ウルトラマンガンマの拳は改造ネロンガの雷より先に放たれた。僅かな差ながら、クリーンヒットした殴打に怪獣はよろけ、放つ直前まで来ていた雷は急速にその勢いを弱めていく。ウルトラマンは攻撃の手を緩めなかった。それこそが流(ながれ)の戦い方だった。素早く、荒々しく、執拗に、強烈に畳み掛ける。怪獣がよろめいた先に回し蹴り、後退りに合わせて飛び込みつつのボディアッパー、腰を入れ替えてこめかみをフックで撃ち抜き、返す手で水平一文字に手刀を放つ。
たまらず怪獣は力なく倒れた。半回転しながら右側を下にしてバタンッと巨体が地面に激突する。倒れ伏した怪獣の上にウルトラマンは馬乗りになると、そのポジションから何度も何度も拳で怪獣の頭を殴りつける。猛攻を直接受けた左目は潰れ、やがて頭蓋骨にはひびが入り、改造ネロンガの頭部は挫滅し始める。
勝利を予感した流は大きく振りかぶると、トドメと言わんばかりに拳を振り下ろす。
「ディアッッッ!!」
最上級の殺意を込めた渾身の一撃は、怪獣の噛みつき攻撃によって防がれてしまった。大きく振りかぶった一瞬で首を持ち上げた改造ネロンガに腕の側面を噛みつかれると、ネロンガも何本か歯が砕けるものの強力な咬合力で腕を封じられてしまう。
「ウッ、グッ、フンッッ!」
腕を解こうともがいたり反対の腕で攻撃するが、無理な体勢で捕まっている事もありなかなか有効打にならない。反対に怪獣はセビレに電力を集めるとバチバチと放電を始める。
十分な電気を集めたのか、怪獣による逆襲が始まった。幾重もの放電のアーチがセビレからウルトラマンに向けて放たれ人工物のことごとくを破壊して見せた雷撃がウルトラマンを襲う。
「グッ、ウァァァァァァッッ!!!」
強力な電撃を直に受けると、ウルトラマンもたまらず身体の力が抜けてぐったり倒れ込んでしまう。銀と赤の外皮はところどころがビリビリに破れ、めくれた部分が黒く焦げていた。
改造ネロンガはダウンして覆いかぶさっていたウルトラマンの腕を咥えたまま首を勢いよく振るとウルトラマンの巨体を高層ビルへ投げ飛ばす。投げつけられたウルトラマンはビルへと飲み込まれるように叩きつけられ、瓦礫と砂埃の中へ消えてしまう。対して、体勢を立て直した怪獣は当初の目標である人口密集地、つまり避難民が集まるバス乗り場へノソノソと移動を始める。
「なんだよ、なっさけないな!やっぱり私がベータで・・・」
「不許可だ。そこに座っていなさい、ベティ。」
新科特隊作戦室ではいても立ってもいられない少女と、それを止める皇(すめらぎ)特別顧問の姿があった。
「どうして?負けちゃったよ、アイツ。このままじゃあの人間たちも殺されちゃうよ!」
必死に訴えるベティにスクリーンから目を離さないままアナスタシアが指摘する。
「アイツ、まだ諦めてないよ。スクリーンを見て、ベティ。」
映し出されたのは、砂埃を掻き分け飛び出すウルトラマン。泥だらけの傷だらけながら動きは変わらず力強く、悠然と避難民にノソノソ近付く怪獣の尾を掴む。
驚いた怪獣は一瞬凍りついたように動きを止めるが流は猶予を与えない。怪獣をグイグイと引っ張り避難民から引きずって距離を離す。引きずられながら前足をばたつかせるも抵抗虚しく、怪獣はすぐそこまで近づいていたご馳走からどんどん距離を離されてしまった。怒った怪獣はセビレを再度放電する。
「ハッ、フン!」
今度は雷撃を受けないようにと離れようとするウルトラマン、しかし怪獣は手が尾から離れた瞬間に電撃を放つ。
「ウッ、グァッ!」
チャージが不十分だったか、今度の雷撃はそれほどの威力ではなかったが、ウルトラマンの膝を折るには十分だった。
怪獣は振り返ると既にセビレは盛んに放電している。
「■■■■■ッッッッ!!」
咆哮を上げたのは改造ネロンガだった。雷撃の一筋がウルトラマンを襲う。
「シュアッ!」
瓦礫の上を転がり回避する。怪獣は横目で追うと、身体を少しずらして第二撃目を放つ。ウルトラマンは前方に転がって回避する。が、起き上がった瞬間そこには期待していた怪獣の顔はなく、大きく身体を反転させて放たれた尾で薙ぎ払う攻撃が待っていた。
