で光の速さで伸び、雷光は勝利に酔いしれていた白馬さんの傍らに倒れていた槍兵を喰らい、今度こそ"死んだフリではない完全な死"を遂げさせた。

 

 

「ひぁっ!?」

 

「…白馬さん、あれだけの裂け傷ならば斃せた、と誤認するのも無理からぬ話ですが

 決して最後まで気は抜かない事と相手が生身の人間では無い点も努々お忘れなき様に。」

 

 

 真横を通り抜けていった雷にビクリと驚き声を上げた彼女に私はそう告げた。

 

 最後の油断にさえ目を瞑れば文句なしと言っても過言ではありません。

 見極め、回避、攻撃の判断。逆袈裟の精密な角度、振りの速さと搗ち上げられる腕力…etc

 

 だからこそ、最後の最後で詰めの甘さが目立ちましたわね。

 

 

 

 霊魂が天に昇ると言った具合に青白い炎を噴き上げながら騎士甲冑は黒ずんで、やがて崩れ落ちて灰と化していく…。その姿を彼女も私と同じように見届けてから口を開いた。

 

 

「すいません勝てたって思ったら、その、舞い上がって油断しちゃって…。」

「誰しもが一度は通る道です、私も身に覚えがありますから。」

 

「…なんていうか、それは…意外ですね。」

 

 

 しょぼくれた表情から困惑と驚愕、私を見つめる感情豊かな少女の顔はそう物語っていました。

 

 …ええ、そうです。私とて完璧ではありません。魔物との初陣で勝利し高揚感を得た経験……身に覚えはあります。その後の展開もまさしく今この場の焼き直しとでも言わんばかりに、いやはやなんともお恥ずかしい…。

 

 

 

「意外でもなんでもありませんよ。

 最初から完璧な人間など存在しません。――先の言葉も師の受け売りですし。」

 

 

 彼女にそう諭しながら鞄から【マインドアップ】の瓶を取り出し紅い霊薬を飲み下す。

 …今しがた使った聖雷の秘術は使い勝手があまりよろしくない、威力の程はそこまで高いと言えず、燃費も重い。水晶玉(メインウェポン)退魔士道具(サブウェポン)も破損ないし失くした時に使う最後の手段に等しい魔術。

 補給物資のコンテナから霊薬の類を回収できた今だからこそ、ゆとりを持って放てるのです。

 

 

 

 ………ふぅ、相変わらず喉が焼ける様な味わい…。

 

 

 【DSS】の常時発動と【アグネア】の二段構えはやはり消耗が激しい、…ですが、ここは多少の無理と物資の浪費を押し切ってでもやる価値がありますわ。

 

 カイと白馬さんは、私とイェーガーとの会話内容を知らない。

 彼が取りに行ったことになっている"遺骸"に関しての仔細も当然知らない。

 

 

 本来、こうして心にゆとりを持って新人への教導訓練の真似事などはやれる筈ない。

 

 

 限られた時間で悪魔城の何処にあるかも判らない"遺骸"を人質の為に探すという焦燥に駆られる展開、敵側にとってこれ以上無いほど理想的な画を描かれた状況と表現してもいいでしょうね。

 【不可侵洞窟】まで使えそうな武具を見繕ってくると言い残して出て行った彼は、ひょっとしたらここまで計算に入れて出て行ったのかもしれませんね。

 

 

 彼の根底は、"白馬さんをなんとしてでも地上へ生還させること"でしたから。

 

 

 出会った時から今の今まで監視し続けて、彼の言動は一貫して白馬さんを護る事にあった。

 

 

 必要であれば自身を囮や贄に、道を切り拓くために目先の敵を討ち、護り抜き…。危険な綱渡りでも地上への生還に繋がるならばと戦闘術を仕込む。

 

 今、この瞬間も――そんな彼が創った大事な時間なのだから。戦いと無縁な世界で生きてた子に戦闘技術を学ばせ、落ち着いてゆっくりと評価の程や指南を言葉で聴かせられる貴重な刻。

 

 

 

 …であれば、私が次に彼女に言うべき言葉も決まっている。

 霊薬を飲み干した瓶を鞄に仕舞い乍ら横目で、最前線の状況を見遣る。

 

 物言わぬ躯に戻った食屍鬼の群れ、既に浄化され灰に還った鎧騎士。

 折れた剣を墓標に倒れ伏した殉職者達―――と、まだ残っている邪教徒の死兵と対峙するカイ。

 

