悪魔城ドラキュラ -幻夜の追想曲-   作:大根のチョコラテ煮

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2章:存在意義を探す狩人④ -支配の力<タクスティカルソウル>-

- side イェーガー -

 

 

 奴の姿を見た時、俺はどうしようもない程の不快感に襲われた。心の底から憎くて堪らない…何度八つ裂きにしても物足りない、この手で首を掴んで今すぐにでも縊り殺してやりたいッ!そんな気分にさせられた…。

 

 気に入らないフードの声はフロア全体に響き渡る様に感じられて何処に居てもお前に聞かせてやると主張しているように思えてしまうのは俺の苛立ちからくる勝手な決めつけか!?

何時でも十字架を投げ付けられる様に身構えて奴が次に発する一声を待つ…何者なのか、何のために俺達の前に姿を見せたのか…。

 

 

「おや?…あなた達は…。ふっ、ふふふ…フハハハハ!これは面白い…!侵入者達が如何なる者かと見に来てみれば、なんという僥倖でしょう。」

 

 

 亡霊は何がおかしいのか俺達の方を見て笑い出した、自然と十字架を握る手に力が入る…。俺と同じ様に心底面白くなさそうな顔をした男が代弁するように怒声を上げた。

 

 

「テメェ、何が可笑しいってんだ!何者だ!【ウィズ・ライト】教団の回し者か!?」

 

 

 

 

 

 ウィズ…ライト教団…。

 

 

 カイの奴が口にした組織名を聞いて、また俺の頭の中に痛みが走った…そして、またビデオ映像のリプレイを見せられる様に俺は俺が知らない記憶を垣間見た…!!!

 

 

「ウィズ・ライト教団?」

「…教会の者が何年も行方を追っていたカルト集団ですよ、私達が悪魔城に来た理由の、ね…。」

 

 

 話について行けていない理奈に補足するようにフランチェスカが説明する…そういえばコイツ等も出会った時「城に入り込んだ糞ッたれのくだらない野望を阻止しに来た」とは言っていたな、その"糞ッたれ"とやらが話に挙がっている教団の事なのか…。

 

 

 

「フッ、まずは名乗るのが礼儀ですね…とは言え私はこの城の住人ですので、そうですね…気軽に【ネクロマンサー】とでもお呼びください。」

 

 

 人の背丈の倍以上ある巨大な紫のローブは"死霊使い(ネクロマンサー)"を名乗った。襤褸布同然な擦り切れが見受けられる腕の裾から伸びた血色の悪い掌、桔梗の様な青みの強い紫のマントに着けた留め具にあしらわれた血の様に真っ赤な宝玉も……フード奥からそれと同じくらい鮮血を連想させる朱い眼光も、コイツの何もかもが気に入らない。気にくわない。

 

 頭蓋骨を丸々1つ加工して作った悪趣味なペンダントを揺らしながら亡霊は言葉を続ける。

 

 

「ウィズ・ライトの信徒達…彼らはなんと素晴らしい!教祖が殉職されて尚も魔王を心より強く求めそして今自分達が新たな魔王に成ろうとすらしている!!!!!!」

 

 

 最初落ち着いた感じで言葉を口にしていた奴は途中から感極まった様に声を張り上げていく…。今どんな貌をしているのか暗色の布に覆われていて相変わらず確認はできないがその姿には狂気を感じた。

 

 

「人間という下賤な存在は世を惰性的に喰い荒し自ら破滅へと向かわせる憐れな存在、でも彼らは違う…悪魔城の城主という救世の存在を新たに生み出そうとしている、私はそれに貫禄を受けたのですよ。」

 

 

 …新たな魔王、悪魔城の主たるドラキュラではなく新たな魔王を産み出そうとする人間に貫録を受けている、声高々に目の前の悪霊は胸の内を明かした。この場に魔王の右腕とも言うべき死神の存在があれば即処断されてもおかしくないような物言いだな。ご高説を垂れ流した気狂いの亡霊に対してフランチェスカが声を上げた。

 

 

ふざけないでっ!!!!教祖が死んで尚も魔王を求める心ですって?救世の為に魔王を産み出す!?―――そんな意味不明な理論の為にどれだけ多くの人が犠牲になったと思いですか!」

 

「無辜の人々がどれほどの血を流したと思う!?どれだけの日常が壊されたと思う!?幾人もの人がそのくだらない理想に振り回されて人生を滅茶苦茶にされたと思っているのですか!!」

 

 

「フ、フランチェスカさん…?」

「………姉上、気持ちは分かるが落ち着いてくれ。」

 

 

 出会った時から冷静な女という印象が強かった女が初めて表情を歪めて怒声を上げた。おそらく今の俺も理奈と同じ様に意外な物を見る顔をしていることだろうよ。

そんな彼女の怒声を歯牙にも掛けぬと言わんばかりに【ネクロマンサー】はカイに宥められるフランチェスカに声を掛けた。

 

 

「くだらない感傷…そんなものが一体何になると?そんなことよりもお嬢さん方お二人とそこの仮面をつけた素敵な御方、如何でしょうか?私と共に魔王を生誕させるべく共に歩む気は御座いませんか?」

 

 

 きっと私の心情を御理解頂けて、ウィズ・ライトの信徒達がどれほど崇高な理念を持っているか共感できますよ、等と不愉快極まりない交渉を持ち掛けてきた。

 

