- side 三人称 -
退魔士を名乗ったヴェルナンデス姉弟は左肩を抑えている狩人、足に傷がある少女を見てポーチから【ポーション】を取り出す。彼らの目的は悪魔城に乗り込んだ邪教集団の残党を倒し奴らの企みを阻止することにあるが同時に今回の件に巻き込まれた一般人の保護と救助活動も任務の一環だった。
白馬理奈は民間人の救助や保護と聞き、自分達二人はこの城から生きて帰れるのではないか!?と期待を胸に抱き。
イェーガーは『ヴェルナンデス』の名を聞いて頭を金槌で殴られた様な衝撃を覚えていた、何かを思い出しそうだ。
「あの!怪我の手当をしていただいて本当にありがとうございますっ!」
「応、気にすんなって俺達の仕事だかんな!それとそんな畏まらなくていいぜ、気ぃ張ってると疲れるだろ?こんなトコだし尚更な、フランクに接してくれよなそっちの仮面の兄ちゃんもさ!」
「ああ…。」
「……顔色が優れないようですが、まだ体調が優れませんか?」
巻き込まれた民間人を不安にさせまいと笑いかける弟とは対象的に冷静に姉はイェーガーの顔をじっと見つめて尋ねる。…イェーガーは心なしか彼女の視線から刺々しさを感じていた、強い警戒心の様なソレを向けられる理由を問いたいが今はもっと聞きたいことがある。
「いや、大丈夫だ問題ない。ただ気がかりがあってな…先程、"民間人の保護、救助"と言ったが城から出られるのか?」
イェーガーの懸念はソレだった。原則として城からの脱出方法は城主を倒すか、魔力で覆われた城の壁を無理矢理抉じ開けるかしかない。前者は城主がそもそも居ないから不可能で代わりに闇の力を持った者が城主の間で力を示して城に生者達をあるべきところへ還せと命じればいいが。
退魔士というからには魔力の壁を抉じ開けるプランなのだろうか?今の狩人にもできないことだが彼らには可能なのかと疑念を感じていた。
「あ~…そういう話かぁ、アンタが何処の誰か知らねぇが多少は悪魔城に詳しいみたいだな。」
「現段階で悪魔城からの脱出は不可能です。」
「えぇっ!?あ、貴女達も出れないって…じゃ、じゃあどうやって帰る気で来たんですか!?」
化け物だらけの城から生きて出られると希望が見えていた理奈にとってこれは聞き流せない話だ。当然二人にそのことについて訊くと青年が「姉上は…まぁ、色々あって闇の魔力を練る黒魔術にも秀でててさ城主の間ってトコに行けば城の力を操って逃げれるんだ」と説明してくれた。
奇しくもこの退魔士姉弟の帰還方法もイェーガーの導き出した解答と同じであった…悪魔城の力を一時的に支配する能力―――狩人自身にしかできないと思っていた荒業をできると申すか。額を抑えながら彼は驚いた顔でフランチェスカの方を向き、言葉を掛ける。
「とすると何だ、お前達は直ぐにこの少女を地上に帰せはしないのか。」
「ハッキリと言ってくれますわね、脱出は叶いませんが結界を張り保護することはできます。」
「結界だと?」
「ええ、教会の事前調査の結果で今回の悪魔城に瘴気の薄いとある部屋が存在すると判明しています、そこを拠点として城に取り込まれた人達を保護する算段でしたので。」
"なんだか占い師みたいな人だ"―――方針を語りながら取り出した翠色の水晶玉を眺め始めるフランチェスカの姿を見た理奈はそんな感想を抱いた。真っ青なローブを身に纏った美しいブロンド美女で全体的にエキゾチックな雰囲気を漂わせる人、そんな人が水晶玉を眺めているもんだから中々に絵になるようで、…見ればベルトに付いてる透明なカードケースの中にタロットカードの様な札が収納されている。直ぐに取り出せる様にその位置にあるのだろうか…?
