【完結】冒険譚「希望の指輪」 アルゴノゥト・ウィザード   作:れいが

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2章
1節 旅路にてⅠ


 ―私の名前はフィーナといいます。

 ―アルゴノゥト師匠と旅に出て、1週間ぐらいが経ったでしょうか

 ―故郷の(イルコス)を旅立ってその日の夜、綺麗に輝く星空の下、草原で天幕(テント)を張り野宿をしました。

 ―初めて外で寝たりするから、眠れるか心配でしたけど、案外ぐっすり眠れました。

 ―師匠も一緒に寝ていましたけど・・・私、いびきとかかいてなかったのか

  ちょっと心配でした。

 ―でも、いきなり「トォウッ!」って叫び声が聞こえてきたから、慌てて外を見てみると師匠が

  いつの間にか天幕(テント)を囲っていた魔物達と格闘を繰り広げていました。

 ―魔物が一斉に襲い掛かっていましたが、師匠は難無く魔物を倒して辺りは静まり返りました。

 ―師匠は天幕(テント)に戻ってくると、私の安否を気遣ってくださいました。

 ―もちろん大丈夫だったので伝えると、これからこういう事が時折あるから気を付けるように、

  と教えていただきました。

 ―私は弟子になって初日から波乱万丈な旅になりそうだと、この時から思い始めました。

 ―というか思わない方がおかしいですけど・・・

 

 

 ―(イルコス)を旅立った次の朝。朝食を食べ終えてあの魔道具に跨り、歩き・・・

  いえ、進み始めました。

 ―魔道具の名前は疾風の鉄馬(サイクロン)という、馬を使わない馬車、というものなんだそうです。

 ―というより、生きてはいないけど鉄のように硬い体をした馬という物だとか。

 ―よくわからないんですけど、師匠はこれを初めて触れた時から乗りこなせていたそうです。

 ―私も少しは興味が沸いてきていたので、自分で動かしてみたいというと師匠は、もう少し

  身長が伸びてからの方がいいと言いました。

 ―どうしてかというと、足がブレーキという部分と止まった時に足が地面に届かないからという

  理由でした。

 ―師匠はよく食べて、よく動いて、よく眠ると大きくなれると教えてくださりました。

 ―私は3つともキチンとやっている事なので、これからも続けようと思います!

 

 ―しばらく進んでいると、荷車を運んでいる老夫婦を見かけたんです。

 ―旦那さんが引っ張り、その後ろでご婦人が押していました。

 ―お2人は引っ張るのも押すのも大変そうにしていて、それを見かねた師匠は疾風の鉄馬(サイクロン)

  止めました。

 ―先に降りたのを見て私も続いて降りようとしたところ、師匠が軽々と私を持ち上げて

  降ろしてもらいました。

 ―魔物を一撃で倒すくらいの力がありますから私を持ち上げるなんて、普通だとは

  思いますが・・・

 ―それでもあんなに軽々と持ち上げるのはすごいと思いました・・・

 ―師匠は有無を言わせず、手伝うと言い旦那さんと代って荷車を引っ張り始めました。

 ―疾風の鉄馬を置いていく事になるのではと思い問いかけてみると、誰にも動かせないから

  問題はないと答えたので、私はご婦人の手を取って後に続きました。

 ―老夫婦は近くの村に住んでいるらしく、この荷車は本来であれば馬が引いてくれるのだが、

  その馬が病気になってしまい休ませないといけなくなったとの事で、お2人で動かして

  いたそうです。

 ―師匠は、それは大変でしたね、と答えて荷車を1人で汗一つ掻かず引っ張っていました。

 ―やっぱりすごいですよ。

 

