【Epic of Guinevere】 作:餅米
B part :その他 で物語が進んでいきます。
暫し、お付き合い下されば幸いです。
→ A part
産まれてこの方、その少女に人権などあってないようなものだった。
意思を持たず淑女のように頭を垂れ、主人の意に従いなさいと、そう在れかしと望まれた。
そうでなければ生きる価値がないと教えられて生きてきた。
上の地位に立つ者の使命とは様々だ。
国の存亡、或いは繁栄。安寧か、又は権力の場合もある。
純粋に武力を求めるか。
早い話、彼女の父親は理想に殉じる性質(タイプ)の人間だった。
ーーそして、己は何を言いたいのかというと。
あ〜〜やってらんね〜〜〜。
この時代マジ生きてくの無理ゲーすわ〜〜〜、という事である。
耳を小指でほじりながら、白目を剥く。
なんだか全世界に中指をおっ立てたい心境であった。
気怠げに背凭れに寄り掛かり、草臥れサラリーマンよろしく足をガニ股に広げて項垂れる。ぽいぽいと靴をその辺に放り投げて素足のまま地に足を付けた。ーー淑女?んなもん産まれた瞬間にドブに棄ててきたわ。
人権とか何それ美味しいの状態の環境に、ハッピークソ世紀末世界のせいで満足に家出も出来やしない。
そもそも何なのあれ。レーザーとかビームとか喰らってそれでも生きてるとか、あれ人間?
クレーターが幾つも形成された大地を前に、何あれ怖いと戦慄したのも記憶に新しい。人間の手で生み出された核爆弾並みの攻撃から普通に生還する蛮族たちよ。素直に死んどいて下さい、頼むから。
嘗て「ちょっとした思い付きで誘拐しちゃったの、メンゴ⭐︎」と父によって組織された私兵に秒で捕まり、両手両足を拘束されたどっかの王子様(笑)の事まで芋蔓式に思い出してちょっと遠い目をする。
誘拐されて実家から連れ去られた時はよしきた〜〜〜!やれ〜〜!ぶちかませ〜〜!!とか大興奮だったのに、か弱い幼女をちょっとしたデート気分で戦場に連れ出すとか何考えてたんだろ、アイツ。
人と人との殺し合いを観賞させるとか普通の幼女だったらヘタすりゃトラウマもんだったぞ。
隣で恍惚とした笑みを浮かべて戦いぶりを解説し始めた王子様(笑)は正直、唯の気狂いだったし。
目前で繰り広げられた大乱闘△△ッシュ〇〇ザーズは何時の間にか血を血で洗う凄惨な現場となり、私兵に回収されるまでゲロと血臭と砂埃塗れた地獄の戦場と化していた。
ありゃあいけねえ…普通の戦争がかわいいキャットファイトに見える日がくるなんて誰が想像するだろうか。
放送禁止用語とモザイク処理乱用が必要になる光景なんておじさんちょっとついて行けないよ……。
ガワだけでも超絶美少女だったのに公衆の面前で盛大に吐き散らかしたのは美少女的にはちょっと。いや、かなり黒歴史になったかもしれない。
王子様(笑)も、うわっ汚ね!エンガチョ〜〜〜って顔してたしーー閑話休題。
何時からこうなったのか。今ではもう思い出せない。
窓も扉も全面鉄格子仕様。罪人みたいに常に見張りが出入り口に立ち、用事がある時以外はほぼ監禁状態の状況じゃあ満足に出歩く事すら叶わない。
ーー差し詰め、今の己は「籠の中の鳥」といったところか。
まったく、糞みてえな話である。
記憶の中の父は何時も冷たい目をしていた。
お前に「意思」など必要ない。【感情】というものすら、無用の産物と言って憚らない人だった。
そういう父だった。甘えを廃し、無駄を切り捨て、そうして今は亡き主から国の統治を任命されるに至った男。
カメリアドという土地を領地に持ち、職務に忠実に取り組む血の通っていない鉄みたいな人。
そして恐らく娘の【変化】にも気付いているのに、それでも平素と変わらぬままに接してきたーー己には生涯を賭しても理解出来ないだろう人種。
「私の役に立て、ギネヴィア」
そう語った男の顔を今でも鮮明に思い出せる。
ーーあの瞬間。
あれが人生の難易度ルナティックモードに突入した瞬間だったと今でも思う。
人並みの生活を送りたいというささやかな願いも、こうしたいという儚い思いすらも悉く捻じ伏せるように。生じた反抗心を手折るみたいに押し込められて、閉じ込められた。
此処は何者にも害されないが何も出来ない、させて貰えない隔離された世界だ。「籠の中の鳥」宜しく鉄格子越しの世界を眺めている事しか出来ない。
例え【未来】の知識を有していても。負けん気で世界を変えようと努力しても。