 

「貴女は個人的に手元に欲しくなりました、それに其方は鏡巫女に…ふふふっ!貴方はとても素晴らしい暗黒の力をお持ちのようで!!さぁ是非とも私の手をお取りください!」

 

 

 

 

 成程な、解かり切っていたことだがやはり俺はこの亡霊の存在そのものが気に喰わんようだ、ここまで来れば人を苛立たせるのも一種の才能だな。

土色の肌がこちらに伸びてくる、死人の手が俺や理奈達の方へと向けられて俺は自分を抑えること止めた。寧ろここまで我慢した俺を褒めてやりたいところだ。

 

 

 

「そういう誘いなら結構だ、失せろ。」

 

 

 

 奴と同じ高度まで飛翔し十字架を投げると同時に【ネビュラ】を振るう。白銀は光を纏い気味の悪い色彩をしたローブ野郎の中央へと真っすぐ飛んで行く、誰も手を取ってくれる筈も無い握手を求める血色の悪い手が投げた十字架をキャッチする。「む?」と胴体への直撃コースを防いだ死霊使いは十字架から右手に流れ出した聖気に怪訝そうな声を漏らした。

 素晴らしい暗黒の力をお持ちのようで、っと褒め称えていたからな…そんな奴が正反対の力を使うとは露程も思わなかったんだろう。

 

 

 案の定流れ込んだ聖気でドロリと掌が溶け出した亡霊は一瞬の隙を見せた、完璧に攻撃を防いだつもりだったんだろう?だというのに全く予想だにしない痛みが走った。

毒液を塗りたくられた矢を素手で掴んだ様なモンだ、さぞ痛かろう?だが安心するがいい直ぐに掌の痛みを無くしてやるとも、手首ごとな。

 

 

 ズバァッッ!!!

 

 

 星雲が宙に光の尾を奔らせた、俺の投げた十字架なんぞとは比較にならない程の聖気を練り込んだ武器の一撃が奴の手首を斬り飛ばした。腐れた腕肉の切断面から血は噴き出なかった…切り飛ばした手首が床に落ちて彼奴は無事な方の手で切られた手を庇う様にしながら退ける。その有様を見て俺の中でドス黒い何かが膨れ上がっていった。

 そして叫んでいた、足りない…もっとだ、もっと切らねば、"また"殺さねば…!!コイツだけは俺が何度だって殺してやるッッッ!!

 

 

―――

――

 

- side 三人称 -

 

 

「うああああぁぁぁっッ!!」

 

 

 狩人は吼えた、長年の怨敵を前にした復讐者のソレにさえ思えてくる声を上げて聖鞭を振るい続けるッ!一条、二条、振るわれる度に流星が宙を交差するように流れ襤褸布を掠めていく。最速で動き出した同行者にやや遅れてヴェルナンデス家の青年が銃を【ネクロマンサー】に向けて発砲し、その姉も鞄から一冊の本を取り出し悪霊を睨みつけながら開こうとしていた…。

 

 

「なんとまぁ野蛮な…!それがあなた方の返事ですか!」

 

「うるせぇぞ布切れオバケ!黙って聞いてりゃ俺以外を引き抜きたいだァ~?冗談は見た目だけにしろ!結局の所テメェも教団と同じで俺達の敵ってぇんだろーがッ!」

 

 

 カイ青年がそう言って宙を舞う悪霊に【ハンドガン】の弾を容赦なく撃ち込むがそのどれもが【ネクロマンサー】の目の前で慣性を失くしピタリと動きを止める、見えない壁にでも当たったかの様に。内心で彼は舌を打つ「そんな気はしてたがこんなチンケな弾じゃ障壁で防がれるか…!」と愛銃なんて贅沢は言わないがせめて【シルバーガン】でもあれば魔を撃ち払いそのまま障壁毎ローブの悪霊を撃ち抜けただろうにと銃を仕舞い"聖水"の瓶を複数取り出す。

 

 

「やれやれ善意で話を持ち掛けたというのに…では仕方ありませんね、死んだ後で再びお伺いするとしましょうか!」

 

「!?」

 

 

 狩人は目を見開いた、死霊使いはカイの銃弾を無事な方の腕で張った障壁で防ぎながら手首を切り落とされた方の腕をイェーガーへと向けたのだ、そして切断面から腐れた肉が盛り上がっていくのを目にする…尻尾の千切れた蜥蜴が切断面から再び尾を生やそうとするシーンを目の当たりにしているようであった!腐れ肉の手首は何事も無かった様に生えてきて指先には光が灯っていた。

 狙うは狩人の仮面越しにある脳髄…!邪なる光が先端から放たれようとしたその時…!