モロにくらったウルトラマンが空を舞う。四十メートルの巨体が宙に浮き上がり、側面ら建物に叩きつけられまたしても瓦礫と砂埃に飲み込まれて消える。
「あっちゃー、さっきまでカッコよかったのに。もっと頑張れよお前!」
作戦室ではスクリーンに向かって叫ぶベティの声だけが響いていた。しかし気持ちは他の隊員たちも一緒だった。ウルトラマンの勝利と避難民の生存を願って固唾を飲んだ。無論、避難民も次第にウルトラマンを応援し始めた。勿論一番は自分が死にたくないからだ。だからこそ、その祈りを受け止めてくれる大きな背中に期待し、そして勝利を願った。きっと立ち上がると、あの砂塵の向こうからもう一度駆け出してくれると信じたのだ。
怪獣は再度避難民の方を向くと、二足歩行の姿勢を取ってセビレをスパークさせ、ゆっくり人だかりへ近づいていく。昼間の太陽より明るく、そしておどろおどろしい雷光輝く巨獣は頭部に雷を幾重にも束ねると大きく彷徨した。
「まさかッ!?」
隊長が声を絞り出す。
「あの野郎・・・」
霧野はスクリーンに映る怪物を睨んで拳を震えるほど握りしめる。
「何やってんだよ!寝てんなよ、ウルトラマン!!」
ベティが叫び、怪獣は臨界を迎えた雷撃を避難民に放とうと仰け反る。
瞬間、怪獣の背後に充満していた砂塵が晴れた。砕けた鉄筋コンクリートに割れて散乱したガラスが破壊の凄まじさを物語っていた。悲惨という言葉をあえて風景で例えるならこんな具合いだろうか。しかし、そこに倒れているべきウルトラマンだけは居なかった。ウルトラマンは仰け反った体勢から前に首を振る、まさにその最中の改造ネロンガの真正面にまで飛んで来ていた。雷撃の威力は最上級だ。それを避けるでもなく、ウルトラマンは迫り来る放電にぶつかっていく。
「なんて無茶な戦い方をする奴だ!」
隊長が思わず声を上げた。雷撃の凄まじさはここまでの戦いでよく分かったはずだ、それでも人命を優先するのか。
「ウッ、グァッ・・・」
真正面から受けた雷撃に傷つくウルトラマン、今にも意識が飛んでいきそうな感覚を気力でねじ伏せる流。その両輪が光の巨人を雷霆の津波のさなかでなお前進させる。
踏ん張る足は一歩前へ。
歩きの全身は走りへ。
渾身の一撃を叩き込む拳は既に準備され、強く握ったそれは淡く赤色の光を漏らす。
近付く度に皮膚は破れ、光の飛沫が上がり、遂にはカラータイマーが点滅を開始する。
「ッ!?ねぇ、アレ本格的にまずいんじゃない?死んじゃうよ?」
真っ先に反応したのはまたしてもベティだった。ウルトラマンのカラータイマーは通常青色だ。しかし何らかの理由で活動限界が近付くと赤色に点滅するようになる。この光が完全に消えてしまう事の意味するところは、ウルトラマンの死である。五十年前、人類は一度その絶望に立ち会った。今度もまたあの無力感と絶望感を味わうことになるのだろうか。
「ハァァ・・・ディアッッッ!!!!」
向けられる心配を他所に、ウルトラマンは渾身の一撃を改造ネロンガの頭部に叩き込む。激突の瞬間、拳が赤い光を放ち放電を行っていた改造ネロンガの角を破壊した。
「勝ったな。」
短く言うとニヤリと笑った。
状況を掴めぬまま激痛に咆哮する改造ネロンガ、流もまた困惑する。力を込めると拳が赤く熱く発光するのだ。流には知る由もないが、これはウルトラトルーパーの基本機能であるスペシウムアシストだ。腕に収束したスペシウムを攻撃に合わせて放出する事で打撃威力を格段に向上する。
「フゥゥン・・・」
もう一度力を込める。今度は限界まで熱を高め、淡い発光を目を焼くほどの極光に変える。それすら超えて力を込めると、ウルトラマンの腕はバチバチと光を放ちながら発火した。
「アレは、スペシウムフレア?え、リミッターついてないの?」
「リミッターどころかなんの調整もしとらんよ。何せ誰にも扱えない代物だったからね、合わせる基準すらない。」
