もし安士が『本物』なら   作:県政

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リアム視点
というか、基本リアム視点になると思います


一閃流

「うわ予想以上にガキだなぁ。ま、よろしく頼むわ」

 

それが、オッサン――安土が俺を見た第一声であった。

 

 

 

なんだこの無礼なオッサンは、死刑にしてやろうか――とは思ったが、ブライアンと天城が俺以上に怒っていたので、ひとまずは許してやることにした。他の人が怒っていたらこっちの怒りって落ち着くよな

 

それに俺を強くしてくれるかもしれない男だ。

多少は水に流してやろう。

 

今は奇抜な屋敷の庭先で、オッサン――安士師匠は俺の前で胡座をかいている。無礼だなこいつ。

 

 無精髭を生やし、ヨレヨレの着物姿。

 

 まるで浪人だが…マジで浪人だろこれ。

 

浪人風の姿、死んだ魚のような目、軟派な雰囲気、覇気のなさ。

 一応、腰に刀と"木刀"を差してるようだが…どこからどうみても強そうには見えない。

 

これが本当に、本物の武芸を身につけた男なのだろうか?怪しい。

 

だが――権力者を前にしてもこの余裕、己の強さに自信がある本物か――それともただの馬鹿か。

 

「おい、坊ちゃん」

 

は?坊ちゃん?俺のことか?しかも「おい」だと?まだ子供とはいえ、俺は伯爵だぞ?舐めてるのか?

 

「"リアム様"です。お間違いなきよう。」

 

 俺が言葉を発するより先に天城が安土師匠――もうオッサンでいいや

――を注意した。

 

オッサンは頭を掻きながら

 

「わかったわかった、そう怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」

 

 なんだコイツ、天城を口説いてるのか?殺すぞ

 

「さっさっと俺に剣を教えろ。殺すぞ」

 

 コイツ、本当に強いのか?ただのダメなオッサンにしか見えない

 

「まあ、急かすなや。んじゃ、ちょっと質問いいか?」

 

「何だ、早くしろ」

 

 例え馬鹿でも貴族を前にここまで堂々とはできないだろう、コイツ実は大物なのか?――ッッ!

 

圧を感じた――プレッシャーとも言うのだろうか。

目の前のオッサンは気配から何まで先ほどまでとは全く違って見えた。

 

「"リアム・セラ・バンフィールド"お前はなぜ――剣を望む?お前は貴族だ、確かに嗜む程度には必要だろうが――その様子じゃ、そうじゃないんだろ?」

 

呼吸ができない。歯がチカチカする。意識が飛びそうだ。

何だ?目の前の男は誰だ?本当にさっきまでと同一人物か?オーラが違う。

 

意識が朦朧としてきた時――天城が俺を守るように前に立っていることに気づいた――。

 

「天城、どけ」

 

天城は驚いた様子で振り返ってきた。

 

「旦那様――しかし」

 

「どけと言った」

 

「…はい」

 

天城が後ろに下がった事によりオッサン――安士師匠の顔が見えるようになった。

 

安士師匠は今のやり取りを興味深そうに見ていた。

 

「俺は――!」

 

 俺は――!

 

「俺は力が欲しいッッ!奪われないための力がッ!圧倒的な力がッ!」

 

そして今度は俺が奪う側になるためにッッ!

 

安士師匠は――俺をジッと見ていた。

 10秒か?1分か?それとも何十分か?

 

時間の感覚もわからないほどの圧の中で安士師匠は笑いながら答えた。

 

「合格だ。気に入ったぞ――リアム」

 

それと同時に先程まであった圧が四散した。

 

「はぁっはぁっはぁっはぁっ」

 

俺は重圧から解放されたことにより、地面に手をついて必死に空気を求めて呼吸していた。いつのまにか大量の汗もかいていたみたいだ。

 

「旦那様!」

 

天城がすぐに駆け寄ってきて、俺を抱き起こしてきた。

み、みず…

 

「よく耐えた。まあ、まずは休憩だな。水分補給もしっかりな」

 

その安士師匠の言葉に天城は、いつもの無表情に怒りを乗せて

 

「この後の旦那様の指示次第では即効牢屋行きも覚悟しておいてください。」

 

「おお怖い怖い、まあ俺は休憩の間にまずは実演用の木でも用意しときますかね」

 

俺は天城に屋敷の中に連れていかれながら思った

 

――このオッサン、本物だ――

 

 

 

 

2時間ほど休憩――とはいってもブライアンが運ばれてきた俺をみて「リアムざまぁぁぁぁぁぁ」と泣いたり医者に見せようとしたり、天城が「あの男は即効死刑にしましょう」とを言うのを何とか説得したり、体は休めたがなんだか気疲れしてしまった。

 

今は先もどの庭に天城とブライアン――『あの無礼な男からリアム様を何としてでも守りますぞ!』と言ってついてきた――を伴って戻ってきたところだった。

 

安士師匠は庭に丸太を適当に並べており、今は暇そうに丸太に座っていた。

 

「やっと戻ってきたか、なげーよ」

 

