S.O.N.Gの本部はかなり優秀なスタッフがいる。
それに加え、十分な機材に十分な機能を兼ね備えている。二千平方キロメートルまでならノイズの感知、および事件の事態把握が即可能。未知の物質やらも解析可能で、アンノウンという文字さえ出なければもっぱら優秀な解析装置まで兼ね備えております。
「··············ダメでした」
「··············そうか」
幼い声がそう言った。
この施設で技術担当、そして錬金術師でありホムンクルスでもある“エルフナイン”があの島で採取した物質を解析していた。
もっとも、物質といっても七十ナノメートルほどしかない“細胞”のようなものなのだが、
「地球上の物質じゃありません。どんなに資料を探してもデータベースに問い合わせても該当するものがありませんでした」
「地球上でまだ発見も確認もされていない未知の細胞·····················」
「だとすればそれは·····················」
「····························
エルフナインの解析結果を聞いた司令と緒川は細胞の正体について考察する。
「それってつまり··············」
「
「····························信じられないわね」
その物質を発見して持ち帰ったマリア達でさえも驚愕の表情を見せている。
『エイリアン』
たった5文字の単語に、その場の空気が張り詰めた。
しかし、この場ではその表現は相応しくない。政府公認の組織であるならばもっと適切な表現をするべきだ。ここで用いるに相応しい単語があるとすれば、『地球外生命体』と呼ぶのが相応しいだろう。
そんな地球外生命体と思われるDNAサンプルが近隣の、それもあちこちの民家や浜辺で発見された。
············見るも無惨に喰い荒らされた民間人の遺体と共に。
S.O.N.Gが開発した大気や砂浜などに漂う細かな原子や粒子を回収するのにうってつけな機械で近隣を調査した結果、アルカ・ノイズのものとは別に、
地球上のデータベースに載っているどの物質にも当てはまらないのだとしたらそれは、地球の外、すなわち宇宙から来たものと考えるしかない。しかも範囲は人間が探索しきれてない場所のもの。何億、何兆光年と先にあるものである可能性がある。
そんなものが何故こんなところで見つかったのか。
「この騒動の裏で地球外生命体が絡んでいる。そう、思ったほうがいいのか··································」
正直馬鹿馬鹿しいと思いながらもその事実をなんとか受け止めようとする司令。にわかに信じがたいが、神話を模したような事件を幾度も目の当たりにして来た者からすれば、今更SFチックな展開が来ても何もおかしいとは思えなかった。
神話、英雄達の宝具、なんならマルチバースでさえもなんでもありなこの世界では珍しくもなんともない·····················と思いたいが、
「では、あのアルカ・ノイズに襲われたような人たちはなんだ? 地球外生命体が人口的に作られたノイズと同じ能力を持っているとでも言うのか?」
眉をひそめるとより男というより漢らしさが出る司令。そんな彼が今回の事件について疑問に思っていた。
ノイズと同じように人を分解して塵にしてしまう能力を持つ地球外生命体など·················
「映画の通りなら、普通は金属を腐食させる性質を持つ体液を放ってくるものだがな」
「卵を産み付けられたらどうしようデース」
「「「「··································」」」」
別のことを気にしているご様子だった。
とまぁ、何であれ手掛かりらしきものは手に入れた。これを手掛かりと言って良いのかは現段階では判断しかねるが。
「だとしても、まだわからないことだらけね」
「ああ、仮にノイズのように分解することができる解剖器官を持っていたとして、何故捕食されたかのような遺体があったのか。地球外生命体とパヴァリア光明結社は何か関係あるのか、記録が何も見つかっていないのでは何も判断できないな·····························仮説を立てることはできそうだが」
「仮説、デス?」
「ああ、仮説でよければ聞いてもらいたいのだが、考えられる可能性は二つ。一つは、この星を征服しにきたエイリアンが偶然パヴァリア光明結社の残党がいる島に降り立ち、人間達を捕食しようと襲って来たため、彼らはアルカ・ノイズを使って対抗した。その際に、民間人を巻き込んでしまった。だから、分解された人間と捕食された人間と死因が分かれていた····················」
