悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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※スマホゲーの【悪魔城ドラキュラ Grimoire of Souls】の核心に迫るネタバレが今話にあります。読んでも問題ないという方はどうぞ…。


3章:名を背負う青年④ - Ghost of Shop<店の幽霊> -

- side 三人称 -

 

 

 死人に口なし。

 

 死者は笑わず、亡者は何も語らない。…それは古来より人が謳ってきた不文律。

 

 

 

 然し、世の理を否定せんと亡者の高らかな笑いが大理石の廊下に響き渡る。

 桔梗色の頭巾を被った幽鬼は自己陶酔に浸っていた。主無き魔城に新たな君主を据えようと策を弄する己に酔いしれていたのだ…。

 

 人理を外れた存在と成り果てた事で思想、感受性の悪辣さに磨きが掛った【ネクロマンサー】はそう遠からぬ内に始まるであろう退魔士達とダリオの一悶着を特等席で観劇すべく出立の最中にあった。

 

 格式高い廊下の上をみすぼらしい襤褸布を羽織った様な亡霊が悠々と浮かびながら前へと進み……。はたりと悪霊は窓辺で足を止めた。

 目線は眺望用の窓から見える景色に流れ、映る物はこれから自身が向かおうとしていた城内施設の一角。高く聳え立つそのシルエットを見据えていた。【妖魔迎賓館】からもよく視える時を刻むその塔を…。

 

 

 

ふ、ふふふ。うふふふっ!っくくく…!!あーっはっはっはっはっは!!

 

 

 

 塔影を眺め、腹の底から心底可笑しそう笑う。

 

 迎賓館に蠢く数多の悪魔や怪人、水色髪の可憐な妖魔給仕達でさえこの死霊使いが常に何を考えているのか、その心中を察しきれぬ部分がある。

 

 

 

 

 …さて、読者諸氏には襤褸布の悪霊が【機械塔】の輪郭を眺めながら何を感じているのか特別にお教えするとしよう。

 

 簡素に説明するなら"己よりも格上の相手を出し抜いた時に得られる優越感”である。

 

 

 ずっと高らかに笑っていた。こうも何もかも事が上手く行くものかと。

 

 塔の姿を視界に収め、"本来ならば居るべき筈の厄介な相手"を思い浮かべ、痛快だと言わんばかりに笑っているのだ。【ネクロマンサー】の主目的は城主である【魔王ドラキュラ】が不在の現状を良しとせず、一日でも早く新たな魔王を創り出す事。

 この一文だけを切り取ってみるならば闇の住人達にとっては諸手を挙げて歓迎すべき事柄に思えるだろうが、物事はそう単純ではない。

 

 "新たな魔王"という点が問題なのだ。

 

 

 

 

 

 ……乱雑な物言いをするなら、【ネクロマンサー】は別に【魔王ドラキュラ】そのものに忠誠は誓っていない。魔王の座に直ぐ就いてくれるならばそれこそダリオ如きの小物ですら厭わない。

 

 

 【ドラキュラ伯爵】を魔王として崇めていた多くの闇の住人達からすればある種、謀反とも受け取れる過激思想に他ならない。王たる真祖の吸血鬼をそのまま蹴落とし何処の馬の骨ともしれん輩を玉座に据えると宣うような物なのだから。

 こんな事を公けにすれば当然、悪魔城で魔王に次ぐ存在――――"【機械塔】の主"が…。

 

 魔王の右腕…死神(【デス】)が黙っている筈もない。斯様な危険分子を放っておかない。誰もが思う事。

 

 

 

 

 

 

  だからこそ…ッ!死霊使いは【機械塔】を見て笑いが込み上げる…!

 

 

 

 

 

 

 己の野心は、かの死神から見れば顰蹙を買うことこの上なし。

 どうあがいても反発されるのは目に見えて居た。ところが…【ネクロマンサー】にとって嬉しい誤算があった。

 

 方向性は違えど魔王を一日でも早く復活させたいという意味では【デス】もまた同類、長年仕えてきた真祖の吸血鬼を一秒でも早く現世に降臨させたいと願う死神はとある奇策を打ち出した。

 

 

 

 それは、【死神自身が人の身として地上に潜伏し、日食の封印を解かずともドラキュラを復活させる為に『エルゴス』という組織を設立する】という大胆な策であった…。

 

 

 "『エルゴス』"…表向きは、悪魔城ならび【ドラキュラ】に関する歴史資料、魔導書の蒐集と保全を目的とした団体組織。

 然し、その実態は人間に扮した【デス】が"所長"を務め長い時間を掛けて、人類に集めさせた魔導書や歴史書を【コアソウル】と呼ばれる魔物の核を用いた暴走を引き起こし、最終的には鏡面呪法を利用してそこから親愛なる主人を復活させようと目論んでいるのだ…!

