うろたえるな、考えろ。
サムス・アランは確かに宇宙最大のスペースパイレーツを滅ぼしたのではなかったか。何の理由もなく事象が覆るなどあり得ない。
そもそも、なぜ10日前に連絡が取れなくなった輸送船のキャプテンが、2年間もここに閉じ込められていた? 私は確かに昨日依頼をもらったはずだ。それなのに、2年間も監禁されていたとはどういうわけだ?
必要なものはすでに目撃しているはずだ。そうだ、思い出せ。これまで見聞きしてきた事を。
こうなった原因、ここに飛ばされてしまった理由は必ず存在する。
とにかく、わかっているはずだ。自分のやるべき事を。
·····················守るものを守る。
それが、私の使命だ。
・・・_
「·····················なん、だ?」
「··············何者だ?」
ゴッ!! とそれは飛び出してきた。
人形の鎧。あるいはサイボーグか?
ズズンッ!! という重苦しい震動がわずかに遅れて地面全体を伝い少女達の元まで揺らす。
見かけによらず重そうな装備、それを身に纏うものは一体なんだ?
「あ」
響の頭の中が真っ白になっていた。
感謝の言葉、それを言うべきなのだろうが目の前で起きたことに対して追い付いていない。自分の今の状態もわかっていない。瞳は確実に目の前の光景を映しているはずなのに、まだどこか夢の中にいるような感覚だ。
『それ』は少女達の前に立つ。
こちらを見ようともせず、この歪な現実から完全に置き去りにされている少女達を守るように。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
そして、先程両肩をやられた巨大な怪物の瞳が、無機質にギョロリと蠢いた。その目は確かに、ご馳走の生肉を捉えていた。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
と、怪物はエサを欲するがごとくいきなり目の前に降り立った無機質な鎧を装着した生肉の喉笛目掛けて飛びかかってきた。
「危ないッ!!」
響は叫ぶ。
あの怪物の一撃を受けたことのあるものからすれば、それがどれ程危険なものなのか人一倍わかっていた。硬い肉体をもつ怪物は、自分達の歌をものともしなかった。
何故ならば、こいつは未知なる『生命体』なのだから。
未知なる生態、驚異、そして圧倒的な差。
これらの要素を組み合わせている怪物が襲ってくれば、『それ』は確実に喉を千切られなければおかしかった。
しかし。
少女達の前にいる『それ』は、この地球の常識には当てはまらない奴だ。
故に、だ。
ガキンッ!!
「ッ!?」
「「「!?」」」
下から上に風が渦巻いた。
その人は避けることもしなかった。避ける前に攻撃を放てば打ち落とせる、もしくは迎撃できると冷静に考えていたからだった。
そもそも、その人は人間ではない。『人間を遥かに越えた存在』である“バウンティーハンター”は音速をも越える速度で戦う狩人だった。
なので、余裕だった。
「····························」
それはもはや、投げ技だった。
勢いよくキャノンを顎に叩きつけた結果、怪物は背中から床へと激突する羽目になった。ほとんど柔道の投げ技にも近い挙動、ドパァン!! ととんでもない音が、衝撃波のような轟音が炸裂した。
「ふっ!!」
ギュン!! と、倒れたタイミングを見計らうように移動方向を正確に捉え、一気に怪物に接近する。光の速度のように動いた結果、怪物が何らかの反応を示すよりも早く、腰を回すように飛び蹴りを放つ。
あの重量級の怪物から凄まじい音を響かせ、真横に吹き飛ばされる。あの細い足の一体どこにそんな力があるのか不明だが、それだけで響たちの目を見開かせるには十分だった。
「ッ!」
しかし怪物は沈まない。
吹き飛ばされたが途中である程度速度を落として、体勢を整えるとその地に再び足を下ろした。
「グオオオオオオオオオオオッ!」
叫ぶと共に何かが大量にばら撒かれた。
それは見るからに毒々しい色をしている球体だった。空中を漂うそれは、ホーミング機能がついてるのか自動的に追尾してくる。いくつもあるエネルギーの球体が迫り来る。