 

 

 

 

「"聖書"よ、神の御名の下に神凪となりて吹き荒れなさい!」

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

 

 

 フランチェスカが言葉を区切り、拍子に神の印たる十字を描いた本を天高く放り投げる。開かれた本は何処からともなく吹き荒れた風に乗り城内を暴れる…否、本自体が風を発しているのか…っ!大きく円を描く様に一定の規則性を持って舞う書物が身を切り剥がす様に頁を舞い散らせながら【ネクロマンサー】と狩人の間に割り込む。

 

 

「!…小癪な真似を。」

 

「これをやったのは彼女か!?…すまない助かった!」

 

 

 死者の指先から放たれた同胞を求める光はイェーガーに破滅を齎すことは無かった。奴と彼の丁度中間点に割り込んできた"聖書"が盾の役割を果たし蒸発した。狩人はワケも分からぬ儘に説明のつかぬ一時の感情に流されて深追いを仕掛けた自分を恥じたと同時にあの自分に対して妙に鋭い視線を送って来る女に感謝した。あと少しタイミングがずれていたら憐れ【ネクロマンサー】の並みならぬ魔力に焼かれて蒸発していたのは自分だったことだろう、と。

 

 

 

「本が頁を飛ばしながらグルグル飛んで…、凄い…まるで式神みたい…。」

 

 

 

 書物の巻き起こした暴風圏内で身を屈めながら理奈は空を見上げていた、陰陽師が術を行使する際に使う"紙"――神の依り代となる物――、式神でも見ているような気分だった。

少女はこの場に居て何もできない事をもどかしく感じていた。わかっている…ちっぽけな小娘風情が目の前で繰り広げられている戦いに介入なんぞ出来やしないと、立場を弁えずに前に出よう物ならばその所為で誰かの足手まといになりかねない…!

 

 ただ、…ただ祈るしかなかった。鏡を強く握りながら少女は神に祈った。

 

 

 

「くっ、紙切れ風情が…纏わりついて来る…!」

 

 

―――――ブン!!

 

 

(今のは!?何かが私の傍を通り過ぎて行った…?)

 

 

 悪霊は視界を遮る目障りな紙切れを払い除けようと腕を振るう、磁石を近づけた砂浜の砂鉄が如くサブウェポンの副産物は亡霊の身に張り付いて来る。狩人の投げた十字架を素手で掴んだ時ほどの痛みは無いが相手を目視できなくなるというのは厄介極まりない、紙吹雪の中で【ネクロマンサー】は地表から何かが自身よりも高い位置に投げられたのを肌で感じ取った、全速力で走る人間とすれ違った時あるいは顔面スレスレで球技のボールが通り過ぎていく感覚に似た風圧。

 

 

タァン!

   タァン! タァン!

 

 

 

  パリィンッッ!!

 

 

 

 そして耳にするは3発分の銃声と硝子の砕け散る音…!亡霊の真上に放り投げられた"聖水"の瓶が3つほぼ同時に砕け、中身が"聖書"の千切れた頁の破片に沁み込みながら亡霊へと襲い掛かるッ!

 

 爪一枚分程の小さな紙切れと呼べるまでに細切れになった無数の頁達ッッ!『紙』と『液体』これほどまでに混じり合いやすい物がそうそうにあるだろうか!?聖水が沁み込んだ無数の紙吹雪は四方八方から磁石に引き寄せられた鉄片が如く死霊使いの身に殺到することになるのだ!フランチェスカが"聖書"を使うこと見通してソレを『利用』し更に効果的な次の一手へと昇華させる…。

 姉弟で予め示し合わせていた訳ではない、完全な即興物(アドリブ)…咄嗟の機転でこの攻撃手法に持って行ったようだ。

 

 

「いぎゃあああああああああァァァァァッ!!!!」

 

 

 たっぷりと聖水を沁み込ませた聖書の破片がびっちりと襤褸布の怪異に貼りつく、ドジュゥ…っと生肉を熱した鉄板に押し当てて焼け焦がした様な音が1枚、また1枚と引っ付くごとに耳に届く。

 

追尾性と殺傷能力を持ったそれ等は宛ら聖水による不可避の暴雨(ストーム)と呼べよう、頭上から降り注ぐどころか横殴りの雨風が如く…っ!全身余すことなく浴びるまで。

 

 

 

「滅びろ!貴様の存在が許される世界なぞ何処にも無いことを知れッ!」

 

 

 

 怒り、憎しみ、嫌悪。

 

 出会った時から何故かコイツは気に入らなかった。

狩人自身でも歯止めが効かないドス黒い感情が何故だか胸の奥底から込み上げてくる、…先の失態があった手前、幾分かは冷静さを保った狩人の…然し明確な殺意を込めた渾身の一撃が放たれる。

【ネビュラ】の先端は髑髏の首飾りを砕きそのまま悪霊の胸を貫き、胴の向こう側へと貫通する。

 

 

「か"っ ばか、な…。」

 

 

 苦悶の声を漏らし、毒々しい色彩の衣装を纏った悪霊の身は灰と化してサラサラと崩れ出して…そのまま雲散霧消していった。

 

 

「…終わった、のか?今までの連中と比べて強ぇ野郎が来たかと思ったが…案外呆気ねぇな。」

 

 

 軽口を叩きつつもカイは警戒を解かずにいた、骨騎士や斧を投げてくる甲冑と牛頭の軍団を差し向けてきたと奴は言っていた。あれだけの数を束ねて尚且つ指揮ができるとなれば単なる見掛け倒しの雑魚で片づけるのは早計というものだろう。それに奴は気に掛かる事も口にしていた。理奈の事を見て"鏡巫女"だとか言っていたのも気になったが【ネクロマンサー】のあの口振り…。

 

 

 奴はウィズ・ライト教団に接触したということか、悪魔城に住む怪物の癖にドラキュラを差し置いて新たな魔王を作ろうとする存在が居るとは。アイツだけが変わり者だったのか?はたまた似たような奴が実は沢山居て、それで既に教団の連中と城の魔物共が結託しているのではないだろうな!?そうだとすれば一筋縄では行かなくなる…っ!

