メトロイド Noise Echoes   作:織姫ミグル

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第7章

 

 

一つの鮮烈な思い出がある。

 

 

 

少女は一度わかり合おうとした。

 

 

 

が、待っていたのは絶望だった。

 

 

 

少女は言われた、種族が違っても分かり合えると。

 

 

 

だから実行したんだ、怖くても、ひどいことをしている人でも、話せば分かり合えると信じて。

 

 

 

少女はただ純粋だった······················ただそれが、彼女にとっての絶望の始まりになってしまったのだ。

 

 

 

初めて手を取り合おうとした相手は、『バケモノ』だった。

 

 

 

種族が違っても話せば手を取り合えると言われたからやったのに、そいつは少女を喰おうと襲ってきた。

 

 

 

少女は助かった······················が、少女の大切なものは失われた。

 

 

 

その後も失い続けた、友人、同僚、我が子のような存在。

 

 

 

だから少女は考えた、『手を取り合わなければいい』と。

 

 

 

自分が手を伸ばすから、大切なものが失われていくのではないかと。誰かと関わるから、その人に不幸が訪れてしまうのではないかと。

 

 

 

だから彼女は、一人でいた。

 

 

 

はじめから一人なら、誰も失わない、誰も傷つかない、誰も悲しまない。

 

 

 

そう、自分さえも。

 

 

 

人と関わるから、悲しい気持ちになる。

 

 

 

そんな気持ちになるくらいなら、自分は一人でいい。軽々と手を取り合うなんて、もう二度としないと心に決めた。

 

 

 

·································なのに。

 

 

 

·································わからない。

 

 

 

·································何故なのか理解できない。

 

 

 

 

 

脅されても、敵意を持たれたとしても、

 

 

 

 

 

何故、『彼女達』はそうまでして他人と手を取り合おうとするのだろうか?

 

 

 

 

・・・_

 

 

 

 

荒ただしい音が響く。

物音じゃない、騒ぐ音だった。

 

未確認飛行物体

 

及び、未確認生命体

 

未知なるものに遭遇したS.O.N.Gはそりゃもう隠蔽しようと大慌て。隠蔽工作はお手の物とはいえ、今回ばかりは初めての事例。過去に地球外生命体と遭遇したなんて話調べればいくらでも出てくるが、それでもそれはあくまで噂話、もしくはフェイク。政治家が悟られないように隠蔽してるなんて話も都市伝説だと思っていた。だがいま、少女たちはそれを目撃している。

 

聖遺物の隠蔽、世界地図の修正なんかやってるのなんていくらでも見たから珍しくもなんともない。のに、なんかその都市伝説が新たに真実だとわかってなんか新鮮な気持ちであった。

 

 

「·································」

 

 

だが、こっちはそんな気分ではない。

 

いきなり広い部屋へと連れ込まれ、周りには黒いスーツに身を包んだ男たちが取り囲むようにして立っている。司令の命令で銃は向けてはいない。が、彼らは内心恐れを抱いていることだろう。未知なる脅威そのものがいま目の前にいるのだから。部屋だけじゃない。薄暗い廊下には複数の人影がいる。大勢と呼んでもいいかもしれない。老若男女問わず、スーツに身を包んで両壁に寄りかかっている。

 

そんな真っ黒に染まった通路を通る者たちがいた。

 

 

「彼女はどうだ?」

 

「大人しいものです。アーマーに身を包んでいますが敵意は一切見せずただ黙って立っています」

 

 

尋ねてくる司令に対して慎重に言葉を選ぶエージェント。

 

エージェントは顎で彼女がいる部屋を差す。

外からでも様子が逐一確認できるようにするためか、部屋の壁はガラス張りで、中には数十人のエージェントが警戒するように立っている。大量の男に囲まれた部屋の中に、あの武骨なアーマーに身を包んだ女性は左手を腰に当ててただ立ち尽くしている。

 

それに対して、エージェントは重たい息を吐いた。

 

 

「大人しいとはいえ、はっきり言って油断はできません。あんな物騒な大砲を右腕に装備したままじゃ、敵じゃないって言われてもそう簡単に信用もできなければ警戒も解けません。銃を向けるなと言われてますが、中にいる奴らはおそらく我々よりも精神が大分参っているはずです······················本当に大丈夫なんですかあの人?」

 

「はい!! それについては多分絶対大丈夫ですッ!!」

 

 

