メトロイド Noise Echoes   作:織姫ミグル

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第8章

 

 

····························散々な1週間だった。

 

立花響は重たい息を吐く。1週間で終わらせなければいけない課題、さらに追い打ちをかけるようにやってきたハード任務。任務先に行った島で起こった精神を追い詰めてくるような出来事。そんで島を跡形もなく消し飛ばすほどの爆発から逃れるために複雑な施設の中を走り回った。たとえ好物がごはん&ごはんの響でもこれだけ運動すればメタボリックな心配をする必要はないだろうというぐらいの走行距離。

 

そこにさらに追い詰めるように、島で出会った人から課せられた難題。

 

····························疲れた。

 

そして立花響の前には、さらに新たな問題が立ち塞がる。

 

そう、ここからが本番なのだ。

 

 

「まぁたですかたぁちばぁなすぅわあああああああああああんッッッ!!!???」

 

「すいませんでしたあああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」

 

 

本日最大のデンジャラスチェックポイント。

課題を期限までに終わらせられなかった立花響に、超究極の試練が待ち受けていた。

 

 

 

・・・_

 

 

 

一身上の都合により、本日は下校時間が大幅に伸びました。

 

 

「うぅ······························」

 

 

放課後、といっても普通の生徒よりはかなり遅いが、なんとか残りの課題を全てコンプリートした響はちょっと重たい息を吐くと、学生寮の玄関で下穿き用の靴を脱いで上がる。

 

ちゃんとやっていたとはいえ、まだ残りがあったので担任から雷を落とされた響は正式な下校時間が過ぎても特例で学校に拘束。残りはちょっとしかなかったから今日中に終わらせられたが、この1週間の出来事もあって体はボロボロだ。

 

不幸体質だとは思っていたが、ここまで不幸だとマジで自分には強力な呪いがかけられていると思う。

 

このままだと呪い殺される日も近いかもしれない。

 

 

「私···············呪われ···············」

 

「やめて響。多分その先言ったら本当に呪い殺されちゃいそうだから」

 

 

真っ青で部屋の中に歩いてきた響に未来がその先を言わせないように制止する。

 

だってやばいもん。

どーんというか、ズゥーン……..てな感じで扉から入ってきた響は真っ暗に落ち込んでいた。そんなライフはゼロ状態な奴にネガティブな発言をさせたら本当に行っちまいそうで怖いからもうやめさせた。

 

流石に、神を退けたとか、幾度も世界を救ったとか、戦場で襲いかかる戦車の大砲を両手で持ち上げた伝説を持つ立花響でも敵わないものがあるようだ。

 

ともあれ、無事に試練は乗り越えた。

こんなハードな日常を送っている立花響には特例としてアイドル並みの特別待遇を与えてもいいはずなのだが、先生方は既に十分すぎるくらいの救済措置を与えているんだ、これ以上何を求める? と言ってくるだろう。

 

そんな立花響に褒美として与えられるもの、それは、

 

 

「寝る」

 

「せめてベッドで寝て」

 

 

ふかふかの絨毯に糸が切れた人形のようにして倒れこむ。

いつもなら幼馴染の成分を求めて抱きついてくるのだが、それすらもしないところを見ると相当疲れているようだ。

 

家に帰ってきたときはもちろん未来成分求めてハグを所望してきた。

未来は喜んでその要望に応えてあげたが、その後未来の胸の中でそのまま就寝。場所を選ばず寝てしまうとは恐れ入ったが、その日は結局任務の内容を聞きそびれてしまった。明日は学校だっていうのに課題は終わったのかという質問に答える暇もなく目を閉じてしまった。

 

そんで今日、案の定課題は終わらせられなかったようで先生からお怒りの嵐を受けた。

 

課題終わるまで学校に拘束されることは決定事項のため、響は未来を先に帰らせたのだ。自分も残ると言ったのに響はこれ以上迷惑はかけられないということで大切な友達である未来を説得してきた。それに渋々了承した未来は今日は早めに帰ってきたというわけだが、

 

 

(····················それにしても)

 

 