 

 

「白馬さん、先程の改善点を意識した上でアレと戦えますか?」

 

 

 

 現代人の衣服を着た【ゾンビソルジャー】を指し示し彼女に問いかける。

 今の彼女と同じように大振りの大剣を引っ提げた……元人間を。

 

 

「ストレートに言います、アレも元は貴女の世界で生きていた人間です。

          それを十分承知の上でアレを斬り捨てる覚悟を持てますか?」

 

 

「…やっぱり、そうでしたか。そりゃ…そう、だよね。恰好がどう見てもそうだもんね。」

 

 

 

 

 

 

 

 遠回しな言い方はしない。してはいけない。

 

 

 自覚した上でやるか、やらないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さく、唾を飲み込む音が聞こえました。そして

 

 

 

 

 

 

「…やれます。持てます。」

「後悔、先に立たず。ですよ?」

 

「それでも、やってみせます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゔえ"ぁぁ"ぁ"ぁぁぁ""ぁ"!

 

やらせねェよッ!――――ウゲっ!?

 つい咄嗟で剣振り下ろされる前に肘ぃ蹴り上げちまったが、肉片が足に…うげぇ~。」

 

 

 

ヴァ"ぁ、ぁ"ぁぁ、…ぁぁ、ぐぅぁ"ぁ!」ヨロ…

 

 

「…んで、今ので片腕吹っ飛んだってェのにまだお前さん俺に向かってくるってェのかい?

 見たトコ最後に残ったアンタが一番の手練れっぽそうなんだがね。

 その強さなら生前だって引く手数多だったろーによ……入信理由は知らんが気概は認めるぜ。」

 

 

「カイ!」

 

 

「……なんだ、嬢ちゃんもうカタを着けちまったのか。参ったねこりゃ。」

 

 

 白馬さんを連れ前線へと馳せ参じた時、上級兵士の亡者に片腕は既に無く。

 勝敗の天秤も最早完全に傾き切ったと断言できましょう、…カイがこのまま闘うのであれば。

 

 

 

 残った隻腕で大剣を担ぐ様に持ち上げる亡者の姿がそこにあり、立姿は正に歴戦の上級兵士(ソルジャー)の名を冠するに相応しいとさえ思えてしまう程に堂に入っていました。

 

 

 

「姉上にも多分訊かれたんだろーが、俺からも確認させてもらうぜ

                ――――嬢ちゃん、元人間を斬れるんだな?」

 

 

 弟の質問に対して、先程と同じ返答を返す白馬さん。

 そんな彼女の瞳をジッと強く見つめ返すカイ。

 

 互いの視線が交差して、やがて、フッと小さく笑って弟は銃を仕舞い後ずさる様に目の前の戦士から離れていく…。

 

 

「悪ぃな、本音言えばお前さんはこの俺が直々に眠らせてやりたかったんだがな…ちょいとばかし選手交代だ。」

「カイさん…。」

 

「腹決めたんなら…無理すんな、とはもう言わねェよ。…ありゃあタフで手強い、気ぃ付けな。」

 

「はい…っ!」

 

 

 

 後悔、先に立たず。

 

 例え相手が元人間だったとしても、この城から生きて出る為に、悪意を持つ者達から身内を救うために、剣を振るう。

 そう覚悟を決めた少女の事を姉弟揃って認めた瞬間だったわ。

 

 

 

 

―――

――

 

- side イェーガー -

 

 

 

「俺達はあの部屋を拠点としている。部屋に入ったら直ぐに戸を閉めるぞ。」

「助かったよ…アンタのおかげで俺も相棒も、先代殿も死なずに済んだよ…。」

 

 

 救出した諜報員の男達と共に俺は拠点への帰路に着いた。

 魔物に襲われ、城の瘴気にも充てられた彼らの口に【ポーション】を含ませる事で死人同然であった血色も大分良くなった。

 

 もう一人の諜報員に至ってはどうにか自力で歩けるまでに回復し、相方の肩を貸してもらう事でどうにかここまで戻る事ができた…。

 

 

 

 

 

「……私の様な年寄りが迷惑を掛けて申し訳ない。」

「…いえ、お気になさらずに」

 

 

 

 

 

 ―――そして、俺が今背負っている人物。

 

 

 …60代の男性。老人と呼んでも差し支えない程にお年を召されているが故に、下層での濃い瘴気に蝕まれた影響が大きい。

 

