メトロイド Noise Echoes   作:織姫ミグル

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第11章

 

 

これは世界とそこに存在する全ての宇宙を守るための戦いである。

 

今現在各地で起こっている襲撃は小さいが、それでも数人の犠牲者は出ている。奴らは無差別に喰らい、時には塵にし、少なくとも奴らが全宇宙を脅かす元凶となっている。奴らの無秩序な襲撃を食い止めなければ、この惑星はもちろん、全宇宙に住むあらゆる生命体は、すべからく絶滅する。

 

奴らに銃は通じるが、それ以上の身体能力が軍隊を苦戦させている。奴らは早い、早い上に知能が高い。並の兵士を用いらなければ話にならない。少なくとも、ただ訓練されただけの軍隊では奴らに対抗すらできない。

 

まだこのことは世間には知れ渡っていない。

 

こいつらは従来のノイズとは違って、知性が高い。故に、この地球に住むあらゆる生命体どころか、宇宙全てをの生命体を危機に晒す邪悪な存在になりうると判断する。

 

なお、こちらには今回の件の協力者がいる。その者の助言のもとに、秘密裏に対処して行く。

 

今後、その知性が高いノイズたちの名は【キメラ・ノイズ】と呼称する。

 

そのキメラ・ノイズを殲滅すべく、まずは奴らが潜んでいると思われるアジトへと向かう。これ以上被害が広がらぬよう、奴らの潜んでいるアジトは全て破壊する。

 

以上。

 

 

 

 

 

一月二十三日   風鳴弦十郎

 

 

 

 

 

・・・_

 

 

 

リディアン音楽院の朝は早い。

 

とは言っても、さすがに午前四時は早すぎるだろう。小鳥の鳴き声も聞こえてくるかわからないような時間帯ではどの家も、そして学生寮もまだ静まり返っているのが普通だ。まぁ、農業高校などであれば動物たちの世話や野菜の手入れなどを行うために早朝起床は普段通りの日課であるが、ここは音楽院であるからこの時間帯の起床は早すぎるだろう。

 

 

「···············はい」

 

 

だが、彼女は学校とは関係のない理由で早朝起床していた。

スマートフォンではなく、組織が支給している通信機を耳に当てて小声で話している。通話先の相手の声が渋い声だったことから、おそらくあの司令だろう。こんな時間にかけてくることから緊急招集であることが伺える。

 

通話を終えると響は通信機をゆっくりとしまい、すぐ隣に寝ている同居人を起こさないようにゆっくりと二段ベッドのはしごから降りて行く。

 

誰にも気付かれずただ静かに準備をし、そのまま玄関へと向かっていく。

 

最後に、玄関の扉前で今も眠っている同居人の方を振り向いて声にもならないくらいの囁きでただ一言、

 

 

「···············行ってくるね、未来」

 

 

呟くと同時に、彼女は扉を開けて外へと出て行った。

 

 

「······························」

 

 

だが、横向きに崩れる感じでベッドに沈みながらも、未来は彼女より先に目を覚ましていた。

 

目を微かに開いて壁だけをただ見つめていたものの、彼女は何事もなかったかのように再び目を閉じた。

 

 

 

・・・_

 

 

 

「あ、暑い·····デース」

 

「暑すぎて···············気が遠くなる」

 

 

一月二十三日、そんな日にちを知らせるためのデジタル表示でさえも暑さで壊れかけている。

 

流れる血の池近くの大地に降り立った彼女たちに待ち構えていたのは、猛暑の空気。本来の日本で見られるような光景ではない。夏日の沖縄なんかでも比べ物にならないくらいの規模だった。

 

まるで灼熱地獄。

 

ここは、アイスランドにある火山。彼女たちはそのすぐ近くにいた。

 

目の前には溶岩が広がっている。一応観光はできるみたいだが距離は決められている。だが彼女たちはその境界を超えて立っている。

 