疲れ果てて帰ってくることなんて何回もあったが、今回は度を超えているようにも思える。

いつもなら今日はこんなことがあったよとか、今日はこんな敵と戦ったよ〜怖かった〜とか、今日面白い人たちと出会ったんだ! なんか凄くキラキラしてる人達が私たちと一緒に戦ってくれたんだ! しかも宝石が喋ったんだよ!! なんてことを話してくれていた。

 

まあ、時には極秘な任務にも行ったことがあったため教えてくれないこともあったが、それでも今日の任務大変だったけどうまくいったよとかそれくらいのことは教えてくれていた。なのに今はそれすらもない。

 

任務の内容を教えてくれないのは守秘義務があるため当然だが、一応、()()()()()()()()()

 

 

「······························」

 

 

未来は胸にある『アクセサリー』に手を置く。

『これ』が、関係者であるという証。今はまだ正式に認められてはいないが、『これ』を持つことを許されているからには未来は少なくともS.O.N.Gの一員であるということを示している。

 

そんな未来にも教えてくれない任務の内容。

 

それがどうしても気になる。

大切な親友がここまで疲れ果てるような出来事が任務の最中に起こったはずだ。それがなんなのか、陽だまりとして聞かずにはいられなかった。強引すぎる理由かもしれない、だがそれぐらい心配なのだ。

 

一員であるのに何もできない、その悔しさが未来を苦しめている。

 

 

「響」

 

 

未来は恐る恐るといった感じで彼女の名を呼ぶ。

んん〜? と寝言のような返事が返ってきたことから、響は寝ぼけているのかもしれない。心は痛むし違反になるかもしれないが、最終手段だ。今なら正常な思考を持っていないから話してくれるかもしれない。

 

それを狙って、未来は思い切って質問する。

 

 

「今回の任務··········一体何があったの?」

 

 

響がここまでになるようなハードな任務だということは明らかだ。

任務の内容は教えてくれなくてもいい、それでもどういうことがあったのかを少しだけでも教えて欲しい。少しでも親友の力になりたい、その一心での質問だった。

 

その質問に、響は倒れながらゆっくりと首を動かして未来の方を振り向いた。

 

瞼は微妙に開いており、思考もまばらな状態だ。これなら答えてくれるかもと内心期待する。

 

そして、響は口を半開きにしながらこう言った。

 

 

 

「未知との遭遇」

 

 

 

················································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································。

 

 

「····················み、道?」

 

 

映画か何か?

 

 

「··········スゥ〜··········スゥ〜··········」

 

 

それだけを言い残し、響は夢の中へと旅立った。

疲れ果て、いつも心配している大切な親友から出たその曖昧な言葉に未来は理解できず、ただ呆然とその場に佇んでいた。

 

 

 

・・・_

 

 

 

 

今回の事件には関わっていない奴もいる。

 

統制局長という支えがなくなった今、彼らは捕まらないように世界中にバラバラに散った。

元残党というだけで心を入れ替えて真っ当に生きているものもいるだろうが、大半が名前を変えて今でも裏から世界に干渉している。兵器開発や売買、時には表社会にノイズを放つ。

 

意見の食い違いから、同僚たちと協力関係にないものもいる。それぞれ連絡をとって計画を共有しているが、中にはその計画が気に食わないからと言って参加をしない者もいただろう。

 

 

例えば、エイリアンを利用して世界征服するとか?

 

 

馬鹿馬鹿しくて幼稚な計画だと思った奴らには何の連絡もしていない。所有しているノイズも何の改造もしていない普通のアルカ・ノイズだ。

 

計画に参加しなかった者は今回の悲劇を免れた。そして、そいつらはそいつらなりにビジネスをしている。

 

 

例えば··········テロ行為とか。

 

 

「····················ッ!!」

 

 

少女は、今までアルカ・ノイズがどこから来るのかとかそんなことは知らなかった。

 

いいや、いつもみたいに通っている音楽学院から帰宅している最中にローブを被った怪しい奴らに袋に詰められて誘拐されたこともないし、見知らぬ地下へと連れ込まれたこともない。何なら、猿轡を噛まされて両手を後ろに回されて縛られたこともなければ、目の前でノイズが現れるのを見たこともなかった。