それに答えたのは司令じゃなくて響だった。

エージェントはそちらを振り返るが、表情は一切変えない。相も変わらず仏頂面だ。根拠のない証言に信用できないのも無理はない。

 

 

「···········まぁ、とにかく彼女は敵ではない。それに、俺たちの仲間を救ってくれたんだ。そんな恩人に銃を向けるなんてことさせるわけにはいかない」

 

「······················了解です」

 

 

司令の言葉にエージェントは反論しない。

だが、納得はいっていないという様子だというのは確かだ。

 

そして、司令や装者達は部屋へと入っていく。

それに対し、彼女はなんの反応も示さない。響は恩人に対してニッコニコと笑顔をプレゼントしてみるも何の効果もありません。翼やクリスも同様に警戒はしていない。だが、マリアとザババ組はそうではない。無論、緒川や藤尭と友里も多少なりとも警戒している。

 

警戒という重苦しい空気が圧倒的に支配している最中、司令が一歩前に出る。

 

 

「···········すまないな。恩人にこんな対応をしてしまって」

 

「············································」

 

「だが、申し訳ないが我々は君の素性が明るみに出ないようにしないといけないんだ。そうしないと、君を狙う者達が現れかねんからな。どうか、理解してほしい」

 

「構わない。私があなた達の立場なら同じようなことをしていただろうからな。別に気にしてはいない」

 

 

ほぼ即答。

時々、彼女が言葉を発するタイミングがわからなくなる。普段は無口なんだろうが、ちゃんと場の空気は読んで発言はしてくれるみたいだ。

 

 

「······················しかし、いつまで私を閉じ込めておく気だ? 私は暇じゃないんだ。できることならさっさとここから出たいんだが」

 

「悪いが、そういうわけにはいかない。君の素性、及び安全が確保されるまでは我々の監視下に置かせてもらう」

 

「私のスターシップもか? 可能であれば、あれには触れないで欲しいのだが。繊細な機械なんだ、素人が触れるのはあまり好ましくない」

 

「ああ、あれについてもまだ返すわけにはいかない。だが、傷一つつけてはいない。頑丈な保管庫に入れて誰にも触れないように指示しているから安心してくれ」

 

「······················だといいがな」

 

 

司令に対して一歩も引かないのを見ると、相当タフなのだと思われる。

こんな大柄で屈強な男を目の前にしたら少しは怖いとか思うはずなのに、彼女は完全にリラックスして余裕そうにしている。

 

 

「それで、サムス・アラン君」

 

「“サムス”でいい。フルネームで呼ばれるのは好きじゃない」

 

「···········ではサムス君、君に聞きたいことがあるんだが」

 

「答えられる範囲でなら構わない」

 

「······················君は一体何者だ? 一体何処から来た?」

 

 

尋ねるんじゃない、問い詰めるようにして司令は聞いた。

 

その問いに対してサムスは、

 

 

「? 何者なのかについてはさっき答えただろう? バウンティーハンターだと」

 

「ああ、だがそれだけでは何もわからない。もっと具体的に教えてほしい」

 

「···········つまり、私の正体を知りたいと?」

 

「ああ、そういうことだ。さっきも言ったが、君の素性、君のそのアーマー、スターシップという乗り物······················そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「······················? 何を得たのか、とは?」

 

「響君からの報告では、落下した場所で君は“鳥のような石像でデータのようなものをダウンロードしていた”と聞いていたんだが、それが何なのかを教えてほしい」

 

「············································」

 

 

黙り込む。

顔や首は一切動かさず、ただ視線を司令の顔の部分に固定してしばらく口を開かなかった。目を凝らさなければわからなかったが、バイザーの奥でも表情を一切変えていなかった。うっすらと見える瞳には何の感情も宿っていないように見えた。もはやこの人は本当にロボットなのではないかと疑うほど、彼女は何のリアクションも見せない。

 

しばらく黙り込んでいた彼女だったが、彼女は表情を変えずに口を開いた。

 

 

「私は、【銀河連邦】というところに所属していた警察兼隊員だった」

 

「銀河連邦?」

 

「··················聞き慣れないという顔をしているな?」

 

「ああ、すまないが初耳だ」

 

「·························································································」

 

 

それを聞いた途端、彼女の表情は僅かだが変わった。

 

思考を区切らせる。

 

やがて彼女は、ならば、というように一回目を閉じて、

 

 

 

「·································だとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()。悪いがな」