「·····················ッ!!」
それを見た瞬間、反射的にすぐさまキャノンを構えた。
ドガドガドガドガッ!! と爆音が連続し、一つも外すことなく球体を跳ね返した。光弾によって跳ね返された球体は、主の元へと帰るかのように迫っていく。
「グオオオオオオオオオオオッ!?」
頭部に直撃した怪物はうめき声をあげると、これまで一向に攻撃を通さなかった硬い頭部がバキバキと割れる音を響かせる。すると頭部からは、ボッ!! と両肩と同じ溶鉱炉染みたオレンジ色の輝きを灯した。
「グゥオオオオオオオオオオオッ!!」
痛みで苦しんでいるのか、時には壁に激突し、時には崩れたアスファルトの残骸を踏み潰し、あちこちの壁を突き崩しながら怪物は猛然とこちらへ迫ってきている。
そこへ。
コバッ!! とまたあのエネルギーを凝縮させたような球体を吐き出した。
が、それは別の方向へと飛んでいき、
「立花!!」
「え?」
「避けろバカッ!!」
「ッ!?」
戦いを傍観していた少女へと迫っていっていた。
仲間の掛け声で気づくも、先の怪物の攻撃の影響が残っているのかうまく力が入らない。
「··········ッ!!」
それに気付いて走り出したのは翼でもクリスでもなかった。
ッッッゴッ!! という爆音が光を越えて響き渡る。それが聞こえた瞬間には、立花響はその場から消えていた。
ジュオオオッ!! と爆撃めいた飛沫が辺り一面に散乱するが、誰も手足を失っていない。命も無事だ。
「····························」
「あ、あの··············」
ようやっと、間近に戦っていた人がこちらに近づいてきて救ってくれたことによって、立花響は現実を取り戻したらしい。
ブースターを噴かすことで自分の体を文字通りの瞬間移動をし、響のマフラーを掴んで攻撃から避けたようであった。弛緩した空気が取り払われる。いっそ、戦っていた人への生々しいほどの恐怖が体全体に染み渡っていく。だが、それが混乱や恐慌となる前に、『それ』は言葉を発した。
「·····················おい」
「!?」
「ここは危険だ、下がっていろ」
“女性”の声だった。
だが、女らしさを感じさせず、むしろ男のような口調で立花響にそう言った。切迫した色も見せず、まだ余裕そうにしている感情しか乗せていない。
今まで怪物と戦っていたのは自分達と同じ女性だったことに驚愕する。武骨な鎧に身を包んでいたのは謎の女性。それに加えあの圧倒的な強さに、立花響は言葉も発っさずにただコクコクッ!! と頷くのが精一杯だった。
そこへ。
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
再び、あの怪物の咆哮が空間を揺るがす。
彼女は再び怪物に目をやると、右腕のキャノンを構えて攻撃体勢に入る。
それを見た怪物は受けて立つと言わんばかりに、口の中で何かを収束させていた。
「···································」
ギュオオオオオオオオオオッ!!
そして彼女の方も、無言で右腕のキャノンにエネルギーを収束させていた。
力比べ·····················でもしようとしているのか、と周りにいる少女達が思った次の瞬間、
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
ゴッッッッッガッッッッッ!!
と、レーザービームのような超高圧的な液体が、容赦なく迫り来る。
一直線に迫り来る体液がエネルギーとなって放たれる。あんなものが人体に当たれば一溜りもない。彼女は体の体液を超高水圧へと収束させて放たれたレーザーに対抗すべく、こちらも収束させたエネルギーを放つ·····················と、思いきや、
「ッ!!」
鉄で出来た硬い地面をその足が軽く蹴った直後、彼女は上半身を振り回すように身を屈めた。
直後、超高水圧となった体液は恐るべき速度で空気を引き裂き、彼女の背後にあった鉄の壁をバターの如く一瞬で削り取った。
ズドッッッッッ!!