 

ノイズが現れた後、目隠しをされてカメラの前に座らされ、何をするのかわからず震えているこの時間そのものが、少女にとって何一つ経験したことがないものだった。

 

ノイズに囲まれて逃げられなくなった今、彼女ができるのは何故こんなところにいるのだろうという現実逃避に似た疑問だった。

 

 

「できれば、S.O.N.Gの装者の直の関係者を使いたかったが····················あの白いリボンをつけた女とか」

 

「まあ、あいつらが通っている学校の生徒一人ってだけでも十分だろう。自分たちのせいで大切な同級生が一人死んだってことになれば奴らも罪悪感で苦しむ」

 

「我らの恨みを晴らすには少々足りない気もするがな。しかし、こいつが死ぬだけでも確かに効果はありそうだ」

 

「これで··········捕まった奴らが少しは報われるといいな」

 

「そうでないと困るな、ハハッ!!」

 

 

地下数百メートルもある場所で、不穏で不気味な笑い声だけが少女の頭上を飛び交っている。

 

無事に解放されるという想像はしたものの、恐怖のあまり思考は弾け飛んでいた。良い方向も悪い方向も考えたくない、考えられない。いずれにしても自分が助かるビジョンが曖昧だ。

 

数秒先の未来が想像できない。

 

 

「さて、始めるか」

 

 

ガチガチと震える少女の事情などお構いなしに、その時間はやってきた。

 

 

「映像とアルカ・ノイズの準備は?」

 

「映像、音声共にいつでもオーケーです」

 

「ノイズたちも無事に指定位置に配置」

 

「S.O.N.Gへのホットラインも確率。逆探知されぬように対策も完璧です。あとは合図一つで全国へのライブ中継が可能です」

 

「よし··········始めよう」

 

 

言うや否や、リーダー格らしき男が少女の髪を掴む。

 

痛みではなく驚きの方で絶叫した様子であったが、そんなことは奴らにとっては何の関係もない。引きずられるように運ばれた少女はレンズの目の前に放り投げられ、ノイズが少女の周りを取り囲む。

 

 

「····················ッ!!」

 

 

抵抗の暴れも、抗議の言葉も無駄だった。

口は塞がれ、手足も自由がきかない。音楽を奏でるために鍛練してきた少女の力ではどうにもできなかった。膝立ちをし、わけもわからないまま時間は迫って来る。

 

 

「··········送信を始めよう」

 

 

ゾクリ、と。

 

少女の全身の毛が総毛立った。

死刑の時間がやってきたことによって全身が抵抗しだした。

 

黙っていても殺される。抵抗しても殺される。それをわかっていても動きは止めなかった。身動きは取れないのに、体が目の前の死を拒否して暴れさせる。

 

 

「てめっ、大人しくしろ!! いい映像が撮れねぇだろうがッ!!」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 

「こいつ····················ッ!!」

 

 

どんなシチュエーションを考えているかは知らないが、こっちはそんな要求を呑むほどの余裕なんてない。自分じゃなく別の誰かを起用して欲しい。自分より適任の役者がいるんだったらそいつ使え。

 

自分を巻き込まず勝手にやってろ、そう言いたかった。

 

だが、リーダー格の男は一旦ノイズを後ろに下がらせて少女の元まで行き、

 

 

「てめぇいい加減にしろッ!! ドタマぶち抜かれてぇか!?」

 

「ッ!!」

 

 

カチャという小さな音が聞こえてきた。

頭に押し付けられた銃口越しに頭蓋骨に直に響く拳銃内部から発せられた音だということはわかったが、死を悟った彼女にそんなことが今わかったからってどうしようもない。

 

死が目の前にある。それを感じながら彼女は目隠しされながらも闇を求めるように目を瞑った。

 

そんな彼女が最後に思ったのはただ一言。

 

 

(助けてッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはよく響いた。

少女の頭蓋骨をよく震わせたその音は、辺り一面に鉄くさい匂いをばら撒いていた。床には赤黒い液体が飛び散り、鉄分がよく詰まった匂いを充満させている。

 

確実に、撃ち抜いた証拠だった。

 