 

 

 

 

 

 つまり、日食の悪魔城には今現在……【デス】本体は居ない…っ!

 

 死霊使いからして目下最大の障害と思われていた魔王の右腕が…っ!不在の状況なのだ…!

 

 死神ともあろうものが留守の隙を獅子身中の虫に荒らされる、これを笑わずに何とするかッ!

 

 

 

 よもや仕えた主を蘇らせる為の行動が裏目に出ているとは思うまい、まさか暫し悪魔城を離れて地上に降り立っている間に新参者の亡霊風情が城内の大半を掌握しているとは予測も付くまい。

 

 城内の魔物共は実に扱い易い…【ブローネル】と名乗る吸血鬼が勝手に悪魔城の主として君臨した事件の時もそうだ、外部から来た者であれ力を示した者には服従の意を示す。【ドラキュラ】に対して真に忠誠心を抱く一部の怪物達からは激しく抵抗もされたが。

―――腐っても【シャフト】一族の末裔たる暗黒神官だった女、唯一恐れていた死神ほどの強者が居ないのであれば然して問題にもならなかった。

 

 

「世に"天運"などという物があらば、紛れもなくソレはこの私に流れてきている…ッ!

  やはり世界は望んでいるに違いない…!新たな魔王を、この私の手で創られし存在を…!!

      ふふっ…!ククク…くははっ…あはははははは!!あっはっはっはッッ!」

 

 

 

 

 

 ……人理を外れ、思想も主義も常識も感性も価値観も。

 

 全てが本当に捻じ曲がった亡者の狂気的な笑い声だけが大理石の廊下に木霊した。

 

 

 

 

―――

――

 

- side カイ -

 

 

 

 なんつーかよォ~……。"そういう存在"が過去何度か城ン中に居たってのは教会のお勉強や歴史資料だの…何より母上や先生方の話で知っちゃあいたが…。

 

 こう実際に目にするとシュール過ぎやしねぇかね?

 

 

 

お安くしますよ…。

「やれやれだ、地獄の沙汰も金次第ってか?」

 

 

 

 眼前の"胡散臭ぇオッサン"を見て思った事をそのまんま口にした。

 ヴァーミリオンカラーとマリーゴールドのド派手な色合いベレー帽、同じ色合いでこれまた同じような縦縞模様のポンチョを羽織って首からはジャラジャラと金貨や金板を繋ぎ留めた様な金細工の首飾りと来たもんだ。今日日、成金趣味でもぶら下げねぇだろう装飾品だ。

 ……まっ、それも当然なんだがな。

 

 

 

 何つったってこのオッサンは、見ての通り現代人じゃあねぇんだからよ。

 

 

 

「噓みたいだけど本当にお店なんだ…。」

「大昔の悪魔城を探訪した者の覚書や晩年の手記で彼らの様な存在が居たとは伝えられていましたが…この様な感じなのですね…。」

 

 

 時代錯誤な風貌の店主に合わせた露店をまじまじと眺める嬢ちゃん、同じように初めて実物の"悪魔城で商いを行う魔物"を前にして目を凝らす姉上。

 

 

 

 なぁ~んで、こんな妙ちくりんな場面に俺達が居るかって言やぁ…事の発端は――――

 

 

 

 

―――

――

 

 

 鼻を刺激する強いコルク臭、そこかしこで酒樽が破損して液漏れの起きる地下ワインカーヴ。

 社交ダンスと洒落込むお貴族様な霊達が踊っていたホールを抜けた先で探索の為に潜った場所が此処だった、道中で【がしゃどくろ】や【ウッドゴーレム】共に絡まれながらも調査を続けてな。

 …んで、今もこうして会敵した奴らと交戦中ってなワケなんだが…。

 

 

 

 

          「当たるもんかぁっ!―――次は、そこぉっ!」

             「ぐごぉゔぁ"!?」

 

 

 

 声を張り上げながらあの子は、快楽殺人に魅入られた屠殺人の投げる【バーゼラルド】の真下を滑り抜けていく。ヒューッ!惚れ惚れする動きってヤツだ。

 女子プロ野球からのオファーも間違いなしの見事な【スライディング】だったぜ!!!