デジタル表示の温度計は特別な作りで耐熱精度がかなり高いが、温度計が測っている温度は摂氏五十五度のまま固まっていた。まるで余熱を溜める石窯に閉じ込められたかのような大熱波が彼女たちを襲う。

 

冗談抜きで全ての機械が熱で破壊され、全てがダウンしてしまった猛烈な灼熱地獄の中に、装者達は唐突に放り出されていた。

 

 

「ゼェ·······ハァ·······」

 

 

荒い息を吐いて汗を服の内側で拭う響たちは普段のS.O.N.Gの制服など着ていない。そういうお利口さんがいれば、ここにきた瞬間熱中症で倒れる羽目になるだろう。いや、熱中症で済むかどうかもわからない。耐熱スーツを身に纏って少しでも熱が体内にこもるのを防いでいる。

 

彼女たちがいるのは、岩がいくつも隆起して雑に作られた自然の道。

 

誰も呑気に地上を進もうなんて考えない。

 

だって、地上に触れたものは死ぬからだ。

 

 

「冗談じゃ、ねぇぞ·······くそっ!!」

 

 

ズシリと重たい感触が背中からのしかかる。

 

雑に設置された鉄鎖は乱暴に岩へと埋め込まれ、簡易的な手すりになっている。装者全員が落ちないようにしっかりと捕まって歩いているが、熱さで気が狂って思わず手を離してしまいそうなほどだった。はるか彼方で直射日光もあって石窯みたいに炙られている空気が装者達の肺を焦がそうと必死になっている。この先は普通の人ではまず進めない。

 

とにかく熱だ。こいつが全部をダメにする。

 

機械類はほぼ全滅する。バッテリーをやられてしまって温度計も役に立たない。なんで政府公認の組織が扱っている機械が壊れるんだよ、って全員が思った。

 

それぞれが同じように汗を拭っていた。本来バラエティーであってもこんなところにだけは滅多に来ないアイドルでさえも汗を拭う。熱を吸った金属パーツはなるべく持って来なかったが、それでも熱い。なにせ今掴んでいるのが鉄鎖の手すりだからだ。素手で長時間触れないように彼女たちは耐熱スーツに身を包んでいるので問題はない。

 

ないが熱いものは熱い。

 

鉄鎖で乱暴に岩に突き刺さっている手すりは、どんどん火口の方へと降りて行っている。鎖の先には人工的に作られたトンネルがあり、距離は五メートル未満のためすぐに着きそうだが、それでも慎重に進まねば即火口に真っ逆さま。普通の橋や綱渡りとは違う。それらと一緒にしてバランスを取るのでは命取りになる。自然と手すりを持って一歩ずつ、一歩ずつとゆっくりと進んで行く。

 

正直ガシャガシャと鳴り響く鉄鎖も頼りない。

 

 

「なんであいつらはこんなところにアジトなんて建てようと思ったんだ!?」

 

「デースッ!!」

 

 

暑さで気がやられたか。設置場所に対して全員が疑問に思った。

 

パヴァリア光明結社が所有しているアジトの一つがまさかの火山の中であった。正確には火山内部に作られた施設か。

 

暑さで思考がぶっ壊れでもしない限り、こんなところにアジトを作ろうなんて発想にたどり着かないだろう。こんなとこにアジト作ろうなんてよほどの変人に違いない。少なくとも、生命保険の勧誘や笑いが取り柄のセールスマンもやっては来まい。

 

極めて大真面目な生死の関わった場面だが、なんだかこんなところに作った錬金術師どもの馬鹿げた考えに頭がショートしそうだった。暑さで頭がやられそうなのに、加えて奴らの常人外れの思考で頭がオーバーヒートしかけている。

 

大人達はいいものだ、危険だから本部で状況確認をしている。今頃涼しいところでこちらを見てるんだろうなぁ、なんて思うとさらに体温が上がる。血が沸騰しそうなほど体が熱くなる。

 

しかし、異常な暑さだ。

 