 貧血に近しい症状、手足が思うように動かない等……長く城内に居た時の弥那と同じだ。

 拠点内ならば結界の影響で多少はマシになる、使える予備の薬だって室内に保管されている。

 

 

貴方を死なせるワケにはいかない…。

 

 

 理奈の身内だから悲しませない為に助ける、ってだけじゃあないんだ単純に。

 

 

 

 

 弥那のお父さん…。

 

 俺にとって、数少ない子供の頃から…面識があった大事な人なんだ。

 

 

 小さい頃から白馬神社へは遊びに行っていた。

 弥那とよく遊んで、お邪魔しに行った時は快く歓迎してくれたものさ。

 柔らかな笑みを浮かべて俺によくお菓子をくれた優しいおじさんだったのを思い出せた。

 

 

 

 …外の世界じゃ23年も過ぎちまったんだなって。老け込んだこの人を見て改めて分からされた。浦島太郎にでもなった気分だ…。とにかく衰弱しきったこの人を早く休ませねば。

 

 

 

 

        「……。失礼だが…君とは何処かで会ったかね?」

 

 

 

 

 心臓が跳ねるとはコレの事を表すのか、嗄れた声で囁かれた疑問に俺は内心動揺した。

 

 

「いえ、お会いするのは今日が初めてですが…?」

「……そうか、おかしな事を訊いてすまないね。」

 

 

 "イェーガー・マーシュマン"と会うのは今日が初めてなのだから、…嘘は言ってない、うむ。

 

 動揺を表には出さないように努めたつもりだったが、どうだろうか…?なんとなく内心を見透かされた様に感じるのは俺の思い違い、であって欲しい。

 扉の取っ手に触れて俺は保護した人々を室内へと招き入れる。

 

 

 

 

 

 部屋に着いてからは諜報員の男達と分担してカイ達が持ってきた比較的使えそうな家具の組み立て、包帯代わりになりそうな布や霊薬の類を使うなりしてちょっとした手当を行った。

 簡易宿泊施設にあるような粗末な組み立て式の寝台だが無いよりはマシなソレに敷布、枕と毛布を用意しておじさんを寝かせておく。

 

 無論、体力快復の為に追加の【ポーション】等も忘れない。

 

 

 本当はもっとちゃんとした寝具で身体を休ませてやりたい。…【パラノイア】襲撃の所為で取りに行った家具の殆どがボロボロにされてしまったのが本気で悔やまれる…。

 

 

 そうこうしている内にも時間は刻一刻と過ぎ、【機械塔】での合流時間も迫りつつある。

 俺は諜報員達に部屋から決して出ない事と、無理はしない程度に持ってきた他の家具を組み立ててほしいと頼み。あとは回収した補給物資、食料品の置き場についての簡単な説明をして拠点を後にしようとした。……その矢先であった。

 

 

 

「待ってくれ。少しだけ、君と話をする時間をくれないか…。」

 

 

 

 おじさん……弥那のお父さんが、部屋を出ようとした俺を呼び止めた。

 

 

 

「なんでしょうか、先代の宮司殿。」

 

 

 

 手を止めて此方を見ていた諜報員の二人に軽く目配せを送り、作業に戻ってもらい俺はおじさんの傍らに寄って膝をつく。身体を動かすのも辛いだろうに、なんとかして身を起こそうとしたのを止めようとしたがそれを声で制される。

 この人なりの誠意なのだろうな…寝たきり状態のままで話さないという。

 

 

「先を急ぐ所で呼び留めてすまない、だが君とは今話さなくてはいけない気がしてね…。」

「今、ですか。」

 

「まず初めに先程の状況説明でも教えてもらったが、ウチの姪を救ってくれてありがとう。」

 

「――礼を言われる程ではありません、むしろ彼女を危険区域に連れ出している手前でして――」

「だとしても、それはあの子が自らの意志で選んだ選択だろう?それで責めるのはお門違いだ。」

 

「…。お心遣い感謝いたします。」

 

 

 理奈の事でのお礼。その為だけに呼び留められたのだろうか?そんな疑問が浮かんだ所でおそらく彼が本当に言いたかったであろう言葉が発せられたんだ。

 

 

 

 

「…どうか、最後の最後まで自分の生を投げ捨てずに、助かる方法を諦めないでほしい…。」

「っ!それは、一体どういう意味で―――」

 