 

 

 ……。と、まぁ茶化せるくらいには嬢ちゃんも普通に戦力としてカウントできるようになった。なっちまった。

 

 

 

 そのまま相手の眼下―――それこそ相手の爪先に触れるかどうかの位置まで躰をスライドさせ、立ち上がる所作と同時に行われる胴斬り。

 

 花園で、あの一番手練れだった教団兵のゾンビを一騎打ちでぶっ倒したのを機に一皮剥けたって言えばいいのか、こうして【舞踏館】に乗り込んでからずっと闘いっぱなしだが、その間も進化し続けている。

 「戦場じゃ停まるな、遮蔽物も無い空間での"ぼっ立ち"は良いマトにされるぞ」とは教えたが中々どうして思い切りの良い【スライディング】をしやがる…!

 

 

 燃え盛る太刀を手に対峙した相手は緑色の皮膚を持つ醜悪な巨漢、【エビルブッチャー】だ。投擲用の短刀を収納した革製のナイフホルダーのベルト、14世紀迄の甲冑騎士が付けるような鉄製兜(時代掛ったバケツマスク)のみを着用した半裸の変態野郎で、悪魔に魂を売っちまう前から好きだったダーツ遊びを人間相手にやらかすのが趣味っつークレイジーサイコパスとやらだ。

 

 

 趣味が高じて何々になる。

 なんてこたぁ人間誰しも珍しくない。

 

 悪魔城の軍門に下る事を許される位には殺人の快楽に魅入られたダーツの達人も、投擲の腕前に関しちゃあ退魔士連中が使う【投げナイフ】にだって引けを取らねェ…。趣味がプロの投擲に至った結果だな!

 

 

 

 そう、退魔士が使うソレと寸分違わず、"綺麗な直線で飛んでいく"んだ…俺やイェーガーが何度も嬢ちゃんの前で披露した様な軌道でな。

 

 ぼっ立ちはするなとは言った。が、あそこまで思い切って真下を潜り抜けようと嬢ちゃんが思い切れたのはそーいうトコが関わってそうだな…。

 

 

 片手間に【キラードール】共を射殺しながら俺は、焼き斬られて斃れる屠殺人を眺める。

 

 

「ふぅ~…! フランチェスカさん。ずっと剣をお借りしてますが、大丈夫ですか?」

「ええ、まだ余力も霊薬も残っていますので問題ありませんね。」

 

 戦闘を終えて、周囲の警戒をしながら俺達は荷物の確認を済ませる。

 …そろそろ【機械塔】に行かねェとイェーガーとの合流に遅れちまう。

 

 ―――何の成果も得られなかったってのが悔しいハナシだがな。開き直るなら【舞踏館】エリアには"遺骸"の手掛かりは何も無かったと言えるかぁ…。

 

 

 嬢ちゃんの剣と弓の腕は上達した。代償に【マインドアップ】や【ポーション】を大分消耗した、必要経費ではあった…んだがなぁ。

 悪名高い時計塔を登ろうって時に霊薬は赤い方が二瓶で青いのが一瓶だけってのは心許ない。

 

 今から拠点へ補充しに戻るのもタイムリミット的にキツイわなぁ。

 

 

 

 ……嬢ちゃんには悪ぃが、こっからは剣――というか水晶玉――を姉上に返して貰って、極力戦闘を避けながら進むべきか?そう考えて俺が口を開こうとした時だった。

 

 

おぉ…!おぉ…!久方振りのお客様の気配だぁ…

 

 

 その場にいた全員が武器を構えた。妙に耳に障る様な掠れ声の方に向けて。

 

 

「誰だッ!何処に居やがるッッ!?」

 

ひっ!ひぃぃ…っ!お、お待ちを!あたしゃ敵じゃありませんよっ!

 

 

 姿は、視えない。

 だのに、声は不思議と聴こえる。

 

 さもビビり散らしたと言いたげな声が帰ってきて呆気に取られた顔をした嬢ちゃん、俺と同様に訝しむ様な表情をする姉上…。

 

 

「…"敵じゃありませんよ"だァ~? なら面ぁ拝ませてくれや、なぁ? 顔も見せねぇヤツに信用なんざあると思ってんのか?」

 

 

 一段と声を低くしてドスを利かせる様に俺は告げる。相手の出方を探る為だ。

 これが俺達をハメようって演技なら、何かと言い訳付けて渋るか、だんまりを決め込むか――そうなら此方としても茶番に付き合う理由は無い。不意打ちを警戒しながら部屋を出れば良いだけ。

 

 本当に"敵じゃない"存在であるならそれはそれで相手の正体を知っておく必要性はある。あるいは応じる様に姿を見せた上での騙し討ちを謀ってくる可能性もあるが、…にしてもだ何処に居るか判断が付かない状況よりはマシだ。…さぁ出方はどうだ?蛇が出るか鬼が出るか?

 

 

 

 程なくして"ソレ"は現れた。

 

 

 モコモコ…! ボコンッ!

