星間国家アルグランド帝国の、とある惑星
1人の男が人を訪ねに、とあるあばら屋に向かっていた。
男は武芸の師範だった。
男は、とある貴族の子息に剣を教えるという依頼を受けたが、その貴族家は『あの』バンフィールド伯爵家だった。
バンフィールド伯爵家といえば、周辺の惑星でも有名な田舎領地である。
全く発展しておらず借金だらけ、おまけに今の領主は10歳にもなってない子供らしい。
そして剣を教えるというのもその領主様だ。
しっかり金が支払われるかもわからず、気に入らなければどんな目に会うかもわからない。
だが、安易に断る事もできない。
力がない貴族とはいえ、貴族は貴族。
断ればどうなるか。
考えた男は「借り」がある者に依頼を頼もうと考え、その者が住むあばら屋に向かっていた。
(少々心苦しいが…まあ、あの人なら何かあっても大丈夫だろう。)
「先生ー!安士先生!」
あばら屋の建て付けが悪いドアを叩きながら、ここに住む住人を呼ぶ男。
その住人の名は――安士。男が訪ねた『借り』がある人物だった。
◇
「んで?なんだよ」
あばら屋の中、その住人である安士が畳の上で寝転びながら言った。
それに対し、このあばら屋に訪れた男は安士にジト目を向けながらも答えた。
「先生、私の代わりに貴族様からの依頼を受けてくれませんか?」
「はぁ?貴族ぅ?なんだって俺にそんな依頼持ってくんだよ。お前がやれよ」
安士は鼻をほじりながら答え、指を弾いて男に何かを飛ばした。
その飛ばされた何かを体を傾けることで躱した男は、顔面をピクピクさせながらも答える。
「それがですね!あのバンフィールド伯爵家からの依頼で、まだ子どもの伯爵に剣を教えるという依頼でしてッ!」
だいぶ怒り心頭のようである。
「あーあの鼻くそみたいな家ね。やだやだめんどくせぇ、そもそも何で俺にそんな話持ってきたの?馬鹿なの?」
男は、「鼻くそなのはアンタだ」と思いながらも頭を下げる。
「そこを何とか!先生なら何があっても大丈夫でしょうし!何より暇ですし!」
ひどい言いようである。
「ばっか!俺は暇を潰すのに忙しいんだよ。他当たれ」
「暇じゃないですか!」
「ああそうだ、暇だよ。てか、あれだろ?ようはその貴族の坊ちゃんを弟子にするって事だろ?嫌だね」
男はそれを聞き、溜め息を吐きつつも、己の切り札を切ることにした。
「はぁ…仕方ないですね。」
安士は男を追い払うようにシッシッと手をふった。
「おう、わかったか?わかったら帰れ」
「借金」
「ひょ?」
「借金チャラ」
「マ?」
◇
「しっかしお前も強情だねぇ、まさか借金チャラで報酬も俺が全額もらっていいとか。そこまで嫌か?」
「えぇ、嫌ですね。そもそも報酬もちゃんと貰えるか怪しいですし」
結局、安士は男からの依頼を受けることに決めた。
借金チャラで。
「まあ、他でやってるようなお手本剣術でも教えてテキトーにやりゃいいか」
そう答える安士に男は何か言いたげだった。
「なんだよ、貴族の坊ちゃんならそれで十分だろ?一年くらいで免許皆伝!とかいっときゃいいんだよ。」
「先生は…」
「ん?」
「先生は今のままで本当にいいと思っているんですか?」
安士は長い、長い溜め息を吐きつつ答える。
「はぁ〜〜〜〜、そんなこと言われてもよ、もうやる事もないし他にやりたい事もない。抜け殻だよ、俺は。」
「確かに、確かに先生はもうこれ以上はないかもしれません。しかし他の者なら…」
安士はその言葉に少し圧を強めて言う。
「弟子を作る気はねえ。何度言ったらわかんだ、誰もついてこれねぇよ俺の修行には」
「ですが、貴族なら高級カプセルで体は頑丈なはずです。別に今回の件で弟子を、と言っている訳ではありません。先生が気にいる者がいる筈です。」
「はぁ、何で詐欺師やら香具師やら言われ放題の俺にそんな構うかねぇ、いつもお前の弟子とかめっちゃ睨んでくるんだけど」
「それは先生が手加減しないからでしょう。一般人や私の弟子達には理解できませんよ。」
安士は小遣い欲しさに、偶に大通りなどで、己の剣の腕を披露するのだが…
ある一定の実力者でなければ理解できないような、側から見ればまるで"大道芸"や"手品"にしか見えないような事をやっていた。
そもそも、その"一定の実力者"が非常に少ないのだが。
「剣に対しては誠実にって決めてんだ俺は。手加減なんてできねぇよ」
男はその答えに肩をガックリ落としながら
「なぜその真面目さを普段の生活に活かせないのか…」
(そもそも、剣に誠実なら小遣い稼ぎに使うのはアウトなのでは…?)
安士がそれに対し、「褒めるなよ」とか言いながら鼻を擦ってるのを無視して男は改めて安士を真っ直ぐに見つめた。
「な、なんだよ…」
「先生、私は貴方ほどの方が腐っていくのを見ているのが悔しいのです。どうかこの依頼での"出会い"が貴方の何かを変えてくれる事を祈っています。」
「お、おう、何だよ気持ち悪りぃ」
安士は少し恥ずかしくなり茶化すが、男はなおも真っ直ぐ見つめてくる。
安士はその眼差しに根負けしたのか。
「わかったわかった、まあ真面目に取り組むよ。」
男はその答えに安堵した…が
「ま、その坊ちゃんを気に入ったらな。だが、もし…その坊ちゃんが典型的な"お貴族様"なら…」
「な、なら…?」
男は喉をゴクリと動かす
「潰すわ」
男は頭を抱えた
面白くできる自信がないぜ!