ようこそ恋愛至上主義の教室へ   作:ルブラン

3 / 4
脳内は真っピンク

 

「須藤くん、授業時間は睡眠時間ではないと思うんだけどね」

 

 入学2日目、そして授業初日。さらに言えば祇季(しき)が綾小路と付き合えることになった次の日。

 

 昼休みに入ると、栄一郎がキレた。

 

 ──あいつにしてはもったほうやな。

 

 真面目で努力家な彼は、ずっと居眠りするという須藤の所業が我慢ならなかったらしい。

 

「あ? うっせーな。教師も注意してこないんだしよ、寝ようが俺の勝手だろ」

 

「注意されないからやっていい、と考えるのはおかしな話さ。そうだね、ボク個人の問題として授業中クラスメイトに寝られると困る、と言っても構わない」

 

「何で俺がお前のために眠気を堪えなきゃいけねえんだ」

 

 栄一郎としては須藤のために言っているのだろうが、それは受け入れられないようだ。ここは一肌脱ごうと祇季は立ち上がった。

 

「あんま昼間っから寝てると夜ちゃんと寝れへんかもって栄一郎は言いたいんよ。須藤くん、見た目からしてスポーツマンやろ? 規則正しい睡眠とるのも大切やないの」

 

「それは……まあ……」

 

 関西弁の勢いに押されてか、須藤は多少落ち着きを取り戻したらしい。面倒くさそうに告げる。

 

「分かった分かった。授業中はできるだけ眠らずバスケのこと考えるようにするぜ。これでいいか?」

 

 良くはない。だが須藤としても譲歩しているのだろう。栄一郎は、とりあえず礼を述べて席に戻った。

 

「お疲れ様。なんというか、大変そうだな」

 

 綾小路の言葉に2人は苦笑する。

 

「先生からの注意というのも必要なんだと身に染みたよ。この学校は放任主義、と言えばいいのか。クラスの雰囲気がどんどん緩んでいるね」

 

「言われずとも品行方正であるのが理想なんやろうけどなぁ」

 

 お弁当箱を取り出し、机を寄せ合う。パカっと開いたその中身は3人とも同じだった。もちろん、栄一郎作のものである。

 

 室内の生徒の行動は様々だが、初日から手製の昼食という珍しさからだろう、ちらちらと視線が彼らに向けられているようだった。

 

「松雄くん、五百扇さん、ありがとう。言いづらいことを言ってくれて」

 

 そのうちの一人である平田が近づいてきて、祇季(しき)は思わず身体を強ばらせた。彼と、軽井沢に対して、彼女は『救えたかもしれないのに救えなかった』と罪悪感を抱いているのだ。もちろん現実的に考えて、ただの一般人が名前と性別と年齢しか知らない相手を探すのは困難だと分かっているし、正直見つけられたところで助けになれたかどうかは分からない。それでも、すっぱり割り切ることは出来なかった。

 

「授業態度が悪い人がいると気が散るからさ。自分のためだよ」

 

 須藤を含めクラスメイトの半数近くは教室を出ているためか、あけすけな物言いだ。

 

「だとしても、立派な心がけだと思うな」

 

 微笑むと、平田は教卓の方へ歩き一緒に食堂へ行かないかとクラスに呼びかけていた。女子の波が押し寄せる中に軽井沢の姿もあったことに、祇季は安堵する。

 

「いい奴だな」

 

 若干探るような声で綾小路は言った。

 

「うん、いい人すぎてちょっと心配なくらいやね」

 

 彼と軽井沢のためにはどうするのが正解か、というのが祇季の課題である。原作での綾小路の行動はちょっと荒療治だと認識しているので、マイルドめに解決出来る手段を求めていた。悩んでも、難しいのは理解しているのだが。

 

 サンドイッチを携えて着席した堀北についても、櫛田ともども問題の一つだろう。改めて考えるとやはりDクラスは尖った生徒が多いと実感させられ、祇季(しき)は嘆息した。義務だと思っているわけではないものの、やれることはやっておきたいとハッピーエンドを望んでしまう。

 

『本日午後5時より第一体育館にて、部活動の説明会を開催いたします。興味のある新入生はぜひ参加してください。繰り返します、本日──』

 

 丁度よくアナウンスが聞こえてきたので、声をかけてみる。

 

「部活説明会。堀北さんは興味あるん?」

 

「ないわ」

 

 一言で会話が終了してしまった。見事なまでに一刀両断だった。めげずに、祇季は再チャレンジする。

 

「生徒会、とか。堀北さんには似合いそうやと思うけどなぁ」

 

「生徒会……」

 

 兄のことを想像したのだろう。彼女の興味を引くことが出来たらしい。

 

「お、行く気になったのか堀北」

 

「ええ。でもあなたたちと一緒に行動する必要性は感じないわね。一人で行くことを決めたの」

 

 オレが喋ったせいか、と落ち込む綾小路の背中を、祇季(しき)は優しくさすった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 入学から1週間が経過すれば、どの生徒も学校生活に適応してくるものだ。結局、いつもの3人で行った説明会でも部活には誰も所属しなかったので、放課後にやることもルーティン化しつつある。

 

 Dクラスのリーダー的存在は平田と栄一郎の2人体制、とするのが正確だろうか。社交面では圧倒的に平田が上だが、要所要所での栄一郎の活躍は皆の目に止まる。

 

 授業態度についても、彼らが呼びかけることで多少はマシになっていた。しかしこういったおふざけは鉄板なのか、女子と合同の水泳についての話で男子達は騒いでいる。

 