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

その答えに、装者全員が意味がわからずに驚きの表情をみせる。

 

当たり前だ。

途中、というよりかは最初の方は答えるつもりでいたようだが、急に彼女は固く口を閉じてしまった。その理由が彼女達には理解できなかった。

 

【銀河連邦】というたった四文字に聞き慣れていなかったことが原因だというのか。何故それだけで答えられないのか、彼女達視点からでは理解できなかったようだ。

 

 

「おいどういうことだよそりゃ!? 質問に答えろよ!!」

 

 

痺れを切らしたクリスが思わず前に出て叫んだ。

 

それに対しても、彼女は冷静に返した。

 

 

「どういうことも何も言葉通りだ。これ以上あなた達の質問には答えられない」

 

「ッ!! ふざけんなッ!!」

 

 

舌打ちしてクリスはサムスに近づいていき、身長差があるにも関わらず彼女の首根っこを掴んだ。

 

まるで殴ろうとするかのように。

 

 

「ちょっ!? クリスちゃんッ!?」

 

「命の恩人だろうがなかろうが、特別な待遇を受けてると思ったら大間違いだぞッ!! 何で質問に答えらんねぇんだよッ!?」

 

 

響の制止の声も届かずクリスは感情を爆発させる。

命の恩人であっても、質問に答えてくれないその態度が気に入らなかったのだろう。首を掴まれたままサムスは、数秒だけ黙っていた。

 

やがて、表情も声色も変えないで、こう言った。

 

 

「···········生憎と、これでも元は銀河連邦、そして平和が崩れないように常に世の中に調和を司ることを強いられた部署に所属していてな」

 

 

ボソボソとした言葉に眉をひそめたクリスは、そこで気づいた。

 

サムスはゆっくりと首を掴んでるクリスの腕を置くように掴み、

 

 

()()()()()()()()()()

 

「ッ!?」

 

 

一瞬であったが、クリスの腕に痛みが生じた。

すぐさま離れて腕を見ると、細い指の跡が数秒で消えていっていた。

 

痛みで離れたんじゃない。

 

恐怖。

 

ほんの少しの痛みからわかる恐怖。

 

それが脳内に響き渡り、警告するかのような信号が脳から全身に発せられて、身を守るために離れたのだ。

 

 

「子供相手に悪いな。しかし、やるというなら相手が悪いぞ? 広い範囲で活動している上に敵地でも単独行動が強いられている以上、状況判断は常に必要なスキルだ。故に、こうでもしないと離れてくれそうになかったのでな············敵の前で強気でいるのはいいことだ、度胸があると評価されるからな。だが時には相手を選べ。さもないと命がいくつあっても足りなくなる上に、弱く見られるぞ」

 

 

具体的な強さがわかった気がした。

この人は、装者全員相手にしても勝てるほどの強さを持っている。余裕、平然、冷静というのを常に保っていて気づくべきだったが、それは何人を相手取ってでも勝てる自信があるからということ。彼女は何人ものエージェントに囲まれても、銃を向けられても揺らがなかった。

 

目鼻立ちが見えるわけではない。それでも気配でなんとなくわかる。戦えば、きっと勝ち目はないと。

 

世界を救った響達よりも、彼女はそれ以上のものを背負っていると察するにはそれだけで十分だった。彼女は少女達以上の重荷を背負って生きてきた。世界を救ったってレベルじゃない、おそらくはそれを越えるものだ。

 

 

「··············だがまあ、さすがにヒントを与えすぎたと思うがな」

 

「···············ヒント?」

 

 

クリスは少しでも息を整えながらサムスの言ったヒントについて疑問の表情を浮かべる。

 

 

「鈍いな··············彼はもう気づいているみたいだぞ?」

 

 

そう言ってサムスは動かさなかった顔を一人の男の方に向ける。みんなもつられるようにそちらに視線を向ける。

 

そう、おそらくこの中でサムスと対等に渡り合えるであろう男へと。

 

皆に見られたことで、彼は口を開く。

 

 

「確か、【銀河連邦】という所に所属しているのだったな?」

 

「ああ、それだけでなんとなく私の正体を察したみたいだな」

 

「まあ、“銀河”という単語と連邦という一括りを現す言葉でなんとなくはな。俺の憶測だが、君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そういうことで合ってるか?」

 

 

確信に近い解答であった。

その司令の言葉に装者達は動揺した。

 