空間をも液体状に変えるような奇妙な音響が少女達の背筋を凍らせても、彼女は顔色一つ変えず接近を試みる。
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
またあのエネルギーを凝縮させた球体を吐き出すが、彼女はスライディングして滑るように飛び、そして後ろから追尾機能のついた迫り来る球体をなんとかして怪物のいるところへと合わせる。飛んだ影響で球体が飛ぶ方向は上へと自動的に書き換えられるが、その先には、
ドガガガガガガガッ!!
「ッ!?」
自分の攻撃を自分で受ける気分はどうだ? と言うかのように見下ろす彼女は、地面に着地した瞬間、怪物の口の中にキャノンを突っ込む。
「ッ!!!??」
「·····················」
死刑宣告をされたかのように、怪物は動きを止めた。
先程からエネルギーを収束させていたキャノンは、怪物の口の中で不気味に光っている。
どうにもならない。
口を塞がれ、体力を大幅に削られた自分には為す術はない。そう思うかのように怪物は妙におとなしかった。
そんな怪物を見て、彼女はただ一言、
「消え失せろ」
ドガァァァァァァアアアアアアアアッ!!
「ッッッッッ!!!!!???」
キャノンから膨大な光の塊が放たれ、大質量の怪物の口内へと容赦なく投じられた。
ブシャアッ!! と怪物の体から液状のものが噴き出す。
いや、それどころか怪物の体自体にでっかい風穴が空いている。そこから漏れ出る体液は、怪物が倒れ込んだ周りの床を勢いよく溶かしている。が、その液体が彼女だけでなく、少女達の元へと及ぶことはもうない。
びくんびくんっ!! と怪物の亡骸が動いてるものの、数秒後には体液が全て出しきったのか、体を動かすための燃料は切れて完全に停止した。
「「「····························」」」
その様子を三人はただ黙って、目の前で起こっていたことが信じられないといった表情で、見ていることしか出来なかった。
・・・_
「··············終わった、のか?」
「·····················みたい、だな」
「··········································」
固く閉ざしていた口を開ける。
突然乱入してきた謎の人物に、三人はしばらく思考を空白にしていた。
無理もないかもしれない。
自分達でさえ敵わなかった怪物を、それを越える化物のような力をもった者がたった一人で倒してしまったのだから。
たった一人の乱入で、景色が一変してしまった。
無駄な動きをなくし、必要最低限の動作だけで相手をねじ伏せた。しかも、武骨な鎧に身を包んでいたのは女性だと思われる。あんな巨体の化物相手に、たった一人の女性が立ち向かって勝ってしまった。
あまりの光景を前に、少女達はしばし呆然と立ち尽くしていた。
何はともあれ、戦闘は終わった。
だがしかし、それで受けた痛みがなくなるわけではない。
「ッ!!」
ない力を振り絞って立ち上がろうとした立花響がうめき声を発する。
響を苛む元凶は二ヶ所。
一つ目は腹。あの怪物から受けたボディーブローが腹筋を刺激し、少なくとも内出血をしてしまっている可能性がある。
二つ目は、体全体。あの怪物が自分の体を握りつぶそうとして掴まれた時に受けたダメージが今尚体に負担をかけさせている。
「つ、くうッ!!」
声にならない叫び。
無意味なようにも見えるかもしれないが、束の間の鎮痛効果はあるはずだ。スポーツ選手が結果を決める際に放つ咆哮を叫ぶことで脳内物質を意図的に分泌するのと同じ理屈だ。
いちいち立ち止まって、応急処置に専念している場合ではない。全力で自分の感情を圧し殺し、苦痛に耐えるしかなかった。驚異は去ったが、それは一時的なものかもしれない。次なる驚異が攻めてくるかもしれないし、これ以上油断をするわけにはいかない。
と、そんなことを考えていると、
パンッ!! ピキピキ··············
「「「?」」」
三人の耳に銃声が響いてきたと思ったら、何やら凍りついているような音が聞こえてくる。
音の発生源に目を向けると、そこにはあの人が、いつの間にか発生していた氷を左手で叩いて割っている姿が写り込んだ。
なぜそんなところに氷が? いつからそこにあった? と疑問に思ってるのも束の間、あの女性らしき人が手のひらサイズまで氷を砕き、左手ですくい上げると、それを持って響の方へと近づいてくる。
「患部をこれで冷やせ」
「·····················へ?」