まだここは人が近寄れるくらい、それこそ観光ができるくらいの温度だったのにその観光場所にまで大規模な熱波が迫ってきて、いまでは誰も近寄れないくらいだった。火山が噴火したわけではない。なのに熱波が徐々に広がっていっている。

 

異常事態だと政府も思っているに違いない。S.O.N.Gが名乗り出なかったら今頃何も知らない調査員達がここに派遣されて、最悪奴らによって塵と化してしまっていたかもしれない。

 

だが、本当に暑い。暑すぎて持ってきた機械類は全部おじゃんになった。

 

猛烈な熱に炙られてクリスと切歌はおかしくなってるのか蜃気楼じみた透明な景色の歪みが発生しているように見えた。あれは自然が生み出した現象か、それとも自分がおかしくなっているのか。それすらも判断できないほどこの状況に呑まれてしまっている。

 

下は死のマグマ。落ちれば即死か、あるいはもっともっと苦しむ羽目になる。こんな小学生の頃の妄想遊戯を実際にやることになるとは思わなかった。なんて冷静に判断できるほどまともな精神状態じゃないのだが、真面目に沈黙して突き進んでいる先頭のサムスがおかしいんじゃないかと思い始めている部分まである。

 

ていうか、片手でこんな危険な綱渡りをしているサムスの精神状態がどうかしている。

 

 

「··············クリス、切歌」

 

「なんスか!?」

 

「なんデスか!?」

 

「口ばかり動かしてないで早くこっちに来い、無駄に体力を奪われる一方だぞ」

 

「いや、わかってんだけど··············」

 

「デース··············」

 

 

うんざりしたように応えるクリスと切歌は、無事谷越えを成功させたサムスがこちらに向かって声をかけてくるのを見る。向こう側の安全を確認すると、他の女子達も次々に目的地の入口へとたどり着く。

 

 

「よ、ようやく着いた················」

 

「五メートルがこんなにも長い距離に感じるなんて世も末なのデース··············」

 

「······················································」

 

 

気持ちはわからなくもないがもうちょっと体力があればこれくらいなんとかなるだろう、と思ったのは先頭のサムスさん。

 

もしそれを声に出して言っていたら、規格外の身体能力があるあんたと一緒にすんな! とツッコミが来ていたことだろう。それを言わなかったのを見ると、今も尚冷静さを保っているようである。彼女の精神状態は本当にタフなようだ。

 

熱にもやられないとは、人を守る防人も恐れいったのか畏敬の眼差しを向けている。

 

 

「それでも·······ほんっと、熱いわね」

 

「うん··············おかしくなりそう」

 

 

額に浮かぶ汗が鬱陶しい。空気を炙る熱も邪魔だ。

 

一滴の水も惜しいのに、手足の指の間までぐっしょり濡れていて耐熱スーツに僅かな水溜りがたまる。

 

瞼に汗が入る。

 

涙に濡れたように景色が滲む。かと言ってこの不安定な状況で、しかも耐熱スーツに身を包んでるためうまく拭えない。

 

 

「····························」

 

 

そんな中、立花響はさっきから全然喋らない。

 

思考が暑さにやられたのか·······頭の中をぼんやり空白に埋め尽くされながら、手先の感覚を頼りに鉄鎖をつかんで進んでいたようにも見えたが。どちらにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「····························びき」

 

「····································」

 

「························ひびき」

 

「···································」

 

「立花響!!」

 

「!? は、はい!?」

 

「さっきからボーッと突っ立ているけど大丈夫?」

 

「あ、はい!! すいません!!」

 

 

耳元でマリアにそう叫ばれて、響は肺一杯に吸い込んでいた過呼吸気味の酸素をまとめて吐き出した。それを見習って、全員が一度吸った空気を全部吐いて思考を正常に戻そうとする。

 

 

「····························」

 

 

そんな中、焼けるような熱も気にせず、さっきからマグマを見つめているサムスは一体何を考えているのだろうか。大地が不安定で、しかも命取りになりそうな場で平然としていられるその体力と精神力だけは司令を超えているかもしれない。