「····················なんか、B級映画のシナリオみたいね」
「もう一つは?」
「もう一つは··········馬鹿げてはいるが、パヴァリア光明結社の残党が過去に地球外生命体の遺体、もしくはDNAマップを手に入れ、錬金術を使って復元したか············その時、アルカ・ノイズの特性も融合して兵器化しようと考えたが、なんらかの原因で制御を離れた地球外生命体達が錬金術師たちを襲い逃げ出してしまった。そのせいで、この島にいる民間人にまで被害が及んでしまった」
「················ノイズの解剖器官を地球外生命体に組み込んで使役しようとしたが失敗した? それで逃げ出した宇宙人達が一般人の元までやって来て巻き込まれてしまったと?」
「どっかの恐竜映画みたいな設定デース············」
「でも、あり得なくもない············」
サンプルを持ち帰ったマリア達でさえもその仮説に対して違和感を持っていたが、最終的には納得した。逆にこれだけしか判断材料がないのによくそんな仮説を立てられたなとここにいる全員が思った。さすがは無限に近いほどある映画をいくつも視聴している司令。こういう事件についての考察はお手の物のようである。
二つの仮説は正直馬鹿げてはいるが、どれも納得のいきそうなものばかりだった。まだ仮説なのでそれが事件の真実だなんて探偵が使いそうなセリフを自信を持って言えるわけではないが、そうとも考えなきゃこの現状の説明ができない。
「でも、だとしたらなんで襲われた人たちは捕食されるか分解されるかで分かれてるんでしょうか。前者ならまだわからなくもないですが、後者なら解剖器官が加えられている以上、捕食される前に体が分解されてしまいそうですが··················」
「確かに。それに、ノイズの特性を組み込んでいるなら錬金術師達は問題なく制御できて使役できそうに思いますけど」
話を聞いていた藤尭朔也と友里あおいが疑問に思ったことを口にした。
「もしかしたら、おそらく解剖器官が一部分にしか宿らなかったんではないかと思います。もしくは、解剖器官が取り付けられなかった個体がいるか。そう考えれば、体全体に解剖器官が備わっているノイズと違って一部しか宿っていないのであれば完全に制御することはできず、自我が残っている地球外生命体が反乱を起こしてしまうのも納得がいきそうです」
「映画みたいに人を溶かす体液が体の中にあるから、表面の皮膚には触れても問題ない··············」
「だから触れられても分解されなかった····························その代わり、捕食されてしまった」
「解剖器官がどこに宿ってるかは今の段階ではわかりませんが」
弦十朗が考えた仮説を元にして、エルフナインがその地球外生命体の生態を考察した。
「溶かす体液の代わりに解剖器官を飛ばす地球外生命体····························」
「もしその仮説が事実だとしたら、さしずめ【キメラ・ノイズ】··············と言ったところね」
「エイリアンとノイズを組み合わせるなんて··············考えるだけでおぞましいのデス」
元からグロテスクな見た目をしているエイリアンにノイズの特性を組み合わせるなんて馬鹿なことをしたものだ。
未確認生物である以上、生態も姿形も不明なものに既存の技術を組み込めばどんな結果になるか予想できただろうに、彼らは結果の先にあるものを求めすぎて超えてはいけないラインを超えてしまったようだ。
「あくまでも、仮説だがな。何より、正体が地球外生命体であるかもまだ不明だからな。そう判断するのは早計かもしれん」
「いえ、だとしても納得がいく部分がいくつもあります。そう考えればなぜパヴァリア光明結社の残党まで襲われているのかも説明がつきそうです」
まだ仮説の域は出ていないが、それでもなんとか納得できるものだった。
緒川だけでなくこの場にいる全員が司令の仮説について納得しているのを見ると、その仮説は後に現実となるかもしれない。
今の所、そう考えて行動するのが得策かもしれない。
だが、それでもわからないことがある。
「だとしたら··············その【キメラ・ノイズ(仮)】はどこに行ったんでしょうか? マリアさんだけでなく、僕達もそれらしいものは見かけませんでしたけど」
「ああ、それについてはこれから捜索を────」
と、これから捜索を開始すると言おうとした時だった。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
海の上の潜水艦すらも響かせる揺れが突如襲ってきた。
「司令! 島の反対側を起点に大きな揺れを感知!!