 

 

 

 

(…野郎の気配は、これっぽっちも感じやしねぇな。)

 

 

 青年は幾ら意識を研ぎ澄ませてもこのフロアに死霊使いの邪気を感じられないことから相手は狩人の攻撃で完全に死滅したのだろうと、張り詰めた緊張の糸を解す様にホッと息を吐く。

 

 

 謎は増えたがとりあえず局面は凌いだ、ということでいいだろう。

低火力の小型拳銃とは言え神官達の力で加護を付与してもらった【ハンドガン】の銃弾は余裕で防ぎ、常に余裕を携えていた得体の知れないヤツだった。

 何事も無かったと言わんばかりに取り繕っているが実の所カイはさっきまで内心では肝が冷える思いであった。道中の魔物共は自身の修行の成果で倒せて来れたがあの死霊使いには万全の状態で挑んだとしても果たして勝てるのだろうか、っと…そう思わせる薄気味の悪さがあった。

 

 

 だが実際どうだった?御覧の通りだ。なんてこたぁ無い。

 

 単なる虚仮威しであったな。

 

 

 アレだ、見て呉れだけが大層ご立派なモンで統率力や指示を出すのだけが上手くて当人は大したことないタイプの手合いだったのかもしれない。

もしくは自分達が思う以上にイェーガー、カイ、フランチェスカの3人が強すぎてあっさり勝てたとか…。実質、手練れのハンター達で3対1だったしな。

 

 

(…にしても、イェーガーの奴どうしたってんだ?さっきの大群相手にしてた時とはエライ違いだぞ。)

 

(まるで感情任せって感じの…闇雲に突っ込むようなやり方、全然スマートじゃねぇな。…ちょっくら注意しとくか。)

 

 

 

 

「ふぃ~っ!いやぁ~はっはっは!なーんかヤバそう奴が出たと思ったけどよォ、なんか勝てちまったなぁ!まぁ俺や姉上が居ることだし?こんぐらいノープログレム(問題なし)ってトコだな!」

 

「仮面の兄ちゃんも強かったぜ?けどな、さっきみてぇーに深追いとかすんのはさ――――」

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!!

 

 

「ッッッ!!!!――――畜生っ!してやられたっ!!」

 

「うおぉっ!?」

 

 

 唐突に狩人は拳を石畳に叩きつけて怒声を上げた、奥歯を喰いしばりワナワナと震えていた…。青年は狩人が言い出した言葉の意味を直ぐには解せなかった。目を白黒させて彼が何を言っているのか?周りを見渡して"それ"に漸く気付き―――――身の毛が弥立った。

 

 

 何故こんな大事な事に直ぐ気付けなかったんだ!!

 

 何がもうこのフロアに死霊使いの邪気は感じない、だ。感じなくて当然だ馬鹿がッ!

青年は今日ほど自身を殴り飛ばしたいと思ったことは無い。良くも悪くも青年にとって姉上は偉大な存在だった、だからこそ彼女に限ってそんなことは有り得ないと心の何処かで思っていた。油断していた。

 

 フランチェスカの顔も苦渋に満ちていた…。おそらく自責の念は自分なんぞとは比にはならないだろうことも見て取れた。

 

 

 

 

「理奈を…! 理奈を奴に連れて行かれた…!!」

 

 

 

 イェーガーの重々しい声がフロアに響いた…。

 

 

 

 

―――

――

 

 

 一体何時の間に? どうやって? 状況を振り返っても【ネクロマンサー】に少女を攫う隙があったとは思えないだろう?何せ3人掛かりで袋叩きにされ最後は胴を貫かれて灰塵と化したのを見たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 分らないだろう?であらばトリックの答え合わせと行こうではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう誘いなら結構だ、失せろ。」

 

 

 ズバァッッ!!!

 

 

 衝動に突き動かされるが儘に黒衣を纏った仮面の男は聖鞭を振るった。夜空を切り裂く一条の箒星が流れたと思えば腐肉が宙を舞っていた、桔梗の花弁を思わせる暗色の深い紫の腕裾から先は切り離される。切除された手首はずっと銀の十字架を握りしめたままだった。

 神に背いた大罪だと言わんばかりに十字架に触れる掌部分はほんの僅かに熔解しており。天寿という軛から逃れた者の手首はそのまま、ごとり…っと音を立てて床に落ちた。

 

 

 此度、悪魔城に乗り込んだ戦士達が対峙するは【ネクロマンサー】…死霊使い。では死霊使いとは一体何を領分とする者であるか?