 ―荷車を引っ張り続けてようやく村が見えてきました。

 ―旦那さんが、ここからは大丈夫ですよ、と師匠に伝えましたが師匠は、これも

  鍛練の内ですから、最後まで運びますよ、と言って最後まで引っ張り続けました。

 ―村に到着すると、牧場に荷車を運び終えて老夫婦はとても喜んでくださっていました。

 ―私は何も出来なかったので、少し残念に思っていましたが、師匠がお婆さんを支えてくれて

  ありがとうと言ってくださいました。

 ―私は初めて褒めてもらえた事に感動と喜びで思わず手を上げようとして、荷車の金具に

  手を殴打して悶絶しました。

 ―本当に痛くて心配する師匠と老夫婦の安否にお答えできなかったです。はい・・・

 ―それから老夫婦の営む牧場の出来る限りのお手伝いをして、お風呂をお借りして身を清め、

  夕食をいただき、更には宿泊までさせていただきました。

 ―お部屋は息子さんが使っていたもので、今は村を出てどこかの町で働きに出ている

  そうでした。 

 ―流石にベッドを使わせてもらうのは遠慮して、師匠と私は毛布を掛けて床で

  寝る事にしました。

 ―昨夜の出来事を思い返して、外と違ってこんなにも落ち着いて寝られるものなんだと

  実感しました。

 

 

 ―次の日、朝早く起きて隣を見てみると、師匠の姿がありませんでした。

 ―窓の外を見てみると、師匠が馬のお世話をしていました。

 ―私は急いで寝巻きから着替えて、階段を降りるとご婦人が朝食を用意して

  くださっていました。 

 ―とても美味しそうな匂いに思わず私のお腹が鳴ってしまい、ご婦人は面白おかしく

  笑っていて、私は苦笑いを浮かべるしかありませんでした。 

 ―顔も赤くなってたでしょうね・・・

 ―それを誤魔化すために師匠を呼びに行きました。

 ―老夫婦と一緒に朝食を食べ、今日は特に何もしないとの事なので手伝う事はありませんよ、

  と丁重に遠慮されたので師匠と荷物をまとめ、村を後にしようとしました。

 ―しかし、向こうの方で何か騒ぎ声が聞こえてきて師匠はそこへ走って向かいました。

 

 ―私も追いかけて、辿り着くと屈強で野蛮そうな男が農夫から袋を奪い上げていたんです

 ―見たところ、金銭が入っているようで袋の中身を鳴らしながら、下品な笑い声を

  上げてました。

 ―すぐそばの女性に師匠が訪ねると、野蛮そうな男は村の近くを占領している盗賊団の1人で

  時折、村にやって来ては誰かしらの金銭を奪いに来ているそうでした。

 ―最初は村の人々も自警団と一緒に抵抗していましたが、多数の怪我人を出してしまい

  そのせいで誰も逆らえなくなってしまっていると教えてくれました。

 ―私はとても憤慨しました。すると、師匠が集まった周囲の人々を掻き分けて、盗賊の男に

  近付いていきました。

 ―盗賊の男も師匠が近付いてくるのに気付き声を荒げて、失せろと言い放ちました。

 ―その瞬間、盗賊の男の体が弾かれるように跳ね上がり、金銭の入った袋も一緒に

  宙を舞いました。

 ―袋は師匠の手元に落ちてきて、それを師匠は見事に掴みました。

 ―盗賊の男は仰向けに地面に倒れて目を回しながら気絶していました。

 ―村の人々は突然の事に困惑していましたが、師匠は気にせず農夫に袋を返してあげました。

 ―農夫は涙を浮かべて、何度も何度もお礼を言い袋の金銭を分けようとしました。

 ―師匠はそれを手で制止させて、受け取ろうとしませんでした。

 ―そして、森の盗賊は私が倒してくると怒気を込めた声色で村の人々に伝えました。

 ―突拍子な師匠の言葉に、村の人々は顔を見合わせて、また困惑し始めました。

 ―すると、老夫婦が駆け寄ってきて、危ないからやめてください、と師匠に忠告しました。

 ―しかし、師匠は微笑んで、とても美味しい朝食を食べさせてくださったお礼ですよ、と答えて

  私を呼ぶと森へ向かいました。

 