今の己ではこの「籠の中」ですら、満足に飛び出せずにいる。漫画や映画と違い現実はかくも己に厳しく思い通りにならない事の方がきっと、ずっと多いのだろう。
時折、思い出したように外に連れ出されたかと思えば煌びやかなドレスを身に纏わせ、客人の接待をさせられるーーその度に痛感してやまない。
嗚呼、あの無機質な双眸は。無関心を示す態度は。
お前の価値など、そんなものだと告げているのではないか、と。
………ッ。
きゅっと、薄い桃色の唇を噛み締め拳を握る。
「私の役に立て、ギネヴィア」
そう言った男の顔は、きっとこうも言っていた。
ーー
はあ〜〜〜〜、しんど〜〜〜〜。
という訳で、至福の一服タイムである。
煙草とかそういう趣向品なんてこの世界にはないんですけどね、なんて誰に言ってんのか分かんない独り言を呟きながら淑女にあるまじき気の抜き方をする。
タダ飯食らってんだから、働けって?あ〜〜わかりますわかります。でも最近ちょっと精神に負荷を掛け過ぎなのでは?ん??というのが最近のもっぱらの悩みなのである。このままでは近いうちに確実に胃に穴が空く。
すくすくと育ち、御年十五歳となったぴちぴちぎゃるギネヴィア姫は縁談にてんてこ舞いのメンタルブレイクで毎日が絶賛地獄週間なのであった。
も〜〜〜、これが嫌で嫌で嫌で。冒頭の通り、やってらんね〜〜〜〜から一向に思考が進まないのが現状であった。
お陰様で父レオデグランスとの対面もグッと急上昇し、美味くもない豚の餌を味のしない舌で味わっている。まったく生きた心地がしない。
どうせこっちに拒否権なんてないんだから勝手に進めてくれりゃ良いのに、とはここ最近のギネヴィア姫の心境であった。
態々、部屋から連れ出されて有無を言わさず着飾られたかと思えばしたくもない笑みを唇に敷いて。
嫌悪感に全身に鳥肌を立てながら、そっと相手の接吻を甲に受けたりするのだ。
そうして一日の終わりに安堵する。ーー嗚呼。今日も生き延びた、と。
この時代の女性の立場は、けして高くはない。
他国に嫁ぐことで国と国の渡りとなること。男の慰み者となり、優秀な子を孕むこと。見栄えが良ければ尚良い、と吟味する双眸は告げていた。まるでオークションに出品された品物の気分だ。……まったく不愉快な話だが。
奪い合いの毎日の中、被害を被るのは何時だって立場の弱い弱者だ。彼等に拒否権なんかない。
常に搾取され、失い続ける運命にある。ーー時に生殺与奪の権利すらも。
項垂れていた顔を今度は天へ向けて、何気なく天井を見つめる。
染み一つない大理石で出来た天井は今日も今日とて代わり映えのしないものだ。
何千、何万と眺めてきて、そして同じ数だけ打ちのめされてきた。
此処から逃げる術を持たない己には天を仰ぎ項垂れる事しか出来ない、とーーあと幾夜。無力感に打ち拉がれ、肩を落とさなければならないのか。
………嫌になるわー、ほんと。
一度、深く溜息を溢してーー切り替えるように勢いよく立ち上がる。
勢いをつけ過ぎて反動で椅子が揺れた。ガタンと静寂の中いやに音が立ち、出入り口を見張る近衛兵に扉をノックされる。が返答を返す前に地面が大きく揺れて体勢を崩した。続いて衝突音。ーーまるで固い何かが思い切りぶつかった様な。
……え!?そんなに思いっ切り起き上がったつもりないんですけどお!?
あまりに大きな揺れに立ち上がっていられずにその場に尻餅をつく。
尾骶骨を強かに打ち付けて悶絶していると、すぐさま出入り口から近衛兵が雪崩れ込んで来た。
「ギネヴィアさま!お怪我はございませんか!?」
唇を噛み締め険しい顔を晒す己に駆け寄り、そっと膝を折った男は手を伸ばして怪我の有無を確認しようとしてくる。が、場所が場所というか。いや、ちょおっと尾骶骨を強打したくらいでそんな心配されると申し訳ないっていうかね。だいじょぶだいじょぶ時間が経てばなんの問題もないから。
突き刺すような尻の痛みを堪えながらなんとか微笑み掛かければ彼は何を思ったのか、ぐっと眉間に皺を寄せ俯いてしまった。
「貴女は…ッ!」とか「王は何故こんな仕打ちを…」とかぶつぶつ呟いているがどれも声が小さ過ぎてよく聞き取れない。あ?なんだって??
首を傾げて肩を叩こうと伸ばした手を逆に掴まれて思わず息を飲む。男は一瞬の逡巡の後、首を振って立ち上がるように促した。
「詳しい状況は読めませんが、此処は危険かもしれないーー直ぐに移動します。…立ち上がれますか?」
切羽詰まった声音に嫌な予感がじんわりと首を擡げ始め、顔を上げた己の鼓膜に届いたのはーー何かの、喧騒?