 

 

「ともかく、アジトの入り口にはたどり着けたわね」

 

「ああ、ここからが本題だ。この先に何が待っているのかはわからないが、皆気を緩めずに行くぞ」

 

 

マリアと翼の確認で全員が頷く。

 

サムスの方も全員が渡り切ったのを確認すると、全員を引っ張るように先に人工的な作りの洞窟へと足を踏み入れる。気を緩めてはいないようだが、ズカズカと入っていったサムスに皆が一瞬目を見開く。普通ならおっかなくて慎重に足を進めるはずだが、彼女はなんの躊躇いもなく進んでいった。

 

ともあれ、自分たちも後をついていかなければ。いつまでももたもたしていられない。

 

延々と繰り返すわけにはいかないのだ。いつまでも、未知なる存在に脅かされているわけにはいかない。さっさと問題ごとを片付けて、早く帰って安全を手に入れたい。それは響だけでなく、この場の全員の本音だろう。

 

おっかないが行くしかない。

 

今度は手すりを伝って危険な綱渡りをするわけではない。まだ安定性が確保された施設内へと入っていき、探索を開始するために全員がサムスの後をついていった。

 

 

 

・・・_

 

 

 

暑苦しいアジト内に、短い呼吸がいくつも鳴る。

 

窓もなく、複雑な作りになっている施設内で七人は探索中。中は意外と綺麗だった。なにせ、以前と違って赤い液体が一つもなかったのだ。

 

その代わり、()()()()()()()()()()()()()

 

だが、悲しむ余裕はない。どんなに良心を持っていたとしても、そこに同情の余地はない。彼らの行いは自業自得であり、因果応報なのだから哀れむ必要もない。

 

 

「ここか··············」

 

 

そんな中、一同はアジトのコントロールルームで待機していた。

ここも窓はなく、小さな部屋の四方の壁に何十ものモニタが据えられている部屋だった。アジト内の状況からセキュリティーモードまで、その全てがここで制御されているみたいだ。

 

だが、

 

 

「死んでるな」

 

「え?」

 

「何がデスか?」

 

「この施設のセキュリティだ。ほとんどがオフラインになっているようで、使えるのはフロアマップの確認くらいだな」

 

 

モニタを調べていたサムスがそう言った。

 

装者たちはなんのこっちゃかわからずサムスに頼っていたが、どうやらここの施設管理は軒並み死んでいるとのこと。それはつまり、ここにいた原生生物達が野放しになっているということだ。

 

ここに来たのは殲滅が目的のため。だから一箇所に集まってくれたら楽だったのだが、こうなってはそれぞれに別れて殲滅していかなければならなくなった。

 

 

「厄介なことになったな」

 

 

サムスの言葉に全員が息を飲む。

 

前にサムスにクリーチャー達についての特徴や弱点を教わったものの、実戦経験もなくいきなり奴らと戦うのは避けたい。サムスが一緒にいれば対処はできるだろうが、全員一緒に行動して一体一体倒していっては時間がかかりすぎる。何班かに分かれて倒していったほうが効率がいい。

 

だが、どうするべきか迷う。

 

奴らのデータがなかったので、クリーチャー達の攻撃方法については口頭でしか伝えていない。彼女達はまだ一度もクリーチャー達と戦ったことがない。そんな状況で分かれていいものか。聞いた限りでは彼女達は神様でさえも打ち滅ぼしたと聞いてはいるが。

 

一番手っ取り早いのは、このアジトをもろとも吹き飛ばすことだが、その起爆方法はここでは行えない。この施設の何処かにある駆動炉を暴走させて爆破させるためには、やはり分かれて探索するべきか。

 

何より、フロアマップを見た限りだとここはかなり広い。

 

そんな状況で全員で固まって行動すれば何時間、何日かかかってしまう。平和と秩序を保つことを考えれば一分一秒も惜しい。まだアジトが他に何件か残っているというのにこんな足止めじみたことをされては··············致し方無いか。