 綾小路も手招きされ、あそこに参加するのかと祇季がちょっと微妙な気持ちで眺めていると、彼はここで爆弾発言を投下した。

 

「あー、実はオレ、祇季(しき)と付き合ってて……だから、その賭けは遠慮しておく」

 

「え、マジ?」

「おい、嘘だろ」

「まさか綾小路に先を越されたのか!?」

 

 途端、教室は騒然とする。流石に入学初日から恋人関係になったと明かすのは目立ちすぎるのでタイミングを見計らっていたのだが、綾小路は今日この時を選んだらしい。

 

「え、五百扇さんって松雄くんと付き合ってたんじゃないの?」

「よーし、こうなると松雄くん、フリーじゃん」

「でも意外。松雄くんより綾小路くんを選ぶなんて」

 

 Dクラス初のカップルは、女子からは概ね歓迎されているようだった。男子はというと、嫉妬の嵐が吹き荒れる……ほどのことはなく。こちらもどちらかというと栄一郎のおまけとばかり思っていた綾小路がそうなったとは、という驚きに満ちていた。

 

 

 プールの時間になっても引きずるほど、ショックは大きかったらしい。

 

「3人で仲良しって感じだったから、すごくびっくりしちゃった」

 

 更衣室で櫛田に話しかけられた祇季は言葉を選びつつ答える。

 

「うーん、栄一郎のほうは私より仲良い幼馴染がおるし。そういう目で見たことないなぁ」

 

「幼馴染って、女の子?」

 

「そうそう、一個下。すごいええ子やで」

 

 櫛田はともかく、聞き耳を立てていた他の女子たちのテンションはかなり下がっていた。相変わらずおモテなことでと祇季は苦笑する。

 

「ね、五百扇さんと綾小路くん、どっちから告白したの?」

「馴れ初めは?」

「告白の台詞とか」

「どういうとこキュンとくるの?」

 

 しかしそのテンションはすぐに持ち直したらしい。どうにか質問を捌きつつ手早く着替えを終えた祇季は、逃げ出すようにプールへと向かった。

 

「わー、えらい広いなぁ」

 

 税金の無駄遣いというワードが思い浮かんでしまうレベルには豪華な施設に見える。男子グループがワイワイしているほうへ向かうが、交際相手がその場にいるからだろう、そこまでジロジロと視線を送られることはなかった。

 

 綾小路と栄一郎の傍に行くと、彼らの鍛えられた身体がどうしても目に入ってしまう。

 

「キーくんも栄一郎もええ筋肉してて羨ましいわ」

 

 二の腕をぷにぷに摘まんだ祇季はちょっと悲しくなった。そこに、凛とした声が降ってくる。

 

「男女で差がある以上、比べても仕方がないと思うけれど」

 

「堀北さん……ありがとう、優しい」

 

「事実を述べたまでよ。それより、2人とも何か運動してた?」

 

 さらっと習い事のおかげだろうと回答する栄一郎に綾小路も追従していた。原作と異なり栄一郎が隠れ蓑となってくれているおかげで、綾小路の擬態はかなり上手い。

 

「栄一郎も私もキーくんも帰宅部やったけど、堀北さんは?」

 

「私も部活は未経験ね」

 

「へー、そうなんだ。堀北さんは水泳、どう? 得意?」

 

 話に入ってきた櫛田に違和感を覚えたらしく、やや間を置いてから堀北は告げた。

 

「どちらでもないわ」

 

「なるほど~。私はね、中学の時は水泳が苦手で。だけど頑張って練習した結果泳げるようになったんだ」

 

「そう」

 

 原作を知っている祇季としては中学のことを探っているんだろうと察しがついてしまったものの、顔には出さないよう努める。そして、

 

「よし、全員集まれ!」

 

 マッスルマッスルしてる体育教師・東山の号令で授業が開始した。

 

 見学者13人、泳げない生徒1人、男子16人、女子10人で進行していく。準備体操やらを済ませたあとは50m自由形での競走だ。

 

 女子、男子の順で行われたそれは水泳部の小野寺、ハイスペック自由人御曹司・高円寺が1位の5000プライベートポイントを獲得して幕を閉じる。

 

「栄一郎、勝てへんかったか。残念。キーくんも真ん中くらいやったな」

 

「ああ。去年の夏以来、久々のプールでちょっと調子がつかめなかったのかもしれない。祇季は……意外と速かったな」

 

「3位やけどな。栄一郎も翼ちゃんも運動よう出来るから、ついていくだけで精一杯なんよ」

 

 綾小路であれば高円寺ともいい勝負が出来るだろうに、と思ってはいても、祇季(しき)は口を噤んだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ちょっといいかな?」

 

 天使のような笑顔を、祇季はついに来たかという諦観で迎えた。

 

「堀北さんって、五百扇さんとはちゃんと喋るよね。私、彼女と友達になりたくて。どうすればいいかなーって」

 

 櫛田桔梗は堀北鈴音を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っている。それでも仲良くしようとしているのは、おそらくその秘密、弱味を握りたいのだろう。堀北は櫛田の心を察して他生徒より避けているのだから、完全に悪循環だ。

 

「ウチも友達とは思われてへん気ぃするけど」

 

「そんなことないよっ」

 

 どう言えばいいものかと祇季は迷う。

 

「これは予想やけど」

 

「うん?」

 

「来月になってからのほうが、ええと思う。堀北さんの気持ちも色々と変わるやろうから」

 

「それって……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前らは本当に愚かな生徒たちだな」

 

 5月1日。Dクラスは不良品と、わずか6千プライベートポイントしか支給されないと告げられ。櫛田は「わかっていたの?」と問うように祇季(しき)のほうを振り向いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。