それはつまり彼女は『宇宙人』であると言っているようなものだからだ。

 

 

「········································」

 

「沈黙は肯定と捉えさせてもらうぞ。おそらく君が話せないのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「········································」

 

「先程君は、銀河連邦に聞き慣れないと言った瞬間に答える気はなくなったように見えた。それはつまり、俺達の星は銀河連邦の管理下にはないということ。そんな管理にも置いていない惑星の住民に外の世界のことを知られたら宇宙全体が危険に及ぶかもしれない。だから、これ以上のことは話すのはまずい、そう判断したんだろう?」

 

「·····················さすがだな」

 

 

司令のその憶測を聞いて、装者達全員はようやく悟った。

 

地球の常識で考えていたから理解出来ないのだと。

 

銀河連邦という組織の名前で本来気付くべきだった。彼女の属していた組織はこの広い宇宙を守るための組織。ならば、何も知らない私達に自分の素性を話してしまえば、宇宙全体に危険が及ぶ可能性が出てくる。

 

宇宙の外にはまだ知らない世界がある。それを知られるだけでも危険だ。

宇宙にある貴重な資源、惑星などを狙って他の星を侵略するなんてことを考える奴が現れるかもしれない。まあ、おそらく地球の文明なんかこの広い宇宙では全然敵わないかもしれないが、万が一ということもある。知らないことを知られる、それだけで脅威となる。今まで存在しなかった可能性が生まれてしまうという危険性。それを危惧したサムスは質問に答えなくなったということだ。

 

それについては装者達は理解できる。

自分達も政府公認の平和を司るために作られた組織だ。知られてはいけないものなんかたくさんある。知られれば、自分達だけじゃなく周りの者にも危険が及ぶ。それと同じことだ。

 

これは地球だけの問題じゃない。宇宙全体の問題になりかねないのだ。

 

 

「ほぼ正解だ。だが、それを知ったからって私は答える気はないがな。そもそも、私はあなた達を信用しているわけじゃない」

 

「なに?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

はっきりと、明言が来た。

 

温かみのある感情が一切込められていない、聴くものを凍らせる声色で。

 

 

「あの島で起きたことを見たはずだ。あそこで起きたことは私達の組織のせいというのもあるが、それでも最初はそんなことを起こす気などなかった。ではなぜあんな悲劇が起こったのか、それはこの惑星の原住民達が私達の技術を欲したからだ」

 

「····························」

 

「甘い言葉で騙された彼らにも落ち度はある。が、それでもあの島での悲劇の原因はこの星の住民だ。自分達の知らない技術を使って世界を支配しようとしたというその傲慢さがあの悲劇を引き起こした。私達の技術が悪用されたという事実がある以上、私はあなた達原住民をそう簡単に信用するわけにはいかない。これ以上悲劇を起こさないためにもな」

 

「···································」

 

「ただ、それでも尚質問に答えてほしいというなら条件がある」

 

「条件?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私の持つ情報が悪用される可能性がある以上、軽はずみに明るみにするわけにはいかない。一度口にしてしまえば悪意などなくとも漏れ出す危険性は出てしまう。それを死ぬ気で守れ。知ってしまうせいで身を危険に晒す場合も十分あり得る以上、それ相応の対価が必要だ。そうしなければフェアではない」

 

「····························」

 

「一応先に忠告しておくが················」

 

「?」

 

「もし、無断で銀河連邦が所有している情報の共有または情報漏洩、及び悪用されたという事実が万が一確認出来た場合───」

 

 

 

 

 

「最悪、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。己の望みを見誤ったら後悔することになるぞ」

 

 

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

衝撃を走らせる絶望的な言葉。

地球を滅ぼす、そんな理不尽な代償を求めるというのか。

 

考えてみれば当たり前のことなのかもしれないが、しかしこう来るか。たった星一個と何億、何兆とある星では比べ物にならないのはわかる。だがしかし、万が一情報漏洩が確認された場合は、問答無用で自分たちの星を消しとばすなんて言われたら誰だって納得できない。

 

 

「まぁ、悪用という点に至っては既に確認されているが──────」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!! そんな急に言われたって··················ッ!!」

 

「そうだッ!! 人を守る防人として聞き捨てならない、そんな暴挙に出るようなこと許せるわけがないッ!!」

 

「横バイクを押すにもほどがあんだろッ!! ふざけんなッ!!」

 

「地球を破壊するなんて······························ッ!!」

 