「なんだと!?」
「それに加え、先の揺れの影響で島の一部が崩壊!!
「「「「「「!?」」」」」」
事態の把握のためモニターを操作する藤尭朔也と友里あおいは即座に司令に報告。
何があったのか確認するため、付近の監視カメラをハッキングしてメインモニターに回す。
そこには大穴。文字通りの大穴。
響、翼、クリスが調査に向かった付近で大規模な地震が発生し、そしてその場所は地図から消えてしまっていた。商業施設を根こそぎ掘りとったような大穴がそこにはあり、アパレルショップやらアクセサリーショップやらが立ち並ぶ店は容赦無く地面へと呑み込まれて行っていた。穴から出ている白いものの正体は煙なのか建材の粉塵なのか、黙々と何かが立ち上がっている。
それが安全地帯で見ている司令達を余計に不安にさせる。
「響君達は!?」
「ダメです!! 無線も応答しません!! 生死不明です!!」
「ッ!!!??」
返事はない。商業施設の消滅。
それがどういうことか、理解するよりも先に口が動いていた。
「マリア君達は急いで響君達の捜索を!! 緒川は浜辺にいる職員達を早急に退避させろ!! 一秒でも時間が惜しい、速やかに響君達の救助、および職員の安全確保にあたるんだッ!!」
「「「「了解(デス)!!」」」」
これ以上血の匂いを増やすわけにはいかない。
絶望が押し寄せてくる前に、S.O.N.G一同は速やかにそれぞれ状況の打開に向かった。
・・・_
風景全体がズレた。
この島の商業施設だったもの全域が地図から消えることとなった。はっきりと断層のようなものがある。
「う·····················ッ!!」
その終点に立っていた立花響もまた、地盤の崩落に伴って地下深くへと呑み込まれていく。長方形のようにして設計されたアパレルショップだったものが、いきなり手前と奥で分かたれる。
死体達が消えた。
そして響の前に巨大な影がそびえ立っている。何か大いなる力が働いて、天高く打ち上げられてしまったのか。
·····················いや違う。
厳密には逆だった。そう気付いたのは頭上からのしかかる大きな影の意味を捉えていたからだ。向こうが飛び上がったのではなく、こちらの床が深く沈み込んでしまっていた。壁も天井も地盤すらも切り裂かれ··············響はもちろん、気を失ったクリスや翼はさらに地下深くへと呑み込まれつつある。
「クリスちゃん!! 翼さん!!」
床全体が斜めに傾いでいた。
平素のイメージと異なり、地盤そのものが大きく揺れている。地震や嵐を凌ぐように強化された鉄筋コンクリートを組み込み、さらに自然が生み出した強固な作りの大地に作られた建物が、今では急降下する下り坂。そして、意識のない年上二人が転がるように落ちていく。
「ッ!!」
響は走り出す。
下り坂を利用してスピードを上げ、二人を捕まえるように突っ走る。
巨大でゴツゴツした断面はこうして今も蠢いている。あんな接触面に手足が触れたら、そのまま噛み砕かれるようにして二人は呑み込まれてしまうかもしれない。
地盤同士の激しい噛み砕き。
それに呑み込まれてしまったらと想像したら、いつの間にか立花響は胸にあったペンダントを握りしめていた。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
響はオレンジの装甲を纏っていく。
首元には長いマフラーのようなものが現れ、両手にはパワージャッキが搭載されている。
「ッ!!」
ギアを纏った響はさっそく二人を救うために出る。
··············が、ここでまた思いもよらない事態が発生する。
シーソーのように地盤が傾いていたその先には、謎の空間が広がっていた。ただ、先程の地盤が割れた影響で出来た空間、ではなさそうだ。最初から地下施設が広がっていたのだ。直径はおよそ50から60メートル、深さに至っては300メートル以上。自然に出来たものではなく、明らかに人の手が加えられて作られた地下空間。
機械的な壁、鉄で出来た構造物。
これにより地盤による体の切断はなくなったが、また別の問題が発生。
その地下空間の圧倒的な深さが、高さが、空間が、それだけで人を死へと至らしめる凶器へと変わる。
「二人とも!!」
円筒空間の最深部に投げ出された三人は、墜落までの時間を利用して二人の元へと飛んでいく。