 

 

「地面が急に盛り上がったぁ!?」

「嬢ちゃん下がってろ!」

 

 

 部屋の中央にあたる石畳の床がぼこぼこと音を立てて隆起していく…!そいつぁ喩えるなら平原に餌を求めてやってきた土竜(モグラ)が顔を出す直前って感じの光景で、土竜塚の様に膨れ上がった石床から遂には顔を出しやがった…。

 レトロな映画館のポップコーン製造機ン中で弾けるポップコーンみてーに瓦礫と化した床石と塵埃を噴き上げてよォ。

 

 

 

 

 

 

 

                 「ピャー!」

 

 

 

「は?」

「…蛇の様ですね。」

「え、ウソ…アレってもしかして【ツチノコ】!?」

 

 

 …蛇が出るか鬼が出るか。答えは蛇だった。

 

 思わず拍子抜けする様なマヌケな図体をした蛇に困惑する俺と姉上を尻目に、嬢ちゃんだけは驚愕の表情を見せる。

 嬢ちゃんが叫んだ名称を聴いて俺達も遅れてアレがなんであるかを察する…。滅多にお目に掛かれないレアモンスターだから気づくのに遅れた。…【ツチノコ】、確か日本に生息した未確認生命体扱いなんだっけかアレ…。だから嬢ちゃんすぐに気づいたのか。―――嘘か真か十数年前に空前のUMAムーブで日本でも【UMAニュース1-1】から【UMAニュース4】までの古い新聞がマニアの間で転売されたとかなんとか…。……いやそんなこたぁどうでもいいんだよッ!だって

 

 

 

よっと!…いやはや心臓に悪いですなぁ…あたしゃ、ただ旦那達と商売をしたいだけですよ

 

 

 

 ふっくらと人間大のデカさの蛇が掘った穴から這い出る様にソイツが出て来たんだからよォ…。

 

 

毎度、あたしゃ見ての通りカネに目が無い商人でさ。

 この城に来た探訪者相手に商いをしてやしてね、穴から店まで直通ですぜ寄ってくだせぇ…。

 

 

 

 

―――

――

 

 

「そして現在に至る、か…ハァ~ なーんでこんなワケ判らん所にホイホイ来ちまったのやら。」

「小考の結果、まだ未踏の部屋があるならそこに遺骸ないし民間人が居るかもしれないと結論に至ったからでしょうに。」

 

「姉上…。いやまぁそうなんだけどね。確かに残り時間的に最後に探索はできるかもって判断したのも俺なんだけどね!確かに!!」

 

 

 来た道を引き返して花園経由で拠点部屋まで戻って【機械塔】への進路を取る、だったならばそれは流石に厳しい物がある。けど塔と距離が近い【舞踏館】の同エリア内の探索だってんなら話は別だ。もうちょい探索を粘っても遅刻はしねぇ。

 

 

 

 ……だから胡散臭ぇオッサンの言葉がガチなら、ワンチャンで拠点の経由無しで霊薬の補充に防具も買い揃えられるかもしれねェって欲が出たのも事実っちゃあ事実だ。

 

 事ここに至っては判断は間違ってなかった訳だがよ…。

 

 

 

「おじさんは人間―――じゃ、無いよね、よく見ると足元がなんか透けてるし。」

えぇ、えぇ…!そらもう永い事この城に居ましてねぇ。

      偉い人に許可を貰って商いさせて貰ってまさぁ!」

 

「…ほーん。"偉い人"ねェ…。」

 

 

 随分と気になる発言が出て来たトコで、その偉い人とやらは誰なんだと訊ねてみた。するとどうだ「そいつは企業秘密ですぜ旦那。」なんて茶を濁されちまった。

 なら「最後にアンタが商売したヤツはどんなヤツだった?」と少しでも情報を聞き出そうと質問してみりゃあ…。

 

 

随分と遠い記憶ですがね、胸元まで伸びた銀髪に紅い外套を羽織った男でしてね

 へへっ!ありゃあ良いお得意様で…城で見つけた宝石なんかも買い取らせてくれやしてね。」

 

 

 俺と、たぶん話を聞いてた姉上もだろうけど。脳裏に一人の人物像が思い浮かぶ。

 

 教会の手元にある資料に書いてあんだが、『ジュスト・ベルモンド』って大昔の英雄が城内を探訪した際に"深い霧に包まれて気づいたら城内に居た"って証言する商人と遭遇したらしいんだわ。

 ウチのクソ親父みてーに悪魔城に偶然迷い込んだ商魂逞しい人間ってのが歴史家の間で長く提唱されてたんだが、城が崩壊した後に商人が脱出した話とか、その後に出会う事も無かった事から実は元から城内に居た所謂、強欲の悪魔みてぇなモンだった説。悪魔城の崩壊に巻き込まれて今も城内を彷徨う霊になった説とか諸説あるってな…。