水晶玉にカード…占い師さんの様な道具を持つ彼女は城に取り込まれた人を救うと言ったが。
「……その取り込まれた人達っていうのは…。」
理奈は"取り込まれた人達"と聞いて、ふとある可能性が浮かんだ。神社に居た筈の自分がこんな所にやってきている―――じゃあ自分の家族は?―――伯父や伯母、両親と弟はどうなんだと。
「悪魔城の封印が解けた際の光に飲み込まれた範囲、つまり白馬神社の敷地内に居た方々になります。」
状況を推察するに銃撃戦を繰り広げた日本政府の機関員はほぼ全滅だろうがダリオと会敵しなかった者が万が一にでも生き残っていたとすれば、あるいは炎上する神社から逃げきれなかった不運な参拝客が居るのなら一緒に悪魔城に来ている可能性は高いと彼女は続けた。
「…必然的に貴女の御家族が悪魔城に迷い込んでいる可能性も高い筈よ、白馬理奈さん…で合ってるわね?」
「輸送機ン中で連絡受けたからなぁ、おそらく事件に巻き込まれてるって。」
こんな所に一般人の子供がいるとすれば察するにそうだろうと二人は伺ってくる、そんな姉弟に理奈はこくりと首を振った。理不尽に巻き込まれた少女を不憫に思い励ましの言葉を掛けた後、ヴェルナンデス姉弟は現状で最も何者か推察できない人物に今度はアンタが名乗る番だと問いかける。
「…俺の名はイェーガー、イェーガー・マーシュマンだ。この城で何か為さねばならんことがあったと確信している。信じ難い話だろうが俺はそれしか思い出せん。」
「あ、あの!彼は記憶喪失なんです。変な仮面付けてて見た目怪しいけど悪人じゃないの…。」
イマイチ説明になってない狩人の自己紹介を補佐しようと少女が言葉を繋げる。
「ハァ!?記憶喪失ぅ!?…いやいやアンタ記憶喪失って、こんなヤバい場所でそんなヘビーな状況とか…なんつーかよく無事だったな。」
「……。」
まぁなんだ、人間命あっての物種っていうし無事なだけ良かったじゃねーか!と狩人の肩を叩いて朗らかに笑うカイ、終始仮面をつけた男に対して何処か鋭さのある視線を注ぐフランチェスカ、姉弟と出会ってからより一層の頭痛に苛まれるイェーガー、とりあえず身の安全は確保できそうではあるが家族も来ている可能性が高いと知り気が気でない理奈。
…あらゆる意味でなんとも濃い面子である。
「お互い自己紹介も終わった所だ、一先ずは安全な所に避難しねーとな…姉上、例の拠点候補の部屋ってのに行こうぜ!」
「…。」
「おーい、姉上~?」
「…!え、えぇ…ごめんなさい、瘴気の薄い部屋は向こうの通路の先ね。」
(……このフランチェスカとかいう女、ずっと俺の方を睨み続けていたな。)
警戒心を抱かれている理由を狩人は聞きたかったがカイという青年の言う通り今は彼らの拠点候補とやらに行く事を優先すべきだろう、【ネビュラ】を手に入れて実力の程はまだわからんが教会から派遣されたハンターが2人も居る。戦力的にはかなりマシになったがいつまでも理奈を危険地帯に居させるワケにもいくまい。拠点に着いてから理由を尋ねても遅くはない、と。
―――
――
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- side フランチェスカ -
"イェーガー・マーシュマン"―――
母様や父様の思い出話はよく聞いていた、そうでなくとも私個人としても興味は抱いていた…。だからかもしれない、まだ判断材料が足りないから断定はできかねるのだけれど私にはきっと彼が"ソレ"なのではないかと思えてならない。ただそうだとすれば幾つか矛盾点が出てくる。何故この男は人間の女の子を護っているのか、どうして友好的な存在なの?…記憶が無いからだとでも?