足につけていた装置を利用して空中を蹴る。
急いで助けに向かう響は、重力が消失した空間で落下している二人をなんとか救出する。
その瞬間、
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
と、遅れて響が二人を抱えて地下空間の最深部に着地した直後、地盤という大顎が閉じられた。
「大丈夫!?」
「う··············ッ!!」
「な、なんとかな··············っ!」
床に転がった響は、二人を起こすようにして尋ねる。
意識をなんとか回復させた二人は、生まれたての小鹿のようにしてゆっくりと立ち上がった。
「··············ここは」
「一体どこだよ?」
店の下にこんなものがあることに驚く二人。響もつられるようにあちこちキョロキョロと見渡す。
普段であれば何の変哲もない地下だったんだろうが、今はそこらじゅうに亀裂が走り、電気系統もやられたのか地下を照らす電灯は軒並み死んでおり、鉄で出来たこの建物の所々で花火の輝きに似た電気的な火花が壁や天井から散発的に吹き出すか降り注いでいる。
円筒に伸びたこの空間の中心には、
三人はS.O.N.Gから支給されている通信機に搭載されたLEDライトを頼って明かりをつける。
「これからどうしますか?」
「そうだな··············」
「··············」
場所がわからないだけに、あまり下手に動けない。
地盤が崩壊している以上、いつまた上でプレートが呑み込むように新しい地面を降り注がせるかわからない。
(··············考えろ。何でもいいから脱出の方法を急いで見つけるんだ)
この中でもっとも優秀な頭脳を持つクリスは脳ミソをオーバーヒートさせてでも思考する。だがしかし、この壊れかけの地下施設は明らかに危険だが、地上を出ても安全とは限らない。
あの時聞こえた、“あの雄叫び”。
あれが原因で地面が崩壊したのは明らかだ。
ノイズとも違う雄叫び。あの雄叫びの正体がわからない以上、この場所はどこへ行っても危険だ。だから闇雲に走るよりは方針を決めておく方がいい。
··············この先、取り得る選択は大きく分けて二つ。
一つ目は、一刻も早く地上に出てマリアや司令達と合流すること。正体が何であれ、一ヶ所に終結すれば戦力も高められ、何より未知なる驚異は同じ地点に攻撃を仕掛けざるを得なくなる。ノイズか、はたまた別の何かなんて区別は関係なく、顔を出したところを叩きのめせば驚異を排除できる。
二つ目は、今いる三人でその驚異に立ち向かうこと。これによって、もう片方の安全は確保される。また、マリア達と連絡が取れれば二手に分かれたことでのメリットが生まれる。未知なる驚異はターゲットを一点に集中させる分、その無防備な背中を、マリアや司令などの別動隊がこっそり襲えるのだから。そうわずかな時間を見つけて考えた作戦のどちらかを実行しようとクリスは動き出す。
「とりあえず一旦ここから離れっぞ。襲ってきた野郎の正体がわからない以上、ここにいたら危険だ」
「··············うん」
「ああ」
クリスが動く気配を見せると、二人は後をついてくる。
その間、響とクリスがシンフォギアを纏い終えているのを見た翼もシンフォギアを纏うために詠唱をし、天羽々斬をその身に纏う。これで、いつ襲われてもすぐに対応できる。
そして、選んだのは後者の作戦。
マリア達の高い実力を信じているからこそ、今は合流するよりも別行動を選択した。相手の正体が不明な以上、実力もわからない。逃げるのも戦うのもおぼつかない状況では無駄に体力どころか戦力を消費するだけだ。
圧倒的な情報不足。この目に見えない差を埋めない限りはただただ延々と襲われ続ける連鎖から抜け出せない。敵に背中を見せて帰ったとして、そこに平和が戻るのか。未知なる驚異がある以上、震えて眠る夜が続くだけだ。
正体不明の敵が物陰で隠れてじっと静観を選んだ場合は、えぐい持久戦が始まる。身動きが出来なくなるのだ。どんな攻撃手段を所有しているにせよ、一撃で地盤を崩壊させた力を持つやつだ。どこかに籠城すればやり過ごせるようなものではない以上、影に隠れたままいつでも響達を襲えるポイントを自由に歩き回れる、という展開になるのは避けたい。