 ―深い森を進んで行き、盗賊団が住処としている開けた場所へ辿り着きました。

 ―いくつもある掘っ建て小屋の中から盗賊団が続々と現れて、私達は囲まれました。

 ―盗賊団のリーダーと思われる男が、金目の物か私を置いて行けば見逃してやると言ってきて、

  師匠は即座に、断ると答えました。

 ―続けて、貴様らのような何も得られないような奴らに金を得る事も、女を得る事も出来なくて

  当然だ、とも言いました

 ―それにはリーダーを含めて盗賊団の全員が激怒し、今にも襲いかかるほどの勢いでした。

 ―師匠は私に、飛べと合図をしたら飛び跳ねるよう言いました。

 ―私は何をするのかわかりませんでしたが、とにかく頷いて、師匠は右手の中指に翠色の指輪

  嵌めて、お腹の下辺りに手を当てました。

 ―すると、チョーイイネ!サンダー!サイコー!と何か変な声が聞こえてきて、師匠は右手首に

  左手首を擦るような動作をしました。

 ―そして、飛べ!っと言ったので私は勢いよく飛び跳ねました。

 ―師匠は右掌で力一杯、地面を叩きました。

 ―すると翠色の稲妻が地面を駆け巡り、盗賊団は悲鳴を上げながら全身を震わせて

  痺れていました。

 ―私が着地する瞬間に師匠が掌を地面から離すと、翠色の稲妻は消えて無くなりました。

 ―盗賊団は呻き声を上げながら、その場に倒れて勝負・・・と言っていいのかわかりませんが、

  一瞬で決着がつきました。

 ―私はどうやって魔法を出したのか問いかけましたが、それはまた今度にしよう。

  今は村の人達から奪われた財産を探すぞ、と少し強めに言われて小屋の中を見て回りました。

 ―盗賊団のリーダーが出てきた小屋の中で、沢山積まれている袋をいくつも見つけました。

 ―その中身には金銭が入っていて、すぐに師匠へ伝えました。

 ―それから盗賊団を縄で縛り上げ、師匠は小屋から奪われた金銭が詰まっている袋を引っさげて

  出てきました。

 ―私はもちろんお手伝いしようとしましたが、半分ずつ持とうとしたら肩が外れそうに

  なりました。

 ―なので、軽い袋を一つ持たせてもらい村へと戻っていきました。

 

 ―取り戻した金銭を渡して、村の人々は大いに喜んでくださり、老夫婦は私達が無事である事を

  一番に喜んでいました。

 ―師匠は老夫婦に、ご心配おかけしました、と言って、自警団の方々に森で盗賊団は

  縛り上げている事を伝えました。

 ―そして、では、失礼します、とそのまま去ろうとしました。

 ―村の人々は慌てて何かお礼を、と言いましたが、師匠は、私達の名前を憶えてもらうだけで

  十分だ、と答えました。

 ―私の名はアルゴノゥト・クラネル。・・・使いと、名乗っておこう、と言ったので

  私は、その弟子のフィーナ、混血を蔑視する時代を無くする英傑となる者です!と

  言っておきました。

 ―正直言いますと、恥ずかしさよりも何と言いますか、爽快感がありましたね。

 ―せめてこれだけでもと、食材を包んだ小包を受け取って、私達は村の人々に見送られながら

  疾風の鉄馬(サイクロン)に乗り、村を後にしました。

 ―師匠は前を向いたまま私に、中々良い口上だったぞ、と褒めてくださりました。

 ―私はそう褒めてもらう直前になって、師匠が気に入られなかったらどうしようと

  思っていましたが、結果オーライで安堵しました。




 「ふむふむ。指輪の魔法使い・・・そう名乗っていたのですな?」

 「はい。フィーナさんという弟子と魔道具に乗って村を出て行きました」

 「どの方角ですかな?」

 「ここを真っすぐです。恐らく、山の方へ行ったと思いますよ」

 「なるほど。教えていただき、どうもありがとうございます」

 「いえいえ。あなたも旅をしているのですか?」

 「そう。世界を巡り、目にした英雄達の偉業を伝える使命を帯びていましてね」

 「それは、すごい使命ですね・・・大変そうですが・・・」

 「世界に希望の歌を広める。それが、私の夢なのですよ」
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