安士師匠はさっきのことは何事も無かったかのような態度だった

 

「安士殿!このブライアン、堪忍袋の緒が切れましたぞ!」

 

「なんだよジイさん、何も無かっただろ?死んでもねーし怪我もさせてねーし」(まあ、この先の修行ではするかもだけど)

 

「なんですと!そのような問題ではございません!」

 

天城が静かだなと思い、様子を見れば睨みつけるように師匠を見ていた

 

「やめろ、ブライアン」

 

「しかし、リアム様」

 

「やめろと言った」

 

ブライアンがションボリしてしまった。お前のそんな姿を見ても誰も喜ばないぞ

 

そんなことより――

 

「安士師匠、先程は不甲斐ない姿を見せて申し訳ない。改めて俺に貴方の剣を教えて貰えないだろうか」

 

「リアム様!?」

 

 ブライアンが叫んでるが、無視だ

この人は本物だ、多少性格に問題があろうが、そんなことは関係ない

 

――俺には力が必要だ

 

「いいぞ、てか、そのために来たんだけどな」

 

安士師匠は立ち上がり俺たちに近づいてきた

 

ブライアンと天城は警戒しているようだが、何も問題はない

この人がその気なら俺たちはもうこの世にいないだろう。

 

「修行を始める前に、まずはどんな剣を習うのか見せておこうと思ってな」

 

と言い、十数本とある丸太を見せてきた

 

これを全部切っていくのだろうか

 

「チェックさせてもらいます」

 

と天城は言い、何らかの端末を取り出した

 

「天城、それは?」

 

「これで詐欺行為に使用される道具を感知します。よろしいですね?」

 

魔法的な何かで感知できるのだろうか

 

師匠は笑って

 

「おう、いいぞ」

 

と答えた

 

「このブライアンも怪しいところがないかチェックいたしますぞ!」

 

と、丸太を調べ始めた。お前は大人しくしていろブライアン

 

 

「どこにも怪しいところがありませんね…」

 

ブライアンは何も見つけられなかったらしい、当たり前だ

 

「しかし、安士殿は刀ともう一本、木刀があるのですな…むむ!もしやそれに何か仕掛けがあるのでは!?」

 

「おいおい、疑いすぎだろ、そうだなせっかくだしこれを使うか。ほらよ思う存分調べな」

 

ブライアンは木刀を調べ始めた、早くしろ

 

「この木刀を使うのですか?うーむ、ですが本当にただの木刀ですな」

 

安士師匠はブライアンから木刀を受け取りながら答える

 

「そうだな、めっちゃ頑丈なだけのただの木刀だ。超一流の剣士は獲物を選ばないからな、これテストにでるぞ」

 

天城もブライアンもすごく胡散臭い物を見る目で師匠を見ている

 

「よし、ちゃーんと見ておけよリアム」

 

「はい」

 

やっと安士師匠の実力が見られる。つい2時間前の出来事からその実力は本物だとはわかるが、剣士としての実力は、まだわからない

 

しかし、ただの木刀で本当に丸太を切れるのだろうか

師匠は木刀を手に持ったまま自然体だ

丸太一本ずつをその技量で叩き切っていくのだろうか

 

瞬間――場の気配が変わる

 

ブライアンも、機械である天城も気付いたのだろう

緊張感のある目で安士師匠を見ている

 

これが達人の気迫というものなのだろうか

 

そして――

 

「一閃」

 

師匠は一言呟いただけでこちらを振り返ってきた

先程の気配も消えている。

何だ?何かしたのか?

 

「どうだった?どうだった?俺を讃えよ」

 

「安士殿、何かしたようには見えませんでしたが?」

 

ブライアンが呆れたように言う、その通りだ、何の変化も起こってない

 

そして、俺は天城が静かだと思い目を向けてみたら

――驚いた、天城が目に見えてわかるほどに表情を変えていたのだ

目をまん丸にして、天城がいう

 

「全て――斬られています」

 

「え?」

 

「丸太が全て斬られています」

 

瞬間、全ての丸太が縦に割れていく――いや、天城の言う通り、斬ったのだろう

丸太の断面図は綺麗で、丸太ごとに全て違う太刀筋で斬られている。

木刀の届く距離ではないし、そもそも木刀が動いたのが見えなかった。

 

「端末は…何の反応もありません」

 

「何ですと!?盆栽が趣味のこのブライアンが全てチェックしたのですぞ!?」

 

天城とブライアンが言う。ということはこれは何もタネも仕掛けもないという事だ。あと盆栽が趣味は関係ないと思うぞブライアン。

 

「まあ、上手く斬れすぎて時間差っぽくなるのが欠点だな」

 

安士師匠がことも何気に言う。すごい!すごいなファンタジー世界!

こんなに凄い技があるなんて思いもしなかった!

 

これを極めれば俺は強くなれる!

 

あ、それはそうと

 

「師匠、これは一体、何という流派なのですか?」

 

師匠は少し――ためらいがちに答えてくれた

 

「一閃流――この世で最も愚かな流派さ」

 

 




小説ってむず

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