 

 

「二手に分かれるぞ」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 

少々焦燥感の混じった声色だった気がする。いや、やはり気のせいか。

 

それにしてもここで各班に分かれての行動に出るか。ノイズや神様を相手にして来た彼女達なら大丈夫だろうと判断したようだが、サムスはわずかに表情を曇らせる。正直あまり任せたくない。任務がどうこうのというよりかは安全面についての部分での懸念があるようだ。

 

以前彼女達と初めてあったとき、彼女達はバーサーカーロードを相手に苦戦していた。ただ単に見慣れない相手だったから冷静に分析もできず、攻撃手段もわからずやられてしまっていたということらしいが、何にせよ彼女達をクリーチャー達のいる場所に放っていいものなのか。今はもう大丈夫と言われても何の説得力もない。

 

できるだけ皆と行動したいが、それも悩む。自分と行動していて全員を守れるかもわからない。

 

だがあまり時間はかけたくない。

 

苦肉の策だなとサムスは薄らと眉をひそめてから、装者たちに言う。

 

 

「分かれるグループはこちらで勝手に決めさせてもらうぞ。まず私と行動するのは切歌と調、そしてマリアの三人だ」

 

「「「!!」」」

 

「このアジト内でクリーチャーどもがうろついている以上、最低一人でも遠距離攻撃ができる奴が必要だ。だからクリスは響達と一緒に行動してくれ。その装備をフルに稼働出来るのはお前達三人だけのようだからな、戦力的に考えたらこういうチームが妥当だろう」

 

 

よくやるパターンのグループ分け。

その分担に皆納得いったような表情を見せる。

 

サムスはそれを確認すると自分のチェックに移る。バリアスーツは正常に起動中。これでどんな環境でも探索にあたることが出来る。本当、いつもみたいに何らかのアクシデントで機能がオフラインにならなくてよかったと切実に思う。

 

サムスはバイザーに表示された見取り図を見て、

 

 

「ここの施設の見取り図を全員の通信機に転送しておいた。部屋はざっと見て七十以上ある。これを全てカバーした上で、内部の施設を一つ一つくまなく探索するのは人数的に不可能だ」

 

 

たった七人、しかもこれから二手に分かれるという手段に出る中で探し回るのは骨が折れる。

 

 

「だからある程度的を絞るぞ。私たちはここから下の階を探索するとして、響達はこのフロアから上を頼む。そして、施設の起爆用装置や大型駆動炉があればすぐ知らせろ。恐らくはでかい部屋に置かれていると思われる。そいつを利用すればここを簡単に吹き飛ばして奴らを一網打尽にできる。だが、まだこの施設内にはクリーチャーどもがうろついているはずだ。やばいと感じたらすぐに撤退しろ。重要なのは自分たちの命、死んでしまっては二度とチャンスはない。生きていれば何度でもやり直せる。それを頭においた上で適宜判断しながら慎重に探索にあたり、何かあればすぐに連絡しろ。そして警戒を常に怠るな」

 

「「「「「「はい!!(デース!!)」」」」」」

 

 

サムスがそう言うと、全員が耐熱スーツを脱いだ。

脱ぐと同時にそれぞれギアを纏い、いつでも戦闘できるように備えておくと同時に耐熱性のバリアフィールドが展開される。

 

それぞれの装備が鮮やかに光る。

 

行き先は上と下。

 

適合率高い組は上へ、そしてギリギリな者達は史上最強の賞金稼ぎを連れて深い階層へと潜っていった。

 

 

 

・・・_

 

 

 

夜半。

真っ赤な大地に築かれたアジトで響達がそれぞれ探索にあたっている頃。

 

繁華街からやや離れた川沿いを、リディアン音楽院の生徒である小日向未来がゆっくりと歩いていた。

 

アイスランドとの時差は九時間、日本の方が進んでいる中で未来は特に目的も理由もなくここにやってきていた。

 