 

 

 ほんの少し声は上擦ったかもしれない。人造の人間であることはおろか、これから自身の心臓を摘出することすらこの人には語っていないというのに。

 自分の正体が何であるかバレたのか!?と焦ったがその懸念は単なる取り越し苦労だという事を続く言葉で知らされる…。

 

 

「昔語りになってしまうのだがね、私には一人娘が居たんだ。娘には幼馴染の子が居てね。

 その幼馴染の子のご両親とも言ってしまえば家族ぐるみの付き合いがある程だったんだ…。

       けど…ある日、何かの事件に巻き込まれて…娘もその子も帰らぬ人となった。」

 

 

「…。」

 

「幼馴染の男の子は、何処にでも居る明るいイイ子でね。ウチの娘とも仲が良かった。

  …その事件が起きた折に、彼はご両親に手紙を残して失踪してしまったんだ

 "必ず帰ってくるから心配しないでほしい"とね。」

 

 

 

 ……。そう、だったな。

 

 

「小さい頃から見てきた身として彼の人柄については知っている。

 …なんとなくだけれどね? 彼は誰かを助けようとして事件に巻き込まれたんじゃないかと

 程なくして、後を追うようにウチの娘も…弥那も居なくなってしまった…。」

 

 

 何も、言えない。

 

 

「何故かは知らないが、君を見ているとだね。

 どうしてもその幼馴染の少年を思い出すんだ…

 あれからもう20年近く経っているのだから年恰好も何もかも違う筈なのに。」

 

 

 

 

 

「……だからなのかね、部屋を出て行こうとする君の背中が

  まるで………なんだか"今から居なくなってしまう人"の様に思えてしまったんだ…。

 こんな事を言うのも可笑しな話かもしれないが、どうか…。

 最後の最後まで、誰かの為に自分を犠牲にしたり生きる事を諦めないと約束してくれないかい?」

 

 

 

「俺は、退魔士です。いつ敵と戦って死ぬか分かりません。だから絶対の約束はできません。」

 

「――そうか、…話は以上だよ、呼び留めてすまない。」

 

 

 項垂れる様に、伏目がちに弥那のお父さんはそう口にした事で話は終わった。

 俺は彼に背を向けて出入口へと歩き出す…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束はできません。

 でも、今の話を聞いて…ほんのちょっぴりだけ足搔いてみたくなりました。」

 

 

 それだけ、たったそれだけを伝えて俺は拠点の扉を開き外へと出た。戸を閉める際の振り向き様で少しだけ、扉枠と戸の隙間からおじさんが驚いた表情で顔を上げたのが見えた様な気がした…。

 

 心臓と引き換えに人質を解放させ、彼女に必要な武具を用意し、そこでこの城で生まれた俺という存在は御役目御免になるのだろうと考えていた。のだが……。

 助かるかどうかなんて判らないが、もう少しだけ、あとほんのちょっぴりだけでも生き永らえる努力はしてみようかと思えた。

 

 

 

 

―――

――

 

- side 三人称 -

 

 

 

 鉄と鉄のぶつかり合う音。宙で飛び散る火花。

 

 少女と歴戦の骸が剣戟を開始して幾程か、お互いに実力は拮抗し―――否、片方は利き腕を失い隻腕、対峙する少女は控えている男女から時折助言を授かる身。

 

 

 欠損があって尚も拮抗に持ち越せる骸が凄いのか、将又、歴戦の経験を持つ兵士を相手に天性の才覚と仲間からの助言だけで拮抗に持ち越せる彼女が凄いのか。

 

 

「斬り合いを始めてから、かれこれ三十分近くが経っているのですね…。」

 

 

 銀の【懐中時計】を眺めながら魔女が呟く。

 設けられた刻限までの確認の他、万が一にも骸の持つ大剣が少女の首を刎ね飛ばし兼ねない事態にでもなれば有無を言わさずに使う為でもある。

 

 薙ぐ。

 躱す。

 打下ろす。

 振り払う。

 鍔迫り合い。互いに距離を取る。

 

 

 一手、"読みを外せば"その度に肌を紅い線が走り、生命の彩が滴り落ちていく。

 

 新緑の大地に鮮血の塗料が降り注ぐ、自然色に対して不釣り合いな朱を織り交ぜながらも互いに反撃の応酬を繰り広げる。

 

 

「姉上、気づいてるか?」

「…ええ。」

 