ベティの疑問に皇顧問が答えた。スペシウムフレアとは、腕の器官で高めたスペシウムの限界を超えた時に起きる特有の発火現象である。これではもはやプラスもマイナスもなく、両手を合わせたとしてもスパークすることも無ければ光線に変わることも無い。スペシウム光線の着弾点で発生する爆発現象に最も近いとされる。
「シャアァァァッッッ!!!!」
そんなスペシウムフレアで真っ赤に燃えた拳を、ウルトラマンは力任せに改造ネロンガの腹部へ叩き込んだ。
「■■■■■■■■■ッッッッ!?」
困惑する怪獣、そして困惑する新科特隊。皇顧問はニヤリと笑い、流は勝利を確信した。
炎の拳を叩き込まれた怪獣は腹に火球を抱えたまま後方へ飛ばされ、遂には地面が無くなり東京湾へと勢いよく消えてしまった。大きく波飛沫が舞い、そしてそれが湾岸を濡らす瞬間、湾の海はドーム状に押し上げられ噴火するように破裂した。天高く吹き上がった東京湾の海水は一呼吸おいて豪雨のように降り注ぐ。その様はまさに天気雨。戦いの終わりを爽やかに輝く虹が告げ、虹の光の中にウルトラマンは消える。
「ウルトラマンの反応、消滅。多分変身を解除したのかと。ああ、あと怪獣の方も殲滅を確認しました。」
計器を見ながらスクリーンに集中していた新科特隊メンバーにアナスタシアが状況を報告する。
「やったー!なんだよ、アイツやればできるじゃん!」
「喜んでばかりも居られませんよ。彼から我々はウルトラフラッシャーを奪還せねばならない訳ですからね。怪獣より厄介な敵が現れたってことです。」
純粋に喜ぶベティと、発言と一致しない笑顔で答える皇顧問。そんな彼らに霧野が振り返る。
「でも、沢山の人々が助かりました。今だけはそれでいいんじゃないかって思ってます。」
一件落着、ということで通常業務に戻る一同。街もまた日常に向かうための一歩を踏み出そうとするのだった。
近付く度に皮膚は破れ、光の飛沫が上がり、遂にはカラータイマーが点滅を開始する。
「ッ!?ねぇ、アレ本格的にまずいんじゃない?死んじゃうよ?」
真っ先に反応したのはまたしてもベティだった。ウルトラマンのカラータイマーは通常青色だ。しかし何らかの理由で活動限界が近付くと赤色に点滅するようになる。この光が完全に消えてしまう事の意味するところは、ウルトラマンの死である。五十年前、人類は一度その絶望に立ち会った。今度もまたあの無力感と絶望感を味わうことになるのだろうか。
「ハァァ・・・ディアッッッ!!!!」
向けられる心配を他所に、ウルトラマンは渾身の一撃を改造ネロンガの頭部に叩き込む。激突の瞬間、拳が赤い光を放ち放電を行っていた改造ネロンガの角を破壊した。
「勝ったな。」
短く言うとニヤリと笑った。
状況を掴めぬまま激痛に咆哮する改造ネロンガ、流もまた困惑する。力を込めると拳が赤く熱く発光するのだ。流には知る由もないが、これはウルトラトルーパーの基本機能であるスペシウムアシストだ。腕に収束したスペシウムを攻撃に合わせて放出する事で打撃威力を格段に向上する。
「フゥゥン・・・」
もう一度力を込める。今度は限界まで熱を高め、淡い発光を目を焼くほどの極光に変える。それすら超えて力を込めると、ウルトラマンの腕はバチバチと光を放ちながら発火した。
「アレは、スペシウムフレア?え、リミッターついてないの?」
「リミッターどころかなんの調整もしとらんよ。何せ誰にも扱えない代物だったからね、合わせる基準すらない。」
ベティの疑問に皇顧問が答えた。スペシウムフレアとは、腕の器官で高めたスペシウムの限界を超えた時に起きる特有の発火現象である。これではもはやプラスもマイナスもなく、両手を合わせたとしてもスパークすることも無ければ光線に変わることも無い。スペシウム光線の着弾点で発生する爆発現象に最も近いとされる。
「シャアァァァッッッ!!!!」
そんなスペシウムフレアで真っ赤に燃えた拳を、ウルトラマンは力任せに改造ネロンガの腹部へ叩き込んだ。
「■■■■■■■■■ッッッッ!?」
困惑する怪獣、そして困惑する新科特隊。皇顧問はニヤリと笑い、流は勝利を確信した。