「そんなの許さないデース!! いくらなんでも横暴すぎるデス!! ふざけるのも大概にするデスッ!!」

 

「······························私たちがそれを黙って受け入れるとでも思うの?」

 

 

助けてもらった恩のことなど一時的に忘れ、三人は叫んでサムスの言った条件について反論する。響達だけではない、後ろにいる残りの三人ももちろん納得がいっていない。警戒を解いていた者達全員がサムスに対して警戒心を高める。

 

しかしサムスの表情は変わらない。何せ見えないから。

 

 

「·······································ふざけるな、などと」

 

 

いや、無表情の中に僅かな憤りを混ぜて、こう言った。

 

 

「軽々と口に出していい言葉ではないな」

 

 

態度が変わった。冷静そうにはしているものの、彼女の抱いている感情は絶対に変わった。

 

そう、まるで敵を見るような感じで。

 

 

「だから私は言ったはずだ、これ以上のことは答えられないと。自分達の星が消えるのが嫌なら何も聞くな、何も欲しがるな。問題はこの星だけでは収まらないということがまだ分かっていないのか。ならばはっきり言って話にならない。本気で情報を手に入れたいなら、それ相応の覚悟を示すのが当然のことだろう? それすらも了承しないでただ情報を渡せ、そしてこの星には手を出すなと言うのは、それこそ少し強引すぎるんじゃないか?」

 

「そ、それは······························」

 

 

サムスの言葉に響が反論しようとするが、その前にサムスがさらに畳みかける。

 

 

「世間に公表されればこの星の秩序や調和が崩れるだけじゃなく、宇宙全体をも揺るがしかねない物になるということをなぜ理解できない? この星一つだけの問題じゃない、何億、何兆という星が危険に晒されるのだ。あなた達、たった一つの星に住む者達のわがままのせいでな」

 

 

響達は目の前に立つアーマーに身を包んだ女性を、驚愕の眼差しでじっと見つめた。

 

スケールがでかすぎる。故にリスクもデカすぎる。

 

正直、次のアクションへの思考が繋がらなかった。自分達は今まで地球一つを最優先にして動いてきたが、彼女はその数倍、数十倍、数億倍もの数えきれないほどの星々を最優先にしている。宇宙視点から見れば地球なんてちっぽけなものだろう。

 

たとえ抵抗しようとも、彼らはそれ以上の力を持って地球を破壊しにくる。情報が漏れた、または悪用されたというだけで。

 

 

「無論、私もそんな暴挙を許すつもりはない。元々、私の仲間が蒔いた種でもある。自分達の不始末は自分達で拭う。故に、私はあなた達に迷惑をかけないように一人でこの事件を解決するつもりだった。そして、この星の住民達にも危害を加える気なんか最初からない。一つ一つの星の平和を願う身として、この星に住む者達を消したくはないからな。だが、あなた達は今もなお私をここに閉じ込めている。そして、情報を寄越せという足止めをくらっている。このままでは被害はさらに拡大しかねないのにだ」

 

「「「「「「····························································」」」」」」

 

「だから私はあなた達の交渉に応じるための条件を提示したんだ。情報が欲しいならそちらも見合う情報を渡すことと、情報が漏れないように常に気を配っておけというな。漏らしたらこの星の破壊というリスクは背負うことになるが、それくらいの等価交換は当然だ。それが呑めないなら、諦めるんだな」

 

「「「「「「····························································」」」」」」

 

「ちなみに、隠蔽のために私をここで殺したとしても同じことだ。今回私は銀河連邦の正式な依頼でこの惑星に来ている。私からの報告がない場合、銀河連邦の猛者達が調査のために派遣されてくるだろう。人数は数万、下手すれば数億という数を寄越してくるかもしれない。それくらいの大きな組織なのだ、銀河連邦という組織は······························」

 

「「「「「「····························································」」」」」」

 

「どうするかはあなた達が決めろ。この惑星を消したくないなら情報は諦めて私をここから解放するか、死ぬ気で私の持つ情報を漏れないよう守るかだ。できれば今すぐ決めてくれ、時間がないんだ」

 

 

脅しにも近い交渉。

交渉を始めたのはこちら側だが、交渉の条件がスケールを飛び越えすぎている。

 

彼女からしたら念のために言っておいた方がいいから口にした程度だ。

 