本来であれば学生寮の規約で下校時間とかそこら辺の事情を照らし合わせればリスクの割に何のメリットも感じられない夜間外出。思索に耽るだけなら寮の部屋でも構わないが、敢えてその厳戒態勢の学生寮から抜け出して夜の街を歩いているのは、ひょっとしたら彼女自身がいつもと違った環境、もっと言ってしまえば非常識とか非日常といったものに身を置いてみたかったからかもしれない。

 

所謂気分転換というやつだ。

 

理由は言わずもがな。

 

 

「····························」

 

 

自分がこうしている今も、自分の親友は遠い異国で命がけの任務をこなしていることだろう。

自分もそこに行きたい、そう願って行動したのに何故か自分はまだここにいる。慣れ親しんだ大地に足をつけ、呑気に今外出して何の目的もなく歩いている。

 

 

「··············はぁ」

 

 

切り裂くような夜気の中、白い塊の息を一つ吐き出す。

 

歩いていたらいつの間にかこんなところに来てしまっていたという呆れか、それとも今回の件での自分の不甲斐なさに対して悔やんでいるのか。

 

 

「なんか··············いつの間にかあの時の場所に来てたみたい」

 

 

誰かに言うような口調で独り言を呟いた。

 

ここは、まだ響がシンフォギアを纏って日が浅かった頃、未来が囮になってノイズから必死に逃げている最中に駆けつけた響に助けられ、そのまま川に落っこちて服が汚れてしまった場所。

 

そして、響と共に思い出の一枚を撮った場所。

 

その写真を、誰も眠っていない墓にお供えしたのは今ではいい思い出だ。

 

あれから時間が経って、世の中は大分変わった。自分達の周りだけでなく、世界全体が変わった。全世界がわかり合える、手を繋ぐ世界が実現しようとしている世の中になるなんてあの時は思いもしなかった。

 

そして、自分の親友が世界を救った救世主になるとは思わなかった。

 

自分もそう。

 

まさか、自分が神の依り代にされるとは思っても見なかった。

 

 

「··········································」

 

 

彼女は自分の胸に手を当てる。

固い感触が一つ、『アクセサリー』のようなものが服の内側から伝わってくる。

 

平たく言えば、彼女は煮詰まっていた。

 

親友達に置いていかれるのは怖い、親友の背中を追いかけられるものなら追いかけたい。

 

だが、具体的に何をする? 自分には何が出来る? 『これ』すらも自分の意志では纏えないような人間に出来ることってなんだ?

 

自分は神様の器にされた人間。その跡となるものは今も尚『ここ()に』残っている。それだけを聞けば稀有な人材であるのは間違いないが、逆に言えばそれ以上でもそれ以下でもない。

 

ただの器。神にたまたま選ばれた存在。

 

それ以外には何も持っていない。

 

親友のように手を繋げる力は持っていない、世界から愛されるアイドル的なカリスマ性を持っていない、孤独から救った一つ年上の少女のような力に溢れた戦力を持っていない、二つの刃を重ね合わせるようなチームプレー力を持っていない、たった二ヶ月ほどで世界の頂点を取った天才アイドルのような独創性を持っていない。

 

みんなのように、突出した何かを持っていない。

 

 

(··············どうしたらいいんだろうね)

 

 

たとえ神の力をその身に一時的に宿しただけの存在に、一体何が出来るのだろうか。冷酷ながらも自分はみんなのように戦えるわけではない。

 

力はあっても使い方を間違えてしまったのだ。制御できない力を手に入れてしまったものの運命か。自分の意志では『それ』を纏うことは許されない。S.O.N.Gが下した決定には逆らえない。

 

そこから一歩も先に進めていない。次のステージはもうあるのに、それを周りは許してくれない。

 

自分の安全のため、危険な場所に巻き込まないようにという理由で。

 

 

(私には··············戦う資格はないのかな?)