 

 

 【スケルトン】や【ゾンビ】と言った動く屍を産み出し統べる者である。志半ばで散った多くの生者を亡者として蘇らせ、自らの支配下に置く、倫理も自然の摂理にさえも反する邪法を司る者。その在り方はある意味では【"魔王の右腕と畏れられる死神"】とは似て非なる"生と死"を司る存在とも言えよう。

 

 神の徒たる人間を死から目覚めさせ、闇の眷属として再び歩き出す赦しを齎す。地の底の遺骨、死に絶えたばかりの死体、果ては迷える霊魂…死者を使役するのが【ネクロマンサー】。

さて、諸君…考えたことはあるだろうか?その死者を使役するというのは一体"どこまでが適用範囲"なのかという事を。

 

 

 

 霊魂といった精神的な物から人骨という物理的な存在にも悍ましい意志を持たせられるのならば、今しがた床に落ちたばかりの腐肉の塊も自在に動かせて不思議ではあるまい?

 

 

 

 そう、"イェーガーに切り飛ばされた手首"だ…。

 

 

 地に落ちた手首は少しずつ這いながら近づいて行った。目指す先は膝を床につけ白馬神社の蔵にあった鏡を握りしめて神に祈りを捧げる女の子だ。ジリジリと忍び寄る言葉通りの魔の手。

ジワジワと獲物に向かって行く有様は魔王ドラキュラが初めて人類に牙を剥いた日から今日日までの長い歴史の中で…少なくとも"この世界線"では今まで存在しなかった魔物【イビルハンド】に酷似していた。

 

 退魔士達はもう床に落ちた肉塊に眼も向けないだろう、なぜなら切断された死霊使いの腕には"新しい手首"が生えているのだ。古い方の手首が実は現在進行形で動いてるなど思うまい。

 

 

 敵は既に殲滅してこのフロアに今居るのは【ネクロマンサー】ただ1体のみ、宙に浮かぶソイツから目を離さなければ問題ない。…無意識の内にそんな固定概念が出来ていた。

切り落とした手首が"このフロアに居る2体目のエネミー"として動き出して理奈の背後から口を塞ぎ、あるいは首を絞め上げて悲鳴を出させる間もなく気取られずに連れ出す事も可能となるのだ。

 

 

 

 …さて、死霊使いだが、コイツは切断された腕から魔力を使って自力で腐肉の手首を生やすこと―――…言わば肉体の再生が可能だ、蜥蜴が千切れた尻尾をまた生やす様に。

 

これは応用技術だ、大分魔力は喰ってしまうが伊達に死者を司る者を名乗ってはいない。指一本でも遺体、遺骨があるというのならばそこからアンデットを創り出し使役できる…

 

 

 狩人に「死んだ後で再びお伺いするとしましょうか!」などと言いながら攻撃を仕掛けていたがあれもブラフだ、最初から真面目にやり合うつもりなんてなかった。適当に時間稼いで白馬理奈を十分な位置まで連れだしたら"本体"を捨てて"分霊"として動かした手首に自分の意志を移す。

 

 

 

 

【狩人達が戦ってた胴体の方と理奈を連れ早々に脱出した手首の方とで"中身"が入れ替わった】

 

 

 

 同じ自分の肉体、同じ自分の身体の破片だからこそできる荒業。まんまと逃げ果せた手首は相当な量ではあるが魔力と時間を消耗して手首の付け根から腐肉を増幅させて肘を肩を上半身を首と頭部を下半身をと…身体を復元していくという寸法だ。

 

 

 

 

 

 

 

――――呆気なく倒せて当然だ、最初から本気じゃなかったし途中からもう足止めできればいい程度の抜け殻になってる。彼奴の実力と狡猾さを見誤ったのは狩人達の方だった…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Holy Shit(糞ったれめ!)!民間人のお嬢ちゃんをバケモンに攫わせちまったなんて…っ!俺がもっとしっかりしてれば!すまねぇっ!」

 

 

 カイは額が割れるのではないかと思える程に頭を地に打ち付けて詫びを入れる。今更こんなことをしても時が戻る訳でもない…それはわかっているが…っ!

 

 

「…私の失態よ、彼女の傍に居たのは私だったのに、敵の気配に気づけなかった…。」

 

 

 ヴェルナンデス家の人間が2人も揃っていても全く以て気取らせなかった。決してこの二人が劣っている訳ではない、あの死霊使いがそれ以上に上手だった。

 

 

「……今は誰が悪いだとかの反省会をしてる場合じゃない、奴を追うぞ。」

 

「追うってアンタぁどうやってだよ?手掛かりなんて何も。」

 

 

 

 

「方法ならあるさ…俺に任せろ。」

 

 

 

 思い出せたことがある。本来の自分が行使できた能力だ。

 

 狩人は仮面の奥で眼を閉じて、意を決して唇を開く。「先に言っておく…俺の手段を見ても引くなよ?」と彼は意識を集中させる…まだ"全てを思い出せてはいない"…だから全部を使う事はできないけれど。幾つかなら狩人は…イェーガー・マーシュマンは行使することができる。ヴェルナンデスの名を聞いた時に起きた頭痛や見ているだけで憎悪の念が沸き立つ【ネクロマンサー】を見た際に脳裏に流れ込んできた記憶の断片。

 嗚呼、間違いなくコレは"自分が使っていたチカラ"だ。

 

 

 

ぶぅ~ん

 

 

 

「…んん?」

 

 

 最初、その音に気が付いたのはカイだった。

 

 

「カイどうかしましたか?」

「えっ、あっいや…なんか虫の羽音みたいなのが聞こえたような…。」

 

 

 

ぶぅ~ん

          ぶぅ~ん

 