 

 

 英雄『ジュスト』が1748年に冒険した城ってのが【"表"の城】と【"裏"の城】とかいう、パラレルワールド染みた複雑怪奇な特性を持った城だったらしい。……だってのに、表の方どころか裏側でも神出鬼没に出てきたり、さっきまで居なかった筈の部屋を振り返った途端に現れたり。

―――英雄殿曰く所持品の増減や戦闘経験を積んだかどうかで出現した、なんて後世に言い残したとかなんとか。そこら辺が人外説に拍車掛けてんだよなぁ…。

 

 

 

 今、俺の前に立ってるこの胡散臭ぇ幽霊のオッサンがそうなんじゃねーかと俺は睨んだ。

 

 

 

 顔写真なんぞは史書に乗ってたワケじゃねェけどよ。さっきのお得意様とやらの発言と照らし合わせた上で改めてオッサンを見ると、外見上の特徴だとか、色々と一致もしていると。

 

 店主のプロファイリング擬きは一先ず置いて、次に店全体を見渡してみた。

 

 山積みの木箱、蓋布を被せた中東に見られる特徴の壺、今時のテントセットで主流な鉄パイプ製の角柱とは異なる古めかしい木組みの天幕用支柱……しかも拾った丸太を荒削りしましたーってな具合のソレ。所々に穴の開いた申し訳程度のチェリーピンクカラーの天幕と天吊り幕。

 敷き布の上に陳列される商品はパッと見、粗末なブツしか取り扱ってねぇように見える品揃え。

 

 廃れた露店らしさある雰囲気も相まってそれを後押しすると来たもんだ。

 …が、よく観りゃあゴミ山の中にちらほら光るモンがありやがる。実用性がありそうに見える不良品、コスパに対して釣り合いが全然取れてねぇモンだったり。…なるほど阿漕な商売だぜ。

 

 

「店主さん、このお嬢さんに見合った衣服を見させて頂きたいのですけれども、よろしくて?」

 

 

 玉石混交の品揃えと睨めっこしていた俺は「うん?」と顔を上げる、見れば姉上が女性用の鎧や防護魔力を編み込んだ衣服を見せてくれと頼んでいた。

 

 …嬢ちゃん用か、武器の方はイェーガーが見繕って来るから良いとして、確かに嬢ちゃんは防御面が――…………あー、いや、……その、なんつーか、防御云々だとかそれ以前のハナシだ。

…ちとデリカシーに欠けてたわ、…なんていうか…まぁ…うん。流石にお年頃のレディがいつまでもそういう恰好なのって、やっぱ良くねぇわな、うん。

 

 三つ首犬の火炎だの、敵刃の筵やら、大理石の上を滑り込んで擦ったりとかさ…嬢ちゃんのお気に入りの【ふだんぎ】ってのは随分とズタボロで最早【ボロボロのふく】と言えちまう。

 このまま突き進んだらマズい。今はまだセーフでもマズい、非常にマズい。

 

 

 

 …えっ?何がマズいって?……そりゃあ、おめぇ…アレだよ、言わせんなバカ恥ずかしいッ!

 

 

 

 

―――

――

 

- side 三人称 -

 

 

 

 白馬理奈はフランチェスカと共に衣服類を眺めていた。

 未だ非日常の渦中から抜け出せてはいないし、人質に取られた母と弟の事だって忘れてはいない。…それでも、値札の付いた洋服を眺めるという行為は僅かながらにも穏やかだった頃の日常に戻れた様な気さえした。

 

 人生何があるか分からないとは誰の格言か。

 

 よもやカイと調度品探しに向かった時に拾い集めた金貨、(ドル)換算で延べ3000に及ぶソレが此処に来て活きるとは誰に予想できようか。

 

 

 

 …古今東西より様々な怪物が集う地、ゆえにこの城も又、欲望に忠実な人ならざる者が居た。

 

 

 それこそ、青年達の協奏曲を見届けた目前に居る"幽霊行商人"であったり。

 それこそ、月下を駆け抜けた貴公子に手を貸した"図書館の主"であったり。

 それこそ、黙示録には決して記される事すらない"死のセールスマン"など。

 

 

――――こほん、閑話休題。

 

 

 少女と魔女は衣服を眺めていた。…眺めてはいた。

 

 

「た、たっかいなぁ~…っ。」

「…店主さん、少々暴利ではありませんこと?」

 

 

おぉ!!暴利とは酷い事を言いなさる!あたしゃこれでも親切価格でやってますぜ!