私は…、"仮面を被った男"に問い質したかった。
―――貴方の本当の名前は……"『来須蒼真』" ではないのですか?と
…ありえない、魔王ドラキュラの生まれ変わりで23年前に再び魔王へと変貌した人物だというのなら、何故この時期に悪魔城に血肉を持って存在しているの…!そもそも此処に当の魔王が肉体を持って存在するのならば城にやってきた【ウィズ・ライト】教団達が渇望している"アレ"だって此処には存在しないことになる。
判断材料が少なすぎるわね…。根拠も無い以上、彼を『
口伝の人物像と幾つか共通する点や暗黒の力を感じられるという部分から勝手に想像してるだけでよく似た別人…という線も捨てきれない。……民間人の少女がいる手前で下手にこの事を指摘して騒動を起こすのは得策では無い、一先ず彼に関しては要注意観察対象として扱うとして拠点候補の部屋に急がなくては…っ!
パラシュートで降下の際に悪魔城に突入はできた、でも直後何処からか敵の攻撃が飛んできてカイが愛用の銃を落としてしまったのだから。きっと城内の何処かにはあるのでしょうけれど護身用の拳銃や幾つかの手榴弾とサブウェポンしか所持していない今のカイでは実力を存分に発揮できない。【ポーション】にしたって白馬理奈さん達に使ったので最後。敵の対空攻撃で荷物の大半を落としてしまったのが手痛かったものね。
不幸中の幸いがあるとすれば結界を張る為の道具だけは死守できた事。
…オーリン家の古文書に記されていた魔術師としての素養が高かった『ジュスト・ベルモンド』が本能的に混沌の産物の中で見つけ出した聖域と呼べる部屋。
決して城の魔物が一度たりとも入って来る事は無かったとされる瘴気の薄い部屋で一体彼は何を想ったのか、唐突に悪魔城の至るところから家具を集めてきて部屋を飾り立て始めたと記されていた…一説ではヴェルナンデスの血が濃かった彼が直感的に魔力を帯びた家具を配置することで東洋術式の風水が施されて部屋に結界が張られたのだとも囁かれている。
拠点候補としてこれ以上ない部屋に違いなかった。
道中の魔物達を退けながら私達は城の奥へと足を運んでいく――――
―――
――
―
- side イェーガー -
「せいッ!」
流れる様に振るった星雲が敵の頭部を兜諸共に粉砕した。跳び上り【レイピア】と青銅の盾を構えた骨騎士の頭上に迫る高さからの一撃に対応しきれなかった騎士がまた1人と倒れ崩れていく。
――――パァン!
「ヒューッ!アンタ中々やるじゃん!」
「…そいつはどうも、ありがとよ。」
口笛吹かせながら【ハンドガン】を撃つ男が俺に称賛の声を掛ける、道中で敵の大群に見舞われた俺達は理奈を護る様に囲う布陣で戦っていた。一般人の彼女の傍にフランチェスカを置き、そこを中心点に俺とカイという男が前方180℃と後方180℃をそれぞれ分担する。大将を護る方円の陣形に似たそれで敵を斃していく。
コイツ等がどれだけやれるのかを見て置きたいとは思っていた実力を計る上で都合が良かったというのもある。
少し共闘してみて解ったがこのカイという男は軽そうな性格に反して隙が無い。互いに背を向けて戦っているが俺の立ち位置や狙っている敵を常に理解しているようだった。俺の分担領域と相手の領域の境目に敵が来ていてもどちらが対処するのがより効果的か、俺の行動がどの敵に向いていて駆けつけるのかさえ分かっていたんだ。
あいつが引鉄を弾くたびに火を噴く9mmパラベラムの弾は容赦なく飛んできた【インプ】の脳天を、複雑な動きをする【ピーピングアイ】の瞳の中央を寸分の狂いなく貫いていた。道中で聞いたが本来愛用していた銃ではないらしく威力や使い勝手も悪いそうだが、それを感じさせない精密射撃だった。
自身の銃で対応できない強固な敵が現れれば臨機応変に戦い方も変えていくのが時たま目に映った。【アックスアーマー】の投げる巨斧を目にして弾倉をリロードしながらも床に転がっていた眼球怪物や小悪魔の射殺死体をサッカーボールでも蹴り飛ばす様に蹴り上げて巨斧にぶつけて防ぎ。
懐から取り出した"聖水"の入った瓶をアーマーの頭上に放り投げては撃ち抜く、瓶が割れて清めの水が滴る雨水の如く【アックスアーマー】のベンテール部分から内部へと浸水していく。"聖水"を浴びた鎧の外側が青白い炎を噴き上げ、浸水した内部からも聖なる炎が立ち昇る。
内外を両面焼きにされた甲冑は苦しみ悶えた後に巨斧を落としてバラバラになった。そんな彼奴に眼をくれる事も無く飛来してくる小物を次々と狙撃し続け、大物相手には鍛え抜かれた剛脚による【スピニングキック】や跳び上がる様な【アッパー】といった
遠距離から針に糸を通す様な精密な射撃に加えて近接でも恵まれた体格を活かした様々な攻撃手段と型に囚われない動き…いやそれだけでも目を張るが一番は…アイツの"あの動き"だ!!