「神経を麻痺させる方法で危険は伴うが、特殊なものを使わずに鎮痛作用を実現できる。もっとも、フリーズガンで出来た氷だ。凍傷にならないように気を配る必要があるが、ないよりはマシなはずだ。それに、幸いなことにお前達はグローブを着けているようだからな。手のひらが霜焼けになることだけはないだろう」
「····························あ、ありがとうございます」
激痛の渦の中を彷徨っていた響に手を差し出すように渡された氷。先程フリーズガンやらなんやら言っていたがそれはなんだ? と疑問ももたず響はなんの躊躇いもなくそれを受け取った。
「ほら、お前達も」
「あ、ああ·····················」
「すまない·····················感謝する」
そして、翼とクリスにも氷を渡す。
それぞれ痛みを抑えるようにしておとなしくしているが、やはり三人とも同じことを考えている。
『この人、一体何者なんだ?』と。
そんな疑惑の目で見られても気にしてないかのように、彼女はこの円筒空間の中心へと歩いていっていた。結局、味方か敵か現段階では全くわからない。謎すぎる人物に、響達は警戒すればいいのか、それとも感謝の言葉を述べるべきなのかわからなくなっていた。
と、あの人が円筒空間の中心に置いてあった、頭が鳥で体は人形の謎の石像の前に立った。
一体なにをするつもりだろうと観察していると、ガシャンッ!! と、鳥人間像が持っていた穴が空いた板にキャノンを突っ込んだ。
すると、石像の瞳が赤色に怪しく光った。そして今度は石像の口が開き、上顎と下顎の部分が動き始めたかと思いきや、無機質な機械の声がその口から発せられた。
『接続確認··············データ転送を開始します』
一連の動作に理解するのは苦しんだが、その無機質な機械の声がヒントを与えてくれた。
データ転送と言ったことから、何かのデータをダウンロードしているのだと思われる。何より、鳥人間の瞳から四角いウィンドウのようなものが表示されている。真っ黒な画面に白文字、だが書いてある文字はどこの言語かわからない。それに加え、あまりにも高速で流れていくので響達の目では追いきれなかった。
しかし、あのスーツはなんであろうか?
シンフォギアとも、ファウストローブとも、メックヴァラヌスにも見えないスーツ。
ライダースーツ··············よりは絶対硬い。金属ともまた違う。未知なる合金で出来ているようで、地球の知識で考えたら脳がオーバーヒートしそうであった。
『データ転送完了··············』
と、データ転送が終わったのか、彼女はキャノンを引き抜いた。
すると、左手を頭の横に持ってきて、人差し指でツンと一回だけ押した。押した瞬間、バイザーの翠玉色がさらに濃くなり、元からだがバイザー下の顔がより一層見えなくなった。
「あ、あの··············ッ!!」
そんな彼女に、声をかける猛者が一人。
「た、助けていただいてありがとうございます! 私、立花響って言いますッ! 17才ッ! 誕生日は九月十三日で、血液型はO型ッ! 身長は157cmで体重は·······秘密ですッ! 趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはんッ! あとは、彼氏いない歴は年齢と同じですッッ!!」
「って、んなこと誰も聞いてねぇだろッ!!」
「ぎゃんッ!!」
圧倒的な自己紹介をした響に、クリスがチョップで突っ込みをいれる。
響と同じく体力を消耗しているといっても、世界を何度も救った少女に的確な突っ込みをいれることなど造作もないのだった。
「···································」
そんな少女達のやり取りに対して、彼女は何の反応もしなかった。というか、微動だにしなかった。
そんな彼女を、響とクリスはポカーンと見ていたそうな。
あんな自己主張の強い自己紹介をされれば、普通の人ならあまりの勢いに引いてしまうはずなのに、彼女は何事もなかったかのように無視していた。
そんな宇宙人的な人に、翼も話しかける。
「あの··············まずは改めて助けて頂いたことに感謝する。私の名は風鳴翼。歌女にして
「············································」
・ ・ ・ 。
「「「····································」」」
返事がない。ただの屍のようだと言わんばかりに一言も発してくれない。
あの翼独特の言い回しをした感謝の言葉でさえも受け流してしまうとは、本当にこの人人間か? というかそもそも、言葉伝わっているのか?