一発が、確実に肉と骨を貫いた。

 

少女のその変わったデザインの制服には無残に赤い液体が染まっていく。

 

 

「····································?」

 

 

が、少女は無傷だった。

 

 

「がっ、ああああああああああああああああッッ!!!??」

 

 

代わりに、リーダーの男の絶叫が聞こえてきた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

他の奴らは慌てふためく声を重ねている。

それもそのはず、リーダーの男の腕が不自然な形に変形しているのだ。少なくとも、あれでは銃どころか何も握れないだろう。

 

何が起こったかわからない他の男たちはそれぞれ自分たちのノイズを近くに配置する。

 

だが、その直後に続けざまに発砲音が炸裂した。

 

ドガドガドガッ!! という拳銃から発せられる音ではない異質な音がノイズの体を突き刺す。ノイズは跡形もなく塵と化して消えていったのを見ると、撃ったのは鉄を溶かして作られた弾丸ではない。

 

では一体何なのか、という疑問が頭を過った時、

 

 

 

 

 

「························パヴァリア光明結社················とやらの残党で間違いないな?」

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

疑問を塗りつぶす透き通るような声。

 

男どもは返答できない。

なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。シンフォギアでもなければファウストローブにも見えないスーツを着込んだ奴の問い詰めに、全員が言葉を失っていた。

 

 

「情報通りだ、奴らの仲間のアジトの一つを見つけたぞ弦十郎」

 

 

未知なる相手に困惑しているのも束の間、そいつは元パヴァリア光明結社の錬金術師を前にして誰かに連絡を入れると、ヘルメットの耳当てから野太い男の声が返ってくる。

 

しばらくして、そいつはヘルメットから指を離すとテロリストどもの目を見ながらこう言った。

 

 

「すまないが、お前達には私達の技術を盗んだ報いを受けてもらう」

 

 

 

・・・_

 

 

 

見た目や口から発する言葉からして、彼女は同じ人間かと思っていた。

 

いかに特殊なアーマーに身を包んでいるとはいえ、空気を吸わねば死んでしまうし、食べ物を食べなければ死んでしまう。寿命だってあるだろうし、内臓のどの器官をやられても死んでしまうはずだ。

 

同じ弱点を持つ人間ならば、いとも簡単に殺せる。言葉にすればその程度の問題だ。

どんな怪物だろうが、特殊な訓練を受けずに映画見て飯食って寝るだけで霊長類最強の域まで到達した奴だろうが、それが人間、いや生き物と呼べる範囲にいるなら何とかなる。

 

ノイズは元々人間を炭素化させる化け物だった。それがいなくなった今、代替品として分解に特化した【アルカ・ノイズ】が現れた。元々はとある錬金術師が作った人工兵器であるが、人を殺すには申し分ない。触れればどんな人間でも塵にしてしまう。だからこそ、ノイズは不可思議な技術を持った奴にも、的確に対応できる。

 

そう、思っていた。そう、信じていた。

 

だからノイズを追加で召喚した。

 

だが、

 

こいつは、本当に人間なのか?

 

 

「ふっ!!」

 

 

ビュン!! という空気を切り裂く音が鳴り響く。

その腕にある大砲から複数の光弾が乱射され、そのどれもが正確にアルカ・ノイズを撃ち抜いていく。

 

無論、彼らは抵抗する。

彼らは未知なる相手に生命の危機感を覚えたことで脱するためにこれまで培ってきた錬金術と解剖器官を有したノイズを用いて立ち向かおうとする。

 

ノイズを放った。解剖器官を放った。

 

人質を使って制止を促そうとした。

 

地下を支える柱を破壊して生き埋めにしようとした。

 

 

だが、それらは何の効果も成さなかった。

 

 

例えるならば、彼女はまさに兵器そのものだった。

時に体術を使い、時に右腕の大砲を頼り、最短で真っ直ぐでしか使わない最小限の力を振るい、最大の戦果を得る。それはもう人間対化物とかそんな生ぬるいものではなかった。

 

 

怪物対雑魚。

 

 