しかし、装者視点からすれば殺気が見える。

心臓を鷲掴みにされたような感覚だった。サムスの様子を見ていた響達は、初めて見る恩人の様子に口を出す事ができない。気が付くと、自分の右手がかすかに震えているのを響は感じた。

 

情報を聞くというのは言葉にすればそれだけだが、実際はそんなに単純なものではない。情報は思った以上の価値があるのだ。

 

··························判断が難しい。

 

何かの歯車が取り除かれたせいで、普段の思考が一切回らない。そんな感覚だった。根拠とかそんな問題ではない。提示されたリスクが今まで以上すぎるのだ。世界を救う以上の難題。これまで以上の責任。数多ある星々を救わなければならないというのを、たった一つの星で行われなければならない。長い時間をかけて計算すれば突破口が見つかるとも思えない。単純にその条件を呑む意味が難しい。

 

 

だが、ついにその条件の答えは一人の男から発せられる。

 

 

「わかった」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「その条件を呑もう。君の持っている情報を俺たちに教えて欲しい」

 

 

重責を背負う役割を、彼はいとも簡単に受け入れた。

 

無論、その回答に反対する者もいるわけで、

 

 

「おいおっさん!? いいのかよそんな簡単に決めちまってッ!?」

 

 

反対する意見を、クリスが代表して言ってくれた。

上の許可を取らずに独断で条件を呑もうとしているのだから、反対してしまうのは至極当然のこと。

 

そんな反対を押し切るように、弦十郎は自分の考えを周りのみんなに聞かせるように言う。

 

 

「そこまでのリスクがあるのは当然だ。広い宇宙を守る以上、そんな条件を出すのも理解できる。俺たちのせいで、宇宙全体を揺るがしかねない可能性があるのであれば尚更だ·················フン、上等だ。おっ被ってやる。なにせ俺たちは星一個だけでなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

装者たちの脳裏に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

もう片方の片翼が生きている世界。世界の歌姫の妹が生きている世界。陽だまりが側にいなかった少女の世界。自分たちのクラスメイトが自分たちとは違う技術を身に纏っている世界。ノイズがいなかったバンド達の世界。電脳世界。怪獣達が街中を当たり前のように闊歩している世界。

 

他の世界の者、もしくは他の世界から来た者達と一緒に何度も世界を救っている。

 

宇宙並みにある数多の世界を彼女達は救っていたのだ。

 

 

「俺たちは、無限に近い世界をいくつも解決しているんだ。不安を持ったこともあったはずだ。勝てないと思ったこともあったはずだ。世界が滅ぶかもしれないというところまで追い詰められたこともあったはずだ。だが俺たちは···········いや、彼女達は一歩も引かずに戦ったんだ!! そして勝った!! 解決した、世界を救った!! 違う世界の者同士手を取り合って共に世界を救って来たんだ!!」

 

「「「「「「············································」」」」」」

 

「そんないくつもの難事件を解決して来た俺たちに、今更そんなリスク、背負う覚悟なんてとうの昔に出来ている!!」

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

「どうだ? これだけの難事件を解決しておいて、今更こんなリスクを背負えない奴はいるか?」

 

 

その単語だけで十分だった。

最優先事項によって全ての不安材料は取り除かれ、装者達の意志は確実に決定した。

 

装者達の答えはもちろん·················異論などなかった。

 

全員が黙って、強く頷いた。

 

最大限の意思表示。

迷いなど彼女達には不要であった。

 

 

「···················································」

 

 

彼女達がどんな事件に遭ったかはサムスは知らない。

 

なぜそうまでして事件に関わろうとするのかも理解できない。なぜそうまでして手を取り合おうとするのかわからない。こんなに脅されても諦めず食いついてくる意味がわからない。

 

わからない··································が、

 

そのがむしゃらな言葉を聞いて、サムスは微かに諦めのような表情を浮かべた。

 

彼女達の覚悟、意志は十分に理解した。ならばもう、今は何も言うまい。

 

 

「·················あとで後悔しても知らないぞ」

 

「大丈夫だ。全ての責任は俺が持つ。安心してくれ」

 

「··································では、質問に答える。なんでも聞け」

 

 

さあ、いつもと変わらない作業を始めるための一歩だ。

 

悲劇では終わらせない。

 

それぞれの覚悟を背負って、多くの者を救う。

 

別々の道を進んでいた彼女達の道が一点に交差する時がやって来たのだ。

 

 

そう、

 

 

未知なる脅威に立ち向かう物語が、今ここから始まる。

 

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