 

 

 

「ほら、やっぱり…。」

「…確かに、ですが然して重要な事ではないでしょうそんなことより今は―――」

 

 

ぶぅ~ん

 

 

 

 

ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん

ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん ぶぅ~ん

 

 

 

 

……。

 

 

 フランチェスカの声は虫の羽音で掻き消された。

 

 どこから迷い込んだのか彼女の目の前に一匹の虫が飛んできた。どうにもちょろちょろと飛んでいて鬱陶しい、猛暑日に自室へ入り込んで我が物顔で飛び交う蚊の様に鬱陶しいと眉を顰め…。

否、彼女はその虫を凝視した…このような場所に居るのはあまりにも不釣り合いな昆虫だったからだ。そしてソレを認識した直後、異常性がハッキリと判る程に音が鳴り出した

 

 

 

 

 

 

ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン 

 

 

 

 

 

 

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…! ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…! ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…! ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞわっ

 

 

 

 それを見た瞬間、弟のカイは顔を引き攣らせて全身に鳥肌が立った。…油の切れたブリキ人形の様にギギギっと首を動かして姉の方を見やるが姉上は平然とした顔で目の前の光景を眺めて――いや、違う、よく見ると姉上1ミリも微動だにしてない、時が止まった様に硬直してる、なんなら悪魔城に来て初めての汗もかいてるかもしれない…。

 

 

 

 集合体恐怖症…トライポフォビア、視界一面を覆い尽くす"蟲"がそこに蠢いていた…!!!!!

 

 

 

 

「ひっ、ひぎゃあああああああぁぁぁ~~~~虫だぁぁぁ!?!?キモッ!?っていうかマジできめぇぇぇ!?!?!?」

 

「―――」

 

 

 

 

「…だから、先に忠告しただろうが…。」

 

 

 オーバーリアクションで慌てふためくカイとさっきから瞬き一つしてない…なんなら呼吸止まってそうなフランチェスカを見てイェーガーはうんざりしたようにため息を吐く「俺だってできればこんな事でコレ使いたくなかった…今は緊急事態だろう…。」と二人に聞こえてるかどうか分からない呟く。

 

 

 緑色の羽蟲、それは時として"聖書"にすら載る十の災い、蝗害という厄災の津波として大地を巡り豊穣の恵みを喰らい飢餓を呼ぶ者、それは時として黙示録に記されし天使が呼び出した者であり、それは時として疫病を齎す蟲たちの王でありレクイエムを奏でる者の眷属…いずれも共通してそれらで語られる際は人類に群れで襲い掛かったとされる存在――イナゴである。

 

 

 

 

 

「――支配の力(タクスティカルソウル)…我が命に従い集え【アバドン】!」

 

 

 

 

 狩人は呼び出した蟲達を見渡す…あぁ、やはり衰えている。"思い出せた記憶の中では"もっと大きくて勢いのある蟲達だった、少なくとも人間の血肉を喰らい殺せるくらいにはもっとデカい個体だったが…数だって全然少ない、これでは精々以て畑一つ分の稲を全滅させられるかどうか程度だ。間違っても悪魔城の魔物を食い殺せはしない、【スケルトン】の骨すら噛み砕けんだろう弱体化だな。狩人はそう思った。

 

 イェーガーは理奈が跪いて祈っていた場所を指さし、呼び出した物の怪に命令を下す。

 

 

「【アバドン】よ!命ずるそこに居た者の『匂い』を辿れ…!俺達を理奈の元へ導け!」

 

 

 戦闘には使えずともこういう使い道はある。まだ理奈の『匂い』が残っているのならイナゴ達に追わせればいいのだと、イェーガーの号令の下、蟲は一斉に匂いを追って跳び始めた行き着く先に恐らく理奈も死霊使いも居る筈だ…。

 

 

 

―――

――

 

 

- side 理奈 -

 

 

ゴッッッ!!

 

 

 

「あぐっ!?」

 

 

 重い拳が飛んできた。それを受けた私は2m後ろの壁に叩きつけられる、背中が痛い…。 意識を失う直前に覚えていた事はあのフロアで突然背後から手が伸びてきたこと…ただそれだけで目覚めたら目の前には忘れもしないこの男が居た…ッ!私にとって"日常"を壊していった全ての元凶とも言える老人が…!!

 

 

「今のは軽い挨拶代わりだ、再会を祝した、な。…まさかあれだけ痛めつけたってのにしぶとく生きてるとはなぁ?」

 

「ダリオ・ボッシ…ッ!!」

 

 

 今の私は縛られてすらいない…捕まったのに身体の自由を奪われていないっていうのは相手の高慢さと絶対さの現れなんだと思う。

炎を自由に操れる老人と直ぐ後ろには……もう一人、スーツを着た男の人が居る…。私一人じゃこの場所から抜け出す事なんて無理なんだろうって物語ってる証拠だわ。

 

 

「さぁ本物の鏡を出しな。アレは日食の中と"外"を繋ぐ鍵なんだ…俺達が目的を達成して地上に戻った後もいつでも自由に好きな時に悪魔城に出入りする為の……なァッ!!」

 

 

ドゴッッッッ!!