炎の拳を叩き込まれた怪獣は腹に火球を抱えたまま後方へ飛ばされ、遂には地面が無くなり東京湾へと勢いよく消えてしまった。大きく波飛沫が舞い、そしてそれが湾岸を濡らす瞬間、湾の海はドーム状に押し上げられ噴火するように破裂した。天高く吹き上がった東京湾の海水は一呼吸おいて豪雨のように降り注ぐ。その様はまさに天気雨。戦いの終わりを爽やかに輝く虹が告げ、虹の光の中にウルトラマンは消える。
「ウルトラマンの反応、消滅。多分変身を解除したのかと。ああ、あと怪獣の方も殲滅を確認しました。」
計器を見ながらスクリーンに集中していた新科特隊メンバーにアナスタシアが状況を報告する。
「やったー!なんだよ、アイツやればできるじゃん!」
「喜んでばかりも居られませんよ。彼から我々はウルトラフラッシャーを奪還せねばならない訳ですからね。怪獣より厄介な敵が現れたってことです。」
純粋に喜ぶベティと、発言と一致しない笑顔で答える皇顧問。そんな彼らに霧野が振り返る。
「でも、沢山の人々が助かりました。今だけはそれでいいんじゃないかって思ってます。」
一件落着、ということで通常業務に戻る一同。街もまた日常に向かうための一歩を踏み出そうとするのだった。
それを聞いて、一瞬だけ言葉が詰まる。それはベティの出自に関して、アナスタシア自身もいくらか手を染めているからだ。
ベティ改め、人造人間ベータ。それがこの青髪の少女の本当の名前だ。人間が巨人の肉体を持って怪獣と戦うというコンセプトを実現した骨組みが人造ウルトラマン第一号・ウルトラトルーパーアルファなら、その強化発展型でウルトラマンを超えたウルトラマンを目指したのが人造ウルトラマン第二号・ウルトラトルーパーベータ。ウルトラマンにとって最大の弱点ともいえるエネルギー問題を突き詰めると、コアユニットとして人間では限界があるという壁に突き当たった。その為に開発されたのが、ウルトラマンに変身するために最適な人間。無尽蔵ともいえるエネルギーを生み出して扱う機能があり、それに耐えうる頑丈さを持ち合わせ、戦いにおいて生存と殲滅を両立し、それでいて決して人類の敵にはならない。そんな都合のいい生命体を人類は必要とした。だから作った。それだけのことだが、そんなうちの一人たるアナスタシアにも人並みの情や罪悪感はある。我がままで地球上には発生しえない怪物を作り上げ、同じ怪物たちと戦わせる。カブトムシか何かを他の昆虫達と戦わせて高みの見物をするような行為だ。それが生命への冒涜でなくて何だというのか。
動揺を悟られまいと表情をすぐさま取り繕い、話題を変えようとする。
「そういえばもう四時じゃない?戦闘シミュレーションはもういいの?」
「あ、やっべ。普通に忘れてた。隊長に怒られるかな。怒ってたらヤダなぁ、あとでまた話そうね。じゃね!」
ベティはいつものあどけない表情のまま、まるで幼い娘が父親の機嫌を気にするかのように言って作戦室を飛び出した。無論、誰もベティに怒る者などこの新科特隊には存在しない。皆が彼女の出自を知り、また同じような罪悪感を抱いているからだ。彼女に強い言葉を浴びせるのは皇顧問をおいてほかにない。尤も、皇顧問は誰に対しても厳しいのか優しいのか無関心なのかはっきりしない不思議な人物なので、考えていることはよくわからない。どちらにしろ、ベティの不安は杞憂だろう。アナスタシアは怪獣の出所について、もう少し情報を集めてから結論を考えようと、計器の記録やここ数か月以内の新東京のデータを調べることに決めた。
人類はウルトラマンを作り出し、その強さを実戦で証明するほどに科学を進歩させた。本格的な宇宙進出こそまだ先だが、もはやその叡智は侵略宇宙人の後追いだけにとどまることはない。しかし、その進歩の裏では間違いなく功績と罪過を着々と重ねていっていたのであった。例え世のほぼ全ての人々にその自覚がなくても、それを痛みと理解して背負う人間は確かに存在する。あるいはその痛みが、人類と侵略宇宙人を分ける細いラインなのかもしれない。
つづく