「ーー!こちらに。急いで!」
半ば強制的に引き起こされると同時に、二度目の衝撃。今度は腰を支えられて転倒を免れる。鉄格子に覆われた窓から見える世界は一瞬で騒々しくなった。
はるか遠く、城壁の一部が倒壊しているようだった。青空の下、細く靡く白い煙がその衝撃を物語っている。
「これは、……」
思わず絶句し息を呑んでいると男が身体を引き寄せてきた。反射でビクッ、と身体を震わせてのろのろと緩慢な動作で顔を持ち上げると、彼は強張った顔のまま顔を近付けて背後を視線で示す。
ーー恐らく、と震わせた声音は掠れて聞き取り辛く数秒の間を置いて再度、唇を湿らせた男は潜めた声で呟いた。
「ギネヴィアさま。…恐らく、敵襲と思われます。ーー良いですか。今から御身を安全な場所までお連れ致します。私の傍からけして離れないで。必ず、お護りしますから」
敵襲、という言葉にごくりと唾を飲み込む。
三度目の衝撃にはさして動揺を覚えず、銅鑼が掻き鳴らされる音と怒号のような喧騒に頭からスウ、と血の気が引いていくのが分かった。ーー戦争。
嘗て遠目からでも見た、あの生々しくも凄惨な出来事がこのカメリアドでも行われようとしている。
鉄格子越しではあるものの何時も見ていた光景が破壊されようとしている現実に全身に怖気が走った。抑えようもなく身体が小刻みに震えてしまう。ヤバい、滅茶苦茶怖い…!
ギネヴィアさま、と案じるように声を掛けられて思わず唇を噛み締めた。
幼少時ではあるものの、一度触れた戦場の空気に嘔吐するような粗相は犯さなかった。だが完全に萎えてしまった足腰に力が入らず、焦れば焦るだけふらりとその場から蹌踉けてしまう。
ヴウウゥウウア、足手纏イィイイイ……ツ!!!!!
とうとうバランスを崩し手を着いて地面に座り込んでしまった己を見つめて、男は支える事も出来ずに空振った手を握り締めて目を伏せた。ほ、本当にすみませんね役立たずで…!!
呆れていやしないかと申し訳なさで滲む涙を零さぬよう震える声音で謝罪し、情けねえと項垂れていると慌てて首を左右に振られる。
そりゃ文句とか言えないよね!?不敬だもんね!ごめんね!?と、慌てて四肢に力を込め、藻掻くように地面に爪を立てて立ち上がろうと苦心する。行動で示せ、行動でーーと己を鼓舞するうちに慌しい足音が接近して来ている事に気付いた。
「ッ……!ーーク、ッ!」
悲鳴を飲み込んで口を抑える己を見遣って男は帯刀していた剣を鞘から抜き放つ。そっと唇に人差し指を当て、静かにしているように示すと足音を殺して出入り口に張り付いた。油断なく構えを取り、勢い良く扉を開けて飛び込んで来た男に猛然と斬り掛かる。
「ーーぶっわ!!ちょ、隊長!俺っすよ、俺!」
間一髪、振り下ろされた剣を鞘で受け止め弾き返した男が声を上げた。
男と同じ鎧を着用し、兜を抜き取った男は零れ落ちた金髪を汗で貼り付かせながら荒い呼吸を繰り返している。口元を引き攣らせ、距離を取るように二、三歩踏鞴を踏んだ男は大きく深呼吸をして胸を撫で下ろしていた。
対して拍子抜けしたように剣を下ろし構えを解いた男は敵襲でない事に気付くと、どっと肩の力を抜く。まったく人騒がせな、と呟いた言葉に全力で同意したい気分だった。心臓に悪すぎる。
「何故、お前が此処にいるのだ、ウェイン」
「ウェールズの者が宣戦布告してきたんスよ。あの三発の砲台は見せしめってやつ。南壁の城壁の六割が倒壊してーー明朝、降伏の宣言がなければ侵略行為を開始するらしいっス。全く、巫山戯てやがる」
つまりは伝令に駆け回っていたらしい。
成る程、と思案げに頷く男にウェインと呼ばれた男は此方に気付いたように駆け寄ると、膝を付いて首を垂れた。
「ギネヴィアさま、御無事で何よりです。隊長が付いているとはいえ、此処は危険なので直ぐに移動致します。大丈夫、我等がお守りしますからねーー御身を失礼します」
わ、と驚く暇もなく掬い上げられてーーそのまま抱え上げられる。くるりと振り返ると危うげのない足取りで歩みを進め、ウェインは男の傍へ歩み寄った。
「よし、行きましょう。隊長」
「ああ」
ぐっと引っ張られ、そのまま前へ慌しく駆け出される。
悲鳴と怒声の飛び交う中、慌しく人の波を掻き分け進む道中ーー己は何か運命の分岐点に立っているような気がして止まなかった。
ギネヴィア様の口調が定まらなかった……。
ところで皆さまはどんなのが好みですか?(純粋な興味)