 

 

「うぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

「おぉ?今の感触、もしかして肩が外れちまったかァ?はっはっはっ!人間の身体はそんなヤワじゃねぇよな!安心しろってテメェが白状したくなるまで簡単には壊さねぇよ、このクソガキ!」

 

 

 

 

「…やれやれ、さっきからお嬢さんを蹴る殴るしてるだけで進展が無いようだが、いつまでこの退屈な茶番は続くんだ?」

「あァ!?んだとテメェ!」

 

 

「私は目当ての物を一刻も早く手にしたいんだ、それなのに大事な案件だから集まれというから来てみれば…時間の無駄遣いじゃないか、ここに居る意義を見出せないのだがね。」

 

 

「あーっ!もう、うるせぇ!!!!そんなに宝探しに行きたきゃ勝手に行きやがれ!このスカシ野郎がッッ!」

 

 

 

 "宝探し"…、彼等がウィズ・ライト教団だっていうのはわかったけれど、この城に何しに来たのかその目的はイマイチ解っていない、断片的な会話で魔王を新たに生み出す為に必要な"宝"を探しに来たって事ぐらいはなんとなく解ったけれど…。ううん、それよりもさっきから分からないのは…――――

 

 

 

「ではお言葉に甘えて先に行かせて貰うとしよう。後でフェアじゃないと喚き散らされても困るので一応聞くがね、来ないのか?」

 

「ケッ!男にはプライドってモンがあんだよ。…このクソガキには俺の古傷を蒸し返したツケを払わせてやらねーと気が済まねぇんだ!!」

 

「やれやれ、坊やに負けたトラウマを想起させられたから憂さ晴らしとは安いプライドだ、では私は失礼させてもらおう。」

 

 

 

「…チッ、野郎め…必ず俺が宝を集めきってそれからぶっ殺してやる。 んでテメェはいい加減に吐く気になったのか、あァ!?」

 

 

 

ガッッッ!!

 

 

 

「―――っっっ!!だ、だから…さっきか、ら分からないって言ってる、で、しょ…。」

 

「しらばっくれてんじゃねぇ、テメェから漸く鏡を奪い返したってのになんだコレは!?"何の力も無い唯の鏡"じゃねぇか…!」

 

 

 ガシッ!

 

 

「い、痛い…髪引っ張らないでっ!!」

 

「となりゃ考えられる事は一つだ!よく似た鏡を城内のどっかからか見つけてきて奪われねぇ様にソレとすり替えた!そうなんだろうッ!?えぇ!!いい加減に白状しろってんだ!!」

 

 

 

 

「だ、から…本当、に…なん、の、ことか…わか、ら、ない。」

 

 

 

 

「…ッッ!!―――………強情だな…クソガキ、ここまで来ればいっそ尊敬に値するぜ、本当に。」

 

「これでも女だからっつーことで俺は優しく接してやったんだぞ、腹に膝蹴りを入れたり歯が全部折れるまでツラを踏みつける程度の穏便さで済ませてやるかってな。予定変更だ。」

 

 

ボォォォォォォ…!

            メラメラ…!

 

 

 

 【ダリオ・ボッシ】はそう告げると私の頭を掴んでいない方の手を私の目の前に翳す。種も仕掛けも無くこの老人の片腕は人体発火現象を起こしてあっと言う前に目と鼻の先には轟々と燃える丸太よりも太い悪魔の左腕が現れた。熱がチリチリと鼻先を焦がす様に漂ってくる…っ!

 私は生物としての本能で目前に迫って来ている火から逃れたい一心でどうにか顔を背けようとするけど矍鑠な老人の右手がそれを許さない。

 

 

 

 

「男女平等ってのはやっぱ大事だよなァ、皮膚を丸々焼いてやるよ、その次は目ん玉だ指突っ込んで直火焼き(グリル)にして次は舌だ。日本にあんだろ?あー名前忘れたが牛の舌を焼く料理?それとも耳か?」

 

 

 

 

 あ、あぁ、悪魔の片腕が迫って来る…。

 

 いや…ヤダ、誰か、助けて、助けてっ! 助けてっっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、ダリオ…何をしているのですか?」

 

「あぁん?」

 

 

 ――――…っ 炎が遠ざかる…。この残酷な老人は声を掛けられた方へと顔を向けた、同時に私も今この瞬間だけ"皮肉にも"救世主になった相手に視線を向けた。近所の山道に自生していた桔梗と同じ色合いのローブ姿、同じ血の通った人間とはとてもじゃないけれど思えない不健康な肌の色をした化物。

 

 

 

「手首だけの状態からこうして肉体を復元させるまで時間と魔力を費やしましたね、まったく。…ところで姿が見えませんが彼は?」

 

「ケッ、あのスカシ野郎なら先走ってお宝探しだ…!」

 

「そうですか、それで貴方は行かないのですか?彼に万が一でも遅れを取る可能性は?」

 

「誰が先に集めきるか早いモン勝ちなのはわぁってる、けどな…このクソガキからは本物の鏡を奪い返さねぇとならねぇんだよ。」

 

 

 本物の鏡?と【ネクロマンサー】は不思議そうな顔で鸚鵡返しの様に聞き返した。気怠げにダリオは事の経緯を…私が例の鏡をそっくりな鏡に入れ替えて城の何処かに隠しているんだと声を荒げて主張していく。一通り聞いた後、顔を隠した幽鬼な怪物は私とこの老人との間で互いに齟齬が生じている事に気づいたようでそれを紐解く様に次の言葉を発した…。