「最初の方こそ俺等が"それはフェイントだ!"だの、"右から来る"だと声を掛けてきたが…。」

「言われるまでもなく対処できてるわね。」

 

「ああ、今もそこかしこに切り傷を創っちゃいるが、明らかにその頻度は減ってきている

 オマケに皮一枚程度で済みそうな傷ならあえて受けてそのまま反撃に転ずると来たもんだ。」

 

 

 肉を切らせて骨を断つ。

 才気溢れる新米剣士が魅せる業を言葉で表すならば、月並みだがそれがしっくり来る。

 

 

 紙一重の反撃が成立するのは、偏に理奈の才覚と師の教え、日々の研鑽もあるが何より。

 

 "生身の人間と屍兵の僅かな差"が勝負の決め手となりつつあったのだ…ッ!

 

 

 

「重量があり大振りの大剣という意味では双方、得物は共通していますね。」

「だな、ざっと見たトコお互いのパワーバランスはそこまで大きく違わねェ…。」

 

 

 

 【ゾンビソルジャー】はカイが称した通り、生前は"上級兵士"と呼べる程に卓越した戦士である事が窺える。ゾンビ化に伴って脳細胞も腐食し、本来人間にあるべきリミッターが外れ筋力の向上も見受けられる。

 

 白馬理奈はヴェルナンデス姉弟と出会う前から狩人に渡されていた怪力の【魔導器】(【ヘビーリング】)による補正も多少あれど、元々彼女自身が剣術道場に通う身。

 鍛練自体は積んでおり、その少女然とした見た目からは想像も付かない腕力と【魔導器】が齎す相乗効果によってお互い、純粋な力比べならほぼ互角なのだろうとカイは判断した…。

 

 

 

 

 さて、紙一重の回避行動からのカウンターに移行するならば必要な能力とはなんであるか?

 

 大きく言ってズバリ、瞬発力。

 

 

 

 そういった意味では生身の人間である理奈に軍配が上がる。

 

 大前提から語らせてもらうが、そもそも瞬発力とは何であるか?

 脳から筋肉へと電気信号が伝達されるまでのタイムラグ。脊髄反射、筋力、純粋な速さ(スピード)

 

 

 脳細胞が死滅してる骸の兵士は、ただ生前に染みついた習慣レベルの戦闘技術、闘争本能を以って目前の敵を討とうとしているだけに過ぎない。

 痛覚による怯みを感じず、重い一撃を繰り出す事が出来る。そんな驚異的なタフさと筋力を得た代償に素の速さと、瞬発力の二つを犠牲にしてしまったとも言える。

 

 それこそが"生身の人間と屍兵の僅かな差"に他ならない。力を得て速度を捨てたのだ。

 それでも悪魔城に存在する【ゾンビソルジャー】種の中では間違いなく通常個体から逸脱した速さを誇るバケモノに違いないのだが…。

 

 

「パワーはほぼ互角、決め手になんのはスピードだ。

 速さ比べに関しちゃあ嬢ちゃんが勝ってる、それで何よりヤベェのは…嬢ちゃんの成長性だ。」

 

 

 成長。

 

 斬り結ぶ中で、相手の動きに慣れ始めている…!

 姉弟が先程から口にしている通り、言われずとも対応でき始めている。

 負傷の頻度は減り、逆に相手の闘い方の癖、隙を見出しての反撃にまで至っているッ!

 

 

 この子の最大の武器は、見た目に反した力強さでも、速さでも、見極める観察眼でもない。

 

 

 真に恐るべきは、底知れぬ成長性なのだ…ッッ!

 

 

 

ヴヴ"ォオ"ヴャア"ァ"ぁぁ"ぁ"ぁぁぁ""ぁ"ッッッッ!

 

 

 言葉としての意味を為さない言葉…っ!

 心胆寒からしめんとするような雄叫び、地底から響くおどろおどろしい慟哭…ッ!

 

 プラチナ色の月華で着飾られた庭園すべてに響き渡るのではないかとさえ思えてしまう程の叫びを上げて骸は最期の攻勢へと打って出たッ!

 唯一残された隻腕に持てる力の全てを籠めた一撃…っ!長年使い続けた大剣(【バスターソード】)を天高く振り上げ、それを力任せに眼前の小娘相手に振り下ろすッッ!