そんなじわじわと拷問を行うような真似、させるわけにはいかない。
即席だが、完璧な作戦を実行しようとした··············直後にだった。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「「「!?」」」
もう一度、激しい揺れが響達へ襲いかかってきた。
「わ、わわっ!?」
「来やがったかッ!!」
「構えろ二人とも! 油断していれば足元を掬われるぞ!!」
ばづんっ!! という破断の音はコンクリートか鉄筋か。聞き慣れない破壊の音に耳が壊れたんじゃないかと疑う。
ただしその音は止まることを知らない。それどころか大きくさせている。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
この床全体を震わせるほど大きく太い音の塊の正体は··············
「上だッ!!」
「「!!!??」」
直後、真上から一つの影が差す。
ドゴォォォォォォォォ!! と地響きを鳴らして周りに砂埃を撒き散らす。何か巨体が着地した影響で発せられた暴風に、三人は思わず目を閉じる。
視界を悪くなって見えない分、余計な恐怖心がさらに三人を襲う。
「·····················ぐちゃ··············にちゃ··············」
ぴちゃ、くちゃ、ごき、ごりっ、そんな湿った音が前方から発せられて、三人の元へと届いてきた。
何かを噛み砕き、咀嚼している音。不快な音を発しているそれは、三人を越える巨体の影。徐々に砂埃が晴れていくにつれ、その影が明確に現れていく。
そして、すべての砂埃が晴れたとき、三人は目を見開くことになる。
優に3メートルに届く、未知なる肉質で出来た半透明な異形。両肩が発光している巨大なカマキリ··············いや、この地球上でそれに当てはめられる生き物はいない。
筋肉質な体型に二足歩行、口を常に動かしているそれは、地球上の生物ではない。強いて似ているものを挙げられるなら生き物ではなく··············ノイズ。
そんなわけのわからない怪物が発していた音··············それは、
人の肉片を咀嚼している音だった。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
・・・_
「避けろッ!!」
クリスは咄嗟に二人に叫んでいた。
「「!!」」
その反動で二人はそれぞれ反対方向へと避ける中、二人が先程まで居た場所に恐るべき一撃が真上から振り下ろされた。ついさっきまで少女達が居た場所は容赦なく真っ二つにし、基部のコンクリートまで深々と突き刺さっている。
ボワッ!! と。
怪物の両肩に赤い人魂のようなものがぼんやりと浮かぶ。続く、大鎌のようなその鋭い爪をガチンガチンと動かす。未知なる驚異に遭遇した三人は動けずにいる。
だが、そんな中で唯一勇気を振り絞って突っ込んでいく者がいた。
「一番槍、突貫します!!」
「っておいッ!! わけもわからず突っ込むなッ!!」
稲妻を喰らい、雷を握り潰す様に打ちだすその拳が怪物へと迫る。
その間、胸に浮かび上がる歌を口にしてさらに攻撃力を高める。その少女の歌声に応えるように、その拳はすべての概念をぶち壊すかのような鋭い槍と化す。
のだが、
ガキンッ!!
「ッ!!」
頭部に放たれたその拳は呆気なく跳ね返される。
攻撃力が足りなかった。そして、その攻撃を上回る防御力があの頭部には備わっている。
「だったら跡形もなく消し飛ばすまでだッ!!」
それを見たクリスが破壊力のある技を放つ。
ARTHEMIS CAPTURE
アームドギアのロングボウを形成し、矢の形をしたミサイルを射る。弓矢と呼んでいいのかわからないそれは、怪物に向かって飛んでいく。歌によって加速したミサイルが怪物に直撃する··············かに思われた。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「!?」
溶鉱炉染みたオレンジ色の輝きが口から放たれる。
炎が酸素を喰らう低い轟音と共に、一振の火炎が絡み付く。ねばつく重油のような炎が円形状の形となって放射される。
ドゴォォォォォォォォッ!!