勝ち負けを論じるのではなく攻撃が通るかどうかの争い。サムスが撒き散らすものは単なる攻撃ではない。届いた時には確実に死が訪れる死刑宣告の証明、気付いた時にはもう思考が働くことはない。領域はすでに人間が理解できない域まで達している。

 

錬金術師は全員思った。一体どうやって動いているのかと。

 

もはや人間の動きとは思えない。

未知の合金とはいえ金属製にも見えることからおそらくあのスーツは重いはず。アーマーの重量に加えて右腕の大砲の重み、そこに人間一人分をプラスしていれば体の自由は制限されるはず。自分たちの標的であるシンフォギアは露出度が高い代わりに軽量化されている。故にどんな武器を持っても素早く動ける。

 

が、彼女の場合は法則を無視しているように見える。

 

人間の動きではない動きをしている。

避けろ、とノイズがプログラムを実行するよりも何倍も早く、残像すら渦巻かせて光弾を撃ち落とす。光弾が発射されれば死は確実、むしろ死ななかったらそれはもはや奇跡だ。

 

視認する頃には消える。光を纏って一瞬で移動する。

 

反応、という選択肢すら不可能だった。

 

動きを目で追えない、攻撃の合間をかいくぐって反撃できるかどうかもわからない。

 

一体、彼女はどう動いているんだ?

 

 

(な、なんなんだこいつは!?)

 

 

いきなり現れて襲ってきた謎のアーマー。

 

こいつに恨まれることをした覚えはない。心当たりなどもない。

 

だが今はそれどころではない。

召喚したアルカ・ノイズたちが本来の役目を果たせずに塵と化している。

 

歌は聞こえない。

 

自分たちが標的にしているものは歌で力を倍増させる技術を持っているはず。だがこいつは歌っているようには見えない。そもそも、あれはどう見てもそれではない。

 

ではあれは自分たちの標的ではないのか············その時だった。

 

 

召喚したはずのノイズが一つ残らず消え、赤い塵と共にその活動を停止させた怪物の首が、グルリとこちらを向いた。

 

 

「ひっ!!」

 

 

正面からバイザーと目が合う。それだけで恐怖感を覚えるのは十分だった。

 

 

「も、もっと召喚しろ!! 大きな個体も出せ!! 何としてでもあいつを殺せッ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

 

仲間への必死な命令············いや、助けての言葉の代用品か?

 

人と人の実力差ではないのは既にわかっている。だが、こうまで違うか。

まるでネットワークRPGでレベルが100以上違うキャラを相手にしているように感じる。トリックがあって攻撃が効かないというのもあるだろうが、単純に彼女の実力がすごすぎてノイズでは戦いにならない。

 

言われた通り、追加のノイズと大きな個体も召喚。

 

セミに似た顔にザリガニのような大きいハサミ状の両手、直立二足歩行の大型アルカ・ノイズであった。

 

 

「····································」

 

 

それを見て、サムスは何を思ったんだろうか。無言のまま立ち尽くしている。

 

まるで、『見たことあるぞコイツ、もしかして発狂した科学者の行った核実験が原因で壊滅した星の奴じゃないか? 確か20億3,000万人がその時難民状態になって宇宙を放浪していると聞いていたが、まさかこの星に降り立ってコイツらに改造されたのか?』といった感じで呆然と眺めていた。

 

担当している部署が違うというのもあったが、銀河連邦が言うには彼らは危険種族であるため一切関与しないと言うことで捜索はされなかった。今まで行方知らずだったが、まさかあの星の奴らにまで手を出していたとは。

 

だが彼女はすぐに行動した。思考を一次的に忘れたのだ。

すぐに思考を切り替えたサムスは横に振るうように大砲から光弾を放ち、追加されたノイズ達の体を容赦無く突き刺す。

 

大きな個体でも同じだ。

ハサミから吐き出されるノイズの一部で一気に彼女の周りを複数の液晶ディスプレイが取り囲む。そして体の形状を変えて彼女に襲いかかる。

 

しかし、彼女は倒れない。

 

フラッシュ並みの光が彼女の体を纏い、場所と場所をシフトするかのような素早さで包囲網を抜ける。

 

そして、大きな個体へと一気に近づくと、彼女の右腕にある既にエネルギーを収束し終えた大砲が槍のように大きな個体の脇腹に突き刺さる。彼女はゼロ距離で発射し、自分よりも大きな体を持つ個体を吹き飛ばした。

 

 

ドガァァァァァァアアアアアアアアッ!!