「あ、あの··············」
「····························」
「き、聞こえてますか~?」
「························································」
「なあ、ひょっとしてこの人寝てんじゃねぇのか?」
「いや、そんなまさか。あんな素晴らしい戦いをした人だぞ」
「だってさっきからこの人、人差し指をヘルメットの所に押し付けたまんま全く動かねぇし、あたしらの声も届いてねぇし、立ったまま寝てるとしか思えねぇんだけど」
動かなくなった彼女を前に好き放題言うが、実際彼女は動く気配を見せない。
「ひょっとしたら、何かに集中しているのやもしれんな」
「「集中?」」
「ああ、見てみろ。私達の声が聞こえていないということは、おそらくそれほど集中しているということだ。さすがだ、戦闘が終わっても一切隙も見せずに瞑想の如く集中し続けるとは、並みの人間では出来ぬ芸当だ」
「「·····················」」
なんか翼が変な評価をしている。さすがは人々を守る防人。その誇りが触発されてしまったようだ。
そんな他愛もない、ちょっとした会話をしていた·······その直後の出来事だった。
ドガァァァァァァアアアアアアアアンッ!!
Beep Beep Beep Beep
「!!」
「「「!?」」」
急なサイレンと、恐るべき大振動がこの島を丸ごと揺さぶっていた。
円筒の大空洞が、一気に炎に包まれる。
周りが赤く点滅するように照らされる。それと同時に、なにやら物騒な言葉を並べたアナウンスまで周りに響き渡っている。
「え、え!? 起爆ッ!?」
「なんだよそれ!? この島ごとぶっ飛ばすってことか!?」
「そんな·······一体何故!?」
絶叫を放つ暇もなかった。
警戒に総毛立つ。三人の装者の背筋に電流のようなものが走り抜ける。
だが遅い。もうすでに始まってしまった。もはや悠長にしている場合ではない。起爆まで5分だと確かに言った。これ以上ここに留まっていれば巻き込まれる。
「ど、どうすれば!?」
しかし、たった5分で島を脱出できるわけがない。
本部までかなり距離がある。そんなところまで走ったとしても15分以上はかかる。なにより、島にいる職員および、マリア達にも知らせなきゃならない。
だが、どうしようもない。今さら走ったところで全て間に合わない。
そう確信してしまった三人は万事休すかと思った··············が、
「来いッ!!」
「「「!?」」」
「私について来い!! ここから脱出するぞッ!!」
彼女の決断は早かった。
そう言うと彼女はぐるりと回って背を向ける。そして全力で走り出す。どこのゴールに向かうかも知らないまま、とにもかくにもここから離れるように走り出す。
「早く着いてこいッ!!」
「は、はいッ!!」
「チッ、今は従うしかねぇッ!!」
「ッ!!」
三人もその後を着いていく。
背中にピッタリと距離をそれほど置かず、並走するように走っていく。
「あ、あの! どこに向かうんですかッ!!」
「私に考えがある。いいから黙って着いてこいッ!!」
背後からの声にいちいち応じている暇もなかった。
走る。とにかく走る。命が付きようと、体が悲鳴を上げようとも走り続ける。
先ほどの地盤の揺れの影響もあってか、あちこちひび割れた通路に転びそうになる。壁から火花が噴き出したり、熱を帯びたガスまで飛び出してきている。目指しているのは一体何処なのか、三人はわかっていないが彼女の後を着いていくしかない。