と、相殺するようにミサイルは爆発した。
遠距離攻撃も可能な技を持つ怪物。拳もダメ、ミサイルもダメ。
「ならばッ!!」
断ち切ろう。
刀を変形させ、大剣を構えると上へと斬撃を放った。
蒼ノ一閃
ドバッ!! という衝撃波が炸裂した。
莫大な粉塵が舞い上がり、あっという間に土埃のカーテンが装者達の視界を遮っていく。地面を揺さぶるような振動はほとんど地震に近く、体幹の強いものすらも立たせないほどの衝撃だった。
··············なのだが、
「··············なんだと!?」
「····························」
必殺と呼べなくても、技とは呼べる翼が放った一撃は怪物を確実に行動不能に陥らせる程度の破壊力はあったはずだ。あの大剣をものともしないとはあり得ない、あり得るはずがない。
だが、実際には傷一つついていない。一滴の出血はおろか、その肉質までも切り刻むことはかなわなかった。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
次はこちらの番だと言わんばかりに怪物が咆哮をあげた。
そして次の瞬間には、
刃物というよりかはボディーブロー。
巨大なハサミの先端が巨体に似合わないスピードで勢いよく三人の腹の真ん中にぶち込まれる。
「ごばッ!!」
「がッ!?」
「グオッ!!」
呼吸というより血塊。
せり上がる液体の感覚を喉奥で体感しながら、響の突っ込んでいった拳の勢いの倍以上の速度で真後ろに吹き飛ばされる。三人はそれぞれ間隔を取るようにして配置していたのに、この怪物はそれを一瞬で移動して吹き飛ばしたのだ。落下と激突の衝撃などいちいち知覚できなかった。手足どころか眼球まで痙攣して、自分達がどこにいるのか、上と下ってどっちだっけ? とまともに思考できないほど把握できなくなっている。
今口から出ているのはただの唾液か、あるいは腹から込み上げてきた自分の血だまりか。
そこから先は断片的だった。
こちらに歩いてきているのはわかった。ゆっくりと死刑を宣告しにくるその足音。装者達の攻撃を通さなかった装甲を持つ巨体が間近に迫る。
そして、ガチンガチンと鳴らしていた爪が、少女の胴体を掴んでねじ切るために差し向けられる。
「あッ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!?????」
鋭い痛みがやってくる。
握られれば刃物のような爪が肉体に食い込んでくる。シンフォギアのバリアフィールドでなんとか保つものの、それが裏目に出て苦しみを継続させることとなった。
潰される、ねじ切られる、意識がこの世から遠退いていく、果たして先にくるのはどれなのか。
「たち、ばな·····················ッ!!」
痛みで意識がぶっ飛びそうで地面に倒れながらも、手を伸ばして叫ぶ翼。
だが届かない。
手を伸ばすには不足している自分達の実力。その絶望感と共に体力を奪わせる。
「ぐッ、ううううううううううううううううううううううッ!!」
もはや為す術などなかった。何一つこの状況を打破するものがない。
(······························ごめん未来)
最愛の親友の姿が脳裏に浮かぶ。無事に帰ると約束したのに、帰るべき場所で待っていると言ってくれたのに、たとえ世界中が響の手を拒んだとしても自分だけは繋ぎ続けると言ってくれたのに················
痛みと悔しさで奥歯を噛んで··············この世の自分と愛しき友に別れを告げるように瞳を閉じる。
ドガドガドガドガドガドガッ!!
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
「「「!?」」」
その瞬間、
何が起きたのか理解できなかった。
まるで精密誘導爆撃。両肩を撃たれた怪物はガラス細工が割れたような音を鳴らし、響の胴体を掴んでいた爪もまた破壊された。痛みで少女は起き上がることは出来なかったが、仰向けになって上へと目をやった。
300メートルもある大空洞の地下。
その途中の壁ににぽっかりと開いている穴。
「あれ··············は?」
体全体を覆う装甲に翠玉色の光源が怪しく光る。無骨でありながら美しさを感じる「鎧」。その風貌は異様な雰囲気を醸し出す。取り分け目に付くのは右手に見える、“キャノン”。
そんな得体も知れない未知なるものが、キャノンを構え、逆三角の形をしたバイザーが睥睨するかのように見下ろし、
「スキャニング完了··············目標、『バーサーカーロード』。これより駆逐にあたる」