 

 たったそれだけ、あまりにもシンプルなそれだけの一撃。

 

 

 振り上げた一瞬の、胴ががら空きになる守りも何も無い、捨て身の大振り。

 

 

 

 もしも…もしもの話である。仮に理奈が場数を踏んだ大ベテランであったなら、相手が振り上げて無防備を晒した瞬間、胴体を上下泣き別れに出来た事だろう。…だが現実はそうじゃない。

 

 

 腐蝕しようとも歴戦は歴戦であった。

 

 実戦経験が不足している小娘であることを考慮した上での博打、そこまで考える脳細胞が残っていたのか、それとも生前からの本能で出た行動なのかは判らない。

 唯一分かっていることは、先程の咆哮は僅か一瞬と言えど新米剣士を竦ませるには十分な声量だったこと。

 

 無防備を晒し一太刀を入れられたかもしれない好機を鬨の威圧で潰えさせたのだ。

 

 

 

 

        「ぅ、うおあああぁぁぁぁっっっ!!」

 

 

―――――――――ガキィンッッ!!

 

 

 

 真正面から渾身の振り下ろしが、断頭台のギロチン刃を思わせる迫力と共に降り掛かる。

 視界がスローになる。

 

 瞳に映る全てがゆっくりと動いている様に感じられる、自身の身体でさえも。

 

 白馬理奈は両腕で、"炎を纏う大剣"の柄と刀身の棟を掴み、掲げる様な構えを取っていた。

 咄嗟の行動、自己防衛本能から導き出された解答。

 

 

 

 

   上段鳥居の構え…っ!

 

 

 

 

 "炎を纏う大剣"の刀身はその燃え盛る見た目とは裏腹に使い手の身を焼き焦がす事は無い。

 フランチェスカから貸与され、仮の所有者となった少女もまた例外に非ず。

 

 横一文字になった炎刃、縦一文字に振るわれた凶刃…!!

 

 

 二つの刃は重なり、劔が十文字を創る構図となる。

 

 地に足を付け、奥歯を食いしばり上から掛けられる圧力にひたすら耐える少女。

 隻腕である事実を忘れそうになる程の、ヒトならざる者特有の剛力で潰さんとする骸。

 

 

 カイ青年の見立て通り、純粋な力比べだけならばお互い大きく差は開いていない。

 問題があるとすれば力の向き(ベクトル)にある。

 

 

 武器重量に加え、引力と重力を味方につけて下方に向かって圧壊せんとする力と、そんな上からの圧力に対して押し退けなければならないという状況では後者が不利なのは自明の理であろう。

 

 速さで敗れ、闘いが長引く程に順応されていく。だからこそ相手は最期の攻勢に打って出た。

 斬撃を往なされカウンターを喰らう、動きで翻弄されるというのならばその速さを殺し切れば良いのだ。

 

 

 

 鍔迫り合うだけなら後方に飛び退かれる。上から押し潰す様に圧を掛ければ跳ぶ事も儘ならず、退路は潰され、反撃に転ずる隙も与えない、消耗させてじりじりと追い込み最後は叩き斬る…!

 

 "剣理"として中々に理に適った合理性。

 

 

 

「白馬さん…っ。」

「…姉上、いざって時の為にいつでも時計使える準備しといてくれ…。」

 

 

 弟の言葉に、銀の【懐中時計】をギュッと強く握りしめる魔女。

 無意識に、硬く握り拳を創りジッと双方の闘いを目に焼き付ける青年…。

 

 

 退魔士姉弟が見守る中、遂に局面は終幕へと動き出す…!

 

 

 

 普通、力の押し合いになった場合は負けじとこちらも押し返そうと力を入れるのが道理だ。だが…少女は――――

 

 

 

 

 

 

「あっ、あぁぁっ!?」

 

 

 驚愕に染まったその声を漏らしたのは姉弟、果たしてどちらだったのか。

 

 

 

 

―――少女は、あえて力を抜き、流れに身を任せたッッッ!!

 

 

 圧し潰そうとしていた屍兵、それに抗していた少女剣士の力量差は…一気に傾くっ!

 力の平衡が崩れた事で理奈は相手に押し倒される様な形で後ろへと仰け反り倒れ、反対に屍兵は自身を支えていた白馬理奈という名の支柱を失ってそのまま前のめりに倒れ込む…ッ!