 

 

 

「あぁ、なるほど…!それは貴方の勘違いですよ。」

 

 

 

 

 ピタリ、時間が止まったような気がする…。その場に居た誰もが暫し固まった様な錯覚を覚えて、その硬直から解放された私はある意味予定調和とも言うべき状況…至近距離で耳の鼓膜が破けそうな程の老人の叫びを聞いてしまった。耳がキーンとして前半分は何を言っていたんだかさっぱりだけど「どういうことだ!」とか「説明しろー」みたいな内容だったんだろうなぁって私は思うの。

 

 

 

 

「何、簡単な話ですよ…別にその鏡はすり替わっている訳ではありません―――――単純に鏡の力が其方の娘の魂と融合しただけですよ。彼女は"鏡巫女"に成っただけです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体何を言っているんだろう。言葉を一字一句、噛みしめて理解するまでに時間が掛かった。

 

 

 

「神降…東洋の降霊術の一つですね、神宿り、イタコの口寄せだのと色々な名称はありますが。」

 

「才覚のある女が巫女としてその身に神霊を憑依させ神託を授かる…西洋魔術や教会の信仰による力とはまた異なる、かの国で生まれた特異の術式ですね。」

 

 

「彼女は白馬の血筋―――朝廷の時代より天照大御神(あまてらすおおかみ)と縁のある神事の家系に生まれた娘…おそらく"適正"があったのでしょう。幸運ですよ?血の繋がりとは別口で"適正"が要りますから。」

 

 

 

 

「お前は知らないだろうがこの城には瘴気という物があってな、常人なら普通は居るだけで衰弱していくんだ。だがお前はそうじゃない。」

 

 

 荒城の回廊を歩んでいた時にイェーガーさんと話していた内容が私の脳裏に浮かんできた。

 

 

 

「白馬家に生まれた女、ただそれだけでは"鏡"に選ばれはしません。血筋だけでは意味を為さない…魂が適合するかどうかなのですよ。」

 

「背が高くても運動音痴な人間はスポーツマンになれないでしょう?同じことですよ……『遺伝子』と『魂』の二つ、これが歯車の様にかっちりと真の意味で合わさっていないと意味が無い。」

 

 

 

「どうだろうな、生まれが神社はあまり関係ないと思う、巫女でも倒れた者は過去に居たしな。」

 

 

 

「仮に血の繋がりだけ…遺伝子だけはあったとしても、それだけでは鏡の力を取り込めない上に悪魔城の瘴気にさえ耐え切れるとも限らない。闇に耐性を持つ貴女は選ばれた人間ですよ、おめでとう。」

 

 

 

 

 言葉が、出ない。

 

 

 

「…するってーと何か?このクソガキが鏡の力を吸収しちまった所為でコレはどこにでもある安っぽい鏡に成り下がったと?」

 

「そうなりますね。この娘自身が意識してたのか無意識だったのかは知りませんが貴方の話では確か神社の蔵で貴方に渡すまいと強い意志で持ち続けていたのでしょう?案外その頃からでは?」

 

 

 

 

「ふっ…ふざけるなぁぁぁぁぁァァァ!!!どうしてくれるんだ!!地上に戻った後も自由に持ち運べて好きな時にいつでも悪魔城に行くことができなけりゃ気に入らねぇ国のど真ん中でゲート広げて街中を魔物だらけにすることだってできねぇだろうが!!!」

 

 

「ハァ…騒がしい、それなら鏡の力を元に戻せばいいじゃないですか。」

 

「なにィ!?そんなことができるのか!?」

 

 

「ええ、簡単なことですよ。」

 

 

 

 

 

 

「この娘を殺せばいい。」

 

 

 心底面倒臭そうに、何の感情も籠っていない声色で【ネクロマンサー】は私にとって死刑宣告にも等しい一言を発した。

 




仕事関連で執筆遅れまして申し訳無い。来週可能な限り早めに書けるように善処致す。



『暁月の円舞曲』が遊べるアドコレに一緒に入ってる『Circle of the Moon』から【ネクロマンサー】出演!


月輪での扱いは…な、な、なんとぉ!あのデス様を差し置いて主人公と会話用台詞が用意されているという破格の待遇ッッ!!月輪のデス様は会話台詞が無い上にやろうと思えばガン無視でエンディングを迎えられるというのに…。



尚、当作品内での【ネクロマンサー】は月輪の見た目ではなく『暁月の円舞曲』が遊べるアドコレに一緒に入ってる『悪魔城ドラキュラXX』に登場するXX版ネクロマンサー衣装ですね!!


見た目にどんな違いがあるのか気になる人は悪魔城アドコレを買って早速プレイしてみよう!動画を見るのも可だぞ!!(露骨なステマ感)



※2022.7/8(金) 追記
『悪魔城ドラキュラXX』の【ネクロマンサー】と書きましたが
改めて説明書読み直してみたらステージ4’に登場するボスの名前は【ゴースト】でしたね…。

似た風貌で雑魚敵召喚と第二形態がある事から思い込みで誤情報で書いてしまい
誠に申し訳ありませんでした。名前間違えてごめんねゴースト。
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