「グモォオオオオオオオオオオオ!!!」
…!軍勢をほぼ全て捌き切った辺りで一番の大物が動き出したかッ!雄たけびを上げながらカイの方へと一体の【ミノタウロス】が猛進してきている…!
―――
――
―
- side 三人称 -
「あぁっ!?あの人が…カイさんが危ないっ!お姉さんは助けなくていいんですか!?弟さんなんでしょ!?」
ギリシア神話に伝わる牛頭人身の魔物が戦斧をその手に猛進してきていた。巨斧を投げようとしていた甲冑を4体同時に相手取っている狩人の救援は望めそうにない状況…!それを見ているだけしかできない理奈は自分の傍にいる女性に助けなくていいんですか!?と訴えかける…、しかし。
「…必要ありませんね。カイならこの状況で助けようとしてもきっとこう言うでしょう…。」
"
【ミノタウロス】の剛腕から繰り出される戦斧の横凪がカイへと放たれる…ッ!しかし彼は一向に避けようともせず…!いよいよ彼の身体が真っ二つにされるという局面で―――!
ヒュバッッ!!
「…グモ?」
牛頭の怪物は手応えの無さに間の抜けた声を漏らした。どう考えても避け切れない距離まで得物は迫っていたのに…。空振った感触しかなかった。
カチャリ、と後頭部に硬い何かを突き付けられる感触と音を聴いた時、漸く彼奴は理解した…。
人間離れした技による高速移動で回避されたのだと…!!!
「
――――パァン!!
(…ま、まただ…"あの動き"…俺の眼でも捉えきれないあの速さッッ!!なんなんだアレは!?)
牛頭の怪物が脳髄をぶちまけたのを見て、甲冑を4体同時に仕留めた狩人は驚愕していた…自身にさえ理解できない"超速移動"…どういう原理か知らないが一瞬だけ鍛え抜かれたあの脚に魔力が宿ったのが解る、肉体強化系の魔術の応用か?理解できない技術を用いたカイという男は間違いなく強い…!この戦闘でイェーガーはそれを強く実感した…。
「ふふふっ…!差し向けた者達をこうも早く葬るとは中々やるではありませんか…!」
牛頭の死を最後に大軍を捌き切ったと思った4人は突如聞こえてきた何者かの声を聴く、声の主は何処を見ても見当たらない…っ!初めて焦りを感じた姉弟と"どこかで聞いた覚えのある嫌な声"を感じた狩人、そして少女は一斉に空を見上げる、そこにはどす黒い闇があった…。
見上げた闇からは…毒々しい色のローブが現れたのであった…ッッ!!
宙に浮かぶ亡霊はフードの奥で眼を光らせ城に迷い込んできた人間達を見下ろす、明確な意志を持って人語を話すその怪異は彼らを見て笑みを浮かべるのであった。
本当にほんの少しだけ修正
<フッフッアタランヨ!
<ユーキャンヒッミー!
今回狩人さんの正体に少し迫る回なのに姉弟の方がメインっぽい回になってしまった