  命の保証もできないこの城で、カネさえ積めば助かるかもしれないってんでさぁ

   だのに、お嬢様方はそれをあろう事か暴利と言いなさる!あたしゃ悲しいですよ。」

 

 

 およよ!と芝居掛かった泣き真似をする胡散臭い行商人を二人揃ってジト目で睨む…。勿論相手は何処吹く風ぞと受け流すのだが。

 

 今一度言うが、彼女等の予算は3000。対して持ってこられた商品は最低価格のモノで常盤木色の鮮やかなブラウス、その名も【おどり子のカバリエ】…5300である…。余裕の予算オーバー。

 

 行商人が持ち出して来た他の衣服も、これは何かの間違いで低価格で買える物があるのでは!?と淡い期待を抱き、手に取っては値札を確認しては戻すと言った作業を続けていた。

 

 

 修道女が身に纏うような【シスターローブ】、魔力の籠められた宝石が縫い付けられた様々なコルセット、どう見ても宿泊施設か何かに置いてある変哲もない【バスローブ】としか思えぬ物…果ては【ウェディングドレス】まで出てくる始末だ。ここは歌劇団か何かの衣裳部屋か?

 コスプレ衣装店の類と勘違いする馬鹿げたラインナップだが…。魔女の瞳から見てもコレ等の衣服の繊維一つ一つに防護魔力が張り巡らされているのが分かる…。それこそ【バスローブ】ですら下手な防弾チョッキより硬いという地球の物理学者達が挙って泡吹いてひっくり返ってしまう様な代物である。

 

 

 ……その中でも特に一際、フランチェスカと理奈の目を惹く逸品があった。

 

 魔女はその礼装に秘められた純粋な神秘性に目を張った。

 少女はその衣装を目にして驚いた、実家の手伝いで時折、袖を通した"ソレ"だったから。

 

 

 おそらく古くよりこの城にあるだろうに汚れ一つ無い白衣、燃え上がる様な緋色の袴。

 

 神事を執り行う際に、巫女が身に纏う【みこふく】が其処にはあったのだ…。

 

 

 

 例に漏れず、この巫女装束もそんじゃそこらの服とは創りが違う。魔術的な観点で見ても性能は悪くない。運動性に関しても見た目に反して優良。――何より白馬理奈がソレを着用した上での動きに慣れている。……問題は料金である。

 

 

 

 

 少女も魔女も困ったように顔を見合わせる。

 

 どうしたものか、防具は諦めて霊薬だけにすべきか…――――

 

 

 

お困りでごぜぇやしょう!ご入用でありやしょう!

 

 

 ズイっと、そんな擬音が聴こえそうな程に顔を近づけ手にした"紙切れ"を見せびらかす様に商人は語り掛ける。

 

 

お気持ちは苦しい程分かりまさぁ…!いやはや心苦しい!実に苦しいっ!

  嗚呼!あの時買っておけば良かったと死んでからじゃあ遅いったらありゃしないッ!

しかし恐れながらもあたしとて商売人の端くれ、タダでやったとあっちゃあ商売あがったり。」

 

 にんまり、と笑って商売人は更に捲し立てる。

 

「そこで見目麗しいお嬢様方…!いかがですかい?ここは一つ代金の後払いってヤツは

             なぁに、この"契約者"にサインを頂ければ後は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             「おう、寄越しなオッサン。」バッ!

                  「あっ!?」

 

 

 

 

 

 勢いに押され気味な二人を横目に半ばひったくる形で青年が行商人から紙切れを奪った。

 溜息を一つ。

 そして舐める様に紙面を眺めながら、呆れた様にカイは言葉を漏らす。

 

「やり方が古臭ぇんだよ、オッサン…。いつの時代の詐欺商法だよ。今時引っ掛かんねーよ。」

「いやいや、詐欺って…旦那それは誤解ってヤツで」

「お前さんが売ってる衣服を見せな。」

 

 

 ピタッ、愛想笑いの幽霊は僅かに硬直する。魔女と少女も一瞬、青年の言葉の意味が分からず疑問符を浮かべ、それを代弁する様に「それなら既にお嬢様方に見せてやすぜ。」と言葉を返す商人に対して青年は次の様に返した。

 

 

「ああ、確かに見せたな。けどよォ…そいつぁ値の張る"女性用の防具限定"を条件に、だろ?

   ………姉上も姉上で、さっきの聞き方はちょいとばかし悪ぃぜ?