 

 

小日向未来は悔やんでいた。

 

そして、分からないのだ。

 

今ある道の先にある未来を想像は出来ても、そこに行き着く方法がわからない。どこかの分岐点で自分は何か大きな過ちをしてしまったという自覚があっても、償うための機会が与えられないので反省も後悔も出来ない。

 

自分が乗っている列車が親友達の乗っている列車とは関係のない方向に進んでいるとわかっていても、ではどこでどう乗り換えれば響達と同じ場所に着けるのか、それすらもわからない。

 

そうしている間にも時間は進む。

 

響達は戦っている。

 

まるで、友人と一緒に役者になりたいという夢を抱き、お互いに同じ養成所に入ったものの、友人だけがその養成所の査定のオーディションに合格して正式に所属になって、自分はお払い箱にされた気分。そこから友人と同じ舞台に立つために別の方法を探しても、どこも自分を必要としてくれずに、その間にも友人は活躍している。

 

複数の舞台で大活躍している友人の影にすらもなれない自分に自尊心を失っていく、そんな気持ち。

 

つまり、焦燥感のようなものが胸を焼いている。

 

 

「····························っ!」

 

 

そんなわけのわかんない気持ちに、未来は奥歯を噛み締める。

 

そう。

 

小日向未来の目的は親友がいるレベルの舞台に到達することではないのだ。彼女を支えられるようになりたい、その一心だった。

 

力になりたい、助けになりたいという気持ちが大きい故に私情と言われても仕方がないが、考えてもみてほしい。

 

友人が活躍すればするだけ、どんどん突き放される。

 

置いてかれる、助けになりたいと思っているのにそれさえも出来ない。彼女は自分を置いて、誰も知らない場所へとどんどん向かっていってしまう。

 

 

(だめ··············違う)

 

 

川沿いをしばらく歩いた未来は、いつの間にか『旧校舎』近くにある大きな橋へと足を向ける。欄干から暗い水面へ目をやり、そこに浮かぶ冷たい月を見下ろしながら虚無に近い思考を繰り返す。

 

否定、否定、否定の連続。

 

自分はそんなことを思っているわけではない。純粋な気持ちのはず。

 

世界は常に目の前に広がっている。

 

誰かが悪意を持って行く手を塞いでいるわけではない。

 

夜の街、切り裂くような冷気、水面に浮かぶ欠けた月。

 

規則を破ってでも学生寮の中から抜け出したのもまた、少しでもこのわけのわからない思考を取り除けないかと期待してのことだった。どうしても導き出せない答えからいったん目を離し、軽くジョギングしている最中に求めていた答えが勝手に頭に浮かんでくるような、そんな期待を抱いて飛び出してきた。

 

結果は何もなし。

 

自分に足りていないものを俯瞰しようにも俯瞰するべきものが思い浮かばない。

 

大活躍している友人にたどり着くための決定打が思い浮かばない。

 

 

「··············どうしたら、いいんだろう」

 

 

欄干に肘を当てて頬杖突いても、結果は空振り。

 

結局何も良いことが思い浮かばず、小日向未来は重たくため息をついてまた白い塊を吐き出すだけで終わってしまった。

 

と、そんな時だった。

 

 

「?」

 

 

堂々巡りの思考を断ち切るような現象が一つ投じられた。

 

まるで水面に浮かぶ月を乱す小石の波紋のようなそれの正体は、ぶっちゃけ言って不明。

 

見たままの現象を説明すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だが、ホタルのような緑色の発光ではなかった。

 

()()()()

 

いくつもの青い光が、川沿いにいくつも浮いていた。

 

川沿いにホタルの光が現れるのは全然珍しくはないが、青い粒子がいくつも浮かんでいたら誰だって目を見開くだろう。普通は緑なのに青が空中を漂っているなんて見たことないし、今は冬だ。夏場ならホタルをよく見かけるが、冬の寒い時期にホタルを見かけるなんて普通はないだろう。

 