と、しばらく複雑な作りをした通路を走っている時のことだった。
「出口だッ!!」
薄暗く赤く点滅している施設とは違う風景が目の前に見えてきた。
光で外の光景は真っ白のようになっていてよく見えないが、あの先は施設外だというのはわかる。
外に出ると、そこは森の中だった。
いくつもの木々が立ち並ぶが、その中の何本かは根本から折れていた。先の地震で耐えられなかったんだろう。バキバキと今も尚悲鳴を上げてあちこちの木が倒れる音が聞こえてくる。
いや、それどころか島全体が揺れている。
景色の倒壊、自然の消滅、それが現在進行形で行われていた。被害が尋常ではない。明らかに島全体を崩壊させている。まず自分達が助かるかもわかっていないのに、響は司令やマリア達のことを思い浮かべていた。
「あったぞッ!!」
そう彼女は叫んだ。その声に、三人は前を向く。
そこには見たこともない乗り物があった。一体何の乗り物なのかわからなかったが、先頭を走っていた彼女は右腕のキャノンを操作し、
「乗れッ!!」
有無を言わさず乗るように指示する。
疑問だらけの中だったが、どちらも説明している暇も、説明を受ける暇もない。乗り物の上のハッチが開き、四人ともそこから乗り物へと入り込む。
見たこともない作りだった。
操作パネル、座席、構造はどこか近未来的な作りで、地球の常識ではまず理解できなかった。
「座れ!! すぐに飛び立つぞッ!!」
「は、はいッ!!」
「「!!」」
彼女は一番前の席に座ると即命令した。
メインのコックピットに着席した彼女は、響達には理解できない操作盤を操作し、フライトの準備を進める。
『スターシップシステムチェック·····················フライトシステム47パーセント。フライト、可能』
AIの声を聞きながら彼女は正面を見据える。
いくつもの画面に光が点き、未知なる素材で出来たエンジンが低い唸り声を上げる。モニタに表示されたこの乗り物の図面が表示されると、モニタに指を這わせ、いくつかの項目が赤から緑へと変わる。
『エンジン点火。フライト、オン』
「掴まってろッ!!」
「「「ッ!!」」」
不安定な状態であっても、響達の乗り物は何事もないように動き始める。
翼もないのに法則を無視して地面から足を離すそれは、響達を驚かすには十分だった。揺れをさほど感じさせず、響、翼、クリスを乗せた謎の飛行物体はそのまま空へと放たれる。
彼女は下手に操縦桿に触れなかった。
自動操縦プログラムが、機体をゆっくりと水平に保っていく。乱気流に突入しない限りはこのままにしておいた方がいい。
その直後、
ドガァァァァァァアアアアアアアアンッ!!
「「「「ッ!!」」」」
コックピットの外が、オレンジ色の爆風で埋め尽くされた。
そこから全方位に恐るべき破壊が撒き散らされていく。高層マンションの群れが大量のガラスの豪雨を撒き散らし、それだけでは飽き足らず根本からへし折れて薙ぎ倒されていく。地表を埋め尽くすアスファルトは、まとめてめくれ上がって引き剥がされ、紙箱のように無人の車が宙を舞い、ホテルや病院、娯楽施設や映画館といったものまでろくな支えとならず打ち崩されていく。
そして、島があった場所の上空には、膨大な熱エネルギーが局所的かつ急激に解放されたことによって生じたキノコのような雲が勢いよく出来上がっていた。
そう、この時をもって、
観光名所であった島は、跡形もなく消滅したのだった。