      『このお嬢さんに見合った衣服を見させて頂きたい』…なんて言っちまっただろ。」

 

 

 阿漕な商売で儲けようって奴は、言葉尻を捕えるなり、揚げ足取りやらでグレーゾーンすれすれの稼ぎをしたがるモンなんだ。特に警察やら司法が無い場所じゃあ殊更に。

 

 カイにそう説かれてバツが悪そうに俯く義姉。警戒心の強い女性ではあるだろうが、それと商売人との交渉における得手に繋がるかと言えばそれはまた別の話。

 

 

「嬢ちゃん達が服を見てる間に露店全体をずっと眺めてたが…。

 そこの木箱ン中とアタリをつけたんだがな"男女共用で使える防具"が入ってんのはよォ。

  改めてもう一度言うぜ。お前さんが売ってる衣服を見せな。」

 

 

「へ、へぇ…!おみそれ致しやした…早速―――」

「それから」

 

 

「この"契約書"……こういう古典的な細工は今のご時世通用しねーぞ。」カチッ ボゥ!

 

 

 青年の手には物資コンテナから回収したオイルライターが一つ。

 揺らめく火に紙面を近づければ―――

 

 

「あーっ!それって炙り出しじゃん!?」

「そーいうこった。あぁ、初来店の客をカモろうとしたんだ。

 全品20%OFFくらいで許してやるよ、18世紀生まれのオッサン。」

 

 

 

「………トホホ、とんだ大赤字だ…。」

 

 

 

 

―――

――

 

 

「これでよしッと!」

 

 

 少し赤み掛った栗毛の少女は姿見の前に立つ。剣術道場でよく着用していた黒地の【稽古着】に身を包み、軽く腕を回して見たり屈んでみたり、問題ないかを確かめた。

 上質な防具かと問われれば苦笑せざるを得ないが、今まで着ていた【ふだんぎ】…ブラウスの上から羽織っていたお気に入りの薄桜色のカーディガンや動きやすかったカーゴパンツもズタボロで悲しくはあるがコレ以上着続けるよりは大分マシになることだろう…。

 悪魔城から生きて帰れたら、お気に入りの服をまた買いに行こうとグッと胸に誓う…。

 

 

「白馬さんよろしいですか?」

「あっ!はい!着替え終わりました!」

 

 

 カーテンを開けて前で待っていてくれた魔女の元へと歩み、彼女から水晶玉を受け取る。

 …全品20%OFFというそれはもう大層気前の良い初来店サービスを受けれたのだから、集めた所持金を全額使い果たす勢いで霊薬を購入した。――なんならカイがその後も言葉巧みに丸め込んだり、値下げ交渉をしつづけたり――そういった経緯で【マインドアップ】や【ポーション】にも随分と余裕を持てるようになった。これからも炎の大剣(水晶玉)を道中で使い続けても問題なかろう。

 

 

 義姉と白馬家のご息女が此方へ歩いてくるのを確認した所で青年は腕時計を見遣る…。

 狩人との約束の時間まで三十分を切った。今から向かえば丁度いいぐらいだろうと。

 

 

「さて、んじゃ俺等は行くとするよ。」

「ええ、ええ。今後とも御贔屓に!……次回からは適正価格ですぜ。」

「ああ、お互い。城に居る間は良い付き合いをしようじゃねーか、商売人としてな。」

「ええ、ええ…懲りましたとも、旦那にゃ恐れ入りまさぁ…。」

 

 後ろ手を振り、そのまま青年は立ち去ろうとし……ふと、まだ訊いていなかった事を思い出す。

 

 

「あぁ、そうだ…アンタぁ名前はなんてんだ?呼び名が無きゃ困るだろオッサン。」

 

「名前、ですかい?」

 

 

 顎に手を当てて考える素振りを見せ、思いついた様に口を開く。

 

 

 

 

 

 

   「―――【レノン】…あたしゃ【レノン】とでもお呼びくだせぇ旦那。」

   「……ほーん、"【レノン】"ね…。」

 

 

 青年は、自身の背を見送る幽霊行商人の名を反芻でもする様に口にして。仲間と共に部屋を出て行った…。

 

 






【本日の元ネタ解説など…etc】




【謎の商人】…【白夜の協奏曲】における商人ポジション。

 主人公の『ジュスト・ベルモンド』が幼馴染二人を救うべく悪魔城で遺骸を集めながら駆け回る過程で出会った人物であり、本人は深い霧が出て気が付いたこの城に迷い込んだ。と口にする。

 城内の各地にある特定の小部屋に出現し…

・無条件で出会えるパターン。
・プレイヤーのLVが50以上であること。
・LVが奇数限定の時。
・サブウェポンを使う為のハート所持数が偶数である。
・とあるアイテムを所持していることが条件…。


 等々、一定の条件が噛み合ってないと商人部屋に入っても遭遇できず買い物ができないという…

 ちなみに小部屋によっては売られているアイテムも全然違う。




 当小説の独自解釈としまして…本文内で述べたように、城から脱出したといった話が作中に出てこない為。悪魔城に取り込まれそのまま欲の赴くままにカネをかき集めるガメツイ商人の霊となった設定です。