 

 

と、火花が散る。

 

汚ねぇ花火という言葉がこれほど似合う奴も珍しいが、爆裂したノイズの破片が小規模の流れ星となって彼女の上空を舞う。

 

 

「·································」

 

 

何の障害物もなくなった地下の中、サムスはただ無言で佇んでいる。

数秒後、サムスは呆然として恐怖に身震いしている観戦者たちの元へと平然と歩いて行く。

 

 

「「「「「············ッ!!」」」」」

 

 

勝ち負けなど最初からなかった。

こちらに近づいてくるサムスに対し、言葉を失った錬金術師たちはただ震えている。

 

その後、彼女の手によって彼らは意識を手放した。

 

所要時間、わずか300秒。

 

500体ほどいたノイズをたった一人で殲滅し、世に静寂と平穏をもたらした。

 

 

 

・・・_

 

 

 

 

「········································ッ!!」

 

 

少女は何もわからなかった。

 

だが、現時刻をもって知った。生存という喜びを。

 

目隠しと猿轡をされて周囲の状況は分からない。しかし、その場から不穏な雰囲気は取り除かれたことだけは察した。複数のテロリストらしき者たちの声は消えた。それはつまり、テロリスト達が作り出していた絶望そのものが消えたということ。

 

辺りからは冷たい空気の音しか聞こえない。

 

少女は後ろ手に縛られた両手を必死で動かす。ロープの表面のトゲに皮膚が擦り切れると思ったが、シュルリとロープは『第三者』によって解かれた。

 

 

それはつまり、()()()()()()()()()()()()()

 

 

さっきのテロリストの仲間かもしれない。そう思った少女は震える手を動かしてゆっくりと顔を覆う目隠しを取り外した。

 

久しぶりの光にしばし目が眩む。

地下に降り注ぐ蛍光灯の白い光に手をかざし、目を細め、それから周囲を見回す。

 

テロリストの残りがいるかもしれない、そう思う少女の首がある一方向でピタリと止まった。

 

壁際にある黒い影。

打ち倒されて、泡を吹いて白目を向いている男達。死んではいないようだが意識は何処かへと旅立っている。

 

 

そこに、もう一つの人影が見えた。

 

 

顔や姿が見えない。都合悪く、まだ視界は回復していないのかよく見えない。

 

だが、そこにいた人はおそらく幻だったのかもしれない。

 

何故ならば、視界を回復させるために一度瞬きをした時には、その人影は虚空へと消えていたからだ。本当になんの前触れもなく、一瞬のうちに影は消えていた。

 

 

「·············································」

 

 

少女はしばし誰もいなくなった虚空を眺めていた。

 

助かった喜びよりも、この平穏をもたらした者は誰なのか考えながら。

 

 

 

・・・_

 

 

 

「ご苦労だった。なかなかの活躍だったなサムス君」

 

「············································」

 

 

司令に話しかけられるも、サムスは無言。

 

彼女はどうやってあそこから唐突に消えたのか、それは最近スーツにダウンロードした光学迷彩の機能を使って撤退したからだった。銀河連邦が開発した【ファントムクローク】という光学迷彩はセンサーにも反応しない。一般人に見られるわけにはいかない以上、脱出するにはこうするしかなかった。

 

しかし、元パヴァリア光明結社の一部のアジトを排除した今、あとは彼らの仕事だ。S.O.N.Gの職員やエージェントが地下に降りて速やかに容疑者と人質を地上へと連れていってくれるだろう。もはや、自分の出番はない。

 

だが、気になることがある。

 

本部に無事に戻り、ここには関係者しかいないということを確認すると、

 

 

「あそこはどうやら今回の件には関わっていないようであった。あいつらが出してきた奴の中に見覚えのある奴がいたがおそらく人違いだ。よく考えたら、あのバルタン星人が奴らに簡単に改造されるとは思えない。ハズレだな」