新種のホタルか? とも思ったが、そんな都合よく新種が現れるわけではない。

 

そして、また不思議な現象がまた一つ投じられた。

 

 

「!?」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

次第にそれは大きくなり、ハンドボールほどの大きさまで膨らんでいた。

 

夜の街に現れた謎の現象。

 

不可解な出来事に警戒度は跳ね上がる。

 

心臓どころか首の血管の辺りからも脈動が響き、肌全体がチリチリとした痛みを放ち始める。正体がわからないのに、すでに危機のシグナルだけを受信している奇妙な状態。

 

警戒心から危機感まで全身を包む。

 

 

「····························?」

 

 

だが、いつまで経ってもそれ以降の動きはなかった。

青い球体状の光はただ一ヶ所に集まってその場に留まっている。未来は漠然と受けていた重圧や緊張が徐々に解け、冷静にその球体の分析をしていた。

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

敵意はないのか、ただ空中に浮いているだけの球体に違和感を覚えるが、特になにもしてこない。

 

でも、何となくだがわかる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

そもそもとして急に現れたこと自体が不可解。何の前触れもなく自分の目の前に現れるなんて、何か明確な意図があるとしか思えない。近くにこの現象を発生させた誰かがいるのか、未来はあちこち首を動かしてそれらしき者を探す。

 

だが、これといってそれらしいものは見当たらない。

 

と、訝しむ未来の前で、ついに『それ』は動く。

 

ゆらゆらと左右に揺れだし、まるでこちらを誘うかのような動作をし始めた。その動作に未来はより一層の警戒心を強める。

 

 

「····························」

 

 

目が離れなかった。

 

警戒を強めた結果、観察して様子を見るという動作に移行したのだとこの時思った。戦えないということはわかっているのに、思わずいつでも対応できるような姿勢を取る。

 

と、また動きが一つ追加された。

 

フワッと、球体が未来の横を通りすぎたのだ。

 

急に近くに来たので一瞬ビクッ!? と肩を勢いよく上げて避けたが、球体は構わず未来の横を通りすぎていく。

 

不可解な現象は遠ざかっていく。

 

だが、まだこちらが視認できる距離で止まっている。それに疑問に思った未来は試しに一歩近づいてみる。すると、球体は僅かに遠ざかった。一歩下がってみるものの、特に動きはなかった。だが近づいたら球体は動いた。どんどん奥へと進んでいっている。

 

未来が一歩近づけばまた遠ざかる、それの繰り返しを何度も球体はしている。

 

··············ついてこいってことか?

 

 

「····························」

 

 

不気味な現象。

 

球体は何を思っているのか、ゆらゆらと左右に揺れていた。

 

未来はそれをじっと見つめている。暗い水面に浮かんでいた月の美しさよりも、目の前の謎の現象の方に釘付けになっている。

 

しかし未来の足は止まらない。誘われているのはわかっている。故に、その謎の現象の言うことを切り捨てるのも簡単だった。

 

のに、こびりついて離れない。

 

不安定が極まる少女は、やがてようやく全てを呑み込もうとした。

 

 

「··············ぁ··············」

 

 

自分は今、どんな顔をしているんだろう? 気がつけば、()()()()()()()()

 

どういうことなのだろうか? 気がつけば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これは正常な思考なのか、もはや彼女自身もわかっていない。自分の足はふらふらと一歩ずつ進んでいく。

 

自我は残っている。

 

その状態の中で、球体からの『何か』を感じ取ったのか、そっと囁くような自問が脳に滑り込んできた。

 

 

─────どうしたいのか?

 

「················································ぇ?」

 

─────親友を救いたくないのか?

 

「················································ぁぁ」

 

 

切り裂くような冷たい夜風に浮かぶ球体は未来を引き連れるように遠ざかっていく。

 

その後を、見逃さないように追いかけていく未来。

 

自我はある。

 

確実に、正確に。

 

それを保っているかのように、未来はその球体の後を追いかけていった。

 

 

 

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