 

 それだけならば、【ゾンビソルジャー】の狙い通り。この後は抑え込まれて身動きも碌に取れないマウントポジションから斬り殺されて終わりだ。

 そうならぬ為に普通は押し返そうと必死になる。普通は。

 

 

 お互いの脚が完全に地を離れ、宙に身体が浮いた瞬間。

 

 

 理奈の靴底は、異形の兵士の腹部にピタリと付き…蹴り上げる姿勢になり…!

 

 

 

「…っ、と、巴投げ!! …嬢ちゃんのありゃあ巴投げだァ!?」

 

 

 

 格闘術(マーシャルアーツ)の心得がある青年が叫ぶ。かなり変則的な形ではあるが、倒れ込んだ相手を蹴り上げて跳ね飛ばすその動作はまさしく柔術のソレと同じ原理であったッ!

 

 想定外の投げ技を受けた骸は宙をぐるり、と一回転。

 朱色を織り交ぜた芝の絨毯へと仰向けの姿勢で落下する…っ!

 

 背を激しく打つ音…っ!舞う土煙と枯葉……ッ!思わぬ衝撃に手を離れる愛用の大剣(【バスターソード】)…ッッ!!

 

 

 予期せぬ返し技を受け、すっぽ抜けた武器を探そうと腐食した目を動かす、身体を起こそうと身を捩り、足を、手を動かす…ッ!

 

 

 

 

 生前からずっと共に戦場を駆け抜け続けた【バスターソード】を探す瞳が最期に捉えたものは、起き上がろうとする自身を火葬せんと炎刃を振り下ろす少女剣士の姿。

 

 それが最期に映る景色であった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わっ、た…?」

 

 

 肩で息をしながら少女はそう口にした、見下ろす先には、もう動くことはない兵士の"骸"がある。

 

 フランチェスカの忠告通り未だ警戒は解かない、…仲間達が駆け寄ってくる足音が聞こえる。

 

 

 

「嬢ちゃん!!スゲェじゃねーか!あそこで巴投げたぁ驚いたぞ!!」

「ええ、お見事でしたよ…。」

 

 

 二人の反応を見るにもう警戒の必要はないという事なのだろう、ここで漸く彼女は緊張から解放されて、どっと座り込む様に腰を落とした。

 

 

「つ、疲れたぁ~~~!」

 

 

 自分で言っててなんと気の抜ける第一声だろう、と理奈は思った。でも仕方がないじゃないか…本当にそれしか喉から出てこなかったのだから。命を凌ぎ合う駆け引き、稽古用の【しない】じゃない真剣での斬り合い、肌を斬る痛み、相手を斬る感触。

 

 

 …何より生き延びる事が出来たという実感…。

 

 

 

 言いたい事は山の様にある。でも感情と脳が色々追い付かない。出て来た言葉がそんな陳腐な代物なのも許してほしいというのが本音だ。

 

 

「にしてもよォ…マジでよくあの状況から巴投げなんて思いついたな。」

「あ~…ウチの剣術道場の師範が偶に稽古でやらせてくるものでして…ハイ。」

 

「えっ」

 

 

 カイは目を点にした。

 姉ほどではないが自分も対魔物戦を想定して剣術書を齧り程度には読んだつもりだ。

 ジャパニーズ・ケンドーとやらは剣を持ったまま柔道もやるのだろうか…?自分の勉強不足か?青年は首を傾げたが…今はこの後輩の勝利を祝い、傷を癒すことに専念しようと【ポーション】瓶を手渡した。

 

 

 ふと、カイの視界に【ゾンビソルジャー】が使っていた【バスターソード】が映る。

 理奈の為に【DSS】を使い続ける姉の負担、使える物資はあるに越したことがない等。

 

 それらを考慮するならばこの剣を戦利品として持っていくのも吝かではないが…。

 

 

 

「嬢ちゃん、剣が手に入りそうで悪ぃが…コイツは此処に置いて行ってもいいか?」

 

 

 

 徐に、大剣の柄を握り、それを持ち上げて勢いよく大地に突き刺す。

 

 

 邪教なんぞに入信した理由は知らぬ、のっぴきならない事情があったのかもしれない。

 ただ一つ…僅か一時でも戦ったカイ自身その強さを、その気概を認めた相手(強敵)だった。

 

 

 彼なりの敬意のつもりなのだろう…。墓標代わりに突き立てた大剣の影が月に照らされる。

 

 

「うん…。いいよ。それはその人の物だから…。」

 