 

 

そう言ったサムスに、司令がピクンと眉を上げる。

 

 

「君が暴れている間にこっちも調べてみようと思ったが、予想よりも暗号の解読に手こずっていてな。君から渡された“あのデータ”は、どうやら奴らにとってはよっぽど好ましくない内容なんだろう」

 

「それで、今回の件には関わっていない仲間のアジトを囮にしたというわけか」

 

「ああ、潰れてもいいアジトだけは暗号を簡略化し、真実にはそう簡単にはたどり着けないようにされている」

 

「····················面倒だな」

 

「だが、君のおかげで一つのアジトを潰すことができた。協力に感謝する」

 

「礼はいらない、当然のことをしたまでだ。しかし────」

 

 

サムスは吐き捨てると、改めて話を戻す。

 

 

「本当にあいつらはあなた達のことを恨んでいるみたいだな」

 

「まぁな。前に話したが、過去に組織を壊滅させてからというもの何度も奴らとは対峙してきた。未だに街中に平然とノイズを放ってきているのを見ると、俺たちに相当迷惑をかけたいそうだ」

 

「····················ある意味では、奴らの思惑通りということか」

 

 

迷惑をかけるという意味では奴らの狙い通り。

奴らは自分たちの持つ情報を徹底的に封じるため、消えてもいい場所や見られても問題ない情報だけは簡単に見られるようにしている。そして見られてはいけないものは複雑な暗号化で解析を難しくしている。

 

呆れた手口だ。

 

島で手に入れたデータを彼らに提供して解析できたのはいいが、こんな二流がやるような方法で捜査を遅らせるとは、錬金術師どもは下っ端並みにせこい。

 

そうまでしてS.O.N.Gの奴らに借りを返したいのかとサムスは呆れた表情をして、くだらないなと結論付ける。

 

と、その時。

 

司令がデータの中身についてどれ程解析が進んだか確かめるために、エルフナインに普段よりゆっくりとした口調で尋ねた。

 

 

「中身のデータはどれ程解析が済んだ?」

 

「ちょうど今一つの解析が終わりました。モニターに出しますね」

 

 

ピッ、とメインモニターから電子音が鳴る。

 

文字化けのような解析結果が高速でスクロールし、それに続いて文章が正しい形式に変換されていく。

 

 

「·····················これは」

 

「なんだ? なにかわかったのか?」

 

「はい、どうやらこれはパヴァリア光明結社の機密扱いのコード類のようです」

 

「そこから奴らの計画の目論見を打開するヒントになり得るものはありそうか?」

 

「え〜っと、出てきたコードの名前は·····················『個体:R』、『個体:DS』··············これはフロンティア事変と魔法少女事変の事件の記録··············後は今回の計画に関わったアジトの見取り図··············」

 

「「····························」」

 

 

わけがわからない。

意味不明な個体の名前、そして過去に起きた事件の記録なんて何の意味があるんだ? 機密コードという名前の通り、第三者には簡単に理解できない名前で奴らは計画を共有していたようだ。

 

役に立ちそうなのはアジトの場所ぐらいだ。だがまあ、それだけでも十分な収穫だ。

 

次の計画は決まった。

今度は当たりのアジトに乗り込んで、改造された宇宙人達を殲滅する。サムスの協力もあれば簡単に為せるだろう。

 

明日、シンフォギア装者達を召集し、今後の方針について話し合おう。

 

 

「あ、それともう一つ出ました」

 

 

エルフナインがそう言うと、メインルームにいる全員がモニターに注目した。わざわざエルフナインが今までの情報と区別したということは、それまでの情報とはランクが違うとこの場にいる皆が受け取ったのだ。

 

新たに出た情報。

そこに表情された文字を、エルフナインはゆっくりと呟く。

 

 

「─────『個体:M』」

 

 

命がけの戦いと脱出劇の果てに得られたのは理解不能な個体の名前。しかし、ようやく得た事件解決の突破口。

 

確かな攻略の鍵を手に入れたS.O.N.Gとサムスが、これより計画の打開に動き出す。

 

 

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