 とある"偉い人"の許可を取り、条件付きで城内での商売を許可されている…。


 また、原作である白夜の協奏曲において、彼に名前はありません。
 カイに尋ねられ便宜上、名乗り名が無いのは不便なので…知り合いの名を勝手に使った。




>それこそ、青年達の協奏曲を見届けた目前に居る"幽霊行商人"であったり。
>それこそ、月下を駆け抜けた貴公子に手を貸した"図書館の主"であったり。
>それこそ、黙示録には決して記される事すらない"死のセールスマン"など。


 それぞれ上から、本文にも出てる白夜の商人、 月下の夜想曲で『アルカード』に手を貸す図書館のご老人…。

そしてニンテンドー64作品の【悪魔城ドラキュラ黙示録】に登場するセールスマンこと【レノン】



 当小説内の設定として、白夜の幽霊行商人は一応、同業者として【レノン】には会ってるという独自設定。ゆえに勝手に名前を名乗ったカンジですね…。
 黙示録は悪魔城シリーズの中でもパラレルワールド扱いですがこの世界線では【レノン】という存在自体は居る設定。ベルモンド家の人間やアルカード達とは偶々出会う機会が無かっただけで。

 原作の黙示録で【レノン】はセールスマンとしてプレイヤーのアイテムを売ってくるが、"契約書"に人間では殆ど読めない古代悪魔文字で3万以上のお買い物をご利用したら貴方の魂貰いますね(意訳)という詐欺同然の事をしでかしてくる。
 終盤になると悪魔城の外で…恐らく現実におけるクリミア戦争が起きているのを察知して、一儲けしようと城を出て行く死のセールスマンなのである…。


 以上の事も踏まえ、レノンという存在そのものは居るけど、悪魔城内には滅多に居ない。歴代の主人公達と出会う事なく今日も地球上の何処かで、文字通り悪魔の契約を行っていることだろう…。





【ツチノコ】…登場作品:【暁月の円舞曲】よりレアモンスター。

 UMA扱いであるこの蛇は、【舞踏館】の最奥である貯蔵庫のボス部屋の先にある小部屋に確率で出現する。
 滅多に現れず、出現しても某メタルなスライム並みに逃げ出す。

 倒してソウルとして入手すれば"ショップのアイテムを20%安く購入できる"という能力が手に入る。やり込み勢の蒼真くんが喉から手が出る程欲しい【ソウルイーター】も多少値下がりで買える。



【UMAニュース1-1】~【UMAニュース4】…登場作品:【蒼月の十字架】より情報アイテム。

 UMA…所謂レアモンスターの討伐とソウル入手の為のヒント。
 勘が良いプレイヤーは無くてもレアモンスター討伐ができる。そもそもヒントが割と役に立たない。



【商品の価格】

 本文で登場した【おどり子のカバリエ】等ですが、原作でも本来は店で売ってない非売品です
じゃあ5300とか値段設定はなんなんだよ?と聞かれそうですが…。原作の仕様としまして基本アイテムの売却価格は原価の25%となります。

 仮に500Gの【ポーション】を購入してから売却を選択した場合は125Gで売り払えるので、単純計算で売値の4倍と考えていただければよろしい。

 ちなみに今回関しましては悪魔城HD基準の価格で売値1325G、…1325×4=5300Gが購入可能な場合の価格と判断しました。非売品だけど…。





【最後にお詫び】


 ……えー…実はですね。ここまでこの小説書いておいてなんですが一つ、大ポカをやらかしまして…。

 おそらく番外編含めて、この話で23話目になると思うんですね、ハイ
 気づきました。



 …「白馬理奈の容姿詳細について一切、描写してねぇぇぇぇ!?!?」

 いやぁ、読み返して気づいたんですけどね…そういやエイプリルフール番外編で、弥那と同じ赤み掛かった栗毛の髪って書いたけど、1話とか2話とか…容姿どころか服装すら書いてないですやん!?って…一応、2話で伯母さん曰く弥那と見間違えるくらいには似てるとありますが…。
 数年掛けて20話近く書いてて漸くそれに気づいたという…。


 今話でやっと【ふだんぎ】が

>ブラウスの上から羽織っていたお気に入りの薄桜色のカーディガンや動きやすかったカーゴパンツ

ってことも描けましたね!  第1話(2022年4月)の段階で書かなきゃなのに


   4  年  越  し  で  あ  る  。



  …いや~ はっはっはっはっは…っ!

  …ハハハ…その、なんか本当すいませんでした(土下座)
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