「おう、あんがとな。―――それとよ、嬢ちゃん。今後こういう奴らと戦う時はこう思いな。

 "自分はコイツ等を倒すことでその魂を救ってやったんだ"ってな。」

 

「魂を救う?」

 

 

「ああ、そうさ。

 この城でくたばった奴はバケモンになって永遠と城内を彷徨い続けんのさ。

 天に昇れず永遠にな。…だから嬢ちゃんが斬り倒したソイツもこれで成仏できる、そう思え。」

 

「…そう、だね。」

 

 

 

(……魂を救う、ですか。…そうですわね。)

 

 

 消え入りそうな言葉でそう返事を返し、少女は目を閉じ黙祷を捧げる。

 そんな少女を見てフランチェスカは掌に魔力を収束させてソレを舞わせる…。

 

 

「――――vibhuti(【ビブーティ】)

 

 

 魔女の魔力で産み出された聖なる灰が風に揺れて広がっていく。清めの灰が横たわる【グール】や【ゾンビソルジャー】と化していた信徒等に降りかかる…。

 聖灰を降らせるフランチェスカの弔い、目を閉じて黙祷を捧げる白馬理奈。青年も手で十字を切り小さく呟く。

 

 

「"Requiescat in pace(安らかに眠れ)"」

「……。」

 

 

 フランチェスカからすれば正直な所、ウィズライト教団の信徒達に言ってやりたい文句は一つや二つ所の話ではない。だが………それでも…。

 

 

「どうか…さまよえる魂達に救いあらんことを。」

 

 

 

 弟に続く様に囁いた、魔女の着飾らぬ本心の言葉は聖灰が降り注ぐ空に溶けて消えていった…。

 






【今話の解説コーナー:一部の原作と異なる点や使用魔法について…etc】




【ゾンビソルジャー】…登場作品:暁月の円舞曲より…説明文に36年前に乗り込んできた上級兵士と明記されたエネミー。…当作品での設定としましてウィズライト教団所属の上級兵士としております。

 今話で使っていた【バスターソード】をあたかもアイテムドロップ(戦利品で落とす)してる描写ですが…ぶっちゃけた事言いますね。

コイツ原作で【バスターソード】落とさない所か本当に使ってるかすら怪しい。


 コイツが確率で落とすアイテムって【コンバットナイフ】と【アーミージャケット】だけなんですよね…。ただキャラグラフィック的にどう見ても片手に持ってる剣がナイフとかいうレベルじゃない。
指先から二の腕まであるデケェ剣で一番それっぽそうなのが【バスターソード】なので勝手にそう独自解釈して書いてます。




【DSS】(組み合わせ【MARS】+【SALAMANDER】)…悪魔城Circle of the Moonにおいて【MARS】のカードをベースにすると次に選んだ属性カードに応じて武器が変化する。火属性の【SALAMANDER】を用いる事で『ネイサン』が炎の片手剣を使用できるようになる。

 今回、理奈がフランチェスカから借りたのがコレ。

 水晶玉を炎を纏う剣にして渡した、フランチェスカが許可していない者が触れば手が焼かれる。
 MP回復用の薬があるなど燃費問題に余裕がある今だからこそ理奈のレベリング期間中に使える手段の一つ。




【アグネア】…月下の夜想曲で『アルカード』が使うサブウェポンの一つ。
 後の作品で言うなら『蒼真』の【ライクーダ】のソウルや『シャノア』が使う【トニトルス】に近い。稲妻が走りガス欠になるまで連射ができる……とはいえ、如何せん【アグネア】は燃費が酷い。ゲームが進めば進むほど忘れ去られるサブウェポン。

【ビブーティ】…同じく月下から登場、聖なる灰を降らせ、それに触れたものにダメージを与える地雷設置的なサブウェポン、正直なところ【聖水】の下位互換である。



(2026/6/29 21時00分 書き忘れの追記)
※書き忘れてた【ヘビーリング】の説明追加

【ヘビーリング】…Circle of the Moonに登場する【魔導器】の一種。

 しれっと、この物語の5話*1の割と最初の方でイェーガーが【飛翔石】共々に渡しておいた。

 効果としては原作通りならば『特定の箱を押して動かせます。』との事。
 当作品では重い物を持ち運ぶのが"少しだけ"楽になる、程度の効能。

…つまり理奈ちゃん普通に筋力がゴリラというこt

*1
1章:存在意義を探す狩人② -乾坤の一擲-

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